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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第十章 新たなる序章 (2)

第 十 章 新たなる 序章 (2)

一〇 年 前 、 彼ら ふた り から 美しく 優しい アンネローゼ を 強奪 した 男 が 死んだ のだ 。 すぎ去った 歳月 が 回想 の 光 を 透過 して 、 めくる めく 輝き を 放ち つつ 彼ら の 周囲 を 乱舞 する ようだった ……。

「 閣下 」

冷静 すぎる 声 が 、 ラインハルト を いっきょに 現実 の 岸 に ひきあげた 。 確認 する まで も ない 、 オーベルシュタイン だ 。

「 皇帝 ﹅﹅ は 後継 者 を さだめ ぬ まま 死に ました ﹅﹅﹅﹅﹅」

公然と 敬語 を はぶいた その 言い かた に 、 ラインハルト と キルヒアイス を のぞく 他 の 諸 将 が 一瞬 、 愕然と 息 を のんだ 。

「 なに を 驚く ? 」 半 白 の 頭髪 の 参謀 は 、 義 眼 を 無機 的に 光らせて 一同 を 見わたした 。 「 私 が 忠誠 を 誓う の は 、 ローエングラム 帝国 元帥 閣下 にたいして のみ だ 。 たとえ 皇帝 であろう と 敬語 など もちいる に 値せ ぬ 」

言いはなって 、 ラインハルト に むきなおる 。

「 閣下 、 皇帝 は 後継 者 を さだめ ぬ まま 死に ました 。 と いう こと は 、 皇帝 の 三 人 の 孫 を めぐって 、 帝 位 継承 の 抗争 が 生じる こと は あきらかです 。 どのように さだまろう と 、 それ は 一 時 の こと 。 遅かれ早かれ 、 血 を 見 ず に は すみます まい 」 「…… 卿 けい の 言 は 正しい 」

するどく 苛烈 な 野心 家 の 表情 で 、 若い 帝国 元帥 は うなずいて み せる 。

「 三 者 の うち 、 誰 に つく か で 、 私 の 運命 も 決まる と いう わけだ な 。 で 、 私 に 握手 の 手 を さしのべて くる の は 三 人 の 孫 の 後 背 に ひかえた 、 どの 男 だ と 思う ? 」 「 おそらく リヒテンラーデ 侯 で ありましょう 。 他の 二 者 に は 固有の 武力 が あります が 、 リヒテンラーデ 侯 に は それ が ありません 。 閣下 の 武力 を 欲する や 切 せつである はず 」

「 なるほど 」

キルヒアイス に しめす もの と は ことなる 種類 の 笑い を 、 ラインハルト は その 美貌 に ひらめか せた 。

「 では 、 せいぜい 高く 売りつけて やる か 」

…… 皇帝 の 急死 に よって 、 ローエングラム 伯 ラインハルト の 地位 は すくなからず 動揺 する もの と 一般 に は 思わ れた 。

ところが 結果 は 逆に なった 。 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 の 手 に より 、 五 歳 の 皇孫 エルウィン ・ ヨーゼフ が 、 次代 の 皇帝 と なった から である 。

この 幼児 は 先 帝 フリードリヒ 四 世 の 直系 であった から 、 即位 する こと じたい に 不思議 は なかった 。 ただ 、 あまりに 幼少 であり 、 なにより も 有力な 門 閥 貴族 の 背景 が ない の が 、 不利だ と 思われて いた 。 こういう 場合 、 ブラウンシュヴァイク 公 夫妻 の 娘 、 一六 歳 の エリザベート か 、 リッテンハイム 侯 夫妻 の 娘 、 一四 歳 の サビーネ が 、 父親 の 家 門 と 権勢 を 背景 に 女帝 と なって も 、 おかしく は ない ところ である 。 いく つ か の 先例 も ある 。 そうなれば 、 若 すぎる 女帝 を 父親 が 摂政 せっしょう と して 補佐 する と いう こと に なる であろう 。

ブラウンシュヴァイク 公 に せよ 、 リッテンハイム 侯 に せよ 、 自信 も 野望 も あった から 、 その 事態 を 予想 し 、 その 予想 を 実現 さ せる ため 、 非公式の 、 しかし 活発な 宮廷 王 作 に のりだした 。

とくに 、 若い 独身 の 子弟 を 有する 大 貴族 が その 標的 と なった 。 もし わが 娘 が 帝 位 に 即 く こと を 応援 して いただける なら 、 卿 の ご 子息 を 新 女帝 の 夫 に 迎える こと を 考えよう ――。

口 約束 が 厳守 さ れる もの なら 、 皇帝 の 孫娘 ふた り は 、 何 十 人 も の 夫 を もた なくて は なら ない ところ だった 。 もし 少女 たち に 恋人 が いた に せよ 、 彼女 ら の 意思 が 無視 さ れる こと も 明白であった 。

だが 、 国 璽 こくじ と 詔 勅 しょうち ょく を つかさどる 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 は 、 強大な 勢力 を 有する 外 戚 が いせき に 帝国 を 私物 化 さ せる 気 は まったく なかった 。

彼 は 帝国 の 前途 を 憂慮 して おり 、 また それ 以上 に 自己 の 地位 と 権力 を 愛して いた 。 彼 は 故 フリードリヒ 四 世 の 嫡孫 エルウィン ・ ヨーゼフ を 擁立 する こと を 決意 した が 、 反対 する 人々 の 強大な 勢力 を 考える と 、 自己 の 陣営 を 強化 する 必要に 迫ら れた 。 番犬 は 強く 、 しかも 御し やすく なければ なら ない 。

熟慮 の すえ 、 リヒテンラーデ 侯 は ひと り の 人物 を えらんだ 。 御し やすい と は 言いがたい 。 むしろ 危険な 人物 である 。 しかし 強 さ に おいて は 異論 の でる 余地 が ない ……。

こうして ローエングラム 伯 ラインハルト は 、 公爵 と なった リヒテンラーデ に よって 位 階 を 侯爵 に すすめ 、 帝国 宇宙 艦隊 司令 長官 の 座 に 着いた のである 。

エルウィン ・ ヨーゼフ の 即位 が 公表 さ れる と 、 ブラウンシュヴァイク 公 を はじめ と する 門 閥 貴族 たち は まず 驚愕 し 、 ついで 失望 し 、 さらに 怒りくるった 。

しかし 、 リヒテンラーデ 公 ﹅ と ローエングラム 侯 ﹅ の 、 たがいに 利己 的な 動機 から かわさ れた 握手 に よって 誕生 した 枢軸 すうじく は 、 意外に 強固な もの であった 。 一方 は 他方 の 武力 と 平民 階級 の 人気 と を 必要 と し 、 一方 は 他方 の 国政 に おける 権限 と 宮廷 内 の 影響 力 と を 欲し 、 そして ふた り と も 新 皇帝 の 権威 を 最大 限 に 利用 する こと で 、 自己 の 地位 と 権力 を 確立 しなければ なら なかった から である 。 エルウィン ・ ヨーゼフ 二 世 の 即位 式典 が 挙行 さ れた とき 、 乳母 の 膝 に 抱か れた 幼い 皇帝 に 重臣 代表 二 名 が うやうやしく 忠誠 を 誓った 。 文 官 代表 は 摂政 職 に 就任 した リヒテンラーデ 公 、 武官 代表 は ラインハルト である 。 集った 貴族 、 官僚 、 軍人 たち は 、 両者 が 新 体制 の 支柱 である こと を 、 いやいや ながら も 認め ざる を え なかった 。

この 新 体制 から 疎外 さ れた 門 閥 貴族 たち は 、 文字どおり 歯ぎしり した 。 ブラウンシュヴァイク 公 と リッテンハイム 侯 は 、 新 体制 にたいする 憎悪 を きずな と して むすばれる こと に なった 。 リヒテンラーデ 公 は 先 帝 フリードリヒ 四 世 の 死 と ともに 役割 を 終え 、 国政 から 退く べき 老 廃 の 人物 である 。 いっぽう 、 ローエングラム 侯 ﹅ と は 何者 か 。 かがやかしい 武 勲 の 主 と は いえ 、 貴族 と は 名 ばかり の 貧 家 に 生まれ 、 姉 にたいする 皇帝 の 寵愛 を 利用 して 栄達 した 下 克 上げ こくじょう の 孺子 こぞう に すぎ ないで は ない か 。 このような や からに 国政 を 壟断 ろう だん さ せて おいて よい の か …… 門 閥 貴族 たち は 私 憤 を 公 憤 に 転化 さ せ 、 新 体制 の 顚覆 てんぷく を のぞんだ 。

このように 共通 した 、 しかも 強大な 敵 が いる かぎり 、 リヒテンラーデ = ローエングラム 枢軸 は 金城 鉄壁 の 強固 さ を 発揮 する であろう し 、 そう なら ざる を え ない 。

ローエングラム 侯 と なった ラインハルト は 、 ジークフリード ・ キルヒアイス を いっきょに 上級 大将 に 昇進 さ せ 、 宇宙 艦隊 副 司令 長官 に 任命 した 。

この 人事 に は リヒテンラーデ 公 も 積極 的に 賛成 した 。 キルヒアイス に 恩 を 売る 、 と いう 考え を 、 彼 は いまだに 捨てて い なかった のだ 。

危惧 を いだいた の は オーベルシュタイン である 。 彼 は 中将 に 昇進 し 、 宇宙 艦隊 総 参謀 長 と ローエングラム 元帥 府 事務 長 を 兼任 する こと に なった が 、 一 日 、 ラインハルト に 面会 して 苦言 を 呈した 。

「 幼友達 と いう の は けっこう 、 有能な 副将 も よろしい でしょう 。 しかし 、 その 両者 が 同一 人 と いう の は 危険です 。 そもそも 副 司令 長官 を おく 必要 は ない ので 、 キルヒアイス 提督 を 他者 と 同列 に おく べき では ありません か 」 「 で すぎる な 、 オーベルシュタイン 。 もう 決めた こと だ 」

若い 帝国 宇宙 艦隊 司令 長官 は 、 不機嫌 そうな 一言 で 、 義 眼 の 参謀 の 口 を 封じた 。 彼 は オーベルシュタイン の 機 謀 きぼう を かって は いて も 、 心 を 分かち あえる 友 と は 思って いない 。 彼 の 分身 にたいして 讒訴 ざん そめ いた こと を 言わ れる と 、 愉快な 気分 に は なれ なかった 。 皇帝 の 死後 、 グリューネワルト 伯爵 夫人 アンネローゼ は 宮廷 から 退 がって 、 ラインハルト が 姉 と 彼 自身 の ため に 用意 した シュワルツェン の 館 に うつり 住んだ 。 姉 を 迎えた ラインハルト は 、 少年 の ように 気おって 言った 。

「 もう 姉 上 に 苦労 は さ せません 。 これ から は どう か 幸福に なって ください 」

ラインハルト に して は 平凡な 台詞 だった が 、 真情 が こもって いた 。

しかし 彼 に は 、 非情な 野心 家 と いう 、 姉 に は 見せ たく ない べつの 一面 が ある 。

彼 は 、 ブラウンシュヴァイク 公 と リッテンハイム 侯 が 秘密の 同盟 を むすんだ こと を 察知 して おり 、 内心 それ を 歓迎 して いた 。

暴発 する が よい 。 新 帝 にたいする 反逆 者 と して 彼ら を 処 断 し 、 門 閥 貴族 の 勢力 を 一掃 して やる 。 フリードリヒ 四 世 の 女婿 じょせい である 大 貴族 両 名 を 斃 せば 、 余人 は ラインハルト の 覇権 に 屈せ ざる を え ない 。 列 侯 が 土 に ひざまずいて 服従 を 誓う だろう 。 その とき に は 、 おのずと リヒテンラーデ 公 と の 盟約 は 破れる こと に なる 。 古 狸 ふる だ ぬき め 、 せいぜい いま の うち に 位 くらい 人 臣 を きわめた わが身 を 祝って いる こと だ 。

いっぽう 、 リヒテンラーデ 公 も 、 ラインハルト と の 枢軸 関係 を 永続 さ せよう など と は 考えて いない 。 ブラウンシュヴァイク 公 や リッテンハイム 侯 が 暴発 する の を 期待 する 点 で は 、 彼 は ラインハルト と 同様であった 。 ラインハルト の 武力 を もって 彼ら を 鎮圧 する 。 そうなれば 、 もはや ラインハルト の ような 危険 人物 に 用 は ない のだ 。

ジークフリード ・ キルヒアイス は 、 ラインハルト の 意 を うけ 、 ブラウンシュヴァイク 公 と リッテンハイム 侯 を 首 魁 しゅ かい と する 門 閥 貴族 連合 の 武力 叛乱 を 想定 し 、 それ にたいする 戦争 準備 を 着々 と すすめて いた 。 彼 は 、 自分 の 背中 に 注が れる 、 オーベルシュタイン の 冷たく 乾いた 視線 を 知っていた が 、 ラインハルト や アンネローゼ と の 仲 に ひび を いれられる と も 思わ れ ず 、 後ろ暗い 点 も ない ので 、 必要 以上 の 用心 は し ない こと に した 。 任務 に 励む いっぽう 、 以前 と は 比較 に なら ぬ ほど アンネローゼ と 会う 機会 が ふえた キルヒアイス は 、 充実 した 幸福な 日々 を 送る こと に なった 。 このような 日々 が いつまでも つづけば よい ……。

Ⅲ 帝国 と 同盟 、 両方 の 陣営 が 、 ようやく あらたな 体制 を ととのえ 、 あえぎ ながら も 未来 へ の 階段 を のぼり かけた ころ 、 フェザーン 自治 領 ラント で は 、 自治 領主 ランデスヘルルビンスキー が 、 私 邸 の 奥まった 一室 に すわって いた 。 窓 の ない その 部屋 は 厚い 鉛 の 壁 に かこまれて 密閉 されて おり 、 空間 そのもの が 極 性 化 されて いる 。 操作 卓 コンソール の ピンク の スイッチ を いれる と 、 通信 装置 が 作動 した 。 それ を 肉眼 で 識別 する の は 困難だ 。 なぜなら 、 部屋 そのもの が 通信 装置 であり 、 数 千 光年 の 宇宙 空間 を こえ 、 ルビンスキー の 思考 波 を 超 光速 通信 FTL の 特殊な 波 調 に 変化 さ せて 送りだす ように なって いる から である 。

「 私 です 。 お 応え ください 」

極秘 の 定期 通信 を 明確な 言語 の かたち で 思考 する 。

「 私 と は どの 私 だ ? 」 宇宙 の 彼方 から 送られて きた 返答 は 、 このうえ なく 尊大だった 。 「 フェザーン の 自治 領主 ランデスヘル 、 ルビンスキー です 。 総 大 主 教 グランド ・ ビショップ 猊下 げ いかに は ご機嫌 うるわしく あら れましょう か 」 ルビンスキー と は 思え ない ほど の 腰 の 低 さ である 。

「 機嫌 の よい 理由 は ある まい …… わが 地球 は いまだ 正当な 地位 を 回復 して は おら ぬ 。 地球 が すぐ る 昔 の ように 、 すべて の 人類 に 崇拝 さ れる 日 まで 、 わが 心 は 晴れ ぬ 」

胸 郭 全体 を 使った 大きな 吐息 が 、 思考 の なか に 感じ られた 。

地球 。

三〇〇〇 光年 の 距離 を おいて 虚 空 に 浮かぶ 惑星 の 姿 が 、 ルビンスキー の 脳裏 に 鮮烈な 映像 と なって 浮かびあがった 。

人類 に よって 収 奪 と 破壊 の 徹底 した 対象 と なった すえ に 、 見捨て られた 辺境 の 惑星 。 老衰 と 荒廃 、 疲弊 と 貧困 。

第 十 章 新たなる 序章 (2) だい|じゅう|しょう|あらたなる|じょしょう

一〇 年 前 、 彼ら ふた り から 美しく 優しい アンネローゼ を 強奪 した 男 が 死んだ のだ 。 ひと|とし|ぜん|かれら||||うつくしく|やさしい|||ごうだつ||おとこ||しんだ| すぎ去った 歳月 が 回想 の 光 を 透過 して 、 めくる めく 輝き を 放ち つつ 彼ら の 周囲 を 乱舞 する ようだった ……。 すぎさった|さいげつ||かいそう||ひかり||とうか||||かがやき||はなち||かれら||しゅうい||らんぶ||

「 閣下 」 かっか

冷静 すぎる 声 が 、 ラインハルト を いっきょに 現実 の 岸 に ひきあげた 。 れいせい||こえ|||||げんじつ||きし|| 確認 する まで も ない 、 オーベルシュタイン だ 。 かくにん||||||

「 皇帝 ﹅﹅ は 後継 者 を さだめ ぬ まま 死に ました ﹅﹅﹅﹅﹅」 こうてい||こうけい|もの|||||しに|

公然と 敬語 を はぶいた その 言い かた に 、 ラインハルト と キルヒアイス を のぞく 他 の 諸 将 が 一瞬 、 愕然と 息 を のんだ 。 こうぜんと|けいご||||いい||||||||た||しょ|すすむ||いっしゅん|がくぜんと|いき||

「 なに を 驚く ? ||おどろく 」 半 白 の 頭髪 の 参謀 は 、 義 眼 を 無機 的に 光らせて 一同 を 見わたした 。 はん|しろ||とうはつ||さんぼう||ただし|がん||むき|てきに|ひからせて|いちどう||みわたした 「 私 が 忠誠 を 誓う の は 、 ローエングラム 帝国 元帥 閣下 にたいして のみ だ 。 わたくし||ちゅうせい||ちかう||||ていこく|げんすい|かっか||| たとえ 皇帝 であろう と 敬語 など もちいる に 値せ ぬ 」 |こうてい|||けいご||||あたいせ|

言いはなって 、 ラインハルト に むきなおる 。 いいはなって|||

「 閣下 、 皇帝 は 後継 者 を さだめ ぬ まま 死に ました 。 かっか|こうてい||こうけい|もの|||||しに| と いう こと は 、 皇帝 の 三 人 の 孫 を めぐって 、 帝 位 継承 の 抗争 が 生じる こと は あきらかです 。 ||||こうてい||みっ|じん||まご|||みかど|くらい|けいしょう||こうそう||しょうじる|||あきらか です どのように さだまろう と 、 それ は 一 時 の こと 。 どのよう に|||||ひと|じ|| 遅かれ早かれ 、 血 を 見 ず に は すみます まい 」 おそかれはやかれ|ち||み||||| 「…… 卿 けい の 言 は 正しい 」 きょう|||げん||ただしい

するどく 苛烈 な 野心 家 の 表情 で 、 若い 帝国 元帥 は うなずいて み せる 。 |かれつ||やしん|いえ||ひょうじょう||わかい|ていこく|げんすい||||

「 三 者 の うち 、 誰 に つく か で 、 私 の 運命 も 決まる と いう わけだ な 。 みっ|もの|||だれ|||||わたくし||うんめい||きまる|||| で 、 私 に 握手 の 手 を さしのべて くる の は 三 人 の 孫 の 後 背 に ひかえた 、 どの 男 だ と 思う ? |わたくし||あくしゅ||て||||||みっ|じん||まご||あと|せ||||おとこ|||おもう 」 「 おそらく リヒテンラーデ 侯 で ありましょう 。 ||こう|| 他の 二 者 に は 固有の 武力 が あります が 、 リヒテンラーデ 侯 に は それ が ありません 。 たの|ふた|もの|||こゆうの|ぶりょく|||||こう||||| 閣下 の 武力 を 欲する や 切 せつである はず 」 かっか||ぶりょく||ほっする||せつ||

「 なるほど 」

キルヒアイス に しめす もの と は ことなる 種類 の 笑い を 、 ラインハルト は その 美貌 に ひらめか せた 。 |||||||しゅるい||わらい|||||びぼう|||

「 では 、 せいぜい 高く 売りつけて やる か 」 ||たかく|うりつけて||

…… 皇帝 の 急死 に よって 、 ローエングラム 伯 ラインハルト の 地位 は すくなからず 動揺 する もの と 一般 に は 思わ れた 。 こうてい||きゅうし||||はく|||ちい|||どうよう||||いっぱん|||おもわ|

ところが 結果 は 逆に なった 。 |けっか||ぎゃくに| 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 の 手 に より 、 五 歳 の 皇孫 エルウィン ・ ヨーゼフ が 、 次代 の 皇帝 と なった から である 。 こくむ|しよう|しょ||こう||て|||いつ|さい||こうまご||||じだい||こうてい||||

この 幼児 は 先 帝 フリードリヒ 四 世 の 直系 であった から 、 即位 する こと じたい に 不思議 は なかった 。 |ようじ||さき|みかど||よっ|よ||ちょっけい|||そくい|||||ふしぎ|| ただ 、 あまりに 幼少 であり 、 なにより も 有力な 門 閥 貴族 の 背景 が ない の が 、 不利だ と 思われて いた 。 ||ようしょう||||ゆうりょくな|もん|ばつ|きぞく||はいけい|||||ふりだ||おもわれて| こういう 場合 、 ブラウンシュヴァイク 公 夫妻 の 娘 、 一六 歳 の エリザベート か 、 リッテンハイム 侯 夫妻 の 娘 、 一四 歳 の サビーネ が 、 父親 の 家 門 と 権勢 を 背景 に 女帝 と なって も 、 おかしく は ない ところ である 。 |ばあい||おおやけ|ふさい||むすめ|いちろく|さい|||||こう|ふさい||むすめ|いちし|さい||||ちちおや||いえ|もん||けんせい||はいけい||じょてい|||||||| いく つ か の 先例 も ある 。 ||||せんれい|| そうなれば 、 若 すぎる 女帝 を 父親 が 摂政 せっしょう と して 補佐 する と いう こと に なる であろう 。 そう なれば|わか||じょてい||ちちおや||せっしょう||||ほさ|||||||

ブラウンシュヴァイク 公 に せよ 、 リッテンハイム 侯 に せよ 、 自信 も 野望 も あった から 、 その 事態 を 予想 し 、 その 予想 を 実現 さ せる ため 、 非公式の 、 しかし 活発な 宮廷 王 作 に のりだした 。 |おおやけ||||こう|||じしん||やぼう|||||じたい||よそう|||よそう||じつげん||||ひこうしきの||かっぱつな|きゅうてい|おう|さく||

とくに 、 若い 独身 の 子弟 を 有する 大 貴族 が その 標的 と なった 。 |わかい|どくしん||してい||ゆうする|だい|きぞく|||ひょうてき|| もし わが 娘 が 帝 位 に 即 く こと を 応援 して いただける なら 、 卿 の ご 子息 を 新 女帝 の 夫 に 迎える こと を 考えよう ――。 ||むすめ||みかど|くらい||そく||||おうえん||||きょう|||しそく||しん|じょてい||おっと||むかえる|||かんがえよう

口 約束 が 厳守 さ れる もの なら 、 皇帝 の 孫娘 ふた り は 、 何 十 人 も の 夫 を もた なくて は なら ない ところ だった 。 くち|やくそく||げんしゅ|||||こうてい||まごむすめ||||なん|じゅう|じん|||おっと|||||||| もし 少女 たち に 恋人 が いた に せよ 、 彼女 ら の 意思 が 無視 さ れる こと も 明白であった 。 |しょうじょ|||こいびと|||||かのじょ|||いし||むし|||||めいはくであった

だが 、 国 璽 こくじ と 詔 勅 しょうち ょく を つかさどる 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 は 、 強大な 勢力 を 有する 外 戚 が いせき に 帝国 を 私物 化 さ せる 気 は まったく なかった 。 |くに|じ|||みことのり|ちょく|||||こくむ|しよう|しょ||こう||きょうだいな|せいりょく||ゆうする|がい|せき||||ていこく||しぶつ|か|||き|||

彼 は 帝国 の 前途 を 憂慮 して おり 、 また それ 以上 に 自己 の 地位 と 権力 を 愛して いた 。 かれ||ていこく||ぜんと||ゆうりょ|||||いじょう||じこ||ちい||けんりょく||あいして| 彼 は 故 フリードリヒ 四 世 の 嫡孫 エルウィン ・ ヨーゼフ を 擁立 する こと を 決意 した が 、 反対 する 人々 の 強大な 勢力 を 考える と 、 自己 の 陣営 を 強化 する 必要に 迫ら れた 。 かれ||こ||よっ|よ||ちゃくまご||||ようりつ||||けつい|||はんたい||ひとびと||きょうだいな|せいりょく||かんがえる||じこ||じんえい||きょうか||ひつよう に|せまら| 番犬 は 強く 、 しかも 御し やすく なければ なら ない 。 ばんけん||つよく||ぎょし||||

熟慮 の すえ 、 リヒテンラーデ 侯 は ひと り の 人物 を えらんだ 。 じゅくりょ||||こう|||||じんぶつ|| 御し やすい と は 言いがたい 。 ぎょし||||いいがたい むしろ 危険な 人物 である 。 |きけんな|じんぶつ| しかし 強 さ に おいて は 異論 の でる 余地 が ない ……。 |つよ|||||いろん|||よち||

こうして ローエングラム 伯 ラインハルト は 、 公爵 と なった リヒテンラーデ に よって 位 階 を 侯爵 に すすめ 、 帝国 宇宙 艦隊 司令 長官 の 座 に 着いた のである 。 ||はく|||こうしゃく||||||くらい|かい||こうしゃく|||ていこく|うちゅう|かんたい|しれい|ちょうかん||ざ||ついた|

エルウィン ・ ヨーゼフ の 即位 が 公表 さ れる と 、 ブラウンシュヴァイク 公 を はじめ と する 門 閥 貴族 たち は まず 驚愕 し 、 ついで 失望 し 、 さらに 怒りくるった 。 |||そくい||こうひょう|||||おおやけ|||||もん|ばつ|きぞく||||きょうがく|||しつぼう|||いかりくるった

しかし 、 リヒテンラーデ 公 ﹅ と ローエングラム 侯 ﹅ の 、 たがいに 利己 的な 動機 から かわさ れた 握手 に よって 誕生 した 枢軸 すうじく は 、 意外に 強固な もの であった 。 ||おおやけ|||こう|||りこ|てきな|どうき||||あくしゅ|||たんじょう||すうじく|||いがいに|きょうこな|| 一方 は 他方 の 武力 と 平民 階級 の 人気 と を 必要 と し 、 一方 は 他方 の 国政 に おける 権限 と 宮廷 内 の 影響 力 と を 欲し 、 そして ふた り と も 新 皇帝 の 権威 を 最大 限 に 利用 する こと で 、 自己 の 地位 と 権力 を 確立 しなければ なら なかった から である 。 いっぽう||たほう||ぶりょく||へいみん|かいきゅう||にんき|||ひつよう|||いっぽう||たほう||こくせい|||けんげん||きゅうてい|うち||えいきょう|ちから|||ほし||||||しん|こうてい||けんい||さいだい|げん||りよう||||じこ||ちい||けんりょく||かくりつ||||| エルウィン ・ ヨーゼフ 二 世 の 即位 式典 が 挙行 さ れた とき 、 乳母 の 膝 に 抱か れた 幼い 皇帝 に 重臣 代表 二 名 が うやうやしく 忠誠 を 誓った 。 ||ふた|よ||そくい|しきてん||きょこう||||うば||ひざ||いだか||おさない|こうてい||じゅうしん|だいひょう|ふた|な|||ちゅうせい||ちかった 文 官 代表 は 摂政 職 に 就任 した リヒテンラーデ 公 、 武官 代表 は ラインハルト である 。 ぶん|かん|だいひょう||せっしょう|しょく||しゅうにん|||おおやけ|ぶかん|だいひょう||| 集った 貴族 、 官僚 、 軍人 たち は 、 両者 が 新 体制 の 支柱 である こと を 、 いやいや ながら も 認め ざる を え なかった 。 つどった|きぞく|かんりょう|ぐんじん|||りょうしゃ||しん|たいせい||しちゅう|||||||みとめ||||

この 新 体制 から 疎外 さ れた 門 閥 貴族 たち は 、 文字どおり 歯ぎしり した 。 |しん|たいせい||そがい|||もん|ばつ|きぞく|||もじどおり|はぎしり| ブラウンシュヴァイク 公 と リッテンハイム 侯 は 、 新 体制 にたいする 憎悪 を きずな と して むすばれる こと に なった 。 |おおやけ|||こう||しん|たいせい||ぞうお|||||||| リヒテンラーデ 公 は 先 帝 フリードリヒ 四 世 の 死 と ともに 役割 を 終え 、 国政 から 退く べき 老 廃 の 人物 である 。 |おおやけ||さき|みかど||よっ|よ||し|||やくわり||おえ|こくせい||しりぞく||ろう|はい||じんぶつ| いっぽう 、 ローエングラム 侯 ﹅ と は 何者 か 。 ||こう|||なにもの| かがやかしい 武 勲 の 主 と は いえ 、 貴族 と は 名 ばかり の 貧 家 に 生まれ 、 姉 にたいする 皇帝 の 寵愛 を 利用 して 栄達 した 下 克 上げ こくじょう の 孺子 こぞう に すぎ ないで は ない か 。 |ぶ|いさお||おも||||きぞく|||な|||ひん|いえ||うまれ|あね||こうてい||ちょうあい||りよう||えいたつ||した|かつ|あげ|||じゅし||||||| このような や からに 国政 を 壟断 ろう だん さ せて おいて よい の か …… 門 閥 貴族 たち は 私 憤 を 公 憤 に 転化 さ せ 、 新 体制 の 顚覆 てんぷく を のぞんだ 。 |||こくせい||ろうだん|||||||||もん|ばつ|きぞく|||わたくし|いきどお||おおやけ|いきどお||てんか|||しん|たいせい||顚ふく|||

このように 共通 した 、 しかも 強大な 敵 が いる かぎり 、 リヒテンラーデ = ローエングラム 枢軸 は 金城 鉄壁 の 強固 さ を 発揮 する であろう し 、 そう なら ざる を え ない 。 このよう に|きょうつう|||きょうだいな|てき||||||すうじく||かなぎ|てっぺき||きょうこ|||はっき|||||||||

ローエングラム 侯 と なった ラインハルト は 、 ジークフリード ・ キルヒアイス を いっきょに 上級 大将 に 昇進 さ せ 、 宇宙 艦隊 副 司令 長官 に 任命 した 。 |こう|||||||||じょうきゅう|たいしょう||しょうしん|||うちゅう|かんたい|ふく|しれい|ちょうかん||にんめい|

この 人事 に は リヒテンラーデ 公 も 積極 的に 賛成 した 。 |じんじ||||おおやけ||せっきょく|てきに|さんせい| キルヒアイス に 恩 を 売る 、 と いう 考え を 、 彼 は いまだに 捨てて い なかった のだ 。 ||おん||うる|||かんがえ||かれ|||すてて|||

危惧 を いだいた の は オーベルシュタイン である 。 きぐ|||||| 彼 は 中将 に 昇進 し 、 宇宙 艦隊 総 参謀 長 と ローエングラム 元帥 府 事務 長 を 兼任 する こと に なった が 、 一 日 、 ラインハルト に 面会 して 苦言 を 呈した 。 かれ||ちゅうじょう||しょうしん||うちゅう|かんたい|そう|さんぼう|ちょう|||げんすい|ふ|じむ|ちょう||けんにん||||||ひと|ひ|||めんかい||くげん||ていした

「 幼友達 と いう の は けっこう 、 有能な 副将 も よろしい でしょう 。 おさなともだち||||||ゆうのうな|ふくしょう||| しかし 、 その 両者 が 同一 人 と いう の は 危険です 。 ||りょうしゃ||どういつ|じん|||||きけん です そもそも 副 司令 長官 を おく 必要 は ない ので 、 キルヒアイス 提督 を 他者 と 同列 に おく べき では ありません か 」 |ふく|しれい|ちょうかん|||ひつよう|||||ていとく||たしゃ||どうれつ|||||| 「 で すぎる な 、 オーベルシュタイン 。 もう 決めた こと だ 」 |きめた||

若い 帝国 宇宙 艦隊 司令 長官 は 、 不機嫌 そうな 一言 で 、 義 眼 の 参謀 の 口 を 封じた 。 わかい|ていこく|うちゅう|かんたい|しれい|ちょうかん||ふきげん|そう な|いちげん||ただし|がん||さんぼう||くち||ほうじた 彼 は オーベルシュタイン の 機 謀 きぼう を かって は いて も 、 心 を 分かち あえる 友 と は 思って いない 。 かれ||||き|はかりごと|||||||こころ||わかち||とも|||おもって| 彼 の 分身 にたいして 讒訴 ざん そめ いた こと を 言わ れる と 、 愉快な 気分 に は なれ なかった 。 かれ||ぶんしん||ざんそ||||||いわ|||ゆかいな|きぶん|||| 皇帝 の 死後 、 グリューネワルト 伯爵 夫人 アンネローゼ は 宮廷 から 退 がって 、 ラインハルト が 姉 と 彼 自身 の ため に 用意 した シュワルツェン の 館 に うつり 住んだ 。 こうてい||しご||はくしゃく|ふじん|||きゅうてい||しりぞ||||あね||かれ|じしん||||ようい||||かん|||すんだ 姉 を 迎えた ラインハルト は 、 少年 の ように 気おって 言った 。 あね||むかえた|||しょうねん||よう に|きおって|いった

「 もう 姉 上 に 苦労 は さ せません 。 |あね|うえ||くろう|||せま せ ん これ から は どう か 幸福に なって ください 」 |||||こうふくに||

ラインハルト に して は 平凡な 台詞 だった が 、 真情 が こもって いた 。 ||||へいぼんな|せりふ|||しんじょう|||

しかし 彼 に は 、 非情な 野心 家 と いう 、 姉 に は 見せ たく ない べつの 一面 が ある 。 |かれ|||ひじょうな|やしん|いえ|||あね|||みせ||||いちめん||

彼 は 、 ブラウンシュヴァイク 公 と リッテンハイム 侯 が 秘密の 同盟 を むすんだ こと を 察知 して おり 、 内心 それ を 歓迎 して いた 。 かれ|||おおやけ|||こう||ひみつの|どうめい|||||さっち|||ないしん|||かんげい||

暴発 する が よい 。 ぼうはつ||| 新 帝 にたいする 反逆 者 と して 彼ら を 処 断 し 、 門 閥 貴族 の 勢力 を 一掃 して やる 。 しん|みかど||はんぎゃく|もの|||かれら||しょ|だん||もん|ばつ|きぞく||せいりょく||いっそう|| フリードリヒ 四 世 の 女婿 じょせい である 大 貴族 両 名 を 斃 せば 、 余人 は ラインハルト の 覇権 に 屈せ ざる を え ない 。 |よっ|よ||じょせい|||だい|きぞく|りょう|な||へい||よじん||||はけん||くっせ|||| 列 侯 が 土 に ひざまずいて 服従 を 誓う だろう 。 れつ|こう||つち|||ふくじゅう||ちかう| その とき に は 、 おのずと リヒテンラーデ 公 と の 盟約 は 破れる こと に なる 。 ||||||おおやけ|||めいやく||やぶれる||| 古 狸 ふる だ ぬき め 、 せいぜい いま の うち に 位 くらい 人 臣 を きわめた わが身 を 祝って いる こと だ 。 ふる|たぬき||||||||||くらい||じん|しん|||わがみ||いわって|||

いっぽう 、 リヒテンラーデ 公 も 、 ラインハルト と の 枢軸 関係 を 永続 さ せよう など と は 考えて いない 。 ||おおやけ|||||すうじく|かんけい||えいぞく||||||かんがえて| ブラウンシュヴァイク 公 や リッテンハイム 侯 が 暴発 する の を 期待 する 点 で は 、 彼 は ラインハルト と 同様であった 。 |おおやけ|||こう||ぼうはつ||||きたい||てん|||かれ||||どうようであった ラインハルト の 武力 を もって 彼ら を 鎮圧 する 。 ||ぶりょく|||かれら||ちんあつ| そうなれば 、 もはや ラインハルト の ような 危険 人物 に 用 は ない のだ 。 そう なれば|||||きけん|じんぶつ||よう|||

ジークフリード ・ キルヒアイス は 、 ラインハルト の 意 を うけ 、 ブラウンシュヴァイク 公 と リッテンハイム 侯 を 首 魁 しゅ かい と する 門 閥 貴族 連合 の 武力 叛乱 を 想定 し 、 それ にたいする 戦争 準備 を 着々 と すすめて いた 。 |||||い||||おおやけ|||こう||くび|かい|||||もん|ばつ|きぞく|れんごう||ぶりょく|はんらん||そうてい||||せんそう|じゅんび||ちゃくちゃく||| 彼 は 、 自分 の 背中 に 注が れる 、 オーベルシュタイン の 冷たく 乾いた 視線 を 知っていた が 、 ラインハルト や アンネローゼ と の 仲 に ひび を いれられる と も 思わ れ ず 、 後ろ暗い 点 も ない ので 、 必要 以上 の 用心 は し ない こと に した 。 かれ||じぶん||せなか||そそが||||つめたく|かわいた|しせん||しっていた|||||||なか|||||||おもわ|||うしろぐらい|てん||||ひつよう|いじょう||ようじん|||||| 任務 に 励む いっぽう 、 以前 と は 比較 に なら ぬ ほど アンネローゼ と 会う 機会 が ふえた キルヒアイス は 、 充実 した 幸福な 日々 を 送る こと に なった 。 にんむ||はげむ||いぜん|||ひかく|||||||あう|きかい|||||じゅうじつ||こうふくな|ひび||おくる||| このような 日々 が いつまでも つづけば よい ……。 |ひび||||

Ⅲ 帝国 と 同盟 、 両方 の 陣営 が 、 ようやく あらたな 体制 を ととのえ 、 あえぎ ながら も 未来 へ の 階段 を のぼり かけた ころ 、 フェザーン 自治 領 ラント で は 、 自治 領主 ランデスヘルルビンスキー が 、 私 邸 の 奥まった 一室 に すわって いた 。 ていこく||どうめい|りょうほう||じんえい||||たいせい||||||みらい|||かいだん||||||じち|りょう||||じち|りょうしゅ|||わたくし|てい||おくまった|いっしつ||| 窓 の ない その 部屋 は 厚い 鉛 の 壁 に かこまれて 密閉 されて おり 、 空間 そのもの が 極 性 化 されて いる 。 まど||||へや||あつい|なまり||かべ|||みっぺい|||くうかん|その もの||ごく|せい|か|| 操作 卓 コンソール の ピンク の スイッチ を いれる と 、 通信 装置 が 作動 した 。 そうさ|すぐる|||ぴんく||すいっち||い れる||つうしん|そうち||さどう| それ を 肉眼 で 識別 する の は 困難だ 。 ||にくがん||しきべつ||||こんなんだ なぜなら 、 部屋 そのもの が 通信 装置 であり 、 数 千 光年 の 宇宙 空間 を こえ 、 ルビンスキー の 思考 波 を 超 光速 通信 FTL の 特殊な 波 調 に 変化 さ せて 送りだす ように なって いる から である 。 |へや|その もの||つうしん|そうち||すう|せん|こうねん||うちゅう|くうかん|||||しこう|なみ||ちょう|こうそく|つうしん|||とくしゅな|なみ|ちょう||へんか|||おくりだす|よう に||||

「 私 です 。 わたくし| お 応え ください 」 |こたえ|

極秘 の 定期 通信 を 明確な 言語 の かたち で 思考 する 。 ごくひ||ていき|つうしん||めいかくな|げんご||||しこう|

「 私 と は どの 私 だ ? わたくし||||わたくし| 」 宇宙 の 彼方 から 送られて きた 返答 は 、 このうえ なく 尊大だった 。 うちゅう||かなた||おくられて||へんとう||||そんだいだった 「 フェザーン の 自治 領主 ランデスヘル 、 ルビンスキー です 。 ||じち|りょうしゅ||| 総 大 主 教 グランド ・ ビショップ 猊下 げ いかに は ご機嫌 うるわしく あら れましょう か 」 そう|だい|おも|きょう|ぐらんど||げいか||||ごきげん|||| ルビンスキー と は 思え ない ほど の 腰 の 低 さ である 。 |||おもえ||||こし||てい||

「 機嫌 の よい 理由 は ある まい …… わが 地球 は いまだ 正当な 地位 を 回復 して は おら ぬ 。 きげん|||りゆう|||||ちきゅう|||せいとうな|ちい||かいふく|||| 地球 が すぐ る 昔 の ように 、 すべて の 人類 に 崇拝 さ れる 日 まで 、 わが 心 は 晴れ ぬ 」 ちきゅう||||むかし||よう に|||じんるい||すうはい|||ひ|||こころ||はれ|

胸 郭 全体 を 使った 大きな 吐息 が 、 思考 の なか に 感じ られた 。 むね|かく|ぜんたい||つかった|おおきな|といき||しこう||||かんじ|

地球 。 ちきゅう

三〇〇〇 光年 の 距離 を おいて 虚 空 に 浮かぶ 惑星 の 姿 が 、 ルビンスキー の 脳裏 に 鮮烈な 映像 と なって 浮かびあがった 。 みっ|こうねん||きょり|||きょ|から||うかぶ|わくせい||すがた||||のうり||せんれつな|えいぞう|||うかびあがった

人類 に よって 収 奪 と 破壊 の 徹底 した 対象 と なった すえ に 、 見捨て られた 辺境 の 惑星 。 じんるい|||おさむ|だつ||はかい||てってい||たいしょう|||||みすて||へんきょう||わくせい 老衰 と 荒廃 、 疲弊 と 貧困 。 ろうすい||こうはい|ひへい||ひんこん