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LibriVOX 04 - Japanese, (12) Yuki - 雪 (Ryūnosuke Akutagawa - 芥川龍之介)
(12) Yuki - 雪 (Ryūnosuke Akutagawa - 芥川 龍 之介)
或冬 曇り の 午後 、 わたし は 中央 線 の 汽車 の 窓 に 一 列 の 山脈 を 眺めて ゐた 。
山脈 は 勿論 まつ 白 だ つた 。
が 、 それ は 雪 と 言 ふ より も 山脈 の 皮膚 に 近い 色 を して ゐた 。
わたし は かう 言 ふ 山脈 を 見 ながら 、 ふと 或小 事件 を 思 ひ 出した 。
―― もう 四五 年 以前 に な つた 、 やはり 或冬 曇り の 午後 、 わたし は 或 友だち の アトリエ に 、―― 見 すぼ らしい 鋳もの の ストオヴ の 前 に 彼 や その モデル と 話して ゐた 。
アトリエ に は 彼 自身 の 油画 の 外 に 何も 装飾 に なる もの は なか つた 。
巻 煙草 を 啣 へた 断髪 の モデル も 、―― 彼女 は 成 程 混血 児 じみ た 一種 の 美し さ を 具 へて ゐた 。
しかし どう 言 ふ 量 見 か 、 天然 自然 に 生えた 睫毛 を 一 本 残らず 抜き と つて ゐた 。
…… 話 は いつか その頃 の 寒気 の 厳し さ に 移 つて ゐた 。
彼 は 如何に 庭 の 土 の 季節 を 感ずる か と 言 ふ こと を 話した 。
就 中 如何に 庭 の 土 の 冬 を 感ずる か と 言 ふ こと を 話した 。
「 つまり 土 も 生きて ゐる と 言 ふ 感じ だ ね 。」
彼 は パイプ に 煙草 を つめ つめ 、 我々 の 顔 を 眺め ま はした 。
わたし は 何とも 返事 を しず に 「 均 の つくり 」、 に ほ ひ の ない 珈琲 を 啜 つて ゐた 。
けれども それ は 断髪 の モデル に 何 か 感銘 を 与 へたら しか つた 。
彼女 は 赤い 「 目 + 匡 」、 まぶた を 擡げ 、 彼女 の 吐いた 煙 の 輪 に ぢつ と 目 を 注いで ゐた 。
それ から やはり 空中 を 見た まま 、 誰 に と も なし に こんな こと を 言 つた 。
―― 「 それ は 肌 も 同じだ わ ね 。
あたし も この 商売 を 始めて から 、 す つかり 肌 を 荒 して しまつ たも の 。
……」 或冬 曇り の 午後 、 わたし は 中央 線 の 汽車 の 窓 に 一 列 の 山脈 を 眺めて ゐた 。
山脈 は 勿論 まつ 白 だ つた 。
が 、 それ は 雪 と 言 ふ より も 人間 の 鮫 肌 に 近い 色 を して ゐた 。
わたし は かう 言 ふ 山脈 を 見 ながら 、 ふと あの モデル を 思 ひ 出した 、 あの 一 本 も 睫毛 の ない 、 混血 児 じみ た 日本 の 娘 さん を 。
(12) Yuki - 雪 (Ryūnosuke Akutagawa - 芥川 龍 之介)
yuki|ゆき|ryūnosuke|akutagawa|あくたがわ|りゅう|ゆきすけ
(12) Yuki - Yuki (Ryūnosuke Akutagawa)
(12) Yuki - Yuki (Ryūnosuke Akutagawa)
或冬 曇り の 午後 、 わたし は 中央 線 の 汽車 の 窓 に 一 列 の 山脈 を 眺めて ゐた 。
あるふゆ|くもり||ごご|||ちゅうおう|せん||きしゃ||まど||ひと|れつ||さんみゃく||ながめて|
山脈 は 勿論 まつ 白 だ つた 。
さんみゃく||もちろん||しろ||
が 、 それ は 雪 と 言 ふ より も 山脈 の 皮膚 に 近い 色 を して ゐた 。
|||ゆき||げん||||さんみゃく||ひふ||ちかい|いろ|||
わたし は かう 言 ふ 山脈 を 見 ながら 、 ふと 或小 事件 を 思 ひ 出した 。
|||げん||さんみゃく||み|||あるしょう|じけん||おも||だした
―― もう 四五 年 以前 に な つた 、 やはり 或冬 曇り の 午後 、 わたし は 或 友だち の アトリエ に 、―― 見 すぼ らしい 鋳もの の ストオヴ の 前 に 彼 や その モデル と 話して ゐた 。
|しご|とし|いぜん|||||あるふゆ|くもり||ごご|||ある|ともだち||あとりえ||み|||いもの||||ぜん||かれ|||もでる||はなして|
アトリエ に は 彼 自身 の 油画 の 外 に 何も 装飾 に なる もの は なか つた 。
あとりえ|||かれ|じしん||ゆが||がい||なにも|そうしょく||||||
巻 煙草 を 啣 へた 断髪 の モデル も 、―― 彼女 は 成 程 混血 児 じみ た 一種 の 美し さ を 具 へて ゐた 。
かん|たばこ||かん||だんぱつ||もでる||かのじょ||しげ|ほど|こんけつ|じ|||いっしゅ||うつくし|||つぶさ||
しかし どう 言 ふ 量 見 か 、 天然 自然 に 生えた 睫毛 を 一 本 残らず 抜き と つて ゐた 。
||げん||りょう|み||てんねん|しぜん||はえた|まつげ||ひと|ほん|のこらず|ぬき|||
…… 話 は いつか その頃 の 寒気 の 厳し さ に 移 つて ゐた 。
はなし|||そのころ||かんき||きびし|||うつ||
彼 は 如何に 庭 の 土 の 季節 を 感ずる か と 言 ふ こと を 話した 。
かれ||いかに|にわ||つち||きせつ||かんずる|||げん||||はなした
就 中 如何に 庭 の 土 の 冬 を 感ずる か と 言 ふ こと を 話した 。
つ|なか|いかに|にわ||つち||ふゆ||かんずる|||げん||||はなした
「 つまり 土 も 生きて ゐる と 言 ふ 感じ だ ね 。」
|つち||いきて|||げん||かんじ||
彼 は パイプ に 煙草 を つめ つめ 、 我々 の 顔 を 眺め ま はした 。
かれ||ぱいぷ||たばこ||||われわれ||かお||ながめ||
わたし は 何とも 返事 を しず に 「 均 の つくり 」、 に ほ ひ の ない 珈琲 を 啜 つて ゐた 。
||なんとも|へんじ||||ひとし||||||||こーひー||せつ||
けれども それ は 断髪 の モデル に 何 か 感銘 を 与 へたら しか つた 。
|||だんぱつ||もでる||なん||かんめい||あずか|||
彼女 は 赤い 「 目 + 匡 」、 まぶた を 擡げ 、 彼女 の 吐いた 煙 の 輪 に ぢつ と 目 を 注いで ゐた 。
かのじょ||あかい|め|きよう|||もたげ|かのじょ||はいた|けむり||りん||||め||そそいで|
それ から やはり 空中 を 見た まま 、 誰 に と も なし に こんな こと を 言 つた 。
|||くうちゅう||みた||だれ|||||||||げん|
―― 「 それ は 肌 も 同じだ わ ね 。
||はだ||おなじだ||
あたし も この 商売 を 始めて から 、 す つかり 肌 を 荒 して しまつ たも の 。
|||しょうばい||はじめて||||はだ||あら||||
……」 或冬 曇り の 午後 、 わたし は 中央 線 の 汽車 の 窓 に 一 列 の 山脈 を 眺めて ゐた 。
あるふゆ|くもり||ごご|||ちゅうおう|せん||きしゃ||まど||ひと|れつ||さんみゃく||ながめて|
山脈 は 勿論 まつ 白 だ つた 。
さんみゃく||もちろん||しろ||
が 、 それ は 雪 と 言 ふ より も 人間 の 鮫 肌 に 近い 色 を して ゐた 。
|||ゆき||げん||||にんげん||さめ|はだ||ちかい|いろ|||
わたし は かう 言 ふ 山脈 を 見 ながら 、 ふと あの モデル を 思 ひ 出した 、 あの 一 本 も 睫毛 の ない 、 混血 児 じみ た 日本 の 娘 さん を 。
|||げん||さんみゃく||み||||もでる||おも||だした||ひと|ほん||まつげ|||こんけつ|じ|||にっぽん||むすめ||
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