いちょう の 実 ||み

空 の てっぺん なんか 冷たくて 冷たくて まるで カチカチ の 灼 き を かけた 鋼 です 。 から||||つめたくて|つめたくて||かちかち||しゃく||||はがね| It's a piece of steel that's cold and cold, as if it were ticking.

そして 星 が 一杯です 。 |ほし||いっぱい です And the stars are full. けれども 東 の 空 は もう 優しい 桔梗 の 花びら の ように あやしい 底光り を はじめました 。 |ひがし||から|||やさしい|ききょう||はなびら||よう に||そこびかり|| However, the eastern sky has begun to give off suspicious undertones like the tender bellflower petals. その 明け方 の 空 の 下 、 昼 の 鳥 でも 行か ない 高い 所 を 鋭い 霜 の かけら が 風 に 流されて サラサラ サラサラ 南 の 方 へ 飛んで 行きました 。 |あけがた||から||した|ひる||ちょう||いか||たかい|しょ||するどい|しも||||かぜ||ながされて|さらさら|さらさら|みなみ||かた||とんで|いきました Under the dawn sky, a sharp frost fragment rushed to a high place where no birds could even go in the daytime. 実に その 微 かな 音 が 丘 の 上 の 一 本 いちょう の 木 に 聞える 位 澄み切った 明け方 です 。 じつに||び||おと||おか||うえ||ひと|ほん|||き||きこえる|くらい|すみきった|あけがた| The dawn is so clear that the faint sound can be heard in a single ginkgo tree on the hill.

いちょう の 実は みんな 一度に 目 を さましました 。 ||じつは||いちどに|め|| そして ドキッ と した のです 。 ||||の です And I was shocked. 今日 こそ は たしかに 旅立ち の 日 でした 。 きょう||||たびだち||ひ| みんな も 前 から さ う 思って いました し 、 昨日 の 夕方 やって 来た 二 羽 の 烏 も そう 言いました 。 ||ぜん||||おもって|||きのう||ゆうがた||きた|ふた|はね||からす|||いいました Everyone had been thinking for a while, and said the two crows that came yesterday evening. 「 僕 なんか 落ちる 途中 で 眼 が ま はら ないだら う か 。」 ぼく||おちる|とちゅう||がん|||||| "I wonder if my eyes don't cover my eyes during the fall." 一 つ の 実 が 言いました 。 ひと|||み||いいました One fruit said. 「 よく目 を つぶって 行けば いい さ 。」 よくめ|||いけば|| も 一 つ が 答えました 。 |ひと|||こたえました 「 そうだ 。 そう だ 忘れて いた 。 わすれて| 僕 、 水筒 に 水 を つめて 置く んだった 。」 ぼく|すいとう||すい|||おく|

「 僕 は ね 、 水筒 の 外 に ハッカ 水 を 用意 した よ 。 ぼく|||すいとう||がい|||すい||ようい|| 少し やら うか 。 すこし|| 旅 へ 出て あんまり 心持ち の 悪い 時 は ちょっと 飲む と いいって おっか さん が 言って た ぜ 。」 たび||でて||こころもち||わるい|じ|||のむ||い いって||||いって|| 「 なぜ おっか さん は 僕 へ は くれ ない んだろう 。」 ||||ぼく||||| 「 だ から 、 僕 あげる よ 。 ||ぼく|| おっか さん を 悪く 言っちゃ すまない よ 。」 |||わるく|いっちゃ|| そう です 。 この 銀杏 の 木 は おっか さん でした 。 |いちょう||き|||| 今年 は 千 人 の 黄金色 の 子供 が 生れた のです 。 ことし||せん|じん||こがねいろ||こども||うまれた|の です

そして 今日 こそ 子供 ら が みんな 一緒に 旅 に 発 つ のです 。 |きょう||こども||||いっしょに|たび||はつ||の です おっか さん は それ を あんまり 悲しんで 扇形 の 黄金 の 髪 の 毛 を 昨日 まで に みんな 落して しまいました 。 ||||||かなしんで|おうぎがた||おうごん||かみ||け||きのう||||おとして| 「 ね 、 あたし どんな 所 へ 行く の かしら 。」 |||しょ||いく|| 一 人 の いちょう の 女の子 が 空 を 見あげて 呟 やく ように 言いました 。 ひと|じん||||おんなのこ||から||みあげて|つぶや||よう に|いいました 「 あたし だって わから ない わ 、 どこ に も 行き たく ない わ ね 。」 ||||||||いき|||| も 一 人 が 言いました 。 |ひと|じん||いいました 「 あたし どんな めに あって も いい から おっか さん の 所 に 居たい わ 。」 ||||||||||しょ||いたい| 「 だって いけない んで すって 。 風 が 毎日 そう 言った わ 。」 かぜ||まいにち||いった| 「 いやだ わ ね 。」 「 そして あたし たち も みんな ばらばらに わかれて しまう んでしょう 。」 「 ええ 、 そう よ 。 もう あたし なんにも いら ない わ 。」 「 あたし も よ 。 今 まで いろいろ わがまま ばっか し 言って 許して 下さい ね 。」 いま||||||いって|ゆるして|ください| 「 あら 、 あたし こそ 。 あたし こそ だ わ 。 許して 頂 戴 。」 ゆるして|いただ|たい

東 の 空 の 桔梗 の 花びら は もう いつか しぼんだ ように 力なく なり 、 朝 の 白 光り が あらわれ はじめました 。 ひがし||から||ききょう||はなびら|||||よう に|ちからなく||あさ||しろ|ひかり||| 星 が 一 つ づつ 消えて 行きます 。 ほし||ひと|||きえて|いきます 木 の 一 番 一 番 高い 処 に 居た 二 人 の いちょう の 男の子 が 言いました 。 き||ひと|ばん|ひと|ばん|たかい|しょ||いた|ふた|じん||||おとこのこ||いいました 「 そら 、 もう 明るく なった ぞ 。 ||あかるく|| 嬉しい なあ 。 うれしい| 僕 は きっと 金色 の お 星 さま に なる んだ よ 。」 ぼく|||きんいろ|||ほし||||| 「 僕 も なる よ 。 ぼく||| きっと ここ から 落ちれば すぐ 北風 が 空 へ 連れてって くれる だろう ね 。」 |||おちれば||きたかぜ||から||つれてって||| 「 僕 は 北風 じゃ ない と 思 ふんだ よ 。 ぼく||きたかぜ||||おも|| 北風 は 親切じゃ ない んだ よ 。 きたかぜ||しんせつじゃ||| 僕 は きっと 烏 さん だ と 思う ね 。」 ぼく|||からす||||おもう| 「 そうだ 。 そう だ きっと 烏 さん だ 。 |からす|| 烏 さん は 偉い んだ よ 。 からす|||えらい|| ここ から 遠くて まるで 見え なく なる まで 一息 に 飛んで 行く んだ から ね 。 ||とおくて||みえ||||ひといき||とんで|いく||| 頼んだら 僕ら 二 人 位 きっと 一遍に 青空 迄 連れて 行って くれる ぜ 。」 たのんだら|ぼくら|ふた|じん|くらい||いっぺんに|あおぞら|まで|つれて|おこなって|| 「 頼んで 見よう か 。 たのんで|みよう| 早く 来る と いい な 。」 はやく|くる|||

その 少し 下 で もう 二 人 が 言いました 。 |すこし|した|||ふた|じん||いいました 「 僕 は 一 番 はじめ に 杏 の 王様 の お 城 を たずねる よ 。 ぼく||ひと|ばん|||あんず||おうさま|||しろ||| そして お姫様 を さらって 行った ばけ 物 を 退治 する んだ 。 |おひめさま|||おこなった||ぶつ||たいじ|| そんな ばけ 物 が きっと どこ か に ある ね 。」 ||ぶつ||||||| 「 うん 。 ある だろう 。 けれど あぶない じゃ ない か 。 ばけ 物 は 大きい んだ よ 。 |ぶつ||おおきい|| 僕たち なんか 鼻 で ふっと 吹き飛ばさ れ ち まう よ 。」 ぼくたち||はな|||ふきとばさ|||| 「 僕 ね 、 いい もの 持って る んだ よ 。 ぼく||||もって||| だから 大丈夫 さ 。 |だいじょうぶ| 見せよう か 。 みせよう| そら 、 ね 。」 「 これ おっか さん の 髪 で こさ えた 網 じゃ ない の 。」 ||||かみ||こ さ||あみ||| 「 さ うだ よ 。 おっか さん が 下 すった んだ よ 。 |||した||| 何 か 恐ろしい こと の あった とき は この 中 に かくれる んだって 。 なん||おそろしい|||||||なか|||ん だって 僕 ね 、 この 網 を ふところ に 入れて ばけ 物 に 行って ね 。 ぼく|||あみ||||いれて||ぶつ||おこなって| もしもし 。 今日 は 、 僕 を 呑 めます か 呑 め ない でしょう 。 きょう||ぼく||どん|||どん||| と かう 言う んだ よ 。 ||いう|| ばけ 物 は 怒って すぐ 呑 むだ ら う 。 |ぶつ||いかって||どん||| 僕 は その 時 ばけ 物 の 胃袋 の 中 で この 網 を 出して ね 、 すっかり 被っち ま ふんだ 。 ぼく|||じ||ぶつ||いぶくろ||なか|||あみ||だして|||ひっち|| それ から おなか 中 を めっちゃ め ちゃ に こ は しち まう んだ よ 。 |||なか||||||||||| そら 、 ばけ 物 は チブス に なって 死ぬ だ ら う 。 ||ぶつ|||||しぬ||| そこ で 僕 は 出て 来て 杏 の お姫様 を 連れて お 城 に 帰る んだ 。 ||ぼく||でて|きて|あんず||おひめさま||つれて||しろ||かえる| そして お姫様 を 貰う んだ よ 。」 |おひめさま||もらう|| 「 本当に いい ね 、 そん なら その 時 僕 は お 客 様 に なって 行って も いい だろう 。」 ほんとうに||||||じ|ぼく|||きゃく|さま|||おこなって||| 「 いい と も さ 。 僕 、 国 を 半分 わけて あげる よ 。 ぼく|くに||はんぶん||| それ から おっか さん へ は 毎日 お 菓子 や なんか 沢山 あげる んだ 。」 ||||||まいにち||かし|||たくさん|| 星 が すっかり 消えました 。 ほし|||きえました 東 の 空 は 白く 燃えて いる ようです 。 ひがし||から||しろく|もえて||よう です 木 が にわかに ざ わざ わしました 。 き||||| もう 出発 に 間 も ない のです 。 |しゅっぱつ||あいだ|||の です

「 僕 、 靴 が 小さい や 。 ぼく|くつ||ちいさい| 面倒くさい 。 めんどうくさい はだし で 行こう 。」 ||いこう 「 そん なら 僕 の と 替えよう 。 ||ぼく|||かえよう 僕 の は 少し 大きい んだ よ 。」 ぼく|||すこし|おおきい|| 「 替えよう 。 かえよう あ 、 丁度 いい ぜ 。 |ちょうど|| ありがとう 。」 「 わたし 、 困って しまう わ 、 おっか さん に 貰った 新しい 外套 が 見え ない んです もの 。」 |こまって||||||もらった|あたらしい|がいとう||みえ||ん です| 「 早く お 探し なさい よ 。 はやく||さがし|| どの 枝 に 置いた の 。」 |えだ||おいた| 「 忘れて しまった わ 。」 わすれて|| 「 困った わ ね 。 こまった|| これ から 非常に 寒い んでしょう 。 ||ひじょうに|さむい| どうしても 見つけ ない と いけなくって よ 。」 |みつけ|||| 「 そら 、 ね 。 いい パン だ ら う 。 |ぱん||| ほし 葡萄 が ちょっと 顔 を 出して る だろう 。 |ぶどう|||かお||だして|| 早く かばん へ 入れた まえ 。 はやく|||いれた| もう お 日 さま が お出まし に なる よ 。」 ||ひ|||おでまし||| 「 ありがとう 。 じゃ 、 もらう よ 。 ありがとう 。 一緒に 行こう ね 。」 いっしょに|いこう|

「 困った わ 、 わたし 、 どうしても ない わ 。 こまった||||| ほん たう に わたし どう しましょう 。」 「 わたし と 二 人 で 行きましょう よ 。 ||ふた|じん||いきましょう| わたし の を 時々 貸して あげる わ 。 |||ときどき|かして|| 凍えたら 一緒に 死にましょう よ 。」 こごえたら|いっしょに|しにましょう| 東 の 空 が 白く 燃え 、 ユラリユラリ と 揺れ はじめました 。 ひがし||から||しろく|もえ|||ゆれ| おっか さん の 木 は まるで 死んだ ように なって じっと 立って います 。 |||き|||しんだ|よう に|||たって| 突然 光 の 束 が 黄金 の 矢 の ように 一度に 飛んで 来ました 。 とつぜん|ひかり||たば||おうごん||や||よう に|いちどに|とんで|きました 子供 ら は まるで 飛びあがる 位 輝 やきました 。 こども||||とびあがる|くらい|あきら| 北 から 氷 の ように 冷たい 透き と ほった 風 が ゴーッ と 吹いて 来ました 。 きた||こおり||よう に|つめたい|すき|||かぜ||||ふいて|きました 「 さよなら 、 おっか さん 。」 「 さよなら 、 おっか さん 。」 子供 ら は みんな 一度に 雨 の ように 枝 から 飛び 下りました 。 こども||||いちどに|あめ||よう に|えだ||とび|くだりました 北風 が 笑って 、「 今年 も これ で まず さよなら さよならって 言う わけだ 。」 きたかぜ||わらって|ことし|||||||いう| と 言い ながら つめたい ガラス の マント を ひらめか して 向 ふ へ 行って しまいました 。 |いい|||がらす||まんと||||むかい|||おこなって| お 日 様 は 燃える 宝石 の ように 東 の 空 に かかり 、 あらんかぎり の かがやき を 悲しむ 母親 の 木 と 旅 に 出た 子供 ら と に 投げて お やり なさいました 。 |ひ|さま||もえる|ほうせき||よう に|ひがし||から|||||||かなしむ|ははおや||き||たび||でた|こども||||なげて|||なさ いました Like the burning jewels, the sun hung in the eastern sky, and threw all that sparkle to the grieving mother's tree and the traveling children.