32.2 或る 女
「 始めて お目にかかる が 、 愛子 さん お いく つ 」・・
倉地 は なお 愛子 を 見 やり ながら こう 尋ねた 。 ・・
「 わたし 始めて で は ございませ ん 。 …… いつぞや お目にかかりました 」・・
愛子 は 静かに 目 を 伏せて はっきり と 無表情な 声 で こういった 。 愛子 が あの 年ごろ で 男 の 前 に はっきり ああ 受け答え が できる の は 葉子 に も 意外だった 。 葉子 は 思わず 愛子 を 見た 。 ・・
「 はて 、 どこ で ね 」・・
倉地 も いぶかし げ に こう 問い返した 。 愛子 は 下 を 向いた まま 口 を つぐんで しまった 。 そこ に は かすか ながら 憎悪 の 影 が ひらめいて 過ぎた ようだった 。 葉子 は それ を 見のがさ なかった 。 ・・
「 寝顔 を 見せた 時 に やはり 彼女 は 目 を さまして いた のだ な 。 それ を いう の か しら ん 」・・
と も 思った 。 倉地 の 顔 に も 思い かけ ず ちょっと どぎまぎ した らしい 表情 が 浮かんだ の を 葉子 は 見た 。 ・・
「 なあ に ……」 激しく 葉子 は 自分 で 自分 を 打ち消した 。・・
貞 世 は 無邪気に も 、 この 熊 の ような 大きな 男 が 親しみ やすい 遊び 相手 と 見て取った らしい 。 貞 世 が その 日 学校 で 見聞き して 来た 事 など を 例の とおり 残らず 姉 に 報告 しよう と 、 なんでも 構わ ず 、 なんでも 隠さ ず 、 いって のける のに 倉地 が 興 に 入って 合 槌 を 打つ ので 、 ここ に 移って 来て から 客 の 味 を 全く 忘れて いた 貞 世 は うれし がって 倉地 を 相手 に しよう と した 。 倉地 は さんざん 貞 世 と 戯れて 、 昼 近く 立って 行った 。 ・・
葉子 は 朝食 が おそかった から と いって 、 妹 たち だけ が 昼食 の 膳 に ついた 。 ・・
「 倉地 さん は 今 、 ある 会社 を お 立て に なる ので いろいろ 御 相談 事 が ある のだ けれども 、 下宿 で は まわり が やかましくって 困る と おっしゃる から 、 これ から いつでも ここ で 御用 を なさる ように いった から 、 きっと これ から も ちょくちょく いらっしゃる だろう が 、 貞 ちゃん 、 きょう の ように 遊び の お 相手 に ばかり して いて は だめ よ 。 その代わり 英語 な ん ぞ で わから ない 事 が あったら なんでも お 聞き する と いい 、 ねえさん より いろいろの 事 を よく 知ってい らっしゃる から …… それ から 愛 さん は 、 これ から 倉地 さん の お 客 様 も 見える だろう から 、 そんな 時 に は 一 々 ねえさん の さしず を 待たない で はきはき お 世話 を して 上げる の よ 」・・
と 葉子 は あらかじめ 二 人 に 釘 を さした 。 ・・
妹 たち が 食事 を 終わって 二 人 で あと始末 を して いる と また 玄関 の 格子 が 静かに あく 音 が した 。 ・・
貞 世 は 葉子 の 所 に 飛んで 来た 。 ・・
「 おね え 様 また お 客 様 よ 。 きょう は ずいぶん たくさん いらっしゃる わ ね 。 だれ でしょう 」・・
と 物珍し そうに 玄関 の ほう に 注意 の 耳 を そばだてた 。 葉子 も だれ だろう と いぶかった 。 やや しばらく して 静かに 案内 を 求める 男 の 声 が した 。 それ を 聞く と 貞 世 は 姉 から 離れて 駆け出して 行った 。 愛子 が 襷 を はずし ながら 台所 から 出て 来た 時分 に は 、 貞 世 は もう 一 枚 の 名刺 を 持って 葉子 の 所 に 取って返して いた 。 金 縁 の ついた 高価 らしい 名刺 の 表 に は 岡 一 と 記して あった 。 ・・
「 まあ 珍しい 」・・
葉子 は 思わず 声 を 立てて 貞 世 と 共に 玄関 に 走り 出た 。 そこ に は 処女 の ように 美しく 小柄な 岡 が 雪 の かかった 傘 を つぼめて 、 外套 の したたり を 紅 を さした ように 赤らんだ 指 の 先 で はじき ながら 、 女 の ように はにかんで 立って いた 。 ・・
「 いい 所 でしょう 。 おいで に は 少し お 寒かった かも しれ ない けれども 、 きょう は ほんとに いい おりから でした わ 。 隣 に 見える の が 有名な 苔 香 園 、 あす この 森 の 中 が 紅葉 館 、 この 杉 の 森 が わたし 大好きです の 。 きょう は 雪 が 積もって なおさら きれいです わ 」・・
葉子 は 岡 を 二 階 に 案内 して 、 そこ の ガラス 戸 越し に あちこち の 雪景色 を 誇り が に 指 呼 して 見せた 。 岡 は 言葉少な ながら 、 ちか ちか と まぶしい 印象 を 目 に 残して 、 降り 下り 降り あおる 雪 の 向こう に 隠 見 する 山内 の 木立 ち の 姿 を 嘆 賞した 。 ・・
「 それにしても どうして あなた は ここ を …… 倉地 から 手紙 でも 行きました か 」・・ 岡 は 神秘 的に ほほえんで 葉子 を 顧み ながら 「 い ゝ え 」 と いった 。 ・・
「 そりゃ おかしい 事 …… それでは どうして 」・・
縁側 から 座敷 へ 戻り ながら おもむろに 、・・
「 お 知らせ が ない もの で 上がって は きっと いけない と は 思いました けれども 、 こんな 雪 の 日 なら お 客 も なかろう から ひ ょっと かする と 会って くださる か と も 思って ……」・・
そういう いい出し で 岡 が 語る ところ に よれば 、 岡 の 従妹 に 当たる 人 が 幽蘭 女学校 に 通学 して いて 、 正月 の 学期 から 早月 と いう 姉妹 の 美しい 生徒 が 来て 、 それ は 芝山 内 の 裏 坂 に 美人 屋敷 と いって 界隈 で 有名な 家 の 三 人 姉妹 の 中 の 二 人 である と いう 事 や 、 一 番 の 姉 に 当たる 人 が 「 報 正 新報 」 で うわさ を 立てられた 優れた 美貌 の 持ち主 だ と いう 事 や が 、 早くも 口さがない 生徒 間 の 評判 に なって いる の を 何 か の おり に 話した ので すぐ 思い当たった けれども 、 一 日一日 と 訪問 を 躊躇 して いた のだ と の 事 だった 。 葉子 は 今さら に 世間 の 案外に 狭い の を 思った 。 愛子 と いわ ず 貞 世 の 上 に も 、 自分 の 行 跡 が どんな 影響 を 与える かも 考え ず に は いられ なかった 。 そこ に 貞 世 が 、 愛子 が ととのえた 茶器 を あぶなっかしい 手つき で 、 目 八 分 に 持って 来た 。 貞 世 は この 日 さびしい 家 の 内 に 幾 人 も 客 を 迎える 物珍し さ に 有頂天に なって いた ようだった 。 満面 に 偽り の ない 愛嬌 を 見せ ながら 、 丁寧に ぺっちゃん と おじぎ を した 。 そして 顔 に たれ かかる 黒 髪 を 振り 仰いで 頭 を 振って 後ろ に さばき ながら 、 岡 を 無邪気に 見 やって 、 姉 の ほう に 寄り添う と 大きな 声 で 「 どなた 」 と 聞いた 。 ・・
「 一緒に お 引き合わせ します から ね 、 愛 さん に も おいで なさい と いって いらっしゃい 」・・
二 人 だけ が 座 に 落ち付く と 岡 は 涙ぐましい ような 顔 を して じっと 手 あぶり の 中 を 見込んで いた 。 葉子 の 思い な しか その 顔 に も 少し やつれ が 見える ようだった 。 普通の 男 ならば たぶん さほど に も 思わ ない に 違いない 家 の 中 の いさく さ など に 繊細 すぎる 神経 を なやま して 、 それにつけても 葉子 の 慰撫 を ことさら に あこがれて いた らしい 様子 は 、 そんな 事 に ついて は 一言 も いわ ない が 、 岡 の 顔 に は はっきり と 描かれて いる ようだった 。 ・・
「 そんなに せい たって い やよ 貞 ちゃん は 。 せっかちな 人 ねえ 」・・
そう 穏 か に たしなめる らしい 愛子 の 声 が 階下 でした 。 ・・
「 でも そんなに おしゃれ し なくったって いい わ 。 おね え 様 が 早くって おっしゃって よ 」・・
無遠慮に こういう 貞 世 の 声 も はっきり 聞こえた 。 葉子 は ほほえみ ながら 岡 を 暖かく 見 やった 。 岡 も さすが に 笑い を 宿した 顔 を 上げた が 、 葉子 と 見かわす と 急に 頬 を ぽっと 赤く して 目 を 障子 の ほう に そらして しまった 。 手 あぶり の 縁 に 置か れた 手 の 先 が かすかに 震う の を 葉子 は 見のがさ なかった 。 ・・
やがて 妹 たち 二 人 が 葉子 の 後ろ に 現われた 。 葉子 は すわった まま 手 を 後ろ に 回して 、・・
「 そんな 人 の お 尻 の 所 に すわって 、 もっと こっち に お 出 なさい な 。 …… これ が 妹 たち です の 。 どうか お 友だち に して ください まし 。 お 船 で 御 一緒だった 岡 一 様 。 …… 愛さ ん あなた お 知り 申して いない の …… あの 失礼です が なんと おっしゃいます の 、 お 従妹 御さん の お 名前 は 」・・
と 岡 に 尋ねた 。 岡 は 言葉 どおり に 神経 を 転倒 さ せて いた 。 それ は この 青年 を 非常に 醜く かつ 美しく して 見せた 。 急いで すわり 直した 居ずまい を すぐ 意味 も なく くずして 、 それ を また 非常に 後悔 した らしい 顔つき を 見せたり した 。 ・・
「 は ? 」・・
「 あの わたし ども の うわさ を なさった その お 嬢 様 の お 名前 は 」・・
「 あの やはり 岡 と いいます 」・・
「 岡 さん なら お 顔 は 存じ 上げて おります わ 。 一 つ 上 の 級 に いらっしゃいます 」・・
愛子 は 少しも 騒が ず に 、 倉地 に 対した 時 と 同じ 調子 で じっと 岡 を 見 やり ながら 即座に こう 答えた 。 その 目 は 相変わらず 淫蕩 と 見える ほど 極端に 純潔だった 。 純潔 と 見える ほど 極端に 淫蕩 だった 。 岡 は 怖 じ ながら も その 目 から 自分 の 目 を そらす 事 が でき ない ように まともに 愛子 を 見て 見る見る 耳たぶ まで を まっ赤 に して いた 。 葉子 は それ を 気取る と 愛子 に 対して いちだん の 憎しみ を 感ぜ ず に は いられ なかった 。 ・・
「 倉地 さん は ……」・・
岡 は 一路 の 逃げ道 を ようやく 求め 出した ように 葉子 に 目 を 転じた 。 ・・
「 倉地 さん ? たった今 お 帰り に なった ばかり 惜しい 事 を し まして ねえ 。 でも あなた これ から は ちょくちょく いら しって くださ います わ ね 。 倉地 さん も すぐ お 近所 に お 住まい です から いつか ご いっしょに 御飯 でも いただきましょう 。 わたし 日本 に 帰って から この 家 に お 客 様 を お 上げ する の は きょう が 始めて です の よ 。 ねえ 貞 ちゃん 。 …… ほんとうに よく 来て くださいました 事 。 わたし とう から 来て いただき たくって しようがなかった んです けれども 、 倉地 さん から なんとか いって 上げて くださる だろう と 、 それ ばかり を 待って いた のです よ 。 わたし から お 手紙 を 上げる の は いけません もの ( そこ で 葉子 は わかって くださる でしょう と いう ような 優しい 目つき を 強い 表情 を 添えて 岡 に 送った )。 木村 から の 手紙 で あなた の 事 は くわしく 伺って いました わ 。 いろいろ お 苦しい 事 が お あり に なる んで すって ね 」・・
岡 は そのころ に なって ようやく 自分 を 回復 した ようだった 。 しどろもどろに なった 考え や 言葉 も やや 整って 見えた 。 愛子 は 一 度 しげしげ と 岡 を 見て しまって から は 、 決して 二度と は そのほう を 向か ず に 、 目 を 畳 の 上 に 伏せて じっと 千里 も 離れた 事 でも 考えて いる 様子 だった 。 ・・
「 わたし の 意気地 の ない の が 何より も いけない んです 。 親類 の 者 たち は なんといっても わたし を 実業 の 方面 に 入れて 父 の 事業 を 嗣 が せ よう と する んです 。 それ は たぶん ほんとうに いい 事 な んでしょう 。 けれども わたし に は どうしても そういう 事 が わから ない から 困ります 。 少し でも わかれば 、 どうせ こんなに 病身 で 何も できません から 、 母 はじめ みんな の いう こと を ききたい んです けれども …… わたし は 時々 乞食 に でも なって しまいたい ような 気 が します 。 みんな の 主人 思い な 目 で 見つめられて いる と 、 わたし は みんな に 済まなく なって 、 なぜ 自分 みたいな 屑 な 人間 を 惜しんで いて くれる のだろう と よく そう 思います …… こんな 事 今 まで だれ に も いい は しません けれども 。 突然 日本 に 帰って 来たり なぞ して から わたし は 内々 監視 まで さ れる ように なりました 。 …… わたし の ような 家 に 生まれる と 友だち と いう もの は 一 人 も できません し 、 みんな と は 表面 だけ で 物 を いって い なければ なら ない んです から …… 心 が さびしくって しかた が ありません 」・・
そう いって 岡 は すがる ように 葉子 を 見 やった 。 岡 が 少し 震え を 帯びた 、 よごれっ気 の 塵 ほど も ない 声 の 調子 を 落として しんみり と 物 を いう 様子 に は おのずから な 気高い さびし み が あった 。 戸 障子 を きしま せ ながら 雪 を 吹き まく 戸外 の 荒々しい 自然の 姿 に 比べて は ことさら それ が 目立った 。 葉子 に は 岡 の ような 消極 的な 心持ち は 少しも わから なかった 。 しかし あれ で いて 、 米国 くんだり から 乗って 行った 船 で 帰って 来る 所 なぞ に は 、 粘り強い 意 力 が 潜んで いる ように も 思えた 。 平凡な 青年 なら できて も でき なく と も 周囲 の もの に おだて あげられれば 疑い も せ ず に 父 の 遺業 を 嗣 ぐ まね を して 喜んで いる だろう 。 それ が どうしても でき ない と いう 所 に も どこ か 違った 所 が ある ので は ない か 。 葉子 は そう 思う と 何の 理解 も なく この 青年 を 取り巻いて ただ わ いわい 騒ぎ立てて いる 人 たち が ばかばかしく も 見えた 。 それにしても なぜ もっと はきはき と そんな 下らない 障害 ぐらい 打ち破って しまわ ない のだろう 。 自分 なら その 財産 を 使って から 、「 こう すれば いい の かい 」 と でも いって 、 まわり で 世話 を 焼いた 人間 たち を 胸 の すき 切る まで 思い 存分 笑って やる のに 。 そう 思う と 岡 の 煮え 切ら ない ような 態度 が 歯がゆく も あった 。 しかし なんといっても 抱きしめたい ほど 可憐な の は 岡 の 繊美 な さびし そうな 姿 だった 。 岡 は 上手に 入れられた 甘露 を すすり 終わった 茶わん を 手 の 先 に 据えて 綿密に その 作り を 賞 翫 して いた 。 ・・
「 お 覚え に なる ような もの じゃ ございませ ん 事 よ 」・・
岡 は 悪い 事 でも して いた ように 顔 を 赤く して それ を 下 に おいた 。 彼 は いいかげんな 世辞 は いえ ない らしかった 。 ・・
岡 は 始めて 来た 家 に 長居 する の は 失礼だ と 来た 時 から 思って いて 、 機会 ある ごと に 座 を 立とう と する らしかった が 、 葉子 は そういう 岡 の 遠慮 に 感づけば 感づく ほど 巧みに も すべて の 機会 を 岡 に 与え なかった 。 ・・
「 もう 少し お 待ち に なる と 雪 が 小 降り に なります わ 。 今 、 こない だ インド から 来た 紅茶 を 入れて みます から 召し上がって みて ちょうだい 。 ふだん いい もの を 召し上がり つけて いらっしゃる んだ から 、 鑑定 を して いただきます わ 。 ちょっと 、…… ほんの ちょっと 待って い らしって ちょうだい よ 」・・
そういうふうに いって 岡 を 引き止めた 。 始め の 間 こそ 倉地 に 対して の ように は なつか なかった 貞 世 も だんだん と 岡 と 口 を きく ように なって 、 しまい に は 岡 の 穏やかな 問い に 対して 思い の まま を かわいらしく 語って 聞か せたり 、 話題 に 窮して 岡 が 黙って しまう と 貞 世 の ほう から 無邪気な 事 を 聞き ただして 、 岡 を ほほえま したり した 。 なんといっても 岡 は 美しい 三 人 の 姉妹 が ( その うち 愛子 だけ は 他の 二 人 と は 全く 違った 態度 で ) 心 を こめて 親しんで 来る その 好意 に は 敵 し 兼ねて 見えた 。 盛んに 火 を 起こした 暖かい 部屋 の 中 の 空気 に こもる 若い 女 たち の 髪 から と も 、 ふところ から と も 、 膚 から と も 知れ ぬ 柔軟な 香り だけ でも 去り がたい 思い を さ せた に 違いなかった 。 いつのまにか 岡 は すっかり 腰 を 落ち着けて 、 いいよう なく 快く 胸 の 中 の わだかまり を 一掃 した ように 見えた 。 ・・
それ から と いう もの 、 岡 は 美人 屋敷 と うわさ さ れる 葉子 の 隠れ家 に おりおり 出入り する ように なった 。 倉地 と も 顔 を 合わせて 、 互いに 快く 船 の 中 で の 思い出し 話 など を した 。 岡 の 目 の 上 に は 葉子 の 目 が 義 眼 されて いた 。 葉子 の よし と 見る もの は 岡 も よし と 見た 。 葉子 の 憎む もの は 岡 も 無 条件 で 憎んだ 。 ただ 一 つ その 例外 と なって いる の は 愛子 と いう もの らしかった 。 もちろん 葉子 とて 性格 的に は どうしても 愛子 と いれ 合わ なかった が 、 骨 肉 の 情 と して やはり 互いに いい よう の ない 執着 を 感じ あって いた 。 しかし 岡 は 愛子 に 対して は 心から の 愛着 を 持ち出す ように なって いる 事 が 知れた 。 ・・
とにかく 岡 の 加わった 事 が 美人 屋敷 の いろどり を 多様に した 。 三 人 の 姉妹 は 時おり 倉地 、 岡 に 伴われて 苔 香 園 の 表門 の ほう から 三田 の 通り など に 散歩 に 出た 。 人々 は その きらびやかな 群れ に 物好きな 目 を かがやかした 。