Another Episode 6 Another Episode 6

嫌 です と 言ったら 止め て もらえ る ん です か いや|||いったら|とどめ||||||

それ は 無論 拒否 する 権利 は あり ます ||むろん|きょひ||けんり|||

ですが もし 災厄 が 始まって しまったら ||さいやく||はじまって|

分かり まし た わかり||

あの 三 組 以外 の 先生 方 も この こと は |みっ|くみ|いがい||せんせい|かた||||

可能 な 限り 協力 は し て ください ます かのう||かぎり|きょうりょく|||||

ですが 私 達 以外 の 方 に は 相談 など は し ない よう に |わたくし|さとる|いがい||かた|||そうだん||||||

家族 に も です か かぞく||||

話し て は なら ない 決まり です はなし|||||きまり|

夜 ヲ 覆 ウ 目蓋 開 ケ よ||おお||まぶた|ひらき|

凶 キ 影 ヲ 恐 レルナカレ きょう||かげ||こわ|

仄 くら き 柩 から そく|||ひつぎ|

産み 堕 と さ れ た 人形 の よう に うみ|だ|||||にんぎょう|||

躰 は 赤く 凍え からだ||あかく|こごえ

心 は 闇 に あやさ れ 育つ こころ||やみ||||そだつ

君 に 僕 が 見える かい きみ||ぼく||みえる|

つなぐ 手 の 冷た さ に |て||つめた||

鮮血 の 爪 立てる せんけつ||つめ|たてる

眉 寄せ て ごらん よ まゆ|よせ|||

壊し 合 お う 先 に 続く 謎 に 満ちる 結末 を こわし|ごう|||さき||つづく|なぞ||みちる|けつまつ|

羽 も 脚 も もが れ た まま はね||あし|||||

虚 空 の なか 朽ち果てる より きょ|から|||くちはてる|

もう ひと り 僕 が い て |||ぼく|||

誰 か を 痛い ほど 愛し て いる ん だ だれ|||いたい||あいし||||

さ ぁ どっち が 幻 だ ろ う ね ||||まぼろし||||

今年 は 「 ない 年 」 だった ん じゃ ねえ の ことし|||とし|||||

始業 式 の 日 机 の 数 は ぴったり だった ろ う しぎょう|しき||ひ|つくえ||すう|||||

でも 転校 生 が 来 て 机 が 一 つ 足り ない |てんこう|せい||らい||つくえ||ひと||たり|

一 ヶ月 遅れ て 始まる って か ひと|かげつ|おくれ||はじまる||

かも しれ ない

だから

そう いや 偵察 し た ん だ ろ う ||ていさつ||||||

どう だった

たぶん 彼 じゃ ない |かれ||

どうして

彼 夜 見 山 に 住 ん で ない かれ|よ|み|やま||じゅう|||

兄弟 も い ない きょうだい|||

手 も 冷たく なかった て||つめたく|

でも

でも さ

そこ まで 大事 な 決め 事 なら ||だいじ||きめ|こと|

なんで もっと 早く 教え て くれ なかった かな ||はやく|おしえ||||

榊原 くん いきなり 私 に 話しかけ ちゃ った でしょ う さかきばら|||わたくし||はなしかけ||||

あれ で 切り出せ なく なった ん じゃ ない の か な ||きりだせ||||||||

あの さ 一 つ 聞き たい ん だ けど ||ひと||きき||||

教室 で 君 の 机 だけ が 古い の は きょうしつ||きみ||つくえ|||ふるい||

何 か 意味 が ある わけ なん||いみ|||

あれ は ね そういう 決まり な の ||||きまり||

「 おまじない 」 を する 上 で |||うえ|

何 か 意味 が ある の かも しれ ない なん||いみ||||||

あれ 書 い た の 君 だ ろ う |しょ||||きみ|||

そう

私 は 私 が 「 死者 」 じゃ ない と 分かって る わたくし||わたくし||ししゃ||||わかって|

じゃあ 誰 が って |だれ||

自分 で 分かる もの な の じぶん||わかる|||

だって

友達 の 榊原 くん です ともだち||さかきばら||

いらっしゃい こんな 格好 で ごめんなさい ね ||かっこう|||

クラス の お 友達 くらす|||ともだち

それとも 美術 部 の |びじゅつ|ぶ|

榊原 くん は 下 の ギャラリー の お 客 さん で も ある ん です さかきばら|||した||ぎゃらりー|||きゃく||||||

とっても 気 に 入って くれ た み たい で |き||はいって|||||

まっ そう な の

男の子 な の に 珍しい わ ね おとこのこ||||めずらしい||

人形 が お 好き な の にんぎょう|||すき||

ええ まあ

そろそろ 帰ら ない と ね 榊原 くん |かえら||||さかきばら|

じゃあ 私 その辺 まで 見送って き ます |わたくし|そのへん||みおくって||

あら そう

いつ でも また 遊び に い らし て ね |||あそび|||||

いつも あんな な の

何 が なん|

お 母さん と の 遣り取り |かあさん|||やりとり

「 です 」 「 ます 」 で

なんか 他人行儀 って いう か |たにんぎょうぎ|||

私 と あの 人 は まあ ずっと あんな 感じ わたくし|||じん|||||かんじ

榊原 くん ち は どう な の さかきばら||||||

うち は 母親 い ない から ||ははおや|||

僕 を 産 ん で まもなく ね ぼく||さん||||

そう

私 と お 母さん は ね 仕方ない の わたくし|||かあさん|||しかたない|

私 は あの 人 の お 人形 だ から わたくし|||じん|||にんぎょう||

そんな

君 は 娘 で 生身 な ん だ し きみ||むすめ||なまみ||||

生身 だ けど 本物 じゃ ない し なまみ|||ほんもの|||

じゃあ お 母さん は 知って る の 三 組 の こと ||かあさん||しって|||みっ|くみ||

知ら ない 言え る はず ない し しら||いえ||||

よく 学校 休 ん でる こと は |がっこう|きゅう||||

その辺 は 放任 って いう か そのへん||ほうにん|||

無 頓着 って いう か む|とんちゃく|||

ある こと を 除 い て は だ けど |||のぞ|||||

ある こと

三 組 の 秘密 は 分かった けど さ みっ|くみ||ひみつ||わかった||

でも 君 見 崎 は それ で いい の |きみ|み|さき|||||

「 おまじない 」 の ため に さ

仕方ない でしょ う しかたない||

たまたま 私 だった って いう だけ |わたくし||||

もし 私 じゃ なかったら |わたくし||

私 も 皆 と 一緒 に なって その 子 を 「 い ない もの 」 に し なきゃ いけなかった わたくし||みな||いっしょ||||こ||||||||

それ なら

自分 が 切り離さ れ た ほう が まし でしょ じぶん||きりはなさ||||||

何で 「 い ない もの 」 を 二 人 に 増やし た の か な なんで|||||ふた|じん||ふやし||||

たぶん

いまさら 榊原 くん が 私 を 「 い ない もの 」 と して 扱って も |さかきばら|||わたくし|||||||あつかって|

弱い と 考え た の か な よわい||かんがえ||||

だから 「 い ない もの 」 を 二 人 に 増やし て |||||ふた|じん||ふやし|

「 おまじない 」 を 強く し よ う って ||つよく||||

そ っ

榊原 くん に 私 の こと を 説明 する って いう 手間 も 省け て さかきばら|||わたくし||||せつめい||||てま||はぶけ|

とっても 合理 的 |ごうり|てき

でも さ 「 おまじない 」 だ ろ う

そこ まで する

だから 皆 必死 な の |みな|ひっし||

次 は 自分 かも って 考え て み たら つぎ||じぶん|||かんがえ|||

洒落 に なら ない でしょ う しゃれ|||||

理不尽 だ と 思う りふじん|||おもう

思う さ おもう|

保障 は ない かも しれ ない ほしょう|||||

でも それ で 災厄 が 止まる 可能 性 が ある なら |||さいやく||とまる|かのう|せい|||

いい じゃ ない

やっぱり 人 が 死ぬ の は 悲しい こと だ から |じん||しぬ|||かなしい|||

ありがとう

帰り 気 を つけ て かえり|き|||

お互い 死 に 近い 場所 に いる わけ だ し おたがい|し||ちかい|ばしょ|||||

私 は 大丈夫 わたくし||だいじょうぶ

前 に も 一 度 見せ た っけ ぜん|||ひと|たび|みせ||

うん

私 の 左 目 が 無くなった の は 四 歳 の 時 わたくし||ひだり|め||なくなった|||よっ|さい||じ

悪い 腫瘍 が でき た らしく て わるい|しゅよう|||||

ある 日 目覚め たら 左 目 が 空っぽ に なって た |ひ|めざめ||ひだり|め||からっぽ|||

それ で ね 「 普通 の 義 眼 は 可愛く ない から 」 って |||ふつう||ただし|がん||かわいく|||

お 母さん が 特別 な 目 を 作って くれ た の |かあさん||とくべつ||め||つくって|||

隠さ なく て も いい のに かくさ|||||

見 崎 その 目 綺麗 だ と 思う けど な み|さき||め|きれい|||おもう||

手術 の 時 ね 死 に 掛け た らしい の しゅじゅつ||じ||し||かけ|||

その 時 の こと なんとなく 覚え てる ん だ けど |じ||||おぼえ||||

信じる しんじる

臨 死 体験 って こと のぞ|し|たいけん||

死 は ね 優しく なんか ない し|||やさしく||

黒く て 何 処 まで も 黒く て くろく||なん|しょ|||くろく|

何 処 まで も 一 人 っきり な の なん|しょ|||ひと|じん|||

一 人 っきり ひと|じん|

そう でも それ って 生き て い て も 同じ よ ね ||||いき|||||おなじ||

いくら 繋がって いる よう に 見え て も |つながって||||みえ||

本当 は 一 人 っきり ほんとう||ひと|じん|

私 も お 母さん も わたくし|||かあさん|

榊原 くん も ね さかきばら|||

あの 子 も 未 咲 も そう だった |こ||み|さ|||

明日 から 同類 だ よ ね あした||どうるい|||

よろしく ね 榊原 くん ||さかきばら|

はい

暑い ぞ インド は あつい||いんど|

何 だ なん|

おい 「 何 だ 」 と は 何 だ よ |なん||||なん||

体調 なら 良好 だ から たいちょう||りょうこう||

あの さ

お 母さん から 中学 の 思い出 と か 聞い た こ と ある |かあさん||ちゅうがく||おもいで|||ききい||||

あー 何 だ お前 また 急に |なん||おまえ||きゅうに

お 母さん も 三 年 三 組 だった ん だ よ ね |かあさん||みっ|とし|みっ|くみ|||||

何 か 思い当たる こと って ない なん||おもいあたる|||

あー ない

ない の 何も ||なにも

そりゃ あ それなり に 聞い た と は 思う が な ||||ききい||||おもう||

そう か 三 年 三 組 だった の か 理 津 子 は ||みっ|とし|みっ|くみ||||り|つ|こ|

ところで 恒一 |つねいち

どんな 感じ だ 一 年 半 ぶり の 夜 見 山 は |かんじ||ひと|とし|はん|||よ|み|やま|

えっ 一 年 半 |ひと|とし|はん

中学 に 上がって から こっち 来 た の 初めて だ けど ちゅうがく||あがって|||らい|||はじめて||

あ いや そんな はず は

あ そう だ な 記憶 違い だ きおく|ちがい|

見 崎 み|さき

榊原 くん さかきばら|

いかん いか ん

霧 果 さん は お 弁当 と か 作って くれ ない の きり|か||||べんとう|||つくって|||

気 が 向 い たら たまに き||むかい|||

でも ね 正直 美味しく ない の ||しょうじき|おいしく||

自分 で 料理 は じぶん||りょうり|

う うん 全然 ||ぜんぜん

レトルト を 温める くらい ||あたためる|

皆 そんな もの でしょ う みな||||

僕 は 得意 な ん だ けど ぼく||とくい||||

へ ー 変わって る ね |-|かわって||

前 の 学校 で 料理 研究 部 に 入って たん だ ぜん||がっこう||りょうり|けんきゅう|ぶ||はいって||

じゃ いつか 何 か ご馳走 し て くれる ||なん||ごちそう|||

いつか ね

うん

そう いえ ば さ ここ で 絵 描 い て た よ ね ||||||え|えが|||||

あの 時 の 絵 もう で き た の |じ||え|||||

一応 いちおう

翼 は つけ て あげ た の つばさ||||||

まあ ね

見せ て あげる いつか ね みせ||||

うん

趣味 は 絵 を 描く こと しゅみ||え||えがく|

描く より 見る ほう が 好き かな えがく||みる|||すき|

と いって も 画集 を 眺める くらい |||がしゅう||ながめる|

家 に たくさん ある し いえ||||

美術 展 に 行ったり は びじゅつ|てん||おこなったり|

ここ だ と なかなか ね

じゃ いつか 東京 に 遊び に おいで よ ||とうきょう||あそび|||

美術 館 巡り しよ う びじゅつ|かん|めぐり||

僕 が 案内 する から ぼく||あんない||

うん いつか ね

おお 見 崎 先輩 どうして |み|さき|せんぱい|

ちょっと 気 が 向 い たから |き||むかい||

退部 さ れ た ん じゃ なかった ん です か たいぶ|||||||||

休部 の つもり な ん だ けど きゅうぶ||||||

ええ そう なん です か

望月 くん は 相変わらず ね もちづき|||あいかわらず|

は 先輩 |せんぱい

望月 先輩 もちづき|せんぱい

あの ね 君 たち ||きみ|

その ちょっと 今 から 来 て くれ ない ||いま||らい|||

ちょっと ね 急ぎ の 用 が ね ||いそぎ||よう||

ええ そう なん です か

せっかく 見 崎 先輩 が |み|さき|せんぱい|

いい から とにかく ほら 来 て ||||らい|

来 て ね らい||

捨て られ なかった だけ まし か すて|||||

どれ お 母さん ||かあさん

この 人 |じん

理 津 子 さん か り|つ|こ||

そ っか

ところで さ これ この 担任 の 先生 ||||たんにん||せんせい

今 と ずいぶん 感じ 違う よ ね いま|||かんじ|ちがう||

君 の 言って た ある 人 って さ きみ||いって|||じん||

そ っ あれ は 千 曳 さん の こと よ ||||せん|えい||||

おや 今日 は 二 人 か |きょう||ふた|じん|

二 人 に 増え た ん です 「 い ない もの 」 が ふた|じん||ふえ|||||||

その よう で ね

榊原 くん は もう 事情 を 理解 し た の か な さかきばら||||じじょう||りかい|||||

大体 は でも 信じ きれ ない 気持ち が まだ だいたい|||しんじ|||きもち||

無理 も なか ろ う な むり|||||

しかし 本当の こと だ |ほんとうの||

この 町 で この 学校 で 実際 に 起こって いる 現象 な ん だ よ |まち|||がっこう||じっさい||おこって||げんしょう||||

千 曳 先生 は 二十六 年 前 の 三 年 三 組 の 担任 だった ん です よ ね せん|えい|せんせい||にじゅうろく|とし|ぜん||みっ|とし|みっ|くみ||たんにん|||||

それ で 母 の こと も ||はは|||

そう だ よ

あの 先生 は 僕たち の こと 無視 し なく て 大丈夫 な ん です か |せんせい||ぼくたち|||むし||||だいじょうぶ||||

今 は クラス の 関係 者 じゃ ない から ね 私 は いま||くらす||かんけい|もの|||||わたくし|

言って み れ ば 安全 な 立場 に いる 人間 だ いって||||あんぜん||たちば|||にんげん|

どこ まで が 危険 な ん です か |||きけん||||

三 組 の 構成 員 と その 二 親等 以内 の 血族 みっ|くみ||こうせい|いん|||ふた|しんとう|いない||けつぞく

そして 夜 見 山 市 内 だ |よ|み|やま|し|うち|

二親 等 両親 と 祖父母 兄弟 か ふたおや|とう|りょうしん||そふぼ|きょうだい|

夜 見 山 市 内 って いう の は 夜 見 山 から 出る と 安全 って こと な ん です か よ|み|やま|し|うち|||||よ|み|やま||でる||あんぜん||||||

そう 携帯 で いう 圏 外 の よう な もの だ と 考え れ ば いい |けいたい|||けん|がい|||||||かんがえ|||

あの どうして 今 ここ に ||いま||

誰 に も 悪意 は なかった ん だ よ 誰 に も だれ|||あくい||||||だれ||

今 と なって は 浅はか な 考え だった と 思う ん が ね いま||||あさはか||かんがえ|||おもう|||

結果 と して は あれ が 引き金 に なって 死 の 扉 が 開 い て しまった ん だ から けっか||||||ひきがね|||し||とびら||ひらき||||||

私 に は その 責任 が ある わたくし||||せきにん||

だから 今 も こうして 学校 に 残って いる |いま|||がっこう||のこって|

教師 を 辞め て 司書 と して きょうし||やめ||ししょ||

と いう の は 半分 は 逃げ だった わけ だ な ||||はんぶん||にげ||||

逃げ にげ

半分 は 仮 借 の 面 はんぶん||かり|かり||おもて

しかし あと 半分 は 恐怖 だった ||はんぶん||きょうふ|

自分 も 死ぬ かも しれ ない と いう ね じぶん||しぬ||||||

だから 逃げ た |にげ|

先生 が 死ぬ 場合 も ある ん です か せんせい||しぬ|ばあい|||||

担任 や 副 担任 で あれ ばね たんにん||ふく|たんにん|||

あの 二十六 年 前 の ミサキ は 男子 だった ん です か それとも 女子 |にじゅうろく|とし|ぜん||みさき||だんし||||||じょし

男子 だ よ だんし||

名字 は この 町 の 名 と 同じ 夜 見 山 みょうじ|||まち||な||おなじ|よ|み|やま

夜 見 山 ミサキ って いう の は フル ネーム だ よ|み|やま|みさき|||||ふる|ねーむ|

五 月 の ある 夜 彼 の 家 が 全焼 いつ|つき|||よ|かれ||いえ||ぜんしょう

両親 と 弟 も 含め た 全員 が 死亡 し た りょうしん||おとうと||ふくめ||ぜんいん||しぼう||

あの い ない はず の ミサキ くん が 映って た 写真 って 見 た ん です か |||||みさき|||うつって||しゃしん||み||||

見 た よ み||

その 写真 手元 に |しゃしん|てもと|

ない

正直 怖く なって ね しょうじき|こわく||

ええ と

記録 の 改竄 が 起こる って きろく||かいざん||おこる|

起きる よ おきる|

中 に は クラス 名簿 の コピー だ なか|||くらす|めいぼ||こぴー|

七十二 年度 から 今 年度 まで 二十六 年 分 の ね しちじゅうに|ねんど||いま|ねんど||にじゅうろく|とし|ぶん||

赤 の ばつ 印 が あの 年度 に 死亡 し た 人 だ あか|||いん|||ねんど||しぼう|||じん|

一昨年 の 名簿 見 て くれる かな いっさくねん||めいぼ|み|||

一 番 下 に 名前 が ある だ ろ う ひと|ばん|した||なまえ|||||

はい

それ が その 年 の 死者 だった |||とし||ししゃ|

あの この 年 って 死 ん だ 人 の 数 が 七 人 な ん です ね ||とし||し|||じん||すう||なな|じん||||

少なく ない です か すくなく|||

「 い ない もの 」 対策 が 行使 られ た から だ |||たいさく||こうし||||

その おかげ で 年度 の 前半 は 一 人 も 死な なかった ん だ よ |||ねんど||ぜんはん||ひと|じん||しな||||

ところが 二 学期 が 始まって すぐ |ふた|がっき||はじまって|

「 い ない もの 」 だった 生徒 が 役割 を 放棄 し て しまった ね ||||せいと||やくわり||ほうき||||

孤独 と プレッシャー に 耐え かね て こどく||ぷれっしゃー||たえ||

自分 が ここ に いる 「 いる もの 」 と して 扱え と 言い出し て じぶん|||||||||あつかえ||いいだし|

それ で 始まって しまった ||はじまって|

さて 九十六 年度 の 死者 は 浅倉 麻美 と いう 生徒 だった わけ だ が |きゅうじゅうろく|ねんど||ししゃ||あさくら|あさみ|||せいと||||

彼女 は そもそも 九十三 年度 の 生徒 だった ん だ よ かのじょ|||きゅうじゅうさん|ねんど||せいと||||

ところが だ これ は 一昨年 の 四 月 から 翌 三 月 まで の 間 ||||いっさくねん||よっ|つき||よく|みっ|つき|||あいだ

そう じゃ なかった ん だ

違って た ちがって|

そう 私 の 記憶 で は 一昨年 の 名簿 に 彼女 の 名 は あった ん だ よ |わたくし||きおく|||いっさくねん||めいぼ||かのじょ||な|||||

そして 九十三 年度 の 名簿 に は 彼女 の 名 は なかった |きゅうじゅうさん|ねんど||めいぼ|||かのじょ||な||

消え て いた ん だ きえ||||

名前 も ばつ 印 も なまえ|||いん|

だから ね

その 年 の 現象 が 起こって いる 間 は |とし||げんしょう||おこって||あいだ|

何 を どう 調べ て も 無駄 な の さ なん|||しらべ|||むだ|||

人間 の 記憶 も と いう こと で し た よ ね にんげん||きおく|||||||||

そう

で 一 年 が 経ち 卒業 式 に 死者 が 姿 を 消し た ところ で |ひと|とし||たち|そつぎょう|しき||ししゃ||すがた||けし|||

やっと すべて の 記録 が 本来 の 形 に 戻り |||きろく||ほんらい||かた||もどり

増え た もう 一 人 が 分かる ふえ|||ひと|じん||わかる

そして 死者 と して 現れ て い た 彼女 の 記憶 が 失わ れ て いく |ししゃ|||あらわれ||||かのじょ||きおく||うしなわ|||

忘れ て しまう ん だ わすれ||||

記録 も 記憶 も も ど に 戻る きろく||きおく|||||もどる

だが 理屈 は 全く 分から ない |りくつ||まったく|わから|

基本 的 に は お手上げ な の さ きほん|てき|||おてあげ|||

この 現象 に つい て 有効 だ と 分かって いる の は 一 つ だけ |げんしょう||||ゆうこう|||わかって||||ひと||

それ は クラス に 「 い ない もの 」 を 作る と いう 対策 だ ||くらす||||||つくる|||たいさく|

成功 率 は どの くらい な ん です か せいこう|りつ|||||||

半々 だ ね はんはん||

成功 し た 年 も あれ ば 失敗 し た 年 も ある せいこう|||とし||||しっぱい|||とし||

失敗 し た 理由 が はっきり し て いる 年 も あれ ば しっぱい|||りゆう||||||とし|||

よく 分から ない 年 も ある |わから||とし||

そんな

これ は ね 呪い じゃ ない |||まじない||

なにも の か の 悪意 は どこ に も ない ん だ ||||あくい|||||||

ただ 単に それ は 起こる |たんに|||おこる

台風 や 地震 と 同じ だ たいふう||じしん||おなじ|

じゃあ 「 い ない もの 」 を 二 人 に 増やし て 効果 は ある ん でしょ う か |||||ふた|じん||ふやし||こうか||||||

何とも 言え ない なんとも|いえ|

ただ 災厄 が 途中 で 止まった 例 は 殆ど ない |さいやく||とちゅう||とまった|れい||ほとんど|

殆ど ほとんど

一昨年 の 三 組 って 三神 先生 は 担任 だった ん です ね いっさくねん||みっ|くみ||みかみ|せんせい||たんにん||||

えっ あ 本当 だ ||ほんとう|

大変 な 思い を し た はず だ よ 彼女 も たいへん||おもい|||||||かのじょ|

なのに また 三 組 の 副 担任 に なる と は ||みっ|くみ||ふく|たんにん||||

今日 は ここ まで だ きょう||||

もう 一 つ だけ |ひと||

十五 年 前 八十三 年度 は 「 ある 年 」 だった ん です か じゅうご|とし|ぜん|はちじゅうさん|ねんど|||とし||||

八十三 年 はちじゅうさん|とし

「 ある 年 」 だった よ 確か |とし|||たしか

まさか と 思って た けど ||おもって||

そう か 怜子 くん の 年 だった か ||れいこ|||とし||

まさか 理 津 子 くん は 夜 見 山 で |り|つ|こ|||よ|み|やま|

はい 僕 を 産む ため に 夜 見 山 の 実家 に 帰って き て い て |ぼく||うむ|||よ|み|やま||じっか||かえって||||

この 町 で 亡くなった の か |まち||なくなった||

そ っか

ごめん ね 恒一 くん ||つねいち|

ごめん ね

どう し よ も なく て 私 ||||||わたくし

十五 年 前 お 母さん が 死 ん じゃ った の って じゅうご|とし|ぜん||かあさん||し|||||

それ も 三 組 の 災厄 だった ん です か ||みっ|くみ||さいやく||||

分から ない わから|

可哀想 に な 理 津 子 は な かわいそう|||り|つ|こ||

可哀想 に な かわいそう||

理 津 子 も 怜子 も な り|つ|こ||れいこ||

だめ です よ お 爺さん ||||じいさん

今日 は も う 休み ま しょ う きょう||||やすみ|||

元気 元気 出し て ね げんき|げんき|だし||

姉さん の こと は 本当 に 分から ない ねえさん||||ほんとう||わから|

でも あの 年 は さ 途中 で 止まった よう な 気 が ||とし|||とちゅう||とまった|||き|

途中 で 止まった なぜ なん です か とちゅう||とまった||||

どうして 止まった ん です か |とまった|||

ねっ 怜子 さん |れいこ|

思い出せ ない おもいだせ|

怜子 さん 何でも 何でも いい ん です 何 か れいこ||なんでも|なんでも||||なん|

でも ね でも 確か 夏 休み 何 か が |||たしか|なつ|やすみ|なん||

夏 休み なつ|やすみ

何 か 思い出せ ない なん||おもいだせ|

ごめん ね 恒一 くん ||つねいち|

皆さん おはよう ございます みなさん||

今日 は 私 皆さん に 謝ら なけ れ ば なり ませ ん きょう||わたくし|みなさん||あやまら||||||

この まで どうして も 私 は ||||わたくし|

来年 の 三 月 に は 皆 元気 に 卒業 できる よう に らいねん||みっ|つき|||みな|げんき||そつぎょう|||

そう 願って 私 も 精一杯 頑張って き た つもり だった の です が |ねがって|わたくし||せいいっぱい|がんばって|||||||

この 後 の こと は もう 皆さん の 問題 です |あと|||||みなさん||もんだい|

一旦 始まって しまった 以上 いったん|はじまって||いじょう

どう わ が い て も 無駄 な の か ||||||むだ|||

或いは 私 に は 分かり ませ ん あるいは|わたくし|||わかり||

分から ない わから|

分かる はず が ない わかる|||

と いう か その 話 は もはや どう で も いい と 私 は ||||はなし||||||||わたくし|

色褪せ て く フィルム の よう に いろあせ|||ふぃるむ|||

確か な 今 も いずれ 霞 ん で たしか||いま|||かすみ||

何でもなく 笑い あった なんでもなく|わらい|

刹那 の 時間 と 光 せつな||じかん||ひかり

繋がって ゆく 記憶 の 底 に つながって||きおく||そこ|

誰 か が 見つける ため ある と 信じ てる 今 でも だれ|||みつける||||しんじ||いま|