JIN -仁- #01 (1)
〈( 未来 ) 私 達 は 当たり前だ と 思って いる 〉
〈 思い立てば 地球 の 裏側 に でも 行ける こと を 〉
〈 いつでも 思い を 伝える こと が できる こと を 〉
〈 平凡だ が 満ち足りた 日々 が 続く であろう こと を 〉
〈 闇 を 忘れて しまった ような 夜 を 〉
〈 でも もし ある 日 突然 〉
〈 その すべて を 失って しまったら 〉
〈 鳥 の ような 自由 を 〉
〈 満たさ れた 生活 を 〉
〈 明るい 夜空 を 失って しまったら 〉
〈 闇 ばかり の 夜 に たった 1 人 〉
〈 ほうり込ま れて しまったら …〉
〈 あなた は そこ で 〉
〈 光 を 見つける こと が できる だろう か ?〉
〈 その 光 を つかもう と する だろう か ?〉
〈 それとも 光 なき 世界 に 〉
〈 光 を 与えよう と する だろう か ?〉
〈 あなた の その 手 で 〉
≪( 救急 隊員 ) 錦 糸 公園 内 で 倒れて いる ところ を 発見 →
性別 は 男性 年齢 は 不明 顔面 は 殴打 さ れ 内出血 多数 →
右 前 額 部 から 頭 頂 部 に かけて 裂傷 あり
( 玉田 ) どうして 先生 が 執刀 して くれ ない んです か ?
ずっと 診て くださって いた じゃ ないで す か
いや 難しい 手術 なんで
どうしても やって くださら ない んです か ?
杉田 先生 は 私 なんか より 腕 が 立つ 先生 だ し
絶対 に その ほう が いい です 玉田 さん の ため です
( 野口 ) どうして 先生 が オペ し ない んです か ?
杉田 先生 は すごい です けど 玉田 さん は 先生 を 信用 して …
アチッ ! 熱い …
入れ すぎた
俺 結構 不注意で さ たまに 入れ すぎちゃ ったり して
そういう ヤツ な の は あ ?
( 博美 ) 南方 先生 救急 の 患者 診て いただいて も いい です か ?
は いはい すぐ まいり ます
急性 硬 膜 外 血 腫 だ けど 変な もん くっついて る ね
( 医師 ) 松 果 体 部 から 脳 室 に かけて もともと 腫瘍 が あり ます ね
ハイドロ も 軽度 合併 して ます し ほか の 先生 は ?
脳 外科 は 先生 だけ です
先生 だったら この 位置 の 摘出 朝飯前 でしょう
緊急 開 頭 して 血 腫 除去
術中 の 様子 で 脳 実質 に 損傷 が なければ
そのまま 腫瘍 を 摘出 し ます ( 一同 ) はい
麻酔 完了 し ました
では まず 硬 膜 外 血 腫 の 除去 手術 を 始め ます
開 頭 し ます
パーフォレーター
クラニオトーム
血 腫 除去 しよう
では 続いて 腫瘍 の 摘出 を 行い ます マイクロ 用意 して
吸引 管 3 号 と バイポーラー
よし 腫瘍 が 見えて きた
マイクロ 剪刀
これ 胎児 の 組織 成分 です か ?
頭がい 骨 内 の 封 入 奇形 胎児
いや 幼児 や 子供 に は こういう 例 も ある と いう が
この 患者 は どう 見て も 成人 だし
ともかく 摘出 して 病理 診断 に まわそう
脳 実質 と 腫瘍 の 境界 を はく離 …
≪( 博美 ) どうかさ れ ました ?
いや 大丈夫だ
≪( 野口 ) 南方 先生 って どうして ああ な んです か ?→
手術 全然 下手 と か じゃ ない の に 面倒くさい んです かね
ここ に 来た の って 今月 から ? はい
じゃあ まだ 知ら ない の か 友永 先生 の こと は
何 す か ?
≪( 博美 ) 友永 先生 は 外科 の 優秀な お 医者 さん で →
仁 先生 の 恋人 だった 人 →
学生 時代 から 知り合い だった らしい んだ けど →
3 年 前 友永 先生 が この 病院 に 来た とき から →
付き合い が 始まって →
いよいよ 結婚 かって とき に なって →
脳幹 部 に 腫瘍 が 見つかった の
脳幹 部 に 腫瘍 です か ?
絶望 的だった んだ けど 南方 先生 は 手術 を する こと に した の よ
《≪( 杉田 ) 南方 これ は 絶対 に 無理だ ぞ 》
《 大丈夫です サブオクシピタルアプローチ と トランスコンディラーアプローチ を …》
《( 杉田 ) 腫瘍 は 脳幹 部 に 食い込んで る んだ ぞ →》
《 これ は 手術 じゃ なくて 実験 だ !》
《 何も し なくて も 死 を 待つ だけ だ ろ !》
《 これ は 患者 の 望み で も ある んです 》
《 この 手術 が 成功 すれば 》
《 これ から 何 千 人 と いう 人 達 が 希望 を 持つ こと が できる 》
《 もし 成功 し なくて も …》
《 その 礎 と なれる なら 本望 だ と 》
《 そう 言って ました 》
≪( 博美 ) その ころ の 南方 先生 は 脂 の 乗りきった 状態 だった し →
友永 先生 も 南方 先生 を 信用 して いた し →
みんな が 奇跡 を 信じる こと に した
《 思った 以上 に 腫瘍 が 動脈 を 巻き込んで る な 》
《 どう する ? 南方 》
《 やめた ほう が いい んじゃ ない か 》
《 続け ます 》 《 南方 !》
《 主治医 は 俺 だ 》
《 小脳 を 切除 する バイポーラー 20 から 30 に あげて 》
≪( 博美 ) 結果 は 腫瘍 は 除去 できた んだ けど →
その とき に 動脈 を 傷つけて 大量 出血 を 起こしちゃ って →
その 結果 友永 先生 は 植物 状態 に なって しまった の
それ から 南方 先生 は 難しい 手術 は
ほか の 先生 に あずける ように なった の
でも そのかわり ほか の 先生 達 が 手術 に 集中 できる ように
数 を こなし 夜勤 を 代わる ように なって
私 は 南方 先生 を 責める 気 に は なれ ない な
未来 今日 さ
すごい もん 見つけた んだ よ
胎児 様 奇形 腫
見て みたいだ ろ
どう だ 起きて み ない か ?
そろそろ 飲んで くれ ませ ん か ねえ
あんなに 飲み た がって た くせ に
何とか 言えよ
無愛想だ な
《 私さ ここ の 夕日 が 》
《 世界 で 一 番 きれいだ と 思う んだ よ ね 》
《 それ 言いすぎ だ ろ 》
《 南 の 島 と か ヒマラヤ と か さ 》
《 もっと すごい 夕日 なんて いくら で も ある だ ろ 》
《 分かって ない なあ もう 》
《 あそこ で いい 仕事 を して その 充実 感 を 感じ ながら 見る 》
《 だ から きれいな んじゃ ない 》
《 そういう 話 》
《 これ が つく と さらに きれいに 見える んだ けど 》
《 おい !》 《 ちょっと だけ 》
《 ダメ だって 明日 手術 だ ろ 》 《1 本 1 本 だけ 》
《 ねえ 付き合って よ 》 《 ダメ だって 》
《 いい じゃ ない ! これ が 最後 かも しれ ない んだ から 》
《 ごめん 》
《 仁 先生 を さ 信用 して ない わけじゃ ない んだ よ 》
《 でも ほら もしも って いう か …》
《 ごめん ね 》
《 ホント は 私 が 一 番 》
《 信じて て あげ なきゃ いけない のに 》
《 仁 先生 だって すごい プレッシャー な のに 》
《 必死で 平気な ふり して て くれて る のに 》
《 でも …》
《 でも 怖くて …》
《 こんなに 怖い んだ ね 手術 さ れる ほう って 》
《 私 今 まで 全然 分かって なかった よ 》
《 いい 勉強 に なった 》
《 俺 も 怖い よ 》
《 すげ ー 怖い 》
《 失敗 したら どう しよう って それ ばっ か 考えて る 》
《 でも そういう とき は アレ を 思い出す んだ 》
《 未来 の 好きな 言葉 》
《 神 は 乗り越え られる 試練 しか 与え ない ?》
《 そ っか 》
《 そう だった ね 》
《 あ ッ 手術 終わったら 新婚 旅行 》
《 ヒマラヤ に 夕日 でも 見 に 行く か 》
《 その 思い込み 正す ため に 》
《 ヤダ ここ で 一緒に ビール 飲んで もらう 》
《 思い込み を 正す ため に 》
《 おい ダメだ よ ちょっと ダメ だって …》
《 冷たい !》
じゃあ もう 帽子 は 大丈夫だ な
ちょ ちょ ちょ 返して ください って …
南方 先生
すいません でした
何も 知ら ないで 偉 そうな こ と 言って
でも 俺 は やっぱり 玉田 さん は
先生 が オペ する べきだ と 思い ます
( 野口 ) こんな こと 考え たく ない です けど
もしも の とき 全然 知ら ない 先生 に 失敗 さ れた んじゃ
玉田 さん も 浮かば れ ない って いう か …
あんな こと が あって 怖い の は 分かり ます けど
医者 は 患者 の ため に その 恐怖 と 戦う べきな んじゃ ない です か ?
一緒に 恐怖 と 戦う から 尊敬 さ れる んじゃ ない んです か ?
「 先生 」 って 呼ば れる んじゃ ない んです か ?
失敗 して 傷つか ない 人間 なんて い ないで すよ
先生 は 卑怯 です
先生 の やり 方 は 自分 の 代わり に
他人 に 傷ついて もらって る ような もん じゃ ないで す か
その とおり え ッ ?
その とおり だ よ
俺 みたいな 医者 に なる な よ な
( PHS の バイブレーター )
お呼び だ
はい
患者 の 傷 は 何 か 鋭利な 刃物 で
頭部 に 切りつけ られた もの と 思わ れ ます
頭がい 骨 骨折 と 急性 硬 膜 外 血 腫 を 起こして いた ので
緊急 手術 を 行い ました
顔面 に 無数の 打撲 傷 が あり 人相 は はっきり し ませ ん が
年齢 は 30 代 から 40 代 身長 は 180 センチ 程度 中肉
血液型 は A 型 の RH プラス です ( 刑事 A ) 意識 は ?
まだ 戻って ませ ん 当分 は 絶対 安静 が 必要です が
( 刑事 B ) 意識 が 戻り 次第 署 の ほう へ 連絡 して ください
どうして 彼 は 襲わ れた んです か ?
≪( 刑事 A ) まったく 分から ない んです →
身元 を 証明 する ような 物 が 何も なくて →
本人 から 事情 を 聴取 する しか ない 状態 で
ほか に 身体 的な 特徴 は なかった でしょう か ?
手がかり に なる か 分かり ませ ん が
腫瘍 が 見つかった ので 摘出 し ました
非常に 珍しい 胎児 の 形 を した もの です
もしかしたら 本物 の 胎児 かも しれ ない んです
大丈夫です か ? 先生 !
大丈夫です
最近 寝不足な んで
( 梅子 ) 意識 は まだ 傾 眠 傾向 です
バイタルサイン は 安定 して ます そうです か
早く 自分 の 名前 くらい 言える ように なる と いい んです けど ね
何 か あったら すぐ 連絡 ください は い
やる よ 杉田
こない だ 机 の 中 から 出て きた んだ
見て きた よ 例の 腫瘍
すごい だ ろ あれ どう 見て も 胎児 だ よ な
斎藤 教授 も 興味 持って た みたいで さ
早く 組織 細胞 診断 に 出せ と か
学会 に 間に合わ せろ って うるさくて な
そう だろう な そう 言わ れた んだ けど さ
お前 やって みたら ?
こんな 症例 に 当たる なんて さ
ぶっちゃ け すごい チャンス だ と 思う し
お前 の こんな 状態
未来 ちゃん だって 喜んで ない と 思う ぞ
現場 の 医者 は いつも 足 ん ないし 介護 も ある し
論文 書く 余裕 あったら 正直 寝 たい よ
気 が 変わったら いつでも 連絡 くれ
痛 ッ … 何 だ これ
チャンス か あ …
ウワッ
どうか して る な
先生 例の 患者 が 部屋 から い なく なり ました
は あ ?
≪( 博美 ) 薬品 棚 が 荒らさ れて ます
大丈夫です か ? 戻り ましょう まだ 安静に して ない と 危険です
どうして こんな こと した んです か ?
どうして これ を …
≪( 男 ) 戻る ぜ よ
戻る ぜ よ あん 世界 へ
え ッ …
ちょっと … 待ち なさい 待て !
うわ ーーーーーッ !
どう なって んだ …
どこ な んだ よ ここ
あの 男 何 だって こんな 物 …
≪ 待て ! 逃がす な
おい 誰 か ッ
助けて ください !
≪ 逃がす な !
時代 劇 ?
なんだ 撮影 か
覚悟 ー !
うわ 本物 …
そこ に おる 者 は 誰 か !
いや 私 は 偶然 … ( 浪人 ) 怪しい なり を し おって
見 られた と あって は 生かして は おけ ぬ 覚悟 !
ケガ は ? いえ
では 逃げろ 早く !
早く ! はい
≪( 浪人 ) 死ね !
≪ おい 誰 か 来た ぞ !
おい そこ で 何 を して おる !?
まずい 水戸 藩 だ 行く ぞ ひけ !
( うめき声 )
大丈夫です か ?
忠 兵衛 は …
そこ の 供 の 者 が …
残念です が …
そ そ なた は … 私 は 医者 です
私 は 助から ぬ な
いえ 無理で は ない と 思い ます
助かる の か ?
手術 さえ できれば の 話 です が
どうか 侍 の くせ に
女々しい ヤツ と お 笑い に なら ないで いただき たい
今 ここ で 私 が 死ねば お家 は お 取り つぶし
母 も 妹 も 路頭 に 迷う
頼む
私 は まだ ここ で 死ぬ わけに は いか ぬ のだ
( 家臣 A ) 水戸 藩 家中 の 者 で ご ざる これ は 一体 どういう こと か ?
湯島 4 丁目 裏通り 樹木 谷 に 住む
小 普請 組 小笠原 順 三郎 支配 内
橘 恭 太郎 で ございます
3 人 の 見知らぬ 者 に 襲わ れ
供 の 者 は 斬ら れて しまい …
橘 殿 どう な すった !? しっかり なされ
( 家臣 B ) お 主 は 何 を して おる
( 家臣 C ) 奇 態 なな り を して おる が 西洋 人 か !?
私 は 医者 です ( A ) 蘭 方 医 か ?
この 人 は 急性 硬 膜 外 血 腫 の 可能 性 が 高い
30 分 から 最長 1 時間 以内 に オペ し なければ 手遅れに なり ます
オ オペ ? 何 を 言って おる のだ そのほう は
とにかく 一刻 も 早く 彼 を 運んで ください
〈 これ は 夢 か ?〉
〈 だ と したら なんて 長い 〉
〈 生々しい 夢 な んだろう 〉
≪ さあ ここ へ
忠 兵衛 恭 太郎 !
何故 このような こと に …
兄 上 ! ( 栄 ) 咲 何 か かける もの を …
そのまま 部屋 の 中 へ 運んで ください