影踏み:消息:3
かげ ふみ|しょうそく
Shadow Treading: Extinguished: 3
Sombras: desaparición: 3
그림자 밟기 : 소식 : 3
Podążanie za cieniem: zniknięcie: 3
Deslocação das sombras: desaparecimento: 3
Уход в тень: исчезновение: 3
Gölgede gezinme: kaybolma: 3
暗影踏步:新聞:3
3 真壁 は 雁 谷本 町 駅 から 県 央 電鉄 に 乗り 、 二 つ 目 の 鮒戸 で 降りた 。
まかべ||がん|たにもと|まち|えき||けん|なかば|でんてつ||のり|ふた||め||ふなこ||おりた
Makabe|||Yamamoto|||||central|prefectural railway|||||||Bunato||got off
やたら 横 文字 の 看板 が ひしめく 駅前 通り を 挟んで 、 市営 の 高層 住宅 が 気味 の 悪い ほど 整然と 並んで いる 。
|よこ|もじ||かんばん|||えきまえ|とおり||はさんで|しえい||こうそう|じゅうたく||きみ||わるい||せいぜんと|ならんで|
||||||crowded|station front|||between|city-operated|||housing||||||neatly arranged||
その 夥 しい 数 の 窓 の どれ か を 目指す 、 夥 しい 数 の 背広 や コート の 流れ に 乗って 真壁 は せっかちに 歩 を 進めた 。
|か||すう||まど|||||めざす|か||すう||せびろ||こーと||ながれ||のって|まかべ|||ふ||すすめた
|numerous|tremendous|||||||||numerous||||business suit|||||||||impatiently|||advanced
《 修 兄 ィ 、 今度 は どこ ?
おさむ|あに||こんど||
〈 黛 と 会う 〉
まゆずみ||あう
Dai||
《 黛って …… あの 宵 空き の ?
まゆずみ って||よい|あき|
Daiって||||
じゃあ 、 稲村 の 一 件 の 続きって こと ?
|いなむら||ひと|けん||つづき って|
||||||continuation|
》〈 そう だ 〉 宵 に 紛れて 空き巣 を 働く 職業 泥棒 。
||よい||まぎれて|あきす||はたらく|しょくぎょう|どろぼう
||||mixed in|||||
馬淵 クラス の ベテラン が 狙う 宵 空き の 身柄 と あら ば 、 短 期間 に 数 を こなす あき 黛 明夫 あたり が 第 一 候補 に 上がる 。
まぶち|くらす||べてらん||ねらう|よい|あき||みがら||||みじか|きかん||すう||||まゆずみ|あきお|||だい|ひと|こうほ||あがる
|||||||||personal safety||||||||||vacancy||Akio|||||first choice||
啓二 は 不満 そうに 耳 骨 を 叩いた 。
けいじ||ふまん|そう に|みみ|こつ||たたいた
《 もう 調べる 必要な い じゃ ん 。
|しらべる|ひつような|||
これ 以上 何 が 知りたい んだ よ 》 真壁 は 足 を 速めた が 、 啓二 は 収まり が つか ない 。
|いじょう|なん||しり たい|||まかべ||あし||はやめた||けいじ||おさまり|||
|||||||||||||||couldn't settle|||
《 ねえ 、 黛 に 何 を 聞く の さ ?
|まゆずみ||なん||きく||
〈 興味 が ない んだろう が 〉
きょうみ||||
《 だって ――》 啓二 の 声 が 急に 沈んだ 。
|けいじ||こえ||きゅうに|しずんだ
《 だって さ …… わかん ない んだ もん 、 修 兄 ィ の 考えて る こと 》
||||||おさむ|あに|||かんがえて||
〈………〉
《 最近 多い もん なあ ……。
さいきん|おおい||
前 は 聞か なくったって なんでも わかった のに ……》 無理 も なかった 。
ぜん||きか|な くった って||||むり||
|||didn't need||||||
啓二 が 死んで 間もなく 十五 年 に なる 。
けいじ||しんで|まもなく|じゅうご|とし||
実の 母親 に 焼き殺さ れた 魂 は どこ へ も 行き場 が なかった のだろう 、 他 に どう する こと も でき ず に 、 もともと 一 つ だった 命 に 還って きた ……。
じつの|ははおや||やきころさ||たましい|||||ゆきば||||た||||||||||ひと|||いのち||かえって|
|||burned to death||||||||||||||||||||||||||returned|
真壁 は モルタル 壁 の アパート の 前 で 足 を 止めた 。
まかべ||もるたる|かべ||あぱーと||ぜん||あし||とどめた
||mortar|||||||||
一 階 右 端 。
ひと|かい|みぎ|はし
窓 に 灯 は ない 。
まど||とう||
腕 時計 に 目 を 落とす 。
うで|とけい||め||おとす
午後 六 時 十分 ――。
ごご|むっ|じ|じゅうぶん
何度 か 呼び鈴 を 鳴らし 、 不在 を 確信 した 真壁 は 踵 を 返した 。
なんど||よびりん||ならし|ふざい||かくしん||まかべ||かかと||かえした
||doorbell|||absence||||||heel||
と 、 その 足元 に 長い 影 が 伸びた 。
||あしもと||ながい|かげ||のびた
黒い スタジャン を だらしなく 着た 若い 男 が 片 眉 を つり上げ 、 顎 も 同じ 角度 に 傾けて 訪問 者 を 観察 して いる 。
くろい||||きた|わかい|おとこ||かた|まゆ||つりあげ|あご||おなじ|かくど||かたむけて|ほうもん|もの||かんさつ||
|varsity jacket||sloppily||||||||lifted||||angle|||visitor|||||
手 に は カップ 麺 が 覗く コンビニ の 袋 。
て|||かっぷ|めん||のぞく|こんびに||ふくろ
互いに 顔 は 新聞 で 知っていた 。
たがいに|かお||しんぶん||しっていた
「 もし かして ノビカベ さんかい ?
|||third floor
黛 明夫 は クチャクチャ と ガム を か 噛み ながら 小 馬鹿に する ように 言った 。
まゆずみ|あきお||||がむ|||かみ||しょう|ばかに|||いった
|||chewing sound|||||||||||
「 デカ と ブン 屋 の たわごと だ 」
|||や|||
||Bun|||nonsense|
真壁 が 切り返す と 、 黛 は 鼻 で 笑った 。
まかべ||きりかえす||まゆずみ||はな||わらった
||retorted||||||
「 入って るって 聞いて た が な 」 「 今朝 出た 」 「 そうかい 。
はいって|る って|きいて||||けさ|でた|
で ?
何 か 用 か ?
なん||よう|
同業 者 が ご 対面 なんて の は 洒落に なら ねえ だろう 」
どうぎょう|もの|||たいめん||||しゃれに|||
same industry||||meeting||||a joke|||
「 取り引き だ 」
とりひき|
transaction|
「 取り引き だ あ ?
とりひき||
おうむ返し の 語尾 が ひどく 上がった 。
おうむがえし||ごび|||あがった
parroting||end of words|||
「 あんた 、 ムショボケ しち まったん じゃ ねえ だろう な 」
|prison brain||||||
「 二 年 ぽっち で ボケ る ほど 辛くも 楽しく も ない 場所 だ 」 黛 は 、 だ よ な 、 と いった ふうに 頷き 、「 まあ 入 んな 」 と ドア に 顎 を しゃくった 。
ふた|とし|ぽっ ち|||||からくも|たのしく|||ばしょ||まゆずみ||||||||うなずき||はい|||どあ||あご||しゃく った
|||||||barely|||||||||||||||||||||||
二 間 の 部屋 は 思いがけず きちんと 整頓 されて いた 。
ふた|あいだ||へや||おもいがけず||せいとん|さ れて|
黛 は 座 椅子 に 胡座 を かき 、 柱 を 背 に 立つ 真壁 を 斜 に 見上げた 。
まゆずみ||ざ|いす||あぐら|||ちゅう||せ||たつ|まかべ||しゃ||みあげた
|||||cross-legged sitting|||pillar|||||||diagonally||
「 取り引き と やら を 聞こう じゃ ねえ か 」
とりひき||||きこう|||
"Let's hear about the deal."
真壁 は ハーフコート の 懐 から 紙切れ を 取り出し 、 テーブル の 上 に 放った 。
まかべ||||ふところ||かみきれ||とりだし|てーぶる||うえ||はなった
||||pocket|||||||||
Makabe took a piece of paper out of the pocket of the half coat and threw it on the table.
4 月 ――511172228
つき
「 何 だ よ これ ?
なん|||
黛 が 尖った 目 を 真壁 に 向けた 。
まゆずみ||とがった|め||まかべ||むけた
||pointed||||locative particle|
「 来月 の 当直 予定 だ 」
らいげつ||とうちょく|よてい|
"I'm on duty next month."
「 当直 だ と ?
とうちょく||
on duty||
―― 誰 のだ ?
だれ|
「 馬淵 だ 」
まぶち|
黛 の 目 が 見開か れた 。
まゆずみ||め||みひらか|
||||opened wide|
Mayuzumi's eyes were wide open.
「 般若 野郎 の ?
はんにゃ|やろう|
wisdom||
"Hannya bastard?
「 奴 に 的 割り されて んだろう 、 お前 」 「 ああ 、 奴 の お陰 で 動き が とれ ねえ 。
やつ||てき|わり|さ れて||おまえ||やつ||おかげ||うごき|||
|||targeting|||||||thanks to|||||
"I wonder if he was the target, you." "Oh, thanks to him, I can't move.
ヘビ みて え に しつっけ えん だ 、 あの デカ は 」 言い ながら 黛 は 舌なめずり した 。
へび||||しつ っけ||||||いい||まゆずみ||したなめずり|
||||sweat||||big||||||licking lips|
当直 の 夜 ばかり は 刑事 も 自由に 動け ない 。
とうちょく||よ|||けいじ||じゆうに|うごけ|
Detectives cannot move freely only on the night of the shift.
「 だが よ ――」
黛 は 狡猾 な 笑み を 真壁 に 向けた 。
まゆずみ||こうかつ||えみ||まかべ||むけた
||sly||||||
Mayuzumi turned a cunning smile on Makabe.
「 あんた 、 最初っから 手の内 ストリップ しち まって いい の かい ?
|さいしょ っ から|てのうち||||||
|from the beginning|one's cards|reveal|||||
"Are you sure you want to strip the inside of your hand from the beginning?
俺 の 方 が あんた の 話 を 呑 めな いって こと も ある ぜ 」
おれ||かた||||はなし||どん||||||
|||||||||can't accept|||||
Sometimes I don't swallow your story. "
「 一 つ 聞か せろ ―― お前 、 大石 団地 の 稲村って 家 に 入った な 」 「 稲村 ……?
ひと||きか||おまえ|おおいし|だんち||いなむら って|いえ||はいった||いなむら
||||||||Inamura|||||
「 二 年 前 だ 」
ふた|とし|ぜん|
黛 は くるり と 瞳 を 一 回転 さ せ 、 思い当たった ように その 瞳 を 止めた が 、 今にも 爆笑 し そうな 顔 で 言い放った 。
まゆずみ||||ひとみ||ひと|かいてん|||おもいあたった|||ひとみ||とどめた||いまにも|ばくしょう||そう な|かお||いいはなった
||quickly|||||||||||||||||||||
Mayuzumi turned his eyes around and stopped his eyes as he had thought, but he said with a laughing face at any moment.
「 どこ そこ に 入りました なんて 人様 に ウタっち まう 馬鹿 が いる か ?
|||はいり ました||ひとさま||ウタ っち||ばか|||
|||||other people||singer|||||
"Where are there any idiots who are fooling around?
ええ ?
「 仏 間 に ドレッサー が あった 」
ふつ|あいだ||||
Buddha|room||||
「 おいおい 、 だ から よ 」
「 化粧 瓶 は 並んで た か 」
けしょう|びん||ならんで||
ウッ と 詰まって 黛 は また 瞳 を 回転 さ せた 。
||つまって|まゆずみ|||ひとみ||かいてん||
ugh||||||||||
It was clogged up and Mayuzumi turned his eyes again.
職業 泥棒 の 誰 も 黛 が そう である ように 、 物色 した 部屋 の 様子 は 脳 の 皺 に 刻み込まれて いる 。
しょくぎょう|どろぼう||だれ||まゆずみ|||||ぶっしょく||へや||ようす||のう||しわ||きざみこま れて|
||||||||||||||||||||etched into|
Like any profession thief, the appearance of a sought-after room is engraved in the wrinkles of the brain.
「 それ だけ 教えろ 。
||おしえろ
||just tell me
ドレッサー に 化粧 瓶 は 並んで た か 」
||けしょう|びん||ならんで||
黛 は 押し黙った 。
まゆずみ||おしだまった
||fell silent
Mayuzumi kept silent.
若い が 、 しかし 裏 街道 を 歩く 人間 特有 の 頑 が 口元 に ある 。
わかい|||うら|かいどう||あるく|にんげん|とくゆう||がん||くちもと||
||||back street||||||stubbornness||||
Young, but the stubbornness peculiar to humans walking on the back road is in his mouth.
「 手 土産 が 不足 か 」
て|みやげ||ふそく|
"Is there a shortage of souvenirs?"
真壁 は を 見据えて 言い 、 いつ 一 拍 置いて 続けた 。
まかべ|||みすえて|いい||ひと|はく|おいて|つづけた
|||stared at||||||
Makabe looked at him and said, when he continued with a beat.
「 だったら こういう こと で どう だ 。
俺 が 明日 から 仕事 に かかる 」
おれ||あした||しごと||
「 どういう 意味 だ よ 」
|いみ||
「 馬淵 は どう 出る 。
まぶち|||でる
お前 を 追い 続ける か 。
おまえ||おい|つづける|
それとも 俺 に 乗り 替える か 」
|おれ||のり|かえる|
黛 は ぼんやり した 瞳 に 瞬き を 重ね 、 やや あって 、 卑屈な 笑み を 口元 に 浮かべた 。
まゆずみ||||ひとみ||まばたき||かさね|||ひくつな|えみ||くちもと||うかべた
||||||blink|||||servile|||||
Mayuzumi blinked on his vague eyes, and with a slight smile, he had a subservient smile on his mouth.
数字 の 並んだ 紙切れ に 手 を 伸ばし 、 それ を スタジャン の ポケット に 押し込む と 、 あさって の 方 に 向かって 言った 。
すうじ||ならんだ|かみきれ||て||のばし|||||ぽけっと||おしこむ||||かた||むかって|いった
||||||||||||||pushed into||the day after|||||
「 ズラッ と 並んで た ぜ 」
||ならんで||
in a row||||
「 何 本 だ 」
なん|ほん|
「 大小 十 本 は あった な 」
だいしょう|じゅう|ほん|||
「 ラ ・ ベリテ だ な 」
「 ああ 。
全部 そい つ だった 」
ぜんぶ|||
「 邪魔 した な 」
じゃま||
「 ちょ 、 ちょっと あんた ――」
部屋 を 出る 真壁 に が 慌てて 声 を 掛けた 。
へや||でる|まかべ|||あわてて|こえ||かけた
「 それ が なん だって んだ よ 。
化粧 瓶 の こと なんか 聞いて 」
けしょう|びん||||きいて
真壁 は 背中 で 言った 。
まかべ||せなか||いった
「 人 に モノ を 聞く とき は ブツ を 用意 しろ 」
じん||もの||きく|||||ようい|
|||||||thing|||
"When you ask people about things, prepare things."