59. 烈婦 - 高田保
れつ ふ|たかた たもつ
fierce woman|Takada Yasu
59. the strong woman - TAKADA Tamotsu
59. la mujer intensa - Tamotsu Takada.
59. la femme intense - Tamotsu Takada.
59. напряженная женщина - Тамоцу Такада.
烈 婦 - 高田 保
れつ|ふ|たかた|たもつ
「 世界 情勢 吟 」 と 題して 川柳 一 句 を お 取次ぎ する 。
せかい|じょうせい|ぎん||だいして|せんりゅう|ひと|く|||とりつぎ|
|||||haiku|||||introducing|
国境 を 知ら ぬ 草 の 実 こぼれ 合い
くにざかい||しら||くさ||み||あい
なんと 立派な もの で は ない か 。
|りっぱな|||||
ピリッ と した もの が 十七 字 の 中 に 結晶 して いる 。
ぴりっ|||||じゅうしち|あざ||なか||けっしょう||
ところで これ が なんと 、 八十三 歳 の お 婆さん の お 作 な のだ 、 驚いて いただきたい 。
||||はちじゅうさん|さい|||ばあさん|||さく|||おどろいて|いただき たい
||||83|||||||||||
井上 信子 、 と だけ で は わかる まい 。
いのうえ|のぶこ||||||
|Nobuko||||||
が 井上 剣 花 坊 の 未亡人 だ と いったら 、 なるほど と 合点 なさる だろう 。
|いのうえ|けん|か|ぼう||みぼうじん||||||がてん||
「 婦人 朝日 」 誌上 で 紹介 されて いた のだ が 、 こぼれ 合う 草 の 実 こそ は 真実の 人間 である 。
ふじん|あさひ|しじょう||しょうかい|さ れて|||||あう|くさ||み|||しんじつの|にんげん|
真実の 人間 同士 の 間 に は 国境 など と いう あざ と いもの は ありゃ し ない 。
しんじつの|にんげん|どうし||あいだ|||くにざかい||||||||||
この 草 の 実 の こぼれ 合い を 眼 の 中 に 入れて ない ところ に 、 世界 の 政治 の 愚 劣 さ が ある 。
|くさ||み|||あい||がん||なか||いれて||||せかい||せいじ||ぐ|おと|||
侵略 と か 防衛 と か いう が 、 一 たび この 十七 字 の 吟 ずる ところ に 徹して 考える が いい 。
しんりゃく|||ぼうえい|||||ひと|||じゅうしち|あざ||ぎん||||てっして|かんがえる||
人間 の あさまし さ 、 百 度 の 嘆息 を して も 足り ぬ こと に なる だろう 。
にんげん||||ひゃく|たび||たんそく||||たり|||||
||amazing||||||||||||||
この 句 の この 味 、 もしも そっくり 伝えられる もの なら 翻訳 して もらって 外国 へ も 紹介 したい 。
|く|||あじ|||つたえ られる|||ほんやく|||がいこく|||しょうかい|し たい
もう 一 寸 早ければ 、 ダレス さん に お土産 と して もって 帰って いただき たかった ところ だ 。
|ひと|すん|はやければ||||おみやげ||||かえって||||
||||Dale|||||||||||
八十三 歳 の 老婦 人 に して これほど の 「 世界 情勢 吟 」 を する のだ から 、 日本 の 文学 者 諸君 は さぞかし 、 と 外国 人 は おもう かも しれ ぬ 。
はちじゅうさん|さい||ろうふ|じん|||||せかい|じょうせい|ぎん|||||にっぽん||ぶんがく|もの|しょくん||||がいこく|じん|||||
|||old woman|||||||||||||||||||surely||||||||
そう なる と しか し これ は 一 寸 困る 。
|||||||ひと|すん|こまる
日本 文学 と いう やつ は 大体 が 政治 嫌いでして と 、 いろいろ 特殊な 伝統 の 説明 など して 、 依然 安閑たる 文壇 風景 を 弁解 し なくて は なる まい 。
にっぽん|ぶんがく|||||だいたい||せいじ|きらいでして|||とくしゅな|でんとう||せつめい|||いぜん|あんかんたる|ぶんだん|ふうけい||べんかい|||||
|||||||||dislike||||||||||leisurely||||justify|||||
ペンクラブ へ は 代表 を 出す のだ が 、 世界 の 他 の 文学 者 諸君 と は 生活 がち と 違う のである 。
|||だいひょう||だす|||せかい||た||ぶんがく|もの|しょくん|||せいかつ|||ちがう|
Pen Club|||||||||||||||||||||
だが 、 これ から も なお 「 日本 的 」 であって いい の か ?
|||||にっぽん|てき||||
もしも 「 世界 的 」 に と 明日 を 心がける なら 、 やはり 世界 の 問題 へ 目 を 向け 頭 を 向け 、 草 の 実 の こぼれ 合う こまかい 気 を 配って 、 文学 は 文学 なり の 「 世界 的 発言 」 を せ ず ば なる まい 。
|せかい|てき|||あした||こころがける|||せかい||もんだい||め||むけ|あたま||むけ|くさ||み|||あう||き||くばって|ぶんがく||ぶんがく|||せかい|てき|はつげん||||||
税金 の 問題 よりゃ 戦争 の 方 が 実は 却 かえって 身近 の 大事な のである 。
ぜいきん||もんだい||せんそう||かた||じつは|きゃく||みぢか||だいじな|
文芸 家 協会 など 、 これ に 対して どう 動いて いる のであろう 。
ぶんげい|いえ|きょうかい||||たいして||うごいて||
井上 信子 老女 史 は 、 戦争 中 に も 警察 へ 引っぱら れたり した のだ そうである 。
いのうえ|のぶこ|ろうじょ|し||せんそう|なか|||けいさつ||ひっぱら||||そう である
「 手 と 足 を もいだ 丸太 に して か へ し 」 と いう 句 など が お 気 に さわった らしく と 、 今 は 笑って いられる のだ そう だ が 、 私 など あの 戦争 中 の 自分 を 省みて 恥 か しく おもう 。
て||あし|||まるた||||||||く||||き|||||いま||わらって|いら れる|||||わたくし|||せんそう|なか||じぶん||かえりみて|はじ|||
||||picked|log|||||||||||||||||||||||||||||||||reflect||||
それだけに 今度 は もう 自分 を 恥 か しめる ような こと は し たく ない と 考えて いる 。
|こんど|||じぶん||はじ||||||||||かんがえて|
だが 老女 史 が その 私 の 決心 を からかう ように こう 吟 じられて いる のだ 。
|ろうじょ|し|||わたくし||けっしん|||||ぎん|じら れて||
|||||||||||||teased||
どのように 坐り かえて も わが 姿
|すわり||||すがた
老女 史 は これ を 「 最近 の 心境 」 と して 示されて いる のだ が 、 女史 の 姿 の 変ら ぬ の は 立派である 。
ろうじょ|し||||さいきん||しんきょう|||しめさ れて||||じょし||すがた||かわら||||りっぱである
しかし 私 は ぜひとも 坐り 直し 別な 姿 に なら ねば なら ぬ 。
|わたくし|||すわり|なおし|べつな|すがた|||||
同感 の 士 な きや いかに 。
どうかん||し|||
私 は 久しぶりに 「 烈 婦 」 と いう 文字 を 、 この 老女 史 で おもい出した 。
わたくし||ひさしぶりに|れつ|ふ|||もじ|||ろうじょ|し||おもいだした
|||||||||||||remembered
( 二・二〇 )
ふた|ふた