60. 泣いて ゐる お 猫 さん - 村山 籌子
泣いて ゐる お 猫 さん - 村山 籌子
1.
ある 所 に ちよ つと 、 慾 ば り なお 猫 さん が ありました 。 ある 朝 、 新聞 を 見ます と 、 写真 屋 さん の 広告 が 出て ゐま した 。 「 写真 屋 さん を はじめます 。 今日 写し に いら しつ た方 の 中 で 、 一 番 よく うつつ た方 の は 新聞 に のせて 、 ご ほうび に 一 円 五十 銭 差し上げます 。」 お 猫 さん は 鏡 を 見ました 。 そして 身体 中 の 毛 を こす つて ピカピカ に 光らしました 。 そして 、 お 隣 の あひる さん の 所 へ 行きました 。 2.
「 あひる さん 、 今日 は 。 すみません けど 、 リボン を 貸して 下さい な 。」 と 言 ひました 。 あひる さん は 、 リボン を 貸して くれて 、
「 お 猫 さん 、 どう か 、 なく なさ ないで ね 。」 と 言 ひました 。 お 猫 さん は 、 それ を 頭 の てつ ぺん に むすんで 、 写真 屋 さん へ でかけました 。 歩いて ゐる うち に 、
「 早く 行か ない と 、 お 客 さん が 一 杯 つめかけて 来て 、 うつして もら へ ない かも 分 ら ない 。」 と 思 ふと 、 胸 が ドキドキ して 歩いて ゐら れません 。 とい つて 、 猫 の 町 に は 円 タク は なし 、 仕方 が ない ので 、 大いそぎで かけ出しました 。 3.
写真 屋 さん へ 来ました 。 お 猫 さん は もう 一 度 鏡 の 前 で 、 身体 を コスリ 直しました 。 そして 、 頭 を 見ましたら 、 リボン が ありません 。 あんまり 走 つた ので 、 落して しま つ た のです 。
「 さあ 、 うつります よ 。 笑 つて 下さい 。」 と 、 写真 屋 の 犬 さん が 言 ひました けれども 、 リボン の こと を 考 へる と 、 笑 ひ どころ では ありません 。 今にも 泣き さ うな 顔 を しました 。 4.
写真 を うつして しま ふと 、 お 猫 さん は トボトボ と お家 へ 帰 つて 来て 、 鏡 を 見ました 。 涙 が ホツペタ を 流れて 、 顔 中 の 毛 が グシヤグシヤ に な つて ゐま した 。
「 これ ぢや あ 、 一 等 どころ か ビリツコ だ 。」 と 思 ふと 、 又 もや 涙 が 流れて 出ました 。 「 あひる さん の リボン を 買 つて か へ す に も お 金 は なし ……」 と 思 ふと 、 又 もや 涙 が 流れ出ました 。 ところが 、 あくる 日 、 お そる /\ 新聞 を 見ます と 、 「 泣いて ゐる お 猫 さん 。 一 等 」 と 大きな 活字 で 書いて ありました 。 お 猫 さん は とびあがる 程 よろこびました 。 そして 写真 屋 さん へ 行 つて 一 円 五十 銭 もら ひました 。 5.
お 猫 さん は それ を 大切に お 財布 に 入れて 、 あひる さん の 所 へ 行きました 。 行き ながら 、「 リボン 代 を この お 金 で 払 ふ ことにし や う 。 まあ 、 せいぜい 五十 銭 位 な もの だ から 、 一 円 は のこる 。」 と 思 ひました 。 6.
お 猫 さん は あひる さん に 言 ひました 。 「 どうか 、 リボン の お 値段 を 言 つて 下さい 。 遠慮 なく ほんとの 所 を 。」 と 言 ひました 。 あひる さん は 言 ひました 。 ほんとの 所 を 。 「 ほんとの 所 は あれ は 一 円 五十 銭 な んです の 。」
お 猫 さん は ぼんやり して しま ひました 。 けれども 仕方 ありません 。 一 円 五十 銭 あひる さん に 払 ひました 。 お 猫 さん の お 財布 の 中 に は 幾 銭 の こつ て ゐま す か ? 皆さん 、 計算 して ください 。