三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 12
12 詩人 教師 の 冒険
「── 何 だ 」
国 友 は 、 ふと 目 を 開いて 、 びっくり した 。
部屋 の 中 は 、 もう ほとんど 真 暗 な のだ 。
眠って しまった らしい 。
国 友 は 、 そろそろ と ベッド に 起き上った 。
── 捻挫 した 足 も 、 ほとんど 痛ま ない 。
国 友 は 頭 を 振って 、 立ち上った 。
歩いて みて も 、 大丈夫だった 。
明り を 点け 、 時計 を 見て 、 もう 七 時 に なって いる の を 知った 。
「 やれやれ ……」
こんな 時 に !
グウグウ 寝て る 奴 が ある か 。
夕 里子 君 は どこ に いる の か な ……。
廊下 へ 出て みた 。
おかしい 、 と 直感 的に 思った 。
山荘 の 中 は 静か すぎた 。
── まるで 人気 が ない 。
国 友 は 、 不安に なって 、 夕 里子 たち の 部屋 の ドア を 開けた 。
誰 も い ない 。
急いで 、 一 階 へ と 降りて 行って みた 。
サロン 、 食堂 、 と 捜して 歩いて も 、 誰 の 姿 も 見え ない 。
「 夕 里子 君 !
珠美 君 ! ── おい 、 誰 か い ない の か ! 国 友 は 、 大声 で 怒鳴った 。
「 何て こと だ ……」
青く なった 。
のんびり 眠って いる 間 に 、 人 っ子 一 人 、 い なく なって しまう と は ……。
国 友 は 、 急いで 二 階 へ 取って返す と 、 厚い コート を はおって 、 降りて 来た 。
裏庭 へ 出て みる 。
── 雪 の 照り返し で 、 かなり 明るい 。
猛烈な 寒 さ だ 。
もし 、 夕 里子 たち が 、 この 中 へ 出て 行った のだ と したら 、 凍死 して しまう かも しれ ない 。
国 友 は 、 ともかく 、 やみくもに 、 その辺 を 駆け回った 。
寒 さ の 中 で 、 汗 が にじみ出て 来る 。
しかし 、 どこ に も 人 の 姿 は 見当ら ない 。
国 友 は 、 くたびれ 切って 、 山荘 の 中 へ と 戻った 。
「 一体 、 何 が あった んだ !
国 友 は 、 力一杯 、 壁 を 叩いた 。
する と ── その 壁 が 、 突然 倒れて 来た 。
国 友 は 、 あわてて 飛び す さった 。
ドシン 、 と 音 を たてて 、 木 の 壁 が 倒れる 。
そして 、 その 壁 に ぴったり と はりつく ように ……。
国 友 は 息 を 呑 んだ 。
── 金田 吾郎 だ !
命 が ない の は 、 一見 して 分 った 。
血 が 、 胸 一 杯 に 広がって いる 。
「 何て こと だ ……」
一体 、 何 が 起った の か ?
国 友 は 、 必死で 、 冷静に なろう と した 。
── 落ちつく のだ 。 刑事 と いう 立場 に 戻って 、 この 事態 に 対処 する こと だ 。
まず 、 もう 一 度 、 この 山荘 の 中 を くまなく 調べて みる こと から 始めよう 、 と 思った 。
その とき 、 玄関 の 方 で 、
「 誰 か !
と 声 が した 。
国 友 は 、 飛んで 行った 。
水谷 だった 。
「 国 友 さん !
良かった ! 水谷 は 、 寒 さ の せい か 、 真 青 な 顔 を して いた 。
背中 に 、 誰 か を 背負って いる 。
「 水谷 先生 。
それ は ? 「 片 瀬 敦子 です 。
雪 に 半分 埋もれて いた んです 。 急いで 体 を 暖め ない と ……」
「 では 、 すぐ に 浴室 へ !
国 友 は 、 浴室 へ 走って 、 浴槽 に 熱い 湯 を 入れた 。
「── 一体 、 みんな どこ へ 行 っ ち まったん です ?
水谷 が 、 敦子 を 運んで 来て 、 息 を ついた 。
「 僕 も 今 まで 寝て いた んです よ 」
国 友 は 、 首 を 振った 。
「 起きて みる と 、 人 っ子 一 人 い ない 。 ── 途方 に くれて た ところ です 。 正直に 言って 、 ホッと し ました 」
「 とんでもない こと に なり ました ね 」
水谷 は 、 ため息 を ついた 。
「 僕 の せい で 、 こんな こと に なる と は ……」
「 この 子 は どこ で ?
と 、 国 友 は 訊 いた 。
「 山 の 裏手 の 方 です 。
道 の 向 う 側 が 高く なって いる でしょう 。 その 向 うで 、 見付けた んです よ 。 もう 少し 遅かったら 、 凍え死んで いた でしょう 」
「 この 子 の 意識 が 戻れば 、 何 か 分 る かも しれ ない な 。
── 服 を 脱が せ ましょう 」
いくら 、 命 を 助ける ため と は いえ 、 敦子 を 裸 に する の は 、 多少 気 も 咎めた 。
しかし 、 今 は そんな こと を 言って は い られ ない 。
「 お互い 、 証人 に なり ましょう 」
と 、 水谷 が 言った 。
「 変な 目 で 見 なかった 、 と 」
「 いい です な 」
国 友 は 、 水谷 と 一緒に 、 裸 に した 敦子 を 、 浴槽 へ 入れた 。
「 しかし ……」
と 、 国 友 は 額 の 汗 を 拭った 。
「 この 山荘 は お化け 屋敷 な の か な 」
「 当って る かも しれ ませ ん ね 」
水谷 は 首 を 振って 、「 つい 何 時間 か 前 まで ここ に は あの 石垣 親子 と 、 あの 三 人 姉妹 、 それ に 、 私 の 学生 たち ……。
全部 で 十 人 も 人間 が いた んです よ 」
「 石垣 の ご 主人 と いう 人 が いる と すれば 十 人 です が ね 」
と 、 国 友 は 言った 。
「 ただ 、 一 人 は もう ……。 残念 ながら 生きて い ませ ん 」
「 何で すって ?
水谷 は 、 サッと 青ざめた 。
「 さっき 廊下 で 見付け ました よ 。
あの 金田 と いう 学生 です 。 ── 殺さ れた の は 、 はっきり して い ます 」
「 金田 が ?
── 本当です か ? 水谷 は 、 頭 を かかえた 。
教師 と して は 、 大きな ショック だろう 。
それ は 国 友 に も よく 分 った 。
「 では 、 他の 生徒 も ……」
「 そんな こと は あり ませ ん よ 」
国 友 は 、 自分 へ 言い聞かせる ように 言った 。
「 もし 、 彼女 ら の 身 に 何 か あれば 、 僕 に は 分 り ます 」
「 しかし ──」
と 言い かけて 、 水谷 は 黙った 。
「 ともかく 心配 ばかり して いて も 、 どうにも なり ませ ん 」
国 友 は 、 強い 口調 で 言った 。
「 この 子 は 一旦 ベッド へ 入れ 、 それ から 、 この 山荘 の 中 を くまなく 調べる んです 。 この 子 が いた のだ から 、 他の 子 だって ……」
「 そう です ね 」
水谷 も 、 国 友 の 言葉 に 力づけ られた 様子 だった 。
── 夕 里子 は 、 かすかに 身動き して 、 ちょっと 、 痛み を 感じた 。
あ 、 生きて る んだ 。
そう 思った 。
意識 を 失って いた 、 と いう こと が 、 妙に はっきり と 分 って いて 、 どうして そう なった の か と いう こと も 、 憶 えて いた 。
あの 二 階 の 部屋 の 窓 から 飛び出して しまった のだ 。
国 友 さん に 笑われ そうだ わ 、 と 夕 里子 は 思った 。
でも ── あの まま 雪 の 中 へ 突っ込んだ と 思った のに 、 今 、 どうして 横 に なって いる んだろう ?
それ に 、 ここ は ……。
夕 里子 は 、 ゆっくり と 目 を 開いた 。
パチパチ 、 と はじける ような 音 と 共に 、 火 が 燃えて いた 。
枯枝 が 、 沢山 集め られて 、 炎 を 上げて いる 。
その 熱 が 、 夕 里子 の 顔 に 当って いた 。
助かった んだ ……。
夕 里子 は 、 ともかく 、 少し 体 を 起こした 。
「 い たた ……」
体 の あちこち が 痛む の は 、 もちろん 雪 の 中 へ 突っ込んだ せい だろう が 、 しかし 、 骨 が 折れて いる と か 、 そんな 所 は ない ようだ 。
そっと 起き上って 、 夕 里子 は 、 息 を ついた 。
そして 、 やっと 周囲 を 見 回す 余裕 が できた のだった 。
「 ここ は ──」
思わず 、 口 に 出して 言って いた 。
それ は どこ か 、 岩 の 穴 と いう か 、 ポッカリ と あいた 洞窟 だった 。
ちょっと 面食らう ほど の 広 さ である 。
何しろ 、 こうして 、 中 で 火 を 燃やして い られる ぐらい な のだ から 。
しかし 、 どうして こんな 所 に 寝て いた のだろう ?
自分 で ここ まで 寝 に 来た 覚え は ない から 、 誰 か に 運ば れて 来た に は 違いない のだ が 。
おそらくは 、 自然に できた 洞窟 な のだろう 。
ところどころ 、 地 下水 が しみ 出して 、 寒 さ で つらら の ように なって 垂れ 下って いる 。
ともかく 、 命拾い を した わけだ 。
夕 里子 は 、 火 に 両手 を かざして 、 こごえた 指先 を あたためた 。
あの 山荘 から 、 どれ くらい 離れて いる んだろう ?
そして 、 誰 が 、 なぜ 夕 里子 を ここ まで 運んで 来た の か 。
時間 も たって いる のだろう 。
落ちつく と 、 お腹 が 空いて 来た 。
洞窟 は 、 左右 、 どちら へ も 曲りくねり ながら 伸びて いる 。
冷たい 風 の 唸り が 、 その 一方 から 聞こえて いて 、 どうやら そっち が 表 に なる らしい 。
夕 里子 は 、 立ち上って 、 足踏み を して みた 。
大丈夫 。 歩ける 。
窓 ガラス を 突き破った のに 、 けが 一 つ して い ない の は 、 カーテン の 布地 が 分厚かった せい だろう 。
── そう 。 下手 を すれば 、 今ごろ は この 美貌 に 傷 が つく ところ だった のだ !
夕 里子 は 、 ともかく 、 外 へ 出 られる らしい 方 へ と 、 洞窟 の 中 を 進んで 行った 。
火 から 離れる と 、 たちまち 、 猛烈な 寒気 に 捉え られる 。
ゴーッ と 、 風 が 鳴って いる の が 、 聞こえた 。
夕 里子 は 、 足 を 進める の を ちょっと ためらった が 、 ま 、 覗いて みる ぐらい で ……。
吹雪 だろう か ?
出口 に 当る 所 が 、 白く 、 渦 を 巻いて いた 。
これ じゃ 、 外 へ 出て 行ったら 凍え死んじゃ う わ 。
夕 里子 は 、 首 を 振った 。
と ── 風 が 、 す っと おさまって 、 白い 雪煙 も 流れ 去る ように 消えた 。
もちろん 、 また すぐ に 吹いて 来る のだろう が 、 一時的に やんで いる のだ 。
夕 里子 は 、 歩いて 行って 、 首 を 出した 。
月 の 光 が 射 して いる 。
── して みる と 、 吹雪 で は なくて 、 風 で 、 積った 雪 が 舞って いる だけ な のだ 。
でも 、 そんな こと を 考える 前 に 、 夕 里子 は ギョッ と 目 を 見はって いた 。
そこ は 外 だった 。
いや 、 そりゃ 当然の こと な のだ が 、 前 に も 上 に も 下 に も 、 空間 が 広がって いた のである 。
下 に も ?
── 夕 里子 は 、 足下 に 、 真 直ぐ 数 十 メートル の 断崖 が 切り立って 落ちて いる の を 見下ろして 、 ガタガタ 膝 が 震え 出して しまった 。
ヘナヘナ と その 場 に 座り 込む 。
いや 、 夕 里子 は 特別に 高所 恐怖 症 と いう わけで は ない 。
しかし 、 もし 今 、 あんな 風 に 吹雪 が 吹き荒れて いる と 思って 、 ここ で 足 を 止めて い なかったら ……。
そのまま ヒョイ と 足 を 踏み出して いた かも しれ ない 。
マンガ じゃ ない から 、 空中 を トコトコ 歩いて 行って 、 下 に 何も ない の に 気付き 、 あわてて 駆け 戻る 、 って わけ に は いか ない のである 。
あの 高 さ を 、 真っ 逆さまに 、 墜落 して いた かも しれ ない 。
そう なれば 、 二 階 の 窓 から 落ちる のだ って 危 いが 、 ここ は それ と は 訳 が 違う 。 まず 命 は ある まい 。
そう 思う と ゾッと して 、 思わず 座り 込んで しまった のである 。
する と 、 そこ へ 、
「── そこ に いた の 」
と 、 背後 から 声 が した ので 、 今度 は 、
「 キャアッ !
と 悲鳴 を 上げて しまった 。
「 びっくり した ?
ごめん 」
と 、 笑い ながら やって 来た の は ──。
「 あなた ……」
夕 里子 は 、 振り向いて 、 目 を 疑った 。
それ は 、 白雪 姫 ── じゃ なかった 、 川西 みどり だった のである 。
「 寒い わ よ 、 そこ じゃ 」
と 、 川西 みどり は 言った 。
「 火 の そば へ 戻り ま しょ 。 食べる もの も 持って 来た わ 」
「 食べる もの ?
が っ ついて る みたいで 、 いやだった が ── まあ 、 実際 、 お腹 が 空いて いる のだ 。
ごまかした ところ で 仕方ない 。
夕 里子 は 、 急に 膝 の 震え も 止って 、 みどり に ついて 、 洞窟 の 奥 の 方 へ と 戻って 行った 。
火 の 前 に 、 男性 が 一 人 、 座って いた 。
髪 が 少し 白く なり かけて は いる が 、 まだ 四十 代 と 見える 、 細身 の 男性 だった 。
分厚い セーター と ズボン 。
── 夕 里子 は 、 ちょっと その 男 を 見つめて 、
「 石垣 さん です ね 」
と 言った 。
男 は 、 ちょっと 笑って 、
「 よく 分 った ね 。
さすが 名 探偵 だ 」
と 言った 。
「 さあ 、 火 の そば へ 。 何 か 食べる だ ろ ? 「 ペコペコ です 、 正直な ところ 」
「 缶詰 ぐらい しか ない んだ が ね 」
「 何でも 、 食べ られる もの なら !
夕 里子 が 、 これほど 切実に (?
) ものごと を 訴える の は 、 珍しい こと だった 。
缶詰 と いって も 、 そう ひどく は なかった 。
最近 は 下着 の 缶詰 なんて もの まで あって 、 これ は やはり 食べ られ ない が 、 石垣 が 出して くれた の は 、 調理 済 の 料理 の 缶詰 で 、 それ の 蓋 を 開け 、 火 で 温めて あった 。
スプーン を もらって 、 熱い ビーフシチュー を 食べ 始める と 、 夕 里子 は 、 やっと 生き返った ような 気分 に なった 。
「── この 味 、 山荘 で 、 奥さん の 出して くれた の と 同じだ 」
と 、 夕 里子 は 気付いて 言った 。
「 そりゃ そう さ 」
石垣 は 肯 いて 、「 園子 は 料理 なんか ほとんど でき ない 。
いつも 缶詰 を 使って る んだ 」
「 それ で 台所 へ 入れ ない んです ね 」
と 、 夕 里子 は 納得 した 。
缶詰 の 半分 ぐらい を 、 アッという間 に 片付けて 、 夕 里子 は 、 少し ペース を 落とした 。
「 凄い 食欲 ね 」
見て いた みどり が 、 笑った 。
「 失礼 」
夕 里子 は 少し 赤く なって 、「 自分 の 気持 に 忠実な の 、 私 」
と 言った 。
「 しかし 、 大した けが も ない ようで 、 良かった よ 。
どこ か 痛い ところ は ? 「 あちこち 。
でも 、 大した こと ないで す 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 私 を 助けて くれた の は ──」
「 石垣 さん よ 。
私 も ね 」
と 、 みどり が 肯 いて 、「 すんでのところで 、 凍え死ぬ ところ だった わ 」
「 でも 、 車 から 引き上げて 、 あなた 、 どこ へ 姿 を くらました の ?
「 反対 側 の 斜面 を 這い上った の よ 。
そして 、 岩 の 出張 り の 陰 に 隠れて た の 」
「 でも 、 なぜ !
助け られた のに 」
みどり は 首 を 振った 。
「 私 、 霊感 みたいな もの が 働く の 。
あの 山荘 は 近付いちゃ いけない 所 だ と 思った の よ 」
「 へえ 」
普通の 名 探偵 で は 、 そこ まで は 調べ られ ない 。
「 で 、 ともかく 、 あそこ が 寝静まる の を 待って 、 あの 山荘 の 裏手 へ 行って みた の 。
── そ したら 、 足 を 取ら れて 崖 から 落ちて ……」
「 この上 の 出張 り に 、 引っかかって 、 気 を 失って いた んだ よ 」
と 、 石垣 は 言った 。
「 え ?
じゃ 、 この 洞窟 は 、 あの 裏庭 の ──? 「 そう 。
断崖 の 途中 に ある 。 上 から は 、 岩 の 出張 り に 遮ら れて 、 見え ない んだ よ 」
「 これ は ── 自然の もの です か ?
「 うん 。
水 の 浸食 作用 だろう ね 。 今 は 地 下水 が 涸 れた の か 、 こうして 洞窟 に なって 、 残って いる 。 奥 へ ずっと 続いて いる んだ よ 」
夕 里子 は 、 ともかく 缶詰 を 平らげる こと に した 。
── 色々 、 訊 き たい こと が 沢山 あり すぎる のだ 。
「── ごちそうさま でした 」
缶詰 を きれいに 空っぽに して 、 夕 里子 は 息 を ついた 。
「 生き返った か ね 」
と 、 石垣 は 微笑んだ 。
「── しかし 、 君 たち も 災難 だった ね 」
「 私 ── さっぱり 訳 が 分 ら ない んです けど ……」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 当然だ 。
しかし ── 今 、 すべて を 話して あげる こと は でき ない 」
石垣 は 、 少し 悲し げな 表情 に なって 、 言った 。
「 今 、 僕 が 言える の は 、 一刻 も 早く 、 あの 山荘 から 出て 行き なさい 、 と いう こと だ 」
「 何 か 危険 が ある んです か 」
「 そう 。
── 大きな 危険 が ね 」
と 、 石垣 は 肯 いた 。
「 ところで 、 この みどり 君 から 聞いた んだ けど 、 君 は 刑事 と 一緒だ そう だ ね 」
「 ええ 。
でも 、 仕事 じゃ あり ませ ん 。 一応 ── 私 の 恋人 な んです 」
「 相性 いい わ よ 。
私 の 勘 で は 」
と 、 みどり が 言った 。
「 どうも 。
── 国 友 さん が 何 か ? 「 いや ……。
実は 、 若い 女の子 ── と いって も 二十 歳 ぐらい の 娘 だ が 、 何 か 事件 が あった って こと を 、 聞いて い ない か ね 。 どうも 漠然と した 話 で すま ない が 」
「 二十 歳 ぐらい の ……?
それ は もし かして ──。
あの 、 国 友 が 気絶 して しまった と いう 一 件 で は ない か 。
「 ここ へ 来る とき 、 ちょうど 若い 女性 の 死体 が 見付かった んです 。
二十 歳 ぐらい で 、 身 許 は まだ 分 ら なかった みたいです けど 」
石垣 は 、 ふと 顔 を こわばら せた 。
「 そう か 。
── 殺さ れて いた の か ね ? 「 詳しい こと は 聞いて い ませ ん けど 、 首 を 絞め られた 、 と か ……。
手首 に 縄 の あと が あった って ──」
石垣 が 、 サッと 青ざめた 。
「 縄 の あと が ……。
そう か 。
── そう か 」
低い 呟き に なった 。
「 ご存知 の 人 な んです ね 」
夕 里子 の 問い に 、 石垣 は 、 しばらく して から 、 ゆっくり と 肯 いた 。
「 おそらく ね ……。
そう か 。
むだだった か 」
「── 誰 な んです か ?
しかし 、 石垣 は 答え なかった 。
「 少し 奥 へ 行って 、 休む よ 」
と 、 石垣 は 立ち上った 。
「 君 も 少し 眠って おいた 方 が いい 。 冷える から ね 、 これ から 朝 まで は 」
「 ええ ……」
洞窟 の 奥 の 方 へ 行く と 、 石垣 は 毛布 を 取って 来た 。
「 これ を 使い なさい 。
火 を 絶やさ ない ように すれば 、 この 中 は 暖かい 」
「 すみません 」
夕 里子 は 、 石垣 が 奥 の 方 へ 入って 行く の を 見送って 、「── 殺さ れた 人 、 恋人 だった の かしら 」
と 言った 。
「 たぶん ね 」
みどり は 肯 いた 。
「 ここ から 、 山荘 へ は どこ か 道 が ある の ?
と 、 夕 里子 は 訊 いた 。
「 ない よう よ 。
だから 、 あの 表 の 崖 を よじ 上る しか ない わ 」
「 そう ……」
「 今 は 無理 よ 。
朝 に なって から で ない と 」
夕 里子 は 肯 いた 。
「 心配な の 。
姉 と 妹 の こと が 」
「 分 る わ 」
「 あなた ── 私 の 顔 に 死 相 が 出て る って 言った わ ね 」
「 うん 。
でも 、 今 は 出て い ない 。 よく 分 ら ない わ 」
みどり は 首 を 振った 。
「 もしかすると ──」
「 もしかすると ?
「 あなた の 、 とても 親しい 人 の 死 相 が 映って いた の かも しれ ない わ ね 」
「 あんまり ありがたい ご 宣 託 じゃ ない わ ね 」
と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。
「 ともかく 、 あの 山荘 は まともじゃ ない わ 」
「 そう よ 。
『 死 の 匂い 』 が 満ちて る わ 」
と 、 みどり は 言った 。
「 死 の 匂い 、 か ──」
夕 里子 は 、 呟いた 。
綾子 姉さん 、 大丈夫 か な 。
珠美 は まあ 、 一 人 でも 身 を 守れる だろう けど 。
しかし 、 夕 里子 は 、 もちろん 姉 と 妹 の こと を 心配 し ながら も 、 心 の 底 で は 何となく 安心 して いる ところ が あった 。
綾子 も 珠美 も 、「 幸運 」 に 恵ま れて いる から だ 。
── これ は 、 夕 里子 の 、 次女 と して の 経験 から 得た 確信 だった ……。
「 明日 に なったら 、 一緒に 調べ に 行き ましょう ね 」
と 、 みどり が 、 夕 里子 を 見て 言った 。
「 少し 眠って おいた 方 が いい わ 」
「 ええ ……」
そう 眠気 が さして いる わけで は なかった のだ が 、 夕 里子 は 、 毛布 を 一 枚 もらって 、 岩 の 平らな 所 に 広げて 、 横 に なった 。
まあ 、 一流 ホテル の ベッド 並み と は いか ない まで も 、 外 の 寒 さ を 思えば 快適である 。
「 あなた は ?
と 、 夕 里子 は 、 みどり に 言った 。
「 私 は 、 今日 、 昼間 ずっと 眠って いた の よ 」
と 、 みどり は 微笑んだ 。
「 火 が 消え ない ように 見て いる わ 。 大丈夫 」
「 でも ── それ じゃ 悪い わ 」
「 いい から 、 目 を 閉じて る だけ でも 」
「 そう 。
── それ じゃ 」
夕 里子 は 、 息 を 吐き出して 目 を 閉じた 。
眠る 気 は なかった 。
綾子 と 珠美 の こと が 心配で 、 とても 眠れた もの じゃ ない ……。
しかし 、 少し する と 、 夕 里子 は 、 浅い 眠り の 中 へ 、 身 を 沈めて いた ……。