三 姉妹 探偵 団 01 chapter 09 (1) みっ|しまい|たんてい|だん|

９　 伸びる 影 の 手 のびる|かげ||て

「 や あ 、 待た せて ごめん 」 ||また||

国友 が 、 タクシー を 降りて 走って 来た 。 くにとも||たくしー||おりて|はしって|きた

「 来て くれ ない の か と 思った 」 きて||||||おもった

と 、 言って から 、 夕 里子 は ちょっと 笑って 、「 昨日 は お 金 借りちゃ って ごめんなさい 」 |いって||ゆう|さとご|||わらって|きのう|||きむ|かりちゃ|| After saying, Riko evening laughed a little and said, "I am sorry that I did not borrow money yesterday"

と 言った 。 |いった

「 いい んだ よ 」

「 でも 、 次の 月給 まで 困ら ない ？ |つぎの|げっきゅう||こまら| 「 君 は 少し 気 を 回し 過ぎる んだ 」 きみ||すこし|き||まわし|すぎる| "You're a little too distracted."

国友 は 、 ビル を 見上げた 。 くにとも||びる||みあげた 「 この 五 階 だ ね ？ |いつ|かい|| 「 ええ 。 ── 電話 で 話した こと 、 どう 思う ？ でんわ||はなした|||おもう 「 有望だ ね 」 ゆうぼうだ|

と ビル へ 入り ながら 、 国友 は 肯 いた 。 |びる||はいり||くにとも||こう| 「 実は 三崎 の 親分 に ね 、 その 話 を した んだ 。 じつは|みさき||おやぶん||||はなし||| 他の こと も あれこれ と 入れて ね 。 たの|||||いれて| そ したら 、 さすが に 考え込んで さ 、 もし 神田 初江 から 、 はっきり した 証言 が 取れたら 、 正式に 再 調査 に 乗り出す 、 と 約束 した よ 」 ||||かんがえこんで|||しんでん|はつえ||||しょうげん||とれたら|せいしきに|さい|ちょうさ||のりだす||やくそく||

夕 里子 は ピタッ と 足 を 止めた 。 ゆう|さとご||||あし||とどめた

「 本当に ？ ほんとうに 「 うん 。 その 交渉 で 遅く な っち まったん だ 」 |こうしょう||おそく||||

夕 里子 は 、 不意に 目頭 が 熱く なって 、 あわてて 、 手の甲 で 拭った 。 ゆう|さとご||ふいに|めがしら||あつく|||てのこう||ぬぐった

「 ごめんなさい 。 私 …… 昨日 だって 泣か なかった のに 」 わたくし|きのう||なか|| I ... I did not cry because it was yesterday. "

「 それ は 君 が 優しい 人 だ から さ 。 ||きみ||やさしい|じん||| さあ 、 行こう 」 |いこう

国友 は 夕 里子 の 肩 を 抱いて 言った 。 くにとも||ゆう|さとご||かた||いだいて|いった

エレベーター で 五 階 へ 上る 。 えれべーたー||いつ|かい||のぼる

「 今日 は 、 綾子 さん 、 会社 へ 出て ない の ？ きょう||あやこ||かいしゃ||でて|| 「 ええ 。 今日 は 片瀬 紀子 さん の お 葬式 だ から 、 お 手伝い して る の 。 きょう||かたせ|としこ||||そうしき||||てつだい||| あの 事件 の 方 は 何も つかめ ない の かしら ？ |じけん||かた||なにも|||| I wonder if anyone in that incident can catch anything? 「 そう らしい ね 。 ちょっと 訊 いて みた が 。 |じん||| その 手 の 電話 を かける 奴 は 大勢 いる 。 |て||でんわ|||やつ||おおぜい| しかし 、 一人一人 を 洗う わけに は いか ない から なあ 」 |ひとりひとり||あらう||||||

エレベーター を 降りる と 、 二 人 は 〈 東京 セクレタリーサービス 〉 と 書か れた ガラス 扉 を 押して 中 へ 入って 行った 。 えれべーたー||おりる||ふた|じん||とうきょう|||かか||がらす|とびら||おして|なか||はいって|おこなった

「── 神田 です か ？ しんでん|| 少々 お 待ち 下さい 」 しょうしょう||まち|ください

受付 の 女性 は ちょっと 立ち上り かけて 、 うけつけ||じょせい|||たちのぼり|

「 あ 、 そう だ わ 。 申し訳 あり ませ ん 。 もうしわけ||| 神田 は 、 早退 して しまった んです けど 」 しんでん||そうたい||||

「 早退 です か 」 そうたい||

国友 は 、 夕 里子 と 顔 を 見合わせた 。 くにとも||ゆう|さとご||かお||みあわせた 「 で 、 何時頃 に ？ |いつごろ| 「 十 時 頃 です 。 じゅう|じ|ころ| 何 か 電話 が かかって 来て 、 それ で 急いで 帰って しまい ました 」 なん||でんわ|||きて|||いそいで|かえって||

「 自宅 の 住所 を 教えて いただけ ます か 」 じたく||じゅうしょ||おしえて|||

「 どういう ご 用件 で ？ ||ようけん| 国友 が 警察 手帳 を 見せる と 、 一 も 二 も なく 教えて くれる 。 くにとも||けいさつ|てちょう||みせる||ひと||ふた|||おしえて| When Kunitomo shows his police notebook, he tells us one or two.

二 人 は 〈 東京 セクレタリーサービス 〉 を 出た 。 ふた|じん||とうきょう|||でた ビル の 出口 へ 来る まで 、 どっち も 口 を きか なかった 。 びる||でぐち||くる||||くち|||

そして 、 同時に 互い を 見た 。 |どうじに|たがい||みた

「 気 に なる な 」 き||| 「 気 に なる な 」

「 私 も 」 わたくし|

「 行って みよう 、 この 住所 に ！ おこなって|||じゅうしょ| 二 人 は タクシー を 捕まえて 飛び乗った 。 ふた|じん||たくしー||つかまえて|とびのった 国友 が 警察 手帳 を 見せ 、 くにとも||けいさつ|てちょう||みせ

「 突っ走れ ！ つっぱしれ と 怒鳴った 。 |どなった

少し 走る と 白 バイ が 追いかけて 来る 。 すこし|はしる||しろ|||おいかけて|くる The white buy comes after you run a little. 一旦 タクシー を 停め させ 、 白 バイ の 警官 に 、 いったん|たくしー||とめ|さ せ|しろ|||けいかん|

「 先導 して くれ ──」 せんどう||

と 叫んだ 。 |さけんだ

後 は 、 赤 信号 も ノン ・ ストップ で 、 タクシー は たちまち 、 目指す 住所 の 近く に 着いた 。 あと||あか|しんごう|||すとっぷ||たくしー|||めざす|じゅうしょ||ちかく||ついた

「 この 辺 だ が な ……」 |ほとり|||

タクシー を 降りて 、 国友 は 周囲 を 見回した 。 たくしー||おりて|くにとも||しゅうい||みまわした

「 住所 は アパート ね 」 じゅうしょ||あぱーと|

「 そう らしい 。 ── ちょっと 訊 いて 来る 」 |じん||くる

国友 は 手近な パン 屋 へ 飛んで 行く と 、 すぐに 戻って 来た 。 くにとも||てぢかな|ぱん|や||とんで|いく|||もどって|きた 「 分 った ぞ ！ ぶん|| 「 この 近く ？ |ちかく 「 すぐ 裏 だ そうだ よ 。 |うら||そう だ| 急ごう ！ いそごう 二 人 の 足取り は 、 いつしか 小走り から 、 本格 的な 疾走 に なって いた 。 ふた|じん||あしどり|||こばしり||ほんかく|てきな|しっそう|||

「 この アパート だ ！ |あぱーと| 「 二 階 よ 」 ふた|かい|

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった 「 三 号 室 だ わ 」 みっ|ごう|しつ||

あまり 立派 と は 言いがたい アパート だった 。 |りっぱ|||いいがたい|あぱーと| 階段 を ドタドタ と 駆け上って 行く と 、 かいだん||||かけあがって|いく|

「 うる せ え ぞ ！ と 、 下 から 怒鳴ら れた 。 |した||どなら|

しかし 、 そんな こと に 構って は い られ ない 。 ||||かまって||||

「 ここ だ 」

ドア の 前 で 二 人 は 足 を 止めた 。 どあ||ぜん||ふた|じん||あし||とどめた 一瞬 耳 を 傾ける 。 いっしゅん|みみ||かたむける ウーン と 、 唸り 声 が 洩 れて 来る 。 うーん||うなり|こえ||えい||くる

「 大変だ ！ たいへんだ 国友 が ノブ を つかんで 、 力一杯 、 引 張った 。 くにとも|||||ちからいっぱい|ひ|はった バリッ と 音 が して 、 チェーン が 切れた らしい 。 ||おと|||ちぇーん||きれた| ドア が 勢い 良く 開いて 来る 。 どあ||いきおい|よく|あいて|くる

国友 と 夕 里子 は 中 へ 飛び込んだ 。 くにとも||ゆう|さとご||なか||とびこんだ ── が 、 夕 里子 は あわてて 回れ 右 を する は めに なった 。 |ゆう|さとご|||まわれ|みぎ|||||

「 キャッ ！ と 、 悲鳴 を 上げて 、 裸 の 女 が 飛び上った 。 |ひめい||あげて|はだか||おんな||とびあがった 同じく 裸 の 男 が 起き上って 、 おなじく|はだか||おとこ||おきあがって

「 何 だ 、 お前 ら ！ なん||おまえ| と 怒鳴った のである 。 |どなった|

「 本当に もう ……。 ほんとうに| 困る じゃ ない の 」 こまる|||

神田 初江 は 、 腕組み して 、 国友 を にらみつけた 。 しんでん|はつえ||うでぐみ||くにとも|| もちろん 、 もう 服 は 着て いる 。 ||ふく||きて|

「 いや 、 申し訳 あり ませ ん 。 |もうしわけ||| 呻き声 が 聞こえた んで 、 つい ……」 うめきごえ||きこえた||

「 あなた 童 貞 な の ？ |わらべ|さだ|| 面白 そうな 顔 で 、「 ねえ 、 刑事 さん 」 おもしろ|そう な|かお|||けいじ|

と 、 国友 の 顔 を 覗き込んだ 。 |くにとも||かお||のぞきこんだ

神田 初江 の アパート に 近い 喫茶 店 である 。 しんでん|はつえ||あぱーと||ちかい|きっさ|てん|

「 で 、 いかがです か 、 その 話 です が 」 ||||はなし||

国友 は 咳払い を して 、 話 を 戻そう と した 。 くにとも||せきばらい|||はなし||もどそう||

「── あの 子 が 人殺し の 娘 、 ねえ 」 |こ||ひとごろし||むすめ|

と 、 神田 初江 は コーヒー を ガボリ と 飲んで 顔 を しかめた 。 |しんでん|はつえ||こーひー||||のんで|かお|| 「 苦い なあ 、 ここ の は 」 にがい||||

「 容疑 者 です 」 ようぎ|もの|

国友 と 並んで 座って いた 夕 里子 が 、 ムッと して 訂正 した 。 くにとも||ならんで|すわって||ゆう|さとご||むっと||ていせい|

「 ああ 、 そう か 」

「 あなた の 話 が 事実 なら 、 佐々 本 周平 の 容疑 を 晴らす 重大な 手掛り に なる んです が ね 」 ||はなし||じじつ||ささ|ほん|しゅうへい||ようぎ||はらす|じゅうだいな|てがかり|||||

「 私 、 何も 言わ ない わ よ 」 わたくし|なにも|いわ|||

神田 初江 の 言葉 に 、 国友 と 夕 里子 は 、 チラッ と 目 を 見交わした 。 しんでん|はつえ||ことば||くにとも||ゆう|さとご||||め||みかわした

「 しかし 、 あなた は 綾子 さん に ──」 |||あやこ||

「 知ら ない わ 、 そんな 話 。 しら||||はなし 何 か 私 が しゃべった って 証拠 で も ある の ？ なん||わたくし||||しょうこ|||| Is there any proof that I spoke? 「 ですが 、 そう 話した んでしょう ？ ||はなした| ホテル の 廊下 で 、 水口 淳子 が 男 と 一緒に いる の を 見た と ──」 ほてる||ろうか||みずぐち|あつこ||おとこ||いっしょに||||みた|

「 やめて よ ！ と 、 神田 初江 は 遮った 。 |しんでん|はつえ||さえぎった 「 ホテル だ なんて 、 人 聞き の 悪い ！ ほてる|||じん|きき||わるい "It's hard to hear people at a hotel! 私 、 そんな 所 へ 出入り したり し ない わ よ 。 わたくし||しょ||でいり||||| いい こと 、 今 私 の 部屋 に は 婚約 者 が 来て る の 。 ||いま|わたくし||へや|||こんやく|もの||きて|| もし こんな 話 が 彼 の 耳 に 入ったら どう なる と 思って ん の ？ ||はなし||かれ||みみ||はいったら||||おもって|| 「 その 点 は 心配 いり ませ ん よ 。 |てん||しんぱい|||| 証言 の 内容 に ついて は 絶対 に 秘密に し ます 。 しょうげん||ないよう||||ぜったい||ひみつに|| それ は お 約束 し ます から 」 |||やくそく|||

「 冗談 じゃ ない わ ！ じょうだん||| と 、 神田 初江 は 立ち上って 、「 私 を 何 だ と 思って ん の よ ！ |しんでん|はつえ||たちのぼって|わたくし||なん|||おもって||| そんな 浮気な 女 だ なんて 思わ れちゃ 迷惑 よ 。 |うわきな|おんな|||おもわ||めいわく| もう 二度と そんな 話 、 しに 来 ないで ！ |にどと||はなし||らい| と 言い捨てる と 、 喫茶 店 を 出て 行った 。 |いいすてる||きっさ|てん||でて|おこなった

「 待って ！ まって 夕 里子 は 急いで 後 を 追って 店 を 飛び出す と 、 アパート の 方 へ 戻って 行く 神田 初江 に 駆け寄った 。 ゆう|さとご||いそいで|あと||おって|てん||とびだす||あぱーと||かた||もどって|いく|しんでん|はつえ||かけよった

「 待って 下さい ！ まって|ください 私 の 父 が 人殺し の 罪 を 着せ られて いる んです ！ わたくし||ちち||ひとごろし||ざい||ちゃくせ||| あなた が ただ 見た こと を 話して 下されば ──」 |||みた|||はなして|くだされば

「 しつこい わ ね ！ 手 を ど かして よ ！ て|||| Move your hands away! と 夕 里子 の 手 を 振り 放す と 、 走り去って しまった 。 |ゆう|さとご||て||ふり|はなす||はしりさって|

夕 里子 が ぼんやり と 立って いる と 、 国友 が 店 を 出て 、 やって 来た 。 ゆう|さとご||||たって|||くにとも||てん||でて||きた

「 今 は 無理だ よ 。 いま||むりだ| やめて おいた 方 が いい 」 ||かた||

「 でも ……」

「 悪い 所 へ 来 ち まったん だ 。 わるい|しょ||らい||| 婚約 者 を 前 に 、 刑事 に あれこれ 訊 かれちゃ 、 面白く ない だろう ね 、 確かに 。 こんやく|もの||ぜん||けいじ|||じん||おもしろく||||たしかに ── また 明日 でも 来よう 。 |あした||こよう 気 が 変って る よ 、 きっと 」 き||かわって||| I'm changing my mind, I'm sure. "

夕 里子 は 肩 を 落とした 。 ゆう|さとご||かた||おとした

父 の こと を 思う と 、 たとえ 一 日 でも 早く 、 汚名 を そそいで やり たい 気 が する のである 。 ちち||||おもう|||ひと|ひ||はやく|おめい|||||き|||

「 これ から どう する ん だい ？ と 、 国友 は 訊 いた 。 |くにとも||じん|

「 片瀬 さん の お宅 に 戻る わ 。 かたせ|||おたく||もどる| お 葬式 に 出 なきゃ なら ない し ……」 |そうしき||だ||||

「 その 前 に 、 ちょっと 寄って み ない か ？ |ぜん|||よって||| "Before that, why don't you stop by? 「 どこ へ ？ 「 君 の お 父さん の 会社 だ よ 。 きみ|||とうさん||かいしゃ|| 植松 課長 に 面会 して みよう 」 うえまつ|かちょう||めんかい||

「 でも …… いい の ？ 〈 親分 〉 に 話して ない んでしょ ？ おやぶん||はなして|| 「 いい さ 、 後 で 叱ら れりゃ 済む こと だ 」 ||あと||しから||すむ||

と 、 国友 は 微笑んだ 。 |くにとも||ほおえんだ 「 君 の その がっかり した 顔 を 見て る と 、 何 か し なきゃ 可哀そうで ね 」 きみ|||||かお||みて|||なん||||かわいそうで|

「 じゃ 、 私 、 ずっと がっかり した 顔 して よう か な 。 |わたくし||||かお|||| その 内 結婚 して くれる かも しれ ない もの 」 |うち|けっこん|||||| Some of them may get married. "

国友 と 夕 里子 は 一緒に 笑った 。 くにとも||ゆう|さとご||いっしょに|わらった

「── まあ 、 そんな こと が あった の ？ と 、 野上 幸代 は 、 昨日 の 地下 街 で の 出来事 を 聞いて 目 を 丸く した 。 |のかみ|さちよ||きのう||ちか|がい|||できごと||きいて|め||まるく| 「 災難 だった わ ねえ 」 さいなん|||

Ｋ 建設 へ やって 来た の は 、 ちょうど お 昼 どき で 、 幸代 が うまい 具合 に 食事 から 帰って 来る の に 出くわした のである 。 ｋ|けんせつ|||きた|||||ひる|||さちよ|||ぐあい||しょくじ||かえって|くる|||でくわした|

「 ともかく 応接 室 で 待って る と いい わ 」 |おうせつ|しつ||まって||||

と 幸代 は 二 人 を 案内 した 。 |さちよ||ふた|じん||あんない|

「 いい んです か ？ 「 構 やしない わ よ 。 かま||| 私 に 文句 言える 人間 は い ない んだ から 」 わたくし||もんく|いえる|にんげん|||||

夕 里子 は 、 どうせ ＯＬ に なる なら 、 ここ まで 勤め なきゃ 、 と 思った 。 ゆう|さとご|||ｏｌ||||||つとめ|||おもった

「 その 浮 浪 者 たち 、 植松 課長 に 言わ れて 、 あなた を 襲った の かしら ね ？ |うか|ろう|もの||うえまつ|かちょう||いわ||||おそった||| 「 その 可能 性 は あり ます 」 |かのう|せい|||

と 国友 が 肯 く 。 |くにとも||こう|

「 でも 考えて みる と おかしい わ 」 |かんがえて||||

と 、 夕 里子 は 、 考え込み ながら 言った 。 |ゆう|さとご||かんがえこみ||いった

「 たとえ あの バッグ を 盗んで も 、 植松 課長 の 書いた 伝票 なんて 、 他 に いくら で も ある わけでしょう ？ ||ばっぐ||ぬすんで||うえまつ|かちょう||かいた|でんぴょう||た|||||| あんな こと まで して 、 盗む 必要 が あった の かしら ？ ||||ぬすむ|ひつよう|||| 「 とっさ の こと で 、 あわてた んじゃ ない の か な 。 それ に 、 君 が あんな 目 に 遭えば 、 怖く なって 、 もう 事件 の 調査 から 手 を 引く と 思った の かも しれ ない 」 ||きみ|||め||あえば|こわく|||じけん||ちょうさ||て||ひく||おもった||||

「 それ を 狙った の なら 、 相手 を 間違えた わ ね 」 ||ねらった|||あいて||まちがえた||

と 、 幸代 が 言った 。 |さちよ||いった 「 この 人 に は 逆 効果 だ わ 」 |じん|||ぎゃく|こうか|| "This is the opposite effect to this person"

夕 里子 は 、 ちょっと 照れて 頭 を かいた 。 ゆう|さとご|||てれて|あたま||

「 見て 来る から 待って て ね 。 みて|くる||まって|| もう 戻って る と 思う けど 」 |もどって|||おもう|

と 幸代 は 応接 室 を 出て 行った 。 |さちよ||おうせつ|しつ||でて|おこなった

「 いい 人 だ ね 」 |じん||

と 、 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

「 ええ 、 本当に 。 |ほんとうに 素敵な 人 だ わ 」 すてきな|じん||

二 人 は 、 ちょっと 黙った 。 ふた|じん|||だまった ── 夕 里子 は 、 国友 の 横顔 を 、 そっと 眺めて いた 。 ゆう|さとご||くにとも||よこがお|||ながめて|

刑事 なんて 、 みんな 、 いかつくて 、 すぐに 怒鳴りつけたり する 人 ばかり だろう 、 と 思って いた 。 けいじ|||||どなりつけたり||じん||||おもって| そんな イメージ から 見る と 、 国友 は 、 およそ 刑事 らしく ない 。 |いめーじ||みる||くにとも|||けいじ||

この 人 が 、 凶悪 犯 を 相手 に 格闘 したり 、 容疑 者 を 厳しく 取り調べて いる ところ なんか 、 想像 でき ない わ 、 と 夕 里子 は 思った 。 |じん||きょうあく|はん||あいて||かくとう||ようぎ|もの||きびしく|とりしらべて||||そうぞう|||||ゆう|さとご||おもった ごく 当り前の サラリーマン で 、 休日 に は 恋人 と ドライブ を して 、 夜 は ロマンチックな 愛 を 語る ……。 |あたりまえの|さらりーまん||きゅうじつ|||こいびと||どらいぶ|||よ||ろまんちっくな|あい||かたる そんな 姿 が 、 様 に なる ような 気 が する のだ 。 |すがた||さま||||き|||

「 国友 さん 、 恋人 いる ？ くにとも||こいびと| 不意に 訊 かれて 、 国友 は びっくり した ように 目 を 見張った 。 ふいに|じん||くにとも|||||め||みはった

国友 が 返事 を し ない 内 に 、 ドア が 開いて 、 野上 幸代 が 飛び込んで 来た 。 くにとも||へんじ||||うち||どあ||あいて|のかみ|さちよ||とびこんで|きた

「 逃げた わ ！ にげた| 国友 と 夕 里子 が 立ち上る 。 くにとも||ゆう|さとご||たちのぼる 幸代 は 息 を 弾ま せて 、 さちよ||いき||はずま|

「 馬鹿な 受付 が しゃべった らしい の 。 ばかな|うけつけ|||| 食事 から 戻った 植松 に 、『 佐々 本 さん の お嬢さん が 、 男 の 人 と お 待ち です 』 って 。 しょくじ||もどった|うえまつ||ささ|ほん|||おじょうさん||おとこ||じん|||まち|| そ したら 、 急に 用 を 思い出した と か 言って 、 早退 しちゃ った んです って 」 ||きゅうに|よう||おもいだした|||いって|そうたい||||

「 やれやれ 、 今日 は 早退 の はやる 日 だ な 」 |きょう||そうたい|||ひ||

と 国友 が 言った 。 |くにとも||いった 「 どこ へ 行った んでしょう ね ？ ||おこなった|| 「 たぶん 家 へ 帰った んでしょ 。 |いえ||かえった| あの 人 は 、 養子 の 身 で ね 、 奥さん 、 社長 の 娘 だ から 、 自分 じゃ ほとんど 現金 を 持って ない の 。 |じん||ようし||み|||おくさん|しゃちょう||むすめ|||じぶん|||げんきん||もって|| カード の 支払い を いちいち 奥さん が チェック して る んです って 」 かーど||しはらい|||おくさん||ちぇっく||||

「 じゃ 、 逃げる に して も 、 一 旦家 へ 帰る 、 と いう わけです ね ？ |にげる||||ひと|たんいえ||かえる|||| よし 、 家 は どこ です ？ |いえ||| 「 案内 して あげ ましょう か ？ あんない|||| "Shall I show you around? 「 いい んです か ？ 「 私 に 文句 の 言える 人 は い ない の よ 」 わたくし||もんく||いえる|じん|||||

と 、 幸代 は 得意な セリフ を 口 に して 、「 待って 、 すぐに 着替えて 来る わ ！ |さちよ||とくいな|せりふ||くち|||まって||きがえて|くる| と 、 応接 室 から 飛び出して 行った 。 |おうせつ|しつ||とびだして|おこなった

植松 の 家 へ タクシー で 向 って いる 途中 、 夕 里子 は 言った 。 うえまつ||いえ||たくしー||むかい|||とちゅう|ゆう|さとご||いった

「 植松 課長 が 、 そんな 風 に 奥さん に 頭 が 上ら ない と する と 、 もし 水口 淳子 が 恋人 だった と して 、 妊娠 したら 殺す 気 に なった かも しれ ない わ ね 」 うえまつ|かちょう|||かぜ||おくさん||あたま||のぼら||||||みずぐち|あつこ||こいびと||||にんしん||ころす|き|||||||

「 その 可能 性 は 大いに ある 」 |かのう|せい||おおいに|

と 、 国友 が 肯 く 。 |くにとも||こう|

「 でも 、 その 件 と パパ の 出張 と 、 どう つながる の かしら ？ ||けん||ぱぱ||しゅっちょう||||| 「 そい つ は 、 直接 当人 に 訊 いて みる 他 ない と 思う な 」 |||ちょくせつ|とうにん||じん|||た|||おもう|

「 逃げ出し たって の は 、 白状 した も 同じ こと よ 。 にげだし||||はくじょう|||おなじ|| ── ほら 、 運 ちゃん 、 そこ 曲って 」 |うん|||まがって

と 、 幸代 が 指示 する 。 |さちよ||しじ| 「 もう すぐ 着く わ 。 ||つく| まだ うろついて る と いい けど ね 」

まるで 野良犬 か 何 か の ようだ 。 |のらいぬ||なん|||

タクシー は 、 一瞬 目 を 見張る ような 立派な 邸宅 の 前 に 停 った 。 たくしー||いっしゅん|め||みはる||りっぱな|ていたく||ぜん||てい|

「 凄い 家 」 すごい|いえ

と 、 夕 里子 は 呟いた 。 |ゆう|さとご||つぶやいた

「 社長 が 結婚 祝い に プレゼント した 家 よ 。 しゃちょう||けっこん|いわい||ぷれぜんと||いえ| 時価 三億 です って 」 じか|さんおく||

「 三億 か ……」 さんおく|

と 国友 も ため息 を つく 。 |くにとも||ためいき||

何しろ 門 の ずっと 奥 に 、 建物 が 見える のである 。 なにしろ|もん|||おく||たてもの||みえる| 夕 里子 たち の 家 だって 、 まあ 標準 的な 広 さ で は あった が 、「 ずっと 」 入る ほど の 奥 行 は なかった 。 ゆう|さとご|||いえ|||ひょうじゅん|てきな|ひろ|||||||はいる|||おく|ぎょう|| 裏 へ 抜けて 、 塀 に ぶつかって いた だろう 。 うら||ぬけて|へい||||

「 感心 しちゃ い られ ない や 」 かんしん|||||

と 国友 が 我 に 返る と 、「 じゃ 、 入ろう 。 |くにとも||われ||かえる|||はいろう ── どこ から 入る んだろう ？ ||はいる| 「 そこ に インタホン が 」

と 、 幸代 が 指さした 。 |さちよ||ゆびさした