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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第 二 の 手記 (6)

第 二 の 手記 (6)

惜しい という 気持 では ありません でした 。 自分 に は 、 もともと 所有 慾 と いう もの は 薄く 、 また 、 たまに 幽 か に 惜しむ 気持 は あって も 、 その 所有 権 を 敢然と 主張 し 、 人 と 争う ほど の 気力 が 無い のでした 。 のち に 、自分 は 、自分 の 内縁 の 妻 が 犯さ れる の を 、黙って 見て いた 事 さえ あった ほど な のです 。

自分 は 、人間 の いざこざ に 出来る だけ 触り たく ない のでした 。 その 渦 に 巻き込まれる の が 、おそろしい のでした 。 ツネ子 と 自分 と は 、一夜 だけ の 間柄 です 。 ツネ子 は 、自分 の もの では ありません 。 惜しい 、など 思い上った 慾 は 、自分 に 持てる 筈 は ありません 。 けれども 、自分 は 、ハッと しました 。

自分 の 眼 の 前 で 、堀木 の 猛烈な キス を 受ける 、その ツネ子 の 身の上 を 、ふびんに 思った から でした 。 堀木 に よごされた ツネ子 は 、 自分 と わかれ なければ なら なく なる だろう 、 しかも 自分 に も 、 ツネ子 を 引き留める 程 の ポジティヴ な 熱 は 無い 、 ああ 、 もう 、 これ で おしまい な のだ 、 と ツネ子 の 不幸に 一瞬 ハッと した もの の 、 すぐに 自分 は 水 の よう に 素直に あきらめ 、 堀木 と ツネ子 の 顔 を 見 較 べ 、 に やに や と 笑いました 。

しかし 、事態 は 、実に 思いがけなく 、もっと 悪く 展開 せられました 。

「 やめた !

と 堀木 は 、口 を ゆがめて 言い 、

「さすが の おれ も 、こんな 貧乏くさい 女 に は 、……」

閉口 し 切った ように 、腕組み して ツネ子 を じろじろ 眺め 、苦笑 する のでした 。

「お 酒 を 。 お 金 は 無い 」

自分 は 、小声 で ツネ子 に 言いました 。 それ こそ 、浴びる ほど 飲んで みたい 気持 でした 。 所 謂俗 物 の 眼 から 見る と 、 ツネ子 は 酔 漢 の キス に も 価 いしない 、 ただ 、 みすぼらしい 、 貧乏 くさい 女 だった のでした 。 案外 と も 、 意外 と も 、 自分 に は 霹靂 へ きれ き に 撃ち くだかれた 思い でした 。 自分 は 、 これ まで 例 の 無かった ほど 、 いくら でも 、 いくら でも 、 お 酒 を 飲み 、 ぐらぐら 酔って 、 ツネ子 と 顔 を 見合せ 、 哀 かなしく 微笑 ほほえみ 合い 、 いかにも そう 言われて みる と 、 こいつ は へんに 疲れて 貧乏 くさい だけ の 女 だ な 、 と 思う と 同時に 、 金 の 無い者 どうし の 親和 ( 貧富 の 不和 は 、 陳腐 の よう でも 、 やはり ドラマ の 永遠の テーマ の 一 つ だ と 自分 は 今では 思って います が ) そい つ が 、 その 親和 感 が 、 胸 に 込み上げて 来て 、 ツネ子 が いとしく 、 生れて この 時 はじめて 、 われ から 積極 的に 、 微弱 ながら 恋 の 心 の 動く の を 自覚 しました 。 吐きました 。 前後不覚 に なりました 。 お 酒 を 飲んで 、こんなに 我 を 失う ほど 酔った の も 、その 時 が はじめて でした 。

眼 が 覚めたら 、枕 もと に ツネ子 が 坐って いました 。 本所 の 大工 さん の 二階 の 部屋 に 寝ていた のでした 。

「 金 の 切れ め が 縁 の 切れ め 、 なんて おっしゃって 、 冗談 か と 思う ていた ら 、 本気 か 。 来て くれ ない のだ もの 。 ややこしい 切れ め や な 。 うち が 、かせいで あげて も 、だめ か 」

「 だめ 」

それ から 、女 も 休んで 、夜明け が た 、女 の 口 から 「死 」と いう 言葉 が はじめて 出て 、女 も 人間 として の 営み に 疲れ切って いた ようでした し 、また 、自分 も 、世の中 へ の 恐怖 、わずらわしさ 、金 、れいの 運動 、女 、学業 、考える と 、とても この上 こらえて 生きて 行け そう も なく 、その ひと の 提案 に 気軽に 同意 しました 。

けれども 、その 時 に は まだ 、実感 として の 「死のう 」という 覚悟 は 、出来て い なかった のです 。 どこ か に 「遊び 」が ひそんで いました 。

その 日 の 午前 、二人 は 浅草 の 六区 を さまよって いました 。 喫茶店 に はいり 、牛乳 を 飲みました 。

「あなた 、払う て 置いて 」

自分 は 立って 、 袂 たもと から がま口 を 出し 、 ひらく と 、 銅 銭 が 三 枚 、 羞恥 しゅうち より も 凄 惨 せいさん の 思い に 襲わ れ 、 たちまち 脳 裡 のうり に 浮ぶ もの は 、 仙遊 館 の 自分 の 部屋 、 制服 と 蒲 団 だけ が 残されて ある きり で 、 あと は もう 、 質 草 に なり そうな もの の 一 つ も 無い 荒涼たる 部屋 、 他 に は 自分 の いま 着て 歩いて いる 絣 の 着物 と 、 マント 、 これ が 自分 の 現実 な のだ 、 生きて 行けない 、 と はっきり 思い知りました 。

自分 が まごついて いる ので 、女 も 立って 、自分 の がま口 を のぞいて 、

「あら 、たった それ だけ ?

無心 の 声 でした が 、これ が また 、じん と 骨身 に こたえる ほど に 痛かった のです 。 はじめて 自分 が 、恋した ひと の 声 だけ に 、痛かった のです 。 それ だけ も 、これ だけ も ない 、銅 銭 三 枚 は 、どだい お金 で ありません 。 それ は 、 自分 が 未 いまだかつて 味わった 事 の 無い 奇妙な 屈辱 でした 。 とても 生きて おら れ ない 屈辱 でした 。 所詮 しょせん その頃 の 自分 は 、 まだ お 金持ち の 坊ちゃん と いう 種 属 から 脱し 切って い なかった のでしょう 。 その 時 、自分 は 、みずから すすんで も 死のう と 、実感 として 決意 した のです 。

その 夜 、自分たち は 、鎌倉 の 海 に 飛び込みました 。 女 は 、 この 帯 は お 店 の お 友達 から 借りて いる 帯 や から 、 と 言って 、 帯 を ほどき 、 畳んで 岩 の 上 に 置き 、 自分 も マント を 脱ぎ 、 同じ 所 に 置いて 、 一緒に 入 水 じゅ すい しました 。

女 の ひと は 、死にました 。 そうして 、自分 だけ 助かりました 。

自分 が 高等 学校 の 生徒 で は あり 、また 父 の 名 に も いくらか 、所謂 ニュウス ・ヴァリュ が あった の か 、新聞 に も かなり 大きな 問題 として 取り上げられた ようでした 。

自分 は 海辺 の 病院 に 収容 せられ 、 故郷 から 親戚 しんせき の者 が ひとり 駈 け つけ 、 さまざまの 始末 を して くれて 、 そうして 、 くに の 父 を はじめ 一家 中 が 激怒 して いる から 、 これっきり 生家 と は 義 絶 に なる かも 知れ ぬ 、 と 自分 に 申し渡して 帰りました 。 けれども 自分 は 、そんな 事 より 、死んだ ツネ子 が 恋い しく 、めそめそ 泣いて ばかり いました 。 本当に 、いま まで の ひと の 中 で 、あの 貧乏くさい ツネ子 だけ を 、すきだった のです から 。

下宿 の 娘 から 、短歌 を 五十 も 書きつらねた 長い 手紙 が 来ました 。 「生き くれよ 」と いう へんな 言葉 で はじまる 短歌 ばかり 、五十 でした 。 また 、自分 の 病室 に 、看護婦たち が 陽気に 笑いながら 遊びに 来て 、自分 の 手 を きゅっと 握って 帰る 看護婦 も いました 。

自分 の 左 肺 に 故障 の ある の を 、 その 病院 で 発見 せられ 、 これ がたいへん 自分 に 好都合な 事 に なり 、 やがて 自分 が 自殺 幇助 ほうじょ 罪 と いう 罪名 で 病院 から 警察 に 連れて 行か れました が 、 警察 で は 、 自分 を 病人 あつかい に して くれて 、 特に 保護 室 に 収容 しました 。

深夜 、 保護 室 の 隣り の 宿直 室 で 、 寝ずの番 を して いた 年寄り の お 巡 まわり が 、 間 の ドア を そっと あけ 、

「 おい !

と 自分 に 声 を かけ 、

「寒い だろう 。 こっち へ 来て 、あたれ 」

と 言いました 。

自分 は 、わざと しおしお と 宿直 室 に はいって 行き 、椅子 に 腰かけて 火鉢 に あたりました 。

「やはり 、死んだ 女 が 恋いしい だろう 」

「 はい 」

ことさら に 、消え 入る ような 細い 声 で 返事 しました 。

「そこ が 、やはり 人情 と いう もの だ 」

彼 は 次第に 、大きく 構えて 来ました 。

「はじめ 、女 と 関係 を 結んだ の は 、どこ だ 」

ほとんど 裁判官 の 如く 、もったいぶって 尋ねる のでした 。 彼 は 、 自分 を 子供 と あなどり 、 秋 の 夜 の つれ づれ に 、 あたかも 彼 自身 が 取調べ の 主任 でも ある か の よう に 装い 、 自分 から 猥談 わ い だ ん めいた 述懐 を 引き出そう と いう 魂胆 の ようでした 。 自分 は 素早く それ を 察し 、 噴き出したい の を 怺 こらえる のに 骨 を 折りました 。 そんな お 巡り の 「 非公式な 訊問 」 に は 、 いっさい 答 を 拒否 して も かまわない のだ と いう 事 は 、 自分 も 知っていました が 、 しかし 、 秋 の 夜 な が に 興 を 添える ため 、 自分 は 、 あくまでも 神妙に 、 その お 巡り こそ 取調べ の 主任 であって 、 刑罰 の 軽重 の 決定 も その お 巡り の 思召 おぼしめし 一 つ に 在る のだ 、 と いう 事 を 固く 信じて 疑わない ような 所 謂 誠意 を おもて に あらわし 、 彼 の 助平 の 好奇心 を 、 やや 満足 させる 程度 の いい加減な 「 陳述 」 を する のでした 。

「うん 、それ で だいたい わかった 。 何でも 正直に 答える と 、わし ら の ほう でも 、そこ は 手心 を 加える 」

「ありがとう ございます 。 よろしく お 願い いたします 」

ほとんど 入 神 の 演技 でした 。 そうして 、自分 の ため に は 、何も 、一つも 、とくに ならない 力 演 な のです 。

夜 が 明けて 、自分 は 署長 に 呼び出さ れました 。 こんど は 、本式 の 取調べ な のです 。

ドア を あけて 、署長 室 に は いった とたん に 、

「おう 、いい 男 だ 。 これ あ 、お前 が 悪い んじゃ ない 。 こんな 、いい 男 に 産んだ お前 の おふくろ が 悪い んだ 」

色 の 浅黒い 、大学 出 みたいな 感じ の まだ 若い 署長 でした 。 いきなり そう 言われて 自分 は 、 自分 の 顔 の 半面 に べったり 赤 痣 あか あざ でも ある ような 、 みにくい 不 具者 の ような 、 みじめな 気 が しました 。

この 柔道 か 剣道 の 選手 の ような 署長 の 取調べ は 、 実に あっさり して いて 、 あの 深夜 の 老 巡査 の ひそかな 、 執拗 しつよう きわまる 好 色 の 「 取調べ 」 と は 、 雲泥 の 差 が ありました 。 訊問 が すんで 、署長 は 、検事 局 に 送る 書類 を したため ながら 、

「 からだ を 丈夫に し なけ れ ゃ 、 いかん ね 。 血 痰 けった ん が 出ている ようじゃないか 」

と 言いました 。

その 朝 、 へんに 咳 せき が 出て 、 自分 は 咳 の 出る たび に 、 ハンケチ で 口 を 覆って いた の です が 、 その ハンケチ に 赤い 霰 あられ が 降った みたいに 血 が ついて いた の です 。 けれども 、 それ は 、 喉 のど から 出た 血 で は なく 、 昨夜 、 耳 の 下 に 出来た 小さい おでき を いじって 、 その おでき から 出た 血 な のでした 。 しかし 、自分 は 、それ を 言い 明さない ほうが 、便宜 な 事 も ある ような 気 が ふっと した ものですから 、ただ 、

「 はい 」

と 、伏眼 に なり 、殊勝 げ に 答えて 置きました 。

署長 は 書類 を 書き 終えて 、

「起訴 に なる か どう か 、それ は 検事 殿 が きめる こと だが 、お前 の 身元 引受人 に 、電報 か 電話 で 、きょう 横浜 の 検事局 に 来て もらう ように 、たのんだ ほうが いい な 。 誰 か 、ある だろう 、お前 の 保護者 と か 保証人 と か いう もの が 」

父 の 東京 の 別荘 に 出入り して いた 書画 骨董 こっとう 商 の 渋田 と いう 、 自分 たち と 同郷人 で 、 父 のたいこ 持ち みたいな 役 も 勤めて いた ずんぐり した 独身 の 四十 男 が 、 自分 の 学校 の 保証人 に なって いる の を 、 自分 は 思い出しました 。 その 男 の 顔 が 、殊に 眼つき が 、ヒラメ に 似ている と いう ので 、父 は いつも その 男 を ヒラメ と 呼び 、自分 も 、そう 呼び なれて いました 。

自分 は 警察 の 電話帳 を 借りて 、ヒラメ の 家 の 電話番号 を 捜し 、見つかった ので 、ヒラメ に 電話して 、横浜 の 検事局 に 来て くれる ように 頼みましたら 、ヒラメ は 人 が 変った みたいな 威張った 口調 で 、それでも 、とにかく 引受けて くれました 。

「おい 、その 電話機 、すぐ 消毒 した ほうがいい ぜ 。 何せ 、血痰 が 出ている んだ から 」

自分 が 、また 保護室 に 引き上げて から 、お巡りたち に そう 言いつけて いる 署長 の 大きな 声 が 、保護室 に 坐っている 自分 の 耳 に まで 、とどきました 。

お 昼 すぎ 、 自分 は 、 細い 麻 繩 で 胴 を 縛ら れ 、 それ は マント で 隠す こと を 許さ れました が 、 その 麻 繩 の 端 を 若い お 巡り が 、 しっかり 握って いて 、 二人 一緒に 電車 で 横浜 に 向 いました 。

けれども 、 自分 に は 少し の 不安 も 無く 、 あの 警察 の 保護 室 も 、 老 巡査 も なつかしく 、 嗚呼 ああ 、 自分 は どうして こう な のでしょう 、 罪人 と して 縛ら れる と 、 かえって ほっと して 、 そうして ゆったり 落ちついて 、 その 時 の 追憶 を 、 いま 書く に 当って も 、 本当に のびのび した 楽しい 気持 に なる の です 。

しかし 、その 時期 の なつかしい 思い出 の 中 に も 、たった 一 つ 、冷汗 三斗 の 、生涯 わすれられぬ 悲惨な しくじり が あった のです 。 自分 は 、検事 局 の 薄暗い 一室 で 、検事 の 簡単な 取調べ を 受けました 。 検事 は 四十 歳 前後 の 物静かな 、( もし 自分 が 美貌 だった と して も 、 それ は 謂 いわば 邪 淫 の 美貌 だった に 違い ありません が 、 その 検事 の 顔 は 、 正しい 美貌 、 と でも 言いたい ような 、 聡明な 静 謐 せいひ つ の 気配 を 持って いました ) コセコセ し ない人柄 の ようでした ので 、 自分 も 全く 警戒 せず 、 ぼんやり 陳述 して いた の です が 、 突然 、 れいの 咳 が 出て 来て 、 自分 は 袂 から ハンケチ を 出し 、 ふと その 血 を 見て 、 この 咳 も また 何 か の 役 に 立つ かも 知れ ぬ と あさましい 駈引 き の 心 を 起し 、 ゴホン 、 ゴホン と 二 つ ばかり 、 おまけ の 贋 に せ の 咳 を 大袈裟 おおげさ に 附 け 加えて 、 ハンケチ で 口 を 覆った まま 検事 の 顔 を ちら と 見た 、 間一髪 、 「ほんとう かい ? ものしずかな 微笑 でした 。 冷 汗 三 斗 、いいえ 、いま 思い出して も 、きりきり舞い を し たく なります 。 中学 時代 に 、 あの 馬鹿 の 竹一 から 、 ワザ 、 ワザ 、 と 言われて 脊中 せなか を 突か れ 、 地獄 に 蹴落 けおとされた 、 その 時 の 思い 以上 と 言って も 、 決して 過言 で は 無い 気持 です 。 あれ と 、これ と 、二 つ 、自分 の 生涯 に 於ける 演技 の 大 失敗 の 記録 です 。 検事 の あんな 物静かな 侮 蔑 ぶ べつに 遭う より は 、 いっそ 自分 は 十 年 の 刑 を 言い渡された ほう が 、 ましだった と 思う 事 さえ 、 時たま ある 程 な の です 。 自分 は 起訴 猶予 に なりました 。 けれども 一向に うれしく なく 、世にも みじめな 気持 で 、検事局 の 控室 の ベンチ に 腰かけ 、引取り人 の ヒラメ が 来る の を 待って いました 。 背後 の 高い 窓 から 夕焼け の 空 が 見え 、 鴎 かもめ が 、「 女 」 と いう 字 みたいな 形 で 飛んで いました 。

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第 二 の 手記 (6) だい|に|の|しゅき ordinal|two|attributive particle|memoir Notizen aus zweiter Hand (6) Notes d'occasion (6) 두 번째 수기 (6) Notas em segunda mão (6) Записки из вторых рук (6) 第二注 (6) 第二註 (6) Second Memoir (6)

惜しい という 気持 では ありません でした 。 おしい|という|きもち|では|ありません|でした regrettable|called|feeling|is not|there is not|was lamentável||||| I did not feel regret. 自分 に は 、 もともと 所有 慾 と いう もの は 薄く 、 また 、 たまに 幽 か に 惜しむ 気持 は あって も 、 その 所有 権 を 敢然と 主張 し 、 人 と 争う ほど の 気力 が 無い のでした 。 じぶん||||しょゆう|よく|||||うすく|||ゆう|||おしむ|きもち|||||しょゆう|けん||かんぜんと|しゅちょう||じん||あらそう|||きりょく||ない| 對我來說,本來擁有欲是很薄弱的,而且雖然偶爾會有些許可惜的心情,但卻沒有勇氣去主張那個所有權,也不會為了此與人爭鬥。 I have always had a weak sense of possession, and while I occasionally feel a faint sense of regret, I lack the energy to assert ownership and argue with others. のち に 、自分 は 、自分 の 内縁 の 妻 が 犯さ れる の を 、黙って 見て いた 事 さえ あった ほど な のです 。 のち|に|じぶん|は|じぶん|の|ないえん|の|つま|が|おかさ|れる|の|を|だまって|みて|いた|こと|さえ|あった|ほど|な|のです ||||||内缘|||||||||||||||| later|at|myself|topic marker|myself|possessive particle|common-law|attributive particle|wife|subject marker|commit|passive form|nominalizer|object marker|silently|watching|was|thing|even|there was|to the extent|adjectival particle|you see ||||||concubina||||cometer|||||||||||| 後來,我甚至有過默默看著我的內侍妻子被侵犯的情況。 Later on, I even found myself silently watching as my common-law wife was violated.

自分 は 、人間 の いざこざ に 出来る だけ 触り たく ない のでした 。 じぶん|は|にんげん|の|いざこざ|に|できる|だけ|さわり|たく|ない|のでした 自己||||纠纷||||||| myself|topic marker|human|attributive particle|troubles|locative particle|can|only|touch|want to|not|because it was ||||conflitos||||tocar||| 我不想盡可能地介入人類之間的紛爭。 I don't want to get involved in human conflicts as much as possible. その 渦 に 巻き込まれる の が 、おそろしい のでした 。 その|うず|に|まきこまれる|の|が|おそろしい|のでした that|whirlpool|at|will be caught|nominalizer|subject marker|scary|was |vórtice|||||| Being caught up in that vortex is terrifying. ツネ子 と 自分 と は 、一夜 だけ の 間柄 です 。 ツネこ|と|じぶん|と|は|いちや|だけ|の|あいだがら|です ||||||||关系| Tsune ko|and|myself|and|topic marker|one night|only|attributive particle|relationship|is ||||||||relação| Tsunekko and I have only a one-night relationship. ツネ子 は 、自分 の もの では ありません 。 ツネこ|は|じぶん|の|もの|では|ありません Tsune ko|topic marker|myself|possessive particle|thing|is not|is not Tsunekko does not belong to me. 惜しい 、など 思い上った 慾 は 、自分 に 持てる 筈 は ありません 。 おしい|など|おもいあがった|よく|は|じぶん|に|もてる|はず|は|ありません ||||||||可能|| regrettable|etc|conceited|desire|topic marker|myself|locative particle|can have|supposed|topic marker|there is not ||elevada|||||||| Regrettably, such lofty desires cannot possibly be held by me. けれども 、自分 は 、ハッと しました 。 けれども|じぶん|は|ハッと|しました but|myself|topic marker|suddenly|did |||de repente| 然而,我驚覺。 However, I was taken aback.

自分 の 眼 の 前 で 、堀木 の 猛烈な キス を 受ける 、その ツネ子 の 身の上 を 、ふびんに 思った から でした 。 じぶん|の|め|の|まえ|で|ほりき|の|もうれつな|キス|を|うける|その|ツネこ|の|みのうえ|を|ふびんに|おもった|から|でした |||||||||||||||||可怜||| myself|attributive particle|eyes|attributive particle|in front|at|Horiki|possessive particle|intense|kiss|object marker|receive|that|Tsunekko|possessive particle|circumstances|object marker|pitifully|thought|because|was ||||||||feroz|||||||destino||infelizmente||| 我眼前的堀木對著露子猛烈的吻,讓我感到她的境遇真是可憐。 It was because I felt pity for Tsunekos, who was receiving Horiki's fierce kiss right in front of my eyes. 堀木 に よごされた ツネ子 は 、 自分 と わかれ なければ なら なく なる だろう 、 しかも 自分 に も 、 ツネ子 を 引き留める 程 の ポジティヴ な 熱 は 無い 、 ああ 、 もう 、 これ で おしまい な のだ 、 と ツネ子 の 不幸に 一瞬 ハッと した もの の 、 すぐに 自分 は 水 の よう に 素直に あきらめ 、 堀木 と ツネ子 の 顔 を 見 較 べ 、 に やに や と 笑いました 。 ほりき|||つねこ||じぶん|||||||||じぶん|||つねこ||ひきとめる|ほど||||ねつ||ない|||||||||つねこ||ふこうに|いっしゅん|はっと|||||じぶん||すい||||すなおに||ほりき||つねこ||かお||み|かく||||||わらいました 被堀木玷污的露子,恐怕必須和我分開,而且我也沒有足夠的積極熱情去挽留露子,啊,這樣就結束了,我一瞬間驚訝於露子的不幸,但馬上我就像水一樣坦然地放棄,對照堀木和露子的面龐,嘴角露出微笑。 Tsuneko, who was sullied by Horiki, would have to part ways with me, and moreover, I did not have the positive passion to keep Tsunekos with me. Ah, this is the end, I thought for a moment about Tsunekos' misfortune, but soon I simply gave up like water, compared the faces of Horiki and Tsunekos, and smiled slyly.

しかし 、事態 は 、実に 思いがけなく 、もっと 悪く 展開 せられました 。 しかし|じたい|は|じつに|おもいがけなく|もっと|わるく|てんかい|せられました however|situation|topic marker|really|unexpectedly|more|worse|developed|was developed |a situação|||inesperadamente|||se desenrolou|foi (passivamente) However, the situation unexpectedly developed even worse.

「 やめた ! "I quit!" "

と 堀木 は 、口 を ゆがめて 言い 、 と|ほりき|は|くち|を|ゆがめて|いい |||||歪着| and|Horiki|topic marker|mouth|object marker|distorting|saying Horigaki said, twisting his mouth.

「さすが の おれ も 、こんな 貧乏くさい 女 に は 、……」 さすが|の|おれ|も|こんな|びんぼうくさい|おんな|に|は ||||||臭的|| as expected|attributive particle|I (informal masculine)|also|this kind of|poor-smelling|woman|locative particle|topic marker "As expected of me, even I can't deal with such a shabby woman..."

閉口 し 切った ように 、腕組み して ツネ子 を じろじろ 眺め 、苦笑 する のでした 。 へいこう|し|きった|ように|うでぐみ|して|ツネこ|を|じろじろ|ながめ|にがわらい|する|のでした ||||抱臂|||||||| being at a loss for words|and|cut|as if|arms crossed|doing|Tsune ko|object marker|staring|looking|wry smile|to do|it was fechou a boca||||de braços cruzados||||de forma insistente|||| He crossed his arms and stared at Tsunekko with a look of exasperation, giving a wry smile.

「お 酒 を 。 お|さけ|を honorific prefix|sake|object marker "The alcohol. お 金 は 無い 」 お|かね|は|ない honorific prefix|money|topic marker|not exist I have no money."

自分 は 、小声 で ツネ子 に 言いました 。 じぶん|は|こごえ|で|ツネこ|に|いいました myself|topic marker|a low voice|at|Tsuneko|locative particle|said I said to Tsunekko in a low voice. それ こそ 、浴びる ほど 飲んで みたい 気持 でした 。 それ|こそ|あびる|ほど|のんで|みたい|きもち|でした that|emphasis particle|to bathe|as much as|drinking|want to try|feeling|was I really wanted to drink to the point of being drenched. 所 謂俗 物 の 眼 から 見る と 、 ツネ子 は 酔 漢 の キス に も 価 いしない 、 ただ 、 みすぼらしい 、 貧乏 くさい 女 だった のでした 。 しょ|いぞく|ぶつ||がん||みる||つねこ||よ|かん||きす|||か|い し ない|||びんぼう||おんな|| From the perspective of a vulgar person, Tsunekko was not worth a drunken man's kiss; she was just a shabby, poor-looking woman. 案外 と も 、 意外 と も 、 自分 に は 霹靂 へ きれ き に 撃ち くだかれた 思い でした 。 あんがい|||いがい|||じぶん|||へきれき|||||うち||おもい| Surprisingly, or rather unexpectedly, I felt as if I had been struck by a bolt from the blue. 自分 は 、 これ まで 例 の 無かった ほど 、 いくら でも 、 いくら でも 、 お 酒 を 飲み 、 ぐらぐら 酔って 、 ツネ子 と 顔 を 見合せ 、 哀 かなしく 微笑 ほほえみ 合い 、 いかにも そう 言われて みる と 、 こいつ は へんに 疲れて 貧乏 くさい だけ の 女 だ な 、 と 思う と 同時に 、 金 の 無い者 どうし の 親和 ( 貧富 の 不和 は 、 陳腐 の よう でも 、 やはり ドラマ の 永遠の テーマ の 一 つ だ と 自分 は 今では 思って います が ) そい つ が 、 その 親和 感 が 、 胸 に 込み上げて 来て 、 ツネ子 が いとしく 、 生れて この 時 はじめて 、 われ から 積極 的に 、 微弱 ながら 恋 の 心 の 動く の を 自覚 しました 。 じぶん||||れい||なかった|||||||さけ||のみ||よって|つねこ||かお||みあわせ|あい||びしょう||あい|||いわれて||||||つかれて|びんぼう||||おんな||||おもう||どうじに|きむ||ない もの|どう し||しんわ|ひんぷ||ふわ||ちんぷ|||||どらま||えいえんの|てーま||ひと||||じぶん||いまでは|おもって|||||||しんわ|かん||むね||こみあげて|きて|つねこ|||うまれて||じ||||せっきょく|てきに|びじゃく||こい||こころ||うごく|||じかく| 我到目前為止,從未有過如此,無論多少喝酒,醉得搖搖欲墜,和 Tsunekko 互看著對方,悲傷地微笑著,說來也是,這傢伙看起來只是怪累又窮酸的女人,這樣想的同時,我也認為,金錢的缺乏彼此之間的親和(雖然貧富不和似乎很陳腐,但我現在認為這仍然是戲劇的永恆主題之一),這種親和感湧上心頭,Tsunekko 變得可愛,這是我出生以來第一次,積極主動地覺察到,雖然微弱,但內心的戀愛情感在動搖。 I have, for the first time in my life, drunk as much alcohol as I wanted, getting completely drunk, looking into Tsunekos face, sharing a sad smile, and when I think about it, I realize that she is just a strangely tired and shabby woman. At the same time, I think that the affinity between those who have no money (the discord of wealth and poverty, though it may seem trivial, is one of the eternal themes of drama) is rising in my chest, and I find Tsuneko endearing. For the first time in my life, I consciously felt a weak stirring of love within me. 吐きました 。 はきました 吐了。 I vomited. 前後不覚 に なりました 。 ぜんごふかく|に|なりました 前后不觉|| unconscious|locative particle|became 變得失去意識。 I lost consciousness. お 酒 を 飲んで 、こんなに 我 を 失う ほど 酔った の も 、その 時 が はじめて でした 。 お|さけ|を|のんで|こんなに|われ|を|うしなう|ほど|よった|の|も|その|とき|が|はじめて|でした |||||||||||||||第一次| honorific prefix|alcohol|object marker|drinking|this much|I|object marker|lose|to the extent|got drunk|explanatory particle|also|that|time|subject marker|for the first time|was It was the first time I got so drunk that I lost myself after drinking.

眼 が 覚めたら 、枕 もと に ツネ子 が 坐って いました 。 め|が|さめたら|まくら|もと|に|ツネこ|が|すわって|いました ||||边||||| eye|subject marker|when (I) wake up|pillow|at|locative particle|Tsuneko (a name)|subject marker|sitting|was When I woke up, Tsunekko was sitting by my pillow. 本所 の 大工 さん の 二階 の 部屋 に 寝ていた のでした 。 ほんじょ|の|だいく|さん|の|にかい|の|へや|に|ねていた|のでした ||大工|||||||| Honjo|attributive particle|carpenter|Mr/Ms|possessive particle|second floor|attributive particle|room|locative particle|was sleeping|it was 我住在本所的木匠的二樓房間裡。 I was sleeping in a second-floor room of a carpenter in Honjo.

「 金 の 切れ め が 縁 の 切れ め 、 なんて おっしゃって 、 冗談 か と 思う ていた ら 、 本気 か 。 きむ||きれ|||えん||きれ||||じょうだん|||おもう|||ほんき| 「金錢一旦斷絕,就會是緣分的結束」這話您真是這麼說的,我還以為是在開玩笑呢,沒想到您是認真的。 I thought you were joking when you said, 'When the money runs out, so does the relationship.' 来て くれ ない のだ もの 。 きて|くれ|ない|のだ|もの come|give|not|you see|because 果然是因為您不會來嘛。 You just won't come. ややこしい 切れ め や な 。 ややこしい|きれ|め|や|な 麻烦|||| complicated|piece|suffix indicating a quality|and|adjectival particle 有點麻煩呢。 It's a bit complicated, isn't it? うち が 、かせいで あげて も 、だめ か 」 うち|が|かせいで|あげて|も|だめ|か ||因为|||| house|subject marker|because of the wind|raising|also|no good|question marker 雖然我家給了,但也沒用嗎? Even if I try to help, will it not work?

「 だめ 」 「不行」 "No."

それ から 、女 も 休んで 、夜明け が た 、女 の 口 から 「死 」と いう 言葉 が はじめて 出て 、女 も 人間 として の 営み に 疲れ切って いた ようでした し 、また 、自分 も 、世の中 へ の 恐怖 、わずらわしさ 、金 、れいの 運動 、女 、学業 、考える と 、とても この上 こらえて 生きて 行け そう も なく 、その ひと の 提案 に 気軽に 同意 しました 。 それ|から|おんな|も|やすんで|よあけ|が|た|おんな|の|くち|から|し|と|いう|ことば|が|はじめて|でて|おんな|も|にんげん|として|の|いとなみ|に|つかれきって|いた|ようでした|し|また|じぶん|も|よのなか|へ|の|きょうふ|わずらわしさ|かね|れいの|うんどう|おんな|がくぎょう|かんがえる|と|とても|このうえ|こらえて|いきて|いけ|そう|も|なく|その|ひと|の|ていあん|に|きがるに|どうい|しました |||||黎明||||||||||||||||||||生存||疲惫不堪|||||||||||烦恼|||||||||||忍耐|||||||||||轻松地 that|after|woman|also|resting|dawn|subject marker|past tense marker|woman|possessive particle|mouth|from|death|quotation particle|to say|word|subject marker|for the first time|came out|woman|also|human|as|attributive particle|activities|locative particle|exhausted|was|seemed|and|also|myself|also|the world|direction particle|possessive particle|fear|annoyance|money|that|movement|woman|studies|thinking|and|very|on top of this|endure|living|can go|seems|also|not|that|person|possessive particle|proposal|locative particle|casually|agreement|did ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||preocupação||||||||||||||||||||proposta|| After that, the woman also took a break, and at dawn, for the first time, the word "death" came out of her mouth. It seemed that she was completely exhausted from her human endeavors, and also, thinking about her fears of the world, the troubles, money, the usual movements, women, and studies, it felt like she couldn't endure living any longer, so she casually agreed to that person's proposal.

けれども 、その 時 に は まだ 、実感 として の 「死のう 」という 覚悟 は 、出来て い なかった のです 。 けれども|その|とき|に|は|まだ|じっかん|として|の|しのう|という|かくご|は|できて|い|なかった|のです but|that|time|at|topic marker|still|feeling|as|attributive particle|let's die|called|determination|topic marker|able to|is|did not have|you see However, at that time, I still hadn't come to the realization of the resolve to "die." どこ か に 「遊び 」が ひそんで いました 。 どこ|か|に|あそび|が|ひそんで|いました |||||潜藏| where|or|at|play|subject marker|was hidden|was |||||estava escondido| Somewhere, there was a hidden "playfulness."

その 日 の 午前 、二人 は 浅草 の 六区 を さまよって いました 。 その|ひ|の|ごぜん|ふたり|は|あさくさ|の|ろくく|を|さまよって|いました that|day|attributive particle|morning|two people|topic marker|Asakusa|attributive particle|Six District|object marker|wandering|was That morning, the two of them were wandering around the Rokku district in Asakusa. 喫茶店 に はいり 、牛乳 を 飲みました 。 きっさてん|に|はいり|ぎゅうにゅう|を|のみました coffee shop|locative particle|entered|milk|object marker|drank They entered a coffee shop and drank milk.

「あなた 、払う て 置いて 」 あなた|はらう|て|おいて you|to pay|and|put "You, just pay up."

自分 は 立って 、 袂 たもと から がま口 を 出し 、 ひらく と 、 銅 銭 が 三 枚 、 羞恥 しゅうち より も 凄 惨 せいさん の 思い に 襲わ れ 、 たちまち 脳 裡 のうり に 浮ぶ もの は 、 仙遊 館 の 自分 の 部屋 、 制服 と 蒲 団 だけ が 残されて ある きり で 、 あと は もう 、 質 草 に なり そうな もの の 一 つ も 無い 荒涼たる 部屋 、 他 に は 自分 の いま 着て 歩いて いる 絣 の 着物 と 、 マント 、 これ が 自分 の 現実 な のだ 、 生きて 行けない 、 と はっきり 思い知りました 。 じぶん||たって|たもと|||がまぐち||だし|||どう|せん||みっ|まい|しゅうち||||すご|さん|||おもい||おそわ|||のう|り|||うかぶ|||せんゆう|かん||じぶん||へや|せいふく||がま|だん|||のこされて|||||||しち|くさ|||そう な|||ひと|||ない|こうりょうたる|へや|た|||じぶん|||きて|あるいて||かすり||きもの||まんと|||じぶん||げんじつ|||いきて|いけ ない|||おもいしりました 我站起來,從衣袖裡拿出錢包,打開一看,裡面有三枚銅錢,襲來的不是羞恥,而是更為慘痛的思緒,腦海中立刻浮現出來的是仙遊館我自己的房間,裡面僅僅剩下制服和蒲團,其餘的已經是一片可以變成質草的荒涼房間,除此之外,只有我現在穿著的絣花和服與斗篷,這就是我的現實,我明確地意識到無法活下去了。 I stood up, took out my coin purse from my sleeve, and when I opened it, there were three copper coins. Overwhelmed by a feeling more terrible than shame, what floated in my mind was my room in the Senyukan, where only my uniform and a futon remained, and there was nothing else left that could be pawned in that desolate room. All that was left was the kasuri kimono I was currently wearing and my cloak. This was my reality; I realized clearly that I could not go on living.

自分 が まごついて いる ので 、女 も 立って 、自分 の がま口 を のぞいて 、 じぶん|が|まごついて|いる|ので|おんな|も|たって|じぶん|の|がまぐち|を|のぞいて ||犹豫||||||||钱包||查看 myself|subject marker|flustered|am|because|woman|also|standing|my|possessive particle|coin purse|object marker|peeking 因為我手忙腳亂,女人也站起來,朝我的錢包瞥了一眼, Since I was hesitating, the woman also stood up and looked into my coin purse.

「あら 、たった それ だけ ? あら|たった|それ|だけ oh|only|that|only 「哎呀,就這麼一點兒?」 "Oh, is that all?" "

無心 の 声 でした が 、これ が また 、じん と 骨身 に こたえる ほど に 痛かった のです 。 むしん|の|こえ|でした|が|これ|が|また|じん|と|ほねみ|に|こたえる|ほど|に|いたかった|のです 无心的|||||||人||骨身||回答||||| no mind|attributive particle|voice|was|but|this|but|also|a little|and|bones|locative particle|to respond|to the extent|locative particle|was painful|you see 雖然是無心的聲音,但這聲音卻讓我感到刺痛,幾乎深入骨髓。 It was a voice without intention, but it was also painfully resonant to the bones. はじめて 自分 が 、恋した ひと の 声 だけ に 、痛かった のです 。 はじめて|じぶん|が|こいした|ひと|の|こえ|だけ|に|いたかった|のです for the first time|myself|subject marker|fell in love|person|attributive particle|voice|only|locative particle|it hurt|you see 第一次聽到自己愛的人聲音,讓我感到如此的痛苦。 For the first time, I felt pain only from the voice of the person I loved. それ だけ も 、これ だけ も ない 、銅 銭 三 枚 は 、どだい お金 で ありません 。 それ|だけ|も|これ|だけ|も|ない|銅|銭|さん|まい|は|どだい|お金|で|ありません ||||||||||||根本||| that|only|also|this|only|also|not|copper|coins|three|counter for flat objects|topic marker|at all|money|is|not there 光是這三枚銅錢,根本稱不上是金錢。 Even that, just this, three copper coins are fundamentally not money. それ は 、 自分 が 未 いまだかつて 味わった 事 の 無い 奇妙な 屈辱 でした 。 ||じぶん||み||あじわった|こと||ない|きみょうな|くつじょく| It was a strange humiliation that I had never experienced before. とても 生きて おら れ ない 屈辱 でした 。 とても|いきて|おら|れ|ない|くつじょく|でした very|living|not being|passive marker|not|humiliation|was It was a humiliation that made me feel as if I were not truly alive. 所詮 しょせん その頃 の 自分 は 、 まだ お 金持ち の 坊ちゃん と いう 種 属 から 脱し 切って い なかった のでしょう 。 しょせん||そのころ||じぶん||||かねもち||ぼっちゃん|||しゅ|ぞく||だっし|きって||| 所詮那時的我,還是無法完全脫離富家公子的身份。 After all, at that time, I had not yet completely escaped from being a rich young man. その 時 、自分 は 、みずから すすんで も 死のう と 、実感 として 決意 した のです 。 その|とき|じぶん|は|みずから|すすんで|も|しのう|と|じっかん|として|けつい|した|のです ||||自己||||||||| that|time|myself|topic marker|myself|willingly|also|to die|quotation particle|real feeling|as|determination|did|you see 那時,我自願並真心下定決心要去死。 At that moment, I felt a genuine determination to willingly embrace death.

その 夜 、自分たち は 、鎌倉 の 海 に 飛び込みました 。 その|よる|じぶんたち|は|かまくら|の|うみ|に|とびこみました |夜||||||| that|night|we|topic marker|Kamakura|attributive particle|sea|locative particle|jumped in 那個晚上,我們跳進了鎌倉的海裡。 That night, we jumped into the sea in Kamakura. 女 は 、 この 帯 は お 店 の お 友達 から 借りて いる 帯 や から 、 と 言って 、 帯 を ほどき 、 畳んで 岩 の 上 に 置き 、 自分 も マント を 脱ぎ 、 同じ 所 に 置いて 、 一緒に 入 水 じゅ すい しました 。 おんな|||おび|||てん|||ともだち||かりて||おび||||いって|おび|||たたんで|いわ||うえ||おき|じぶん||まんと||ぬぎ|おなじ|しょ||おいて|いっしょに|はい|すい||| The woman said, "This obi is borrowed from a friend at the store," and she untied the obi, folded it, and placed it on a rock. She also took off her cloak and placed it in the same spot, and we both entered the water together.

女 の ひと は 、死にました 。 おんな|の|ひと|は|しにました woman|attributive particle|person|topic marker|died The woman died. そうして 、自分 だけ 助かりました 。 そうして|じぶん|だけ|たすかりました and|myself|only|was saved And so, I was the only one who survived.

自分 が 高等 学校 の 生徒 で は あり 、また 父 の 名 に も いくらか 、所謂 ニュウス ・ヴァリュ が あった の か 、新聞 に も かなり 大きな 問題 として 取り上げられた ようでした 。 じぶん|が|こうとう|がっこう|の|せいと|で|は|あり|また|ちち|の|な|に|も|いくらか|いわゆる|ニュウス|ヴァリュ|が|あった|の|か|しんぶん|に|も|かなり|おおきな|もんだい|として|とりあげられた|ようでした |||||||||||||||多少|||新闻|价值|||||||||||| myself|subject marker|high|school|attributive particle|student|is|topic marker|and|also|father|possessive particle|name|locative particle|also|somewhat|so-called|news|value|subject marker|there was|attributive particle|question marker|newspaper|locative particle|also|quite|big|problem|as|was taken up|it seemed I was a high school student, and perhaps because of my father's name, there seemed to be some so-called news value, as it was taken up quite prominently in the newspapers.

自分 は 海辺 の 病院 に 収容 せられ 、 故郷 から 親戚 しんせき の者 が ひとり 駈 け つけ 、 さまざまの 始末 を して くれて 、 そうして 、 くに の 父 を はじめ 一家 中 が 激怒 して いる から 、 これっきり 生家 と は 義 絶 に なる かも 知れ ぬ 、 と 自分 に 申し渡して 帰りました 。 じぶん||うみべ||びょういん||しゅうよう|せら れ|こきょう||しんせき||の しゃ|||く||||しまつ|||||||ちち|||いっか|なか||げきど|||||せいか|||ただし|た||||しれ|||じぶん||もうしわたして|かえりました 我被收容在海邊的醫院,從故鄉來的親戚中有一位匆匆趕來,為我處理各種事宜。而且,由於國內的父親和全家都非常憤怒,我不得不告訴自己,可能會因此與生家斷絕關係,然後我回去了。 I was admitted to a hospital by the seaside, and a relative from my hometown rushed over to take care of various matters. They told me that my father and the whole family were furious, and that I might be completely cut off from my family from now on. けれども 自分 は 、そんな 事 より 、死んだ ツネ子 が 恋い しく 、めそめそ 泣いて ばかり いました 。 けれども|じぶん|は|そんな|こと|より|しんだ|ツネこ|が|こい|しく|めそめそ|ないて|ばかり|いました |||||||||恋||呜咽||| but|myself|topic marker|such|things|than|dead|Tsunekko|subject marker|longing|very|sobbing|crying|only|was 然而,我對於這些事情,比起死去的常子更感到戀戀不捨,總是哭哭啼啼的。 However, more than that, I was just missing Tsunekko, who had passed away, and I was crying all the time. 本当に 、いま まで の ひと の 中 で 、あの 貧乏くさい ツネ子 だけ を 、すきだった のです から 。 ほんとうに|いま|まで|の|ひと|の|なか|で|あの|びんぼうくさい|ツネこ|だけ|を|すきだった|のです|から really|now|until|attributive particle|person|possessive particle|among|locative particle|that|poor-looking|Tsune ko|only|object marker|liked|you see|because 其實,在我所認識的人當中,只有那個窮酸的常子讓我真的喜歡。 Truly, among all the people I had known until now, I had only loved that poor Tsunekko.

下宿 の 娘 から 、短歌 を 五十 も 書きつらねた 長い 手紙 が 来ました 。 げしゅく|の|むすめ|から|たんか|を|ごじゅう|も|かきつらねた|ながい|てがみ|が|きました ||||||||写了|||| boarding house|attributive particle|daughter|from|tanka (a type of Japanese poetry)|object marker|fifty|also|wrote in succession|long|letter|subject marker|came 下宿的女孩寄來了一封寫了五十首短歌的長信。 A long letter with fifty tanka poems came from the daughter of the boarding house. 「生き くれよ 」と いう へんな 言葉 で はじまる 短歌 ばかり 、五十 でした 。 いき|くれよ|と|いう|へんな|ことば|で|はじまる|たんか|ばかり|ごじゅう|でした live|give me|quotation particle|to say|strange|words|at|begins|tanka (a type of Japanese poetry)|only|fifty|was 全是以「活下去啊」這句奇怪的話開頭的短歌,總共有五十首。 All fifty of them began with the strange words, 'Live on.' また 、自分 の 病室 に 、看護婦たち が 陽気に 笑いながら 遊びに 来て 、自分 の 手 を きゅっと 握って 帰る 看護婦 も いました 。 また|じぶん|の|びょうしつ|に|かんごふたち|が|ようきに|わらいながら|あそびに|きて|じぶん|の|て|を|きゅっと|にぎって|かえる|かんごふ|も|いました also|myself|possessive particle|hospital room|locative particle|nurses|subject marker|cheerfully|laughing|to play|came|my|possessive particle|hand|object marker|tightly|holding|going home|nurse|also|was 此外,還有護士們開心地笑著來到我的病房,有的還緊緊握著我的手就回去了。 Also, in my hospital room, there were nurses who came to play cheerfully, and one nurse even tightly held my hand before leaving.

自分 の 左 肺 に 故障 の ある の を 、 その 病院 で 発見 せられ 、 これ がたいへん 自分 に 好都合な 事 に なり 、 やがて 自分 が 自殺 幇助 ほうじょ 罪 と いう 罪名 で 病院 から 警察 に 連れて 行か れました が 、 警察 で は 、 自分 を 病人 あつかい に して くれて 、 特に 保護 室 に 収容 しました 。 じぶん||ひだり|はい||こしょう||||||びょういん||はっけん|せら れ|||じぶん||こうつごうな|こと||||じぶん||じさつ|ほうじょ||ざい|||ざいめい||びょういん||けいさつ||つれて|いか|||けいさつ|||じぶん||びょうにん|||||とくに|ほご|しつ||しゅうよう| 我在左肺有故障,這在那家醫院被發現,這對我來說是非常有利的事情,隨後我因為自殺幫助罪被從醫院帶到警察局,但在警察那裡,他們將我當作病人對待,特別是把我收容在保護室內。 It was discovered in that hospital that I had a problem with my left lung, which turned out to be very convenient for me, and eventually, I was taken from the hospital to the police on the charge of assisted suicide. However, at the police station, they treated me as a patient and specifically placed me in a protective room.

深夜 、 保護 室 の 隣り の 宿直 室 で 、 寝ずの番 を して いた 年寄り の お 巡 まわり が 、 間 の ドア を そっと あけ 、 しんや|ほご|しつ||となり||しゅくちょく|しつ||ねずのばん||||としより|||めぐり|||あいだ||どあ||| 深夜,保護室旁邊的值班室裡,一位沒睡的老警察輕輕打開了隔壁的門, Late at night, the elderly patrolman who was on duty in the adjacent guard room quietly opened the door between them,

「 おい ! 「喂! "Hey!" ""

と 自分 に 声 を かけ 、 と|じぶん|に|こえ|を|かけ and|myself|to|voice|object marker|call he called out to himself,

「寒い だろう 。 さむい|だろう cold|probably "It must be cold." こっち へ 来て 、あたれ 」 こっち|へ|きて|あたれ |||来 this way|to|come|hit 來這邊,來受熱吧。 "Come over here and warm up."

と 言いました 。 と|いいました and|said 這麼說道。 He said.

自分 は 、わざと しおしお と 宿直 室 に はいって 行き 、椅子 に 腰かけて 火鉢 に あたりました 。 じぶん|は|わざと|しおしお|と|しゅくちょく|しつ|に|はいって|いき|いす|に|こしかけて|ひばち|に|あたりました |||沮丧|||||||||||| myself|topic marker|deliberately|feeling down|and|night duty|room|locative particle|entered|and went|chair|locative particle|sat down|brazier|locative particle|warmed 我故意無精打采地走進宿舍,坐在椅子上對著火盆取暖。 I deliberately went into the duty room looking downcast, sat on a chair, and warmed myself by the hibachi.

「やはり 、死んだ 女 が 恋いしい だろう 」 やはり|しんだ|おんな|が|こいしい|だろう |||||可怜 of course|dead|woman|subject marker|miss|probably "After all, you must miss the woman who has died, right?"

「 はい 」 "Yes."

ことさら に 、消え 入る ような 細い 声 で 返事 しました 。 ことさら|に|きえ|はいる|ような|ほそい|こえ|で|へんじ|しました 特别|||||细的|||| especially|at|disappear|enter|like|thin|voice|with|reply|did I replied in a particularly thin voice, as if I were fading away.

「そこ が 、やはり 人情 と いう もの だ 」 そこ|が|やはり|にんじょう|と|いう|もの|だ |||人情|||| there|but|as expected|human feelings|quotation particle|called|thing|is 「那裡,果然就是人情的所在」 "That is, after all, what we call human feelings."

彼 は 次第に 、大きく 構えて 来ました 。 かれ|は|しだいに|おおきく|かまえて|きました ||||摆出姿势| he|topic marker|gradually|big|prepared|came 他漸漸地變得氣度不凡。 He gradually became more imposing.

「はじめ 、女 と 関係 を 結んだ の は 、どこ だ 」 はじめ|おんな|と|かんけい|を|むすんだ|の|は|どこ|だ beginning|woman|and|relationship|object marker|tied|attributive particle|topic marker|where|is 「最初,與女人建立關係的是,哪裡呢」 "Where did you first establish a relationship with a woman?"

ほとんど 裁判官 の 如く 、もったいぶって 尋ねる のでした 。 ほとんど|さいばんかん|の|ごとく|もったいぶって|たずねる|のでした |裁判||||卖关子|询问 almost|judge|attributive particle|like|pretentiously|to ask|it was 幾乎像法官一樣,擺出一副賣弄風情的樣子詢問。 He asked in a pompous manner, almost like a judge. 彼 は 、 自分 を 子供 と あなどり 、 秋 の 夜 の つれ づれ に 、 あたかも 彼 自身 が 取調べ の 主任 でも ある か の よう に 装い 、 自分 から 猥談 わ い だ ん めいた 述懐 を 引き出そう と いう 魂胆 の ようでした 。 かれ||じぶん||こども|||あき||よ||||||かれ|じしん||とりしらべ||しゅにん|||||||よそおい|じぶん||わいだん||||||じゅっかい||ひきだそう|||こんたん|| 他輕視自己像個孩子,在秋夜的閒暇中,彷彿自己是這次審訊的主考官,企圖從我這裡引出一些猥褻的談話。 He seemed to underestimate himself as a child, and on a lonely autumn night, he pretended as if he himself were the chief interrogator, seemingly trying to draw out lewd conversations from himself. 自分 は 素早く それ を 察し 、 噴き出したい の を 怺 こらえる のに 骨 を 折りました 。 じぶん||すばやく|||さっし|ふきだしたい||||||こつ||おりました 我迅速察覺到了這一點,努力忍住想要噴出的笑聲,實在很費力。 I quickly sensed it and struggled to hold back my urge to burst out laughing. そんな お 巡り の 「 非公式な 訊問 」 に は 、 いっさい 答 を 拒否 して も かまわない のだ と いう 事 は 、 自分 も 知っていました が 、 しかし 、 秋 の 夜 な が に 興 を 添える ため 、 自分 は 、 あくまでも 神妙に 、 その お 巡り こそ 取調べ の 主任 であって 、 刑罰 の 軽重 の 決定 も その お 巡り の 思召 おぼしめし 一 つ に 在る のだ 、 と いう 事 を 固く 信じて 疑わない ような 所 謂 誠意 を おもて に あらわし 、 彼 の 助平 の 好奇心 を 、 やや 満足 させる 程度 の いい加減な 「 陳述 」 を する のでした 。 ||めぐり||ひこうしきな|じんもん||||こたえ||きょひ|||かまわ ない||||こと||じぶん||しっていました|||あき||よ||||きょう||そえる||じぶん|||しんみょうに|||めぐり||とりしらべ||しゅにん||けいばつ||けいちょう||けってい||||めぐり||おぼしめし||ひと|||ある||||こと||かたく|しんじて|うたがわ ない||しょ|い|せいい|||||かれ||じょたいら||こうきしん|||まんぞく||ていど||いいかげんな|ちんじゅつ||| 對於這樣的巡邏的「非正式詢問」,我自己也知道完全可以拒絕回答,但是,為了增添秋夜的情趣,我仍然是非常認真的,堅信那位巡邏者才是審問的主任,刑罰的輕重也完全取決於那位巡邏者的意志,因此我表現出某種誠意,讓他的好奇心稍微得到了一些滿足,於是進行了一些不太認真的「陳述」。 I knew that I could refuse to answer such an "informal inquiry" from the officer, but to add some interest to the autumn night, I maintained a serious demeanor, firmly believing that the officer was indeed the head of the interrogation and that the severity of the punishment depended solely on his discretion, and I expressed a kind of sincerity that left no room for doubt, providing a somewhat vague "statement" that would somewhat satisfy his prying curiosity.

「うん 、それ で だいたい わかった 。 うん|それ|で|だいたい|わかった yeah|that|with|roughly|understood 「嗯,這樣我大概明白了。」 "Yeah, I pretty much understand that. 何でも 正直に 答える と 、わし ら の ほう でも 、そこ は 手心 を 加える 」 なんでも|しょうじきに|こたえる|と|わし|ら|の|ほう|でも|そこ|は|てごころ|を|くわえる anything|honestly|answer|quotation particle|I (informal masculine)|plural marker|possessive particle|side|also|there|topic marker|leniency|object marker|add 「不管怎樣,誠實回答的話,我們這邊會稍微放水的。」 If you answer everything honestly, we will also show some leniency on our part."

「ありがとう ございます 。 ありがとう|ございます thank you|very much "Thank you very much." よろしく お 願い いたします 」 よろしく|お|ねがい|いたします well|honorific prefix|request|I will do "I appreciate your assistance."

ほとんど 入 神 の 演技 でした 。 ほとんど|にゅう|かみ|の|えんぎ|でした ||||演技| almost|entrance|god|attributive particle|performance|was It was almost a divine performance. そうして 、自分 の ため に は 、何も 、一つも 、とくに ならない 力 演 な のです 。 そうして|じぶん|の|ため|に|は|なにも|ひとつも|とくに|ならない|ちから|えん|な|のです ||||||||||特别||| and|myself|possessive particle|for|locative particle|topic marker|nothing|not even one|especially|does not become|power|performance|adjectival particle|you see 因此,對我來說,沒有任何一件特別重要的事。 And for myself, it is not particularly beneficial in any way.

夜 が 明けて 、自分 は 署長 に 呼び出さ れました 。 よる|が|あけて|じぶん|は|しょちょう|に|よびださ|れました night|subject marker|dawn|myself|topic marker|chief|locative particle|called|was called 黎明來臨,我被署長召見了。 As dawn broke, I was summoned by the chief. こんど は 、本式 の 取調べ な のです 。 こんど|は|ほんしき|の|とりしらべ|な|のです this time|topic marker|formal|attributive particle|interrogation|adjectival particle|you see 這次是正式的訊問。 This time, it was a formal interrogation.

ドア を あけて 、署長 室 に は いった とたん に 、 ドア|を|あけて|しょちょう|しつ|に|は|いった|とたん|に door|object marker|open|chief|office|locative particle|topic marker|went|just as|locative particle As soon as I opened the door and entered the chief's office,

「おう 、いい 男 だ 。 おう|いい|おとこ|だ yeah|good|man|is he said, 'Oh, a good-looking man.' これ あ 、お前 が 悪い んじゃ ない 。 これ|あ|おまえ|が|わるい|んじゃ|ない this|ah|you|subject marker|bad|isn't|not 這個啊,你不是錯的。 This, hey, it's not your fault. こんな 、いい 男 に 産んだ お前 の おふくろ が 悪い んだ 」 こんな|いい|おとこ|に|うんだ|おまえ|の|おふくろ|が|わるい|んだ |||||||妈妈||| this kind of|good|man|locative particle|gave birth|you|possessive particle|mother|subject marker|bad|you see 這麼好的男孩都是你媽媽生的,才是她的錯。 It's your mother who gave birth to such a good man that is to blame.

色 の 浅黒い 、大学 出 みたいな 感じ の まだ 若い 署長 でした 。 いろ|の|あさぐろい|だいがく|で|みたいな|かんじ|の|まだ|わかい|しょちょう|でした ||黝黑||||||||| color|attributive particle|light brown|university|from|like|feeling|attributive particle|still|young|chief|was 是一位膚色微黑,感覺像是大學畢業的還是年輕的署長。 He was a still young chief, with a slightly dark complexion, like someone who just graduated from university. いきなり そう 言われて 自分 は 、 自分 の 顔 の 半面 に べったり 赤 痣 あか あざ でも ある ような 、 みにくい 不 具者 の ような 、 みじめな 気 が しました 。 ||いわれて|じぶん||じぶん||かお||はんめん|||あか|あざ|||||||ふ|ぐ しゃ||||き|| 突然被這麼說,我感到自己就像半邊臉上滿是淤青,像個醜陋的殘障者,十分可憐。 Suddenly being told that made me feel miserable, as if I had a big red bruise on half of my face, like a hideous cripple.

この 柔道 か 剣道 の 選手 の ような 署長 の 取調べ は 、 実に あっさり して いて 、 あの 深夜 の 老 巡査 の ひそかな 、 執拗 しつよう きわまる 好 色 の 「 取調べ 」 と は 、 雲泥 の 差 が ありました 。 |じゅうどう||けんどう||せんしゅ|||しょちょう||とりしらべ||じつに|||||しんや||ろう|じゅんさ|||しつよう|||よしみ|いろ||とりしらべ|||うんでい||さ|| 這位像柔道或劍道選手的署長的審問,簡直是非常簡單,與那深夜老警察私下里執著的、令人厭惡的「取調」相比,簡直是天壤之別。 The interrogation by the chief, who was like a judo or kendo athlete, was remarkably straightforward, and there was a world of difference compared to the secretive and persistently lecherous "interrogation" of that old patrol officer in the middle of the night. 訊問 が すんで 、署長 は 、検事 局 に 送る 書類 を したため ながら 、 しんもん|が|すんで|しょちょう|は|けんじ|きょく|に|おくる|しょるい|を|したため|ながら |||||||||||准备| questioning|subject marker|finished|chief|topic marker|prosecutor|office|locative particle|send|documents|object marker|preparing|while 訊問結束後,署長一邊整理寄往檢察官辦公室的文件, After the questioning was over, the chief began to prepare the documents to send to the prosecutor's office,

「 からだ を 丈夫に し なけ れ ゃ 、 いかん ね 。 ||じょうぶに|||||| 「如果不讓身體變得強健,就不行呢。 saying, "You need to keep your body strong. 血 痰 けった ん が 出ている ようじゃないか 」 けつ|たん|けった|ん|が|でている|ようじゃないか blood|phlegm|you have|informal emphasis|subject marker|is coming out|isn't it 似乎有血痰咳出來了吧」 It seems like you're coughing up blood."

と 言いました 。 と|いいました quotation particle|said 這樣說道。 I said.

その 朝 、 へんに 咳 せき が 出て 、 自分 は 咳 の 出る たび に 、 ハンケチ で 口 を 覆って いた の です が 、 その ハンケチ に 赤い 霰 あられ が 降った みたいに 血 が ついて いた の です 。 |あさ||せき|||でて|じぶん||せき||でる|||||くち||おおって||||||||あかい|あられ|あら れ||ふった||ち||||| That morning, I had a strange cough, and every time I coughed, I covered my mouth with a handkerchief, but it was stained with blood, as if red hail had fallen on it. けれども 、 それ は 、 喉 のど から 出た 血 で は なく 、 昨夜 、 耳 の 下 に 出来た 小さい おでき を いじって 、 その おでき から 出た 血 な のでした 。 |||のど|||でた|ち||||さくや|みみ||した||できた|ちいさい|||||||でた|ち|| 然而,那並不是從喉嚨裡冒出的血,而是昨晚弄到耳下長出的小睾丸上,流出來的血。 However, it wasn't blood that came from my throat; it was blood from a small pimple that had appeared under my ear last night, which I had been messing with. しかし 、自分 は 、それ を 言い 明さない ほうが 、便宜 な 事 も ある ような 気 が ふっと した ものですから 、ただ 、 しかし|じぶん|は|それ|を|いい|あかさない|ほうが|べんぎ|な|こと|も|ある|ような|き|が|ふっと|した|ものですから|ただ ||||||明白|||||方便|||||||| however|myself|topic marker|that|object marker|good|do not clarify|better|convenience|adjectival particle|thing|also|there is|like|feeling|subject marker|suddenly|did|because|just 但是,我隨即感覺到,自己不說出來似乎會更方便,所以, But I suddenly felt that it might be more convenient not to explain that, so I just,

「 はい 」 「是的」 "Yes"

と 、伏眼 に なり 、殊勝 げ に 答えて 置きました 。 と|ふくがん|に|なり|しゅしょう|げ|に|こたえて|おきました and|downcast eyes|locative particle|became|admirable|like|adverbial particle|answered|placed 得到了,低下頭,謹慎地回答了。 I replied humbly, lowering my eyes.

署長 は 書類 を 書き 終えて 、 しょちょう|は|しょるい|を|かき|おえて |||||完成 chief|topic marker|documents|object marker|writing|finishing 署長寫完了文件, The chief finished writing the documents,

「起訴 に なる か どう か 、それ は 検事 殿 が きめる こと だが 、お前 の 身元 引受人 に 、電報 か 電話 で 、きょう 横浜 の 検事局 に 来て もらう ように 、たのんだ ほうが いい な 。 きそ|に|なる|か|どう|か|それ|は|けんじ|どの|が|きめる|こと|だが|おまえ|の|みもと|ひきうけにん|に|でんぽう|か|でんわ|で|きょう|よこはま|の|けんじきょく|に|きて|もらう|ように|たのんだ|ほうが|いい|な |||||||||殿||||||||身份|担保|||||||||||||||| indictment|locative particle|to become|question marker|whether|question marker|that|topic marker|prosecutor|honorific title|subject marker|to decide|thing|but|you|possessive particle|identity|guarantor|locative particle|telegram|or|phone|with|today|Yokohama|attributive particle|prosecutor's office|locative particle|come|to get|so that|asked|better|good|sentence-ending particle 「到底會不會起訴,那是檢察官的決定,但最好請你的保釋人,今天通過電報或電話來到橫濱的檢察局。」 and said, "Whether or not it will lead to prosecution is up to the prosecutor, but it would be better to ask your guarantor to come to the Yokohama prosecutor's office today by telegram or phone." 誰 か 、ある だろう 、お前 の 保護者 と か 保証人 と か いう もの が 」 だれ|か|ある|だろう|おまえ|の|ほごしゃ|と|か|ほしょうにん|と|か|いう|もの|が ||||||保护||||担保人|||| who|or something like that|there is|probably|you|possessive particle|guardian|and|or|guarantor|and|or|called|thing|subject marker Someone, perhaps, like your guardian or guarantor.

父 の 東京 の 別荘 に 出入り して いた 書画 骨董 こっとう 商 の 渋田 と いう 、 自分 たち と 同郷人 で 、 父 のたいこ 持ち みたいな 役 も 勤めて いた ずんぐり した 独身 の 四十 男 が 、 自分 の 学校 の 保証人 に なって いる の を 、 自分 は 思い出しました 。 ちち||とうきょう||べっそう||でいり|||しょが|こっとう||しょう||しぶた|||じぶん|||どうきょう じん||ちち||もち||やく||つとめて||||どくしん||しじゅう|おとこ||じぶん||がっこう||ほしょうにん||||||じぶん||おもいだしました 有一位名叫渋田的書畫古董商,他在父親的東京別墅出入,與我們同鄉,還做過父親的太鼓手,這位矮胖的四十歲單身男士,成了我學校的保證人,我想起了這件事。 There was a man named Shibuta, a dealer in paintings and antiques who frequented my father's villa in Tokyo. He was a stout, single man in his forties from the same hometown as us, and he also served as my father's drummer. その 男 の 顔 が 、殊に 眼つき が 、ヒラメ に 似ている と いう ので 、父 は いつも その 男 を ヒラメ と 呼び 、自分 も 、そう 呼び なれて いました 。 その|おとこ|の|かお|が|ことに|めつき|が|ヒラメ|に|にている|と|いう|ので|ちち|は|いつも|その|おとこ|を|ヒラメ|と|よび|じぶん|も|そう|よび|なれて|いました that|man|possessive particle|face|subject marker|especially|eye expression|subject marker|flounder|locative particle|resembles|quotation particle|say|because|father|topic marker|always|that|man|object marker|flounder|quotation particle|calls|myself|also|so|calls|accustomed|was 那個男人的臉,特別是眼神,被說得像比目魚,所以父親總是叫他比目魚,我也習慣這樣稱呼他。 My father always called that man 'Hirame' because his face, especially his eyes, resembled a flounder, and I had gotten used to calling him that as well.

自分 は 警察 の 電話帳 を 借りて 、ヒラメ の 家 の 電話番号 を 捜し 、見つかった ので 、ヒラメ に 電話して 、横浜 の 検事局 に 来て くれる ように 頼みましたら 、ヒラメ は 人 が 変った みたいな 威張った 口調 で 、それでも 、とにかく 引受けて くれました 。 じぶん|は|けいさつ|の|でんわちょう|を|かりて|ヒラメ|の|いえ|の|でんわばんごう|を|さがし|みつかった|ので|ヒラメ|に|でんわして|よこはま|の|けんじきょく|に|きて|くれる|ように|たのみましたら|ヒラメ|は|ひと|が|かわった|みたいな|いばった|くちょう|で|それでも|とにかく|ひきうけて|くれました 我|||||||||||||||寻找|||||||||检察官|||||||||||||威风凛凛|| myself|topic marker|police|attributive particle|phone book|object marker|borrowed|Hirame|attributive particle|house|attributive particle|phone number|object marker|searching|found|because|Hirame|locative particle|called|Yokohama|attributive particle|district attorney's office|locative particle|come|will come|so that|I asked|Hirame|topic marker|person|subject marker|changed|like|arrogant|tone|at|even so|anyway|accepted|did for me 我借用了警察的電話簿,搜尋比目魚家的電話號碼,找到之後,打電話給比目魚,請他來橫濱的檢察局,結果比目魚用一種變得威嚴的口氣回答,儘管如此,他仍然答應了。 I borrowed the police phone book, searched for Hirame's home phone number, found it, and when I called Hirame to ask him to come to the Yokohama District Attorney's Office, he responded in a haughty tone as if he had changed, but nonetheless, he agreed to come.

「おい 、その 電話機 、すぐ 消毒 した ほうがいい ぜ 。 おい|その|でんわき|すぐ|しょうどく|した|ほうがいい|ぜ hey|that|telephone|immediately|disinfect|did|better|emphasis marker "Hey, you should disinfect that phone right away. 何せ 、血痰 が 出ている んだ から 」 なにせ|けったん|が|でている|んだ|から after all|blood phlegm|subject marker|is coming out|you see|because 何必,血痰都出來了啊。 After all, there's blood and phlegm coming out of it."

自分 が 、また 保護室 に 引き上げて から 、お巡りたち に そう 言いつけて いる 署長 の 大きな 声 が 、保護室 に 坐っている 自分 の 耳 に まで 、とどきました 。 じぶん|が|また|ほごしつ|に|ひきあげて|から|おまわりたち|に|そう|いいつけて|いる|しょちょう|の|おおきな|こえ|が|ほごしつ|に|すわっている|じぶん|の|みみ|に|まで|とどきました 自己||||||提起||||||||||||||||||| myself|subject marker|also|shelter|locative particle|raised|after|police officers|locative particle|like that|telling|is|chief|possessive particle|loud|voice|subject marker|shelter|locative particle|sitting|myself|possessive particle|ear|locative particle|even|reached 自從自己再次被拉進保護室後,署長那大聲的命令也傳到了坐在保護室裡的自己耳中。 The loud voice of the chief, who had just ordered the officers to do so after pulling me back into the protective room, reached my ears as I sat in the protective room.

お 昼 すぎ 、 自分 は 、 細い 麻 繩 で 胴 を 縛ら れ 、 それ は マント で 隠す こと を 許さ れました が 、 その 麻 繩 の 端 を 若い お 巡り が 、 しっかり 握って いて 、 二人 一緒に 電車 で 横浜 に 向 いました 。 |ひる||じぶん||ほそい|あさ|なわ||どう||しばら||||まんと||かくす|||ゆるさ||||あさ|なわ||はし||わかい||めぐり|||にぎって||ふた り|いっしょに|でんしゃ||よこはま||むかい| 中午過後,自己被細繩綁住腰身,雖然可以用斗篷遮住,但麻繩的末端被一名年輕的警察緊緊握住,兩人一起搭乘電車前往橫濱。 After noon, I was tied around the waist with a thin hemp rope, which I was allowed to hide with a cloak, but a young officer firmly held the end of the rope, and we headed to Yokohama together by train.

けれども 、 自分 に は 少し の 不安 も 無く 、 あの 警察 の 保護 室 も 、 老 巡査 も なつかしく 、 嗚呼 ああ 、 自分 は どうして こう な のでしょう 、 罪人 と して 縛ら れる と 、 かえって ほっと して 、 そうして ゆったり 落ちついて 、 その 時 の 追憶 を 、 いま 書く に 当って も 、 本当に のびのび した 楽しい 気持 に なる の です 。 |じぶん|||すこし||ふあん||なく||けいさつ||ほご|しつ||ろう|じゅんさ|||ああ||じぶん||||||ざいにん|||しばら||||||||おちついて||じ||ついおく|||かく||あたって||ほんとうに|||たのしい|きもち|||| 然而,我卻一點不感到不安,那個警察的保護室和老巡警都讓我懷念。嗚啊,我究竟為什麼會變成這樣,當我像罪犯一樣被束縛的時候,反而感到安心,然後心情放鬆,現在寫起那時的回憶,真的會讓我感到暢快而愉悅。 However, I had not the slightest anxiety, and I nostalgically remembered that police protection room and the old officer. Ah, why have I become like this? When I am bound as a criminal, I actually feel relieved, and I can relax and calmly write about those memories from that time, feeling truly carefree and joyful.

しかし 、その 時期 の なつかしい 思い出 の 中 に も 、たった 一 つ 、冷汗 三斗 の 、生涯 わすれられぬ 悲惨な しくじり が あった のです 。 しかし|その|じき|の|なつかしい|おもいで|の|なか|に|も|たった|いち|つ|ひやあせ|さんと|の|しょうがい|わすれられぬ|ひさんな|しくじり|が|あった|のです |||||||||||||冷|||||||||失误 however|that|time|attributive particle|nostalgic|memories|attributive particle|among|locative particle|also|only|one|counter for small objects|cold sweat|three buckets|attributive particle|lifetime|unforgettable|tragic|failure|subject marker|there was|you see 然而,在那段懷念的回憶中,卻有一件終身難忘的悲慘失誤,讓我冷汗直冒。 Yet, among those nostalgic memories from that time, there was one single, unforgettable, horrifying blunder that made me break out in a cold sweat. 自分 は 、検事 局 の 薄暗い 一室 で 、検事 の 簡単な 取調べ を 受けました 。 じぶん|は|けんじ|きょく|の|うすぐらい|いっしつ|で|けんじ|の|かんたんな|とりしらべ|を|うけました ||检察官||||||||||| myself|topic marker|prosecutor|office|attributive particle|dim|one room|at|prosecutor|possessive particle|simple|interrogation|object marker|received 我在檢察官局的昏暗小房間裡,接受了檢察官的簡單訊問。 I was subjected to a simple interrogation by the prosecutor in a dimly lit room of the prosecutor's office. 検事 は 四十 歳 前後 の 物静かな 、( もし 自分 が 美貌 だった と して も 、 それ は 謂 いわば 邪 淫 の 美貌 だった に 違い ありません が 、 その 検事 の 顔 は 、 正しい 美貌 、 と でも 言いたい ような 、 聡明な 静 謐 せいひ つ の 気配 を 持って いました ) コセコセ し ない人柄 の ようでした ので 、 自分 も 全く 警戒 せず 、 ぼんやり 陳述 して いた の です が 、 突然 、 れいの 咳 が 出て 来て 、 自分 は 袂 から ハンケチ を 出し 、 ふと その 血 を 見て 、 この 咳 も また 何 か の 役 に 立つ かも 知れ ぬ と あさましい 駈引 き の 心 を 起し 、 ゴホン 、 ゴホン と 二 つ ばかり 、 おまけ の 贋 に せ の 咳 を 大袈裟 おおげさ に 附 け 加えて 、 ハンケチ で 口 を 覆った まま 検事 の 顔 を ちら と 見た 、 間一髪 、 けんじ||しじゅう|さい|ぜんご||ものしずかな||じぶん||びぼう|||||||い||じゃ|いん||びぼう|||ちがい||||けんじ||かお||ただしい|びぼう|||いいたい||そうめいな|せい|ひつ||||けはい||もって||こせこせ||ない ひとがら||||じぶん||まったく|けいかい|せ ず||ちんじゅつ||||||とつぜん||せき||でて|きて|じぶん||たもと||||だし|||ち||みて||せき|||なん|||やく||たつ||しれ||||くひき|||こころ||おこし||||ふた|||||がん||||せき||おおげさ|||ふ||くわえて|||くち||おおった||けんじ||かお||||みた|かんいっぱつ The prosecutor was a quiet man in his forties, and (even if I had been beautiful, it would have been, so to speak, a beauty of depravity; however, the prosecutor's face had a presence of correct beauty, as if to say, it was intelligent and serene). He seemed to be a person who did not fuss, so I was completely unguarded and was absentmindedly making my statement, but suddenly, I had that familiar cough. I took a handkerchief from my sleeve and, upon seeing the blood, I thought that this cough might serve some purpose, and I had the shameful idea to add a couple of exaggerated coughs as a pretense, covering my mouth with the handkerchief while glancing at the prosecutor's face, just in the nick of time. 「ほんとう かい ? ほんとう|かい 真的| really|right 「真的嗎?」 "Is it really true? " ものしずかな 微笑 でした 。 ものしずかな|ほほえみ|でした quiet|smile|was 她的微笑是那麼安靜。 It was a quietly serene smile. 冷 汗 三 斗 、いいえ 、いま 思い出して も 、きりきり舞い を し たく なります 。 れい|あせ|さん|と|いいえ|いま|おもいだして|も|きりきりまい|を|し|たく|なります |||||现在|||忙得不可开交|||| cold|sweat|three|to|no|now|remembering|also|frantically|object marker|do|want to|will become Cold sweat, no, even now when I remember, I feel like I want to dance in a frenzy. 中学 時代 に 、 あの 馬鹿 の 竹一 から 、 ワザ 、 ワザ 、 と 言われて 脊中 せなか を 突か れ 、 地獄 に 蹴落 けおとされた 、 その 時 の 思い 以上 と 言って も 、 決して 過言 で は 無い 気持 です 。 ちゅうがく|じだい|||ばか||たけいち|||||いわれて|せきなか|||つか||じごく||けおと|||じ||おもい|いじょう||いって||けっして|かごん|||ない|きもち| During my middle school days, that idiot Takeichi would poke me in the back, saying 'Waza, waza,' and I was kicked down to hell. I can say that the feelings I had at that time are not an exaggeration. あれ と 、これ と 、二 つ 、自分 の 生涯 に 於ける 演技 の 大 失敗 の 記録 です 。 あれ|と|これ|と|に|つ|じぶん|の|しょうがい|に|おける|えんぎ|の|おお|しっぱい|の|きろく|です that|and|this|and|two|counter for small objects|myself|possessive particle|lifetime|locative particle|in|performance|attributive particle|big|failure|possessive particle|record|is These two instances are records of my major failures in performance throughout my life. 検事 の あんな 物静かな 侮 蔑 ぶ べつに 遭う より は 、 いっそ 自分 は 十 年 の 刑 を 言い渡された ほう が 、 ましだった と 思う 事 さえ 、 時たま ある 程 な の です 。 けんじ|||ものしずかな|あなど|さげす|||あう||||じぶん||じゅう|とし||けい||いいわたされた|||||おもう|こと||ときたま||ほど||| 檢察官那種如此沉靜的蔑視,與其遭遇,不如自己被宣判十年的刑期,還要來得好,這樣的想法偶爾還是會出現。 Sometimes I even think that it would have been better to be sentenced to ten years in prison rather than facing such a quietly contemptuous prosecutor. 自分 は 起訴 猶予 に なりました 。 じぶん|は|きそ|ゆうよ|に|なりました ||起诉|延期|| myself|topic marker|prosecution|deferred|locative particle|became ||acusação|suspensão|| 我被處以起訴猶予。 I was granted a deferred prosecution. けれども 一向に うれしく なく 、世にも みじめな 気持 で 、検事局 の 控室 の ベンチ に 腰かけ 、引取り人 の ヒラメ が 来る の を 待って いました 。 けれども|いっこうに|うれしく|なく|よにも|みじめな|きもち|で|けんじきょく|の|ひかえしつ|の|ベンチ|に|こしかけ|ひきとりにん|の|ヒラメ|が|くる|の|を|まって|いました ||||||||检察官|||||长椅||坐在|引取||||||| but|not at all|happy|not|in the world|miserable|feeling|at|prosecutor's office|attributive particle|waiting room|attributive particle|bench|locative particle|sitting|person picking up|attributive particle|flounder|subject marker|coming|attributive particle|object marker|waiting|was 不過,我根本高興不起來,心情無比淒慘地坐在檢察局控室的長椅上,等待接人來的平面魚。 However, I was not happy at all, feeling utterly miserable, sitting on a bench in the prosecutor's office waiting for the person to pick me up. 背後 の 高い 窓 から 夕焼け の 空 が 見え 、 鴎 かもめ が 、「 女 」 と いう 字 みたいな 形 で 飛んで いました 。 はいご||たかい|まど||ゆうやけ||から||みえ|かもめ|||おんな|||あざ||かた||とんで| From the tall window behind me, I could see the sunset sky, and a seagull was flying in a shape that resembled the character for 'woman'.

[# 改頁 ] かいぺいじ [Page break]

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