盾 の 勇者 の 成り 上がり 02 Chapter 08
八 話 飴 と 鞭 「 奴隷 商 ! 」 俺 は 朝一 で 奴隷 商 の テント に 乗り込んで いた 。 「 朝 から どうした と いう のです 勇者 様 。 ハイ 」
「 お前 の 所 の 魔物 紋 が 不良 品 だった ぞ 。 返答 しだい で は 俺 の 危険な 奴隷 と 魔物 が ここ で 暴れる こと に なる 。 そうだ ろ ? 」 「 フィーロ 、 お腹 空いた から 後 で ね 」 「…… いい加減に し ない と お前 を 朝飯 に する ぞ 」
フィーロ に 掛けた 魔物 紋 が どうも 思い通りに 発動 せ ず 、 しかも 外せ ない 。
「 おや ? それ は どういう 事 です かな ? 」 奴隷 商 に 俺 は 朝 の 出来事 を 説明 する 。 あの 後 が 大変だった 。 フィーロ を どうにか 宥 なだめて 人間 の 姿 に さ せて から テント に やってきた 。 ラフタリア に 至って は 、 フィーロ が 変な 事 を し ない か 常時 気 を 張って いて 大変 そうだ 。
「 どうやら フィロリアル ・ クイーン に 普通の 魔物 紋 で は 拘束 を 解かれて しまう ようです 。 ハイ 」
「 と いう と ? 」 「 高位 の 魔物 は 普通の 魔物 紋 で は 縛れ ない のです よ 。 くじ の 景品 である 騎竜 に は 特別な 魔物 紋 を 刻みます 」 「 つまり コイツ に は 普通の 魔物 紋 だ と 効か ない と ? 」 「 ええ 」 奴隷 商 の 奴 、 新たな 事実 に やや 興奮 気味 と なって 手帳 に 何 か を カリカリ と 書いて いる 。
「 で 、 その 特別な 魔物 紋 は 施して くれる の か ? 」 「 いやはや 、 それ は サービス の 適用 外 です 。 ハイ 」
「 なんだ と 」
「 さすが に 安く は ない 費用 が かかります ので 、 サービス に する に は 厳しい ところ です 。 こちら の 被害 も 限界 に 近い です ので 」
これ 以上 の サービス は さすが に 出せ ない と 言う わけ か 。 まあ 、 あれ だけ の 被害 を 出さ せて しまった のだ から しょうがない か ……。
「 幾ら だ ? 」 「 勇者 様 の 将来 に 期待 して 、 大 マケ に まけて 銀貨 二〇〇 枚 で どう でしょう 」 くう う う う …… 高い 。
「 そこ を ──」
「 ちなみに 相場 は 安くて 銀貨 八〇〇 枚 です 。 私 、 勇者 様 に は 期待 して おります ので 嘘 は 吐いて おりません 」 ぐ は ! 俺 の 精神 に 多大な ダメージ が 与えられた 。 敗北 を 認め 、 非常に 遺憾 ながら も 奴隷 商 に 銀貨 二〇〇 枚 を 渡す 。
「…… 嘘 だったら 俺 の 危険な 配下 が 貴 様 を 血 祭り に あげる から な 」
「 承知 して おります と も 」 いつの間にか フィロリアル ・ クイーン の 姿 に なって いる フィーロ 。 その 大きな 翼 を 、 ラフタリア が 手 で 繋 つないで 連れて 来る 。
「 そこ で ジッと して いろ よ 、 フィーロ 」
「 なんで ー ? 」 「 ジッと して いたら 後 で 良い 物 を 食べ させて やる 」 「 ホント ? 」 「 ああ 」 目 を 輝か せた フィーロ は 、 奴隷 商 の 指示 する 場所 で ジッと して いる 。
よし 、 魔法 を 施す なら 今 だ 。 俺 が 奴隷 商 に 目 で 合図 を 送る 。 奴隷 商 も 頷 うなずき 、 顔 の 見え ない ローブ を 着た 部下 を 一二 人 も 呼んで フィーロ を 取り囲む 。 そして なにやら 薬品 を 地面 に 流し 、 フィーロ に 向かって 全員 で 魔法 を 唱え だした 。 やがて 床 が 光り輝き 、 フィーロ を 中心 に 魔法 陣 が 展開 さ れる 。
「 え 、 な 、 な ー に 」
バチバチ と フィーロ は 抵抗 を 試みる が それ も 叶わ ず 、 魔法 陣 が フィーロ を 侵食 する 。
「 い 、 いった ─── い ! やめて ー ! 」 魔物 紋 の 更新 に 痛み を 感じた フィーロ が 暴れ 回り 、 その 度 に バチバチ と 魔法 陣 が 揺らぐ 。 奴隷 商 の 部下 から 驚愕 の 声 が 発せられた 。 「 念 に は 念 を 、 多 めの 人数 で 魔法 拘束 を さ せて おります が …… この 重圧 の 中 で 動ける と は 、 将来 が 末恐ろしい です 。 ハイ 」
そう いや 、 まだ Lv 19 だ もん な 、 これ で 70 と か 行ったら どれ だけ の 強 さ を 見せる の か 。 奴隷 商 の 言葉 に も 頷ける 。
やがて 、 魔法 陣 は フィーロ の 腹部 に 完全に 刻み込ま れ 、 静かに なった 。
「 終わり です 。 ハイ 」
俺 の 視界 に も 前 より も 高度な 指示 を 与えられる らしい 魔物 の アイコン が 表示 されて いる 。 俺 は 迷わ ず 、 俺 の 言う 事 は 絶対 と チェック を 入れた 。
「 は ぁ …… は ぁ ……」
フィーロ は 肩 で 息 を し ながら 俺 の 方 に 歩いて くる 。
「 ご しゅじん さま ひど ー い 。 すごく 痛かった ー 」
俺 は 自分 でも 邪悪に 笑って いる のだろう な と 思い ながら フィーロ に 命令 する 。
「 まずは 人 型 に なれ 」
「 えー 痛かった から や だ ー 。 おいしい もの ちょうだい ! 」 舐 なめた 口調 で 命令 を 拒否 し 、 食べ物 を ねだる フィーロ の 魔物 紋 が 輝く 。 「 え 、 いや ! 何 、 や だ や だ 」
フィーロ は 魔物 紋 に 何 か 魔法 を 飛ばす が 、 今度 は 弾かれて 呪い が 発動 した 。 「 いたい 、 いたい 、 いたい ! 」 フィーロ は 魔物 紋 の 痛み で 転がる 。 「 俺 の 言う 事 を 聞か ない と もっと 痛く なる ぞ 」
「 いたい 、 いたい ! う う ……」
嫌々 ながら 人 型 に 変身 する フィーロ 。 すると 魔物 紋 の 輝き は 収まった 。
「 ふむ …… 今度 は ちゃんと 発動 した な 。 よく やった ぞ 、 奴隷 商 」
「 ええ 、 かなり 強力な 紋様 な ので 、 簡単に は 弄る こと は できません 。 ハイ 」
俺 は 倒れて いる フィーロ の 前 に 出て 告げる 。
「 お前 本体 で 銀貨 一〇〇 枚 、 次に その 魔物 紋 で 二〇〇 枚 。 合計 銀貨 三〇〇 枚 の 損失 だ 。 その分 は 俺 の 指示 に 従って 返して もらう から な 」
「 ご 、 ご しゅじん さま ー 」
フィーロ が よ ろ よ ろ と 俺 に 手 を 伸ばす 。 なんか 純粋 そうな 顔 を して いる 子供 に こんな 事 を 言う の も 良心 が 痛む のだ けど 、 俺 だって ワガママ な 奴 を 野ざらし に して おけ ない 。
「 言う 事 を 聞け 」
「 や 、 や ー 」
「 そう か そう か 、 どうしても 俺 の 言う 事 に 従え ない の なら 、 ここ で あの 怖い おじさん に お前 を 引き取って もらおう 」
「……!?」
フィーロ の 奴 、 やっと 自分 の 立場 が わかった の か 、 恐怖 に 顔 が 歪む 。
奴隷 商 の 奴 、 何 か 微妙に 困った ような 嬉し そうな 表情 で 俺 を 見て いる な ……。
「 幾ら で コイツ を 買って くれる ? 」 「 そう です ねぇ 。 珍しい ので 迷惑 料 込み と して 金貨 三〇 枚 出して も 購入 したい です な 。 重度 の 魔物 紋 を 刻んで いる ので もう 暴れる こと も でき ない でしょう し 、 使い道 に は 事欠か ない か と 。 ハイ 」
奴隷 商 の 奴 、 自分 で 売買 さ れる の が 困る と 言って いた くせ に ここぞとばかり に 値段 を 付けて きた 。 本音 は 知ら ない が 、 こいつ の 手 に 渡れば フィーロ の 一生 は 終わる な 。
それにしても フィーロ の 奴 、 凄く 怯えた 表情 で 俺 を 見上げて いる 。
これ は きつい …… 消えた はずの 俺 の 良心 が 活性 化 して いる 。 だが 、 フィーロ の 態度 次第 で は 本当に そういう 未来 を 選ば なければ なら ない 。
俺 は 優しい お 兄ちゃん でも なければ 、 ペット を 溺愛 する 飼い主 で も ない 。
「 だ 、 そうだ 。 今度 は お前 が 暴れて も 俺 は 迎え に 来 ない ぞ …… に が ー い 薬 を 飲ま されて 、 色々 体 を 弄 繰り 回さ れた 挙句 …… 死んじゃ うんだろう なぁ ? 」 「 や 、 や ────! 」 フィーロ は 大きな 声 で 拒否 する 。 「 ご しゅじん さま ーフィーロ を 嫌いに なら ないで ー ! 」 俺 の 足 に 縋って 懇願 する フィーロ 。 くっ! これ は 厳しい ……。
「 俺 の 言う 事 を 素直に 聞く なら 嫌いに なら ない 。 これ から は ちゃんと 聞く んだ ぞ 」
「 う 、 うん ! 」 「 よし よし 、 じゃあ 宿屋 で 寝る とき は 絶対 に 本当の 姿 に なる な 。 これ が 最初の 約束 だ 」
「 うん ! 」 満面 の 笑み を 浮かべる フィーロ に 俺 の 数 少ない 良心 が 疼く 。 と 、 フィーロ から 視線 を 逸ら す と 、 奴隷 商 が これ でも か と いう ほど 、 楽しげな 笑み を 浮かべて いる 。
「 あっぱれな ほど の 外 道っぷり に 私 、 ゾクゾク して います 。 アナタ こそ 伝説 の 盾 の 勇者 です ! 」 賞 賛 の 観点 が 間違って いる 気 が する が …… 文句 を 言う の も どう か なぁ 。 「 ナオフミ 様 …… さすが に あんまりで は ……」
「 コイツ は こう で も し ない と 言う 事 聞か ないだ ろ 。 お前 だって 最初 は そう だったろう が 」
俺 の 返答 に ラフタリア も 頷く 。
「 そう いえば そう でした ね 」
「 ワガママ は 許せる ところ と 許しちゃ いけない ところ が ある んだ 」
主に 俺 の 本意 で 決まる と は あえて 言わ ない 。
「 飴 と 鞭 です ね 、 わかります 。 ハイ 」
「 奴隷 商 、 貴 様 に は 言って いない 」 しかも 勝手に 俺 を 理解 する な 。
「 色々 迷惑 を 掛けた な 」
「 そう 思う のでしたら 是非 扱い やすい よう 、 私 共 が 用意 した フィロリアル の 育成 を ──」
「 さて 、 今日 は まだ 行く 所 が ある んだ 。 行か せて もらおう 」
「 極力 私 共 の ペース に 飲ま れ ない ように して いる 勇者 様 の 意志 の 強 さ に 尊敬 の 念 を 抱きます 」 こんな 調子 で 話 を 終えた 俺 達 は テント を 後 に した 。