三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 04
4 葬儀 の 客
「 ああ 、 アホ らしい 」
校長 室 を 出る と 、 珠美 は そう 呟いた 。
何で 、 やって も い ない こと で 反省 したり 謝ったり し なきゃ なん ない の ?
停学 処分 の 三 日間 を 終えて 、 今日 から 登校 して 来た のである 。
しかし 、 停学 中 、 充分に 反省 した か どう か 、 校長 室 で 質問 さ れた のだった 。
もっとも 、 校長 から 、
「 よく 反省 した か ?
と 訊 かれて 、
「 し ませ ん 」
なんて 答える 馬鹿 が いる わけ は ない ので 、 珠美 と して も 、 やや 抵抗 は あった もの の 、
「 はい 」
と 返事 を して 来た のである 。
「 よろしい 」
で 、 終り 。
所要 時間 、 正味 十 秒 。
── 珠美 が 「 アホ らしい 」 と 呟く の も 当然 と いえよう 。
職員 室 の 前 を 通り かかる と 、 一 年 の とき 担任 だった 教師 、 田所 が 出て 来た 。
「 何 だ 、 佐々 本 か 」
野暮ったい 背広 に 黒 の ネクタイ を して いる 。
「 先生 、 こんち は 」
「 そう か 。
お前 、 停学 に なった んだ な 」
「 もう 済んだ んです 」
「 そう か 。
早い じゃ ない か 。 どうせ やる なら 、 派手な こと を やれ 」
と 、 けしかけて いる 。
一風 変った 、 昔風の 教師 で 、 生徒 に は なかなか 人気 が ある 。
「 先生 、 どこ に 行く んです か ?
と 、 廊下 を 歩き ながら 珠美 が 訊 く 。
「 葬式 だ 」
「 誰 か 亡くなった んです か ?
「 ほら 、 この 前 この 学校 の 中 で 殺さ れた 女 が いたろう 」
「 有田 信子 ……」
「 何 だ 、 よく 知って る な 」
「 ちょっと 、 新聞 で 読んで 」
と 、 珠美 は あわてて 言った 。
「 あの 人 の お 葬式 ? 「 そう な んだ 。
息子 が 、 元 ここ の 生徒 だった って いう んで な 。 一応 顔 を 出して くれ って こと な んだ 」
「 ご苦労様 」
と 、 珠美 は 言って 、「── 先生 、 その 子供 の 方 、 知って た んです か ?
「 その 息子 か ?
── 教えた こと は ある 。 ほん の 短い 期間 だ が な 」
「 憶 えて ます ?
「 うん 」
と 、 田所 は 肯 いた 。
「 妙な もん だ が ── 何しろ 、 さ ぼ って ばかり で 、 滅多に 学校 に 来 なかった し 、 授業 に も ろくに 出て ない 奴 だった が 、 これ が よく 憶 えて る んだ な 。 一 日 も 休ま ず 、 皆勤 賞 を 取った 奴 より よく 憶 え とる 」
「 不良 ── だった んでしょ ?
「 不良 と いや 、 誰 だって 、 どこ か 不良だ 。
子供 って の は 、 そんな もん だ 」
と 、 田所 は 自己 流 の 「 不良 論 」 を 述べて 、
「 しかし 、 不良に も 色々 ある 。
甘えたり 逃げたり して 不良に なる 奴 と 、 覚悟 の 上 で 不良に なる 奴 と な 。 ── 有田 は 、 どことなく 芯 の ある 奴 だった 」
芯 の ある 、 か 。
── 鉛筆 みたい ね 、 と 珠美 は 思った 。
「 そう だ 」
と 田所 は 珠美 を 見て 、「 お前 、 一緒に 来い 」
「 え ?
珠美 は 目 を 丸く した 。
「 一緒に 、 って ……。 どこ へ ? 「 葬式 だ 」
「 私 、 関係 ない です けど 」
「 生徒 代表 って の が 一 人 いた 方 が いい 」
「 だけど 、 授業 が ──」
「 もう 一 日 停学 だ と 思えば いい だ ろ 」
「 そんな 無 茶 な 」
「 俺 が ちゃんと 言 っと いて やる 」
と 、 田所 は 、 ポン と 珠美 の 肩 を 叩いた 。
「 忘れ なきゃ な 」
── 有田 信子 は 、 大分 古ぼけた 団地 に 住んで いた のだった 。
四 階 建 の 、 かつて は 白かった らしい 棟 が 、 五 つ 並んで いる 。
それ だけ の 団地 だった 。
「 その 内 、 取り壊して 建て直す んだろう な 」
田所 は 、 のんびり と 中 を 見 回した 。
「 でも 、 家賃 、 安い でしょう ね 」
「 お前 は 、 相 変ら ず ガッチリ し とる な 」
「 苦労 して ます から 」
教師 と 生徒 の 会話 と は 思え ない 。
「 あそこ らしい な 」
団地 の 中 に 、 小さな 小屋 ── と いって は 悪い が 、 どうにも そういう イメージ の 、 建物 が あった 。
その 入口 に 受付 らしき もの が 作って ある のだ が ……。
「 時間 、 間違えた んじゃ あり ませ ん ?
と 珠美 は 言った 。
「 うむ 」
田所 も 、 空っぽの 受付 を 見て 、 首 を かしげる 。
「 俺 は 、 聞いて 来た だけ だ ぞ 。 事務 の 奴 が 間違えた の か な 」
「 でも ── お 経 が ……」
なるほど 、 入口 の 前 に 立つ と 、 中 で お 経 を あげて いる の が 聞こえて 来る 。
香 の 匂い も 漂って 来た 。
「 間違っちゃ い なかった ようだ な 」
「 でも 、 誰 も いま せ ん ね 」
「 中 へ 入ろう 」
上って みる と 、 畳 十 畳 ぐらい の 部屋 で 、 正面 に 棺 も 安置 さ れて いる 。
お 坊さん が 一応 お 経 を 上げて は いる のだ が 、 肝心の 会葬 者 が ── 遺族 の 所 に も 、 誰 も い ない 。
珠美 と 田所 が 顔 を 見合わせて いる と 、 急に 後ろ で 、
「 どなた です か 」
と 声 が して 、 珠美 は 、 キャッ と 声 を 上げて 飛び上った 。
立って いた の は ずんぐり した 体つき の 中年 男 で 、 田所 が 名乗る と 、
「 それ は どうも 、 ご 丁寧に 」
と 礼 を 言った 。
「 誰 も 焼香 に 来 ない もん で 、 こっち も 気 が 重かった んです 。 ぜひ 焼香 して やって 下さい 」
「 は あ 」
取りあえず 、 田所 と 珠美 が 順番 に 焼香 する 。
表 に 出る と 、 さっき の 男 が 、 周囲 を キョロキョロ 見 回して いた 。
「── や 、 どうも 」
と 、 田所 に 頭 を 下げる 。
「 私 は 大 倉 と いい ます 」
「 ああ 、 聞いて ます よ 」
と 、 田所 が 肯 く 。
「 有田 勇一 が いる 施設 の ──」
「 所長 を し とり ます 」
大倉 と いう 男 、 外見 上 は ともかく 、 印象 が どことなく 田所 に 似て いる 。
「 勇一 の こと は よく 憶 えて ます よ 。
真面目 と は 言いがたかった が 、 どことなく 、 他 と は 違った ところ が あった 」
「 そう おっしゃって いただく と 嬉しい です な 」
大倉 が 、 顔 を ほころば せた 。
「 私 も 、 あいつ に は 見どころ が ある と 思って る んです 」
「 同感 です 」
田所 は 、 そう 言って から 、「 で ── どこ に いる んです か ?
と 周囲 を 見 回した 。
「 それ な んです 。
頭 を 痛めて る んです よ 」
大倉 は ため息 を ついた 。
「 姿 を くらまし ち まったん です 」
「 する と ── 逃げた んです か 」
「 逃げた の なら 、 そう 心配 せ ん のです が ね 」
と 、 大倉 は 首 を 振った 。
「 あいつ は 母親 思い でした から 。 ── 自分 で 犯人 を 見付ける んだ 、 と 思い つめて 、 姿 を くらました と したら ……。 危険な こと も やり かね ませ ん 」
もう やって ます よ 、 と 珠美 は 、 心 の 中 で 呟いた が 、 勇一 が やって 来た こと を 、 田所 たち に 話して やる 気 に は なれ なかった 。
今 どこ に いる か は 、 どうせ 珠美 だって 知ら ない こと な のだ から 。
「 母親 の 葬式 ぐらい に は 、 現われる と 思 っと った んです が 」
大倉 は 、 肩 を すくめて 、「 仕方ない 。
── ま 、 お 二 人 が 来て 下さった だけ でも ありがたい です よ 」
「 殺さ れた 人 、 ここ に 住んで いた んでしょ ?
と 、 珠美 は 言った 。
「 それなのに 、 どうして 誰 も 焼香 に 来 ない んです か ? 「 そい つ が 私 も 不思議で ね 」
と 、 大倉 は 、 団地 の 棟 々 を 眺めて 、「 と いって 、 いちいち 呼んで 回る わけに も いか ない し ……」
何 か 事情 が あり そうだ わ 、 と 珠美 は 思った 。
夕 里子 姉ちゃん なら 、 目 を 輝か せる ところ だろう 。
しかし 、 珠美 は 、 一 文 に も なら ない 「 謎 」 なんて 、 一向に 興味 が なかった 。
もっとも 、 誰一人 焼香 に 来 ない 寂しい お 葬式 に 、 少々 胸 を 痛めた の は 事実 である 。
あの 勇一 と いう 子 、 ここ に い なくて 却って 良かった の かも しれ ない わ ……。
「 では 、 もう 切り上げる ように 言い ましょう か 」
大倉 は 腕 時計 を 見て 、「 まだ 少し 時間 は ある が 、 誰 も 来そう も ない し 」
「 だけど ──」
珠美 が 、 つい 口 を 挟んで いた 。
大倉 と 田所 に 、 同時に 見 られて 、 ちょっと 焦り つつ 、
「 あの ── やっぱり 時間 通り 、 待って て あげた 方 が ── その ──」
「 いや 、 その 通り だ 」
と 、 田所 が 肯 く 。
「 我々 だけ でも 、 ずっと いて あげ ます よ 」
「 そう です か 」
大倉 も 、 いくらか ホッと した ようだった 。
珠美 は 、 何となく 、 周囲 を のんびり と 見 回して いた が ……。
「 アッ !
と 、 思わず 声 を 上げた 。
「 どうした ?
田所 に 訊 かれて 、
「 いえ ── あの 、 目 に ごみ が 入った だけ です 」
珠美 は あわてて 言い訳 する と 、「 ちょっと 洗って 来 ます 」
と 、 小さな 砂場 の 方 へ 歩いて 行った 。
水飲み 場 が ある 。
── 珠美 は 、 田所 たち の 方 を ちょっと 振り向く と 、 茂み の 方 へ 駆けて 行った 。
「── あんた 、 何 して ん の よ !
「 で かい 声 出す な 」
と 、 勇一 が 言い 返す 。
「 出て 来たら いい じゃ ない の 。
あんた の お 母さん の お 葬式 よ 」
「 分 って ら 。
だけど 出て 行きゃ 、 また 施設 へ 戻る んだ 」
「 仕方ない でしょ 」
「 犯人 を 自分 で 見付けて やる んだ !
茂み の 陰 に しゃがみ 込んで 、 勇一 は 、 言った 。
「 警察 が 見付けて くれる わ よ 。
その ため に 税金 払って んだ から 」
勇一 は 、 ふと 優しい 目 に なって 、 珠美 を 見る と 、
「 この前 は ありがとう 」
と 言った 。
珠美 は どぎまぎ して 、
「 そんな ── 急に 態度 変え ないで よ 」
と 、 目 を そらした が 、 何だか イヤに 顔 が カッ と 熱く なって いた 。
「 先生 たち に 、 黙って て くれよ な 」
と 、 勇一 が 静かに 言った 。
「 いい けど さ ……。
でも 、 危 いよ 、 殺人 事件 な んだ から 」
珠美 は 何しろ 経験 豊富だ 。
「 分 って る よ 」
勇一 は 肯 いて 、「 だけど 、 お 袋 は 俺 に とっちゃ 、『 借り 』 の ある 相手 だった んだ 」
「 借金 でも して た の ?
「 苦労 かけ たって こと さ 」
「 ああ 。
── でも 、 子供 って 、 たいてい そう じゃ ない ? 「 お前 、 面白い 奴 だ な 」
と 、 勇一 は ちょっと 笑った 。
「 それ で 賞 め たつ もり ?
「── ともかく 、 俺 、 もう 少し 姿 を 隠して 、 犯人 を 捜して やる つもりだ 」
「 危 い と 思う けど なあ 」
「 いい んだ 」
と 、 勇一 は 軽い 口調 で 言った 。
「 別に それ で 死んだ って 、 一向に 構わ ねえ 」
珠美 は 、 ギョッ と した 。
── 自分 と 同じ 年齢 の 子 から 、「 死んで も いい 」 なんて 言葉 を 、 それ も 真剣に 言った 言葉 を 聞く の は 、 初めて だった から だ 。
そりゃ 、 女の子 たち が 、「×× ちゃん の ため なら 死んで も いい !
」 と か 言う こと は よく ある が 、 スター や タレント に 憧れて 本当に 死ぬ こと は 、 まず ない 。 今 の 勇一 の 言葉 は 、 アッサリ 言わ れた だけ に 、 珠美 に とって は ショック な のであった 。
珠美 が 何 か 言おう と 口 を 開き かけた とき 、
「 誰 か 来た みたいだ な 」
と 、 勇一 が 言った 。
なるほど 、 あの 受付 の 辺り に 人 の 声 が する 。
「 行く わ 、 もう 」
「 ああ 。
── 元気で な 」
珠美 は 、 歩き かけて 、 振り向く と 、
「 行く 所 に 困ったら 、 うち へ おい で よ 」
と 言った 。
── 受付 の 方 へ 戻り ながら 、 珠美 は 、 どうして 自分 が あんな こと を 言った の か 、 不思議だった 。
一 泊 いくら 、 と いって も 、 どうせ お 金 なんて 持って ない んだろう し 。
「 しかし 、 それ は ──」
と 、 田所 の 声 。
「 こちら へ 任せて いた だこう 」
と 言って いる の は 、 白髪 の 紳士 だった 。
珠美 は 、 その 紳士 の 背広 が 英国 製 の 生地 だ と いう の を 、 一目 で 見てとって いた 。
しかも 、 傍 に 、 秘書 らしい 若い 男 を 連れ 、 団地 の 入口 に 、 その 紳士 が 乗って 来た に 違いない 車 ── ロールス ・ ロイス ── が 停めて ある の に も 気付いた 。
これ は 凄い 金持 だ !
でも 、 何 し に 来た んだろう ?
「 ちょっと お 待ち 下さい 」
と 、 大倉 が 割って 入った 。
「 あなた は 、 亡くなった 有田 信子 さん と どういう ご 関係 の 方 です か ? 白髪 の 紳士 は 、 ちょっと 息 を ついた 。
── そして 、 高飛車に 出た の を やや 恥じる ように 、
「 これ は 失礼 した 」
と 言った 。
「 こちら が 名乗り も せ ず に 、 勝手な こと を 言って は 、 驚か れる の も 無理 は ない 。 ── 私 は 小 峰 と いう 者 です 。 信子 は 私 の 娘 です 」
エッ 、 と 思わず 声 を 上げて 、 珠美 は あわてて 口 を 押えた 。
しかし 、 これ が びっくり せ ず に い られよう か 。
小 峰 と いう 老 紳士 は 、 珠美 の 方 へ 目 を 向けた 。
「 す 、 すみません 」
珠美 は 謝った 。
しかし ── 何だか 変だった 。 その 紳士 が 、 じっと 、 珠美 を 見つめて いる のだ 。 にらんで いる 、 と いう の と は 違う 。
珠美 は 、 顔 に 何 か つけて た の か なあ 、 と 思った ……。
「 有田 信子 さん の 父親 !
そう でした か 」
田所 の 声 で 、 小峰 は 、 ふっと 我 に 返った 様子 だった 。
「 信子 は 、 男 と 駆け落ち して 、 それ きり 姿 を くらまして しまった のです 」
と 、 小峰 は 言った 。
「 私 に とって は 、 たった 一 人 の 子供 でした が 、 私 も 頑固でして 、 信子 が 望んだ 相手 と の 結婚 を 許さ なかった 。 ── 家 を 出て 行って も 、 どうせ すぐ 戻って 来る 、 と 思って いた のです が ……」
「 では 、 それ っきり ?
「 信子 は 戻り ませ ん でした 。
私 も 意地 に なって いて 、 捜さ せ も し なかった のです が 。 最近 に なって 、 人 を 雇って 、 行方 を 調べ 始めて いた ところ 、 あの 殺人 事件 の ニュース で ……。 よく 調べて みる と 、 間違い なく 信子 でした 」
「 それ は お 気の毒な こと で 」
と 、 大倉 が 言った 。
「 ぜひ 、 私 の 手 で 娘 の 葬儀 を 、 と 思い まして 。
── そちら に は ご 迷惑 と 思い ます が 」
「 いや 、 そういう 事情 なら 」
と 、 田所 が 肯 いた 。
「 ただ ── そうなる と 勇一 君 は あなた の 孫 と いう こと に なり ます ね 」
「 勇一 ?
── それ は 信子 の ──」
「 子供 です 。
今 十五 歳 で 。 そこ は 色々 と 事情 が あり まして 。 ── ともかく 、 一旦 お 上り に なり ませ ん か 」
「 そう さ せて いただき ましょう 」
小峰 は 、 若い 秘書 らしい 男 の 方 へ 向いて 、
「 お前 は 車 で 待って いろ 」
と 言った 。
「 おい 、 佐々 本 」
田所 が 、 珠美 に 声 を かけた 。
「 お前 、 学校 へ 戻って ろ 。 俺 が 遅く なる と 言 っと いて くれ ん か 」
「 分 り ました 」
珠美 は 、「 お 先 に 失礼 し ます 」
と 頭 を 下げて おいて 歩き 出した 。
── その 後ろ姿 を 見送って いた 小 峰 は 、 田所 の 方 へ 、
「 あの 女の子 は ?
と 訊 いた 。
「 生徒 の 代表 で 、 焼香 に 来た んです 。
佐々 本 珠美 と いい まして 」
「 佐々 本 ……。
そう です か 」
小峰 は 、 何となく 考え 込んで いる 様子 で 肯 く と 、 田所 に ついて 、 棺 の 安置 さ れた 部屋 に 上って 行った 。
一方 、 珠美 は 、 団地 の 外側 を 回って 、 さっき 、 勇一 の いた 茂み の 辺り へ 行って みた が 、 もう どこ に も その 姿 は 見え なかった 。
今 の 話 、 勇一 は 耳 に した だろう か ?
珠美 は 、 ちょっと 肩 を すくめて 、
「 ま 、 いい や 」
と 呟く と 、 さっさと 歩き 出した 。
あんな 奴 の こと なんか 気 に して たって 、 一 文 に も なりゃ し ない 。
放っときゃ いい んだ 。
でも ── どこ で ご飯 を 食べ 、 どこ で 寝て る んだろう ?
珠美 は 、 つい 心配 して いる のだった 。