95. お米の話 - 北大路魯山人
お べい の はなし|きた おおじ ろやま じん
rice story|Kitaoji Rosanjin
95. the story of rice - Kitaoji Rosanjin
95. "История риса" - Китаодзи Росандзин.
95. 米的故事 - 北大路魯山人
お 米 の 話 - 北 大路 魯山 人
|べい||はなし|きた|おおじ|ろやま|じん
近頃 は 以前 の ように 、 やれ 播州 の 米 が うまい と か 、 越後 米 に かぎる と か いう ような 話 は あまり 聞か ない 。
ちかごろ||いぜん||||ばんしゅう||べい|||||えちご|べい|||||||はなし|||きか|
||||||Banshu|||||||Echigo||||||||||||
ただ 米 であり さえ すれば あり難 がる ご 時世 で は ある が 、 しかし 以前 でも 、 米 の 味 に 詳しい と いう ひと は 少なかった 。
|べい||||ありがた|||じせい||||||いぜん||べい||あじ||くわしい|||||すくなかった
|||||hard to find|||present time|||||||||||||||||
・・
うまい 米 と いえば 、 その昔 、 朝鮮 で 李 王さま に あげる ため に 作って いた 米 が ある 。
|べい|||そのむかし|ちょうせん||り|おうさま|||||つくって||べい||
これ は すこぶる うまかった 。
||very|
収穫 は 非常に 少ない が 、 米粒 の 形 も よく 、 見た ところ も きれいな 米 であった 。
しゅうかく||ひじょうに|すくない||こめつぶ||かた|||みた||||べい|
|||||rice grain||||||||||
ただし 、 あまり うま すぎて 、 副 食物 が ご馳走 の 目的 の 場合 に は 使え ない 。
||||ふく|しょくもつ||ごちそう||もくてき||ばあい|||つかえ|
うま すぎる と いう と 変に 聞こえる かも 知れ ない が 、 元来 米 と いう もの は うまい もの である 。
|||||へんに|きこえる||しれ|||がんらい|べい|||||||
うまい もの の 極致 は 米 な のである 。
|||きょくち||べい||
|||pinnacle||||
うまい から こそ 毎日 食べて いられる わけな のである 。
|||まいにち|たべて|いら れる||
特に うまい 米 は 、 もう それ だけ で 充分で 、 ほか に なにも いら なく なって しまう 。
とくに||べい||||||じゅうぶんで|||||||
・・
殊に ライスカレー なんて もの に 使う 米 は 、 少し まずい 米 で ない と いけない 。
ことに|||||つかう|べい||すこし||べい||||
|rice curry|||||||||||||
たとえば 玄米 だ 。
|げんまい|
|brown rice|
・・
玄米 は 白米 と は 別な 意味 で 非常に うまい 。
げんまい||はくまい|||べつな|いみ||ひじょうに|
||white rice|||||||
玄米 の ごはん に ご馳走 を つけて 出す の は 蛇足 である 。
げんまい||||ごちそう|||だす|||だそく|
||||||||||unnecessary addition|
漬けもの で も あれば 充分である 。
つけもの||||じゅうぶんである
pickles||||sufficient
だから 、 いくら うまい と いって も 、 料理 の 後 で は 邪魔に なる 。
||||||りょうり||あと|||じゃまに|
・・
ところが 、 一般 の 家庭 は もちろん の こと 、 多数 の 料理 屋 が この ごはん と いう もの に ついて 、 とても 注意 が 足りない 。
|いっぱん||かてい|||||たすう||りょうり|や||||||||||ちゅうい||たりない
・・
料理 屋 が そう だ から 、 料理 人 は みな そう である 。
りょうり|や|||||りょうり|じん||||
料理 長 と いう もの は 板前 と いって 、 俎板 の 前 に 坐って 刺身 ばかり 作って いる 。
りょうり|ちょう|||||いたまえ|||まないた||ぜん||すわって|さしみ||つくって|
||||||chef|||cutting board||||||||
本当の 料理 人 ならば 、 仮に 自分 で 飯 を 炊か なく と も 、 飯 が うまく 炊けた か どう か と いう こと に ついて 、 相当 気 に なる はずである 。
ほんとうの|りょうり|じん||かりに|じぶん||めし||たか||||めし|||たけた|||||||||そうとう|き|||
なぜなら 、 せっかく いい 料理 を 作って も 締めくくり に 出る 飯 が だめだったら 、 すべて が ぶちこわし に なって しまう から である 。
|||りょうり||つくって||しめくくり||でる|めし||||||||||
|||||||conclusion|||||no good|||ruined|||||
・・
ところが 、 料理 屋 と いう もの の 多く は 、 酒飲み 本位 に 工夫 されて いる ため に 、たいてい の 料理 人 は 自分 の 受け持ち の 料理 さえ 出して しまう と 、 後 の 飯 が どう であろう と 、 一切 お構いなしで 帰って しまう 。
|りょうり|や|||||おおく||さけのみ|ほんい||くふう|さ れて||||||りょうり|じん||じぶん||うけもち||りょうり||だして|||あと||めし|||||いっさい|おかまいなしで|かえって|
|||||||||drinker|drinking-centered||||||||||||||responsibility|||||||||||||||without concern||
それでは 料理 人 と して の 資格 は ゼロ に 等しい と いわれて も 、 彼ら は 一向に 頓着 し ない 。
|りょうり|じん||||しかく||||ひとしい||いわ れて||かれら||いっこうに|とんちゃく||
||||||||||equal to|||||||||
理想 が ない から だ 。
りそう||||
・・
一般に 飯 炊き と いう と 、 料理 人 で は なく 、 雑用 人 と して 、 一 段 と 下った 仕事 と して 扱い 、 ろくな 給料 も 出して いない が 、 ずいぶん 間違った 話 である 。
いっぱんに|めし|たき||||りょうり|じん||||ざつよう|じん|||ひと|だん||くだった|しごと|||あつかい||きゅうりょう||だして||||まちがった|はなし|
|||||||||||household chores||||||||||||decent|||||||||
・・
だ から 、 星 岡 茶 寮 時代 、 わたし の ところ へ 料理 人 が 来る と 、 君 は 飯 が 炊ける か と 第 一 に 聞いて みる 。
||ほし|おか|ちゃ|りょう|じだい|||||りょうり|じん||くる||きみ||めし||たける|||だい|ひと||きいて|
||||||||||||||||||||cooked|||||||
なかなか 自信 を もって 、 答え の できる 者 は い なかった 。
|じしん|||こたえ|||もの|||
・・
とにかく 、 飯 は 最後 の とど め を 刺す もの であり 、 下 戸 に は 大事な 料理 である 。
|めし||さいご|||||さす|||した|と|||だいじな|りょうり|
料理 を する ほど の 者 が 、 自信 を もって 飯 が 炊け ない と いう こと は 、 無茶苦茶な 振舞い であり 、 親切 者 と は いえ ない こと に なる 。
りょうり|||||もの||じしん|||めし||たけ||||||むちゃくちゃな|ふるまい||しんせつ|もの|||||||
||||||||||||||||||absurd|||||||||||
・・
それにもかかわらず 、 料理 人 は 自分 の 苦労 の 足りな さ を 棚 に 上げて 、 飯 を 炊く と いう こと は 、 なに か 自分 の 沽券 に かかわる もの の ごとく 考えて いる らしい 。
|りょうり|じん||じぶん||くろう||たりな|||たな||あげて|めし||たく|||||||じぶん||こけん||||||かんがえて||
|||||||||||||||||||||||||dignity||concerned with||||||
浅ましい 話 だ が 、 それでは 先生 は ごはん を お 炊き に なります か 、 と 聞く もの が あった 。
あさましい|はなし||||せんせい|||||たき||なり ます|||きく|||
shameful||||||||||||||||||
わたし は 言下 に 炊ける と 答えた 。
||げんか||たける||こたえた
||immediately||||
・・
料理 人 は 飯 なんて もの は 、 無意識 の うち に 料理 で は ない と 考えて いる らしい 。
りょうり|じん||めし||||むいしき||||りょうり|||||かんがえて||
ところが 、 飯 は 料理 の いちばん 大切な もの な のである 。
|めし||りょうり|||たいせつな|||
料理 で は ない と 思う ところ に 根本 的に 間違い が あり 、 まずい 飯 が できる のである 。
りょうり|||||おもう|||こんぽん|てきに|まちがい||||めし|||
・・
洋食 で パン の 良否 を 問題 に したり 、 焼き 方 を 問題 に したり する の と まったく 同じな のである 。
ようしょく||ぱん||りょうひ||もんだい|||やき|かた||もんだい|||||||おなじな|
||||good or bad||issue||||||||||||||
だから 、 飯 は 料理 で は ない と いう 考え を 改め 、 立派な 料理 だ と 考え なければ なら ない 。
|めし||りょうり||||||かんがえ||あらため|りっぱな|りょうり|||かんがえ|||
・・
この 意味 で 、 料理 人 は 飯 の 炊き 方 に 注意 しなければ なら ない 。
|いみ||りょうり|じん||めし||たき|かた||ちゅうい|し なければ||
わたし は 断言 する 。
||だんげん|
飯 の 炊け ない 料理 人 は 一流 の 料理 人 で は ない 。
めし||たけ||りょうり|じん||いちりゅう||りょうり|じん|||
||cooked|||||||||||
主婦 、 女 中 、 飯 炊き に ついて も 、 同じ こと が いえる のである 。
しゅふ|おんな|なか|めし|たき||||おなじ||||