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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第二章 アスターテ会戦 (4)

第 二 章 アスターテ 会戦 (4)

さすが だ な 」

キルヒアイス を 介して 、 ラインハルト の 指令 が 帝国 軍 全 艦隊 に 伝え られた 。

ヘルメット を かぶって なければ 、 ヤン は ベレー を とって 黒い 頭髪 を かきまわしたい ところ だった 。 兵力 に 大差 の ない 場合 、 攻勢 に でる 側 に とって 有効な 戦法 は 中央 突破 ないし 半 包囲 である 。 たぶん 、 より 積極 的な ほう を 選択 して くる だろう と 彼 は 予測 して いた 。 どうやら それ は 的中 した らしい 。

「 ラオ 少佐 」

「 はっ、 司令 官 代理 どの 」 「 敵 は 紡 錘陣 形 を とり つつ ある 。 中央 突破 を はかる 気 だ 」

「 中央 突破 を ! 」 「 第 四 、 第 六 艦隊 を 撃 滅 して 士気 が 高まって いる 。 帝国 軍 と して は 当然の 戦法 だろう な 」

論評 する ヤン を 、 ラオ 少佐 は 心細 げ に 見 やった 。 その 表情 に 代表 さ れる 同盟 軍 の 弱気 こそ 、 帝国 軍 の 積極 戦法 の 成果 な のだ と ヤン は 思う 。

「 どう 対処 なさる お つもりで ? 」 「 対策 は 考えて ある 」 「 しかし 味方 に どう やって 連絡 なさいます か ? 通信 だ と 敵 に 傍受 さ れる 危険 が あります し 、 発光 信号 でも 同様です 。 連絡 艇 で は 時間 が かかり すぎます 」 「 心配 ない 、 複数 の 通信 回路 を 使って 、 各 艦 に 戦術 コンピューター の C 4 回路 を 開く よう 、 それ だけ を 告げれば よい 。 それ だけ なら 、 傍受 した ところ で 敵 に は 判断 でき ない だろう 」

「 する と 、 司令 官 代理 閣下 は 、 すでに 作戦 を 考案 されて 、 情報 を コンピューター に 入力 されて おら れた のです か …… 戦闘 開始 より ずっと 前 に 」 「 無用に なって いれば よかった のだ が ね 」

多少 、 弁解 じ みた 口調 だった かも しれ なかった 。 トロイ の 王女 カサンドラ 以来 、 敗戦 の 予言 者 は 白 眼 視 さ れる もの と 相場 が 決まって いる 。

「 それ より も 、 早く 指示 を 伝えて くれ 」

「 はっ、 ただちに 」 ラオ 少佐 は 補充 さ れた 通信 士官 の 席 へ 小走り に 駆けて いった 。 無事だった 五 人 だけ で は 艦 橋 を 運営 する の は 不可能な ので 、 艦 内 各 部署 から 一〇 人 ほど の 人数 を 招集 した のだ 。 もともと 軍艦 に 余剰 人員 など ない ので 、 手薄な 部署 が でて くる こと に なる が 、 やむ を え なかった 。

帝国 軍 は 悠々と 紡 錘陣 形 を ととのえる と 、 前進 を 開始 した 。 同盟 軍 は 砲火 で これ を 迎えた が 、 帝国 軍 は 意 に 介し ない 。 双方 の 距離 が 狭く なる に つれ 、 ほとばしる ビーム は 無数の 格子 模様 を 織り だした 。

ファーレンハイト の 指揮 する 帝国 軍 先頭 集団 は 、 速度 を ゆるめ ず 同盟 軍 の 陣 列 に 突入 して きた 。

「 敵 、 全 艦 突入 して きます ! 」 オペレーター の 声 が 高く するどい 。 ヤン は 天井 の パネル を 仰ぎみた 。 そこ に は 二七〇 度 の 広角 モニター が 埋めこまれて いる 。 加速 的に 接近 する 敵 影 に は 、 躍りかかって くる と いう 印象 が ある 。 ダイナミックで するどい うごき だ 。 それ に くらべる と 、 迎撃 する 同盟 軍 の うごき が にぶく 、 精彩 を 欠く ように みえる の は 、 やむ を え ない こと だろう 。

さて 、 どう なる こと か 。

ヤン は 指揮 官 席 で 腕 を くんだ 。 彼 は 外見 ほど 平然と して いた わけで は なかった 。 現在 の ところ 、 敵 の 行動 は ヤン の 予測 を こえて は いない 。 問題 は 味方 の 行動 である 。 彼 の 作戦 に したがって うごいて くれれば よい が 、 一 歩 誤れば 収拾 が つか なく なり 、 全軍 潰 走 と いう 事態 に なる であろう 。 その とき は どう する ?

「 頭 を かいて ごまかす さ 」

ヤン は 自分 自身 に そう 応えた 。 すべて を 予測 する こと は でき ない し 、 無 謬 の 行動 を とる こと も でき ない 。 自分 の 能力 を こえた こと に まで 責任 は もて ない のだ 。

Ⅵ 天井 の パネル が 脈 動 する 光 に おおわれて いる 。 いまや 戦艦 パトロクロス は 炸裂 する 光 芒 の 渦中 に あった 。 前後 に 、 左右 に 、 上下 に 、 襲いかかる ビーム は 槍 と いう より 棍棒 の 太 さ だ 。

パトロクロス 自身 も 砲門 を 開いて 、 死 と 破壊 の 息吹 を 敵 に たたきつけて いる 。 人 的 、 あるいは 物的な エネルギー の 莫大な 浪費 が 、 ここ で は 勝利 と 生存 へ の 道 と して 正当 化 されて いた 。 「 敵 戦艦 接近 ! 艦 型 から みて 、 ワレンシュタイン と 思わ れます 」 ワレンシュタイン は 艦 体 に すでに かなり の 損傷 を うけて いた 。 砲火 の なか を 猪突 して きた ようであった 。 半減 した 主砲 が 正面 から パトロクロス を 狙った が 、 パトロクロス の 反応 が この とき は 迅速だった 。

「 主砲 斉 射 ! 目標 至近 ! 」 臨時 に 砲術 長 を かねる ラオ 少佐 の 命令 である 。 パトロクロス の 前部 主砲 が いっせいに 中性子 ビーム を 吐きだし 、 ワレンシュタイン の 艦 体 中央 部 を 直撃 した 。

帝国 軍 の 巨大な 戦艦 は 一瞬 、 苦悶 に のたうった あと 、 音 も なく 四散 した 。 ヤン の へ ルメット の 通話 回路 に 歓声 が 反響 した が 、 その 末尾 は あらたな 驚愕 の うめき に 変わった 。 純白に 輝く 核 融合 爆発 の 渦 巻 を 傲然 と 突破 して 、 つぎの 敵 艦 ケルンテン が 偉 容 を あらわした のだ 。 帝国 軍 の 重厚な 陣容 と 、 戦意 の 高 さ を 、 ヤン は あらためて 確認 した 。

戦意 の 高 さ が 圧倒 的な 勝利 に よって も たらさ れた もの である こと は 明白である 。 自分 は 名将 の 誕生 する 瞬間 を 見て いる の かも しれ ない 、 と いう 思い が ヤン を とらえた 。

智 将 と 呼び 、 猛 将 と 言う 。 それ ら の 区分 を こえて 、 部下 に 不敗 の 信仰 を いだか せる 指揮 官 を 名将 と 称する ―― と ヤン は 史書 で 読んだ こと が あった 。 ローエングラム 伯 ラインハルト は まだ 若い はずだ が 、 すくなくとも 名将 に なり つつ ある 。 同盟 軍 に とって は 脅威 であり 、 帝国 軍 の 旧 勢力 に とって も おそらく そう であろう 。

ヤン は 脚 を くみ なおし 、 自分 が 歴史 の 流れ の なか に たたずんで いる であろう こと に かるい 満足 を おぼえた 。

その あいだ に も 、 戦場 の 様相 は 刻々 と 変化 を しめして いる 。

ケルンテン と パトロクロス は 砲火 を まじえた が 、 たがいに 致命 傷 を あたえ え ない まま 、 混戦 の なか で 離れ離れに なって いた 。

戦術 コンピューター が モニター に 映しだす 戦場 の 擬 似 モデル に ヤン は 視線 を むけた 。 単純 化 さ れた 図形 が 両軍 の 配置 と 戦況 を しめして いる 。

ときおり 逆 方向 へ の 小さな 波動 を まじえ ながら 、 全体 と して それ は 帝国 軍 の 前進 、 同盟 軍 の 後退 と いう かたち を みせて いた 。

その うごき が 、 しだいに 速度 を ました 。 帝国 軍 が いちだん と 前進 し 、 同盟 軍 が いちだん と 後退 する 。 逆 方向 へ の 小さな 波動 が 消えさり 、 擬 似 モデル の 映像 は いっそう 単純 化 さ れ 、 それだけに 効果 は 増幅 さ れた 。 誰 の 目 に も 、 帝国 軍 が 勝利 の 手 を 、 同盟 軍 が 敗北 の 尾 を 、 それぞれ つかみ そうに 見えた 。

「 どうやら 勝った な 」

ラインハルト は つぶやいた 。 中央 突破 策 は 功 を 奏し つつ ある ようだった 。

いっぽう 、 ヤン も ラオ 少佐 に むかって うなずいて いた 。

「 どうやら 、 うまく いき そうだ な 」

やれやれ 、 と いう 安堵 の 言葉 は 声 に し なかった 。

味方 が 彼 の 指示 に 従順である か 否 か 、 ヤン は それ を 心配 して いた のだ 。 立案 した 作戦 じたい に は 自信 が あった 。 この 段階 に いたって 、 もはや 勝利 は ない 。 しかし 、 負け ず に すむ 、 と いう こと は 可能な のだ 。 ただし 、 作戦 どおり に 味方 が うごけば 、 である 。

我 が 強く 、 ヤン ごとき 若 輩 に したがう の を いさぎよし と し ない 部隊 指揮 官 も いる に ちがいない が 、 彼ら と して も ほか に 有効な 作戦 案 を もた ない 以上 、 ヤン の 指令 を いれる しか ない のであろう 。 忠誠 心 と いう より 生存 へ の 欲望 が そう さ せた のであって も 、 ヤン に は いっこうに さしつかえ ない こと だった 。

ラインハルト の 顔 に かすかな 困惑 の 色 が 漂い はじめた 。

彼 は 席 から たちあがり 、 指揮 卓 に 両手 を ついて 天井 の スクリーン を にらみつけた 。 いらだた し さ が 彼 の 体 内 に 湧きだして いた 。

味方 は 前進 し 、 敵 は 後退 して いる 。 中央 突破 攻勢 を かけ られて 同盟 軍 は 左右 に 分断 さ れ つつ ある 。 スクリーン に 映る 光景 も 、 戦術 コンピューター が モニター に 再 構成 する 擬 似 モデル も 、 先頭 集団 から の 戦況 報告 も 、 すべて 同一の 事態 を 告げて いた 。

にもかかわらず 、 ラインハルト の 胸中 に は 遠 雷 が かすかに ひびき はじめて いる 。 なに かたち の 悪い 詐術 に かかった ような 不 快感 に 、 神経 が 侵さ れる の を 彼 は 自覚 した 。

彼 は 左手 で つくった 拳 を 口 に あて 、 人差指 の 第 二 関節 に かるく 歯 を たてた 。 その 瞬間 、 彼 は 理由 も なく 敵 の 意図 を 悟った 。

「 しまった ……」

その 低い うめき は 、 オペレーター の 叫び に おされて 誰 の 耳 に も とどか なかった 。 「 敵 が 左右 に 分かれ ました ! こ 、 これ は なんと 、 わが 軍 の 両側 を 高速で 逆 進 して いきます ! 」 「 キルヒアイス ! 」 驚愕 の どよめき の なか で 、 ラインハルト は 赤毛 の 副 官 を 呼んだ 。 「 して やられた …… 敵 は 両手 に 分かれて わが 軍 の 後 背 に まわる 気 だ 。 中央 突破 戦法 を 逆手 に とられて しまった …… 畜生 ! 」 金髪 の 若者 は 指揮 卓 に 拳 を たたきつけた 。 「 どう なさいます ? 反転 迎撃 なさいます か 」 キルヒアイス の 声 は 沈着 さ を 失って いない 。 それ は 一時的に 激昂 した 上官 の 神経 を 沈静 さ せる 効果 が あった 。

「 冗談 で は ない 。 おれ に 低 能 に なれ と いう の か 、 敵 の 第 四 艦隊 司令 官 以上 の ? 」 「 では 前進 する しか ありません ね 」 「 その とおり だ 」

ラインハルト は うなずき 、 通信 士官 に 命令 した 。

「 全 艦隊 、 全 速 前進 ! 逆 進 する 敵 の 後 背 に 喰 いつけ 。 方向 は 右 だ 。 急げ ! 」 Ⅶ 三〇 分 後 、 双方 の 陣形 は 輪 状 に つらなって いた 。 それ は 奇妙な 光景 だった 。 同盟 軍 の 先頭 集団 は 帝国 軍 の 後 尾 に 猛攻 を くわえ 、 帝国 軍 の 先頭 集団 は 二 股 に 分かれた 同盟 軍 の いっぽう の 後 尾 に 襲いかかって いる 。

光り輝く 二 匹 の 長大な 蛇 が 、 たがいに 相手 を 尾 から のみこもう と して いる ように 、 宇宙 の 深淵 の 彼方 から は 見えた かも しれ ない 。

「 こんな 陣形 は 初めて 見ます 」 モニター の 擬 似 モデル を 凝視 して いた ラオ 少佐 が 、 ヤン に むかって 歎声 を もらした 。

「 そう だろう ね …… 私 も さ 」

ヤン は 言った が 、 後半 は 噓 である 。 人類 が 地球 と いう 辺境 の 惑星 の 地表 だけ で 生活 して いた 当時 、 このような 陣形 が 戦場 に 生まれた こと は 幾 度 も あった 。 今回 の ローエングラム 伯 の 卓 抜 な 用 兵 に して も 地上 で は 先例 が ある 。 古来 ―― 幸 か 不幸 か ―― 戦乱 の 時代 に は かならず 、 それ まで の 用 兵 思想 を 一変 さ せる 軍事 的 天才 が 登場 して いる もの だ 。

「 なんたる ぶざまな 陣形 だ ! 」 ブリュンヒルト の 艦 橋 で は 憤激 の 叫び が あがって いた 。 「 これ で は 消耗 戦 で は ない か ……」

ラインハルト は 声 を 抑えて にがにがしく つぶやいた 。

彼 の もと に 高級 指揮 官 戦死 の 報 が とどいて いた 。 エルラッハ 少将 が 乗 艦 もろとも 吹き飛んだ のである 。 全 速 前進 と いう ラインハルト の 指令 を 無視 し 、 同盟 軍 を 反転 迎撃 しよう と して 、 回 頭 中 に 中性子 ビーム 砲 の 直撃 を うけた のだった 。

背後 から 敵 に 肉迫 されて いる のに 、 その 眼前 で 艦 を 回 頭 しよう と は 、 なんたる 低 能 か ! 自業自得 だ 。 とはいえ 、 帝国 軍 の 勝利 に 一抹 の 影 が おちた こと は いなめ ない 。

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第 二 章 アスターテ 会戦 (4) だい|ふた|しょう||かいせん Chapter II Astarte Battle (4)

さすが だ な 」

キルヒアイス を 介して 、 ラインハルト の 指令 が 帝国 軍 全 艦隊 に 伝え られた 。 ||かいして|||しれい||ていこく|ぐん|ぜん|かんたい||つたえ|

ヘルメット を かぶって なければ 、 ヤン は ベレー を とって 黒い 頭髪 を かきまわしたい ところ だった 。 へるめっと|||||||||くろい|とうはつ|||| 兵力 に 大差 の ない 場合 、 攻勢 に でる 側 に とって 有効な 戦法 は 中央 突破 ないし 半 包囲 である 。 へいりょく||たいさ|||ばあい|こうせい|||がわ|||ゆうこうな|せんぽう||ちゅうおう|とっぱ||はん|ほうい| たぶん 、 より 積極 的な ほう を 選択 して くる だろう と 彼 は 予測 して いた 。 ||せっきょく|てきな|||せんたく|||||かれ||よそく|| どうやら それ は 的中 した らしい 。 |||てきちゅう||

「 ラオ 少佐 」 |しょうさ

「 はっ、 司令 官 代理 どの 」 |しれい|かん|だいり| 「 敵 は 紡 錘陣 形 を とり つつ ある 。 てき||つむ|すいじん|かた|||| 中央 突破 を はかる 気 だ 」 ちゅうおう|とっぱ|||き|

「 中央 突破 を ! ちゅうおう|とっぱ| 」 「 第 四 、 第 六 艦隊 を 撃 滅 して 士気 が 高まって いる 。 だい|よっ|だい|むっ|かんたい||う|めつ||しき||たかまって| 帝国 軍 と して は 当然の 戦法 だろう な 」 ていこく|ぐん||||とうぜんの|せんぽう||

論評 する ヤン を 、 ラオ 少佐 は 心細 げ に 見 やった 。 ろんぴょう|||||しょうさ||こころぼそ|||み| その 表情 に 代表 さ れる 同盟 軍 の 弱気 こそ 、 帝国 軍 の 積極 戦法 の 成果 な のだ と ヤン は 思う 。 |ひょうじょう||だいひょう|||どうめい|ぐん||よわき||ていこく|ぐん||せっきょく|せんぽう||せいか||||||おもう

「 どう 対処 なさる お つもりで ? |たいしょ||| 」 「 対策 は 考えて ある 」 たいさく||かんがえて| 「 しかし 味方 に どう やって 連絡 なさいます か ? |みかた||||れんらく|| 通信 だ と 敵 に 傍受 さ れる 危険 が あります し 、 発光 信号 でも 同様です 。 つうしん|||てき||ぼうじゅ|||きけん||||はっこう|しんごう||どうよう です 連絡 艇 で は 時間 が かかり すぎます 」 れんらく|てい|||じかん||| 「 心配 ない 、 複数 の 通信 回路 を 使って 、 各 艦 に 戦術 コンピューター の C 4 回路 を 開く よう 、 それ だけ を 告げれば よい 。 しんぱい||ふくすう||つうしん|かいろ||つかって|かく|かん||せんじゅつ|こんぴゅーたー|||かいろ||あく|||||つげれば| それ だけ なら 、 傍受 した ところ で 敵 に は 判断 でき ない だろう 」 |||ぼうじゅ||||てき|||はんだん|||

「 する と 、 司令 官 代理 閣下 は 、 すでに 作戦 を 考案 されて 、 情報 を コンピューター に 入力 されて おら れた のです か …… 戦闘 開始 より ずっと 前 に 」 ||しれい|かん|だいり|かっか|||さくせん||こうあん||じょうほう||こんぴゅーたー||にゅうりょく||||の です||せんとう|かいし|||ぜん| 「 無用に なって いれば よかった のだ が ね 」 むよう に||||||

多少 、 弁解 じ みた 口調 だった かも しれ なかった 。 たしょう|べんかい|||くちょう|||| トロイ の 王女 カサンドラ 以来 、 敗戦 の 予言 者 は 白 眼 視 さ れる もの と 相場 が 決まって いる 。 ||おうじょ||いらい|はいせん||よげん|もの||しろ|がん|し|||||そうば||きまって|

「 それ より も 、 早く 指示 を 伝えて くれ 」 |||はやく|しじ||つたえて|

「 はっ、 ただちに 」 ラオ 少佐 は 補充 さ れた 通信 士官 の 席 へ 小走り に 駆けて いった 。 |しょうさ||ほじゅう|||つうしん|しかん||せき||こばしり||かけて| 無事だった 五 人 だけ で は 艦 橋 を 運営 する の は 不可能な ので 、 艦 内 各 部署 から 一〇 人 ほど の 人数 を 招集 した のだ 。 ぶじだった|いつ|じん||||かん|きょう||うんえい||||ふかのうな||かん|うち|かく|ぶしょ||ひと|じん|||にんずう||しょうしゅう|| もともと 軍艦 に 余剰 人員 など ない ので 、 手薄な 部署 が でて くる こと に なる が 、 やむ を え なかった 。 |ぐんかん||よじょう|じんいん||||てうすな|ぶしょ|||||||||||

帝国 軍 は 悠々と 紡 錘陣 形 を ととのえる と 、 前進 を 開始 した 。 ていこく|ぐん||ゆうゆうと|つむ|すいじん|かた||||ぜんしん||かいし| 同盟 軍 は 砲火 で これ を 迎えた が 、 帝国 軍 は 意 に 介し ない 。 どうめい|ぐん||ほうか||||むかえた||ていこく|ぐん||い||かいし| 双方 の 距離 が 狭く なる に つれ 、 ほとばしる ビーム は 無数の 格子 模様 を 織り だした 。 そうほう||きょり||せまく|||||||むすうの|こうし|もよう||おり|

ファーレンハイト の 指揮 する 帝国 軍 先頭 集団 は 、 速度 を ゆるめ ず 同盟 軍 の 陣 列 に 突入 して きた 。 ||しき||ていこく|ぐん|せんとう|しゅうだん||そくど||||どうめい|ぐん||じん|れつ||とつにゅう||

「 敵 、 全 艦 突入 して きます ! てき|ぜん|かん|とつにゅう|| 」 オペレーター の 声 が 高く するどい 。 ||こえ||たかく| ヤン は 天井 の パネル を 仰ぎみた 。 ||てんじょう||ぱねる||あおぎみた そこ に は 二七〇 度 の 広角 モニター が 埋めこまれて いる 。 |||にしち|たび||こうかく|もにたー||うめこまれて| 加速 的に 接近 する 敵 影 に は 、 躍りかかって くる と いう 印象 が ある 。 かそく|てきに|せっきん||てき|かげ|||おどりかかって||||いんしょう|| ダイナミックで するどい うごき だ 。 だいなみっくで||| それ に くらべる と 、 迎撃 する 同盟 軍 の うごき が にぶく 、 精彩 を 欠く ように みえる の は 、 やむ を え ない こと だろう 。 ||||げいげき||どうめい|ぐん|||||せいさい||かく|よう に|||||||||

さて 、 どう なる こと か 。

ヤン は 指揮 官 席 で 腕 を くんだ 。 ||しき|かん|せき||うで|| 彼 は 外見 ほど 平然と して いた わけで は なかった 。 かれ||がいけん||へいぜんと||||| 現在 の ところ 、 敵 の 行動 は ヤン の 予測 を こえて は いない 。 げんざい|||てき||こうどう||||よそく|||| 問題 は 味方 の 行動 である 。 もんだい||みかた||こうどう| 彼 の 作戦 に したがって うごいて くれれば よい が 、 一 歩 誤れば 収拾 が つか なく なり 、 全軍 潰 走 と いう 事態 に なる であろう 。 かれ||さくせん|||||||ひと|ふ|あやまれば|しゅうしゅう|||||ぜんぐん|つぶ|はし|||じたい||| その とき は どう する ?

「 頭 を かいて ごまかす さ 」 あたま||||

ヤン は 自分 自身 に そう 応えた 。 ||じぶん|じしん|||こたえた すべて を 予測 する こと は でき ない し 、 無 謬 の 行動 を とる こと も でき ない 。 ||よそく|||||||む|びゅう||こうどう|||||| 自分 の 能力 を こえた こと に まで 責任 は もて ない のだ 。 じぶん||のうりょく||||||せきにん||||

Ⅵ 天井 の パネル が 脈 動 する 光 に おおわれて いる 。 てんじょう||ぱねる||みゃく|どう||ひかり||| いまや 戦艦 パトロクロス は 炸裂 する 光 芒 の 渦中 に あった 。 |せんかん|||さくれつ||ひかり|のぎ||かちゅう|| 前後 に 、 左右 に 、 上下 に 、 襲いかかる ビーム は 槍 と いう より 棍棒 の 太 さ だ 。 ぜんご||さゆう||じょうげ||おそいかかる|||やり||||こんぼう||ふと||

パトロクロス 自身 も 砲門 を 開いて 、 死 と 破壊 の 息吹 を 敵 に たたきつけて いる 。 |じしん||ほうもん||あいて|し||はかい||いぶき||てき||| 人 的 、 あるいは 物的な エネルギー の 莫大な 浪費 が 、 ここ で は 勝利 と 生存 へ の 道 と して 正当 化 されて いた 。 じん|てき||ぶってきな|えねるぎー||ばくだいな|ろうひ|||||しょうり||せいぞん|||どう|||せいとう|か|| 「 敵 戦艦 接近 ! てき|せんかん|せっきん 艦 型 から みて 、 ワレンシュタイン と 思わ れます 」 かん|かた|||||おもわ| ワレンシュタイン は 艦 体 に すでに かなり の 損傷 を うけて いた 。 ||かん|からだ|||||そんしょう||| 砲火 の なか を 猪突 して きた ようであった 。 ほうか||||ちょとつ||| 半減 した 主砲 が 正面 から パトロクロス を 狙った が 、 パトロクロス の 反応 が この とき は 迅速だった 。 はんげん||しゅほう||しょうめん||||ねらった||||はんのう|||||じんそくだった

「 主砲 斉 射 ! しゅほう|ひとし|い 目標 至近 ! もくひょう|しきん 」 臨時 に 砲術 長 を かねる ラオ 少佐 の 命令 である 。 りんじ||ほうじゅつ|ちょう||||しょうさ||めいれい| パトロクロス の 前部 主砲 が いっせいに 中性子 ビーム を 吐きだし 、 ワレンシュタイン の 艦 体 中央 部 を 直撃 した 。 ||ぜんぶ|しゅほう|||ちゅうせいし|||はきだし|||かん|からだ|ちゅうおう|ぶ||ちょくげき|

帝国 軍 の 巨大な 戦艦 は 一瞬 、 苦悶 に のたうった あと 、 音 も なく 四散 した 。 ていこく|ぐん||きょだいな|せんかん||いっしゅん|くもん||||おと|||しさん| ヤン の へ ルメット の 通話 回路 に 歓声 が 反響 した が 、 その 末尾 は あらたな 驚愕 の うめき に 変わった 。 |||||つうわ|かいろ||かんせい||はんきょう||||まつび|||きょうがく||||かわった 純白に 輝く 核 融合 爆発 の 渦 巻 を 傲然 と 突破 して 、 つぎの 敵 艦 ケルンテン が 偉 容 を あらわした のだ 。 じゅんぱくに|かがやく|かく|ゆうごう|ばくはつ||うず|かん||ごうぜん||とっぱ|||てき|かん|||えら|よう||| 帝国 軍 の 重厚な 陣容 と 、 戦意 の 高 さ を 、 ヤン は あらためて 確認 した 。 ていこく|ぐん||じゅうこうな|じんよう||せんい||たか||||||かくにん|

戦意 の 高 さ が 圧倒 的な 勝利 に よって も たらさ れた もの である こと は 明白である 。 せんい||たか|||あっとう|てきな|しょうり||||||||||めいはくである 自分 は 名将 の 誕生 する 瞬間 を 見て いる の かも しれ ない 、 と いう 思い が ヤン を とらえた 。 じぶん||めいしょう||たんじょう||しゅんかん||みて||||||||おもい||||

智 将 と 呼び 、 猛 将 と 言う 。 さとし|すすむ||よび|もう|すすむ||いう それ ら の 区分 を こえて 、 部下 に 不敗 の 信仰 を いだか せる 指揮 官 を 名将 と 称する ―― と ヤン は 史書 で 読んだ こと が あった 。 |||くぶん|||ぶか||ふはい||しんこう||||しき|かん||めいしょう||しょうする||||ししょ||よんだ||| ローエングラム 伯 ラインハルト は まだ 若い はずだ が 、 すくなくとも 名将 に なり つつ ある 。 |はく||||わかい||||めいしょう|||| 同盟 軍 に とって は 脅威 であり 、 帝国 軍 の 旧 勢力 に とって も おそらく そう であろう 。 どうめい|ぐん||||きょうい||ていこく|ぐん||きゅう|せいりょく||||||

ヤン は 脚 を くみ なおし 、 自分 が 歴史 の 流れ の なか に たたずんで いる であろう こと に かるい 満足 を おぼえた 。 ||あし|||なお し|じぶん||れきし||ながれ||||||||||まんぞく||

その あいだ に も 、 戦場 の 様相 は 刻々 と 変化 を しめして いる 。 ||||せんじょう||ようそう||こくこく||へんか|||

ケルンテン と パトロクロス は 砲火 を まじえた が 、 たがいに 致命 傷 を あたえ え ない まま 、 混戦 の なか で 離れ離れに なって いた 。 ||||ほうか|||||ちめい|きず||||||こんせん||||はなればなれに||

戦術 コンピューター が モニター に 映しだす 戦場 の 擬 似 モデル に ヤン は 視線 を むけた 。 せんじゅつ|こんぴゅーたー||もにたー||うつしだす|せんじょう||ぎ|に|もでる||||しせん|| 単純 化 さ れた 図形 が 両軍 の 配置 と 戦況 を しめして いる 。 たんじゅん|か|||ずけい||りょうぐん||はいち||せんきょう|||

ときおり 逆 方向 へ の 小さな 波動 を まじえ ながら 、 全体 と して それ は 帝国 軍 の 前進 、 同盟 軍 の 後退 と いう かたち を みせて いた 。 |ぎゃく|ほうこう|||ちいさな|はどう||||ぜんたい|||||ていこく|ぐん||ぜんしん|どうめい|ぐん||こうたい||||||

その うごき が 、 しだいに 速度 を ました 。 ||||そくど|| 帝国 軍 が いちだん と 前進 し 、 同盟 軍 が いちだん と 後退 する 。 ていこく|ぐん||||ぜんしん||どうめい|ぐん||||こうたい| 逆 方向 へ の 小さな 波動 が 消えさり 、 擬 似 モデル の 映像 は いっそう 単純 化 さ れ 、 それだけに 効果 は 増幅 さ れた 。 ぎゃく|ほうこう|||ちいさな|はどう||きえさり|ぎ|に|もでる||えいぞう|||たんじゅん|か||||こうか||ぞうふく|| 誰 の 目 に も 、 帝国 軍 が 勝利 の 手 を 、 同盟 軍 が 敗北 の 尾 を 、 それぞれ つかみ そうに 見えた 。 だれ||め|||ていこく|ぐん||しょうり||て||どうめい|ぐん||はいぼく||お||||そう に|みえた

「 どうやら 勝った な 」 |かった|

ラインハルト は つぶやいた 。 中央 突破 策 は 功 を 奏し つつ ある ようだった 。 ちゅうおう|とっぱ|さく||いさお||そうし|||

いっぽう 、 ヤン も ラオ 少佐 に むかって うなずいて いた 。 ||||しょうさ||||

「 どうやら 、 うまく いき そうだ な 」 |||そう だ|

やれやれ 、 と いう 安堵 の 言葉 は 声 に し なかった 。 |||あんど||ことば||こえ|||

味方 が 彼 の 指示 に 従順である か 否 か 、 ヤン は それ を 心配 して いた のだ 。 みかた||かれ||しじ||じゅうじゅんである||いな||||||しんぱい||| 立案 した 作戦 じたい に は 自信 が あった 。 りつあん||さくせん||||じしん|| この 段階 に いたって 、 もはや 勝利 は ない 。 |だんかい||||しょうり|| しかし 、 負け ず に すむ 、 と いう こと は 可能な のだ 。 |まけ||||||||かのうな| ただし 、 作戦 どおり に 味方 が うごけば 、 である 。 |さくせん|||みかた|||

我 が 強く 、 ヤン ごとき 若 輩 に したがう の を いさぎよし と し ない 部隊 指揮 官 も いる に ちがいない が 、 彼ら と して も ほか に 有効な 作戦 案 を もた ない 以上 、 ヤン の 指令 を いれる しか ない のであろう 。 われ||つよく|||わか|やから|||||||||ぶたい|しき|かん||||||かれら||||||ゆうこうな|さくせん|あん||||いじょう|||しれい||い れる||| 忠誠 心 と いう より 生存 へ の 欲望 が そう さ せた のであって も 、 ヤン に は いっこうに さしつかえ ない こと だった 。 ちゅうせい|こころ||||せいぞん|||よくぼう||||||||||||||

ラインハルト の 顔 に かすかな 困惑 の 色 が 漂い はじめた 。 ||かお|||こんわく||いろ||ただよい|

彼 は 席 から たちあがり 、 指揮 卓 に 両手 を ついて 天井 の スクリーン を にらみつけた 。 かれ||せき|||しき|すぐる||りょうて|||てんじょう||すくりーん|| いらだた し さ が 彼 の 体 内 に 湧きだして いた 。 ||||かれ||からだ|うち||わきだして|

味方 は 前進 し 、 敵 は 後退 して いる 。 みかた||ぜんしん||てき||こうたい|| 中央 突破 攻勢 を かけ られて 同盟 軍 は 左右 に 分断 さ れ つつ ある 。 ちゅうおう|とっぱ|こうせい||||どうめい|ぐん||さゆう||ぶんだん|||| スクリーン に 映る 光景 も 、 戦術 コンピューター が モニター に 再 構成 する 擬 似 モデル も 、 先頭 集団 から の 戦況 報告 も 、 すべて 同一の 事態 を 告げて いた 。 すくりーん||うつる|こうけい||せんじゅつ|こんぴゅーたー||もにたー||さい|こうせい||ぎ|に|もでる||せんとう|しゅうだん|||せんきょう|ほうこく|||どういつの|じたい||つげて|

にもかかわらず 、 ラインハルト の 胸中 に は 遠 雷 が かすかに ひびき はじめて いる 。 |||きょうちゅう|||とお|かみなり||||| なに かたち の 悪い 詐術 に かかった ような 不 快感 に 、 神経 が 侵さ れる の を 彼 は 自覚 した 。 |||わるい|さじゅつ||||ふ|かいかん||しんけい||おかさ||||かれ||じかく|

彼 は 左手 で つくった 拳 を 口 に あて 、 人差指 の 第 二 関節 に かるく 歯 を たてた 。 かれ||ひだりて|||けん||くち|||ひとさしゆび||だい|ふた|かんせつ|||は|| その 瞬間 、 彼 は 理由 も なく 敵 の 意図 を 悟った 。 |しゅんかん|かれ||りゆう|||てき||いと||さとった

「 しまった ……」

その 低い うめき は 、 オペレーター の 叫び に おされて 誰 の 耳 に も とどか なかった 。 |ひくい|||||さけび|||だれ||みみ|||| 「 敵 が 左右 に 分かれ ました ! てき||さゆう||わかれ| こ 、 これ は なんと 、 わが 軍 の 両側 を 高速で 逆 進 して いきます ! |||||ぐん||りょうがわ||こうそくで|ぎゃく|すすむ|| 」 「 キルヒアイス ! 」 驚愕 の どよめき の なか で 、 ラインハルト は 赤毛 の 副 官 を 呼んだ 。 きょうがく||||||||あかげ||ふく|かん||よんだ 「 して やられた …… 敵 は 両手 に 分かれて わが 軍 の 後 背 に まわる 気 だ 。 ||てき||りょうて||わかれて||ぐん||あと|せ|||き| 中央 突破 戦法 を 逆手 に とられて しまった …… 畜生 ! ちゅうおう|とっぱ|せんぽう||さかて||||ちくしょう 」 金髪 の 若者 は 指揮 卓 に 拳 を たたきつけた 。 きんぱつ||わかもの||しき|すぐる||けん|| 「 どう なさいます ? 反転 迎撃 なさいます か 」 はんてん|げいげき|| キルヒアイス の 声 は 沈着 さ を 失って いない 。 ||こえ||ちんちゃく|||うしなって| それ は 一時的に 激昂 した 上官 の 神経 を 沈静 さ せる 効果 が あった 。 ||いちじてきに|げきこう||じょうかん||しんけい||ちんせい|||こうか||

「 冗談 で は ない 。 じょうだん||| おれ に 低 能 に なれ と いう の か 、 敵 の 第 四 艦隊 司令 官 以上 の ? ||てい|のう|||||||てき||だい|よっ|かんたい|しれい|かん|いじょう| 」 「 では 前進 する しか ありません ね 」 |ぜんしん|||| 「 その とおり だ 」

ラインハルト は うなずき 、 通信 士官 に 命令 した 。 |||つうしん|しかん||めいれい|

「 全 艦隊 、 全 速 前進 ! ぜん|かんたい|ぜん|はや|ぜんしん 逆 進 する 敵 の 後 背 に 喰 いつけ 。 ぎゃく|すすむ||てき||あと|せ||しょく| 方向 は 右 だ 。 ほうこう||みぎ| 急げ ! いそげ 」 Ⅶ 三〇 分 後 、 双方 の 陣形 は 輪 状 に つらなって いた 。 みっ|ぶん|あと|そうほう||じんけい||りん|じょう||| それ は 奇妙な 光景 だった 。 ||きみょうな|こうけい| 同盟 軍 の 先頭 集団 は 帝国 軍 の 後 尾 に 猛攻 を くわえ 、 帝国 軍 の 先頭 集団 は 二 股 に 分かれた 同盟 軍 の いっぽう の 後 尾 に 襲いかかって いる 。 どうめい|ぐん||せんとう|しゅうだん||ていこく|ぐん||あと|お||もうこう|||ていこく|ぐん||せんとう|しゅうだん||ふた|また||わかれた|どうめい|ぐん||||あと|お||おそいかかって|

光り輝く 二 匹 の 長大な 蛇 が 、 たがいに 相手 を 尾 から のみこもう と して いる ように 、 宇宙 の 深淵 の 彼方 から は 見えた かも しれ ない 。 ひかりかがやく|ふた|ひき||ちょうだいな|へび|||あいて||お||||||よう に|うちゅう||しんえん||かなた|||みえた|||

「 こんな 陣形 は 初めて 見ます 」 |じんけい||はじめて|みます モニター の 擬 似 モデル を 凝視 して いた ラオ 少佐 が 、 ヤン に むかって 歎声 を もらした 。 もにたー||ぎ|に|もでる||ぎょうし||||しょうさ|||||たんこえ||

「 そう だろう ね …… 私 も さ 」 |||わたくし||

ヤン は 言った が 、 後半 は 噓 である 。 ||いった||こうはん||| 人類 が 地球 と いう 辺境 の 惑星 の 地表 だけ で 生活 して いた 当時 、 このような 陣形 が 戦場 に 生まれた こと は 幾 度 も あった 。 じんるい||ちきゅう|||へんきょう||わくせい||ちひょう|||せいかつ|||とうじ||じんけい||せんじょう||うまれた|||いく|たび|| 今回 の ローエングラム 伯 の 卓 抜 な 用 兵 に して も 地上 で は 先例 が ある 。 こんかい|||はく||すぐる|ぬき||よう|つわもの||||ちじょう|||せんれい|| 古来 ―― 幸 か 不幸 か ―― 戦乱 の 時代 に は かならず 、 それ まで の 用 兵 思想 を 一変 さ せる 軍事 的 天才 が 登場 して いる もの だ 。 こらい|こう||ふこう||せんらん||じだい|||||||よう|つわもの|しそう||いっぺん|||ぐんじ|てき|てんさい||とうじょう||||

「 なんたる ぶざまな 陣形 だ ! ||じんけい| 」 ブリュンヒルト の 艦 橋 で は 憤激 の 叫び が あがって いた 。 ||かん|きょう|||ふんげき||さけび||| 「 これ で は 消耗 戦 で は ない か ……」 |||しょうもう|いくさ||||

ラインハルト は 声 を 抑えて にがにがしく つぶやいた 。 ||こえ||おさえて||

彼 の もと に 高級 指揮 官 戦死 の 報 が とどいて いた 。 かれ||||こうきゅう|しき|かん|せんし||ほう||| エルラッハ 少将 が 乗 艦 もろとも 吹き飛んだ のである 。 |しょうしょう||じょう|かん||ふきとんだ| 全 速 前進 と いう ラインハルト の 指令 を 無視 し 、 同盟 軍 を 反転 迎撃 しよう と して 、 回 頭 中 に 中性子 ビーム 砲 の 直撃 を うけた のだった 。 ぜん|はや|ぜんしん|||||しれい||むし||どうめい|ぐん||はんてん|げいげき||||かい|あたま|なか||ちゅうせいし||ほう||ちょくげき|||

背後 から 敵 に 肉迫 されて いる のに 、 その 眼前 で 艦 を 回 頭 しよう と は 、 なんたる 低 能 か ! はいご||てき||にくはく|||||がんぜん||かん||かい|あたま|||||てい|のう| 自業自得 だ 。 じごうじとく| とはいえ 、 帝国 軍 の 勝利 に 一抹 の 影 が おちた こと は いなめ ない 。 |ていこく|ぐん||しょうり||いちまつ||かげ||||||