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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 12

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 12

12 詩人 教師 の 冒険

「── 何 だ 」

国 友 は 、 ふと 目 を 開いて 、 びっくり した 。

部屋 の 中 は 、 もう ほとんど 真 暗 な のだ 。

眠って しまった らしい 。

国 友 は 、 そろそろ と ベッド に 起き上った 。

── 捻挫 した 足 も 、 ほとんど 痛ま ない 。

国 友 は 頭 を 振って 、 立ち上った 。

歩いて みて も 、 大丈夫だった 。

明り を 点け 、 時計 を 見て 、 もう 七 時 に なって いる の を 知った 。

「 やれやれ ……」

こんな 時 に !

グウグウ 寝て る 奴 が ある か 。

夕 里子 君 は どこ に いる の か な ……。

廊下 へ 出て みた 。

おかしい 、 と 直感 的に 思った 。

山荘 の 中 は 静か すぎた 。

── まるで 人気 が ない 。

国 友 は 、 不安に なって 、 夕 里子 たち の 部屋 の ドア を 開けた 。

誰 も い ない 。

急いで 、 一 階 へ と 降りて 行って みた 。

サロン 、 食堂 、 と 捜して 歩いて も 、 誰 の 姿 も 見え ない 。

「 夕 里子 君 !

珠美 君 ! ── おい 、 誰 か い ない の か ! 国 友 は 、 大声 で 怒鳴った 。

「 何て こと だ ……」

青く なった 。

のんびり 眠って いる 間 に 、 人 っ子 一 人 、 い なく なって しまう と は ……。

国 友 は 、 急いで 二 階 へ 取って返す と 、 厚い コート を はおって 、 降りて 来た 。

裏庭 へ 出て みる 。

── 雪 の 照り返し で 、 かなり 明るい 。

猛烈な 寒 さ だ 。

もし 、 夕 里子 たち が 、 この 中 へ 出て 行った のだ と したら 、 凍死 して しまう かも しれ ない 。

国 友 は 、 ともかく 、 やみくもに 、 その辺 を 駆け回った 。

寒 さ の 中 で 、 汗 が にじみ出て 来る 。

しかし 、 どこ に も 人 の 姿 は 見当ら ない 。

国 友 は 、 くたびれ 切って 、 山荘 の 中 へ と 戻った 。

「 一体 、 何 が あった んだ !

国 友 は 、 力一杯 、 壁 を 叩いた 。

する と ── その 壁 が 、 突然 倒れて 来た 。

国 友 は 、 あわてて 飛び す さった 。

ドシン 、 と 音 を たてて 、 木 の 壁 が 倒れる 。

そして 、 その 壁 に ぴったり と はりつく ように ……。

国 友 は 息 を 呑 んだ 。

── 金田 吾郎 だ !

命 が ない の は 、 一見 して 分 った 。

血 が 、 胸 一 杯 に 広がって いる 。

「 何て こと だ ……」

一体 、 何 が 起った の か ?

国 友 は 、 必死で 、 冷静に なろう と した 。

── 落ちつく のだ 。 刑事 と いう 立場 に 戻って 、 この 事態 に 対処 する こと だ 。

まず 、 もう 一 度 、 この 山荘 の 中 を くまなく 調べて みる こと から 始めよう 、 と 思った 。

その とき 、 玄関 の 方 で 、

「 誰 か !

と 声 が した 。

国 友 は 、 飛んで 行った 。

水谷 だった 。

「 国 友 さん !

良かった ! 水谷 は 、 寒 さ の せい か 、 真 青 な 顔 を して いた 。

背中 に 、 誰 か を 背負って いる 。

「 水谷 先生 。

それ は ? 「 片 瀬 敦子 です 。

雪 に 半分 埋もれて いた んです 。 急いで 体 を 暖め ない と ……」

「 では 、 すぐ に 浴室 へ !

国 友 は 、 浴室 へ 走って 、 浴槽 に 熱い 湯 を 入れた 。

「── 一体 、 みんな どこ へ 行 っ ち まったん です ?

水谷 が 、 敦子 を 運んで 来て 、 息 を ついた 。

「 僕 も 今 まで 寝て いた んです よ 」

国 友 は 、 首 を 振った 。

「 起きて みる と 、 人 っ子 一 人 い ない 。 ── 途方 に くれて た ところ です 。 正直に 言って 、 ホッと し ました 」

「 とんでもない こと に なり ました ね 」

水谷 は 、 ため息 を ついた 。

「 僕 の せい で 、 こんな こと に なる と は ……」

「 この 子 は どこ で ?

と 、 国 友 は 訊 いた 。

「 山 の 裏手 の 方 です 。

道 の 向 う 側 が 高く なって いる でしょう 。 その 向 うで 、 見付けた んです よ 。 もう 少し 遅かったら 、 凍え死んで いた でしょう 」

「 この 子 の 意識 が 戻れば 、 何 か 分 る かも しれ ない な 。

── 服 を 脱が せ ましょう 」

いくら 、 命 を 助ける ため と は いえ 、 敦子 を 裸 に する の は 、 多少 気 も 咎めた 。

しかし 、 今 は そんな こと を 言って は い られ ない 。

「 お互い 、 証人 に なり ましょう 」

と 、 水谷 が 言った 。

「 変な 目 で 見 なかった 、 と 」

「 いい です な 」

国 友 は 、 水谷 と 一緒に 、 裸 に した 敦子 を 、 浴槽 へ 入れた 。

「 しかし ……」

と 、 国 友 は 額 の 汗 を 拭った 。

「 この 山荘 は お化け 屋敷 な の か な 」

「 当って る かも しれ ませ ん ね 」

水谷 は 首 を 振って 、「 つい 何 時間 か 前 まで ここ に は あの 石垣 親子 と 、 あの 三 人 姉妹 、 それ に 、 私 の 学生 たち ……。

全部 で 十 人 も 人間 が いた んです よ 」

「 石垣 の ご 主人 と いう 人 が いる と すれば 十 人 です が ね 」

と 、 国 友 は 言った 。

「 ただ 、 一 人 は もう ……。 残念 ながら 生きて い ませ ん 」

「 何で すって ?

水谷 は 、 サッと 青ざめた 。

「 さっき 廊下 で 見付け ました よ 。

あの 金田 と いう 学生 です 。 ── 殺さ れた の は 、 はっきり して い ます 」

「 金田 が ?

── 本当です か ? 水谷 は 、 頭 を かかえた 。

教師 と して は 、 大きな ショック だろう 。

それ は 国 友 に も よく 分 った 。

「 では 、 他の 生徒 も ……」

「 そんな こと は あり ませ ん よ 」

国 友 は 、 自分 へ 言い聞かせる ように 言った 。

「 もし 、 彼女 ら の 身 に 何 か あれば 、 僕 に は 分 り ます 」

「 しかし ──」

と 言い かけて 、 水谷 は 黙った 。

「 ともかく 心配 ばかり して いて も 、 どうにも なり ませ ん 」

国 友 は 、 強い 口調 で 言った 。

「 この 子 は 一旦 ベッド へ 入れ 、 それ から 、 この 山荘 の 中 を くまなく 調べる んです 。 この 子 が いた のだ から 、 他の 子 だって ……」

「 そう です ね 」

水谷 も 、 国 友 の 言葉 に 力づけ られた 様子 だった 。

── 夕 里子 は 、 かすかに 身動き して 、 ちょっと 、 痛み を 感じた 。

あ 、 生きて る んだ 。

そう 思った 。

意識 を 失って いた 、 と いう こと が 、 妙に はっきり と 分 って いて 、 どうして そう なった の か と いう こと も 、 憶 えて いた 。

あの 二 階 の 部屋 の 窓 から 飛び出して しまった のだ 。

国 友 さん に 笑われ そうだ わ 、 と 夕 里子 は 思った 。

でも ── あの まま 雪 の 中 へ 突っ込んだ と 思った のに 、 今 、 どうして 横 に なって いる んだろう ?

それ に 、 ここ は ……。

夕 里子 は 、 ゆっくり と 目 を 開いた 。

パチパチ 、 と はじける ような 音 と 共に 、 火 が 燃えて いた 。

枯枝 が 、 沢山 集め られて 、 炎 を 上げて いる 。

その 熱 が 、 夕 里子 の 顔 に 当って いた 。

助かった んだ ……。

夕 里子 は 、 ともかく 、 少し 体 を 起こした 。

「 い たた ……」

体 の あちこち が 痛む の は 、 もちろん 雪 の 中 へ 突っ込んだ せい だろう が 、 しかし 、 骨 が 折れて いる と か 、 そんな 所 は ない ようだ 。

そっと 起き上って 、 夕 里子 は 、 息 を ついた 。

そして 、 やっと 周囲 を 見 回す 余裕 が できた のだった 。

「 ここ は ──」

思わず 、 口 に 出して 言って いた 。

それ は どこ か 、 岩 の 穴 と いう か 、 ポッカリ と あいた 洞窟 だった 。

ちょっと 面食らう ほど の 広 さ である 。

何しろ 、 こうして 、 中 で 火 を 燃やして い られる ぐらい な のだ から 。

しかし 、 どうして こんな 所 に 寝て いた のだろう ?

自分 で ここ まで 寝 に 来た 覚え は ない から 、 誰 か に 運ば れて 来た に は 違いない のだ が 。

おそらくは 、 自然に できた 洞窟 な のだろう 。

ところどころ 、 地 下水 が しみ 出して 、 寒 さ で つらら の ように なって 垂れ 下って いる 。

ともかく 、 命拾い を した わけだ 。

夕 里子 は 、 火 に 両手 を かざして 、 こごえた 指先 を あたためた 。

あの 山荘 から 、 どれ くらい 離れて いる んだろう ?

そして 、 誰 が 、 なぜ 夕 里子 を ここ まで 運んで 来た の か 。

時間 も たって いる のだろう 。

落ちつく と 、 お腹 が 空いて 来た 。

洞窟 は 、 左右 、 どちら へ も 曲りくねり ながら 伸びて いる 。

冷たい 風 の 唸り が 、 その 一方 から 聞こえて いて 、 どうやら そっち が 表 に なる らしい 。

夕 里子 は 、 立ち上って 、 足踏み を して みた 。

大丈夫 。 歩ける 。

窓 ガラス を 突き破った のに 、 けが 一 つ して い ない の は 、 カーテン の 布地 が 分厚かった せい だろう 。

── そう 。 下手 を すれば 、 今ごろ は この 美貌 に 傷 が つく ところ だった のだ !

夕 里子 は 、 ともかく 、 外 へ 出 られる らしい 方 へ と 、 洞窟 の 中 を 進んで 行った 。

火 から 離れる と 、 たちまち 、 猛烈な 寒気 に 捉え られる 。

ゴーッ と 、 風 が 鳴って いる の が 、 聞こえた 。

夕 里子 は 、 足 を 進める の を ちょっと ためらった が 、 ま 、 覗いて みる ぐらい で ……。

吹雪 だろう か ?

出口 に 当る 所 が 、 白く 、 渦 を 巻いて いた 。

これ じゃ 、 外 へ 出て 行ったら 凍え死んじゃ う わ 。

夕 里子 は 、 首 を 振った 。

と ── 風 が 、 す っと おさまって 、 白い 雪煙 も 流れ 去る ように 消えた 。

もちろん 、 また すぐ に 吹いて 来る のだろう が 、 一時的に やんで いる のだ 。

夕 里子 は 、 歩いて 行って 、 首 を 出した 。

月 の 光 が 射 して いる 。

── して みる と 、 吹雪 で は なくて 、 風 で 、 積った 雪 が 舞って いる だけ な のだ 。

でも 、 そんな こと を 考える 前 に 、 夕 里子 は ギョッ と 目 を 見はって いた 。

そこ は 外 だった 。

いや 、 そりゃ 当然の こと な のだ が 、 前 に も 上 に も 下 に も 、 空間 が 広がって いた のである 。

下 に も ?

── 夕 里子 は 、 足下 に 、 真 直ぐ 数 十 メートル の 断崖 が 切り立って 落ちて いる の を 見下ろして 、 ガタガタ 膝 が 震え 出して しまった 。

ヘナヘナ と その 場 に 座り 込む 。

いや 、 夕 里子 は 特別に 高所 恐怖 症 と いう わけで は ない 。

しかし 、 もし 今 、 あんな 風 に 吹雪 が 吹き荒れて いる と 思って 、 ここ で 足 を 止めて い なかったら ……。

そのまま ヒョイ と 足 を 踏み出して いた かも しれ ない 。

マンガ じゃ ない から 、 空中 を トコトコ 歩いて 行って 、 下 に 何も ない の に 気付き 、 あわてて 駆け 戻る 、 って わけ に は いか ない のである 。

あの 高 さ を 、 真っ 逆さまに 、 墜落 して いた かも しれ ない 。

そう なれば 、 二 階 の 窓 から 落ちる のだ って 危 いが 、 ここ は それ と は 訳 が 違う 。 まず 命 は ある まい 。

そう 思う と ゾッと して 、 思わず 座り 込んで しまった のである 。

する と 、 そこ へ 、

「── そこ に いた の 」

と 、 背後 から 声 が した ので 、 今度 は 、

「 キャアッ !

と 悲鳴 を 上げて しまった 。

「 びっくり した ?

ごめん 」

と 、 笑い ながら やって 来た の は ──。

「 あなた ……」

夕 里子 は 、 振り向いて 、 目 を 疑った 。

それ は 、 白雪 姫 ── じゃ なかった 、 川西 みどり だった のである 。

「 寒い わ よ 、 そこ じゃ 」

と 、 川西 みどり は 言った 。

「 火 の そば へ 戻り ま しょ 。 食べる もの も 持って 来た わ 」

「 食べる もの ?

が っ ついて る みたいで 、 いやだった が ── まあ 、 実際 、 お腹 が 空いて いる のだ 。

ごまかした ところ で 仕方ない 。

夕 里子 は 、 急に 膝 の 震え も 止って 、 みどり に ついて 、 洞窟 の 奥 の 方 へ と 戻って 行った 。

火 の 前 に 、 男性 が 一 人 、 座って いた 。

髪 が 少し 白く なり かけて は いる が 、 まだ 四十 代 と 見える 、 細身 の 男性 だった 。

分厚い セーター と ズボン 。

── 夕 里子 は 、 ちょっと その 男 を 見つめて 、

「 石垣 さん です ね 」

と 言った 。

男 は 、 ちょっと 笑って 、

「 よく 分 った ね 。

さすが 名 探偵 だ 」

と 言った 。

「 さあ 、 火 の そば へ 。 何 か 食べる だ ろ ? 「 ペコペコ です 、 正直な ところ 」

「 缶詰 ぐらい しか ない んだ が ね 」

「 何でも 、 食べ られる もの なら !

夕 里子 が 、 これほど 切実に (?

) ものごと を 訴える の は 、 珍しい こと だった 。

缶詰 と いって も 、 そう ひどく は なかった 。

最近 は 下着 の 缶詰 なんて もの まで あって 、 これ は やはり 食べ られ ない が 、 石垣 が 出して くれた の は 、 調理 済 の 料理 の 缶詰 で 、 それ の 蓋 を 開け 、 火 で 温めて あった 。

スプーン を もらって 、 熱い ビーフシチュー を 食べ 始める と 、 夕 里子 は 、 やっと 生き返った ような 気分 に なった 。

「── この 味 、 山荘 で 、 奥さん の 出して くれた の と 同じだ 」

と 、 夕 里子 は 気付いて 言った 。

「 そりゃ そう さ 」

石垣 は 肯 いて 、「 園子 は 料理 なんか ほとんど でき ない 。

いつも 缶詰 を 使って る んだ 」

「 それ で 台所 へ 入れ ない んです ね 」

と 、 夕 里子 は 納得 した 。

缶詰 の 半分 ぐらい を 、 アッという間 に 片付けて 、 夕 里子 は 、 少し ペース を 落とした 。

「 凄い 食欲 ね 」

見て いた みどり が 、 笑った 。

「 失礼 」

夕 里子 は 少し 赤く なって 、「 自分 の 気持 に 忠実な の 、 私 」

と 言った 。

「 しかし 、 大した けが も ない ようで 、 良かった よ 。

どこ か 痛い ところ は ? 「 あちこち 。

でも 、 大した こと ないで す 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 私 を 助けて くれた の は ──」

「 石垣 さん よ 。

私 も ね 」

と 、 みどり が 肯 いて 、「 すんでのところで 、 凍え死ぬ ところ だった わ 」

「 でも 、 車 から 引き上げて 、 あなた 、 どこ へ 姿 を くらました の ?

「 反対 側 の 斜面 を 這い上った の よ 。

そして 、 岩 の 出張 り の 陰 に 隠れて た の 」

「 でも 、 なぜ !

助け られた のに 」

みどり は 首 を 振った 。

「 私 、 霊感 みたいな もの が 働く の 。

あの 山荘 は 近付いちゃ いけない 所 だ と 思った の よ 」

「 へえ 」

普通の 名 探偵 で は 、 そこ まで は 調べ られ ない 。

「 で 、 ともかく 、 あそこ が 寝静まる の を 待って 、 あの 山荘 の 裏手 へ 行って みた の 。

── そ したら 、 足 を 取ら れて 崖 から 落ちて ……」

「 この上 の 出張 り に 、 引っかかって 、 気 を 失って いた んだ よ 」

と 、 石垣 は 言った 。

「 え ?

じゃ 、 この 洞窟 は 、 あの 裏庭 の ──? 「 そう 。

断崖 の 途中 に ある 。 上 から は 、 岩 の 出張 り に 遮ら れて 、 見え ない んだ よ 」

「 これ は ── 自然の もの です か ?

「 うん 。

水 の 浸食 作用 だろう ね 。 今 は 地 下水 が 涸 れた の か 、 こうして 洞窟 に なって 、 残って いる 。 奥 へ ずっと 続いて いる んだ よ 」

夕 里子 は 、 ともかく 缶詰 を 平らげる こと に した 。

── 色々 、 訊 き たい こと が 沢山 あり すぎる のだ 。

「── ごちそうさま でした 」

缶詰 を きれいに 空っぽに して 、 夕 里子 は 息 を ついた 。

「 生き返った か ね 」

と 、 石垣 は 微笑んだ 。

「── しかし 、 君 たち も 災難 だった ね 」

「 私 ── さっぱり 訳 が 分 ら ない んです けど ……」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 当然だ 。

しかし ── 今 、 すべて を 話して あげる こと は でき ない 」

石垣 は 、 少し 悲し げな 表情 に なって 、 言った 。

「 今 、 僕 が 言える の は 、 一刻 も 早く 、 あの 山荘 から 出て 行き なさい 、 と いう こと だ 」

「 何 か 危険 が ある んです か 」

「 そう 。

── 大きな 危険 が ね 」

と 、 石垣 は 肯 いた 。

「 ところで 、 この みどり 君 から 聞いた んだ けど 、 君 は 刑事 と 一緒だ そう だ ね 」

「 ええ 。

でも 、 仕事 じゃ あり ませ ん 。 一応 ── 私 の 恋人 な んです 」

「 相性 いい わ よ 。

私 の 勘 で は 」

と 、 みどり が 言った 。

「 どうも 。

── 国 友 さん が 何 か ? 「 いや ……。

実は 、 若い 女の子 ── と いって も 二十 歳 ぐらい の 娘 だ が 、 何 か 事件 が あった って こと を 、 聞いて い ない か ね 。 どうも 漠然と した 話 で すま ない が 」

「 二十 歳 ぐらい の ……?

それ は もし かして ──。

あの 、 国 友 が 気絶 して しまった と いう 一 件 で は ない か 。

「 ここ へ 来る とき 、 ちょうど 若い 女性 の 死体 が 見付かった んです 。

二十 歳 ぐらい で 、 身 許 は まだ 分 ら なかった みたいです けど 」

石垣 は 、 ふと 顔 を こわばら せた 。

「 そう か 。

── 殺さ れて いた の か ね ? 「 詳しい こと は 聞いて い ませ ん けど 、 首 を 絞め られた 、 と か ……。

手首 に 縄 の あと が あった って ──」

石垣 が 、 サッと 青ざめた 。

「 縄 の あと が ……。

そう か 。

── そう か 」

低い 呟き に なった 。

「 ご存知 の 人 な んです ね 」

夕 里子 の 問い に 、 石垣 は 、 しばらく して から 、 ゆっくり と 肯 いた 。

「 おそらく ね ……。

そう か 。

むだだった か 」

「── 誰 な んです か ?

しかし 、 石垣 は 答え なかった 。

「 少し 奥 へ 行って 、 休む よ 」

と 、 石垣 は 立ち上った 。

「 君 も 少し 眠って おいた 方 が いい 。 冷える から ね 、 これ から 朝 まで は 」

「 ええ ……」

洞窟 の 奥 の 方 へ 行く と 、 石垣 は 毛布 を 取って 来た 。

「 これ を 使い なさい 。

火 を 絶やさ ない ように すれば 、 この 中 は 暖かい 」

「 すみません 」

夕 里子 は 、 石垣 が 奥 の 方 へ 入って 行く の を 見送って 、「── 殺さ れた 人 、 恋人 だった の かしら 」

と 言った 。

「 たぶん ね 」

みどり は 肯 いた 。

「 ここ から 、 山荘 へ は どこ か 道 が ある の ?

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。

「 ない よう よ 。

だから 、 あの 表 の 崖 を よじ 上る しか ない わ 」

「 そう ……」

「 今 は 無理 よ 。

朝 に なって から で ない と 」

夕 里子 は 肯 いた 。

「 心配な の 。

姉 と 妹 の こと が 」

「 分 る わ 」

「 あなた ── 私 の 顔 に 死 相 が 出て る って 言った わ ね 」

「 うん 。

でも 、 今 は 出て い ない 。 よく 分 ら ない わ 」

みどり は 首 を 振った 。

「 もしかすると ──」

「 もしかすると ?

「 あなた の 、 とても 親しい 人 の 死 相 が 映って いた の かも しれ ない わ ね 」

「 あんまり ありがたい ご 宣 託 じゃ ない わ ね 」

と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。

「 ともかく 、 あの 山荘 は まともじゃ ない わ 」

「 そう よ 。

『 死 の 匂い 』 が 満ちて る わ 」

と 、 みどり は 言った 。

「 死 の 匂い 、 か ──」

夕 里子 は 、 呟いた 。

綾子 姉さん 、 大丈夫 か な 。

珠美 は まあ 、 一 人 でも 身 を 守れる だろう けど 。

しかし 、 夕 里子 は 、 もちろん 姉 と 妹 の こと を 心配 し ながら も 、 心 の 底 で は 何となく 安心 して いる ところ が あった 。

綾子 も 珠美 も 、「 幸運 」 に 恵ま れて いる から だ 。

── これ は 、 夕 里子 の 、 次女 と して の 経験 から 得た 確信 だった ……。

「 明日 に なったら 、 一緒に 調べ に 行き ましょう ね 」

と 、 みどり が 、 夕 里子 を 見て 言った 。

「 少し 眠って おいた 方 が いい わ 」

「 ええ ……」

そう 眠気 が さして いる わけで は なかった のだ が 、 夕 里子 は 、 毛布 を 一 枚 もらって 、 岩 の 平らな 所 に 広げて 、 横 に なった 。

まあ 、 一流 ホテル の ベッド 並み と は いか ない まで も 、 外 の 寒 さ を 思えば 快適である 。

「 あなた は ?

と 、 夕 里子 は 、 みどり に 言った 。

「 私 は 、 今日 、 昼間 ずっと 眠って いた の よ 」

と 、 みどり は 微笑んだ 。

「 火 が 消え ない ように 見て いる わ 。 大丈夫 」

「 でも ── それ じゃ 悪い わ 」

「 いい から 、 目 を 閉じて る だけ でも 」

「 そう 。

── それ じゃ 」

夕 里子 は 、 息 を 吐き出して 目 を 閉じた 。

眠る 気 は なかった 。

綾子 と 珠美 の こと が 心配で 、 とても 眠れた もの じゃ ない ……。

しかし 、 少し する と 、 夕 里子 は 、 浅い 眠り の 中 へ 、 身 を 沈めて いた ……。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 12 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 4 Chapter 12

12  詩人 教師 の 冒険 しじん|きょうし||ぼうけん

「── 何 だ 」 なん|

国 友 は 、 ふと 目 を 開いて 、 びっくり した 。 くに|とも|||め||あいて||

部屋 の 中 は 、 もう ほとんど 真 暗 な のだ 。 へや||なか||||まこと|あん||

眠って しまった らしい 。 ねむって||

国 友 は 、 そろそろ と ベッド に 起き上った 。 くに|とも||||べっど||おきあがった

── 捻挫 した 足 も 、 ほとんど 痛ま ない 。 ねんざ||あし|||いたま|

国 友 は 頭 を 振って 、 立ち上った 。 くに|とも||あたま||ふって|たちのぼった

歩いて みて も 、 大丈夫だった 。 あるいて|||だいじょうぶだった

明り を 点け 、 時計 を 見て 、 もう 七 時 に なって いる の を 知った 。 あかり||つけ|とけい||みて||なな|じ||||||しった

「 やれやれ ……」

こんな 時 に ! |じ|

グウグウ 寝て る 奴 が ある か 。 |ねて||やつ|||

夕 里子 君 は どこ に いる の か な ……。 ゆう|さとご|きみ|||||||

廊下 へ 出て みた 。 ろうか||でて|

おかしい 、 と 直感 的に 思った 。 ||ちょっかん|てきに|おもった

山荘 の 中 は 静か すぎた 。 さんそう||なか||しずか|

── まるで 人気 が ない 。 |にんき||

国 友 は 、 不安に なって 、 夕 里子 たち の 部屋 の ドア を 開けた 。 くに|とも||ふあんに||ゆう|さとご|||へや||どあ||あけた

誰 も い ない 。 だれ|||

急いで 、 一 階 へ と 降りて 行って みた 。 いそいで|ひと|かい|||おりて|おこなって|

サロン 、 食堂 、 と 捜して 歩いて も 、 誰 の 姿 も 見え ない 。 さろん|しょくどう||さがして|あるいて||だれ||すがた||みえ|

「 夕 里子 君 ! ゆう|さとご|きみ

珠美 君 ! たまみ|きみ ── おい 、 誰 か い ない の か ! |だれ||||| 国 友 は 、 大声 で 怒鳴った 。 くに|とも||おおごえ||どなった

「 何て こと だ ……」 なんて||

青く なった 。 あおく|

のんびり 眠って いる 間 に 、 人 っ子 一 人 、 い なく なって しまう と は ……。 |ねむって||あいだ||じん|っこ|ひと|じん||||||

国 友 は 、 急いで 二 階 へ 取って返す と 、 厚い コート を はおって 、 降りて 来た 。 くに|とも||いそいで|ふた|かい||とってかえす||あつい|こーと|||おりて|きた

裏庭 へ 出て みる 。 うらにわ||でて|

── 雪 の 照り返し で 、 かなり 明るい 。 ゆき||てりかえし|||あかるい

猛烈な 寒 さ だ 。 もうれつな|さむ||

もし 、 夕 里子 たち が 、 この 中 へ 出て 行った のだ と したら 、 凍死 して しまう かも しれ ない 。 |ゆう|さとご||||なか||でて|おこなった||||とうし|||||

国 友 は 、 ともかく 、 やみくもに 、 その辺 を 駆け回った 。 くに|とも||||そのへん||かけまわった

寒 さ の 中 で 、 汗 が にじみ出て 来る 。 さむ|||なか||あせ||にじみでて|くる

しかし 、 どこ に も 人 の 姿 は 見当ら ない 。 ||||じん||すがた||みあたら|

国 友 は 、 くたびれ 切って 、 山荘 の 中 へ と 戻った 。 くに|とも|||きって|さんそう||なか|||もどった

「 一体 、 何 が あった んだ ! いったい|なん|||

国 友 は 、 力一杯 、 壁 を 叩いた 。 くに|とも||ちからいっぱい|かべ||たたいた

する と ── その 壁 が 、 突然 倒れて 来た 。 |||かべ||とつぜん|たおれて|きた

国 友 は 、 あわてて 飛び す さった 。 くに|とも|||とび||

ドシン 、 と 音 を たてて 、 木 の 壁 が 倒れる 。 ||おと|||き||かべ||たおれる

そして 、 その 壁 に ぴったり と はりつく ように ……。 ||かべ|||||

国 友 は 息 を 呑 んだ 。 くに|とも||いき||どん|

── 金田 吾郎 だ ! かなだ|われろう|

命 が ない の は 、 一見 して 分 った 。 いのち|||||いっけん||ぶん|

血 が 、 胸 一 杯 に 広がって いる 。 ち||むね|ひと|さかずき||ひろがって|

「 何て こと だ ……」 なんて||

一体 、 何 が 起った の か ? いったい|なん||おこった||

国 友 は 、 必死で 、 冷静に なろう と した 。 くに|とも||ひっしで|れいせいに|||

── 落ちつく のだ 。 おちつく| 刑事 と いう 立場 に 戻って 、 この 事態 に 対処 する こと だ 。 けいじ|||たちば||もどって||じたい||たいしょ|||

まず 、 もう 一 度 、 この 山荘 の 中 を くまなく 調べて みる こと から 始めよう 、 と 思った 。 ||ひと|たび||さんそう||なか|||しらべて||||はじめよう||おもった

その とき 、 玄関 の 方 で 、 ||げんかん||かた|

「 誰 か ! だれ|

と 声 が した 。 |こえ||

国 友 は 、 飛んで 行った 。 くに|とも||とんで|おこなった

水谷 だった 。 みずたに|

「 国 友 さん ! くに|とも|

良かった ! よかった 水谷 は 、 寒 さ の せい か 、 真 青 な 顔 を して いた 。 みずたに||さむ|||||まこと|あお||かお||| Mizutani had a true blue face because of the cold.

背中 に 、 誰 か を 背負って いる 。 せなか||だれ|||せおって|

「 水谷 先生 。 みずたに|せんせい

それ は ? 「 片 瀬 敦子 です 。 かた|せ|あつこ|

雪 に 半分 埋もれて いた んです 。 ゆき||はんぶん|うずもれて|| 急いで 体 を 暖め ない と ……」 いそいで|からだ||あたため||

「 では 、 すぐ に 浴室 へ ! |||よくしつ|

国 友 は 、 浴室 へ 走って 、 浴槽 に 熱い 湯 を 入れた 。 くに|とも||よくしつ||はしって|よくそう||あつい|ゆ||いれた

「── 一体 、 みんな どこ へ 行 っ ち まったん です ? いったい||||ぎょう||||

水谷 が 、 敦子 を 運んで 来て 、 息 を ついた 。 みずたに||あつこ||はこんで|きて|いき||

「 僕 も 今 まで 寝て いた んです よ 」 ぼく||いま||ねて|||

国 友 は 、 首 を 振った 。 くに|とも||くび||ふった

「 起きて みる と 、 人 っ子 一 人 い ない 。 おきて|||じん|っこ|ひと|じん|| ── 途方 に くれて た ところ です 。 とほう||||| 正直に 言って 、 ホッと し ました 」 しょうじきに|いって|ほっと||

「 とんでもない こと に なり ました ね 」

水谷 は 、 ため息 を ついた 。 みずたに||ためいき||

「 僕 の せい で 、 こんな こと に なる と は ……」 ぼく|||||||||

「 この 子 は どこ で ? |こ|||

と 、 国 友 は 訊 いた 。 |くに|とも||じん|

「 山 の 裏手 の 方 です 。 やま||うらて||かた|

道 の 向 う 側 が 高く なって いる でしょう 。 どう||むかい||がわ||たかく||| The side of the road will be higher. その 向 うで 、 見付けた んです よ 。 |むかい||みつけた|| もう 少し 遅かったら 、 凍え死んで いた でしょう 」 |すこし|おそかったら|こごえじんで||

「 この 子 の 意識 が 戻れば 、 何 か 分 る かも しれ ない な 。 |こ||いしき||もどれば|なん||ぶん|||||

── 服 を 脱が せ ましょう 」 ふく||だつ が||

いくら 、 命 を 助ける ため と は いえ 、 敦子 を 裸 に する の は 、 多少 気 も 咎めた 。 |いのち||たすける|||||あつこ||はだか|||||たしょう|き||とがめた

しかし 、 今 は そんな こと を 言って は い られ ない 。 |いま|||||いって||||

「 お互い 、 証人 に なり ましょう 」 おたがい|しょうにん|||

と 、 水谷 が 言った 。 |みずたに||いった

「 変な 目 で 見 なかった 、 と 」 へんな|め||み||

「 いい です な 」

国 友 は 、 水谷 と 一緒に 、 裸 に した 敦子 を 、 浴槽 へ 入れた 。 くに|とも||みずたに||いっしょに|はだか|||あつこ||よくそう||いれた

「 しかし ……」

と 、 国 友 は 額 の 汗 を 拭った 。 |くに|とも||がく||あせ||ぬぐった

「 この 山荘 は お化け 屋敷 な の か な 」 |さんそう||おばけ|やしき||||

「 当って る かも しれ ませ ん ね 」 あたって||||||

水谷 は 首 を 振って 、「 つい 何 時間 か 前 まで ここ に は あの 石垣 親子 と 、 あの 三 人 姉妹 、 それ に 、 私 の 学生 たち ……。 みずたに||くび||ふって||なん|じかん||ぜん||||||いしがき|おやこ|||みっ|じん|しまい|||わたくし||がくせい| Mizutani shook his head and said, "Until several hours ago, that stone wall parent and child, that three sisters, and my students ... ....

全部 で 十 人 も 人間 が いた んです よ 」 ぜんぶ||じゅう|じん||にんげん||||

「 石垣 の ご 主人 と いう 人 が いる と すれば 十 人 です が ね 」 いしがき|||あるじ|||じん|||||じゅう|じん|||

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 ただ 、 一 人 は もう ……。 |ひと|じん|| "But, one person already ...". 残念 ながら 生きて い ませ ん 」 ざんねん||いきて||| Unfortunately I am not alive. "

「 何で すって ? なんで|

水谷 は 、 サッと 青ざめた 。 みずたに||さっと|あおざめた

「 さっき 廊下 で 見付け ました よ 。 |ろうか||みつけ||

あの 金田 と いう 学生 です 。 |かなだ|||がくせい| ── 殺さ れた の は 、 はっきり して い ます 」 ころさ||||||| ── It is clear that I was killed. "

「 金田 が ? かなだ|

── 本当です か ? ほんとうです| 水谷 は 、 頭 を かかえた 。 みずたに||あたま||

教師 と して は 、 大きな ショック だろう 。 きょうし||||おおきな|しょっく|

それ は 国 友 に も よく 分 った 。 ||くに|とも||||ぶん|

「 では 、 他の 生徒 も ……」 |たの|せいと|

「 そんな こと は あり ませ ん よ 」

国 友 は 、 自分 へ 言い聞かせる ように 言った 。 くに|とも||じぶん||いいきかせる||いった

「 もし 、 彼女 ら の 身 に 何 か あれば 、 僕 に は 分 り ます 」 |かのじょ|||み||なん|||ぼく|||ぶん|| "If you have something on them, I will understand."

「 しかし ──」

と 言い かけて 、 水谷 は 黙った 。 |いい||みずたに||だまった

「 ともかく 心配 ばかり して いて も 、 どうにも なり ませ ん 」 |しんぱい||||||||

国 友 は 、 強い 口調 で 言った 。 くに|とも||つよい|くちょう||いった

「 この 子 は 一旦 ベッド へ 入れ 、 それ から 、 この 山荘 の 中 を くまなく 調べる んです 。 |こ||いったん|べっど||いれ||||さんそう||なか|||しらべる| この 子 が いた のだ から 、 他の 子 だって ……」 |こ|||||たの|こ|

「 そう です ね 」

水谷 も 、 国 友 の 言葉 に 力づけ られた 様子 だった 。 みずたに||くに|とも||ことば||ちからづけ||ようす|

── 夕 里子 は 、 かすかに 身動き して 、 ちょっと 、 痛み を 感じた 。 ゆう|さとご|||みうごき|||いたみ||かんじた

あ 、 生きて る んだ 。 |いきて||

そう 思った 。 |おもった

意識 を 失って いた 、 と いう こと が 、 妙に はっきり と 分 って いて 、 どうして そう なった の か と いう こと も 、 憶 えて いた 。 いしき||うしなって||||||みょうに|||ぶん||||||||||||おく|| I was strangely certain that it was losing consciousness, and I also remembered how it was.

あの 二 階 の 部屋 の 窓 から 飛び出して しまった のだ 。 |ふた|かい||へや||まど||とびだして||

国 友 さん に 笑われ そうだ わ 、 と 夕 里子 は 思った 。 くに|とも|||えみわれ|そう だ|||ゆう|さとご||おもった

でも ── あの まま 雪 の 中 へ 突っ込んだ と 思った のに 、 今 、 どうして 横 に なって いる んだろう ? |||ゆき||なか||つっこんだ||おもった||いま||よこ||||

それ に 、 ここ は ……。

夕 里子 は 、 ゆっくり と 目 を 開いた 。 ゆう|さとご||||め||あいた

パチパチ 、 と はじける ような 音 と 共に 、 火 が 燃えて いた 。 ||||おと||ともに|ひ||もえて|

枯枝 が 、 沢山 集め られて 、 炎 を 上げて いる 。 こえだ||たくさん|あつめ||えん||あげて|

その 熱 が 、 夕 里子 の 顔 に 当って いた 。 |ねつ||ゆう|さとご||かお||あたって|

助かった んだ ……。 たすかった|

夕 里子 は 、 ともかく 、 少し 体 を 起こした 。 ゆう|さとご|||すこし|からだ||おこした

「 い たた ……」

体 の あちこち が 痛む の は 、 もちろん 雪 の 中 へ 突っ込んだ せい だろう が 、 しかし 、 骨 が 折れて いる と か 、 そんな 所 は ない ようだ 。 からだ||||いたむ||||ゆき||なか||つっこんだ|||||こつ||おれて|||||しょ||| It is probably that the pain here and there hurts into the snow, of course, but it seems that there is not such a place whether the bones are broken.

そっと 起き上って 、 夕 里子 は 、 息 を ついた 。 |おきあがって|ゆう|さとご||いき||

そして 、 やっと 周囲 を 見 回す 余裕 が できた のだった 。 ||しゅうい||み|まわす|よゆう|||

「 ここ は ──」

思わず 、 口 に 出して 言って いた 。 おもわず|くち||だして|いって|

それ は どこ か 、 岩 の 穴 と いう か 、 ポッカリ と あいた 洞窟 だった 。 ||||いわ||あな||||ぽっかり|||どうくつ|

ちょっと 面食らう ほど の 広 さ である 。 |めんくらう|||ひろ|| It is as wide as you can surprise.

何しろ 、 こうして 、 中 で 火 を 燃やして い られる ぐらい な のだ から 。 なにしろ||なか||ひ||もやして|||||| After all, in this way, it can burn the fire inside.

しかし 、 どうして こんな 所 に 寝て いた のだろう ? |||しょ||ねて||

自分 で ここ まで 寝 に 来た 覚え は ない から 、 誰 か に 運ば れて 来た に は 違いない のだ が 。 じぶん||||ね||きた|おぼえ||||だれ|||はこば||きた|||ちがいない|| I do not remember sleeping myself so far, so it must have been brought to someone.

おそらくは 、 自然に できた 洞窟 な のだろう 。 |しぜんに||どうくつ||

ところどころ 、 地 下水 が しみ 出して 、 寒 さ で つらら の ように なって 垂れ 下って いる 。 |ち|げすい|||だして|さむ|||||||しだれ|くだって|

ともかく 、 命拾い を した わけだ 。 |いのちびろい|||

夕 里子 は 、 火 に 両手 を かざして 、 こごえた 指先 を あたためた 。 ゆう|さとご||ひ||りょうて||||ゆびさき||

あの 山荘 から 、 どれ くらい 離れて いる んだろう ? |さんそう||||はなれて||

そして 、 誰 が 、 なぜ 夕 里子 を ここ まで 運んで 来た の か 。 |だれ|||ゆう|さとご||||はこんで|きた||

時間 も たって いる のだろう 。 じかん||||

落ちつく と 、 お腹 が 空いて 来た 。 おちつく||おなか||あいて|きた

洞窟 は 、 左右 、 どちら へ も 曲りくねり ながら 伸びて いる 。 どうくつ||さゆう||||まがりくねり||のびて|

冷たい 風 の 唸り が 、 その 一方 から 聞こえて いて 、 どうやら そっち が 表 に なる らしい 。 つめたい|かぜ||うなり|||いっぽう||きこえて|||||ひょう||| A groan of a cold wind is heard from one side, apparently it seems like a table.

夕 里子 は 、 立ち上って 、 足踏み を して みた 。 ゆう|さとご||たちのぼって|あしぶみ||| Yuriko stood up and tried foot stepping.

大丈夫 。 だいじょうぶ 歩ける 。 あるける

窓 ガラス を 突き破った のに 、 けが 一 つ して い ない の は 、 カーテン の 布地 が 分厚かった せい だろう 。 まど|がらす||つきやぶった|||ひと|||||||かーてん||ぬのじ||ぶあつかった||

── そう 。 下手 を すれば 、 今ごろ は この 美貌 に 傷 が つく ところ だった のだ ! へた|||いまごろ|||びぼう||きず|||||

夕 里子 は 、 ともかく 、 外 へ 出 られる らしい 方 へ と 、 洞窟 の 中 を 進んで 行った 。 ゆう|さとご|||がい||だ|||かた|||どうくつ||なか||すすんで|おこなった Anyway, Riko Yukari walked through the cave to those who seemed to be out.

火 から 離れる と 、 たちまち 、 猛烈な 寒気 に 捉え られる 。 ひ||はなれる|||もうれつな|かんき||とらえ|

ゴーッ と 、 風 が 鳴って いる の が 、 聞こえた 。 ||かぜ||なって||||きこえた

夕 里子 は 、 足 を 進める の を ちょっと ためらった が 、 ま 、 覗いて みる ぐらい で ……。 ゆう|さとご||あし||すすめる|||||||のぞいて|||

吹雪 だろう か ? ふぶき||

出口 に 当る 所 が 、 白く 、 渦 を 巻いて いた 。 でぐち||あたる|しょ||しろく|うず||まいて|

これ じゃ 、 外 へ 出て 行ったら 凍え死んじゃ う わ 。 ||がい||でて|おこなったら|こごえじんじゃ||

夕 里子 は 、 首 を 振った 。 ゆう|さとご||くび||ふった

と ── 風 が 、 す っと おさまって 、 白い 雪煙 も 流れ 去る ように 消えた 。 |かぜ|||||しろい|ゆきけむり||ながれ|さる||きえた

もちろん 、 また すぐ に 吹いて 来る のだろう が 、 一時的に やんで いる のだ 。 ||||ふいて|くる|||いちじてきに||| Of course, it will blow soon again, but it is stopping temporarily.

夕 里子 は 、 歩いて 行って 、 首 を 出した 。 ゆう|さとご||あるいて|おこなって|くび||だした

月 の 光 が 射 して いる 。 つき||ひかり||い||

── して みる と 、 吹雪 で は なくて 、 風 で 、 積った 雪 が 舞って いる だけ な のだ 。 |||ふぶき||||かぜ||つもった|ゆき||まって||||

でも 、 そんな こと を 考える 前 に 、 夕 里子 は ギョッ と 目 を 見はって いた 。 ||||かんがえる|ぜん||ゆう|さとご||||め||みはって|

そこ は 外 だった 。 ||がい|

いや 、 そりゃ 当然の こと な のだ が 、 前 に も 上 に も 下 に も 、 空間 が 広がって いた のである 。 ||とうぜんの|||||ぜん|||うえ|||した|||くうかん||ひろがって|| No, of course it was natural, but the space had spread before, down and down, too.

下 に も ? した||

── 夕 里子 は 、 足下 に 、 真 直ぐ 数 十 メートル の 断崖 が 切り立って 落ちて いる の を 見下ろして 、 ガタガタ 膝 が 震え 出して しまった 。 ゆう|さとご||あしもと||まこと|すぐ|すう|じゅう|めーとる||だんがい||きりたって|おちて||||みおろして|がたがた|ひざ||ふるえ|だして|

ヘナヘナ と その 場 に 座り 込む 。 へなへな|||じょう||すわり|こむ

いや 、 夕 里子 は 特別に 高所 恐怖 症 と いう わけで は ない 。 |ゆう|さとご||とくべつに|こうしょ|きょうふ|しょう||||| No, Riko Yuri is not particularly afraid of heights.

しかし 、 もし 今 、 あんな 風 に 吹雪 が 吹き荒れて いる と 思って 、 ここ で 足 を 止めて い なかったら ……。 ||いま||かぜ||ふぶき||ふきあれて|||おもって|||あし||とどめて|| But, if I thought that a snowstorm was blowing like that now, if I had not stopped the foot here ....

そのまま ヒョイ と 足 を 踏み出して いた かも しれ ない 。 |||あし||ふみだして|||| Perhaps he was stepping forward with him.

マンガ じゃ ない から 、 空中 を トコトコ 歩いて 行って 、 下 に 何も ない の に 気付き 、 あわてて 駆け 戻る 、 って わけ に は いか ない のである 。 まんが||||くうちゅう|||あるいて|おこなって|した||なにも||||きづき||かけ|もどる||||||| Because it is not manga, I walked in the air and noticed there was nothing under, I can not go back in a hurry.

あの 高 さ を 、 真っ 逆さまに 、 墜落 して いた かも しれ ない 。 |たか|||まっ|さかさまに|ついらく||||| I might have crashed that height upside down.

そう なれば 、 二 階 の 窓 から 落ちる のだ って 危 いが 、 ここ は それ と は 訳 が 違う 。 ||ふた|かい||まど||おちる|||き|||||||やく||ちがう If it does so, it is dangerous to fall from the window on the second floor, but here is a different translation from that. まず 命 は ある まい 。 |いのち||| First of all, there is no life.

そう 思う と ゾッと して 、 思わず 座り 込んで しまった のである 。 |おもう||ぞっと||おもわず|すわり|こんで||

する と 、 そこ へ 、

「── そこ に いた の 」 "──I was there."

と 、 背後 から 声 が した ので 、 今度 は 、 |はいご||こえ||||こんど|

「 キャアッ !

と 悲鳴 を 上げて しまった 。 |ひめい||あげて|

「 びっくり した ?

ごめん 」

と 、 笑い ながら やって 来た の は ──。 |わらい|||きた||

「 あなた ……」

夕 里子 は 、 振り向いて 、 目 を 疑った 。 ゆう|さとご||ふりむいて|め||うたがった

それ は 、 白雪 姫 ── じゃ なかった 、 川西 みどり だった のである 。 ||はくせつ|ひめ|||かわにし|||

「 寒い わ よ 、 そこ じゃ 」 さむい||||

と 、 川西 みどり は 言った 。 |かわにし|||いった

「 火 の そば へ 戻り ま しょ 。 ひ||||もどり|| 食べる もの も 持って 来た わ 」 たべる|||もって|きた|

「 食べる もの ? たべる|

が っ ついて る みたいで 、 いやだった が ── まあ 、 実際 、 お腹 が 空いて いる のだ 。 ||||||||じっさい|おなか||あいて|| It seemed that there was a disagreeable feeling, but I did not want to, but indeed, I am hungry.

ごまかした ところ で 仕方ない 。 |||しかたない It can not be helped where he was cheated.

夕 里子 は 、 急に 膝 の 震え も 止って 、 みどり に ついて 、 洞窟 の 奥 の 方 へ と 戻って 行った 。 ゆう|さとご||きゅうに|ひざ||ふるえ||とまって||||どうくつ||おく||かた|||もどって|おこなった

火 の 前 に 、 男性 が 一 人 、 座って いた 。 ひ||ぜん||だんせい||ひと|じん|すわって|

髪 が 少し 白く なり かけて は いる が 、 まだ 四十 代 と 見える 、 細身 の 男性 だった 。 かみ||すこし|しろく|||||||しじゅう|だい||みえる|ほそみ||だんせい|

分厚い セーター と ズボン 。 ぶあつい|せーたー||ずぼん

── 夕 里子 は 、 ちょっと その 男 を 見つめて 、 ゆう|さとご||||おとこ||みつめて

「 石垣 さん です ね 」 いしがき|||

と 言った 。 |いった

男 は 、 ちょっと 笑って 、 おとこ|||わらって

「 よく 分 った ね 。 |ぶん||

さすが 名 探偵 だ 」 |な|たんてい|

と 言った 。 |いった

「 さあ 、 火 の そば へ 。 |ひ||| 何 か 食べる だ ろ ? なん||たべる|| 「 ペコペコ です 、 正直な ところ 」 ||しょうじきな|

「 缶詰 ぐらい しか ない んだ が ね 」 かんづめ||||||

「 何でも 、 食べ られる もの なら ! なんでも|たべ|||

夕 里子 が 、 これほど 切実に (? ゆう|さとご|||せつじつに

) ものごと を 訴える の は 、 珍しい こと だった 。 ||うったえる|||めずらしい||

缶詰 と いって も 、 そう ひどく は なかった 。 かんづめ|||||||

最近 は 下着 の 缶詰 なんて もの まで あって 、 これ は やはり 食べ られ ない が 、 石垣 が 出して くれた の は 、 調理 済 の 料理 の 缶詰 で 、 それ の 蓋 を 開け 、 火 で 温めて あった 。 さいきん||したぎ||かんづめ||||||||たべ||||いしがき||だして||||ちょうり|す||りょうり||かんづめ||||ふた||あけ|ひ||あたためて| Recently there was a can of canned underwear, which can not be eaten again, but the stone wall came out with canned food of cooked dishes, it opened its lid and was warmed with fire.

スプーン を もらって 、 熱い ビーフシチュー を 食べ 始める と 、 夕 里子 は 、 やっと 生き返った ような 気分 に なった 。 すぷーん|||あつい|||たべ|はじめる||ゆう|さとご|||いきかえった||きぶん||

「── この 味 、 山荘 で 、 奥さん の 出して くれた の と 同じだ 」 |あじ|さんそう||おくさん||だして||||おなじだ "── This taste is the same as having been given to his wife at the mountain villa"

と 、 夕 里子 は 気付いて 言った 。 |ゆう|さとご||きづいて|いった

「 そりゃ そう さ 」

石垣 は 肯 いて 、「 園子 は 料理 なんか ほとんど でき ない 。 いしがき||こう||そのこ||りょうり||||

いつも 缶詰 を 使って る んだ 」 |かんづめ||つかって||

「 それ で 台所 へ 入れ ない んです ね 」 ||だいどころ||いれ||| "That's why you can not enter the kitchen."

と 、 夕 里子 は 納得 した 。 |ゆう|さとご||なっとく|

缶詰 の 半分 ぐらい を 、 アッという間 に 片付けて 、 夕 里子 は 、 少し ペース を 落とした 。 かんづめ||はんぶん|||あっというま||かたづけて|ゆう|さとご||すこし|ぺーす||おとした

「 凄い 食欲 ね 」 すごい|しょくよく|

見て いた みどり が 、 笑った 。 みて||||わらった

「 失礼 」 しつれい

夕 里子 は 少し 赤く なって 、「 自分 の 気持 に 忠実な の 、 私 」 ゆう|さとご||すこし|あかく||じぶん||きもち||ちゅうじつな||わたくし Evening child got a little red, "Faithful to my own feeling, I"

と 言った 。 |いった

「 しかし 、 大した けが も ない ようで 、 良かった よ 。 |たいした|||||よかった|

どこ か 痛い ところ は ? ||いたい|| 「 あちこち 。

でも 、 大した こと ないで す 」 |たいした|||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 私 を 助けて くれた の は ──」 わたくし||たすけて|||

「 石垣 さん よ 。 いしがき||

私 も ね 」 わたくし||

と 、 みどり が 肯 いて 、「 すんでのところで 、 凍え死ぬ ところ だった わ 」 |||こう|||こごえじぬ|||

「 でも 、 車 から 引き上げて 、 あなた 、 どこ へ 姿 を くらました の ? |くるま||ひきあげて||||すがた|||

「 反対 側 の 斜面 を 這い上った の よ 。 はんたい|がわ||しゃめん||はいあがった||

そして 、 岩 の 出張 り の 陰 に 隠れて た の 」 |いわ||しゅっちょう|||かげ||かくれて||

「 でも 、 なぜ !

助け られた のに 」 たすけ||

みどり は 首 を 振った 。 ||くび||ふった

「 私 、 霊感 みたいな もの が 働く の 。 わたくし|れいかん||||はたらく|

あの 山荘 は 近付いちゃ いけない 所 だ と 思った の よ 」 |さんそう||ちかづいちゃ||しょ|||おもった||

「 へえ 」

普通の 名 探偵 で は 、 そこ まで は 調べ られ ない 。 ふつうの|な|たんてい||||||しらべ||

「 で 、 ともかく 、 あそこ が 寝静まる の を 待って 、 あの 山荘 の 裏手 へ 行って みた の 。 ||||ねしずまる|||まって||さんそう||うらて||おこなって||

── そ したら 、 足 を 取ら れて 崖 から 落ちて ……」 ||あし||とら||がけ||おちて

「 この上 の 出張 り に 、 引っかかって 、 気 を 失って いた んだ よ 」 このうえ||しゅっちょう|||ひっかかって|き||うしなって||| "I was caught up in the business on this, and I was out of your mind"

と 、 石垣 は 言った 。 |いしがき||いった

「 え ?

じゃ 、 この 洞窟 は 、 あの 裏庭 の ──? ||どうくつ|||うらにわ| 「 そう 。

断崖 の 途中 に ある 。 だんがい||とちゅう|| 上 から は 、 岩 の 出張 り に 遮ら れて 、 見え ない んだ よ 」 うえ|||いわ||しゅっちょう|||さえぎら||みえ|||

「 これ は ── 自然の もの です か ? ||しぜんの|||

「 うん 。

水 の 浸食 作用 だろう ね 。 すい||しんしょく|さよう|| 今 は 地 下水 が 涸 れた の か 、 こうして 洞窟 に なって 、 残って いる 。 いま||ち|げすい||こ|||||どうくつ|||のこって| 奥 へ ずっと 続いて いる んだ よ 」 おく|||つづいて|||

夕 里子 は 、 ともかく 缶詰 を 平らげる こと に した 。 ゆう|さとご|||かんづめ||たいらげる|||

── 色々 、 訊 き たい こと が 沢山 あり すぎる のだ 。 いろいろ|じん|||||たくさん|||

「── ごちそうさま でした 」

缶詰 を きれいに 空っぽに して 、 夕 里子 は 息 を ついた 。 かんづめ|||からっぽに||ゆう|さとご||いき||

「 生き返った か ね 」 いきかえった||

と 、 石垣 は 微笑んだ 。 |いしがき||ほおえんだ

「── しかし 、 君 たち も 災難 だった ね 」 |きみ|||さいなん||

「 私 ── さっぱり 訳 が 分 ら ない んです けど ……」 わたくし||やく||ぶん||||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 当然だ 。 とうぜんだ

しかし ── 今 、 すべて を 話して あげる こと は でき ない 」 |いま|||はなして|||||

石垣 は 、 少し 悲し げな 表情 に なって 、 言った 。 いしがき||すこし|かなし|げ な|ひょうじょう|||いった Ishigaki became a little sad expression, he said.

「 今 、 僕 が 言える の は 、 一刻 も 早く 、 あの 山荘 から 出て 行き なさい 、 と いう こと だ 」 いま|ぼく||いえる|||いっこく||はやく||さんそう||でて|いき||||| "Now, I can say that as soon as possible, go out of that mountain villa."

「 何 か 危険 が ある んです か 」 なん||きけん||||

「 そう 。

── 大きな 危険 が ね 」 おおきな|きけん||

と 、 石垣 は 肯 いた 。 |いしがき||こう|

「 ところで 、 この みどり 君 から 聞いた んだ けど 、 君 は 刑事 と 一緒だ そう だ ね 」 |||きみ||きいた|||きみ||けいじ||いっしょだ|||

「 ええ 。

でも 、 仕事 じゃ あり ませ ん 。 |しごと|||| 一応 ── 私 の 恋人 な んです 」 いちおう|わたくし||こいびと||

「 相性 いい わ よ 。 あいしょう|||

私 の 勘 で は 」 わたくし||かん||

と 、 みどり が 言った 。 |||いった

「 どうも 。

── 国 友 さん が 何 か ? くに|とも|||なん| 「 いや ……。

実は 、 若い 女の子 ── と いって も 二十 歳 ぐらい の 娘 だ が 、 何 か 事件 が あった って こと を 、 聞いて い ない か ね 。 じつは|わかい|おんなのこ||||にじゅう|さい|||むすめ|||なん||じけん||||||きいて|||| Actually, a young girl ─ ─ is about 20 years old daughter, but have you heard that there was something wrong? どうも 漠然と した 話 で すま ない が 」 |ばくぜんと||はなし||||

「 二十 歳 ぐらい の ……? にじゅう|さい||

それ は もし かして ──。

あの 、 国 友 が 気絶 して しまった と いう 一 件 で は ない か 。 |くに|とも||きぜつ|||||ひと|けん||||

「 ここ へ 来る とき 、 ちょうど 若い 女性 の 死体 が 見付かった んです 。 ||くる|||わかい|じょせい||したい||みつかった|

二十 歳 ぐらい で 、 身 許 は まだ 分 ら なかった みたいです けど 」 にじゅう|さい|||み|ゆる|||ぶん||||

石垣 は 、 ふと 顔 を こわばら せた 。 いしがき|||かお|||

「 そう か 。

── 殺さ れて いた の か ね ? ころさ||||| 「 詳しい こと は 聞いて い ませ ん けど 、 首 を 絞め られた 、 と か ……。 くわしい|||きいて|||||くび||しめ|||

手首 に 縄 の あと が あった って ──」 てくび||なわ|||||

石垣 が 、 サッと 青ざめた 。 いしがき||さっと|あおざめた

「 縄 の あと が ……。 なわ|||

そう か 。

── そう か 」

低い 呟き に なった 。 ひくい|つぶやき||

「 ご存知 の 人 な んです ね 」 ごぞんじ||じん|||

夕 里子 の 問い に 、 石垣 は 、 しばらく して から 、 ゆっくり と 肯 いた 。 ゆう|さとご||とい||いしがき|||||||こう|

「 おそらく ね ……。

そう か 。

むだだった か 」

「── 誰 な んです か ? だれ|||

しかし 、 石垣 は 答え なかった 。 |いしがき||こたえ|

「 少し 奥 へ 行って 、 休む よ 」 すこし|おく||おこなって|やすむ|

と 、 石垣 は 立ち上った 。 |いしがき||たちのぼった

「 君 も 少し 眠って おいた 方 が いい 。 きみ||すこし|ねむって||かた|| "You better keep sleeping a bit. 冷える から ね 、 これ から 朝 まで は 」 ひえる|||||あさ||

「 ええ ……」

洞窟 の 奥 の 方 へ 行く と 、 石垣 は 毛布 を 取って 来た 。 どうくつ||おく||かた||いく||いしがき||もうふ||とって|きた

「 これ を 使い なさい 。 ||つかい|

火 を 絶やさ ない ように すれば 、 この 中 は 暖かい 」 ひ||たやさ|||||なか||あたたかい

「 すみません 」

夕 里子 は 、 石垣 が 奥 の 方 へ 入って 行く の を 見送って 、「── 殺さ れた 人 、 恋人 だった の かしら 」 ゆう|さとご||いしがき||おく||かた||はいって|いく|||みおくって|ころさ||じん|こいびと|||

と 言った 。 |いった

「 たぶん ね 」

みどり は 肯 いた 。 ||こう|

「 ここ から 、 山荘 へ は どこ か 道 が ある の ? ||さんそう|||||どう|||

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 ない よう よ 。

だから 、 あの 表 の 崖 を よじ 上る しか ない わ 」 ||ひょう||がけ|||のぼる|||

「 そう ……」

「 今 は 無理 よ 。 いま||むり|

朝 に なって から で ない と 」 あさ||||||

夕 里子 は 肯 いた 。 ゆう|さとご||こう|

「 心配な の 。 しんぱいな|

姉 と 妹 の こと が 」 あね||いもうと|||

「 分 る わ 」 ぶん||

「 あなた ── 私 の 顔 に 死 相 が 出て る って 言った わ ね 」 |わたくし||かお||し|そう||でて|||いった||

「 うん 。

でも 、 今 は 出て い ない 。 |いま||でて|| よく 分 ら ない わ 」 |ぶん|||

みどり は 首 を 振った 。 ||くび||ふった

「 もしかすると ──」

「 もしかすると ?

「 あなた の 、 とても 親しい 人 の 死 相 が 映って いた の かも しれ ない わ ね 」 |||したしい|じん||し|そう||うつって|||||||

「 あんまり ありがたい ご 宣 託 じゃ ない わ ね 」 |||のたま|たく||||

と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。 |ゆう|さとご||くしょう|

「 ともかく 、 あの 山荘 は まともじゃ ない わ 」 ||さんそう||||

「 そう よ 。

『 死 の 匂い 』 が 満ちて る わ 」 し||におい||みちて||

と 、 みどり は 言った 。 |||いった

「 死 の 匂い 、 か ──」 し||におい|

夕 里子 は 、 呟いた 。 ゆう|さとご||つぶやいた

綾子 姉さん 、 大丈夫 か な 。 あやこ|ねえさん|だいじょうぶ||

珠美 は まあ 、 一 人 でも 身 を 守れる だろう けど 。 たまみ|||ひと|じん||み||まもれる||

しかし 、 夕 里子 は 、 もちろん 姉 と 妹 の こと を 心配 し ながら も 、 心 の 底 で は 何となく 安心 して いる ところ が あった 。 |ゆう|さとご|||あね||いもうと||||しんぱい||||こころ||そこ|||なんとなく|あんしん|||||

綾子 も 珠美 も 、「 幸運 」 に 恵ま れて いる から だ 。 あやこ||たまみ||こううん||めぐま||||

── これ は 、 夕 里子 の 、 次女 と して の 経験 から 得た 確信 だった ……。 ||ゆう|さとご||じじょ||||けいけん||えた|かくしん|

「 明日 に なったら 、 一緒に 調べ に 行き ましょう ね 」 あした|||いっしょに|しらべ||いき||

と 、 みどり が 、 夕 里子 を 見て 言った 。 |||ゆう|さとご||みて|いった

「 少し 眠って おいた 方 が いい わ 」 すこし|ねむって||かた||| "You had better sleep a bit."

「 ええ ……」

そう 眠気 が さして いる わけで は なかった のだ が 、 夕 里子 は 、 毛布 を 一 枚 もらって 、 岩 の 平らな 所 に 広げて 、 横 に なった 。 |ねむけ|||||||||ゆう|さとご||もうふ||ひと|まい||いわ||たいらな|しょ||ひろげて|よこ||

まあ 、 一流 ホテル の ベッド 並み と は いか ない まで も 、 外 の 寒 さ を 思えば 快適である 。 |いちりゅう|ほてる||べっど|なみ|||||||がい||さむ|||おもえば|かいてきである Well, it is not as good as the bed of a first-class hotel, but comfortable if you think of the cold outside.

「 あなた は ?

と 、 夕 里子 は 、 みどり に 言った 。 |ゆう|さとご||||いった

「 私 は 、 今日 、 昼間 ずっと 眠って いた の よ 」 わたくし||きょう|ひるま||ねむって|||

と 、 みどり は 微笑んだ 。 |||ほおえんだ

「 火 が 消え ない ように 見て いる わ 。 ひ||きえ|||みて|| 大丈夫 」 だいじょうぶ

「 でも ── それ じゃ 悪い わ 」 |||わるい|

「 いい から 、 目 を 閉じて る だけ でも 」 ||め||とじて|||

「 そう 。

── それ じゃ 」

夕 里子 は 、 息 を 吐き出して 目 を 閉じた 。 ゆう|さとご||いき||はきだして|め||とじた

眠る 気 は なかった 。 ねむる|き||

綾子 と 珠美 の こと が 心配で 、 とても 眠れた もの じゃ ない ……。 あやこ||たまみ||||しんぱいで||ねむれた|||

しかし 、 少し する と 、 夕 里子 は 、 浅い 眠り の 中 へ 、 身 を 沈めて いた ……。 |すこし|||ゆう|さとご||あさい|ねむり||なか||み||しずめて|