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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第八章 死線 (3)

第 八 章 死 線 (3)

貴 官 は 自己 の 才能 を しめす のに 、 弁舌 で は なく 実績 を もって す べきだろう 。 他人 に 命令 する ような こと が 自分 に は できる か どう か 、 やって みたら どう だ 」

フォーク の やせた 顔 から 血 が ひいて ゆく 音 を 、 老 提督 は 聴いた ように 思った 。 つぎに 生じた 光景 は 、 ビュコック の 想像 で は なかった 。 若い 参謀 将校 の 両眼 が 焦点 を 失い 、 狼狽 と 恐怖 が 顔面 いっぱい に ひろがった 。 鼻 孔 が ふくらみ 、 口 が ゆがんだ 四 辺 形 に 開く 。 両手 が あがって その 顔 を 、 ビュコック の 視界 から 隠し 、 一 秒 ほど おいて うめき と も 悲鳴 と もつ か ない 声 が ひびいた 。

啞然 と して 見まもる ビュコック の 視線 の さき で 、 フォーク の 姿 は 通信 スクリーン の 画面 の 下 に 沈没 した 。 かわって 右往左往 する 人影 が 映しださ れた が 、 この 間 、 事情 の 説明 は ない 。

「 どうした の だ 、 彼 は ? 」 「 さあ ……」 ビュコック の 傍 に ひかえて いた 副 官 クレメンテ 大尉 も 、 上官 の 疑問 に 答える こと が でき なかった 。 二 分間 ほど 、 老 提督 は スクリーン の 前 に 待た さ れる こと に なった 。

やがて 軍医 の 白い 制服 を 身 に 着けた 壮年 の 男 が 画面 に あらわれ 、 敬礼 した 。

「 ヤマムラ 軍医 少佐 です 。 現在 、 フォーク 准将 閣下 は 医務 室 で 加療 中 です が 、 その 事情 に ついて 私 が 説明 さ せて いただきます 」 どうも もったいぶって いる な 、 と ビュコック は 思う 。

「 どんな 病気 な の か ね 」

「 転換 性 ヒステリー 症 に よる 神経 性 盲目です 」

「 ヒステリー だ と !?」

「 は あ 、 挫折 感 が 異常な 昂 奮 を ひきおこし 、 視 神経 が 一時的に マヒ する のです 。 一五 分 も すれば また 見える ように なります が 、 このさき 、 何度 でも 発作 が おきる 可能 性 は あります 。 原因 が 精神 的な もの です から 、 それ を とりさら ない かぎり は ……」

「 それ に は どう する のだ ? 」 「 逆らって は いけません 。 挫折 感 や 敗北 感 を あたえて は いけません 。 誰 も が 彼 の 言う こと に したがい 、 あらゆる こと が 彼 の 思う ように はこば なくて は なりません 」 「…… 本気で 言って る の か ね 、 軍医 ? 」 「 これ は わがまま いっぱい に 育って 自我 が 異常 拡大 した 幼児 に ときとして みられる 症状 です 。 善悪 が 問題 では ありません 。 自我 と 欲望 が 充足 さ れる こと だけ が 重要な のです 。 したがって 、 提督 方 が 非 礼 を 謝罪 なさり 、 粉 骨 砕 身 して 彼 の 作戦 を 実行 し 、 勝利 を えて 彼 が 賞 賛 の 的 と なる …… そう なって はじめて 、 病気 の 原因 が とりさら れる こと に なります 」 「 ありがたい 話 だ な 」

ビュコック は 怒る 気 に も なれ なかった 。

「 彼 の ヒステリー を 治める ため に 、 三〇〇〇万 も の 兵士 が 死 地 に たた ねば なら ん と いう の か ? 上等な 話 じゃ ない か ね 。 感涙 の 海 で 溺死 して しまい そうだ な 」

軍医 は 力なく 笑った 。

「 フォーク 准将 閣下 の 病気 を 治す 、 と いう 一 点 だけ に しぼれば 、 話 は そう なら ざる を えません 。 視野 を 全軍 の レベル に まで ひろげれば 、 おのずと べつの 解決 法 が ありましょう 」 「 その とおり 、 彼 が 辞めれば いい のだ 」

老 提督 の 口調 は きびしい 。

「 こう なって 、 むしろ さいわい かも しれ ん な 。 チョコレート を ほしがって 泣き わめく 幼児 と おなじ ていど の メンタリティー しか もた ん 奴 が 、 三〇〇〇万 将兵 の 軍 師 だ など と 知ったら 、 帝国 軍 の 連中 が 踊り だす だろう て 」

「…… とにかく 、 医学 以外 の 件 に かんし まして は 、 わたくし の 権限 では ありません 。 総 参謀 長 閣下 に かわります ので ……」 選挙 の 勝利 を 目的 と した 政治 屋 と 、 小児 性 ヒステリー の 秀才 型 軍人 と が 野合 して 、 三〇〇〇万 の 将兵 が 動員 さ れる こと に なった のだ 。 これ を 知って 、 なお 真剣に 戦おう と こころざす 者 は 、 マゾヒスティック な 自己 陶酔 家 か 、 よほど の 戦争 好き くらい の もの だろう 、 と 、 ビュコック は にがにがしく 考えた 。

「 提督 ……」

軍医 に かわって 通信 用 スクリーン に 登場 した の は 、 遠征 軍 総 参謀 長 グリーンヒル 大将 だった 。 端 整 な 紳士 的 容貌 に 、 憂い の 色 が 濃い 。

「 これ は 総 参謀 長 、 ご 多忙な ところ 恐縮 です な 」

皮肉 を 露骨に 言って も 憎ま れ ない ところ が 、 この 老 提督 の 人徳 であろう 。

グリーンヒル も 軍医 と おなじ 種類 の 笑い を 浮かべた 。

「 こちら こそ お 見苦しい ところ を お 見せ して 恐縮 です 。 フォーク 准将 は ただちに 休養 と いう こと に なりましょう 、 総 司令 官 の ご 裁可 が あり しだい です が ……」 「 で 、 第 一三 艦隊 から 具申 の あった 撤退 の 件 は いかがです か な 。 わし は 全面 的に 賛同 します ぞ 。 前線 の 兵士 は 戦える 状態 に ない のです 。 心理 的に も 肉体 的に も ……」

「 しばらく 、 お 待ち ください 。 これ も 総 司令 官 の ご 裁可 が 必要です 。 即答 でき かねる こと を ご 承知 いただきたい 」 ビュコック 中将 は 、 官僚 的 答弁 に うんざり した と いう 表情 を つくって みせた 。

「 非 礼 を 承知 で 申しあげる が 、 総 参謀 長 、 総 司令 官 に 直接 お 会い できる よう 、 とりはからって いただけません か な 」 「 総 司令 官 は 昼寝 中 です 」

老 提督 は 白い 眉 を しかめ 、 あわただしく まばたき した 。 それ から ゆっくり と 反問 した 。

「 なんと おっしゃった 、 総 参謀 長 ? 」 グリーンヒル 大将 の 返答 は 、 いっそ 荘重な ほど だった 。 「 総 司令 官 は 昼寝 中 です 。 敵 襲 以外 は おこす な 、 と の こと です ので 、 提督 の 要望 は 起床 後 に お 伝え します 。 どうか 、 それ まで お 待ち を 」

それ にたいして ビュコック は 返答 しよう と し なかった 。 視線 に とらえる の が 困難な ほど かすかに 両 眉 が 上下 動 する 。

「…… よろしい 、 よく わかり ました 」

感情 を 抑制 した 声 が 老 提督 の 口 から 発せ られた の は 、 ゆうに 一 分間 を 経過 して から だった 。

「 このうえ は 、 前線 指揮 官 と して 、 部下 の 生命 にたいする 義務 を 遂行 する まで です 。 お 手数 を おか けした 。 総 司令 官 が お 目ざめ の 節 は 、 よい 夢 を ごらん に なれた か 、 ビュコック が 気 に して いた 、 と お 伝え 願いましょう 」 「 提督 ……」

通信 は ビュコック の 側 から 切ら れた 。

灰 白色 の 平板 と 化した 通信 スクリーン の 画面 を 、 グリーンヒル は 重苦しい 表情 で 見つめて いた 。

Ⅳ 偵察 部隊 から の 報告 を 読み おえた ラインハルト は 、 ひと つ うなずく と 、 赤毛 の ジークフリード ・ キルヒアイス 中将 を 呼んで 重大な 任務 を あたえた 。 「 イゼルローン から 前線 へ 輸送 艦隊 が 派遣 さ れる 。 敵 の 生命 線 だ 。 お前 に あたえた 兵力 の すべて を あげて これ を たたけ 。 細部 の 運用 は お前 の 裁量 に まかせる 」

「 かしこまり ました 」

「 情報 、 組織 、 物資 、 いずれ も 必要な だけ 使って いい ぞ 」

一礼 して きび す を 返した キルヒアイス を 、 ラインハルト は 急に 呼びとめた 。 不審 そうに ふりむいた 親友 に 、 若い 元帥 は 言った 。

「 勝つ ため だ 、 キルヒアイス 」

彼 は 知っていた のだ 。 被 占領 地 の 民衆 を 餓え させる こと で 敵 の 手足 を 縛る と いう 辛辣な 戦法 に 、 キルヒアイス が 批判 的である こと を 。 彼 は 口 どころ か 表情 に さえ ださ なかった が 、 ラインハルト に は よく わかって いた 。 ジークフリード ・ キルヒアイス は そういう 人間 である と いう こと が 。

キルヒアイス が もう 一 度 礼 を して 去る と 、 ラインハルト は 残る 諸 将 に 告げた 。

「 キルヒアイス 提督 が 叛乱 軍 の 輸送 部隊 を 撃 滅 する と 同時に 、 わが 軍 は 全面 攻撃 に 転じる 。 その さい 、 偽 の 情報 を 流す 。 輸送 部隊 は 攻撃 を うけた が 無事だ 、 と 。 それ は 叛乱 軍 が 最後 の 希望 を 断た れ 、 窮 鼠 が 猫 を 嚙 む 挙 に でる こと を 防ぐ ため だ 。 と 同時に 、 彼ら にわ が 軍 の 攻勢 を 気づか せ ない ため で も ある 。 むろん 、 いつか は 気づく だろう が 、 遅い ほど よい 」

彼 は 自分 の 横 に すわって いる 男 を ちらり と 見た 。 以前 、 彼 の 傍 に いる の は 、 背 の 高い 赤毛 の 若者 に 決まって いた 。 現在 で は 半 白 の 頭髪 の 男 ―― オーベルシュタイン である 。 自分 で 決めた こと だ が 、 なお かるい 違和感 が あった 。

「 なお 、 わが 補給 部隊 は 被 占領 地 の 奪還 と 同時に 、 住民 に 食糧 を 供与 する 。 叛乱 軍 の 侵攻 に 対抗 する ため と は いえ 、 陛下 の 臣民 に 飢餓 状態 を しいた の は 、 わが 軍 の 本意 で は なかった 。 また これ は 、 辺境 の 住民 に 、 帝国 こそ が 統治 の 能力 と 責任 を もつ こと を 、 事実 に よって 知ら しめる うえ でも 必要な 処置 である 」

ラインハルト の 本心 は 、〝 帝国 〟 で は なく 彼 個人 が 人心 を える こと に あった 。 しかし 、 わざわざ この 場 で それ を 告げる 必要 は ない のだ 。

グレドウィン ・ スコット 提督 の ひきいる 同盟 軍 の 輸送 艦隊 は 、 一〇万 トン 級 輸送 艦 一〇〇 隻 、 護衛 艦 二六 隻 から なって いた 。 護衛 艦 の 数 に ついて 、 後方 主任 参謀 キャゼルヌ 少将 は 「 不足である 、 せめて 一〇〇 隻 」 と 主張 した が 、 却下 さ れた のだった 。

輸送 艦隊 を 狙う のに 帝国 軍 が それほど 大軍 を 動員 する と も 思え ない し 、 あまり 多数 の 艦 を 派遣 して は 総 司令 部 の 警備 が 手薄に なる 、 と いう の が 却下 の 理由 だった 。 前線 から はるか 遠く 、 しかも 難 攻 不 落 の 要塞 に いながら 、 なんという 言 種 か 。 キャゼルヌ は 腹 が たって しかたない 。

スコット 提督 は キャゼルヌ より ずっと 楽観 的だった 。 敵 に 用心 しろ 、 と の 、 出発 前 の キャゼルヌ の 注意 を 聞きながし 、 艦 橋 に も おら ず 、 個室 で 部下 を 相手 に 三 次元 チェス を 楽しんで いた のだ 。

血相 を 変えた 艦隊 参謀 の ニコルスキー 中佐 が 彼 を 呼び に きた とき 、 彼 は まさに 王手 を かけよう と して おり 、 不機嫌に 問いかけた 。

「 前線 で なに か あった の か ? 騒々しい ぞ 」

「 前線 です と ? 」 ニコルスキー 中佐 は 、 啞然 と した ように 司令 官 を 見かえした 。 「 ここ が 前線 です 。 あれ が お 見え に なりません か 、 閣下 」 彼 の 指先 で 、 艦 橋 の メイン ・ スクリーン に つながる 小さな パネル は 、 急激に 拡大 する 白い 光 の 雲 を 映しだして いた 。

スコット 提督 は 瞬間 、 声 を 失った 。 いかに 彼 でも 、 それ が 味方 だ と は 思わ なかった 。 驚く べき 敵 の 大 部隊 に 包囲 されて いる ! 「 こんな こと が …… 信じ られ ん 」

スコット は ようやく 声 を しぼりだした 。

「 たかが 輸送 艦隊 ひと つ に こんな 大軍 を …… なぜ だ ? 」 艦 橋 へ つづく 廊下 を 、 ニコルスキー の 運転 する 水素 動力 車 で 走りぬけ ながら 、 提督 は 愚か しく 問い つづけた 。 あなた は 自分 の 任務 の 意義 も 理解 して いない の か 、 と ニコルスキー が 言い かけた とき 、 廊下 の スピーカー から オペレーター の 叫び が はしった 。 「 敵 ミサイル 多数 、 本 艦 に 接近 ! 」 その 声 は 一瞬 後 、 悲鳴 そのもの に 変わった 。 「 対応 不能 ! 数 が 多 すぎる ! 」 帝国 軍 総 旗 艦 ブリュンヒルト ――。 通信 士官 が 座席 から たちあがり 、 興奮 に 上気 した 顔 を ラインハルト に むけた 。

「 キルヒアイス 提督 より 連絡 ! 吉報 です 。 敵 輸送 船団 は 全滅 、 くわえて 護衛 艦 二六 隻 を 完全 破壊 、 わが ほう の 損害 は 戦艦 中破 一 隻 、 ワルキューレ 一四 機 のみ ……」

歓声 が 艦 橋 全体 を 圧した 。 イゼルローン 陥落 以来 、 戦略 上 の 必要 から と は いえ 、 戦わ ず して 後退 を かさねて きた 帝国 軍 に とって 、 ひさびさの 勝利 の 快感 だった のだ 。

「 ミッターマイヤー 、 ロイエンタール 、 ビッテンフェルト 、 ケンプ 、 メックリンガー 、 ワーレン 、 ルッツ 、 かねて から の 計画 に したがい 、 総力 を もって 叛乱 軍 を 撃て 」

ラインハルト は 待機 する 諸 将 に 令 を 発した 。

はっ、 と 勢い よく 応じて 前線 に おもむこう と する 提督 たち を 、 ラインハルト は 呼びとめ 、 従 卒 に 命じて ワイン を 配ら せた 。

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第 八 章 死 線 (3) だい|やっ|しょう|し|せん

貴 官 は 自己 の 才能 を しめす のに 、 弁舌 で は なく 実績 を もって す べきだろう 。 とうと|かん||じこ||さいのう||||べんぜつ||||じっせき|||| 他人 に 命令 する ような こと が 自分 に は できる か どう か 、 やって みたら どう だ 」 たにん||めいれい|||||じぶん||||||||||

フォーク の やせた 顔 から 血 が ひいて ゆく 音 を 、 老 提督 は 聴いた ように 思った 。 ふぉーく|||かお||ち||||おと||ろう|ていとく||きいた|よう に|おもった つぎに 生じた 光景 は 、 ビュコック の 想像 で は なかった 。 |しょうじた|こうけい||||そうぞう||| 若い 参謀 将校 の 両眼 が 焦点 を 失い 、 狼狽 と 恐怖 が 顔面 いっぱい に ひろがった 。 わかい|さんぼう|しょうこう||りょうがん||しょうてん||うしない|ろうばい||きょうふ||がんめん||| 鼻 孔 が ふくらみ 、 口 が ゆがんだ 四 辺 形 に 開く 。 はな|あな|||くち|||よっ|ほとり|かた||あく 両手 が あがって その 顔 を 、 ビュコック の 視界 から 隠し 、 一 秒 ほど おいて うめき と も 悲鳴 と もつ か ない 声 が ひびいた 。 りょうて||||かお||||しかい||かくし|ひと|びょう||||||ひめい|||||こえ||

啞然 と して 見まもる ビュコック の 視線 の さき で 、 フォーク の 姿 は 通信 スクリーン の 画面 の 下 に 沈没 した 。 啞ぜん|||みまもる|||しせん||||ふぉーく||すがた||つうしん|すくりーん||がめん||した||ちんぼつ| かわって 右往左往 する 人影 が 映しださ れた が 、 この 間 、 事情 の 説明 は ない 。 |うおうさおう||ひとかげ||うつしださ||||あいだ|じじょう||せつめい||

「 どうした の だ 、 彼 は ? |||かれ| 」 「 さあ ……」 ビュコック の 傍 に ひかえて いた 副 官 クレメンテ 大尉 も 、 上官 の 疑問 に 答える こと が でき なかった 。 ||そば||||ふく|かん||たいい||じょうかん||ぎもん||こたえる|||| 二 分間 ほど 、 老 提督 は スクリーン の 前 に 待た さ れる こと に なった 。 ふた|ぶん かん||ろう|ていとく||すくりーん||ぜん||また|||||

やがて 軍医 の 白い 制服 を 身 に 着けた 壮年 の 男 が 画面 に あらわれ 、 敬礼 した 。 |ぐんい||しろい|せいふく||み||つけた|そうねん||おとこ||がめん|||けいれい|

「 ヤマムラ 軍医 少佐 です 。 |ぐんい|しょうさ| 現在 、 フォーク 准将 閣下 は 医務 室 で 加療 中 です が 、 その 事情 に ついて 私 が 説明 さ せて いただきます 」 げんざい|ふぉーく|じゅんしょう|かっか||いむ|しつ||かりょう|なか||||じじょう|||わたくし||せつめい||| どうも もったいぶって いる な 、 と ビュコック は 思う 。 |||||||おもう

「 どんな 病気 な の か ね 」 |びょうき||||

「 転換 性 ヒステリー 症 に よる 神経 性 盲目です 」 てんかん|せい||しょう|||しんけい|せい|もうもく です

「 ヒステリー だ と !?」

「 は あ 、 挫折 感 が 異常な 昂 奮 を ひきおこし 、 視 神経 が 一時的に マヒ する のです 。 ||ざせつ|かん||いじょうな|たかし|ふる|||し|しんけい||いちじてきに|まひ||の です 一五 分 も すれば また 見える ように なります が 、 このさき 、 何度 でも 発作 が おきる 可能 性 は あります 。 いちご|ぶん||||みえる|よう に||||なんど||ほっさ|||かのう|せい|| 原因 が 精神 的な もの です から 、 それ を とりさら ない かぎり は ……」 げんいん||せいしん|てきな|||||||||

「 それ に は どう する のだ ? 」 「 逆らって は いけません 。 さからって|| 挫折 感 や 敗北 感 を あたえて は いけません 。 ざせつ|かん||はいぼく|かん|||| 誰 も が 彼 の 言う こと に したがい 、 あらゆる こと が 彼 の 思う ように はこば なくて は なりません 」 だれ|||かれ||いう|||||||かれ||おもう|よう に|||| 「…… 本気で 言って る の か ね 、 軍医 ? ほんきで|いって|||||ぐんい 」 「 これ は わがまま いっぱい に 育って 自我 が 異常 拡大 した 幼児 に ときとして みられる 症状 です 。 |||||そだって|じが||いじょう|かくだい||ようじ||||しょうじょう| 善悪 が 問題 では ありません 。 ぜんあく||もんだい|| 自我 と 欲望 が 充足 さ れる こと だけ が 重要な のです 。 じが||よくぼう||じゅうそく||||||じゅうような|の です したがって 、 提督 方 が 非 礼 を 謝罪 なさり 、 粉 骨 砕 身 して 彼 の 作戦 を 実行 し 、 勝利 を えて 彼 が 賞 賛 の 的 と なる …… そう なって はじめて 、 病気 の 原因 が とりさら れる こと に なります 」 |ていとく|かた||ひ|れい||しゃざい||こな|こつ|くだ|み||かれ||さくせん||じっこう||しょうり|||かれ||しょう|さん||てき||||||びょうき||げんいん|||||| 「 ありがたい 話 だ な 」 |はなし||

ビュコック は 怒る 気 に も なれ なかった 。 ||いかる|き||||

「 彼 の ヒステリー を 治める ため に 、 三〇〇〇万 も の 兵士 が 死 地 に たた ねば なら ん と いう の か ? かれ||||おさめる|||みっ|よろず|||へいし||し|ち||||||||| 上等な 話 じゃ ない か ね 。 じょうとうな|はなし|||| 感涙 の 海 で 溺死 して しまい そうだ な 」 かんるい||うみ||できし|||そう だ|

軍医 は 力なく 笑った 。 ぐんい||ちからなく|わらった

「 フォーク 准将 閣下 の 病気 を 治す 、 と いう 一 点 だけ に しぼれば 、 話 は そう なら ざる を えません 。 ふぉーく|じゅんしょう|かっか||びょうき||なおす|||ひと|てん||||はなし|||||| 視野 を 全軍 の レベル に まで ひろげれば 、 おのずと べつの 解決 法 が ありましょう 」 しや||ぜんぐん||れべる||||||かいけつ|ほう|| 「 その とおり 、 彼 が 辞めれば いい のだ 」 ||かれ||やめれば||

老 提督 の 口調 は きびしい 。 ろう|ていとく||くちょう||

「 こう なって 、 むしろ さいわい かも しれ ん な 。 チョコレート を ほしがって 泣き わめく 幼児 と おなじ ていど の メンタリティー しか もた ん 奴 が 、 三〇〇〇万 将兵 の 軍 師 だ など と 知ったら 、 帝国 軍 の 連中 が 踊り だす だろう て 」 ちょこれーと|||なき||ようじ|||||||||やつ||みっ|よろず|しょうへい||ぐん|し||||しったら|ていこく|ぐん||れんちゅう||おどり|||

「…… とにかく 、 医学 以外 の 件 に かんし まして は 、 わたくし の 権限 では ありません 。 |いがく|いがい||けん|||||||けんげん|| 総 参謀 長 閣下 に かわります ので ……」 そう|さんぼう|ちょう|かっか||| 選挙 の 勝利 を 目的 と した 政治 屋 と 、 小児 性 ヒステリー の 秀才 型 軍人 と が 野合 して 、 三〇〇〇万 の 将兵 が 動員 さ れる こと に なった のだ 。 せんきょ||しょうり||もくてき|||せいじ|や||しょうに|せい|||しゅうさい|かた|ぐんじん|||やごう||みっ|よろず||しょうへい||どういん|||||| これ を 知って 、 なお 真剣に 戦おう と こころざす 者 は 、 マゾヒスティック な 自己 陶酔 家 か 、 よほど の 戦争 好き くらい の もの だろう 、 と 、 ビュコック は にがにがしく 考えた 。 ||しって||しんけんに|たたかおう|||もの||||じこ|とうすい|いえ||||せんそう|すき|||||||||かんがえた

「 提督 ……」 ていとく

軍医 に かわって 通信 用 スクリーン に 登場 した の は 、 遠征 軍 総 参謀 長 グリーンヒル 大将 だった 。 ぐんい|||つうしん|よう|すくりーん||とうじょう||||えんせい|ぐん|そう|さんぼう|ちょう||たいしょう| 端 整 な 紳士 的 容貌 に 、 憂い の 色 が 濃い 。 はし|ひとし||しんし|てき|ようぼう||うれい||いろ||こい

「 これ は 総 参謀 長 、 ご 多忙な ところ 恐縮 です な 」 ||そう|さんぼう|ちょう||たぼうな||きょうしゅく||

皮肉 を 露骨に 言って も 憎ま れ ない ところ が 、 この 老 提督 の 人徳 であろう 。 ひにく||ろこつに|いって||にくま||||||ろう|ていとく||じんとく|

グリーンヒル も 軍医 と おなじ 種類 の 笑い を 浮かべた 。 ||ぐんい|||しゅるい||わらい||うかべた

「 こちら こそ お 見苦しい ところ を お 見せ して 恐縮 です 。 |||みぐるしい||||みせ||きょうしゅく| フォーク 准将 は ただちに 休養 と いう こと に なりましょう 、 総 司令 官 の ご 裁可 が あり しだい です が ……」 ふぉーく|じゅんしょう|||きゅうよう||||||そう|しれい|かん|||さいか||||| 「 で 、 第 一三 艦隊 から 具申 の あった 撤退 の 件 は いかがです か な 。 |だい|かずみ|かんたい||ぐしん|||てったい||けん||いかが です|| わし は 全面 的に 賛同 します ぞ 。 ||ぜんめん|てきに|さんどう|| 前線 の 兵士 は 戦える 状態 に ない のです 。 ぜんせん||へいし||たたかえる|じょうたい|||の です 心理 的に も 肉体 的に も ……」 しんり|てきに||にくたい|てきに|

「 しばらく 、 お 待ち ください 。 ||まち| これ も 総 司令 官 の ご 裁可 が 必要です 。 ||そう|しれい|かん|||さいか||ひつよう です 即答 でき かねる こと を ご 承知 いただきたい 」 そくとう||||||しょうち| ビュコック 中将 は 、 官僚 的 答弁 に うんざり した と いう 表情 を つくって みせた 。 |ちゅうじょう||かんりょう|てき|とうべん||||||ひょうじょう|||

「 非 礼 を 承知 で 申しあげる が 、 総 参謀 長 、 総 司令 官 に 直接 お 会い できる よう 、 とりはからって いただけません か な 」 ひ|れい||しょうち||もうしあげる||そう|さんぼう|ちょう|そう|しれい|かん||ちょくせつ||あい|||||| 「 総 司令 官 は 昼寝 中 です 」 そう|しれい|かん||ひるね|なか|

老 提督 は 白い 眉 を しかめ 、 あわただしく まばたき した 。 ろう|ていとく||しろい|まゆ||||| それ から ゆっくり と 反問 した 。 ||||はんもん|

「 なんと おっしゃった 、 総 参謀 長 ? ||そう|さんぼう|ちょう 」 グリーンヒル 大将 の 返答 は 、 いっそ 荘重な ほど だった 。 |たいしょう||へんとう|||そうちょうな|| 「 総 司令 官 は 昼寝 中 です 。 そう|しれい|かん||ひるね|なか| 敵 襲 以外 は おこす な 、 と の こと です ので 、 提督 の 要望 は 起床 後 に お 伝え します 。 てき|おそ|いがい|||||||||ていとく||ようぼう||きしょう|あと|||つたえ| どうか 、 それ まで お 待ち を 」 ||||まち|

それ にたいして ビュコック は 返答 しよう と し なかった 。 ||||へんとう|||| 視線 に とらえる の が 困難な ほど かすかに 両 眉 が 上下 動 する 。 しせん|||||こんなんな|||りょう|まゆ||じょうげ|どう|

「…… よろしい 、 よく わかり ました 」

感情 を 抑制 した 声 が 老 提督 の 口 から 発せ られた の は 、 ゆうに 一 分間 を 経過 して から だった 。 かんじょう||よくせい||こえ||ろう|ていとく||くち||はっせ|||||ひと|ぶん かん||けいか|||

「 このうえ は 、 前線 指揮 官 と して 、 部下 の 生命 にたいする 義務 を 遂行 する まで です 。 ||ぜんせん|しき|かん|||ぶか||せいめい||ぎむ||すいこう||| お 手数 を おか けした 。 |てすう||| 総 司令 官 が お 目ざめ の 節 は 、 よい 夢 を ごらん に なれた か 、 ビュコック が 気 に して いた 、 と お 伝え 願いましょう 」 そう|しれい|かん|||めざめ||せつ|||ゆめ||||||||き||||||つたえ|ねがいましょう 「 提督 ……」 ていとく

通信 は ビュコック の 側 から 切ら れた 。 つうしん||||がわ||きら|

灰 白色 の 平板 と 化した 通信 スクリーン の 画面 を 、 グリーンヒル は 重苦しい 表情 で 見つめて いた 。 はい|はくしょく||へいばん||かした|つうしん|すくりーん||がめん||||おもくるしい|ひょうじょう||みつめて|

Ⅳ 偵察 部隊 から の 報告 を 読み おえた ラインハルト は 、 ひと つ うなずく と 、 赤毛 の ジークフリード ・ キルヒアイス 中将 を 呼んで 重大な 任務 を あたえた 。 ていさつ|ぶたい|||ほうこく||よみ||||||||あかげ||||ちゅうじょう||よんで|じゅうだいな|にんむ|| 「 イゼルローン から 前線 へ 輸送 艦隊 が 派遣 さ れる 。 ||ぜんせん||ゆそう|かんたい||はけん|| 敵 の 生命 線 だ 。 てき||せいめい|せん| お前 に あたえた 兵力 の すべて を あげて これ を たたけ 。 おまえ|||へいりょく||||||| 細部 の 運用 は お前 の 裁量 に まかせる 」 さいぶ||うんよう||おまえ||さいりょう||

「 かしこまり ました 」

「 情報 、 組織 、 物資 、 いずれ も 必要な だけ 使って いい ぞ 」 じょうほう|そしき|ぶっし|||ひつような||つかって||

一礼 して きび す を 返した キルヒアイス を 、 ラインハルト は 急に 呼びとめた 。 いちれい|||||かえした|||||きゅうに|よびとめた 不審 そうに ふりむいた 親友 に 、 若い 元帥 は 言った 。 ふしん|そう に||しんゆう||わかい|げんすい||いった

「 勝つ ため だ 、 キルヒアイス 」 かつ|||

彼 は 知っていた のだ 。 かれ||しっていた| 被 占領 地 の 民衆 を 餓え させる こと で 敵 の 手足 を 縛る と いう 辛辣な 戦法 に 、 キルヒアイス が 批判 的である こと を 。 おお|せんりょう|ち||みんしゅう||うえ||||てき||てあし||しばる|||しんらつな|せんぽう||||ひはん|てきである|| 彼 は 口 どころ か 表情 に さえ ださ なかった が 、 ラインハルト に は よく わかって いた 。 かれ||くち|||ひょうじょう||||||||||| ジークフリード ・ キルヒアイス は そういう 人間 である と いう こと が 。 ||||にんげん|||||

キルヒアイス が もう 一 度 礼 を して 去る と 、 ラインハルト は 残る 諸 将 に 告げた 。 |||ひと|たび|れい|||さる||||のこる|しょ|すすむ||つげた

「 キルヒアイス 提督 が 叛乱 軍 の 輸送 部隊 を 撃 滅 する と 同時に 、 わが 軍 は 全面 攻撃 に 転じる 。 |ていとく||はんらん|ぐん||ゆそう|ぶたい||う|めつ|||どうじに||ぐん||ぜんめん|こうげき||てんじる その さい 、 偽 の 情報 を 流す 。 ||ぎ||じょうほう||ながす 輸送 部隊 は 攻撃 を うけた が 無事だ 、 と 。 ゆそう|ぶたい||こうげき||||ぶじだ| それ は 叛乱 軍 が 最後 の 希望 を 断た れ 、 窮 鼠 が 猫 を 嚙 む 挙 に でる こと を 防ぐ ため だ 。 ||はんらん|ぐん||さいご||きぼう||たた||きゅう|ねずみ||ねこ||||きょ|||||ふせぐ|| と 同時に 、 彼ら にわ が 軍 の 攻勢 を 気づか せ ない ため で も ある 。 |どうじに|かれら|||ぐん||こうせい||きづか|||||| むろん 、 いつか は 気づく だろう が 、 遅い ほど よい 」 |||きづく|||おそい||

彼 は 自分 の 横 に すわって いる 男 を ちらり と 見た 。 かれ||じぶん||よこ||||おとこ||||みた 以前 、 彼 の 傍 に いる の は 、 背 の 高い 赤毛 の 若者 に 決まって いた 。 いぜん|かれ||そば|||||せ||たかい|あかげ||わかもの||きまって| 現在 で は 半 白 の 頭髪 の 男 ―― オーベルシュタイン である 。 げんざい|||はん|しろ||とうはつ||おとこ|| 自分 で 決めた こと だ が 、 なお かるい 違和感 が あった 。 じぶん||きめた||||||いわかん||

「 なお 、 わが 補給 部隊 は 被 占領 地 の 奪還 と 同時に 、 住民 に 食糧 を 供与 する 。 ||ほきゅう|ぶたい||おお|せんりょう|ち||だっかん||どうじに|じゅうみん||しょくりょう||きょうよ| 叛乱 軍 の 侵攻 に 対抗 する ため と は いえ 、 陛下 の 臣民 に 飢餓 状態 を しいた の は 、 わが 軍 の 本意 で は なかった 。 はんらん|ぐん||しんこう||たいこう||||||へいか||しんみん||きが|じょうたい||||||ぐん||ほんい||| また これ は 、 辺境 の 住民 に 、 帝国 こそ が 統治 の 能力 と 責任 を もつ こと を 、 事実 に よって 知ら しめる うえ でも 必要な 処置 である 」 |||へんきょう||じゅうみん||ていこく|||とうち||のうりょく||せきにん|||||じじつ|||しら||||ひつような|しょち|

ラインハルト の 本心 は 、〝 帝国 〟 で は なく 彼 個人 が 人心 を える こと に あった 。 ||ほんしん||ていこく||||かれ|こじん||じんしん||||| しかし 、 わざわざ この 場 で それ を 告げる 必要 は ない のだ 。 |||じょう||||つげる|ひつよう|||

グレドウィン ・ スコット 提督 の ひきいる 同盟 軍 の 輸送 艦隊 は 、 一〇万 トン 級 輸送 艦 一〇〇 隻 、 護衛 艦 二六 隻 から なって いた 。 |すこっと|ていとく|||どうめい|ぐん||ゆそう|かんたい||ひと|よろず|とん|きゅう|ゆそう|かん|ひと|せき|ごえい|かん|にろく|せき||| 護衛 艦 の 数 に ついて 、 後方 主任 参謀 キャゼルヌ 少将 は 「 不足である 、 せめて 一〇〇 隻 」 と 主張 した が 、 却下 さ れた のだった 。 ごえい|かん||すう|||こうほう|しゅにん|さんぼう||しょうしょう||ふそくである||ひと|せき||しゅちょう|||きゃっか|||

輸送 艦隊 を 狙う のに 帝国 軍 が それほど 大軍 を 動員 する と も 思え ない し 、 あまり 多数 の 艦 を 派遣 して は 総 司令 部 の 警備 が 手薄に なる 、 と いう の が 却下 の 理由 だった 。 ゆそう|かんたい||ねらう||ていこく|ぐん|||たいぐん||どういん||||おもえ||||たすう||かん||はけん|||そう|しれい|ぶ||けいび||てうすに||||||きゃっか||りゆう| 前線 から はるか 遠く 、 しかも 難 攻 不 落 の 要塞 に いながら 、 なんという 言 種 か 。 ぜんせん|||とおく||なん|おさむ|ふ|おと||ようさい||||げん|しゅ| キャゼルヌ は 腹 が たって しかたない 。 ||はら|||

スコット 提督 は キャゼルヌ より ずっと 楽観 的だった 。 すこっと|ていとく|||||らっかん|てきだった 敵 に 用心 しろ 、 と の 、 出発 前 の キャゼルヌ の 注意 を 聞きながし 、 艦 橋 に も おら ず 、 個室 で 部下 を 相手 に 三 次元 チェス を 楽しんで いた のだ 。 てき||ようじん||||しゅっぱつ|ぜん||||ちゅうい||ききながし|かん|きょう|||||こしつ||ぶか||あいて||みっ|じげん|||たのしんで||

血相 を 変えた 艦隊 参謀 の ニコルスキー 中佐 が 彼 を 呼び に きた とき 、 彼 は まさに 王手 を かけよう と して おり 、 不機嫌に 問いかけた 。 けっそう||かえた|かんたい|さんぼう|||ちゅうさ||かれ||よび||||かれ|||おうて||||||ふきげんに|といかけた

「 前線 で なに か あった の か ? ぜんせん|||||| 騒々しい ぞ 」 そうぞうしい|

「 前線 です と ? ぜんせん|| 」 ニコルスキー 中佐 は 、 啞然 と した ように 司令 官 を 見かえした 。 |ちゅうさ||啞ぜん|||よう に|しれい|かん||みかえした 「 ここ が 前線 です 。 ||ぜんせん| あれ が お 見え に なりません か 、 閣下 」 |||みえ||||かっか 彼 の 指先 で 、 艦 橋 の メイン ・ スクリーン に つながる 小さな パネル は 、 急激に 拡大 する 白い 光 の 雲 を 映しだして いた 。 かれ||ゆびさき||かん|きょう|||すくりーん|||ちいさな|ぱねる||きゅうげきに|かくだい||しろい|ひかり||くも||うつしだして|

スコット 提督 は 瞬間 、 声 を 失った 。 すこっと|ていとく||しゅんかん|こえ||うしなった いかに 彼 でも 、 それ が 味方 だ と は 思わ なかった 。 |かれ||||みかた||||おもわ| 驚く べき 敵 の 大 部隊 に 包囲 されて いる ! おどろく||てき||だい|ぶたい||ほうい|| 「 こんな こと が …… 信じ られ ん 」 |||しんじ||

スコット は ようやく 声 を しぼりだした 。 すこっと|||こえ||

「 たかが 輸送 艦隊 ひと つ に こんな 大軍 を …… なぜ だ ? |ゆそう|かんたい|||||たいぐん||| 」 艦 橋 へ つづく 廊下 を 、 ニコルスキー の 運転 する 水素 動力 車 で 走りぬけ ながら 、 提督 は 愚か しく 問い つづけた 。 かん|きょう|||ろうか||||うんてん||すいそ|どうりょく|くるま||はしりぬけ||ていとく||おろか||とい| あなた は 自分 の 任務 の 意義 も 理解 して いない の か 、 と ニコルスキー が 言い かけた とき 、 廊下 の スピーカー から オペレーター の 叫び が はしった 。 ||じぶん||にんむ||いぎ||りかい||||||||いい|||ろうか||すぴーかー||||さけび|| 「 敵 ミサイル 多数 、 本 艦 に 接近 ! てき|みさいる|たすう|ほん|かん||せっきん 」 その 声 は 一瞬 後 、 悲鳴 そのもの に 変わった 。 |こえ||いっしゅん|あと|ひめい|その もの||かわった 「 対応 不能 ! たいおう|ふのう 数 が 多 すぎる ! すう||おお| 」 帝国 軍 総 旗 艦 ブリュンヒルト ――。 ていこく|ぐん|そう|き|かん| 通信 士官 が 座席 から たちあがり 、 興奮 に 上気 した 顔 を ラインハルト に むけた 。 つうしん|しかん||ざせき|||こうふん||じょうき||かお||||

「 キルヒアイス 提督 より 連絡 ! |ていとく||れんらく 吉報 です 。 きっぽう| 敵 輸送 船団 は 全滅 、 くわえて 護衛 艦 二六 隻 を 完全 破壊 、 わが ほう の 損害 は 戦艦 中破 一 隻 、 ワルキューレ 一四 機 のみ ……」 てき|ゆそう|せんだん||ぜんめつ||ごえい|かん|にろく|せき||かんぜん|はかい||||そんがい||せんかん|ちゅうは|ひと|せき||いちし|き|

歓声 が 艦 橋 全体 を 圧した 。 かんせい||かん|きょう|ぜんたい||あっした イゼルローン 陥落 以来 、 戦略 上 の 必要 から と は いえ 、 戦わ ず して 後退 を かさねて きた 帝国 軍 に とって 、 ひさびさの 勝利 の 快感 だった のだ 。 |かんらく|いらい|せんりゃく|うえ||ひつよう|||||たたかわ|||こうたい||||ていこく|ぐん||||しょうり||かいかん||

「 ミッターマイヤー 、 ロイエンタール 、 ビッテンフェルト 、 ケンプ 、 メックリンガー 、 ワーレン 、 ルッツ 、 かねて から の 計画 に したがい 、 総力 を もって 叛乱 軍 を 撃て 」 ||||||||||けいかく|||そうりょく|||はんらん|ぐん||うて

ラインハルト は 待機 する 諸 将 に 令 を 発した 。 ||たいき||しょ|すすむ||れい||はっした

はっ、 と 勢い よく 応じて 前線 に おもむこう と する 提督 たち を 、 ラインハルト は 呼びとめ 、 従 卒 に 命じて ワイン を 配ら せた 。 ||いきおい||おうじて|ぜんせん|||||ていとく|||||よびとめ|じゅう|そつ||めいじて|わいん||くばら|