三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 11 (2)
「 空耳 だった の かしら ……」
しかし 、 かなり はっきり と 聞こえた ようだった のだ 。
それなのに ……。
ただ 、 どうも 、 変な 方向 から ── と いう より 、 どこ から 聞こえた の か 、 はっきり し ない ような 足音 だった 。
音 が 反響 する せい だろう か 。
でも 、 それ に して は 、 当の 足音 の 主 が 見え ない と いう の は 、 おかしな もの だ 。
「 舞台 の 方 かしら 」
と 、 呟き ながら 、 綾子 は 立ち上った 。
端 の 方 に ある 木 の 階段 を 上って 、 舞台 に 上って みる 。
客席 の 方 を 眺め 回して 、 綾子 は 、 へえ 、 と 思った 。
まるで 別の 世界 の ように 見える 。
ちょっと 見る 位置 と 角度 を 変えた だけ で 、 まるで 別の 場所 の ように 思える のだ 。
これ は 綾子 に とって 、 新しい 発見 だった 。
大体 、 誰 が 見たって そう 思う だろう が 、 綾子 は 、 およそ 舞台 に 立つ こと と は 無縁な のだ 。 今 まで に 、 舞台 に 立った こと と いえば 、 学芸 会 を 除けば 、 中学 の とき 、 生徒 会長 に 立候補 した 友人 の 応援 演説 を した ぐらい だった 。
もっとも 、 それ は 演説 と は 言い難い もの で ── と いう の も 、 あがって しまった 綾子 は 、 ついに 一言 も 発せ ず に 終って しまった から だ 。
これ は 、 頼んだ 友人 の 方 が 無理だった 。
しかし 、 これ が 却って 好感 を 呼んだ 。
あんな 、 内気で 純情な 子 の 友だち なら 、 と いう ので 、 その 友人 に 票 が 集 り 、 当選 した のだった 。
しかし 、 その 結果 と は 別に 、 やはり 綾子 と して は 、 それ 以来 、 一 度 も 舞台 に 上って いない 。 もう こりごり 、 と いう ところ だった 。
大体 、 こうして 、 ただ 舞台 に 立って 、 空っぽの 客席 を 見回して いる だけ でも 、 何となく 緊張 して 来る のである 。
── コトン 、 と 背後 で 音 が した 。
何 だろう ?
振り向いて みた が 、 何も ない 。
少し 、 遠い 感じ の 音 だった が ……。
じゃ 、 舞台 の 裏 かも しれ ない わ 、 と 思って 、 綾子 は 、 歩いて 行った 。
裏側 は 、 薄暗くて 、 何となく 埃っぽい 。 こういう 所 が 、 綾子 は 嫌いだった 。
ともかく 、 四方八方 、 明るくて 、 開けて いない と 安心 でき ない 人 な のだ 。 もちろん お 風呂 に 入る とき など 、 それでは 困る わけだ が 、 でも 、 今 の マンション の お 風呂 場 に は 窓 が ない ので 、 ちょっと 不安で は あった 。
何だか 、 閉じこめられて しまい そうな 気 が する のである 。 ともかく ── 舞台 の 裏 に も 、 人 の 姿 らしい もの は ない 。
あの 物音 は 、 何 だった の かしら ?
綾子 は 、 肩 を すくめて 戻ろう と して …… 足下 に 落ちて いる 何 か に 気付いた 。
何かしら 。
── と 、 手 を のばした とき 、
「 危 い !
と 叫ぶ 声 が した と 思う と 、 凄い 勢い で 、 綾子 の 体 は 、 はね飛ばされて いた 。 いや 、 誰 か が 猛然と ぶつかって 来て 、 二 人 して 床 に もつれ ながら 転がって いた のだ 。
そして 、 次の 瞬間 、 ドン 、 と 床 を 打つ 、 鈍い 音 が した 。
「 お 姉さん !
大丈夫 ? と いう 声 に 、 綾子 は 面食らって 、 起き上り ながら 、
「 夕 里子 。
── 学校 に 行った んじゃ なかった の ? 「 それ どころ じゃ ない でしょ !
と 、 夕 里子 は 、 素早く はね 起きて いた 。
たった今 、 綾子 が 立って いた 所 に 、 重い 鉄 アレイ ── 体 を きたえる の に 使う やつ だ ── が 、 床板 を 半ば 突き破り そうに して 、 落ちて 食い込んで いた 。
タタッ 、 と いう 足音 が 頭上 を 駆け抜ける 。
「 外 だ わ !
夕 里子 は 、 駆け出した 。
綾子 は 、 妹 の 背中 に 、
「 学校 の 中 を 走っちゃ いけない わ よ !
と 、 声 を かけて いた 。