2. 走れメロス - 太宰治
はしれ メロス|ふとし おさむ ち
2. run, Meros - Osamu Dazai
その 王 の 顔 は 蒼白で 、 眉間 の 皺 は 、 刻み込ま れた ように 深かった 。
|おう||かお||そうはくで|みけん||しわ||きざみこま|||ふかかった
|||||蒼白的|眉心||||刻印|||
||||||||しわ|||||
「 市 を 暴君 の 手 から 救う のだ 。」
し||ぼうくん||て||すくう|
と メロス は 悪びれ ず に 答えた 。
|||わるびれ|||こたえた
|||不在乎|||
|||悪びれず|||
梅洛斯毫不猶豫地回答。
「 おまえ が か ?
」 王 は 、 憫笑 した 。
おう||びんわらい|
||同情的微笑|
||嘲笑した|
「 仕方 の 無い やつ じゃ 。
しかた||ない||
無可奈何||||
“我對此無能為力。”
おまえ に は 、 わし の 孤独 が わから ぬ 。」
|||||こどく|||
「 言う な !
いう|
」 と メロス は 、 いきり立って 反駁 した 。
|||いきりたって|はんばく|
|||激動地||
「 人 の 心 を 疑う の は 、 最も 恥 ず べき 悪徳 だ 。
じん||こころ||うたがう|||もっとも|はじ|||あくとく|
王 は 、 民 の 忠誠 を さえ 疑って 居ら れる 。」
おう||たみ||ちゅうせい|||うたがって|おら|
「 疑う の が 、 正当の 心構え な のだ と 、 わし に 教えて くれた の は 、 おまえたち だ 。
うたがう|||せいとうの|こころがまえ||||||おしえて|||||
|||正當的|心態|||||||||||
||||心構え|||||||||||
「是你們教會了我懷疑是一種合理的心態。
人 の 心 は 、 あて に なら ない 。
じん||こころ|||||
||||靠|||
人間 は 、 もともと 私 慾 の かたまり さ 。
にんげん|||わたくし|よく|||
|||我|||欲望的集合體|
信じて は 、 なら ぬ 。」
しんじて|||
暴君 は 落着いて 呟き 、 ほっと 溜息 を ついた 。
ぼうくん||おちついて|つぶやき||ためいき||
||冷靜地|||嘆息||
「 わし だって 、 平和 を 望んで いる のだ が 。」
||へいわ||のぞんで|||
「 なんの 為 の 平和だ 。
|ため||へいわだ
自分 の 地位 を 守る 為 か 。」
じぶん||ちい||まもる|ため|
こんど は メロス が 嘲笑 した 。
||||ちょうしょう|
||||嘲笑|
「 罪 の 無い 人 を 殺して 、 何 が 平和だ 。」
ざい||ない|じん||ころして|なん||へいわだ
||||||什麼||
「 だまれ 、 下 賤 の 者 。」
|した|せん||もの
王 は 、 さっと 顔 を 挙げて 報いた 。
おう|||かお||あげて|むくいた
||迅速地||||報復
||||||報いる
「 口 で は 、 どんな 清らかな 事 でも 言える 。
くち||||きよらかな|こと||いえる
わし に は 、 人 の 腹 綿 の 奥底 が 見え透いて なら ぬ 。
|||じん||はら|めん||おくそこ||みえすいて||
||||||||深處||看穿||
||||||腹綿||||||
おまえ だって 、 いまに 、 磔 に なって から 、 泣いて 詫びたって 聞か ぬ ぞ 。」
|||はりつけ||||ないて|わびた って|きか||
||現在|钉十字架|||||道歉|聽||
|||磔刑||||||||
自從你被釘在十字架上以來,我還沒有聽到你哭泣和道歉。 」
「 ああ 、 王 は 悧巧 だ 。
|おう||りこう|
|||聰明|
|||賢い|
自惚れて いる が よい 。
うぬぼれて|||
自戀|在的||
自負是好事。
私 は 、 ちゃんと 死 ぬる 覚悟 で 居る のに 。
わたくし|||し||かくご||いる|
|||死去|死||||
命乞い など 決して し ない 。
いのちごい||けっして||
求命||||
begging for life||||
ただ 、――」 と 言い かけて 、 メロス は 足 もと に 視線 を 落し 瞬時 ためらい 、「 ただ 、 私 に 情 を かけたい つもり なら 、 処刑 まで に 三 日間 の 日限 を 与えて 下さい 。
||いい||||あし|||しせん||おとし|しゅんじ|||わたくし||じょう||かけ たい|||しょけい|||みっ|にち かん||にちげん||あたえて|ください
||||梅洛||||||助詞|||猶豫||||情感||想要施加|||處刑||||||日限|||
只是……」梅羅斯低頭看著自己的腳,猶豫了片刻,說道:“不過,如果你有意向我示愛,請在行刑前給我三天時間。
たった 一 人 の 妹 に 、 亭主 を 持た せて やりたい のです 。
|ひと|じん||いもうと||ていしゅ||もた||やり たい|
|||||||||讓…擁有||的呢
||||||夫|||||
三 日 の うち に 、 私 は 村 で 結婚 式 を 挙げ させ 、 必ず 、 ここ へ 帰って 来ます 。」
みっ|ひ||||わたくし||むら||けっこん|しき||あげ|さ せ|かならず|||かえって|き ます
「 ばかな 。」
と 暴君 は 、 嗄れた 声 で 低く 笑った 。
|ぼうくん||しわがれた|こえ||ひくく|わらった
|||沙啞的||||
|||かすれた||||
「 とんでもない 嘘 を 言う わ い 。
|うそ||いう||
荒唐無稽||||我|
“我要告訴你一個天大的謊言。”
逃がした 小鳥 が 帰って 来る と いう の か 。」
にがした|ことり||かえって|くる||||
|小鳥|||||||
「 そうです 。
そう です
帰って 来る のです 。」
かえって|くる|
メロス は 必死で 言い張った 。
||ひっしで|いいはった
||拼命|坚持说
「 私 は 約束 を 守ります 。
わたくし||やくそく||まもり ます
私 を 、 三 日間 だけ 許して 下さい 。
わたくし||みっ|にち かん||ゆるして|ください
妹 が 、 私 の 帰り を 待って いる のだ 。
いもうと||わたくし||かえり||まって||
そんなに 私 を 信じられ ない ならば 、 よろしい 、 この 市 に セリヌンティウス と いう 石 工 が います 。
|わたくし||しんじ られ|||||し|||||いし|こう||い ます
私 の 無二 の 友人 だ 。
わたくし||むに||ゆうじん|
||獨一無二|||
あれ を 、 人質 と して ここ に 置いて 行こう 。
||ひとじち|||||おいて|いこう
||人質||||||
私 が 逃げて しまって 、 三 日 目 の 日 暮 まで 、 ここ に 帰って 来 なかったら 、 あの 友人 を 絞め 殺して 下さい 。
わたくし||にげて||みっ|ひ|め||ひ|くら||||かえって|らい|||ゆうじん||しめ|ころして|ください
|||||||||日暮||||||||||||
|||||||||暮れ||||||||||||
如果我逃跑了,第三天日落前還沒回來,請掐死我的朋友。
たのむ 、 そうして 下さい 。」
||ください
それ を 聞いて 王 は 、 残虐な 気持 で 、 そっと 北 叟笑 んだ 。
||きいて|おう||ざんぎゃくな|きもち|||きた|そうわらい|
||||||||輕輕地|||
生意気な こと を 言う わ い 。
なまいきな|||いう||
どうせ 帰って 来 ない に きまって いる 。
|かえって|らい||||
この 嘘つき に 騙さ れた 振り して 、 放して やる の も 面白い 。
|うそつき||だまさ||ふり||はなして||||おもしろい
|說謊者||||||放開||||有趣
そうして 身代り の 男 を 、 三 日 目 に 殺して やる の も 気味 が いい 。
|みがわり||おとこ||みっ|ひ|め||ころして||||きみ||
|替身||||||||||||心情||
人 は 、 これ だ から 信じられ ぬ と 、 わし は 悲しい 顔 して 、 その 身代り の 男 を 磔 刑 に 処して やる のだ 。
じん|||||しんじ られ|||||かなしい|かお|||みがわり||おとこ||はりつけ|けい||しょして||
世の中 の 、 正直 者 と か いう 奴 輩 に うんと 見せつけて やりたい もの さ 。
よのなか||しょうじき|もの||||やつ|やから|||みせつけて|やり たい||
||誠實||||||家伙||狠狠地|讓他們看到|||
||||||||||たくさん||||
這是我想做的事情並向世界上誠實的人炫耀。
「 願い を 、 聞いた 。
ねがい||きいた
その 身代り を 呼ぶ が よい 。
|みがわり||よぶ||
三 日 目 に は 日没 まで に 帰って 来い 。
みっ|ひ|め|||にちぼつ|||かえって|こい
|||||日落||||
おくれたら 、 その 身代り を 、 きっと 殺す ぞ 。
||みがわり|||ころす|
||||一定|殺掉|
ちょっと おくれて 来る が いい 。
||くる||
最好晚一點來。
おまえ の 罪 は 、 永遠に ゆるして やろう ぞ 。」
||ざい||えいえんに|||
你的罪孽將永遠被寬恕。 」
「 なに 、 何 を おっしゃる 。」
|なん||
「 は は 。
いのち が 大事だったら 、 おくれて 来い 。
||だいじだったら||こい
おまえ の 心 は 、 わかって いる ぞ 。」
||こころ||||
メロス は 口惜しく 、 地 団 駄 踏んだ 。
||くちおしく|ち|だん|だ|ふんだ
||可惜|地|||踩踏
||悔しそうに||地団||
もの も 言い たく なく なった 。
||いい|||