×

We use cookies to help make LingQ better. By visiting the site, you agree to our cookie policy.


image

こころ - 夏目漱石, Section 001 - Kokoro - Soseki Project

Section 001 - Kokoro - Soseki Project

上 先生 と 私

私 は その 人 を 常に 先生 と 呼んで いた 。 だから ここ でも ただ 先生 と 書く だけ で 本名 は 打ち明け ない 。 これ は 世間 を 憚 かる 遠慮 と いう より も 、 その方 が 私 に とって 自然だ から である 。 私 は その 人 の 記憶 を 呼び起す ごと に 、 すぐ 「 先生 」 と いい たく なる 。 筆 を 執って も 心持 は 同じ 事 である 。 よそよそしい 頭文字 など は とても 使う 気 に なら ない 。

私 が 先生 と 知り合い に なった の は 鎌倉 である 。 その 時 私 は まだ 若々しい 書生 であった 。 暑中 休暇 を 利用 して 海水 浴 に 行った 友達 から ぜひ 来い と いう 端書 を 受け取った ので 、 私 は 多少 の 金 を 工面 して 、 出掛ける 事 に した 。 私 は 金 の 工面 に 二 、 三 日 を 費やした 。 ところが 私 が 鎌倉 に 着いて 三 日 と 経た ない うち に 、 私 を 呼び寄せた 友達 は 、 急に 国元 から 帰れ と いう 電報 を 受け取った 。 電報 に は 母 が 病気 だ から と 断ってあった けれども 友達 は それ を 信じ なかった 。 友達 は かねて から 国元 に いる 親 たち に 勧 ま ない 結婚 を 強いられていた 。 彼 は 現代 の 習慣 から いう と 結婚 する に は あまり 年 が 若過ぎた 。 それ に 肝心の 当人 が 気 に 入ら なかった 。 それ で 夏 休み に 当然 帰る べき 所 を 、 わざと 避けて 東京 の 近く で 遊んで いた のである 彼 は 電報 を 私 に 見せて どうしよう と 相談 を した 。 私 に は どうして いい か 分 ら なかった 。 けれども 実際 彼 の 母 が 病気 である と すれば 彼 は 固 より 帰る べき はずであった 。 それ で 彼 は とうとう 帰る 事 に なった 。 せっかく 来た 私 は 一 人 取り残さ れた 。

Learn languages from TV shows, movies, news, articles and more! Try LingQ for FREE

Section 001 - Kokoro - Soseki Project section|kokoro|soseki|project Section 001 - Kokoro - Soseki Project Sekcja 001 - Projekt Kokoro - Soseki Secção 001 - Projeto Kokoro - Soseki Bölüm 001 - Kokoro - Soseki Projesi

上 先生 と 私 うえ|せんせい||わたくし Top teacher and me

私 は その 人 を 常に 先生 と 呼んで いた 。 わたくし|||じん||とわに|せんせい||よんで| I always called that person a teacher. だから ここ でも ただ 先生 と 書く だけ で 本名 は 打ち明け ない 。 ||||せんせい||かく|||ほんみょう||うちあけ| So even here, I can't confess my real name just by writing with the teacher. これ は 世間 を 憚 かる 遠慮 と いう より も 、 その方 が 私 に とって 自然だ から である 。 ||せけん||はばか||えんりょ|||||そのほう||わたくし|||しぜんだ|| This is because it is more natural to me, rather than a reluctance to be disrespectful. 私 は その 人 の 記憶 を 呼び起す ごと に 、 すぐ 「 先生 」 と いい たく なる 。 わたくし|||じん||きおく||よびおこす||||せんせい|||| Every time I evoke a person's memory, I immediately want to be called a "teacher." 筆 を 執って も 心持 は 同じ 事 である 。 ふで||とって||こころ じ||おなじ|こと| Even if I write a brush, my feelings are the same. よそよそしい 頭文字 など は とても 使う 気 に なら ない 。 |かしらもじ||||つかう|き||| I don't feel like using awkward acronyms very much.

私 が 先生 と 知り合い に なった の は 鎌倉 である 。 わたくし||せんせい||しりあい|||||かまくら| It was Kamakura that I got to know the teacher. その 時 私 は まだ 若々しい 書生 であった 。 |じ|わたくし|||わかわかしい|しょせい| At that time I was still a youthful student. 暑中 休暇 を 利用 して 海水 浴 に 行った 友達 から ぜひ 来い と いう 端書 を 受け取った ので 、 私 は 多少 の 金 を 工面 して 、 出掛ける 事 に した 。 しょちゅう|きゅうか||りよう||かいすい|よく||おこなった|ともだち|||こい|||はし しょ||うけとった||わたくし||たしょう||きむ||くめん||でかける|こと|| I received a letter from a friend of mine who took a bath during the summer vacation to go swimming in the sea, so I decided to go out after spending some money. 私 は 金 の 工面 に 二 、 三 日 を 費やした 。 わたくし||きむ||くめん||ふた|みっ|ひ||ついやした I spent a couple of days working on gold. ところが 私 が 鎌倉 に 着いて 三 日 と 経た ない うち に 、 私 を 呼び寄せた 友達 は 、 急に 国元 から 帰れ と いう 電報 を 受け取った 。 |わたくし||かまくら||ついて|みっ|ひ||へた||||わたくし||よびよせた|ともだち||きゅうに|くにもと||かえれ|||でんぽう||うけとった However, less than three days after I arrived in Kamakura, a friend who called me suddenly received a telegram telling me to return from Kunimoto. 電報 に は 母 が 病気 だ から と 断ってあった けれども 友達 は それ を 信じ なかった 。 でんぽう|||はは||びょうき||||たって あった||ともだち||||しんじ| The telegram said that my mother was ill, but my friend didn't believe it. 友達 は かねて から 国元 に いる 親 たち に 勧 ま ない 結婚 を 強いられていた 。 ともだち||||くにもと|||おや|||すすむ|||けっこん||しいられて いた My friends have been compelled by their parents in the country for a long time. 彼 は 現代 の 習慣 から いう と 結婚 する に は あまり 年 が 若過ぎた 。 かれ||げんだい||しゅうかん||||けっこん|||||とし||わか すぎた According to modern customs, he was too young to get married. それ に 肝心の 当人 が 気 に 入ら なかった 。 ||かんじんの|とうにん||き||はいら| Besides, the person in question didn't like it. それ で 夏 休み に 当然 帰る べき 所 を 、 わざと 避けて 東京 の 近く で 遊んで いた のである ||なつ|やすみ||とうぜん|かえる||しょ|||さけて|とうきょう||ちかく||あそんで|| Therefore, I was intentionally avoiding the places I should return to during my summer vacation, and playing near Tokyo. 彼 は 電報 を 私 に 見せて どうしよう と 相談 を した 。 かれ||でんぽう||わたくし||みせて|どう しよう||そうだん|| He showed me the telegram and asked me what to do. 私 に は どうして いい か 分 ら なかった 。 わたくし||||||ぶん|| I didn't know what to do. けれども 実際 彼 の 母 が 病気 である と すれば 彼 は 固 より 帰る べき はずであった 。 |じっさい|かれ||はは||びょうき||||かれ||かた||かえる|| But in fact, if his mother was ill, he should have returned. それ で 彼 は とうとう 帰る 事 に なった 。 ||かれ|||かえる|こと|| So he finally got home. せっかく 来た 私 は 一 人 取り残さ れた 。 |きた|わたくし||ひと|じん|とりのこさ| I was left alone and left behind.