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こころ - 夏目漱石, Section 010 - Kokoro - Soseki Project

Section 010 - Kokoro - Soseki Project

先生 は これら の 墓 標 が 現わす 人種 々 の 様式 に 対して 、 私 ほど に 滑稽 も アイロニー も 認めて ない らしかった 。 私 が 丸い 墓石 だの 細長い 御影 の 碑 だ の を 指して 、 しきりに かれこれ いい た がる の を 、 始め の うち は 黙って 聞いて いた が 、 しまい に 「 あなた は 死 と いう 事実 を まだ 真面目に 考えた 事 が ありません ね 」 と いった 。 私 は 黙った 。 先生 も それ ぎり 何とも いわ なく なった 。

墓地 の 区切り 目 に 、 大きな 銀杏 が 一 本 空 を 隠す ように 立って いた 。 その 下 へ 来た 時 、 先生 は 高い 梢 を 見上げて 、「 もう 少し する と 、 綺麗です よ 。 この 木 が すっかり 黄葉 して 、 ここ い ら の 地面 は 金色 の 落葉 で 埋まる ように なります 」 と いった 。 先生 は 月 に 一 度 ずつ は 必ず この 木 の 下 を 通る のであった 。

向 う の 方 で 凸凹 の 地面 を ならして 新 墓地 を 作って いる 男 が 、 鍬 の 手 を 休めて 私 たち を 見て いた 。 私 たち は そこ から 左 へ 切れて すぐ 街道 へ 出た 。

これ から どこ へ 行く と いう 目的 の ない 私 は 、 ただ 先生 の 歩く 方 へ 歩いて 行った 。 先生 は いつも より 口数 を 利か なかった 。 それ でも 私 は さほど の 窮屈 を 感じ なかった ので 、 ぶらぶら いっしょに 歩いて 行った 。

「 すぐ お宅 へ お 帰り です か 」

「 ええ 別に 寄る 所 も ありません から 」 二 人 は また 黙って 南 の 方 へ 坂 を 下りた 。 「 先生 の お宅 の 墓地 は あす こ に ある んです か 」 と 私 が また 口 を 利き 出した 。

「 いいえ 」

「 どなた の お 墓 が ある んです か 。 ―― ご 親類 の お 墓 です か 」

「 いいえ 」

先生 は これ 以外 に 何も 答え なかった 。 私 も その 話 は それ ぎり に して 切り上げた 。 すると 一 町 ほど 歩いた 後 で 、 先生 が 不意に そこ へ 戻って 来た 。

「 あす こ に は 私 の 友達 の 墓 が ある んです 」

「 お 友達 の お 墓 へ 毎月 お参り を なさる んです か 」

「 そうです 」

先生 は その 日 これ 以外 を 語ら なかった 。

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先生 は これら の 墓 標 が 現わす 人種 々 の 様式 に 対して 、 私 ほど に 滑稽 も アイロニー も 認めて ない らしかった 。 せんせい||これ ら||はか|しるべ||あらわす|じんしゅ|||ようしき||たいして|わたくし|||こっけい||||みとめて|| The teacher did not seem to admit as humorous or irony as I did to the racial styles these tombstones reveal. 私 が 丸い 墓石 だの 細長い 御影 の 碑 だ の を 指して 、 しきりに かれこれ いい た がる の を 、 始め の うち は 黙って 聞いて いた が 、 しまい に 「 あなた は 死 と いう 事実 を まだ 真面目に 考えた 事 が ありません ね 」 と いった 。 わたくし||まるい|はかいし||ほそながい|みかげ||ひ||||さして||||||||はじめ||||だまって|きいて|||||||し|||じじつ|||まじめに|かんがえた|こと||あり ませ ん||| At first I was silently listening to what I wanted to say, pointing to a round tombstone and an elongated Mikage monument, but in the end, I still seriously thought about the fact that you were dead. I haven't done anything. " 私 は 黙った 。 わたくし||だまった 先生 も それ ぎり 何とも いわ なく なった 。 せんせい||||なんとも|||

墓地 の 区切り 目 に 、 大きな 銀杏 が 一 本 空 を 隠す ように 立って いた 。 ぼち||くぎり|め||おおきな|いちょう||ひと|ほん|から||かくす||たって| At the break of the graveyard, a large ginkgo stood to hide a single sky. その 下 へ 来た 時 、 先生 は 高い 梢 を 見上げて 、「 もう 少し する と 、 綺麗です よ 。 |した||きた|じ|せんせい||たかい|こずえ||みあげて||すこし|||きれいです| When I came under it, the teacher looked up at the tall treetops and said, "A little more, it's beautiful. この 木 が すっかり 黄葉 して 、 ここ い ら の 地面 は 金色 の 落葉 で 埋まる ように なります 」 と いった 。 |き|||こうよう||||||じめん||きんいろ||らくよう||うずまる||なり ます|| 先生 は 月 に 一 度 ずつ は 必ず この 木 の 下 を 通る のであった 。 せんせい||つき||ひと|たび|||かならず||き||した||とおる|

向 う の 方 で 凸凹 の 地面 を ならして 新 墓地 を 作って いる 男 が 、 鍬 の 手 を 休めて 私 たち を 見て いた 。 むかい|||かた||でこぼこ||じめん|||しん|ぼち||つくって||おとこ||くわ||て||やすめて|わたくし|||みて| A man building a new graveyard by smoothing the uneven ground over there was resting his hoe's hand and looking at us. 私 たち は そこ から 左 へ 切れて すぐ 街道 へ 出た 。 わたくし|||||ひだり||きれて||かいどう||でた

これ から どこ へ 行く と いう 目的 の ない 私 は 、 ただ 先生 の 歩く 方 へ 歩いて 行った 。 ||||いく|||もくてき|||わたくし|||せんせい||あるく|かた||あるいて|おこなった I had no purpose to go anywhere from now on, so I just walked in the direction of the teacher. 先生 は いつも より 口数 を 利か なかった 。 せんせい||||くちかず||きか| The teacher was less talkative than usual. それ でも 私 は さほど の 窮屈 を 感じ なかった ので 、 ぶらぶら いっしょに 歩いて 行った 。 ||わたくし||||きゅうくつ||かんじ|||||あるいて|おこなった Still, I didn't feel so cramped, so I walked around with him.

「 すぐ お宅 へ お 帰り です か 」 |おたく|||かえり||

「 ええ 別に 寄る 所 も ありません から 」 二 人 は また 黙って 南 の 方 へ 坂 を 下りた 。 |べつに|よる|しょ||あり ませ ん||ふた|じん|||だまって|みなみ||かた||さか||おりた "Yes, there is no place to stop by." The two silently went down the hill to the south. 「 先生 の お宅 の 墓地 は あす こ に ある んです か 」 と 私 が また 口 を 利き 出した 。 せんせい||おたく||ぼち|||||||||わたくし|||くち||きき|だした "Is there a graveyard in your teacher's house tomorrow?" I said again.

「 いいえ 」

「 どなた の お 墓 が ある んです か 。 |||はか|||| "Who has a grave? ―― ご 親類 の お 墓 です か 」 |しんるい|||はか||

「 いいえ 」

先生 は これ 以外 に 何も 答え なかった 。 せんせい|||いがい||なにも|こたえ| 私 も その 話 は それ ぎり に して 切り上げた 。 わたくし|||はなし||||||きりあげた I also rounded up the story to the last minute. すると 一 町 ほど 歩いた 後 で 、 先生 が 不意に そこ へ 戻って 来た 。 |ひと|まち||あるいた|あと||せんせい||ふいに|||もどって|きた

「 あす こ に は 私 の 友達 の 墓 が ある んです 」 ||||わたくし||ともだち||はか||| "Tomorrow there is a grave of my friend."

「 お 友達 の お 墓 へ 毎月 お参り を なさる んです か 」 |ともだち|||はか||まいつき|おまいり||||

「 そうです 」 そう です

先生 は その 日 これ 以外 を 語ら なかった 。 せんせい|||ひ||いがい||かたら|