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悪人 (Villain) (1st Book), 第二章 彼は誰に会いたかったか?【6】

第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【6】

パチンコ 店 「 ワンダーランド 」 は 、 街道 沿い に 忽然 と ある 。

海 沿い の 県道 が 左 へ 大きく カーブ した 途端 、 下品で 巨大な 看板 が 現れ 、 その先 に バッキンガム 宮殿 を 貧相に 模した 店舗 が 建って いる 。 店舗 を 囲む 巨大な 駐車 場 の 門 は 、 パリ の 凱旋 門 を 模して 作られて おり 、 入口 に は 自由 の 女神 が 立って いる 。 誰 が 見て も 醜悪な 建物 だ が 、 市 内 の パチンコ 屋 に 比べる と 、 出 玉 の 確率 が 高い ので 、 週 末 は もちろん 、 平日 でも 大きな 駐車 場 に は 、 まるで 砂糖 に たかる 蟻 の ように 、 多く の 車 が 停められて いる 。 二 階 の スロットマシンフロア で 、 柴田 一二三 は 残り 数 十 枚 と なった コイン を ねじり 込む ように 投入 口 へ 押し込んで いた 。

狙って いた 台 に 先客 が おり 、 仕方なく 選んだ 台 で 、 手持ち の コイン が なくなったら やめよう と 決めて いた 。

三十 分 ほど 前 、 一二三 は 祐一 に メール を 送った 。

「 今 、 ワンダー に おる 。 仕事 帰り に ちょっと 寄ら ん や ? 」 と 送る と 、 すぐに 「 分かった 」 と いう 短い 返信 が あった 。

一二三 と 祐一 は 幼なじみ で 、 以前 は 両親 と 一緒に 祐一 と 同じ 地区 に 住んで いた のだ が 、 中学 を 卒業 する 半年 ほど 前 に 小さな 家 と 土地 を 売って 、 今では 市 内 の 賃貸 マンション に 暮らして いる 。

もちろん 埋め立て で 海岸 線 を 奪わ れた 漁港 に 近い 土地 が 高く 売れる はず も ない のだ が 、 当時 一二三 の 父親 が ギャンブル で 借金 を こしらえ 、 その 抵当 に 取ら れた 挙げ句 、 六 畳 二 間 の 今 の マンション へ 夜逃げ 同然 で 引っ越した のだ 。

引っ越して から も 連絡 を 取り合った の は 祐一 だけ で 、 その後 も 付き合い は 続いて いる 。

一緒に いて も 、 祐一 は 冗談 一 つ 言わ ず 、 決して 面白い 男 で は ない 。

一二三 に も それ は 分かって いる のだ が 、 なぜ か 未 だに 付き合い が 続いて いる のだ 。

あれ は 三 年 ほど 前 だった か 、 当時 付き合って いた 女 を 乗せて 、 平戸 へ ドライブ した 帰り 、 とつぜん 車 が エンコ した 。

JAF を 呼ぶ 金 も なく 、 何 人 か の 知り合い に 連絡 を 入れて みた もの の 、 忙しい だの 、 知った こと か だの 、 全員 つれない 。 そんな 中 、 唯一 、 牽引 ロープ 持参 で 助け に 来て くれた の が 祐一 だった 。

「 すま ん な 」 と 一二三 は 謝った 。

祐一 は 無表情で ロープ を 結び ながら 、「 どうせ 家 で 寝 とった だけ やけん 」 と 言った 。

牽引 して もらう 車 に 女 を 乗せる わけに も いか ず 、 祐一 の 車 の 助手 席 に 乗せた 。

付き合い の ある 整備 工場 まで 引いて もらって 、 祐一 と は あっさり と そこ で 別れた 。

祐一 の 車 を 見送る 女 に 、「 よか 男 やろ が ? 」 と カマ を かける と 、「 車 の 中 で ぜんぜん 喋ら ん と や もん 。 お礼 言って も 、『 ああ 』って 無愛想に 頷く だけ やし ……、 なんか 、 息 つまった 」 と 笑って いた 。 実際 そういう 男 だった 。

最後 の 十 数 枚 の ところ で 、 スロットマシン に 当たり が 出 始めた 。

一二三 は 混 んだ 店 内 を 見渡し 、 珈琲 の サービス を して いる ミニスカート の 店員 を 探した 。

入口 の ほう へ 顔 を 向けた とき 、 螺旋 階段 を 上がって くる 祐一 の 姿 を 見つけた 。

手 を 挙げて 合図 を 送る と 、 すぐに 気づいて 狭い 通路 を 歩いて くる 。

現場 帰り な ので 汚れた 紺 の ニッカボッカ に 、 同じく 紺色 の ドカジャン を ひっかけて いる のだ が 、 ジッパー の 隙間 から 派手な ピンク 色 の トレーナー が ちらっと 見える 。

祐一 は 隣 の 席 に 腰 を 下ろす と 、 一 階 で 買って きた らしい 缶 珈琲 を 開けた 。

祐一 が ポケット から 千 円 札 を 一 枚 出し 、 何も 言わ ず に 横 の 台 で 打ち 始める 。

近く に 来る と 、 祐一 の 臭い が 鼻 に つく 。

夏場 と 違って 汗 臭い と いう ので は ない 。 土埃 と いう か セメント と いう か 、 とにかく 廃屋 に 漂って いる ような 臭い だ 。

「 三瀬 峠 で 、 事件 の あった と 知っと る や ? 祐一 が とつぜん 口 を 開いた の は 、 あっという間 に 千 円 分 を すった ころ だった 。

「 女の子 が 殺さ れたら しか な 」

祐一 が 横 に 座って から 、 急に 調子 が 良く なって いた 一二三 は 、 顔 も 動かさ ず に 答えた 。

訊 いて きた の は 自分 の くせ に 、 祐一 が いつも の ように 黙り 込む 。

「 あれ 、 出会い 系 と か で けっこう 男 たち 引っ掛け とったら しか ぞ 。 今日 、 テレビ で そう 言い よった けど 」

一二三 が ボタン を 押し ながら 会話 を 繋ぐ と 、「 すぐ 見つかる さ ね ? 」 と 祐一 が 訊 いて くる 。

「 見つかるって ? 「……」

「 犯人 や ? 「……」

「 すぐ 見つかる さ 。 電話 会社 で 調べれば 、 すぐに 履歴 も 分かる や ろうし 」

この とき 、 一二三 は 祐一 の ほう を 一 度 も 見 ず に 喋り 続けて いた 。

三十 分 ほど スロット を 打ち 、 一二三 と 祐一 は 店 を 出た 。

結局 、 一二三 が 一万五千 円 、 祐一 が 二千 円 の 負け だった 。

すでに 日 は 落ち 、 駐車 場 を 強い ライト が 照らして いた 。

足元 に 二 人 の 濃い 影 が 伸び 、 ときどき パーキング の 白線 と 交わる 。

祐一 と 違って まったく 車 に 興味 の ない 一二三 は 、 安い 軽 自動車 に 乗って いた 。

鍵 を 開ける と 、 祐一 が すぐに 助手 席 に 乗り込んで くる 。

一二三 は ふと 空 を 見上げた 。

波 の 音 が 空 から 落ちて きた ように 聞こえた のだ 。 普段 なら 満天 の 星空 な のだ が 、 今夜 は 金星 だけ が 瞬いて いる 。 雨 で も 降る のだろう か と 一二三 は 思った 。

海 沿い の 県道 を 祐一 の 家 へ 向かい ながら 、 一二三 は なかなか 職 が 見つから ない と 愚痴 を こぼした 。

実際 、 この 日 も 午前 中 は ハローワーク で 過ごし 、 顔見知り に なった 若い 女子 事務 員 を 、「 今度 、 飲み に 行こう 」 と 求人 募集 を チェック し ながら 誘って いた 。

結局 、 仕事 も なく 、 誘い も 断ら れた が 、 午前 中 いっぱい を ハローワーク で 過ごした こと で 、「 やろう と 思えば 仕事 なんて いくら で も ある 」 と いう 楽観 的な 気持ち に なって いた 。

ラジオ から 流れて いた 曲 が 終わって 、 短い ニュース 番組 が 始まった 。

真っ先 に 三瀬 峠 で の 事件 が 伝えられる 。 助手 席 に 乗り込んだ きり 、 まったく 口 を 開か ない 祐一 に 、「 三瀬って いえば さ ……」 と 一二三 は 声 を かけた 。 外 を 眺めて いた 祐一 が 、 狭い 車 内 で 少し 身 を 引く ように して 振り返る 。

「…… 覚え とる や ? ほら 、 前 に 俺 が あそこ で 幽霊 見たって 話 」 急 カーブ で ハンドル を 切り ながら 一二三 は 言った 。 祐一 の からだ が その 反動 で ぺったり と ドア に はりつく 。 「 ほら 、 前 に 博多 の 会社 の 面接 に 行った 帰り 、 一 人 で 峠 越え し よったら 、 急に ライト が 消えて さ 。

ビビって すぐに 車 停めて 、 もう 一 回 エンジン かけ 直し よったら 、 助手 席 に 血まみれの 男 が 乗っとったって 話 。 覚え とら ん や ? のろのろ と 道 の 真ん中 を 走って いる カブ を 煽り ながら 、 一二三 は ちらっと 祐一 に 目 を 向けた 。

「 あれ 、 マジ で ビビった けん ね 。 エンジン は かから ん し 、 助手 席 に 血まみれの 男 は 座っと る し 、 たぶん 、 俺 、 悲鳴 上げ ながら キー 回し とった と 思う 」 そう 言い ながら 、 一二三 が 自分 で 自分 の 話 に 笑って いる と 、 祐一 は 、「 早う 、 抜け 」 と 前 の カブ を 顎 で しゃくった 。 あの 夜 、 一二三 が 峠 を 越えた の は 、 夜 八 時 を 回った ころ だった 。

博多 で 、 あれ は 何の 会社 だった か 、 面接 を 受け 、「 こりゃ 、 駄目だ な 」 と 落胆 した 足 で 、 天神 の ヘルス へ 行った 。 どちら か と 言えば 、 会社 の 面接 より も 、 ヘルス 選び の ほう に 力 が 入って いた と 思う 。

とにかく ヘルス で 一 発 抜いて 、 ラーメン を 食べた あと 、 車 で 峠 に 差しかかった 。

まだ 八 時 を 回った ばかりな のに 、 峠 道 に は 先 を 行く 車 は おろか 、 すれ違う 車 も なかった 。

正直 、 車 の ライト に 青白く 照らし出さ れる 藪 や 林 が 不気味で 、 こんな こと なら 節約 せ ず に 高速 を 使う べきだった と 後悔 して いた 。

たった 一 人きり の 車 内 で 紛らわし に 声 を 張り上げて 歌って みて も 、 逆に その 声 が 周囲 の 林 に すっと 吸い込まれて いく 。 真っ暗な 山中 で 、 命綱 と も いえる ライト の 調子 が おかしく なった の は 、 いよいよ 峠 の 山頂 に さしかかった ころ で 、 最初 、 自分 の 目 が おかしく なった の か と 一二三 は 思った 。

次の 瞬間 、 点滅 する ライト の 中 を 、 すっと 黒い 何 か が 通った 。 一二三 は 慌てて ブレーキ を 踏み 、 必死に ブレ る ハンドル に しがみついた 。

ライト が 完全に 消えた の は その とき だった 。

フロント ガラス の 先 は 、 まるで 目 を 閉じて いる ような 暗闇 で 、 エンジン は かかって いる のに 、 車 を 取り囲む 森 の 中 で 、 耳 を 塞ぎ たく なる ほど 虫 の 声 が 高く なる 。

冷房 は ギンギン に 入れて いた のに 、 どっと 汗 が 噴き出した 。

汗 と いう より も 、 ぬるい お 湯 を 全身 に 浴びせられた ようだった 。 その 瞬間 、 車体 が 一 度 大きく 揺れて 、 エンジン が 止まった 。

助手 席 に 何 か が いる の を 感じた の は その とき だった 。 恐怖 は 人間 の 視野 を 狭める 。 横 を 向け ない 。 振り向け ない 。 前 だけ しか 見られ なく なる のだ 。 かけ 直そう と した エンジン が かから なかった 。

一二三 は 悲鳴 を 上げた 。 横 に 何 か が いる の は 分かって いる 。 ただ 、 それ が 何 な の か 分から なかった 。

「…… もう 苦 しか 」

助手 席 から 、 ふと 男 の 声 が した 。

一二三 は 自分 の 悲鳴 で 耳 を 塞いだ 。 エンジン は かから ない 。

「…… もう 無理 ばい 」

横 で 男 の 声 が する 。

一二三 は 逃げ出そう と ドア に 手 を かけた 。

その 瞬間 、 窓 ガラス に 血まみれの 男 が 映った 。

男 は こちら を じっと 見つめて いた 。

玄関 で 物音 が して 、 房枝 は ちらっと 時計 を 見 遣 り 、 ぼんやり と 見つめて いた 茶 封筒 を 慌てて エプロン の ポケット に 押し込んだ 。

封筒 に は 「 領収 書 在中 」 と 書いて ある 。

房枝 は 椅子 に 座った まま 、 ガス レンジ に 手 を 伸ばし 、 あら かぶ の 煮付け を 温め 直した 。

「 おじゃま しま ー す 」

明るい 一二三 の 声 が 聞こえて きた の は その とき で 、 房枝 は 立ち上がる と 、「 あら 、 一二三 くん と 一緒 やった と ね ? と 声 を 返し ながら 廊下 へ 出た 。

さっさと 靴 を 脱いだ 一二三 が 、 祐一 を 押しのける ように 上がって きて 、「 おばさん 、 なんか 旨 そうな 匂い や ねぇ 」 と 台所 を 覗き込んで くる 。

「 何も 食べ とら ん と ? すぐ 用意 して やる けん 、 祐一 と 一緒に 食べ ん ね 」

房枝 の 言葉 に 、 一二三 が 嬉し そうに 、「 食べる 。 食べる 」 と 何度 も 頷く 。

「 パチンコ ね ? 房枝 は 鍋 に 蓋 を した 。

「 いや 、 スロット 。 でも ぜんぜん 駄目 。 また 損した よ 」

「 いくら ? 房枝 の 質問 に 、 一二三 が 「 一万五千 円 」 と 指 で 示して 見せる 。

房枝 は 祐一 が 一二三 と 一緒に 帰って きた こと で 、 どこ か 気分 が 軽く なった 。

三瀬 峠 で 起きた と いう 事件 と 祐一 が まったく 無関係である こと は 分かって いた が 、 昼 前 に やってきた 刑事 に 、「 日曜日 、 祐一 は 出かけて ない 」 と 、 咄嗟に 嘘 を ついて しまった こと で 、 実際 は 無関係な のに 、 妙な しこり が 残って いた のだ 。

祐一 が あの 夜 、 車 で 出かけた の は 間違い なかった 。

ただ 、 岡崎 の ばあさん が 、「 祐一 は 出かけて いない 」 と 証言 した のだ から 、 出かけた と して も そう 長い 時間 で は ない はずだ 。 以前 、 祐一 が 勝治 を 病院 に 送った とき も そう だ 。 あの ばあさん は 、 祐一 の 車 が 一 、 二 時間 なくて も その 日 は 出かけて いない と 言う 癖 が ある 。 「 一二三 くん 、 日曜日 も 祐一 と 一緒 やった と やろ ? 房枝 は 当の 祐一 が 二 階 へ 上がった の を 確認 して から 尋ねた 。

鍋 に 入った あら かぶ の 煮付け を 覗き込み ながら 、「 日曜 ? 」 と 首 を 捻った 一二三 が 、

「 俺 は 一緒じゃ なかった けど ……、 ああ 、 整備 屋 に 行っとった んじゃ ない 。 なんか 車 の 部品 、 また 換えるって 言い よった し 」 と 答えて 鍋 に 手 を 突っ込む 。 「 ほら 、 すぐ 用意 して やる けん 」 と 房枝 は その 手 を 叩いた 。

素直に 手 を 引っ込めた 一二三 が 、「 刺身 ない と ? 」 と 、 今度 は 冷蔵 庫 を 開ける 。

一二三 の 分 の 食事 だけ を 先 に 用意 して 、 房枝 は 夕方 畳んだ 洗濯物 を 二 階 の 祐一 の 部屋 へ 運んだ 。

ドア を 開ける と 、 ベッド に 寝 転がって いた 祐一 が 、「 すぐ 降りて く けん 」 と 無愛想に 呟く 。

房枝 は 持ってきた 洗濯物 を 古い タンス の 引き出し に 入れた 。

この タンス は 祐一 が 母親 と 一緒に ここ へ 来た とき から 使って いる もの で 、 引き出し の 取っ手 が 熊 の 顔 に なって いる 。

「 今日 、 警察 の 来た と よ 」

房枝 は わざと 祐一 の 顔 を 見 ず に 、 洗濯物 を 押し込み ながら 告げた 。

「 あんた 、 福岡 に 文通 し よる 女の子 が おる とって ? もう 知っと る やろう けど 、 その 子 が ほら 、 日曜日 に 亡くなった と やろ ? 房枝 は そこ で 初めて 祐一 へ 目 を 向けた 。

祐一 は 頭 だけ を 起こして こちら を 見て いた 。 表情 は なく 、 何 か 他の こと を 考えて いる ようだった 。

「 知っと る と やろ ? その 女の子 が ほら ……」

房枝 が 改めて 尋ねる と 、「 知っと る よ 」 と 祐一 が ゆっくり と 口 を 動かす 。 「 あんた 、 その 子 に 会った こと ある と ね ?

文通 だけ やった と ね ? 「 なんで ? 「 なんでって 、 会った こと ある なら 、 お 葬式 くらい 行った ほう が いい んじゃ ない か と 思う て さ 」 「 葬式 ? 「 そう よ 。 文通 だけ なら そこ まで する こと ない けど 、 会う たこ と ある なら ……」

「 会う たこ と ない よ 」

こちら に 向けられた 祐一 の 靴下 の 裏 が 指 の 形 で 汚れて いた 。 祐一 は じっと こちら を 見て いる 。 房枝 の 背後 に 誰 か が 立って いる ような 視線 だった 。

「 どこ の 誰 か 知ら ん けど 、 世の中 に は 惨 たらし かこ と する 人 も おる もん や ねぇ 。

…… 警察 の 人 の 話 じゃ 、 もう 犯人 は 分 かっとって 、 その 人 が 今 、 逃げ回り よる けん 、 必死で 探し よる みたい やけど 」 房枝 の 言葉 に 、 むくっと 祐一 が 起き上がった 。 体重 で ベッド の パイプ が 軋む 。

「 犯人 、 もう 分かっと る と ? 「 らしい よ 。 駐在 さん が そう 言い よった 。 ただ 、 どっか に 逃げて し も うて 、 まだ 見つから んって 」 「 それって 、 あの 大学生 ? 「 大学生 ? 「 ほら 、 テレビ で 言い よる やろ ? 食いついて くる ような 祐一 の 物言い に 、「 ああ 、 やっぱり この 子 は 事件 の こと を 知っていた のだ 」 と 房枝 は 確信 した 。

「 警察 が 本当に そう 言う た と ? その 大学生 が 犯人って 」 祐一 に 訊 かれ 、 房枝 は 頷いた 。 祐一 と 殺さ れた 女性 が どこ まで 親しかった の か 知ら ない が 、 犯人 へ の 憎しみ ぐらい は 分かる 。

「 すぐに 捕まる さ 。 そう 、 逃げ 切れる もん ね 」

房枝 は 慰める ように 言った 。

ベッド から 立ち上がった 祐一 の 顔 が 紅潮 して いた 。

よほど 憎い のだろう と 思った が 、 どちら か と 言えば 、 犯人 が 分かった こと に 安堵 して いる ように も 見える 。

「 そう いえば 、 あんた 、 この 前 の 日曜日 、 どこ に 出かけた と ね ? 夜 、 ちょ ろっと 出かけ とった ろ ? 「 日曜 ? 「 また 車 の 整備 工場 やろ 」

房枝 の 断定 的な 言い 方 に 、 祐一 が 頷く 。

「 警察 に 訊 かれた と よ 。 一応 、 その 女の子 の 知り合い 全員 に 訊 いて 回り よる とって 。 岡崎 の ばあさん が 祐一 は どこ に も 出かけ とら んって 言う た らしくて 、 嘘 つく つもりじゃ なかった ばって ん 、 私 も そう やろって 答え とった よ 。 岡崎 の ばあちゃん は 一 、 二 時間 、 車 で 出かけて も 、 出かけた うち に は 入ら ん けん ねぇ 。 ところで 、 ごはん は 風呂 に 入って から 食べる と やろ ? 房枝 は 一方的に そこ まで 言う と 、 返事 も 待た ず に 部屋 を 出た 。

階段 を 下りた ところ で 振り返り 、 二 階 を 見上げた 。 夫 の 勝治 が からだ を 壊し 、 入 退院 を 繰り返して いる 今 、 自分 が 頼れる の は 祐一 しか いない のだ と 、 ふと 思う 。 実の 娘 だろう が 、 父親 の 見舞い に も 来 ない 長女 は もちろん 、 祐一 の 母 である 次女 を 当て に できる はず も ない 。

房枝 は エプロン の ポケット から 、 一 通 の 茶 封筒 を 取り出した 。

中 に は 一 枚 の 領収 書 が 入って いる 。

〈 品 代 漢方 薬 一式 合計 ¥263500〉

公民 館 に 健康 セミナー の 講師 と して 来て いた 堤 下 に 、「 市 内 の 事務 所 に くれば 、 安く 漢方 薬 を 分けて 上げられる 」 と 言わ れ 、 勝治 の 病院 へ 行った 帰り に 、 興味 半分 で 寄った の は 昨日 の こと だった 。 買う つもり など なかった 。

病院 と 家 と の 往復 に 疲れ 、 堤 下 の 笑い話 でも 聞く つもりで 寄った だけ だった のに 、 乱暴な 口 を きく 若い 男 たち に 囲ま れ 、 契約 書 に サイン さ せられた 。 今 は お 金 が ない と 涙声 で 訴える と 、 男 たち は 房枝 を 無理やり 郵便 局 まで 連れて いった 。

あまりに も 恐ろしくて 、 助け も 呼べ なかった 。 房枝 は 監視 さ れた まま 、 なけなし の 貯金 を 下ろす しか なかった 。

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第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【6】 だい|ふた|しょう|かれ||だれ||あい|| Kapitel 2 Wen wollte er treffen? [6 Chapter 2 Who Did He Want to See? [6 Capítulo 2 ¿A quién quería conocer? [6 제2장 그는 누구를 만나고 싶었나 [6]? Kapitel 2: Vem missade han [6]? 第2章 他想见谁? [6] 第 2 章 他想见谁?[6

パチンコ 店 「 ワンダーランド 」 は 、 街道 沿い に 忽然 と ある 。 ぱちんこ|てん|||かいどう|ぞい||こつぜん|| pachinko||Wonderland||street|||suddenly|| |||||||突然|| The pachinko parlor 'Wonderland' suddenly appears along the highway.

海 沿い の 県道 が 左 へ 大きく カーブ した 途端 、 下品で 巨大な 看板 が 現れ 、 その先 に バッキンガム 宮殿 を 貧相に 模した 店舗 が 建って いる 。 うみ|ぞい||けんどう||ひだり||おおきく|かーぶ||とたん|げひんで|きょだいな|かんばん||あらわれ|そのさき||ばっきんがむ|きゅうでん||ひんそうに|もした|てんぽ||たって| |||prefectural road|||||||moment|tacky|huge|sign||appeared|||Buckingham|palace||shabbily|mimicked|store||standing| |||||||||||下品な|||||||バッキンガム宮殿|||貧相に|模倣した|||| As the coastal prefectural road makes a sharp turn to the left, a gaudy and gigantic sign appears, and ahead is a poorly constructed establishment resembling Buckingham Palace. 店舗 を 囲む 巨大な 駐車 場 の 門 は 、 パリ の 凱旋 門 を 模して 作られて おり 、 入口 に は 自由 の 女神 が 立って いる 。 てんぽ||かこむ|きょだいな|ちゅうしゃ|じょう||もん||ぱり||がいせん|もん||もして|つくら れて||いりぐち|||じゆう||めがみ||たって| store||surround|||||||Paris||triumph|||modeled|made|||||||goddess||| ||||||||||||||||||||||女神||| The gates of the enormous parking lot surrounding the store are modeled after the Arc de Triomphe in Paris, with the Statue of Liberty standing at the entrance. 誰 が 見て も 醜悪な 建物 だ が 、 市 内 の パチンコ 屋 に 比べる と 、 出 玉 の 確率 が 高い ので 、 週 末 は もちろん 、 平日 でも 大きな 駐車 場 に は 、 まるで 砂糖 に たかる 蟻 の ように 、 多く の 車 が 停められて いる 。 だれ||みて||しゅうあくな|たてもの|||し|うち||ぱちんこ|や||くらべる||だ|たま||かくりつ||たかい||しゅう|すえ|||へいじつ||おおきな|ちゅうしゃ|じょう||||さとう|||あり|||おおく||くるま||とめ られて| ||||ugly||||||||||||payout|||probability||||||||||||||||sugar||swarming||||||cars||parked| 二 階 の スロットマシンフロア で 、 柴田 一二三 は 残り 数 十 枚 と なった コイン を ねじり 込む ように 投入 口 へ 押し込んで いた 。 ふた|かい||||しばた|ひふみ||のこり|すう|じゅう|まい||||||こむ||とうにゅう|くち||おしこんで| |||slot machine floor||Shibata|123||||dozens||||coin||twist|pressed||insert|||pushed| |||スロットマシンフロア|||Shibata Ichinisan||||||||||||||||| On the second floor of the slot machine area, Kazuhiko Shibata was pushing coins into the slot as if twisting them in, with just a few dozen left.

狙って いた 台 に 先客 が おり 、 仕方なく 選んだ 台 で 、 手持ち の コイン が なくなったら やめよう と 決めて いた 。 ねらって||だい||せんきゃく|||しかたなく|えらんだ|だい||てもち|||||||きめて| ||||previous customer|||||slot machine||on hand||||disappears|||| A prior customer was at the machine he was aiming for, so he had no choice but to pick another machine and decided he would stop when his remaining coins ran out.

三十 分 ほど 前 、 一二三 は 祐一 に メール を 送った 。 さんじゅう|ぶん||ぜん|ひふみ||ゆういち||めーる||おくった ||||123|||||| About thirty minutes ago, Kazuhiko sent an email to Yuichi.

「 今 、 ワンダー に おる 。 いま||| |wonder|| I'm at Wonder right now. 仕事 帰り に ちょっと 寄ら ん や ? しごと|かえり|||よら|| ||||stop by|| Are you going to stop by a little after work? 」 と 送る と 、 すぐに 「 分かった 」 と いう 短い 返信 が あった 。 |おくる|||わかった|||みじかい|へんしん|| ||||||||reply|| After sending that, I immediately received a short reply saying, 'Got it.'

一二三 と 祐一 は 幼なじみ で 、 以前 は 両親 と 一緒に 祐一 と 同じ 地区 に 住んで いた のだ が 、 中学 を 卒業 する 半年 ほど 前 に 小さな 家 と 土地 を 売って 、 今では 市 内 の 賃貸 マンション に 暮らして いる 。 ひふみ||ゆういち||おさななじみ||いぜん||りょうしん||いっしょに|ゆういち||おなじ|ちく||すんで||||ちゅうがく||そつぎょう||はんとし||ぜん||ちいさな|いえ||とち||うって|いまでは|し|うち||ちんたい|まんしょん||くらして| ||||childhood friend||||||||||neighborhood|||||||||||||||||land|||||||rented|||living| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||rental||||

もちろん 埋め立て で 海岸 線 を 奪わ れた 漁港 に 近い 土地 が 高く 売れる はず も ない のだ が 、 当時 一二三 の 父親 が ギャンブル で 借金 を こしらえ 、 その 抵当 に 取ら れた 挙げ句 、 六 畳 二 間 の 今 の マンション へ 夜逃げ 同然 で 引っ越した のだ 。 |うめたて||かいがん|せん||うばわ||ぎょこう||ちかい|とち||たかく|うれる||||||とうじ|ひふみ||ちちおや||ぎゃんぶる||しゃっきん||||ていとう||とら||あげく|むっ|たたみ|ふた|あいだ||いま||まんしょん||よにげ|どうぜん||ひっこした| |reclamation||coast|||||||||but|||||||||||father||gambling||debt|object marker|accumulated||collateral||||to make matters worse||||||||||fleeing at night|as if||| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||逃げた|同然のように||| Of course, the land near the fishing port, which was deprived of its coastline due to landfill, couldn't possibly be sold for a high price. However, at that time, Hifumi's father had gotten into debt through gambling, and as a result of it being taken as collateral, they moved to their current six-tatami mat apartment almost like a night escape.

引っ越して から も 連絡 を 取り合った の は 祐一 だけ で 、 その後 も 付き合い は 続いて いる 。 ひっこして|||れんらく||とりあった|||ゆういち|||そのご||つきあい||つづいて| |||||kept in touch||||||||||| Even after moving, the only one he kept in touch with was Yuichi, and their relationship continued after that.

一緒に いて も 、 祐一 は 冗談 一 つ 言わ ず 、 決して 面白い 男 で は ない 。 いっしょに|||ゆういち||じょうだん|ひと||いわ||けっして|おもしろい|おとこ||| Even when they were together, Yuichi never made a single joke; he was definitely not an interesting man.

一二三 に も それ は 分かって いる のだ が 、 なぜ か 未 だに 付き合い が 続いて いる のだ 。 ひふみ|||||わかって||||||み||つきあい||つづいて|| |||||||||||still||||||

あれ は 三 年 ほど 前 だった か 、 当時 付き合って いた 女 を 乗せて 、 平戸 へ ドライブ した 帰り 、 とつぜん 車 が エンコ した 。 ||みっ|とし||ぜん|||とうじ|つきあって||おんな||のせて|ひらと||どらいぶ||かえり||くるま||| |||||||||||||gave a ride|Hirado||||||||engine| ||||||||||||||||||||||エンコした| That was about three years ago. I was driving back from Hirado with a girl I was dating at the time when suddenly the car broke down.

JAF を 呼ぶ 金 も なく 、 何 人 か の 知り合い に 連絡 を 入れて みた もの の 、 忙しい だの 、 知った こと か だの 、 全員 つれない 。 jaf||よぶ|きむ|||なん|じん|||しりあい||れんらく||いれて||||いそがしい||しった||||ぜんいん| Japan Automobile Federation||||||||||||||||||busy|||||and so on||cold I didn't have money to call JAF (Japan Automobile Federation), and although I tried to contact a few acquaintances, all of them were unhelpful, saying they were busy or didn't care. そんな 中 、 唯一 、 牽引 ロープ 持参 で 助け に 来て くれた の が 祐一 だった 。 |なか|ゆいいつ|けんいん|ろーぷ|じさん||たすけ||きて||||ゆういち| |||towing||brought||||||||| In that situation, the only person who came to help with a towing rope was Yuichi.

「 すま ん な 」 と 一二三 は 謝った 。 ||||ひふみ||あやまった

祐一 は 無表情で ロープ を 結び ながら 、「 どうせ 家 で 寝 とった だけ やけん 」 と 言った 。 ゆういち||むひょうじょうで|ろーぷ||むすび|||いえ||ね|||||いった ||expressionless|||||anyway|||||||| |||||||結局|||||||| Yuichi said expressionlessly while tying a rope, 'I was just sleeping at home anyway.'

牽引 して もらう 車 に 女 を 乗せる わけに も いか ず 、 祐一 の 車 の 助手 席 に 乗せた 。 けんいん|||くるま||おんな||のせる|||||ゆういち||くるま||じょしゅ|せき||のせた towing|||||||to put|||||||||passenger||| Since I couldn't let a woman ride in the car we were towing, I put her in the passenger seat of Yuichi's car.

付き合い の ある 整備 工場 まで 引いて もらって 、 祐一 と は あっさり と そこ で 別れた 。 つきあい|||せいび|こうじょう||ひいて||ゆういち|||||||わかれた |||maintenance||||||||easily|||| After being towed to a familiar repair shop, I parted ways with Yuichi there without much ado.

祐一 の 車 を 見送る 女 に 、「 よか 男 やろ が ? ゆういち||くるま||みおくる|おんな|||おとこ|| ||||see off|||||| To the woman who was seeing off Yuichi's car, I teased, 'Isn't he a good man?' 」 と カマ を かける と 、「 車 の 中 で ぜんぜん 喋ら ん と や もん 。 |かま||||くるま||なか|||しゃべら|||| |sickle|||||||||talk|||| |カマ||||||||||||| She replied, 'He doesn't talk at all in the car.' お礼 言って も 、『 ああ 』って 無愛想に 頷く だけ やし ……、 なんか 、 息 つまった 」 と 笑って いた 。 お れい|いって||||ぶあいそうに|うなずく||||いき|||わらって| |||||unfriendly|||that's why|||choked||| 'Even when I thank him, he just nods gruffly like 'Oh...' and it feels kind of suffocating,' she laughed. 実際 そういう 男 だった 。 じっさい||おとこ|

最後 の 十 数 枚 の ところ で 、 スロットマシン に   当たり が 出 始めた 。 さいご||じゅう|すう|まい||||||あたり||だ|はじめた ||||||||slot machine||||| At the last dozen or so, the slot machine started to hit.

一二三 は 混 んだ 店 内 を 見渡し 、 珈琲 の サービス を して いる ミニスカート の 店員 を 探した 。 ひふみ||こん||てん|うち||みわたし|こーひー||さーびす||||||てんいん||さがした |||||||looked around|||||||miniskirt|||| Kazuhiko looked around the crowded store and searched for a waitress in a mini skirt who was serving coffee.

入口 の ほう へ 顔 を 向けた とき 、 螺旋 階段 を 上がって くる 祐一 の 姿 を 見つけた 。 いりぐち||||かお||むけた||らせん|かいだん||あがって||ゆういち||すがた||みつけた ||||face||||spiral||||||||| When he faced the entrance, he spotted Yuichi coming up the spiral staircase.

手 を 挙げて 合図 を 送る と 、 すぐに 気づいて 狭い 通路 を 歩いて くる 。 て||あげて|あいず||おくる|||きづいて|せまい|つうろ||あるいて| |||signal|||||||passageway|||

現場 帰り な ので 汚れた 紺 の ニッカボッカ に 、 同じく 紺色 の ドカジャン を ひっかけて いる のだ が 、 ジッパー の 隙間 から 派手な ピンク 色 の トレーナー が ちらっと 見える 。 げんば|かえり|||けがれた|こん||||おなじく|こんいろ||||||||じっぱー||すきま||はでな|ぴんく|いろ||とれーなー|||みえる ||||dirty|navy||knickerbockers|||navy|possessive particle|work jacket||hooked||||||gap||||||||glance| |||||紺色||ニッカボッカ|||||ジャンパー||||||||||||||||| Since I just came back from the site, I'm wearing dirty navy knickerbockers and a navy work jacket, but a flashy pink sweatshirt is peeking out through the zipper gap.

祐一 は 隣 の 席 に 腰 を 下ろす と 、 一 階 で 買って きた らしい 缶 珈琲 を 開けた 。 ゆういち||となり||せき||こし||おろす||ひと|かい||かって|||かん|こーひー||あけた ||||||||||||||||can||| Yuichi sat down in the seat next to me and opened a can of coffee he apparently bought on the first floor.

祐一 が ポケット から 千 円 札 を 一 枚 出し 、 何も 言わ ず に 横 の 台 で 打ち 始める 。 ゆういち||ぽけっと||せん|えん|さつ||ひと|まい|だし|なにも|いわ|||よこ||だい||うち|はじめる Yuichi took a one-thousand yen bill out of his pocket and started to play without saying anything on the table next to him.

近く に 来る と 、 祐一 の 臭い が 鼻 に つく 。 ちかく||くる||ゆういち||くさい||はな|| ||||||||nose|| As I get closer, Yuichi's smell stings my nose.

夏場 と 違って 汗 臭い と いう ので は ない 。 なつば||ちがって|あせ|くさい||||| summer||||||||| Unlike in summer, it's not a smell of sweat. 土埃 と いう か セメント と いう か 、 とにかく 廃屋 に 漂って いる ような 臭い だ 。 つちぼこり||||せめんと|||||はいおく||ただよって|||くさい| dust||||cement||||anyway|abandoned house||wafting|||| |||||||||abandoned house|||||| It's a smell that resembles dust or cement; in any case, it has the scent of something that seems to be drifting around an abandoned house.

「 三瀬 峠 で 、 事件 の あった と 知っと る や ? みつせ|とうげ||じけん||||ち っと|| 祐一 が とつぜん 口 を 開いた の は 、 あっという間 に 千 円 分 を すった ころ だった 。 ゆういち|||くち||あいた|||あっというま||せん|えん|ぶん|||| ||||||||||||||sucked|| ||||||||||||||吸った|| Yuichi suddenly spoke up just after he had finished spending a thousand yen in an instant.

「 女の子 が 殺さ れたら しか な 」 おんなのこ||ころさ||| "If a girl is killed, then..."

祐一 が 横 に 座って から 、 急に 調子 が 良く なって いた 一二三 は 、 顔 も 動かさ ず に 答えた 。 ゆういち||よこ||すわって||きゅうに|ちょうし||よく|||ひふみ||かお||うごかさ|||こたえた |||||||mood|||||||||||| Hifumi, who had been sitting beside Yuichi, suddenly seemed to be in a good mood and replied without moving his face.

訊 いて きた の は 自分 の くせ に 、 祐一 が いつも の ように 黙り 込む 。 じん|||||じぶん||||ゆういち|||||だまり|こむ |||||||||||||||silently Despite having asked, Yuichi falls silent as usual.

「 あれ 、 出会い 系 と か で けっこう 男 たち 引っ掛け とったら しか ぞ 。 |であい|けい|||||おとこ||ひっかけ||| |||||||||approached|took|| "Oh, I heard that they have quite a few men caught through dating apps or something like that." 今日 、 テレビ で そう 言い よった けど 」 きょう|てれび|||いい|| I heard that on TV today, though."

一二三 が ボタン を 押し ながら 会話 を 繋ぐ と 、「 すぐ 見つかる さ ね ? ひふみ||ぼたん||おし||かいわ||つなぐ|||みつかる|| ||||||||connect||||| 」 と 祐一 が 訊 いて くる 。 |ゆういち||じん|| Yuichi asks, 'Are you looking for something?'

「 見つかるって ? みつかる って is found 'Will it be found?' 「……」 '...'

「 犯人 や ? はんにん| 「……」

「 すぐ 見つかる さ 。 |みつかる| 電話 会社 で 調べれば 、 すぐに 履歴 も 分かる や ろうし 」 でんわ|かいしゃ||しらべれば||りれき||わかる|| |||if you investigate||history||||probably

この とき 、 一二三 は 祐一 の ほう を 一 度 も 見 ず に 喋り 続けて いた 。 ||ひふみ||ゆういち||||ひと|たび||み|||しゃべり|つづけて|

三十 分 ほど スロット を 打ち 、 一二三 と 祐一 は 店 を 出た 。 さんじゅう|ぶん||||うち|ひふみ||ゆういち||てん||でた |||slot|||||||||

結局 、 一二三 が 一万五千 円 、 祐一 が 二千 円 の 負け だった 。 けっきょく|ひふみ||いちまんごせん|えん|ゆういち||にせん|えん||まけ| |||||||two thousand||||

すでに 日 は 落ち 、 駐車 場 を 強い ライト が 照らして いた 。 |ひ||おち|ちゅうしゃ|じょう||つよい|らいと||てらして| |||set|||||||illuminating| The sun had already set, and a strong light illuminated the parking lot.

足元 に 二 人 の 濃い 影 が 伸び 、 ときどき パーキング の 白線 と 交わる 。 あしもと||ふた|じん||こい|かげ||のび||ぱーきんぐ||はくせん||まじわる |||||dark|||||||white line|| ||||||||||駐車場|||| Two dark shadows stretched at their feet, occasionally crossing the white lines of the parking space.

祐一 と 違って まったく 車 に 興味 の ない 一二三 は 、 安い 軽 自動車 に 乗って いた 。 ゆういち||ちがって||くるま||きょうみ|||ひふみ||やすい|けい|じどうしゃ||のって| Unlike Yuichi, Hifumi had no interest in cars at all and was driving a cheap kei car.

鍵 を 開ける と 、 祐一 が すぐに 助手 席 に 乗り込んで くる 。 かぎ||あける||ゆういち|||じょしゅ|せき||のりこんで| key|||||||assistant||||

一二三 は ふと 空 を 見上げた 。 ひふみ|||から||みあげた

波 の 音 が 空 から 落ちて きた ように 聞こえた のだ 。 なみ||おと||から||おちて|||きこえた| 普段 なら 満天 の 星空 な のだ が 、 今夜 は 金星 だけ が 瞬いて いる 。 ふだん||まんてん||ほしぞら||||こんや||きんせい|||またたいて| ||full of stars||starry sky||||||Venus|||twinkling| |||||||||||||twinkling| 雨 で も 降る のだろう か と 一二三 は 思った 。 あめ|||ふる||||ひふみ||おもった I wonder if it will rain, thought Hifumi.

海 沿い の 県道 を 祐一 の 家 へ 向かい ながら 、 一二三 は なかなか 職 が 見つから ない と 愚痴 を こぼした 。 うみ|ぞい||けんどう||ゆういち||いえ||むかい||ひふみ|||しょく||みつから|||ぐち|| |along|||||||||||||job|||||complaint|| While heading towards Yuichi's house along the coastal prefectural road, Hifumi complained that he couldn't find a job.

実際 、 この 日 も 午前 中 は ハローワーク で 過ごし 、 顔見知り に なった 若い 女子 事務 員 を 、「 今度 、 飲み に 行こう 」 と 求人 募集 を チェック し ながら 誘って いた 。 じっさい||ひ||ごぜん|なか||||すごし|かおみしり|||わかい|じょし|じむ|いん||こんど|のみ||いこう||きゅうじん|ぼしゅう||ちぇっく|||さそって| |||||||Hello Work|||acquaintance|||||||||||||job offer|recruitment|||||inviting| |||||||ハローワーク|||acquaintance|||||||||||||||||||| In fact, on that day as well, he spent the morning at the Hello Work office, inviting a young female office worker he had become familiar with, saying, 'Let's go for drinks next time,' while checking job postings.

結局 、 仕事 も なく 、 誘い も 断ら れた が 、 午前 中 いっぱい を ハローワーク で 過ごした こと で 、「 やろう と 思えば 仕事 なんて いくら で も ある 」 と いう 楽観 的な 気持ち に なって いた 。 けっきょく|しごと|||さそい||ことわら|||ごぜん|なか|||||すごした|||||おもえば|しごと||||||||らっかん|てきな|きもち||| ||||||declined|||||||||||||||||||||||optimistic|||||

ラジオ から 流れて いた 曲 が 終わって 、 短い ニュース 番組 が 始まった 。 らじお||ながれて||きょく||おわって|みじかい|にゅーす|ばんぐみ||はじまった

真っ先 に 三瀬 峠 で の 事件 が 伝えられる 。 まっさき||みつせ|とうげ|||じけん||つたえ られる ||||||||reported 助手 席 に 乗り込んだ きり 、 まったく 口 を 開か ない 祐一 に 、「 三瀬って いえば さ ……」 と 一二三 は 声 を かけた 。 じょしゅ|せき||のりこんだ|||くち||あか||ゆういち||みつせ って||||ひふみ||こえ|| 外 を 眺めて いた 祐一 が 、 狭い 車 内 で 少し 身 を 引く ように して 振り返る 。 がい||ながめて||ゆういち||せまい|くるま|うち||すこし|み||ひく|||ふりかえる |||||||||||||pull back||| Yuichi, who had been looking outside, turned around slightly as if to pull back in the cramped car.

「…… 覚え とる や ? おぼえ|| “… Do you remember?” ほら 、 前 に 俺 が あそこ で 幽霊 見たって 話 」 急 カーブ で ハンドル を 切り ながら 一二三 は 言った 。 |ぜん||おれ||||ゆうれい|みた って|はなし|きゅう|かーぶ||はんどる||きり||ひふみ||いった |||||||ghost|saying I saw||||||||||| Isshiki said while turning the steering wheel on a sharp curve, “Remember when I told you I saw a ghost over there?” 祐一 の からだ が その 反動 で ぺったり と ドア に はりつく 。 ゆういち|||||はんどう||ぺっ たり||どあ|| ||body|||recoil||flattened||||stuck |||||反動||ぺったり||||くっつく 「 ほら 、 前 に 博多 の 会社 の 面接 に 行った 帰り 、 一 人 で 峠 越え し よったら 、 急に ライト が 消えて さ 。 |ぜん||はかた||かいしゃ||めんせつ||おこなった|かえり|ひと|じん||とうげ|こえ|||きゅうに|らいと||きえて| ||||||||||||||mountain pass|||and||||| You know, after I went to a job interview at a company in Hakata, while I was crossing the mountain pass alone, suddenly the lights went out.

ビビって すぐに 車 停めて 、 もう 一 回 エンジン かけ 直し よったら 、 助手 席 に 血まみれの 男 が 乗っとったって 話 。 ビビ って||くるま|とめて||ひと|かい|えんじん||なおし||じょしゅ|せき||ちまみれの|おとこ||のっとった って|はなし nervously||||||||||||||bloodied|||got on| |||||||||||||||||乗っていた| I got scared and immediately stopped the car, and when I restarted the engine, I found a blood-covered man sitting in the passenger seat. 覚え とら ん や ? おぼえ||| Don't you remember? のろのろ と 道 の 真ん中 を 走って いる カブ を 煽り ながら 、 一二三 は ちらっと 祐一 に 目 を 向けた 。 ||どう||まんなか||はしって||かぶ||あおり||ひふみ|||ゆういち||め||むけた slowly||||||||mini truck||tailgating||||glanced||||| ||||||||カブ|||||||||||

「 あれ 、 マジ で ビビった けん ね 。 |||ビビ った|| |||got scared|| エンジン は かから ん し 、 助手 席 に 血まみれの 男 は 座っと る し 、 たぶん 、 俺 、 悲鳴 上げ ながら キー 回し とった と 思う 」 そう 言い ながら 、 一二三 が 自分 で 自分 の 話 に 笑って いる と 、 祐一 は 、「 早う 、 抜け 」 と 前 の カブ を 顎 で しゃくった 。 えんじん|||||じょしゅ|せき||ちまみれの|おとこ||ざ っと||||おれ|ひめい|あげ||きー|まわし|||おもう||いい||ひふみ||じぶん||じぶん||はなし||わらって|||ゆういち||はやう|ぬけ||ぜん||かぶ||あご||しゃく った ||||||||bloody|||sitting|||||scream||||||||||||||||||||||||quickly|out||||||||shoved The engine wouldn't start, and there was a bloody man sitting in the passenger seat. I think I was probably turning the key while screaming. As I said this, Ichihiri was laughing at his own story, and Yuichi said, 'Hurry up, get out,' while pointing to the cub in front with his chin. あの 夜 、 一二三 が 峠 を 越えた の は 、 夜 八 時 を 回った ころ だった 。 |よ|ひふみ||とうげ||こえた|||よ|やっ|じ||まわった|| ||123|||||||night|||||| That night, Ichihiri crossed the mountain pass around eight o'clock.

博多 で 、 あれ は 何の 会社 だった か 、 面接 を 受け 、「 こりゃ 、 駄目だ な 」 と 落胆 した 足 で 、 天神 の ヘルス へ 行った 。 はかた||||なんの|かいしゃ|||めんせつ||うけ||だめだ|||らくたん||あし||てんじん||||おこなった |||||||||||||||disappointment||||||health|| |||||||||||||||||||||ヘルス|| In Hakata, I can't remember which company it was, I went for an interview, and with a feeling of 'this isn't going to work,' I ended up going to a health spa in Tenjin. どちら か と 言えば 、 会社 の 面接 より も 、 ヘルス 選び の ほう に 力 が 入って いた と 思う 。 |||いえば|かいしゃ||めんせつ||||えらび||||ちから||はいって|||おもう |||||||||health|||||||||| If I had to choose, I think I was more focused on choosing health than on the company interview.

とにかく ヘルス で 一 発 抜いて 、 ラーメン を 食べた あと 、 車 で 峠 に 差しかかった 。 |||ひと|はつ|ぬいて|らーめん||たべた||くるま||とうげ||さしかかった |||one||came|||||||mountain pass||was approaching ||||||||||||||差し掛かった Anyway, after I pulled off a victory at health, I hit the mountain pass in my car after eating ramen.

まだ 八 時 を 回った ばかりな のに 、 峠 道 に は 先 を 行く 車 は おろか 、 すれ違う 車 も なかった 。 |やっ|じ||まわった|||とうげ|どう|||さき||いく|くるま|||すれちがう|くるま|| ||||||||||||||||let alone|pass by||| It was still just past eight o'clock, and there were no cars going ahead on the mountain road, let alone any cars passing by.

正直 、 車 の ライト に 青白く 照らし出さ れる 藪 や 林 が 不気味で 、 こんな こと なら 節約 せ ず に 高速 を 使う べきだった と 後悔 して いた 。 しょうじき|くるま||らいと||あおじろく|てらしださ||やぶ||りん||ぶきみで||||せつやく||||こうそく||つかう|||こうかい|| honestly||||||illuminated||thicket||||creepy||||||||highway|||should have||regret|| ||||||||||||不気味な||||||||||||||| Honestly, the thickets and woods illuminated by the bluish-white light of the car are eerie, and I was regretting that I should have taken the highway without trying to save money.

たった 一 人きり の 車 内 で 紛らわし に 声 を 張り上げて 歌って みて も 、 逆に その 声 が 周囲 の 林 に すっと 吸い込まれて いく 。 |ひと|ひときり||くるま|うち||まぎらわし||こえ||はりあげて|うたって|||ぎゃくに||こえ||しゅうい||りん||す っと|すいこま れて| only|||||||confusing|||(object marker)|raising||||||||surroundings||||smoothly|being sucked in| Even when I try to sing loudly in the car, all alone, my voice gets absorbed into the surrounding woods instead. 真っ暗な 山中 で 、 命綱 と も いえる ライト の 調子 が おかしく なった の は 、 いよいよ 峠 の 山頂 に さしかかった ころ で 、 最初 、 自分 の 目 が おかしく なった の か と 一二三 は 思った 。 まっくらな|さんちゅう||いのちづな||||らいと||ちょうし|||||||とうげ||さんちょう|||||さいしょ|じぶん||め|||||||ひふみ||おもった pitch-black|mountains||lifeline|||||||||||||||mountain top||approaching||||||||||||||| |||safety line|||||||||||||||||||||||||||||||| In the pitch-dark mountains, the condition of the lights, which are a lifeline, began to fail just as I reached the summit of the mountain pass, and at first, Ichinisan thought that his eyes were playing tricks on him.

次の 瞬間 、 点滅 する ライト の 中 を 、 すっと 黒い 何 か が 通った 。 つぎの|しゅんかん|てんめつ||らいと||なか||す っと|くろい|なん|||かよった |moment|blinking||||||smoothly||||| In the next moment, something black swiftly passed through the flashing lights. 一二三 は 慌てて ブレーキ を 踏み 、 必死に ブレ る ハンドル に しがみついた 。 ひふみ||あわてて|ぶれーき||ふみ|ひっしに|||はんどる|| ||||||desperately|swerve||||clung Kazuhira panicked, slammed the brakes, and desperately clung to the shaking steering wheel.

ライト が 完全に 消えた の は その とき だった 。 らいと||かんぜんに|きえた||||| At that moment, the lights completely went out.

フロント ガラス の 先 は 、 まるで 目 を 閉じて いる ような 暗闇 で 、 エンジン は かかって いる のに 、 車 を 取り囲む 森 の 中 で 、 耳 を 塞ぎ たく なる ほど 虫 の 声 が 高く なる 。 ふろんと|がらす||さき|||め||とじて|||くらやみ||えんじん|||||くるま||とりかこむ|しげる||なか||みみ||ふさぎ||||ちゅう||こえ||たかく| ||||||||||||||||||||surrounded|||||||plugging||||insect|||||

冷房 は ギンギン に 入れて いた のに 、 どっと 汗 が 噴き出した 。 れいぼう||ぎんぎん||いれて||||あせ||ふきだした air conditioning||intensely|||||suddenly|||gushed ||冷たい|||||突然|||

汗 と いう より も 、 ぬるい お 湯 を 全身 に 浴びせられた ようだった 。 あせ|||||||ゆ||ぜんしん||あびせ られた| sweat|||||||||||poured| その 瞬間 、 車体 が 一 度 大きく 揺れて 、 エンジン が 止まった 。 |しゅんかん|しゃたい||ひと|たび|おおきく|ゆれて|えんじん||とまった

助手 席 に 何 か が いる の を 感じた の は その とき だった 。 じょしゅ|せき||なん||||||かんじた||||| assistant|||||||||||||| 恐怖 は 人間 の 視野 を 狭める 。 きょうふ||にんげん||しや||せばめる fear||||perspective||narrows ||||||narrow Fear narrows a person's field of vision. 横 を 向け ない 。 よこ||むけ| Can't look to the side. 振り向け ない 。 ふりむけ| turn| Can't turn around. 前 だけ しか 見られ なく なる のだ 。 ぜん|||み られ||| かけ 直そう と した エンジン が かから なかった 。 |なおそう|||えんじん||| |tried to fix|||||| The engine that I tried to fix wouldn't start.

一二三 は 悲鳴 を 上げた 。 ひふみ||ひめい||あげた ||scream|| Ichirihachi screamed. 横 に 何 か が いる の は 分かって いる 。 よこ||なん||||||わかって| I know that there is something next to me. ただ 、 それ が 何 な の か 分から なかった 。 |||なん||||わから|

「…… もう 苦 しか 」 |く| |painful|

助手 席 から 、 ふと 男 の 声 が した 。 じょしゅ|せき|||おとこ||こえ|| |||suddenly|||||

一二三 は 自分 の 悲鳴 で 耳 を 塞いだ 。 ひふみ||じぶん||ひめい||みみ||ふさいだ ||||||||covered ||||||||耳をふさいだ エンジン は かから ない 。 えんじん|||

「…… もう 無理 ばい 」 |むり| ||goodbye

横 で 男 の 声 が する 。 よこ||おとこ||こえ||

一二三 は 逃げ出そう と ドア に 手 を かけた 。 ひふみ||にげだそう||どあ||て||

その 瞬間 、 窓 ガラス に 血まみれの 男 が 映った 。 |しゅんかん|まど|がらす||ちまみれの|おとこ||うつった

男 は こちら を じっと 見つめて いた 。 おとこ|||||みつめて| ||||intently||

玄関 で 物音 が して 、 房枝 は ちらっと 時計 を 見 遣 り 、 ぼんやり と 見つめて いた 茶 封筒 を 慌てて エプロン の ポケット に 押し込んだ 。 げんかん||ものおと|||ふさえ|||とけい||み|つか||||みつめて||ちゃ|ふうとう||あわてて|えぷろん||ぽけっと||おしこんだ ||sound|||||glanced|||see|glance||absentmindedly|||||envelope|||||||pushed There was a sound at the entrance, and Fusae glanced at the clock, hurriedly shoving the tea envelope she had been staring blankly at into the pocket of her apron.

封筒 に は 「 領収 書 在中 」 と 書いて ある 。 ふうとう|||りょうしゅう|しょ|ざいちゅう||かいて| |||receipt||inside||| The envelope has 'Receipt Enclosed' written on it.

房枝 は 椅子 に 座った まま 、 ガス レンジ に 手 を 伸ばし 、 あら かぶ の 煮付け を 温め 直した 。 ふさえ||いす||すわった||がす|れんじ||て||のばし||||につけ||あたため|なおした ||chair|||||stove||||||turnip||simmered dish||heated| ||||||||||||あらかぶ|||||| Still sitting in her chair, Fusae reached out to the gas stove and reheated the simmered rockfish.

「 おじゃま しま ー す 」 ||-| excuse me|||

明るい 一二三 の 声 が 聞こえて きた の は その とき で 、 房枝 は 立ち上がる と 、「 あら 、 一二三 くん と 一緒 やった と ね ? あかるい|ひふみ||こえ||きこえて|||||||ふさえ||たちあがる|||ひふみ|||いっしょ||| と 声 を 返し ながら 廊下 へ 出た 。 |こえ||かえし||ろうか||でた |||||hallway||

さっさと 靴 を 脱いだ 一二三 が 、 祐一 を 押しのける ように 上がって きて 、「 おばさん 、 なんか 旨 そうな 匂い や ねぇ 」 と 台所 を 覗き込んで くる 。 |くつ||ぬいだ|ひふみ||ゆういち||おしのける||あがって||||むね|そう な|におい||||だいどころ||のぞきこんで| promptly|||took off|||||||||||delicious||||right||kitchen||peering| ||||||||押しのける|||||||||||||||

「 何も 食べ とら ん と ? なにも|たべ||| すぐ 用意 して やる けん 、 祐一 と 一緒に 食べ ん ね 」 |ようい||||ゆういち||いっしょに|たべ||

房枝 の 言葉 に 、 一二三 が 嬉し そうに 、「 食べる 。 ふさえ||ことば||ひふみ||うれし|そう に|たべる 食べる 」 と 何度 も 頷く 。 たべる||なんど||うなずく

「 パチンコ ね ? ぱちんこ| 房枝 は 鍋 に 蓋 を した 。 ふさえ||なべ||ふた|| ||pot||lid||

「 いや 、 スロット 。 でも ぜんぜん 駄目 。 ||だめ また 損した よ 」 |そんした| |lost|

「 いくら ? 房枝 の 質問 に 、 一二三 が 「 一万五千 円 」 と 指 で 示して 見せる 。 ふさえ||しつもん||ひふみ||いちまんごせん|えん||ゆび||しめして|みせる

房枝 は 祐一 が 一二三 と 一緒に 帰って きた こと で 、 どこ か 気分 が 軽く なった 。 ふさえ||ゆういち||ひふみ||いっしょに|かえって||||||きぶん||かるく| |||||||||||||||lightly| Fusae felt a bit lighter when Yuichi came back with Hifumi.

三瀬 峠 で 起きた と いう 事件 と 祐一 が まったく 無関係である こと は 分かって いた が 、 昼 前 に やってきた 刑事 に 、「 日曜日 、 祐一 は 出かけて ない 」 と 、 咄嗟に 嘘 を ついて しまった こと で 、 実際 は 無関係な のに 、 妙な しこり が 残って いた のだ 。 みつせ|とうげ||おきた|||じけん||ゆういち|||むかんけいである|||わかって|||ひる|ぜん|||けいじ||にちようび|ゆういち||でかけて|||とっさに|うそ||||||じっさい||むかんけいな||みょうな|||のこって|| |||||||||||unrelated||||||||||detective||||||||on the spur of the moment|||||||||irrelevant||strange|awkward feeling|||| |||||||||||||||||||||||||||||すぐに||||||||||||感情のもつれ|||| I knew that the incident that occurred at the Misse Pass had nothing to do with Yuichi, but when the detective came before noon and I instinctively lied by saying, 'Yuichi didn't go out on Sunday,' it left a strange sense of discomfort, even though it was actually unrelated.

祐一 が あの 夜 、 車 で 出かけた の は 間違い なかった 。 ゆういち|||よ|くるま||でかけた|||まちがい| There was no doubt that Yuichi went out by car that night.

ただ 、 岡崎 の ばあさん が 、「 祐一 は 出かけて いない 」 と 証言 した のだ から 、 出かけた と して も そう 長い 時間 で は ない はずだ 。 |おかざき||||ゆういち||でかけて|||しょうげん||||でかけた|||||ながい|じかん|||| ||||||||||testimony|||||||||||||| However, since the old lady from Okazaki testified that 'Yuichi is not out,' it shouldn't be a very long time even if he did go out. 以前 、 祐一 が 勝治 を 病院 に 送った とき も そう だ 。 いぜん|ゆういち||かつじ||びょういん||おくった|||| |||Katsuji|||||||| It was the same when Yuichi took Katsuji to the hospital before. あの ばあさん は 、 祐一 の 車 が 一 、 二 時間 なくて も その 日 は 出かけて いない と 言う 癖 が ある 。 |||ゆういち||くるま||ひと|ふた|じかん||||ひ||でかけて|||いう|くせ|| |||||||||||||||||||habit|| That old lady has a habit of saying that Yuichi hasn't gone out even if his car is missing for one or two hours that day. 「 一二三 くん 、 日曜日 も 祐一 と 一緒 やった と やろ ? ひふみ||にちようび||ゆういち||いっしょ||| 房枝 は 当の 祐一 が 二 階 へ 上がった の を 確認 して から 尋ねた 。 ふさえ||とうの|ゆういち||ふた|かい||あがった|||かくにん|||たずねた ||the|||||||||||| ||その||||||||||||

鍋 に 入った あら かぶ の 煮付け を 覗き込み ながら 、「 日曜 ? なべ||はいった||||につけ||のぞきこみ||にちよう ||||turnip||simmered dish||peering|| 」 と 首 を 捻った 一二三 が 、 |くび||ねじった|ひふみ| |||turned|| |||twisted||

「 俺 は 一緒じゃ なかった けど ……、 ああ 、 整備 屋 に 行っとった んじゃ ない 。 おれ||いっしょじゃ||||せいび|や||ぎょう っと った|| ||together||||maintenance|||went|| "I wasn't with you, but... yeah, I wasn't at the garage." なんか 車 の 部品 、 また 換えるって 言い よった し 」 と 答えて 鍋 に 手 を 突っ込む 。 |くるま||ぶひん||かえる って|いい||||こたえて|なべ||て||つっこむ |||part||he said he had to replace some car parts||||||||||reached 「 ほら 、 すぐ 用意 して やる けん 」 と 房枝 は その 手 を 叩いた 。 ||ようい|||||ふさえ|||て||たたいた ||||||||||||clapped "Here, I'll get it ready right away," said Fusaeda as she clapped her hands.

素直に 手 を 引っ込めた 一二三 が 、「 刺身 ない と ? すなおに|て||ひっこめた|ひふみ||さしみ|| docile||||||sashimi|| Hitoshi, who obediently pulled his hands back, asked, "Isn't there any sashimi?" 」 と 、 今度 は 冷蔵 庫 を 開ける 。 |こんど||れいぞう|こ||あける "" This time, he opened the refrigerator.

一二三 の 分 の 食事 だけ を 先 に 用意 して 、 房枝 は 夕方 畳んだ 洗濯物 を 二 階 の 祐一 の 部屋 へ 運んだ 。 ひふみ||ぶん||しょくじ|||さき||ようい||ふさえ||ゆうがた|たたんだ|せんたくもの||ふた|かい||ゆういち||へや||はこんだ ||||||||||||||folded|laundry|||||||||carried

ドア を 開ける と 、 ベッド に 寝 転がって いた 祐一 が 、「 すぐ 降りて く けん 」 と 無愛想に 呟く 。 どあ||あける||べっど||ね|ころがって||ゆういち|||おりて||||ぶあいそうに|つぶやく ||||||||||||||||unfriendly| When she opened the door, Yuuichi, who was rolling around in bed, muttered brusquely, 'I'll come down soon.'

房枝 は 持ってきた 洗濯物 を 古い タンス の 引き出し に 入れた 。 ふさえ||もってきた|せんたくもの||ふるい|たんす||ひきだし||いれた |||laundry|||dresser||drawer|| Moeha put the laundry she brought into an old chest of drawers.

この タンス は 祐一 が 母親 と 一緒に ここ へ 来た とき から 使って いる もの で 、 引き出し の 取っ手 が 熊 の 顔 に なって いる 。 |たんす||ゆういち||ははおや||いっしょに|||きた|||つかって||||ひきだし||とって||くま||かお||| |||||||||||||using||||||handle||||||| |||||||||||||||||||取っ手||||||| This chest of drawers has been used since Yuuichi came here with his mother, and the handles of the drawers are shaped like bear faces.

「 今日 、 警察 の 来た と よ 」 きょう|けいさつ||きた|| |police||||

房枝 は わざと 祐一 の 顔 を 見 ず に 、 洗濯物 を 押し込み ながら 告げた 。 ふさえ|||ゆういち||かお||み|||せんたくもの||おしこみ||つげた ||わざと||||||||||||

「 あんた 、 福岡 に 文通 し よる 女の子 が おる とって ? |ふくおか||ぶんつう|||おんなのこ||| |||pen pal||by|||| もう 知っと る やろう けど 、 その 子 が ほら 、 日曜日 に 亡くなった と やろ ? |ち っと|||||こ|||にちようび||なくなった|| 房枝 は そこ で 初めて 祐一 へ 目 を 向けた 。 ふさえ||||はじめて|ゆういち||め||むけた

祐一 は 頭 だけ を 起こして こちら を 見て いた 。 ゆういち||あたま|||おこして|||みて| 表情 は なく 、 何 か 他の こと を 考えて いる ようだった 。 ひょうじょう|||なん||たの|||かんがえて||

「 知っと る と やろ ? ち っと||| その 女の子 が ほら ……」 |おんなのこ||

房枝 が 改めて 尋ねる と 、「 知っと る よ 」 と 祐一 が ゆっくり と 口 を 動かす 。 ふさえ||あらためて|たずねる||ち っと||||ゆういち||||くち||うごかす ||again||||||||||||| 「 あんた 、 その 子 に 会った こと ある と ね ? ||こ||あった||||

文通 だけ やった と ね ? ぶんつう|||| correspondence|||| 「 なんで ? 「 なんでって 、 会った こと ある なら 、 お 葬式 くらい 行った ほう が いい んじゃ ない か と 思う て さ 」 「 葬式 ? なんで って|あった|||||そうしき||おこなった||||||||おもう|||そうしき why||||||funeral||||||||||||| 「 そう よ 。 文通 だけ なら そこ まで する こと ない けど 、 会う たこ と ある なら ……」 ぶんつう|||||||||あう|||| correspondence|||||||||to meet|person|||

「 会う たこ と ない よ 」 あう||||

こちら に 向けられた 祐一 の 靴下 の 裏 が 指 の 形 で 汚れて いた 。 ||むけ られた|ゆういち||くつした||うら||ゆび||かた||けがれて| ||pointed at|||sock||inside||toes||shape||| The back of Yuichi's sock directed towards us was dirty in the shape of toes. 祐一 は じっと こちら を 見て いる 。 ゆういち|||||みて| ||intently|||| Yuichi is staring intently at us. 房枝 の 背後 に 誰 か が 立って いる ような 視線 だった 。 ふさえ||はいご||だれ|||たって|||しせん| It was a gaze as if someone was standing behind Fusaeda.

「 どこ の 誰 か 知ら ん けど 、 世の中 に は 惨 たらし かこ と する 人 も おる もん や ねぇ 。 ||だれ||しら|||よのなか|||さん|||||じん||||| ||||||||||cruel|miserable||||||||| "I don't know who or where, but there are certainly people in the world who do terrible things."

…… 警察 の 人 の 話 じゃ 、 もう 犯人 は 分 かっとって 、 その 人 が 今 、 逃げ回り よる けん 、 必死で 探し よる みたい やけど 」 房枝 の 言葉 に 、 むくっと 祐一 が 起き上がった 。 けいさつ||じん||はなし|||はんにん||ぶん|か っと って||じん||いま|にげまわり|||ひっしで|さがし||||ふさえ||ことば||むく っと|ゆういち||おきあがった ||||||||||saying|||||running away|||desperately|search||||||||suddenly|||sat up |||||||||||||||||||||||||||急に||| ...... According to the police, they already know who the culprit is, and that person is currently on the run, so they seem to be desperately searching for him," said Fusaeda, causing Yuichi to sit up abruptly. 体重 で ベッド の パイプ が 軋む 。 たいじゅう||べっど||ぱいぷ||きしむ body weight|||||| ||||パイプ||きしむ The bed's pipes creak under his weight.

「 犯人 、 もう 分かっと る と ? はんにん||ぶん か っと|| "So, they already know who the culprit is?" 「 らしい よ 。 it seems| 駐在 さん が そう 言い よった 。 ちゅうざい||||いい| resident||||| ただ 、 どっか に 逃げて し も うて 、 まだ 見つから んって 」 「 それって 、 あの 大学生 ? |ど っか||にげて|||||みつから|ん って|それ って||だいがくせい ||||||||not found|||| 「 大学生 ? だいがくせい 「 ほら 、 テレビ で 言い よる やろ ? |てれび||いい|| 食いついて くる ような 祐一 の 物言い に 、「 ああ 、 やっぱり この 子 は 事件 の こと を 知っていた のだ 」 と 房枝 は 確信 した 。 くいついて|||ゆういち||ものいい|||||こ||じけん||||しっていた|||ふさえ||かくしん| |||||way of speaking||||||||||||||||conviction| |||||話し方||||||||||||||||| With Yuichi's words coming at her like a bite, Fusaeda was convinced, 'Ah, as I thought, this child knew about the incident.'

「 警察 が 本当に そう 言う た と ? けいさつ||ほんとうに||いう|| 'Did the police really say that?' その 大学生 が 犯人って 」 祐一 に 訊 かれ 、 房枝 は 頷いた 。 |だいがくせい||はんにん って|ゆういち||じん||ふさえ||うなずいた |||the culprit|||asked|was asked|||nodded When asked by Yuichi, 'That university student is the culprit?' Fusaeda nodded. 祐一 と 殺さ れた 女性 が どこ まで 親しかった の か 知ら ない が 、 犯人 へ の 憎しみ ぐらい は 分かる 。 ゆういち||ころさ||じょせい||||したしかった|||しら|||はんにん|||にくしみ|||わかる ||||||||close friends|||||||||hatred||| I don't know how close Yuichi was to the woman who was murdered, but I can understand the hatred towards the perpetrator.

「 すぐに 捕まる さ 。 |つかまる| |will be caught| "They'll be caught soon." そう 、 逃げ 切れる もん ね 」 |にげ|きれる|| |||理由| "Yes, there's no way they can escape."

房枝 は 慰める ように 言った 。 ふさえ||なぐさめる||いった Fusae||comfort|| ||to comfort||

ベッド から 立ち上がった 祐一 の 顔 が 紅潮 して いた 。 べっど||たちあがった|ゆういち||かお||こうちょう|| |||||||blushing||

よほど 憎い のだろう と 思った が 、 どちら か と 言えば 、 犯人 が 分かった こと に 安堵 して いる ように も 見える 。 |にくい|||おもった|||||いえば|はんにん||わかった|||あんど|||||みえる very|hateful||||||||||||||relief||||| |||||||||||||||安心||||| I thought they really hated them, but if anything, they seem relieved that they found out who the culprit is.

「 そう いえば 、 あんた 、 この 前 の 日曜日 、 どこ に 出かけた と ね ? ||||ぜん||にちようび|||でかけた|| Speaking of which, where did you go last Sunday? 夜 、 ちょ ろっと 出かけ とった ろ ? よ||ろ っと|でかけ|| |a little|a little||| You went out for a bit at night, didn't you? 「 日曜 ? にちよう 「 また 車 の 整備 工場 やろ 」 |くるま||せいび|こうじょう|

房枝 の 断定 的な 言い 方 に 、 祐一 が 頷く 。 ふさえ||だんてい|てきな|いい|かた||ゆういち||うなずく Fusae||assertive|||||||

「 警察 に 訊 かれた と よ 。 けいさつ||じん||| 一応 、 その 女の子 の 知り合い 全員 に 訊 いて 回り よる とって 。 いちおう||おんなのこ||しりあい|ぜんいん||じん||まわり|| 岡崎 の ばあさん が 祐一 は どこ に も 出かけ とら んって 言う た らしくて 、 嘘 つく つもりじゃ なかった ばって ん 、 私 も そう やろって 答え とった よ 。 おかざき||||ゆういち|||||でかけ||ん って|いう|||うそ||||ば って||わたくし|||やろ って|こたえ|| Okazaki|||||||||||||||||intended||probably|||||probably||| |||||||||||||||||||けど|||||||| It seems that Okazaki's grandmother said that Yuichi didn't go out anywhere, and I wasn't trying to lie, but I also answered that way. 岡崎 の ばあちゃん は 一 、 二 時間 、 車 で 出かけて も 、 出かけた うち に は 入ら ん けん ねぇ 。 おかざき||||ひと|ふた|じかん|くるま||でかけて||でかけた||||はいら||| Okazaki's grandmother doesn't count going out if it's just one or two hours in the car. ところで 、 ごはん は 風呂 に 入って から 食べる と やろ ? |||ふろ||はいって||たべる|| By the way, you're supposed to eat after taking a bath, right? 房枝 は 一方的に そこ まで 言う と 、 返事 も 待た ず に 部屋 を 出た 。 ふさえ||いっぽうてきに|||いう||へんじ||また|||へや||でた Fusae||one-sided||||||||||||

階段 を 下りた ところ で 振り返り 、 二 階 を 見上げた 。 かいだん||おりた|||ふりかえり|ふた|かい||みあげた 夫 の 勝治 が からだ を 壊し 、 入 退院 を 繰り返して いる 今 、 自分 が 頼れる の は 祐一 しか いない のだ と 、 ふと 思う 。 おっと||かつじ||||こわし|はい|たいいん||くりかえして||いま|じぶん||たよれる|||ゆういち||||||おもう ||||||damaged||leaving the hospital||repeatedly|||||reliable||||||||suddenly| Now that my husband Katsuji has broken his body and is repeatedly entering and leaving the hospital, I suddenly think that the only person I can rely on is Yuuichi. 実の 娘 だろう が 、 父親 の 見舞い に も 来 ない 長女 は もちろん 、 祐一 の 母 である 次女 を 当て に できる はず も ない 。 じつの|むすめ|||ちちおや||みまい|||らい||ちょうじょ|||ゆういち||はは||じじょ||あて||||| |daughter|||||||||||||||||second daughter||||||| ||||||||||||||||||||当てる||||| Even though she is his real daughter, the eldest daughter, who does not even come to visit her father, of course, I can't expect anything from the younger daughter, who is Yuuichi's mother.

房枝 は エプロン の ポケット から 、 一 通 の 茶 封筒 を 取り出した 。 ふさえ||えぷろん||ぽけっと||ひと|つう||ちゃ|ふうとう||とりだした Fusae|||||||||||| Moeha took out an envelope made of tea-colored paper from the pocket of her apron.

中 に は 一 枚 の 領収 書 が 入って いる 。 なか|||ひと|まい||りょうしゅう|しょ||はいって|

〈 品 代 漢方 薬 一式 合計 ¥263500〉 しな|だい|かんぽう|くすり|いっしき|ごうけい ||||one set|

公民 館 に 健康 セミナー の 講師 と して 来て いた 堤 下 に 、「 市 内 の 事務 所 に くれば 、 安く 漢方 薬 を 分けて 上げられる 」 と 言わ れ 、 勝治 の 病院 へ 行った 帰り に 、 興味 半分 で 寄った の は 昨日 の こと だった 。 こうみん|かん||けんこう|せみなー||こうし|||きて||つつみ|した||し|うち||じむ|しょ|||やすく|かんぽう|くすり||わけて|あげ られる||いわ||かつじ||びょういん||おこなった|かえり||きょうみ|はんぶん||よった|||きのう||| ||||||||||||||||||||||||||given||||Katsuji||||||||||stopped by|||||| Yesterday, I stopped by out of half curiosity after being told by Tsutsumi, who was a lecturer at the health seminar in the civic center, that if I came to the office in the city, I could get cheap herbal medicine. 買う つもり など なかった 。 かう||| I had no intention of buying anything.

病院 と 家 と の 往復 に 疲れ 、 堤 下 の 笑い話 でも 聞く つもりで 寄った だけ だった のに 、 乱暴な 口 を きく 若い 男 たち に 囲ま れ 、 契約 書 に サイン さ せられた 。 びょういん||いえ|||おうふく||つかれ|つつみ|した||わらいばなし||きく||よった||||らんぼうな|くち|||わかい|おとこ|||かこま||けいやく|しょ||さいん||せら れた |||||round trip||tired||under||funny story||||||||rude|||||||||||||||made to sign I was just planning to hear a funny story from Tsutsumi after getting tired from going back and forth between the hospital and home, but I was surrounded by young men speaking rudely and was made to sign a contract. 今 は お 金 が ない と 涙声 で 訴える と 、 男 たち は 房枝 を 無理やり 郵便 局 まで 連れて いった 。 いま|||きむ||||なみだごえ||うったえる||おとこ|||ふさえ||むりやり|ゆうびん|きょく||つれて| |||||||tearful voice||pleaded|||||Fusae|||post|||| ||||||||||||||||強引に||||| Now, when she pleaded in a tearful voice that she had no money, the men forcibly took Sumi to the post office.

あまりに も 恐ろしくて 、 助け も 呼べ なかった 。 ||おそろしくて|たすけ||よべ| ||so怖くて|help|also|call| It was so terrifying that she couldn't even call for help. 房枝 は 監視 さ れた まま 、 なけなし の 貯金 を 下ろす しか なかった 。 ふさえ||かんし||||||ちょきん||おろす|| Fusae||surveillance||||measly||savings|||| ||||||わずかな|||||| While being watched, Sumi had no choice but to withdraw her meager savings.