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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (6)

悪人 下 (6)

寝室 の 明かり を 消す と 、 房枝 は いったん 布団 に 座り込み 、 音 を 立て ない ように 這って 窓際 に 寄った 。 震える 手 で カーテン を 少し だけ 開けて みる 。 窓 の 外 に は ブロック 塀 が あ り 、 何 ヵ 所 か ブロック が 抜けて いる 部分 から 、 細い 通り が 見える 。 さっき まで 停 まって いた パトカー は ない 。 その代わり 、 黒 塗り の 車 が 一 台 あって 、 明かり の ついた 車 内 で 若 い 私服 の 刑事 が 誰 か と 携帯 で 話 を して いる 。 一 時間 ほど 前 、 房枝 は 祐一 に 電話 を かけた 。 目の前 に は 近所 の 駐在 さん の 他 に 、 私服 の 刑事 が 二 人 いた 。 正直 、 何もかも が 急な 話 で 、 言わ れる まま 祐一 に 電話 を する の が やっと だった 。 かける 前 に 、 自分 たち の こと は 言う な 、 と 忠告 されて いた のに 、 つい 、 「 今 、 警察 の 人 が 来 と ん なっと さ 」 と 言って しまった 。 祐一 は その 一言 で 電話 を 切った 。 何もかも が 、 あまりに やぶ から ぼう だった 。 犯人 だ と 思われて いた 福岡 の 大学生 が 、 実は 犯人 で は なかった 。 なかった から と 言って 、 なんで 刑事 たち が ここ へ 来る の か 分 か 「 祐一 は 関係 なか です よ 」 房枝 が 何度 震える 声 で 話して も 、 刑事 たち は 「 とにかく 携帯 に かけて みて 下さい 」 と 譲ら なかった 。 房枝 が 思わず 、 警察 が 来て いる こと を 告げた 瞬間 、 男 たち の 表情 が 怒り と 落胆 に 歪んだ 。 使え ない 婆さん だ と 思った のだろう が 、 その 表情 が 漢方 薬 を 無理やり 売りつけた 男 たち に そっくりだった 。 「 さっさと サイン しろ よ 」 と イライラ し ながら 詰 め 寄って きた 男 たち に 。 房枝 は 少し だけ 開けた カーテン から 指 を 離した 。 いつも は 波 の 音 しか 聞こえ ない この 界隈 に 、 土地 の 者 で は ない 男 たち が 何 人 も うろうろ して いる 雰囲気 は 、 窓 を 閉めて も 、 カーテン を 閉めて も 伝わって くる 。 カーテン を 閉めて 、 壁 を 背 に しゃがみ込んだ 。 自分 が ひどく 震えて いる の が 、 その 壁 から 伝わって くる 。 じっと して いる と 、 震え が 増して 、 気 を 失い そうだった 。 捕まった 福岡 の 大学生 は 、 祐一 の 女 友達 を 殺して いない らしい 。 大学生 が 彼女 を 峠 まで 連れて 行った の は 確かだ が 、 その先 の 話 が 食い違う と いう 。 彼女 を 自分 の 車 に 乗せる 前 、 彼女 は 東公園 と いう 場所 で 白い スカイライン に 乗った 別の 男 と 会って いた 。 その 男 が 、 祐一 に 似て いる らしい 。 房枝 は 這う ように 廊下 へ 出て 、 電話 の ある 台所 へ 向かった 。 手のひら に 床 の 冷た さ が 痛い 。 真っ暗な 台所 で 房枝 は 電話 を 棚 から 下ろして 抱え込んだ 。 受話器 を 上げ 、 震える 指 で 憲夫 の 家 に 電話 を かけた 。 かなり 長い 間 、 呼び出し 音 が 鳴った あと 、 眠 そうな 憲夫 の 声 が 聞こえる 。 「 もしもし ? うち 、 房枝 。 寝 とった ? 」 不機嫌 そうな 憲夫 に 、 房枝 は 早口 で そう 言った 。 相手 が 房枝 だ と 分かり 、 電話 の 向こう の 憲夫 の 声 が 緊張 し 、「 じいさん に なんか あった と ね ? 」 と 訊 いて くる 。 「 いや 、 違う と ……」 と 房枝 は 言った 。 ただ 、 その 次の 言葉 が 口 から 出て 来 ず 、 気 が つく と 、 畷 り 泣いて いた 。 「 なん ね ? どうした と ? 」 受話器 の 向こう から 憲夫 の 声 が する 。 横 で 寝て いた 女房 も 起き 出した の か 、「…… 清 水 の ばあちゃん から けど 。 なんか 知ら ん 。 …… いや 、 じいちゃん じゃ なかって 」 など と 説明 する 憲夫 の 声 が 聞こえる 。 「 祐一 が 、 帰って こ ん の や もん ね .:…」 は な 房枝 は 漢 を 畷 り ながら 、 それ だけ 言った 。 「 祐一 が ? 帰って こ んって 、 どこ 行った と ? 」 「…… それ が 分から ん と 。 なんか 知ら ん 、 警察 の 人 が 来て さ 」 「 警察 ? 事故 でも 起こした ね ? 」 「 いや 、 違う と 。 うち に もよう 分から ん ……」 「 よう 分から ん て ……」 「 電話 して 、 警察 の 来 とるって 教えたら 、 電話 切られて し も うて ..….。 なん も 関係 なか は ず と に 電話 ば 切る もん やけん ……」 涙声 で 続ける 房枝 の 話 を 訊 き ながら 、 憲夫 は 布団 から 這い 出て カーディガン を 羽織る 妻 実千代 に 目 を 向けて いた 。 「 とにかく 、 すぐ そっち に 行く けん 。 電話 じゃ よう 分から ん 。 よ かね 、 そこ に おら ん ば よ ・ 車 で すぐに 行く けん 」 憲夫 は それ だけ 言う と 、 一方的に 電話 を 切り 、 心配 そうな 実千代 に 、「 祐一 が 、 なん か しでかした ご たる 」 と 眩 いた 。 「 祐 ちゃん が 何 を ? 」 「 知ら ん 。 喧嘩 か 何 か やろ 。 ばあさん が 泣き ながら 話す もん やけん 、 ょう 分から ん 」 憲夫 は 立ち上がって 蛍光 灯 を つけた 。 壁 の 時計 は すでに 十一 時 半 を 回って いる 。 憲夫 は 乱れた 布団 の 上 で パジャマ を 脱ぎ捨てる と 、 枕元 に 畳んで 置かれて いる 作業 服 を 手 に 取った 。 さっき まで ストーブ を つけて いた のに 、 アンダー シャツ だけ に なる と 身震い す る ほど 寒かった 。 「 なん の あった か 知ら ん けど 、 祐 ちゃん 、 殴ったり したら 駄目 よ ! あん 子 に は うち ら しか 頼れ ん の やけん 、 味方 に なって やら ん ば ……」 着替え を 手伝おう と する 実千代 に 言わ れ 、 憲夫 は 、「 分かつ とる ! 」 と 怒鳴り 返した 。 喧曄 か 、 交通 事故 か ? 憲夫 は 上着 の ボタン も 止め ず に 飛び出した 。 す 仕事 で 使って いる ワゴン 車 に 乗り込み 、 憲夫 は 祐一 の 家 へ 向かった 。 県道 は 空いて お り 、 海 沿い に 並んだ 信号 も 気持ち が いい ほど 青 が 並んで いる 。 憲夫 は 胸騒ぎ が して いた 。 入院 中 の じいさん が 死んだ わけで も ない のに 、 そんな 鈍い 興奮 が からだ を 包んで いる 。 喧嘩 に しろ 、 事故 に しろ 、 もしも 祐一 が 怪我 を して いる の なら 、 明日 は 仕事 を 休ま な ければ なら ない 。 まだ 何 が どう なって いる の か 分から ない が 、 早い うち に 吉岡 か 倉 見 に 、 連絡 を 入れて おいた ほう が いい かも しれ ない 。 明日 は 各自 で 現場 に 向かって もらい 、 作 業 の 指示 は 携帯 から 入れれば いい 。 明日 の 心配 を して いる うち に 、 車 は 祐一 が 暮らす 漁村 へ と 入って いた 。 月 明かり を 浴 び た 港 内 は 凪ぎ 、 係留 さ れた 漁船 が 波 に 動く 気配 も ない 。 ただ 、 いつも は がらんと した 岸壁 に 、 見慣れ ぬ 車 が 三 、 四 台 停 まり 、 こんな 夜中 な のに 、 立ち話 を して いる 人影 が い くつ も ある 。 憲夫 は スピード を 弛 め て 岸壁 へ 入った 。 車 の ライト が 漁船 を 照らし 、 岸壁 に 立って いる 制服 姿 の 警官 や 、 心配 して 出て きた らしい 住人 たち の 顔 が 浮かぶ 。 車 を 停めて ライト を 消す と 、 岩場 の フナムシ の ように 住人 たち が 集まって くる 。 憲夫 は 思わず ぞっと して 、 ドア を 開ける と 外 へ 飛び出した 。 「 あら 、 憲夫 さん ! 」 真っ先 に 声 を かけて きた の は 町内会 長 で 、「 なん ね ? 祐一 が なん した と ね ? 」 と 寒 さ に 首 を 縮め ながら 寄って くる 。 向こう で 誰 か が 、「 あり や 、 祐一 の おじ です もん ね 」 と 警官 に 説明 する と 説明 を 受けた 若い 警官 が 、 慌てて 駆け寄って きて 、「 あれ 、 今 、 お たく に 警官 が 向かいません でした か ? 」 と 訊 いて くる 。 憲夫 は 、「 いえ 」 と 首 を ふった 「 ばあさん から 電話 もろ うて 、 すぐ 出て きました けん 」 と 。 「 あら 、 そう です か 。 じゃ 、 行き違い やった と やる か ? 」 「 うち なら 女房 が おります けど ..…・」 警官 は 遠く に 停めて ある パトカー に 向かって 、「 被疑者 の おじさん が ここ に 来 とりま すよ ! 」 と 怒鳴った 。 パトカー の ドア が 開き 、 雑音 混じり の 無線 の 音 が すぐ そこ の 波 音 に 混じる 。 「 ちょっと 話 ば 訊 か せて もろう て も よか です か ? 祐一 くん 、 おたく で 働 い とる と でし よ ? .」 気 が つく と 、 憲夫 は 刑事 と 住人 たち に 囲まれて いた 。 「 とにかく 、 ばあさん に 会う て から でよ か です か ? 」 翌朝 、 街道 沿い の コンビニ で 、 光代 は 三万 円 を 引き出した 。 高校 卒業 から 十 年間 、 こ つ こつ と 貯 め た 多少 の 貯金 は ある のだ が 、 定期 に して いる ため 、 普通 預金 に は 当面 必要 な 額 しか 入って おら ず 、 三万 円 引き出す と 心細い 残金 に なる 。 三万 円 を 財布 に 入れて 、 光代 は レジ で 温かい お茶 を 二 本 と おにぎり を 三 つ 買った 。 支 払い を する 際 、 外 へ 目 を 向ける と 、 少し 離れた 場所 に 停められた 車 の 中 から 、 じっと こ ちら を 見つめて いる 祐一 が いた 。 コンビニ を 出て 、 光代 は 温かい お茶 を 両手 に 祐一 の 車 に 駆け寄った 。 窓 を 開けた 祐一 に 二 本 の お茶 を 渡し 、 会社 に 連絡 を 入れよう と 携帯 を 取り出した 。 おお しろ 電話 に 出た の は 店長 の 大城 だった 。 てっきり 売り場 主任 の 水谷 和子 が 出る と 思って い た 光代 は 、 一瞬 焦り は した が 、 すぐに 、「 あの 、 すいません 、 馬 込 です けど 」 と わざと 暗い 声 を 出した 。 父親 の 具合 が 急に 悪く なって 、 申し訳ない のだ が 、 今日 は 仕事 を 休ま せて ほしい 。 準 備 して いた 科白 を すら すら と 言い 終えた 。 「 あ 、 そう 。 そりゃ 、 大変 や ねえ 」 きせん 憲夫 は 毅然と した 声 で 遮った ㈹

店長 の 素っ気ない 声 が 聞こえて くる 。 「…。 : いや あ 、 実は さ 、 この 前 面接 に 来た 女の子 、 結局 、 今日 の 午後 から 働いて もらう きり しま ことに なって 、 そいで カジュアルコーナー の 霧島 さん に スーッコーナー に 移って もら お うか と 思う とった と よ 」 休暇 願い の 電話 を かけた のに 、 店長 は 人事 の 話 を 始めた 。 「 でも あれ や ねえ 、 長引いたら 大変 や ねえ 。 でも 店 の ほう も 歳末 バーゲン 時期 やし ….:。 まあ 、 とにかく 状況 分かったら 連絡 入れて よ 」 店長 は それ だけ 言う と 電話 を 切った 。 申し訳ない と 思い ながら かけた わりに 、 あまり に も 素っ気ない 店長 の 応対 に 、 正直 、 バカに さ れた ような 気分 だった 。 ほんの 数 分 、 外 に 立って いた だけ な のに 、 だだっ広い 駐車 場 を 吹き抜ける 寒風 で 、 指 先 が 冷たかった 。 助手 席 に 乗り込む と 、 すぐに 祐一 が 温かい お茶 を 渡して くれる 。 「 今日 、 仕事 休むって 電話 した 」 と 光代 は 微笑んだ 。 祐一 は ただ 、「 ごめん 」 と 謝った 。 昨夜 、 アパート 前 を 走り出した 車 は バイパス を 抜け 、 ちょうど 高速 道路 に 沿う ように して 、 武雄 方面 へ 向かった 。 真っ平らだった 道 が 、 徐々に 起伏 を 始め 、 山間 部 へ 入り込 む 辺り まで 来て も 、 祐一 は 一言 も 口 を 開か なかった 。 「 ねえ 、 どこ 行く と ? 」 319 第 1 叫 章 彼 は 郡 に 出会った か ? 走る こと すでに 十五 分 、 さすが に 気持ち も 落ち着いて きて 、 光代 は そう 尋ねた が 、 そ れ でも 祐一 は 答え ない 。 「 この 車 、 奇麗に し とる ねえ 。 自分 で 掃除 する と やる ? 」 ちり 光代 は 沈黙 に 耐え 切れ ず 、 塵 一 つ ない ダッシュ ボード を 撫でた 。 暖房 で 暖まった ボー ド の 感触 が さっき 抱きしめて きた 祐一 の 体温 を 思い出さ せる 。 「 休み の 日 と か 、 する こと な いけ ん :…・」 走り出して 二十 分 近く 、 やっと 口 を 開いた 祐一 の 言葉 が これ だった 。 光代 は 思わず 吹 き 出した 。 あんなに 乱暴に 自分 を 連れ出して きた くせ に 、 こんな こと に は 素直に 答えて くれる 。 「 たまに 職場 の 先輩 の 旦那 さん の 車 で 送って もらう こと ある と やけど 、 そこ の 車 、 まる で ゴミ 箱 みたいに し とる と よ ・『 乗って 、 乗って 」って 言う と やけど 、「 どこ に 乗れば よ か と -? 』って 感じ 」 光代 は 自分 で 自分 の 話 に 笑った 。 ただ 、 横 を 見て も 、 祐一 の 表情 に 変化 は ない 。 祐一 が とつぜん 車 を 停めた の は 、 小さな 村落 を 過ぎた 辺り で 、 これ から いよいよ 暗い 山道 に 入る と いう 場所 だった 。 スピード を 落とした 車 が 、 ゆっくり と 路肩 へ 寄る と 、 砂 利 を 踏む タイヤ の 音 が 聞こえる 。 一 カ所 だけ 途切れた ガード レール の 先 に は 、 小型 車 が 上って 行ける 程度 の 未 舗装 の 道 が 、 山中 へ 伸びて いる 。 祐一 は エンジン を かけた まま 、 ライト だけ を 消した 。 フロント ガラス の 先 に あった 世 界 が 、 その 瞬間 に 消えて なく なる 。 見る 場所 を 失った 光代 は 祐一 の ほう へ 目 を 向けた 。 その 瞬間 、 祐一 の からだ が 覆いかぶさって くる 。 「 ちよ 、 ちょっと ……」 サイド ブレーキ が 邪魔な の か 、 自分 の 手 の 置き場 を 捜す 祐一 の イライラ した 力 が 伝わって くる 。 シート を 倒さ れ 、 光代 は 思わず 開き そうに なった 脚 を 閉じた 。 覆いかぶさって きた 祐一 は 、 唇 から 顎 へ 、 そして 首筋 に 乱暴な キス を 続けた 。 妙に きっち り と 光代 の からだ は シート に 埋まり 、 まるで 縛られて いる ようだった 。 光代 は 窓 の 外 へ 目 を 向けた 。 倒さ れた シート から 黒い 樹 々 の 向こう に 夜空 が 見えた 。 星 の 多い 夜 だった 。 光代 は 乱暴に キス を 続ける 祐一 の 胸 を 、 ゆっくり と 押し戻した 。 それ でも 祐一 が 抱き しめて くる ので 、 その 胸 を トントン と 優しく 叩いた 。 一瞬 、 祐一 の 腕 から 力 が 抜ける 。 「 どうした と ? 」 と 光代 は 訊 いた 。 自分 の 息 が そのまま 祐一 の 口 に 入る ほど の 距離 だった 。 「 なん の あった と か 知ら ん けど 、 安心 して よか と よ 。 私 、 ずっと 祐一 の そば に おる け ん 」 準備 して いた 言葉 で は なかった のに 、 自分 でも 驚く ほど すら すら 出て きた 。 自分 の 言 葉 が 祐一 の 肌 に 染み込んで いく ようだった 。 街灯 も ない 山道 の 路肩 に 、 ぽつんと 停め ら れた 車 の 中 、 自分 の 言葉 と 祐一 の 肌 だけ しか 、 そこ に は なかった 。 「 もし 、 話し とう ない なら 、 話さ んで よ か 。 話して くれる まで 、 私 、 待つ けん 」 光代 は ゆっくり と 祐一 の からだ を 押し戻した 。 素直に からだ を 起こした 祐一 が 、「 ど う して よか か 、 分から ん やった ……」 と 眩 く ・ 「 あの まま 帰る つもり やった 。 でも 、 ここ で 別れたら 、 もう 会え ん ような 気 が して 」 「 それ で 戻って きた と ? 」 「 一緒に おり たかった 。 でも 一緒に おる に は どう すれば よか と か ……、 それ が 分から ん ように なって 」 シート を 起こした 光代 は 、 祐一 の 耳 に 触れた 。 ずっと 暖かい 車 内 に いる のに 、 驚く ほ ど 冷たい 耳 だった 。 「 あの まま 高速に 乗って 帰る はず や つた 。 けど 、 急に 昔 の こと 思い出して し も うて 」 「 昔 の こと ? 」 「 子供 の ころ 、 おふくろ と 一緒に 親父 に 会い に 行った こと が あって ……、 その とき の こ と 」 無防備に 耳 を 触ら れ ながら 、 祐一 は そこ まで 言って 言葉 を 切った 。 祐一 が 何 か 問題 を 抱えて いる の は 分かる 。 それ が 知り たくて たまらない 。 でも 、 それ を 知る と 、 祐一 が 消 322 えて しまい そうな 気 も する 。 光代 は 祐一 の 耳 を 撫で ながら 、「 一緒に おろう よ 」 と 言った 。 一 台 の 車 が 横 を 走り抜ける 。 真っ暗だった フロント ガラス の 向こう の 世界 を 、 その 車 の ライト が 照らす 。 遠く まで 伸びる ガード レール が 眩 しい ほど 白く 輝いた 。 「 ねえ 、 今日 は どっか に 泊まって 、 明日 、 仕事 さ ぼって 二 人 で ドライブ せ ん ? 」 と 光代 は 言った 。 「 だって 私 たち 、 まだ 呼子 の 灯台 も 行って ない と ょ 。 この前 は 、 ほら 、 結局 ずっと ホテル に おった し 」 ずっと 触れて いた 祐一 の 耳 が 、 ゆっくり と 熱 を 取り戻す 。 ◇ 理容 店 と 住居 を 仕切る 上がり 枢 に 座り込み 、 石橋 佳男 は 冬 Ⅱ を 浴びる 表通り を 見つめ て いた 。 娘 の 葬儀 を 終えて もう 何 日 も 経つ と いう のに 、 まだ 一 度 も 店 を 開けて いない 。 いつまでも 悲しみ に 暮れて いたって 生きて いけ ない し 、 今 は 年の瀬 、 普段 なら かき入れ どき で も ある 。 しかし 、 こう やって いざ 店 を 開けよう と する と 、 と たんに から だ から 力 が 抜けて しまう 。 開けた ところ で 、 客 は 来る のだろう か 。 来た ところ で 、 みんな 腫れ物 に 触る ように 話しかけて くる に 違いない 。 佳男 は もう 一 度 上がり 枢 から 立ち上がろう と 勢い を つけた 。 数 歩 前 へ 出て 、 あの 鍵 を 323 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? 開け 、 表 へ 出て 看板 の コンセント を 入れ さえ すれば 、 また いつも の 日常 が 始まる はずだ 。 だが 、 店 を 開けた ところ で 、 佳乃 が 戻って くる こと は ない 。 再び 座り込んだ 佳男 が 、 じっと 足元 を 見つめて いる と 、 ガラス ドア を ノック する 音 が 聞こえた 。 顔 を 上げれば 、 葬儀 に も 来て いた 地元 署 の 刑事 が ガラス に 顔 を 貼り つけて 、 中 を 覗き込んで いる 。 佳男 は 一 度 大きく ため息 を つき 、 重い 足取り で 刑事 の ため に ドア を 開けた 。 「 すいません 、 朝 早う から 」 刑事 が 場違いな 大声 を 出す 。 「 いえ 、 そろそろ 店 開けよう かち 思う とった とこ です けん 」 と 佳男 は 無愛想に 答えた 。 「 いや 、 実は です ね 、 もう 昨日 の ニュース で 聞か した かも しれ ん です けど 、 例の 大学生 が 見つかった と です よ 」 あまりに も 刑事 が さらっと 言う ので 、 佳男 は 思わず 、「 ああ 、 そう です か 」 と 答え そ うに なり 、 慌てて 、「 え ? なん ち ? 」 と 声 を 荒らげた 。 「 いや 、 ですから 、 例の 大学生 が 名古屋 で 見つかり まして :…・」 「 な 、 なんで すぐに 教え ん と か ! 」 「 いや 、 夜中 に いろいろ こちら で 取り調べ を し まして ね 、 整理 して から 連絡 しよう と 思 い まして 」 佳男 は 嫌な 予感 が した 。 例の 大学生 が 見つかった と いう こと は 、 やっと 佳乃 を 殺した 犯人 が 見つかった と いう こと な のに 、 目の前 の 刑事 から は その 興奮 が まったく 感じ取れ ない 。 ふと 背後 から の 視線 を 感じて 振り返る と 、 妻 の 里子 が 四 つ ん 這い で こちら に 顔 を 出し て いる 。 「 奥さん も おいで でした か ? いや 、 実は です ね 、 その 大学生 の 話 と 現場 の 状況 から 判 断 する と 、 どうも 犯人 は 別に おる ような んです よ 。 その 大学生 が 三瀬 峠 まで 娘 さん を 連れてった の は 間違い ない らしい んです が ね 」 こちら が 口 を 挟め ない ように 、 刑事 が 早口 で 捲し立てる 。 気 が つく と 、 四 つ ん 這い で 居間 から 顔 を 出して いた 里子 が 、 いつの間にか 上がり 枢 に ちょこんと 正座 して いた 。 佳男 は 仕事 着 の 白衣 を 手 に 握りしめ 、「 ど 、 どういう こと で す か ? その 大学生 が 犯人 じゃ なかって ? 」 と 刑事 に 尋ねた 。 「 詳しく 話して もらえ んです か ! 」 今にも 刑事 の 胸ぐら を 掴み そうな 佳男 の 手 を 、 里子 が さっと 握る 。 「 いや 、 実は です ね 、 娘 さん は 確かに その 大学生 の 車 で 三瀬 峠 まで 行っと る んです よ 。 娘 さん が 暮らし とる 寮 の 近く の 公園 で ばったり 会う て 」 「 ばったりって 、 娘 は その 男 と 会う 約束 を し とった んでしょう が ? 」 「 いや 、 それ が 増尾 ……、 あ 、 その 大学生 です けど ね 、 そい つ の 話 に よる と 、 娘 さん は 他の 誰 か と 約束 し とって 、 彼 と は そこ で ぱったり 会う たらし い ん です よ 」 「 だ 、 誰 です か ? その他 の 誰 かつ ちゅうと は 」 「 それ は 今 、 こちら で 探し とります 。 その 大学生 の 証言 で 、 間違い ない の が 一 人 浮か ん ふ 、 う ぼう ど ります 。 風貌 、 車種 」 「 で ? 佳乃 は 、 佳乃 は ど げん なった と か ! 」 また 怒鳴り 出した 佳男 の 背中 を 、 里子 が 真剣な 目 で 刑事 を 見つめた まま 撫でる 。 「 三瀬 峠 まで ドライブ に 行って です ね 。 そこ で 口論 に なったら しかと です よ 。 それ で 男 の ほう が 娘 さん を です ね ……」 「 娘 を ? 」 訊 き 返した の は 佳男 で は なく 、 里子 だった 。 「 ええ 、 娘 さん を 車 から 無理やり 降ろした らしくて 」 「 誰 も おら ん 峠 に 、 なんで そげ ん ……」 泣き そうに なった 里子 の 肩 を 、 今度 は 佳男 が 撫でた 。 「 降ろす とき に ちょっと 操 め たらし い と です よ 。 娘 さん の 肩 を 押して 、 その とき に 首 を 。 ・・・。 。」 お えつ 堪え 切れ ず に 里子 が 小さな 鳴 咽 を 上げる 。 「…… もちろん その 大学生 を 厳重に 調べました 。 男 の くせ に ギャーギャー 泣き出して か ら 、 ほん な こつ 情けないったら なか でした よ 。 ただ 、 決定 的に 違う と です よ 。 娘 さん の 首 に 残っとった 手 の 跡 が 、 その 大学生 の 手 より も 間違い なく 大きい と です ょ 。 それ こそ 子供 と 大人 の 手 ぐらい ……」 にら そこ で 言葉 を 切った 刑事 を 佳男 は 睨みつけた 。 「 で 、 娘 は 誰 と 待ち合わせ し とった と です か ? 隠さ ん で 言う て 下さい 。 その 出会い 系 つち やら で ….:」 言葉 に なら なかった 。 一 通り の 説明 を 終えた 刑事 を 送り出し 、 佳男 は 散髪 用 の 椅子 に 座り込んだ 。 上がり 権 に 正座 した 里子 は 、 両 拳 を 握りしめて 泣いて いる 。 娘 が 殺されて 泣き 、 犯人 が 捕まら ず に 泣き 、 今度 は その 犯人 が 無実 だ と 知ら されて 泣 いて いる 。 刑事 の 話 で は 、 佳乃 は 白い 車 に 乗った 金髪 の 男 と 東公園 で 待ち合わせ を して いた らし い 。 それなのに 会社 の 同僚 たち に は 、 増尾 と いう 大学生 と 会う と 嘘 を ついて 別れた とい う 。 その 上 、 待ち合わせ して いた に も かかわら ず 、 その 男 と は 二 、 三 言 、 話 を した だけ で 別れ 、 偶然 会った 増尾 の 車 に 乗った 。 間違い なく 自分 たち が 育てた 娘 な のに 、 その 夜 の 状況 を いくら 聞か されて も 、 まった 327 鋪 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? く 娘 の 顔 が 重なら ない 。 まるで 見 も 知ら ぬ 女性 が 佳乃 の ふり を して 、 そこ に いた ような 気 が して なら ない 。 三瀬 峠 に 着いた 二 人 は 車 内 で 口論 に なった と いう 。 どんな 口論 な の か 知ら ない が 、 そ いつ は 俺 の 娘 を 車 から 蹴り出した 。 あの 暗い 峠 の 旧道 に 、 俺 の 娘 を 蹴り出した 。 その あと 、 何 が 起こった の か まだ はっきり と は 分から ない と 刑事 は 言う 。 ただ 、 東 公 園 で 実際 に 待ち合わせて いた 男 が 、 何 か 知っている 可能 性 は 高い と 言う 。 ずっと 大学生 が 犯人 だ と 思って いた 。 もしも 見つかったら 、 この 手 で 殺して やる と 誓った こと も ある 。 別府 や 湯布院 で 手広く 観光 業 を やって いる と いう そ いつ の 両親 の 前 で 、 息子 を 殺して やろう と 誓い 、 やっと 眠れる 夜 も あった 。 気 が つけば 、 その 大学生 が 犯人 で あって くれ と 願う 自分 が いた 。 そう で なければ 、 娘 が 誰 か 見知らぬ 男 に 、 それ も いかがわしい 何 か で 知り合った 男 に 命 を 奪わ れた こと に な る 。 俺 の 娘 が テレビ や 雑誌 が 面白がって 書いて いる ような 、 そんな 女 である はず が ない 。 俺 の 娘 は たまたま 馬鹿な 大学生 と 付き合って 、 その 男 に 殺さ れた のだ 。 日頃 、 テレビ や むし ず 雑誌 で 見聞き する 、 虫 酸 の 走る ような 若い 娘 たち と 同じである はず が ない 。 なぜなら 佳 乃 は 、 この 俺 と 里子 が 大切に 大切に 育てた 娘 だ 。 こんなに 大切に 育てた 娘 が 、 テレビ や 雑誌 で バカに さ れる 、 あんな 女 たち の ように なる わけ が ない 。 佳男 は じっと 見つめて いた 正面 の 鏡 に 、 握りしめて いた 白衣 を 投げつけた 。 鏡 を 割る

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悪人 下 (6) あくにん|した villain| Evil Man (6) 惡棍第二部 (6)

寝室 の 明かり を 消す と 、 房枝 は いったん 布団 に 座り込み 、 音 を 立て ない ように 這って 窓際 に 寄った 。 しんしつ||あかり||けす||ふさえ|||ふとん||すわりこみ|おと||たて|||はって|まどぎわ||よった bedroom||||||Fusae||for a moment|futon||sat||||||crawling|by the window||moved After turning off the bedroom light, Fusae sat down on her futon and crawled to the window, trying not to make a sound. 震える 手 で カーテン を 少し だけ 開けて みる 。 ふるえる|て||かーてん||すこし||あけて| shaking|||||||| With trembling hands, try to open the curtains a little. 窓 の 外 に は ブロック 塀 が あ り 、 何 ヵ 所 か ブロック が 抜けて いる 部分 から 、 細い 通り が 見える 。 まど||がい|||ぶろっく|へい||||なん||しょ||ぶろっく||ぬけて||ぶぶん||ほそい|とおり||みえる |||||block|block wall|||||several|||||||||narrow||| ||||||block wall||||||||||||||||| There is a block wall outside the window, and a narrow street can be seen through some of the missing blocks. さっき まで 停 まって いた パトカー は ない 。 ||てい|||ぱとかー|| |||||police car|| その代わり 、 黒 塗り の 車 が 一 台 あって 、 明かり の ついた 車 内 で 若 い 私服 の 刑事 が 誰 か と 携帯 で 話 を して いる 。 そのかわり|くろ|ぬり||くるま||ひと|だい||あかり|||くるま|うち||わか||しふく||けいじ||だれ|||けいたい||はなし||| ||painted|||||||||||||||plainclothes|||||||||||| 一 時間 ほど 前 、 房枝 は 祐一 に 電話 を かけた 。 ひと|じかん||ぜん|ふさえ||ゆういち||でんわ|| ||||Fusae|||||| 目の前 に は 近所 の 駐在 さん の 他 に 、 私服 の 刑事 が 二 人 いた 。 めのまえ|||きんじょ||ちゅうざい|||た||しふく||けいじ||ふた|じん| |||||police officer||||||||||| |||||駐在所||||||||||| 正直 、 何もかも が 急な 話 で 、 言わ れる まま 祐一 に 電話 を する の が やっと だった 。 しょうじき|なにもかも||きゅうな|はなし||いわ|||ゆういち||でんわ|||||| honestly|||sudden|||||||||||||| ||||||||||||||||やっとのこと| かける 前 に 、 自分 たち の こと は 言う な 、 と 忠告 されて いた のに 、 つい 、 「 今 、 警察 の 人 が 来 と ん なっと さ 」 と 言って しまった 。 |ぜん||じぶん|||||いう|||ちゅうこく|さ れて||||いま|けいさつ||じん||らい|||な っと|||いって| |||||||||||advice|||||||||||||don't|||| I had been advised not to mention ourselves before calling, but I said, "The police just got here, didn't they?" 祐一 は その 一言 で 電話 を 切った 。 ゆういち|||いちげん||でんわ||きった |||a word|||| Yuichi hung up the phone with one word. 何もかも が 、 あまりに やぶ から ぼう だった 。 なにもかも|||||| ||too much|suddenly||suddenly| |||やぶれた||| Everything was on the edge. 犯人 だ と 思われて いた 福岡 の 大学生 が 、 実は 犯人 で は なかった 。 はんにん|||おもわ れて||ふくおか||だいがくせい||じつは|はんにん||| A university student in Fukuoka who was thought to be the murderer was actually not the murderer. なかった から と 言って 、 なんで 刑事 たち が ここ へ 来る の か 分 か 「 祐一 は 関係 なか です よ 」 房枝 が 何度 震える 声 で 話して も 、 刑事 たち は 「 とにかく 携帯 に かけて みて 下さい 」 と 譲ら なかった 。 |||いって||けいじ|||||くる|||ぶん||ゆういち||かんけい||||ふさえ||なんど|ふるえる|こえ||はなして||けいじ||||けいたい||||ください||ゆずら| |||||||||||||||||||||Fusaeda||||||||||||||||||would not yield| Fusae did not know why the detectives were coming here, saying, "Yuichi had nothing to do with it." No matter how many times Fusae spoke in a trembling voice, they insisted, "Just try calling him on his cell phone. 房枝 が 思わず 、 警察 が 来て いる こと を 告げた 瞬間 、 男 たち の 表情 が 怒り と 落胆 に 歪んだ 。 ふさえ||おもわず|けいさつ||きて||||つげた|しゅんかん|おとこ|||ひょうじょう||いかり||らくたん||ゆがんだ Fusae|||police||||||informed|||||||anger||disappointment||twisted ||||||||||||||||||失望||歪んだ When Fusae unintentionally announced that the police were on their way, the men's expressions twisted into anger and disappointment. 使え ない 婆さん だ と 思った のだろう が 、 その 表情 が 漢方 薬 を 無理やり 売りつけた 男 たち に そっくりだった 。 つかえ||ばあさん|||おもった||||ひょうじょう||かんぽう|くすり||むりやり|うりつけた|おとこ||| ||old woman|||||||||traditional Chinese medicine||||forced to sell|||| They must have thought she was a useless old woman, but her expression looked just like the men who forcefully sold her the Chinese medicine. 「 さっさと サイン しろ よ 」 と イライラ し ながら 詰 め 寄って きた 男 たち に 。 |さいん||||いらいら|||つ||よって||おとこ|| quickly||||||||press|||||| The men who came up to me, annoyed, saying, "Come on, sign here!" 房枝 は 少し だけ 開けた カーテン から 指 を 離した 。 ふさえ||すこし||あけた|かーてん||ゆび||はなした Kazue||||||||| Fusae took her fingers away from the curtains, which were slightly ajar. いつも は 波 の 音 しか 聞こえ ない この 界隈 に 、 土地 の 者 で は ない 男 たち が 何 人 も うろうろ して いる 雰囲気 は 、 窓 を 閉めて も 、 カーテン を 閉めて も 伝わって くる 。 ||なみ||おと||きこえ|||かいわい||とち||もの||||おとこ|||なん|じん|||||ふんいき||まど||しめて||かーてん||しめて||つたわって| |||||||||neighborhood||||||||||||||wandering around|||||||||||||| The atmosphere of this neighborhood, where usually only the sound of the waves can be heard, is filled with men who are not from the area, even when the windows are closed and the curtains are drawn. カーテン を 閉めて 、 壁 を 背 に しゃがみ込んだ 。 かーてん||しめて|かべ||せ||しゃがみこんだ |||wall||back||crouched I closed the curtains and crouched down against the wall. 自分 が ひどく 震えて いる の が 、 その 壁 から 伝わって くる 。 じぶん|||ふるえて|||||かべ||つたわって| |||shaking|||||||conveyed| I can feel through the wall that I am trembling terribly. じっと して いる と 、 震え が 増して 、 気 を 失い そうだった 。 ||||ふるえ||まして|き||うしない|そう だった motionless||||trembling||increased|||losing consciousness| 捕まった 福岡 の 大学生 は 、 祐一 の 女 友達 を 殺して いない らしい 。 つかまった|ふくおか||だいがくせい||ゆういち||おんな|ともだち||ころして|| 大学生 が 彼女 を 峠 まで 連れて 行った の は 確かだ が 、 その先 の 話 が 食い違う と いう 。 だいがくせい||かのじょ||とうげ||つれて|おこなった|||たしかだ||そのさき||はなし||くいちがう|| ||||||||||||||||to disagree|| ||||||||||||||||食い違う|| It is certain that the college student took her to the mountain pass, but the rest of the story is not correct. 彼女 を 自分 の 車 に 乗せる 前 、 彼女 は 東公園 と いう 場所 で 白い スカイライン に 乗った 別の 男 と 会って いた 。 かのじょ||じぶん||くるま||のせる|ぜん|かのじょ||ひがしこうえん|||ばしょ||しろい|すかいらいん||のった|べつの|おとこ||あって| ||||||||||East Park||||||skyline||||||| Before I took her to my car, she was meeting another man in a white Skyline at a place called East Park. その 男 が 、 祐一 に 似て いる らしい 。 |おとこ||ゆういち||にて|| The man looks like Yuichi. 房枝 は 這う ように 廊下 へ 出て 、 電話 の ある 台所 へ 向かった 。 ふさえ||はう||ろうか||でて|でんわ|||だいどころ||むかった branch||crawled||hallway|||||||| 手のひら に 床 の 冷た さ が 痛い 。 てのひら||とこ||つめた|||いたい |||||||hurts The coldness of the floor hurts my palms. 真っ暗な 台所 で 房枝 は 電話 を 棚 から 下ろして 抱え込んだ 。 まっくらな|だいどころ||ふさえ||でんわ||たな||おろして|かかえこんだ pitch dark|||||||shelf|||held tightly In the darkened kitchen, Fusae pulls the phone down from the rack and cradles it in her arms. 受話器 を 上げ 、 震える 指 で 憲夫 の 家 に 電話 を かけた 。 じゅわき||あげ|ふるえる|ゆび||のりお||いえ||でんわ|| ||||||Nobuo|||||| I lifted the receiver and called Norio's house with trembling fingers. かなり 長い 間 、 呼び出し 音 が 鳴った あと 、 眠 そうな 憲夫 の 声 が 聞こえる 。 |ながい|あいだ|よびだし|おと||なった||ねむ|そう な|のりお||こえ||きこえる ||||||||||けんお|||| 「 もしもし ? うち 、 房枝 。 |ふさえ 寝 とった ? ね| Did you sleep? 」 不機嫌 そうな 憲夫 に 、 房枝 は 早口 で そう 言った 。 ふきげん|そう な|のりお||ふさえ||はやくち|||いった sullen||||||fast||| Fusae spoke quickly to Norio, who looked unhappy. 相手 が 房枝 だ と 分かり 、 電話 の 向こう の 憲夫 の 声 が 緊張 し 、「 じいさん に なんか あった と ね ? あいて||ふさえ|||わかり|でんわ||むこう||のりお||こえ||きんちょう||||||| ||branch||||||||||||||||||| When Norio realized that it was Fusae, his voice on the other end of the line became strained and he asked, "Did something happen to grandpa? 」 と 訊 いて くる 。 |じん|| 「 いや 、 違う と ……」 と 房枝 は 言った 。 |ちがう|||ふさえ||いった ||||房枝|| ただ 、 その 次の 言葉 が 口 から 出て 来 ず 、 気 が つく と 、 畷 り 泣いて いた 。 ||つぎの|ことば||くち||でて|らい||き||||なわて||ないて| ||||||||||||||sobbing||| But the next word didn't come out of my mouth, and I found myself sobbing. 「 なん ね ? What is it? どうした と ? What's wrong? 」 受話器 の 向こう から 憲夫 の 声 が する 。 じゅわき||むこう||のりお||こえ|| 横 で 寝て いた 女房 も 起き 出した の か 、「…… 清 水 の ばあちゃん から けど 。 よこ||ねて||にょうぼう||おき|だした|||きよし|すい|||| ||||wife||||||clear||||| なんか 知ら ん 。 |しら| …… いや 、 じいちゃん じゃ なかって 」 など と 説明 する 憲夫 の 声 が 聞こえる 。 |||なか って|||せつめい||のりお||こえ||きこえる |||not at all||||||||| 「 祐一 が 、 帰って こ ん の や もん ね .:…」 は な 房枝 は 漢 を 畷 り ながら 、 それ だけ 言った 。 ゆういち||かえって|||||||||ふさえ||かん||なわて|||||いった |||||||||||||man||field||||| I'm not sure if Yuichi is going to be able to come back..." Fusae said this while taking her hands off Han. 「 祐一 が ? ゆういち| Yuichi? 帰って こ んって 、 どこ 行った と ? かえって||ん って||おこなった| Where did he go when he didn't come back? 」 「…… それ が 分から ん と 。 ||わから|| なんか 知ら ん 、 警察 の 人 が 来て さ 」 「 警察 ? |しら||けいさつ||じん||きて||けいさつ 事故 でも 起こした ね ? じこ||おこした| 」 「 いや 、 違う と 。 |ちがう| うち に もよう 分から ん ……」 「 よう 分から ん て ……」 「 電話 して 、 警察 の 来 とるって 教えたら 、 電話 切られて し も うて ..….。 |||わから|||わから|||でんわ||けいさつ||らい|とる って|おしえたら|でんわ|きら れて||| ||appearance|||||||||||||told||||| なん も 関係 なか は ず と に 電話 ば 切る もん やけん ……」 涙声 で 続ける 房枝 の 話 を 訊 き ながら 、 憲夫 は 布団 から 這い 出て カーディガン を 羽織る 妻 実千代 に 目 を 向けて いた 。 ||かんけい||||||でんわ||きる|||なみだごえ||つづける|ふさえ||はなし||じん|||のりお||ふとん||はい|でて|||はおる|つま|みちよ||め||むけて| |||||||||||||tearful voice||||||||||||||crawled|crawled out|||putting on|wife|Michiyo||||| |||||||||||||||||||||||||||||||着る||||||| Norio crawled out of the futon and looked at his wife, Jichiyo, who was putting on a cardigan as Fusae continued in tears. ...... 「 とにかく 、 すぐ そっち に 行く けん 。 ||||いく| Anyway, I'll be there soon. 電話 じゃ よう 分から ん 。 でんわ|||わから| I don't know what to tell you on the phone. よ かね 、 そこ に おら ん ば よ ・ 車 で すぐに 行く けん 」 憲夫 は それ だけ 言う と 、 一方的に 電話 を 切り 、 心配 そうな 実千代 に 、「 祐一 が 、 なん か しでかした ご たる 」 と 眩 いた 。 ||||||||くるま|||いく||のりお||||いう||いっぽうてきに|でんわ||きり|しんぱい|そう な|みちよ||ゆういち||||||||くら| |||||||||||||||||||unilaterally||||worry||Michiyo||||||did something||||| Norio hung up the phone after saying that, and glared at a worried Jichiyo, "Yuichi did something wrong. 「 祐 ちゃん が 何 を ? たすく|||なん| Yuu|||| What did Yu-chan do? 」 「 知ら ん 。 しら| I don't know. 喧嘩 か 何 か やろ 。 けんか||なん|| fight|||| ばあさん が 泣き ながら 話す もん やけん 、 ょう 分から ん 」 憲夫 は 立ち上がって 蛍光 灯 を つけた 。 ||なき||はなす||||わから||のりお||たちあがって|けいこう|とう|| |||||||probably||||||||| Norio got up and turned on the fluorescent light. 壁 の 時計 は すでに 十一 時 半 を 回って いる 。 かべ||とけい|||じゅういち|じ|はん||まわって| The clock on the wall has already struck eleven and a half. 憲夫 は 乱れた 布団 の 上 で パジャマ を 脱ぎ捨てる と 、 枕元 に 畳んで 置かれて いる 作業 服 を 手 に 取った 。 のりお||みだれた|ふとん||うえ||ぱじゃま||ぬぎすてる||まくらもと||たたんで|おか れて||さぎょう|ふく||て||とった ||messed up|||||pajamas||took off||beside the pillow||folded|||||||| Norio took off his pajamas on the messy futon and picked up his work clothes, which were folded under his pillow. さっき まで ストーブ を つけて いた のに 、 アンダー シャツ だけ に なる と 身震い す る ほど 寒かった 。 ||すとーぶ|||||あんだー|しゃつ|||||みぶるい||||さむかった |||||||undershirt||||||shivering|||| |||||||アンダーシャツ|||||||||| 「 なん の あった か 知ら ん けど 、 祐 ちゃん 、 殴ったり したら 駄目 よ ! ||||しら|||たすく||なぐったり||だめ| |||||||||hitting||| I don't know what happened, but you can't hit me, Yu-chan! あん 子 に は うち ら しか 頼れ ん の やけん 、 味方 に なって やら ん ば ……」 着替え を 手伝おう と する 実千代 に 言わ れ 、 憲夫 は 、「 分かつ とる ! |こ||||||たよれ||||みかた||||||きがえ||てつだおう|||みちよ||いわ||のりお||ぶんかつ| |||||||rely||||ally||||||changing clothes||help|||||||||understand| When Jichiyo tried to help him get dressed, Norio told her, "Take one, take one! 」 と 怒鳴り 返した 。 |どなり|かえした |yelled| I yelled back. 喧曄 か 、 交通 事故 か ? けんよう||こうつう|じこ| noisy|||| 憲夫 は 上着 の ボタン も 止め ず に 飛び出した 。 のりお||うわぎ||ぼたん||とどめ|||とびだした す 仕事 で 使って いる ワゴン 車 に 乗り込み 、 憲夫 は 祐一 の 家 へ 向かった 。 |しごと||つかって||わごん|くるま||のりこみ|のりお||ゆういち||いえ||むかった ||||||||got on||||||| 県道 は 空いて お り 、 海 沿い に 並んだ 信号 も 気持ち が いい ほど 青 が 並んで いる 。 けんどう||あいて|||うみ|ぞい||ならんだ|しんごう||きもち||||あお||ならんで| prefectural road|||||sea|along||lined up|||||||||| 憲夫 は 胸騒ぎ が して いた 。 のりお||むなさわぎ||| ||uneasiness||| ||胸騒ぎ||| Norio was feeling uneasy. 入院 中 の じいさん が 死んだ わけで も ない のに 、 そんな 鈍い 興奮 が からだ を 包んで いる 。 にゅういん|なか||||しんだ||||||にぶい|こうふん||||つつんで| |||||||||||dull|excitement||||wrapped| Even though my grandpa in the hospital is not dead, I feel such a dull excitement in my body. 喧嘩 に しろ 、 事故 に しろ 、 もしも 祐一 が 怪我 を して いる の なら 、 明日 は 仕事 を 休ま な ければ なら ない 。 けんか|||じこ||||ゆういち||けが||||||あした||しごと||やすま|||| fight|||||||||injury||||||||||||must|| If Yuichi is injured, whether in a fight or in an accident, he has to take tomorrow off from work. まだ 何 が どう なって いる の か 分から ない が 、 早い うち に 吉岡 か 倉 見 に 、 連絡 を 入れて おいた ほう が いい かも しれ ない 。 |なん|||||||わから|||はやい|||よしおか||くら|み||れんらく||いれて||||||| |||||||||||||locative particle|Yoshioka|||||||||||||| 明日 は 各自 で 現場 に 向かって もらい 、 作 業 の 指示 は 携帯 から 入れれば いい 。 あした||かくじ||げんば||むかって||さく|ぎょう||しじ||けいたい||いれれば| ||each person||site|||||||work instructions||||put| Tomorrow, you will go to the site on your own, and instructions for the work will be sent from your cell phone. 明日 の 心配 を して いる うち に 、 車 は 祐一 が 暮らす 漁村 へ と 入って いた 。 あした||しんぱい||||||くるま||ゆういち||くらす|ぎょそん|||はいって| ||||||||||||living|fishing village|||| While I was worrying about tomorrow, the car was entering the fishing village where Yuichi lives. 月 明かり を 浴 び た 港 内 は 凪ぎ 、 係留 さ れた 漁船 が 波 に 動く 気配 も ない 。 つき|あかり||よく|||こう|うち||なぎ|けいりゅう|||ぎょせん||なみ||うごく|けはい|| moon|||bathed||||||calm|moored|||fishing boat||||||| 月|||||||||静か|moored|||||||||| The harbor was calm under the moonlight, and there was no sign of the moored fishing boats moving in the waves. ただ 、 いつも は がらんと した 岸壁 に 、 見慣れ ぬ 車 が 三 、 四 台 停 まり 、 こんな 夜中 な のに 、 立ち話 を して いる 人影 が い くつ も ある 。 |||||がんぺき||みなれ||くるま||みっ|よっ|だい|てい|||よなか|||たちばなし||||ひとかげ||||| |||empty||pier||not familiar|||||||||||||standing conversation||||shadow|||shoes|| However, there are three or four unfamiliar cars parked on the usually deserted quay, and several people are standing around talking to each other, even at this time of night. 憲夫 は スピード を 弛 め て 岸壁 へ 入った 。 のりお||すぴーど||ち|||がんぺき||はいった ||||loosened|||pier|| ||||減速し||||| Norio slackened his speed and entered the quay. 車 の ライト が 漁船 を 照らし 、 岸壁 に 立って いる 制服 姿 の 警官 や 、 心配 して 出て きた らしい 住人 たち の 顔 が 浮かぶ 。 くるま||らいと||ぎょせん||てらし|がんぺき||たって||せいふく|すがた||けいかん||しんぱい||でて|||じゅうにん|||かお||うかぶ ||||fishing boat|||pier|||||uniform|||||||||residents||||| Car lights illuminate the fishing boats, and the faces of uniformed policemen standing on the quay and residents who seem to have come out of concern come into view. 車 を 停めて ライト を 消す と 、 岩場 の フナムシ の ように 住人 たち が 集まって くる 。 くるま||とめて|らいと||けす||いわば||ふなむし|||じゅうにん|||あつまって| |||||||rocky place||woodlice||||||| |||||||rocky area||フナムシ||||||| 憲夫 は 思わず ぞっと して 、 ドア を 開ける と 外 へ 飛び出した 。 のりお||おもわず|||どあ||あける||がい||とびだした |||suddenly shivered|||||||| 「 あら 、 憲夫 さん ! |のりお| 」 真っ先 に 声 を かけて きた の は 町内会 長 で 、「 なん ね ? まっさき||こえ||||||ちょうないかい|ちょう||| first||||||||neighborhood association|||| 祐一 が なん した と ね ? ゆういち||||| 」 と 寒 さ に 首 を 縮め ながら 寄って くる 。 |さむ|||くび||ちぢめ||よって| |cold|||||shrinking||| The cold and the coldness of the air made her neck shrink as she came close to me. 向こう で 誰 か が 、「 あり や 、 祐一 の おじ です もん ね 」 と 警官 に 説明 する と 説明 を 受けた 若い 警官 が 、 慌てて 駆け寄って きて 、「 あれ 、 今 、 お たく に 警官 が 向かいません でした か ? むこう||だれ|||||ゆういち|||||||けいかん||せつめい|||せつめい||うけた|わかい|けいかん||あわてて|かけよって|||いま||||けいかん||むかい ませ ん|| ||||||||||||||||||||||||||ran over|||||||||didn't come|| Someone over there explained to the policeman that he was Yuichi's uncle, and the young policeman who received the explanation rushed over to him and said, "Hey, didn't a policeman just come to your place? 」 と 訊 いて くる 。 |じん|| He asks, "What do you want me to do? 憲夫 は 、「 いえ 」 と 首 を ふった 「 ばあさん から 電話 もろ うて 、 すぐ 出て きました けん 」 と 。 のりお||||くび|||||でんわ||||でて|き ました|| ||||||shook|||||||||| Norio shook his head, "No," he said, "Grandma called me and I came right out. 「 あら 、 そう です か 。 "Oh, is that so? じゃ 、 行き違い やった と やる か ? |ゆきちがい|||| |misunderstanding|||| So, we'll just say it was a misunderstanding. 」 「 うち なら 女房 が おります けど ..…・」 警官 は 遠く に 停めて ある パトカー に 向かって 、「 被疑者 の おじさん が ここ に 来 とりま すよ ! ||にょうぼう||おり ます||けいかん||とおく||とめて||ぱとかー||むかって|ひぎしゃ||||||らい|| ||||||||||||police car|||suspect||||||will come|for now| The policeman turned to a police car parked far away and said, "The suspect's uncle is here! 」 と 怒鳴った 。 |どなった I yelled at him. パトカー の ドア が 開き 、 雑音 混じり の 無線 の 音 が すぐ そこ の 波 音 に 混じる 。 ぱとかー||どあ||あき|ざつおん|まじり||むせん||おと|||||なみ|おと||まじる |||||noise|||radio||||||||||mixed The doors of the police car open, and the sound of the noisy radio soon mingles with the sound of the waves there. 「 ちょっと 話 ば 訊 か せて もろう て も よか です か ? |はなし||じん|||||||| 祐一 くん 、 おたく で 働 い とる と でし よ ? ゆういち||||はたら||||| ||your house||||||is| ||あなたの家||||||| Yuichi, are you working for your family? .」 気 が つく と 、 憲夫 は 刑事 と 住人 たち に 囲まれて いた 。 き||||のりお||けいじ||じゅうにん|||かこま れて| |||||||||||surrounded by| Norio found himself surrounded by detectives and other residents. 「 とにかく 、 ばあさん に 会う て から でよ か です か ? |||あう|||||| Anyway, can I see my grandmother first? 」 翌朝 、 街道 沿い の コンビニ で 、 光代 は 三万 円 を 引き出した 。 よくあさ|かいどう|ぞい||こんびに||てるよ||さんまん|えん||ひきだした the next morning||||||||thirty thousand||| The next morning, at a convenience store along the street, Mitsuyo withdrew 30,000 yen. 高校 卒業 から 十 年間 、 こ つ こつ と 貯 め た 多少 の 貯金 は ある のだ が 、 定期 に して いる ため 、 普通 預金 に は 当面 必要 な 額 しか 入って おら ず 、 三万 円 引き出す と 心細い 残金 に なる 。 こうこう|そつぎょう||じゅう|ねんかん|||||ちょ|||たしょう||ちょきん|||||ていき|||||ふつう|よきん|||とうめん|ひつよう||がく||はいって|||さんまん|えん|ひきだす||こころぼそい|ざんきん|| |||||||little by little||||||||||||fixed deposit||||||savings|||for the time being|||amount|||||||||feeling uneasy|remaining balance|| |||||この||||||||||||||定期預金|||||||||||||||||||||心細い||| I have some savings that I have been accumulating over the past ten years since I graduated from high school, but because I have a fixed deposit account, I only have enough in my savings account for my immediate needs. 三万 円 を 財布 に 入れて 、 光代 は レジ で 温かい お茶 を 二 本 と おにぎり を 三 つ 買った 。 さんまん|えん||さいふ||いれて|てるよ||れじ||あたたかい|おちゃ||ふた|ほん||||みっ||かった ||||||||||warm||||||rice balls|||| With 30,000 yen in her wallet, Mitsuyo bought two bottles of hot tea and three onigiri at the cash register. 支 払い を する 際 、 外 へ 目 を 向ける と 、 少し 離れた 場所 に 停められた 車 の 中 から 、 じっと こ ちら を 見つめて いる 祐一 が いた 。 し|はらい|||さい|がい||め||むける||すこし|はなれた|ばしょ||とめ られた|くるま||なか||||||みつめて||ゆういち|| コンビニ を 出て 、 光代 は 温かい お茶 を 両手 に 祐一 の 車 に 駆け寄った 。 こんびに||でて|てるよ||あたたかい|おちゃ||りょうて||ゆういち||くるま||かけよった 窓 を 開けた 祐一 に 二 本 の お茶 を 渡し 、 会社 に 連絡 を 入れよう と 携帯 を 取り出した 。 まど||あけた|ゆういち||ふた|ほん||おちゃ||わたし|かいしゃ||れんらく||いれよう||けいたい||とりだした |||||||||||||contact|||||| She opened the window, handed Yuichi two bottles of tea, and took out her cell phone to call the company. おお しろ 電話 に 出た の は 店長 の 大城 だった 。 ||でんわ||でた|||てんちょう||おおしろ| |||||||||Oshiro| Oshiro: It was Oshiro, the store manager, who answered the phone. てっきり 売り場 主任 の 水谷 和子 が 出る と 思って い た 光代 は 、 一瞬 焦り は した が 、 すぐに 、「 あの 、 すいません 、 馬 込 です けど 」 と わざと 暗い 声 を 出した 。 |うりば|しゅにん||みずたに|かずこ||でる||おもって|||てるよ||いっしゅん|あせり|||||||うま|こみ|||||くらい|こえ||だした surely||section chief|||||||||||||panic|||||||||||||low||| Mitsuyo, who had been expecting Kazuko Mizutani, the sales floor manager, to answer the door, became impatient for a moment, but soon after, she deliberately said in a dark voice, "Um, excuse me, this is Magome. 父親 の 具合 が 急に 悪く なって 、 申し訳ない のだ が 、 今日 は 仕事 を 休ま せて ほしい 。 ちちおや||ぐあい||きゅうに|わるく||もうしわけない|||きょう||しごと||やすま|| father|||||||||||||||| 準 備 して いた 科白 を すら すら と 言い 終えた 。 じゅん|び|||せりふ|||||いい|おえた preparation|preparation|||lines|||||| 「 あ 、 そう 。 そりゃ 、 大変 や ねえ 」 きせん 憲夫 は 毅然と した 声 で 遮った ㈹ |たいへん||||のりお||きぜんと||こえ||さえぎった ||||certainly|||firmly||||interrupted

店長 の 素っ気ない 声 が 聞こえて くる 。 てんちょう||そっけない|こえ||きこえて| ||blunt|||| I can hear the manager's curt voice. 「…。 ".... : いや あ 、 実は さ 、 この 前 面接 に 来た 女の子 、 結局 、 今日 の 午後 から 働いて もらう きり しま ことに なって 、 そいで カジュアルコーナー の 霧島 さん に スーッコーナー に 移って もら お うか と 思う とった と よ 」 休暇 願い の 電話 を かけた のに 、 店長 は 人事 の 話 を 始めた 。 ||じつは|||ぜん|めんせつ||きた|おんなのこ|けっきょく|きょう||ごご||はたらいて|||||||||きりしま|||||うつって|||||おもう||||きゅうか|ねがい||でんわ||||てんちょう||じんじ||はなし||はじめた ||||||interview|||||today|||||||||||casual corner||Kirishima|||suit corner|||to work||||||||vacation|request||||||||personnel|||| I called to ask for a leave of absence, but the manager started talking about personnel matters. 「 でも あれ や ねえ 、 長引いたら 大変 や ねえ 。 ||||ながびいたら|たいへん|| ||||if it drags on||| "But you know what? If it goes on too long, it's going to be a disaster. でも 店 の ほう も 歳末 バーゲン 時期 やし ….:。 |てん||||さいまつ|ばーげん|じき| |||||year-end|bargain|| But it's the end of the year and bargain season for stores too... まあ 、 とにかく 状況 分かったら 連絡 入れて よ 」 店長 は それ だけ 言う と 電話 を 切った 。 ||じょうきょう|わかったら|れんらく|いれて||てんちょう||||いう||でんわ||きった ||situation|if you understand|||||||||||| Well, call me when you know what's going on," was all the manager said and hung up the phone. 申し訳ない と 思い ながら かけた わりに 、 あまり に も 素っ気ない 店長 の 応対 に 、 正直 、 バカに さ れた ような 気分 だった 。 もうしわけない||おもい|||||||そっけない|てんちょう||おうたい||しょうじき|ばかに||||きぶん| |||||||||cold||||||||||| |||||||||冷たい||||||||||| I felt sorry for calling, but the manager was so curt that I honestly felt like I was being made fun of. ほんの 数 分 、 外 に 立って いた だけ な のに 、 だだっ広い 駐車 場 を 吹き抜ける 寒風 で 、 指 先 が 冷たかった 。 |すう|ぶん|がい||たって|||||だだっぴろい|ちゅうしゃ|じょう||ふきぬける|かんぷう||ゆび|さき||つめたかった ||||||||||very wide||||blew through|cold wind||||| I had only been standing outside for a few minutes, but my fingers were cold from the cold wind blowing through the huge parking lot. 助手 席 に 乗り込む と 、 すぐに 祐一 が 温かい お茶 を 渡して くれる 。 じょしゅ|せき||のりこむ|||ゆういち||あたたかい|おちゃ||わたして| 「 今日 、 仕事 休むって 電話 した 」 と 光代 は 微笑んだ 。 きょう|しごと|やすむ って|でんわ|||てるよ||ほおえんだ ||taking off||||||smiled 祐一 は ただ 、「 ごめん 」 と 謝った 。 ゆういち|||||あやまった 昨夜 、 アパート 前 を 走り出した 車 は バイパス を 抜け 、 ちょうど 高速 道路 に 沿う ように して 、 武雄 方面 へ 向かった 。 さくや|あぱーと|ぜん||はしりだした|くるま||ばいぱす||ぬけ||こうそく|どうろ||そう|||たけお|ほうめん||むかった ||||||||||just|||||||Takeo|direction|| Last night, the car that started out in front of my apartment left the bypass and headed toward Takeo, just along the highway. 真っ平らだった 道 が 、 徐々に 起伏 を 始め 、 山間 部 へ 入り込 む 辺り まで 来て も 、 祐一 は 一言 も 口 を 開か なかった 。 まっ たいらだった|どう||じょじょに|きふく||はじめ|さんかん|ぶ||はいりこ||あたり||きて||ゆういち||いちげん||くち||あか| completely flat|||gradually|undulation|||mountain area|||entered||||||||||||| The road, which had been flat, gradually began to undulate, and when it reached the point where it entered the mountainous area, Yuichi did not open his mouth to speak. 「 ねえ 、 どこ 行く と ? ||いく| "Hey, where are you going? 」 319 第 1 叫 章 彼 は 郡 に 出会った か ? だい|さけ|しょう|かれ||ぐん||であった| |call||||county||| 319 Chapter 1: Did he meet the county? 走る こと すでに 十五 分 、 さすが に 気持ち も 落ち着いて きて 、 光代 は そう 尋ねた が 、 そ れ でも 祐一 は 答え ない 。 はしる|||じゅうご|ぶん|||きもち||おちついて||てるよ|||たずねた|||||ゆういち||こたえ| After fifteen minutes of running, Mitsuyo, who was now feeling more relaxed, asked Yuichi, but he did not answer her question. 「 この 車 、 奇麗に し とる ねえ 。 |くるま|きれいに||| ||beautifully||| "This car has taken on a beautiful appearance. 自分 で 掃除 する と やる ? じぶん||そうじ||| ||cleaning||| 」 ちり 光代 は 沈黙 に 耐え 切れ ず 、 塵 一 つ ない ダッシュ ボード を 撫でた 。 |てるよ||ちんもく||たえ|きれ||ちり|ひと|||だっしゅ|ぼーど||なでた dust|||silence|||||dust||||||| ||||||||||||ダッシュボード||| 暖房 で 暖まった ボー ド の 感触 が さっき 抱きしめて きた 祐一 の 体温 を 思い出さ せる 。 だんぼう||あたたまった||||かんしょく|||だきしめて||ゆういち||たいおん||おもいださ| |||board|||texture|||hugged||||body temperature||| The warmth of the heated board reminds me of Yuichi's body warmth that I hugged earlier. 「 休み の 日 と か 、 する こと な いけ ん :…・」 走り出して 二十 分 近く 、 やっと 口 を 開いた 祐一 の 言葉 が これ だった 。 やすみ||ひ||||||||はしりだして|にじゅう|ぶん|ちかく||くち||あいた|ゆういち||ことば||| I was so happy to hear Yuichi finally open his mouth and say, "I don't have anything to do on my day off. 光代 は 思わず 吹 き 出した 。 てるよ||おもわず|ふ||だした Mitsuyo burst out laughing. あんなに 乱暴に 自分 を 連れ出して きた くせ に 、 こんな こと に は 素直に 答えて くれる 。 |らんぼうに|じぶん||つれだして||||||||すなおに|こたえて| that much||||took out||||||||honestly|| For someone who took her out so violently, she is so open and honest about something like this. 「 たまに 職場 の 先輩 の 旦那 さん の 車 で 送って もらう こと ある と やけど 、 そこ の 車 、 まる で ゴミ 箱 みたいに し とる と よ ・『 乗って 、 乗って 」って 言う と やけど 、「 どこ に 乗れば よ か と -? |しょくば||せんぱい||だんな|||くるま||おくって||||||||くるま|||ごみ|はこ||||||のって|のって||いう|||||のれば||| |workplace|||||||||||||||||||||||||||||||||||will I ride||| Sometimes, the husband of one of my senior workers gives me a ride home in his car, and it looks like a garbage can. 』って 感じ 」 光代 は 自分 で 自分 の 話 に 笑った 。 |かんじ|てるよ||じぶん||じぶん||はなし||わらった Mitsuyo laughed at her own story. ただ 、 横 を 見て も 、 祐一 の 表情 に 変化 は ない 。 |よこ||みて||ゆういち||ひょうじょう||へんか|| However, Yuichi's expression did not change when I looked to the side. 祐一 が とつぜん 車 を 停めた の は 、 小さな 村落 を 過ぎた 辺り で 、 これ から いよいよ 暗い 山道 に 入る と いう 場所 だった 。 ゆういち|||くるま||とめた|||ちいさな|そんらく||すぎた|あたり|||||くらい|やまみち||はいる|||ばしょ| |||||||||small village|||||||finally|dark|mountain road|||||| |||||||||village||||||||||||||| スピード を 落とした 車 が 、 ゆっくり と 路肩 へ 寄る と 、 砂 利 を 踏む タイヤ の 音 が 聞こえる 。 すぴーど||おとした|くるま||||ろかた||よる||すな|り||ふむ|たいや||おと||きこえる |||||||||approaches||gravel|gravel||||||| 一 カ所 だけ 途切れた ガード レール の 先 に は 、 小型 車 が 上って 行ける 程度 の 未 舗装 の 道 が 、 山中 へ 伸びて いる 。 ひと|かしょ||とぎれた|がーど|れーる||さき|||こがた|くるま||のぼって|いける|ていど||み|ほそう||どう||さんちゅう||のびて| |||interrupted||||||||||||about|||||||||| |||broken|||||||||||||||||||||| At the end of the guardrail, which is broken only in one place, there is a dirt road into the mountain, which a small car can climb up. 祐一 は エンジン を かけた まま 、 ライト だけ を 消した 。 ゆういち||えんじん||||らいと|||けした Yuichi turned off only the light with the engine running. フロント ガラス の 先 に あった 世 界 が 、 その 瞬間 に 消えて なく なる 。 ふろんと|がらす||さき|||よ|かい|||しゅんかん||きえて|| The world beyond the windshield disappears in that instant. 見る 場所 を 失った 光代 は 祐一 の ほう へ 目 を 向けた 。 みる|ばしょ||うしなった|てるよ||ゆういち||||め||むけた その 瞬間 、 祐一 の からだ が 覆いかぶさって くる 。 |しゅんかん|ゆういち||||おおいかぶさって| ||||||leaning over| ||||||覆いかぶさる| At that moment, Yuichi's body was covering me. 「 ちよ 、 ちょっと ……」 サイド ブレーキ が 邪魔な の か 、 自分 の 手 の 置き場 を 捜す 祐一 の イライラ した 力 が 伝わって くる 。 ||さいど|ぶれーき||じゃまな|||じぶん||て||おきば||さがす|ゆういち||いらいら||ちから||つたわって| |||||in the way|||||||||searching for|||||||| The most important thing to do is to make sure that you have a good understanding of what you're doing and how you're doing it. シート を 倒さ れ 、 光代 は 思わず 開き そうに なった 脚 を 閉じた 。 しーと||たおさ||てるよ||おもわず|あき|そう に||あし||とじた ||collapsed||||||||legs||closed The seat was knocked down, and Mitsuyo unintentionally closed her legs, which were about to open. 覆いかぶさって きた 祐一 は 、 唇 から 顎 へ 、 そして 首筋 に 乱暴な キス を 続けた 。 おおいかぶさって||ゆういち||くちびる||あご|||くびすじ||らんぼうな|きす||つづけた overlapping||||||jaw|||||||| Yuichi, who was covering him, kissed him roughly on the lips, chin, and neck. 妙に きっち り と 光代 の からだ は シート に 埋まり 、 まるで 縛られて いる ようだった 。 みょうに|き っち|||てるよ||||しーと||うずまり||しばら れて|| |exactly|||||||||buried||tied up|| |きっちり||||||||||||| 光代 は 窓 の 外 へ 目 を 向けた 。 てるよ||まど||がい||め||むけた 倒さ れた シート から 黒い 樹 々 の 向こう に 夜空 が 見えた 。 たおさ||しーと||くろい|き|||むこう||よぞら||みえた ||sheet||black|tree||||||| 星 の 多い 夜 だった 。 ほし||おおい|よ| 光代 は 乱暴に キス を 続ける 祐一 の 胸 を 、 ゆっくり と 押し戻した 。 てるよ||らんぼうに|きす||つづける|ゆういち||むね||||おしもどした ||||||||||||pushed back それ でも 祐一 が 抱き しめて くる ので 、 その 胸 を トントン と 優しく 叩いた 。 ||ゆういち||いだき|||||むね||とんとん||やさしく|たたいた ||||||||that|||gently tapped||gently| But Yuichi hugged me, and I gently tapped him on the chest. 一瞬 、 祐一 の 腕 から 力 が 抜ける 。 いっしゅん|ゆういち||うで||ちから||ぬける For a moment, Yuichi's strength drains from his arms. 「 どうした と ? "What's wrong? 」 と 光代 は 訊 いた 。 |てるよ||じん| 自分 の 息 が そのまま 祐一 の 口 に 入る ほど の 距離 だった 。 じぶん||いき|||ゆういち||くち||はいる|||きょり| |||||||||||||was 「 なん の あった と か 知ら ん けど 、 安心 して よか と よ 。 |||||しら|||あんしん|||| 私 、 ずっと 祐一 の そば に おる け ん 」 準備 して いた 言葉 で は なかった のに 、 自分 でも 驚く ほど すら すら 出て きた 。 わたくし||ゆういち|||||||じゅんび|||ことば|||||じぶん||おどろく||||でて| |||||||||||||||||||||smoothly||| 自分 の 言 葉 が 祐一 の 肌 に 染み込んで いく ようだった 。 じぶん||げん|は||ゆういち||はだ||しみこんで|| |||||||skin||soaked in|| 街灯 も ない 山道 の 路肩 に 、 ぽつんと 停め ら れた 車 の 中 、 自分 の 言葉 と 祐一 の 肌 だけ しか 、 そこ に は なかった 。 がいとう|||やまみち||ろかた|||とめ|||くるま||なか|じぶん||ことば||ゆういち||はだ|||||| streetlight|||mountain road||roadside||lonely||||||||||||||||||| 「 もし 、 話し とう ない なら 、 話さ んで よ か 。 |はなし||||はなさ||| 話して くれる まで 、 私 、 待つ けん 」 光代 は ゆっくり と 祐一 の からだ を 押し戻した 。 はなして|||わたくし|まつ||てるよ||||ゆういち||||おしもどした ||||||||||||||pushed back 素直に からだ を 起こした 祐一 が 、「 ど う して よか か 、 分から ん やった ……」 と 眩 く ・ 「 あの まま 帰る つもり やった 。 すなおに|||おこした|ゆういち|||||||わから||||くら||||かえる|| honestly||||||||||||||||||||| でも 、 ここ で 別れたら 、 もう 会え ん ような 気 が して 」 「 それ で 戻って きた と ? |||わかれたら||あえ|||き|||||もどって|| |||if we part|||||||||||| But I felt that if we parted, I wouldn't be able to see her again. 」 「 一緒に おり たかった 。 いっしょに|| I wish I could have been there with you. でも 一緒に おる に は どう すれば よか と か ……、 それ が 分から ん ように なって 」 シート を 起こした 光代 は 、 祐一 の 耳 に 触れた 。 |いっしょに|||||||||||わから||||しーと||おこした|てるよ||ゆういち||みみ||ふれた ||||||||||||||||||sat up|||||||touched I'm not sure what I'm supposed to do, but I don't know what I'm supposed to do. ずっと 暖かい 車 内 に いる のに 、 驚く ほ ど 冷たい 耳 だった 。 |あたたかい|くるま|うち||||おどろく|||つめたい|みみ| I was surprised at how cold my ears were after being in a warm car for so long. 「 あの まま 高速に 乗って 帰る はず や つた 。 ||こうそくに|のって|かえる||| "I was supposed to get on the highway and go home like that. けど 、 急に 昔 の こと 思い出して し も うて 」 「 昔 の こと ? |きゅうに|むかし|||おもいだして||||むかし|| ||old times||||||||| But I suddenly remembered something from the past." "The past? 」 「 子供 の ころ 、 おふくろ と 一緒に 親父 に 会い に 行った こと が あって ……、 その とき の こ と 」 無防備に 耳 を 触ら れ ながら 、 祐一 は そこ まで 言って 言葉 を 切った 。 こども|||||いっしょに|おやじ||あい||おこなった|||||||||むぼうびに|みみ||さわら|||ゆういち||||いって|ことば||きった ||||||father|||||||||||||defenselessly|||touched|||||||||| 祐一 が 何 か 問題 を 抱えて いる の は 分かる 。 ゆういち||なん||もんだい||かかえて||||わかる ||||||holding|||| I know that Yuichi has some kind of problem. それ が 知り たくて たまらない 。 ||しり|| I'm dying to know. でも 、 それ を 知る と 、 祐一 が 消 322 えて しまい そうな 気 も する 。 |||しる||ゆういち||け|||そう な|き|| |||||||might disappear|||||| But I also feel that Yuichi might disappear if he knew that. 光代 は 祐一 の 耳 を 撫で ながら 、「 一緒に おろう よ 」 と 言った 。 てるよ||ゆういち||みみ||なで||いっしょに||||いった |||||||||let's降りる||| Mitsuyo stroked Yuichi's ear and said, "Let's stay together. 一 台 の 車 が 横 を 走り抜ける 。 ひと|だい||くるま||よこ||はしりぬける |||||side|| A car drives by. 真っ暗だった フロント ガラス の 向こう の 世界 を 、 その 車 の ライト が 照らす 。 まっくらだった|ふろんと|がらす||むこう||せかい|||くるま||らいと||てらす pitch black||||||||||||| 遠く まで 伸びる ガード レール が 眩 しい ほど 白く 輝いた 。 とおく||のびる|がーど|れーる||くら|||しろく|かがやいた ||||||dazzling|||| 「 ねえ 、 今日 は どっか に 泊まって 、 明日 、 仕事 さ ぼって 二 人 で ドライブ せ ん ? |きょう||ど っか||とまって|あした|しごと||ぼ って|ふた|じん||どらいぶ|| |||||||||skip work|||||| 」 と 光代 は 言った 。 |てるよ||いった 「 だって 私 たち 、 まだ 呼子 の 灯台 も 行って ない と ょ 。 |わたくし|||よびこ||とうだい||おこなって||| ||||Yobuko||||||| We haven't even been to the lighthouse in Yobuko yet. この前 は 、 ほら 、 結局 ずっと ホテル に おった し 」 ずっと 触れて いた 祐一 の 耳 が 、 ゆっくり と 熱 を 取り戻す 。 この まえ|||けっきょく||ほてる|||||ふれて||ゆういち||みみ||||ねつ||とりもどす ||||||||||touched||||||||heat|| The last time, you know, I ended up staying at the hotel for a long time." Yuichi's ear, which had been touching him for a long time, slowly regained its heat. ◇ 理容 店 と 住居 を 仕切る 上がり 枢 に 座り込み 、 石橋 佳男 は 冬 Ⅱ を 浴びる 表通り を 見つめ て いた 。 りよう|てん||じゅうきょ||しきる|あがり|すう||すわりこみ|いしばし|よしお||ふゆ||あびる|おもてどおり||みつめ|| barber|||residence||partition||pivot|||Ishibashi|Yoshio Ishibashi|||||main street|||| |||||仕切る|上がり|上がり枢|||||||||main street|||| Yoshio Ishibashi was sitting on the upper floor that separates the barbershop from his residence, staring out at the street in the winter sun. 娘 の 葬儀 を 終えて もう 何 日 も 経つ と いう のに 、 まだ 一 度 も 店 を 開けて いない 。 むすめ||そうぎ||おえて||なん|ひ||たつ|||||ひと|たび||てん||あけて| daughter||funeral||finished|||||||||||||||| いつまでも 悲しみ に 暮れて いたって 生きて いけ ない し 、 今 は 年の瀬 、 普段 なら かき入れ どき で も ある 。 |かなしみ||くれて||いきて||||いま||としのせ|ふだん||かきいれ|||| |||dwelling on||||||||year's end|||bustling season|||| |||||||||||年末|||稼ぎ入れ|||| You can't live in a constant state of sadness, and now is the end of the year, so it's usually a time for a clean sweep. しかし 、 こう やって いざ 店 を 開けよう と する と 、 と たんに から だ から 力 が 抜けて しまう 。 ||||てん||あけよう|||||||||ちから||ぬけて| However, when the time comes to open the store, my body immediately relaxes. 開けた ところ で 、 客 は 来る のだろう か 。 あけた|||きゃく||くる|| If we open the door, will we get any customers? 来た ところ で 、 みんな 腫れ物 に 触る ように 話しかけて くる に 違いない 。 きた||||はれもの||さわる||はなしかけて|||ちがいない ||||sore spot||||||| ||||腫れ物||||||| 佳男 は もう 一 度 上がり 枢 から 立ち上がろう と 勢い を つけた 。 よしお|||ひと|たび|あがり|すう||たちあがろう||いきおい|| good man||||||pivot||||with force|| Yoshio went up one more time and gathered momentum to get up from the pivot point. 数 歩 前 へ 出て 、 あの 鍵 を 323 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? すう|ふ|ぜん||でて||かぎ||だい|よっ|しょう|かれ||だれ||であった| ||||||key|||||||||| Take a few steps forward, and give me the key. 323 CHAPTER IV WHO DOES HE MEET? 開け 、 表 へ 出て 看板 の コンセント を 入れ さえ すれば 、 また いつも の 日常 が 始まる はずだ 。 あけ|ひょう||でて|かんばん||こんせんと||いれ||||||にちじょう||はじまる| |surface|||||socket||||||||||| As soon as you open the door, go outside and plug in the sign, you should be back to your normal routine. だが 、 店 を 開けた ところ で 、 佳乃 が 戻って くる こと は ない 。 |てん||あけた|||よしの||もどって|||| However, opening the store does not mean that Yoshino will come back. 再び 座り込んだ 佳男 が 、 じっと 足元 を 見つめて いる と 、 ガラス ドア を ノック する 音 が 聞こえた 。 ふたたび|すわりこんだ|よしお|||あしもと||みつめて|||がらす|どあ||||おと||きこえた once again||||||||||||||||| Yoshio sat down again, staring at his feet, and then he heard a knock at the glass door. 顔 を 上げれば 、 葬儀 に も 来て いた 地元 署 の 刑事 が ガラス に 顔 を 貼り つけて 、 中 を 覗き込んで いる 。 かお||あげれば|そうぎ|||きて||じもと|しょ||けいじ||がらす||かお||はり||なか||のぞきこんで| ||if raised|funeral|||||local|police||||||||stuck||||| I looked up to see a detective from the local police station, who had been at the funeral, with his face glued to the glass, peering inside. 佳男 は 一 度 大きく ため息 を つき 、 重い 足取り で 刑事 の ため に ドア を 開けた 。 よしお||ひと|たび|おおきく|ためいき|||おもい|あしどり||けいじ||||どあ||あけた ||||||||heavy|heavy steps|||||||| 「 すいません 、 朝 早う から 」 刑事 が 場違いな 大声 を 出す 。 |あさ|はやう||けいじ||ばちがいな|おおごえ||だす ||||||out of place||| ||||||場違いな||| 「 いえ 、 そろそろ 店 開けよう かち 思う とった とこ です けん 」 と 佳男 は 無愛想に 答えた 。 ||てん|あけよう||おもう||||||よしお||ぶあいそうに|こたえた ||||I think|||||||||gruffly| 「 いや 、 実は です ね 、 もう 昨日 の ニュース で 聞か した かも しれ ん です けど 、 例の 大学生 が 見つかった と です よ 」 あまりに も 刑事 が さらっと 言う ので 、 佳男 は 思わず 、「 ああ 、 そう です か 」 と 答え そ うに なり 、 慌てて 、「 え ? |じつは||||きのう||にゅーす||きか|||||||れいの|だいがくせい||みつかった||||||けいじ|||いう||よしお||おもわず||||||こたえ||||あわてて| ||||||||||||||||that certain|||||||||||casually|||||||||||||likely||| The first thing that Yoshio did was to ask the detective, "What is it that you are looking for? なん ち ? What is it? 」 と 声 を 荒らげた 。 |こえ||あららげた |||raised He raised his voice. 「 いや 、 ですから 、 例の 大学生 が 名古屋 で 見つかり まして :…・」 「 な 、 なんで すぐに 教え ん と か ! ||れいの|だいがくせい||なごや||みつかり|||||おしえ||| 」 「 いや 、 夜中 に いろいろ こちら で 取り調べ を し まして ね 、 整理 して から 連絡 しよう と 思 い まして 」 佳男 は 嫌な 予感 が した 。 |よなか|||||とりしらべ|||||せいり|||れんらく|||おも|||よしお||いやな|よかん|| |midnight|||||interrogation|||||organization|||||||||||||| 例の 大学生 が 見つかった と いう こと は 、 やっと 佳乃 を 殺した 犯人 が 見つかった と いう こと な のに 、 目の前 の 刑事 から は その 興奮 が まったく 感じ取れ ない 。 れいの|だいがくせい||みつかった||||||よしの||ころした|はんにん||みつかった||||||めのまえ||けいじ||||こうふん|||かんじとれ| ||||||||||||||||||||||||||excitement|||could not sense| The fact that the university student was found means that Yoshino's murderer was finally found, but the detective in front of me couldn't feel that excitement at all. ふと 背後 から の 視線 を 感じて 振り返る と 、 妻 の 里子 が 四 つ ん 這い で こちら に 顔 を 出し て いる 。 |はいご|||しせん||かんじて|ふりかえる||つま||さとご||よっ|||はい||||かお||だし|| suddenly|behind||||||look back||||foster child|||||crawling|||||||| |||||||||||||四つ||||||||||| I suddenly felt a gaze from behind me and turned to see Satoko, my wife, crawling on all fours to face me. 「 奥さん も おいで でした か ? おくさん|||| "Was your wife there, too? いや 、 実は です ね 、 その 大学生 の 話 と 現場 の 状況 から 判 断 する と 、 どうも 犯人 は 別に おる ような んです よ 。 |じつは||||だいがくせい||はなし||げんば||じょうきょう||はん|だん||||はんにん||べつに|||| |||||||||||||judgment|judgment|||||||||| Actually, judging from the university student's story and the situation at the scene, it seems that there is another culprit. その 大学生 が 三瀬 峠 まで 娘 さん を 連れてった の は 間違い ない らしい んです が ね 」 こちら が 口 を 挟め ない ように 、 刑事 が 早口 で 捲し立てる 。 |だいがくせい||みつせ|とうげ||むすめ|||つれて った|||まちがい||||||||くち||はさめ|||けいじ||はやくち||まくしたてる ||||||daughter|||took along|||||||||||||interject|||||fast speech||rapidly speaking The detective was so quick to speak up that we couldn't intervene. 気 が つく と 、 四 つ ん 這い で 居間 から 顔 を 出して いた 里子 が 、 いつの間にか 上がり 枢 に ちょこんと 正座 して いた 。 き||||よっ|||はい||いま||かお||だして||さとご||いつのまにか|あがり|すう|||せいざ|| |||||||||living room||||||||||sitting||neatly|sitting upright|| 佳男 は 仕事 着 の 白衣 を 手 に 握りしめ 、「 ど 、 どういう こと で す か ? よしお||しごと|ちゃく||はくい||て||にぎりしめ|||||| |||work clothes||white coat||||clutching|||||| その 大学生 が 犯人 じゃ なかって ? |だいがくせい||はんにん||なか って 」 と 刑事 に 尋ねた 。 |けいじ||たずねた 「 詳しく 話して もらえ んです か ! くわしく|はなして||| 」 今にも 刑事 の 胸ぐら を 掴み そうな 佳男 の 手 を 、 里子 が さっと 握る 。 いまにも|けいじ||むなぐら||つかみ|そう な|よしお||て||さとご|||にぎる |||collar|||||||||||grasping |||胸ぐら||||||||||| 「 いや 、 実は です ね 、 娘 さん は 確かに その 大学生 の 車 で 三瀬 峠 まで 行っと る んです よ 。 |じつは|||むすめ|||たしかに||だいがくせい||くるま||みつせ|とうげ||ぎょう っと||| 娘 さん が 暮らし とる 寮 の 近く の 公園 で ばったり 会う て 」 「 ばったりって 、 娘 は その 男 と 会う 約束 を し とった んでしょう が ? むすめ|||くらし||りょう||ちかく||こうえん|||あう||ばったり って|むすめ|||おとこ||あう|やくそく||||| |||living||||||||suddenly|||suddenly|||||||||||| "You said you ran into him at a park near the dormitory where your daughter lives." "What do you mean, 'ran into'? My daughter had an appointment with this man, didn't she? 」 「 いや 、 それ が 増尾 ……、 あ 、 その 大学生 です けど ね 、 そい つ の 話 に よる と 、 娘 さん は 他の 誰 か と 約束 し とって 、 彼 と は そこ で ぱったり 会う たらし い ん です よ 」 「 だ 、 誰 です か ? |||ますお|||だいがくせい|||||||はなし||||むすめ|||たの|だれ|||やくそく|||かれ||||||あう|||||||だれ|| ||||||||||||||||||||||||||||||||suddenly met|||||||||| No, that's Masuo ......, the college student, but according to his story, his daughter had an appointment with someone else, and she met him briefly there. その他 の 誰 かつ ちゅうと は 」 「 それ は 今 、 こちら で 探し とります 。 そのほか||だれ||||||いま|||さがし|とり ます ||||a little||||||||taking Who else is it?" "We're looking for it right now, sir. その 大学生 の 証言 で 、 間違い ない の が 一 人 浮か ん ふ 、 う ぼう ど ります 。 |だいがくせい||しょうげん||まちがい||||ひと|じん|うか||||||り ます |||testimony||||||||surfaced||||||exists I'm sure there's one college student whose testimony will help us find the cape. 風貌 、 車種 」 「 で ? ふうぼう|しゃしゅ| appearance|car model| Appearance, type of car. 佳乃 は 、 佳乃 は ど げん なった と か ! よしの||よしの|||||| |||||how||| ||||どんな|||| What happened to Kano? 」 また 怒鳴り 出した 佳男 の 背中 を 、 里子 が 真剣な 目 で 刑事 を 見つめた まま 撫でる 。 |どなり|だした|よしお||せなか||さとご||しんけんな|め||けいじ||みつめた||なでる |||||||||serious|||||||pet 「 三瀬 峠 まで ドライブ に 行って です ね 。 みつせ|とうげ||どらいぶ||おこなって|| "We're going for a drive up to Mise Pass. そこ で 口論 に なったら しかと です よ 。 ||こうろん||||| ||argument||||| If you get into an argument there, I'm afraid you're going to have to take my word for it. それ で 男 の ほう が 娘 さん を です ね ……」 「 娘 を ? ||おとこ||||むすめ|||||むすめ| 」 訊 き 返した の は 佳男 で は なく 、 里子 だった 。 じん||かえした|||よしお||||さとご| 「 ええ 、 娘 さん を 車 から 無理やり 降ろした らしくて 」 「 誰 も おら ん 峠 に 、 なんで そげ ん ……」 泣き そうに なった 里子 の 肩 を 、 今度 は 佳男 が 撫でた 。 |むすめ|||くるま||むりやり|おろした||だれ||||とうげ|||||なき|そう に||さとご||かた||こんど||よしお||なでた |||||||dropped|||||||||||||||||||||| 「 降ろす とき に ちょっと 操 め たらし い と です よ 。 おろす||||みさお|||||| ||||manipulated|||||| 娘 さん の 肩 を 押して 、 その とき に 首 を 。 むすめ|||かた||おして||||くび| |||shoulder||||||| ・・・。 。」 お えつ 堪え 切れ ず に 里子 が 小さな 鳴 咽 を 上げる 。 ||こらえ|きれ|||さとご||ちいさな|な|むせ||あげる |sobbing|couldn't bear|||||||to cry|sobbing|| |||||||||鳴き||| 「…… もちろん その 大学生 を 厳重に 調べました 。 ||だいがくせい||げんじゅうに|しらべ ました ||||strictly|investigated 男 の くせ に ギャーギャー 泣き出して か ら 、 ほん な こつ 情けないったら なか でした よ 。 おとこ|||||なきだして||||||なさけない ったら||| ||||screaming|||||||pathetic||| ||||大声で|||||||||| For a guy, he started crying like a baby, and I just couldn't help but feel sorry for him. ただ 、 決定 的に 違う と です よ 。 |けってい|てきに|ちがう||| |decision||||| It's just that it's decidedly different. 娘 さん の 首 に 残っとった 手 の 跡 が 、 その 大学生 の 手 より も 間違い なく 大きい と です ょ 。 むすめ|||くび||ざん っと った|て||あと|||だいがくせい||て|||まちがい||おおきい||| |||||remained|||||||||||||||| The handprints on your daughter's neck are definitely larger than the college student's hands. それ こそ 子供 と 大人 の 手 ぐらい ……」 にら そこ で 言葉 を 切った 刑事 を 佳男 は 睨みつけた 。 ||こども||おとな||て|||||ことば||きった|けいじ||よしお||にらみつけた ||||||||glared at||||||||||glared at 「 で 、 娘 は 誰 と 待ち合わせ し とった と です か ? |むすめ||だれ||まちあわせ||||| 隠さ ん で 言う て 下さい 。 かくさ|||いう||ください don't hide||||| Please hide and tell me. その 出会い 系 つち やら で ….:」 言葉 に なら なかった 。 |であい|けい||||ことば||| |||earth|and so on||||| I was speechless..." 一 通り の 説明 を 終えた 刑事 を 送り出し 、 佳男 は 散髪 用 の 椅子 に 座り込んだ 。 ひと|とおり||せつめい||おえた|けいじ||おくりだし|よしお||さんぱつ|よう||いす||すわりこんだ |one way|||||||sending off|||haircut|||chair|| After the detective had finished his explanation, Yoshio sat down in the chair for a haircut. 上がり 権 に 正座 した 里子 は 、 両 拳 を 握りしめて 泣いて いる 。 あがり|けん||せいざ||さとご||りょう|けん||にぎりしめて|ないて| |right||sitting formally|||||fists|||| 娘 が 殺されて 泣き 、 犯人 が 捕まら ず に 泣き 、 今度 は その 犯人 が 無実 だ と 知ら されて 泣 いて いる 。 むすめ||ころさ れて|なき|はんにん||つかまら|||なき|こんど|||はんにん||むじつ|||しら|さ れて|なき|| ||killed|||||||||||||innocence||||||| |||||||||||||||無実だ||||||| 刑事 の 話 で は 、 佳乃 は 白い 車 に 乗った 金髪 の 男 と 東公園 で 待ち合わせ を して いた らし い 。 けいじ||はなし|||よしの||しろい|くるま||のった|きんぱつ||おとこ||ひがしこうえん||まちあわせ||||| それなのに 会社 の 同僚 たち に は 、 増尾 と いう 大学生 と 会う と 嘘 を ついて 別れた とい う 。 |かいしゃ||どうりょう||||ますお|||だいがくせい||あう||うそ|||わかれた|| And yet, he lied to his colleagues at work about meeting a college student named Masuo and said he broke up with her. その 上 、 待ち合わせ して いた に も かかわら ず 、 その 男 と は 二 、 三 言 、 話 を した だけ で 別れ 、 偶然 会った 増尾 の 車 に 乗った 。 |うえ|まちあわせ||||||||おとこ|||ふた|みっ|げん|はなし|||||わかれ|ぐうぜん|あった|ますお||くるま||のった ||||||||||||||||||||||by chance|||||| Moreover, even though I had arranged to meet him, we parted after a few words, and I got into Masuo's car, which I happened to have met by chance. 間違い なく 自分 たち が 育てた 娘 な のに 、 その 夜 の 状況 を いくら 聞か されて も 、 まった 327 鋪 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? まちがい||じぶん|||そだてた|むすめ||||よ||じょうきょう|||きか|さ れて|||ほ|よっ|しょう|かれ||だれ||であった| |||||||||||||||||||store|||||||| We raised her, without a doubt, but no matter how much he told us about what happened that night, we were still left wondering who he had met in Chapter 327. く 娘 の 顔 が 重なら ない 。 |むすめ||かお||かさなら| |||||overlaps| I can't see my daughter's face. まるで 見 も 知ら ぬ 女性 が 佳乃 の ふり を して 、 そこ に いた ような 気 が して なら ない 。 |み||しら||じょせい||よしの|||||||||き|||| I can't help but feel as if there was an unknown woman there pretending to be Kano. 三瀬 峠 に 着いた 二 人 は 車 内 で 口論 に なった と いう 。 みつせ|とうげ||ついた|ふた|じん||くるま|うち||こうろん|||| ||||||||||argument|||| When they arrived at Mise Pass, they had an argument in the car. どんな 口論 な の か 知ら ない が 、 そ いつ は 俺 の 娘 を 車 から 蹴り出した 。 |こうろん||||しら||||||おれ||むすめ||くるま||けりだした |||||||||||||||||kicked out あの 暗い 峠 の 旧道 に 、 俺 の 娘 を 蹴り出した 。 |くらい|とうげ||きゅうどう||おれ||むすめ||けりだした ||||old road||||||kicked out ||||||||||kicked out その あと 、 何 が 起こった の か まだ はっきり と は 分から ない と 刑事 は 言う 。 ||なん||おこった|||||||わから|||けいじ||いう ただ 、 東 公 園 で 実際 に 待ち合わせて いた 男 が 、 何 か 知っている 可能 性 は 高い と 言う 。 |ひがし|おおやけ|えん||じっさい||まちあわせて||おとこ||なん||しっている|かのう|せい||たかい||いう However, the man who actually met me at the East Park says there is a good chance he knows something about it. ずっと 大学生 が 犯人 だ と 思って いた 。 |だいがくせい||はんにん|||おもって| I always thought it was a college student. もしも 見つかったら 、 この 手 で 殺して やる と 誓った こと も ある 。 |みつかったら||て||ころして|||ちかった||| |if found|||||||swore||| I once vowed to kill him with my own hands if he ever found me. 別府 や 湯布院 で 手広く 観光 業 を やって いる と いう そ いつ の 両親 の 前 で 、 息子 を 殺して やろう と 誓い 、 やっと 眠れる 夜 も あった 。 べっぷ||ゆふいん||てびろく|かんこう|ぎょう|||||||||りょうしん||ぜん||むすこ||ころして|||ちかい||ねむれる|よ|| Beppu||||widely||||||||||||||||||||oath||||| There were nights when I could barely sleep, vowing to kill my son in front of his parents, who are in the tourism business in Beppu and Yufuin. 気 が つけば 、 その 大学生 が 犯人 で あって くれ と 願う 自分 が いた 。 き||||だいがくせい||はんにん|||||ねがう|じぶん|| I found myself wishing that the college student was the culprit. そう で なければ 、 娘 が 誰 か 見知らぬ 男 に 、 それ も いかがわしい 何 か で 知り合った 男 に 命 を 奪わ れた こと に な る 。 |||むすめ||だれ||みしらぬ|おとこ|||||なん|||しりあった|おとこ||いのち||うばわ||||| ||||||||||||suspicious|||||||||taken||||| ||||||||||||不審な|||||||||||||| Otherwise, my daughter's life would have been taken by a stranger, a man she had met in some shady business. 俺 の 娘 が テレビ や 雑誌 が 面白がって 書いて いる ような 、 そんな 女 である はず が ない 。 おれ||むすめ||てれび||ざっし||おもしろがって|かいて||||おんな|||| There is no way that my daughter is the kind of woman that TV and magazines make her out to be. 俺 の 娘 は たまたま 馬鹿な 大学生 と 付き合って 、 その 男 に 殺さ れた のだ 。 おれ||むすめ|||ばかな|だいがくせい||つきあって||おとこ||ころさ|| |||||silly||||||||| My daughter happened to date a stupid college student, and he killed her. 日頃 、 テレビ や むし ず 雑誌 で 見聞き する 、 虫 酸 の 走る ような 若い 娘 たち と 同じである はず が ない 。 ひごろ|てれび||||ざっし||みきき||ちゅう|さん||はしる||わかい|むすめ|||おなじである||| usually|||||||see and hear||bug|sour||||young||||||| 普段|||むしろ||||見聞き|||||||||||||| They cannot possibly be the same as the acid-tasting young girls we see and hear about on TV and in magazines. なぜなら 佳 乃 は 、 この 俺 と 里子 が 大切に 大切に 育てた 娘 だ 。 |か|の|||おれ||さとご||たいせつに|たいせつに|そだてた|むすめ| because|good||||||foster child|||||| こんなに 大切に 育てた 娘 が 、 テレビ や 雑誌 で バカに さ れる 、 あんな 女 たち の ように なる わけ が ない 。 |たいせつに|そだてた|むすめ||てれび||ざっし||ばかに||||おんな||||||| 佳男 は じっと 見つめて いた 正面 の 鏡 に 、 握りしめて いた 白衣 を 投げつけた 。 よしお|||みつめて||しょうめん||きよう||にぎりしめて||はくい||なげつけた |||||front||||gripped||white coat||threw at Yoshio threw the white coat he was clutching at the front mirror he was staring at. 鏡 を 割る きよう||わる ||break Cracking the Mirror