影 踏み :消息:5
かげ|ふみ|しょうそく
Shadow Treading: Extinguished: 5
그림자 밟기 : 소식 : 5
Desaparecimento de sombras: desaparecimento: 5.
Уход в тень: исчезновение: 5.
真壁 は 毛布 を 撥ね上げた 。
まかべ||もうふ||はねあげた
||||flung up
Makabe flipped up the blanket.
硬直 した 体 が 緩む まで に 時間 が 掛かった 。
こうちょく||からだ||ゆるむ|||じかん||かかった
||||loosens|||||
香水 の 香り 。
こうすい||かおり
The scent of perfume.
柔らかな 日差し 。
やわらかな|ひざし
見回した どこ に も 鉄 格子 は なかった 。
みまわした||||くろがね|こうし||
夢 を 見た 気 が する 。
ゆめ||みた|き||
はためく 真っ赤な カーテン の ような 炎 。
|まっかな|かーてん|||えん
全身 黒焦げ に なった 啓二 が 床 に は 這い つ くばって いる 。
ぜんしん|くろこげ|||けいじ||とこ|||はい|||
|charred black||||||||||crawling|
熱い よ 、 熱い よ 、 と 手 を 伸ばして いる 。
あつい||あつい|||て||のばして|
真壁 も 懸命に 手 を 伸ばす 。
まかべ||けんめいに|て||のばす
やっと の こと で 届く が 、 ほとんど 骨 だけ に なった 啓二 の 腕 は ドライフラワー の ように カシャカシャ と 音 を たてて 壊れて しまう 。
||||とどく|||こつ||||けいじ||うで|||||||おと|||こぼれて|
|||||||||||||||dried flower|||||||||
He finally arrives, but Keiji's almost bony arm crunches and breaks like a dried flower.
炭化 した 胴 や 足 が 連鎖 的に 崩れて いく 。
たんか||どう||あし||れんさ|てきに|くずれて|
carbonization|||||||||
The carbonized torso and legs collapse in a chain reaction.
ついに は 目 と 唇 だけ が 残って 、 それ でも 、 熱い よ 、 熱い よ 、 と 言い 続けて いる ――。
||め||くちびる|||のこって|||あつい||あつい|||いい|つづけて|
finally|||||||||||||||||
Finally, only his eyes and lips remained, but he kept saying, "It's hot, it's hot, it's hot.
ひところ 毎晩 の ように 見た 夢 だ から 、 本当の ところ 今 朝方 見た か どう か は わから ない 。
|まいばん|||みた|ゆめ|||ほんとうの||いま|あさがた|みた||||||
once||||||||||||||||||
確かな の は 、 刑 務 官 の 「 起床 !
たしかな|||けい|つとむ|かん||きしょう
|||||||wake up
」 の 声 で 飛び起きた こと だった 。
|こえ||とびおきた||
|||jumped up||
時計 は 九 時 を 回って いた 。
とけい||ここの|じ||まわって|
久子 の 姿 は なく 、 ティッシュ の 造花 も 模造 紙 も 嘘 の ように 消えて いた 。
ひさこ||すがた|||てぃっしゅ||ぞうか||もぞう|かみ||うそ|||きえて|
テーブル の 上 に ラップ の 掛かった ハムサンド が ある が 、 久子 が 真壁 と の こと を 迷って いる の は 、 伝言 の メモ 書き が ない ので わかる 。
てーぶる||うえ||らっぷ||かかった|||||ひさこ||まかべ|||||まよって||||でんごん||めも|かき||||
|||||||ham sandwich||||||||||||||||||||||
ゆうべ 、 二 人 は 一 つ に なれ なかった 。
|ふた|じん||ひと||||
last night||||||||
迷い は 、 久子 より も むしろ 、 真壁 の ほう に 大きかった か 。
まよい||ひさこ||||まかべ||||おおきかった|
Was Makabe more hesitant than Hisako?
中 耳 は 沈黙 した まま だ 。
なか|みみ||ちんもく|||
真壁 も 呼び掛け ず に いた 。
まかべ||よびかけ|||
||call out|||
「 三 人 」 は 一 つ に なれ ない 。
みっ|じん||ひと||||
そういう こと な の かも しれ なかった 。
真壁 は 裸 の まま 洗面 所 に 立ち 、 温み の ない 蛇口 の 水 で 頭 まで 洗う と 、 身支度 を 整えて アパート の 外 階段 を 下りた 。
まかべ||はだか|||せんめん|しょ||たち|ぬくみ|||じゃぐち||すい||あたま||あらう||みじたく||ととのえて|あぱーと||がい|かいだん||おりた
||||||||||||||||||||getting ready||||||||
モスグリーン の 自転車 は アパート の 裏庭 に あった 。
||じてんしゃ||あぱーと||うらにわ||
moss green||||||||
「 ひさこ 」 を もじった 「8・3・5」 の 数字 で チェーン ロック を 解除 する 。
||||すうじ||ちぇーん|ろっく||かいじょ|
Hikako||played with||||||||
「 ひ 」 に 漢字 の 「 日 」 を 充てて 「8」 と 読んだ の が 久子 の 自慢 だった 。
||かんじ||ひ||あてて||よんだ|||ひさこ||じまん|
||||||assigned||||||||
「 これ なら 盗ま れ ない よ ね 」。
||ぬすま||||
後 に なって 、 その 自転車 が 泥棒 の 足 に なって いた と 知った 久子 の 嘆き は 大きかった 。
あと||||じてんしゃ||どろぼう||あし|||||しった|ひさこ||なげき||おおきかった
真壁 は 自転車 を 観察 した 。
まかべ||じてんしゃ||かんさつ|
新たな 情報 を 得れば 新たな 習慣 が 必要に なる 。
あらたな|じょうほう||えれば|あらたな|しゅうかん||ひつように|
|||if obtained|||||
まずは ハンドル の 握り 部分 の ゴム を ねじって 外す 。
|はんどる||にぎり|ぶぶん||ごむ|||はずす
||||||||twist|
空洞 の パイプ の 中 に 指 を 差し入れ 、 内径 に 沿って 回転 さ せる 。
くうどう||ぱいぷ||なか||ゆび||さしいれ|ないけい||そって|かいてん||
hollow||||||||insert|inner diameter|||||
ひんやり と した アルミ の 感触 だけ が 脳 に 伝わった 。
|||あるみ||かんしょく|||のう||つたわった
|||aluminum|||||||
もう 片方 の ハンドル も 探り 、 サドル や タイヤ カバー の 裏 も 念入りに 調べて 、 それ でも 何も ない と わかる と 、 周囲 を 見回し つつ 自転車 を 乗り出した 。
|かたほう||はんどる||さぐり|||たいや|かばー||うら||ねんいりに|しらべて|||なにも|||||しゅうい||みまわし||じてんしゃ||のりだした
|||||||||||||carefully|||||||||||||||
雁 谷 方面 へ 向かう 。
がん|たに|ほうめん||むかう
《 おはよう 》
と 抑揚 の ない 声 。
|よくよう|||こえ
〈 ああ 〉
《 どこ ?
仕事 の 下見 ?
しごと||したみ
||preliminary inspection
〈 それ も ある 〉
《 も 、って なに さ ?
まさか だ よ ね 》
〈 女 の 居場所 を 探す 〉
おんな||いばしょ||さがす
《 やっぱり かよ !
|after all
なんで さ ?
白い うなじ に イカ れ ち まった の か よ 。
しろい|||いか||||||
修 兄 ィ に は 久子 が いる じゃ ん か 》
おさむ|あに||||ひさこ|||||
〈 うるさい 〉
《 それとも 稲村 葉子 に 聞く の ?
|いなむら|ようこ||きく|
なんで 殺そう と した かって ?
|ころそう|||
どうして 殺す の やめた んです かって ?
|ころす||||
泥棒 が 殺人 未遂 の 犯人 とっちめたって しょうがない じゃ ん 。
どろぼう||さつじん|みすい||はんにん|とっちめた って|||
|||attempted murder|||caught|||
稲村 葉子 は 離婚 した んだ ろ 。
いなむら|ようこ||りこん|||
もう ほっといて や んな よ 》
〈 黙れ 〉
だまれ
真壁 は 語気 荒く 言った 。
まかべ||ごき|あらく|いった
《 な …… なんだ よ 、 そんなに 怒って 》
||||いかって
〈 お前 、 許せる の か 〉
おまえ|ゆるせる||
|can forgive||
Can you forgive him?
《 えっ?
〈 悔しく ない の か 、 生きた まま 焼かれて 〉 《 あ ……》 〈 女 の 事情 なんか どう だっいい 。
くやしく||||いきた||やか れて||おんな||じじょう|||だっ いい
||||||burned alive|||||||it doesn't matter
俺 は ただ 女 の ツラ を 見て みたい だけ だ 。
おれ|||おんな||||みて|||
人 を 焼き殺そう なんて 考える 女 の ツラ を な 〉
じん||やきころそう||かんがえる|おんな||||
||burn to death|||||||
家 が 焼けた 日 、 真壁 は 久子 と 京都 に いた 。
いえ||やけた|ひ|まかべ||ひさこ||みやこ||
久子 を 初めて 抱いた 、 その 夜 だった 。
ひさこ||はじめて|いだいた||よ|
耳鳴り が した 。
みみなり||
激しい 頭痛 に 襲わ れた 。
はげしい|ずつう||おそわ|
頭蓋 が 揺さぶら れた 。
ずがい||ゆさぶら|
||was shaken|
そして 、 声 を 聞いた 。
|こえ||きいた
熱い !
あつい
熱い よ !
あつい|
修 兄 ィ !
おさむ|あに|
修 兄 ィ !
おさむ|あに|
――。
真壁 は ペダル を 漕ぎ 続けた 。
まかべ||ぺだる||こぎ|つづけた
||||pedaling|
十五 分 ほど して 啓二 が 戻って きた 。
じゅうご|ぶん|||けいじ||もどって|
涙声 だった 。
なみだごえ|
《 修 兄 ィ ……。
おさむ|あに|
俺 、 ぜんぜん 平気だ から ……。
おれ||へいきだ|
||I'm fine|
もう どこ も なんとも ない から ……》