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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第五章 イゼルローン攻略 (4)

第 五 章 イゼルローン 攻略 (4)

応用 化学 者 であった ゼッフル が 、 惑星 規模 の 鉱物 採掘 や 土木 工事 を おこなう ため 発明 した もの で 、 要するに それ は 、 一定 量 以上 の 熱量 や エネルギー に 反応 して 制御 可能な 範囲 内 で 引火 爆発 する ガス の ような もの だ 。 しかし 、 どんな 分野 の 工業 技術 であって も 、 人類 は それ を 軍事 に 転用 して きた のである 。

レムラー 中佐 の 顔 は 、 ほとんど 黒ずんで みえた 。 エネルギー ・ ビーム を 発射 する ブラスター は 使用 不可能に なった のだ 。 撃てば 共倒れ に なる 。 空気 中 の ゼッフル 粒子 が ビーム に 引火 し 、 室 内 に いる 全員 が 一瞬 で 灰 に なって しまう 。

「 ち ゅ 、 中佐 ……」

警備 兵 の ひと り が 悲鳴 じ みた 声 を あげた 。 レムラー 中佐 は うつろな 光 を たたえた 眼 で 、 シュトックハウゼン 大将 を 見た 。 シェーンコップ が 心もち 腕 を ゆるめる と 、 二 度 ほど 激しい 呼吸 を した のち 、 イゼルローン 要塞 の 司令 官 は 屈服 した 。

「 お前 ら の 勝ち だ 。 しかたない 、 降伏 する 」

シェーンコップ は 内心 で 安堵 の 吐息 を 洩らした 。

「 よし 、 各 員 、 予定 どおり に 行動 だ 」

大佐 の 部下 たち は 指示 に したがって 行動 に うつった 。 管制 コンピューター の プログラム を 変更 し 、 あらゆる 防御 システム を 無力 化 さ せ 、 空調 システム を つうじて 全 要塞 に 睡眠 ガス を 流す 。 ブレーメン 型 軽 巡 に 身 を ひそめて いた 技術 兵 が とびだして 、 これら の 作業 を 手ぎわ よく 実行 して いった 。 ごく 一部 の 者 しか 気づか ない あいだ に 、 イゼルローン の 体 細胞 は ガン に 冒さ れた ように 機能 を 奪われて いった のだ 。 五 時間 後 、 豆 スープ の ように 濁った 睡眠 から 解放 さ れた 帝国 軍 の 将兵 たち は 、 武装 を 解除 されて 捕虜 と なった 自分 たち の 姿 を 見て 呆然と した 。 彼ら の 総数 は 、 戦闘 、 通信 、 補給 、 医療 、 整備 、 管制 、 技術 など の 要員 を 合して 五〇万 人 に およんで いた 。 巨大な 食糧 工場 など 、 駐留 艦隊 も ふくめて 一〇〇万 以上 の 人口 を ささえる 環境 と 設備 が ととのって おり 、 帝国 が イゼルローン を 名実ともに 永久 要塞 たら しめ ん と 意図 した 事実 が あきらかだった 。

だが 、 そこ に は いまや 、 同盟 軍 第 一三 艦隊 の 将兵 が 歩きまわって いた 。

こうして 、 過去 、 同盟 軍将 兵 数 百万 の 人 血 を ポンプ の ように 吸いあげた イゼルローン 要塞 は 、 あらたな 血 を 一 滴 も くわえる こと なく 、 その 所有 者 を 変えた のである 。

Ⅳ 障害 物 と 危険に みちた 回廊 の なか を 、 帝国 軍 イゼルローン 駐留 艦隊 は 敵 を もとめて 徘徊 して いた 。 通信 士官 たち は 要塞 と の 連絡 を とる の に 苦心 して いた が 、 やがて 血相 を 変えて ゼークト 司令 官 を 呼んだ 。 執拗な 妨害 波 を 排除 して 、 ようやく 通信 を 回復 さ せた のだ が 、 要塞 から もたらさ れた の は 、「 一部 兵士 の 叛乱 勃発 、 救援 を 請う 」 と いう 内容 の 通信 だった のだ 。

「 要塞 内部 で 叛乱 だ と ? 」 ゼークト は 舌 打 した 。 「 配下 を 治める こと も よう でき ん の か 、 シュトックハウゼン の 無能 者 は ! 」 だが 、 辞 を 低く して 救援 を 請わ れ 、 ゼークト は 内心 、 優越 感 を くすぐられて いた 。 同僚 に 小さく ない 貸し を つくる こと に なる と 思う と 、 いっそ 愉快である 。

「 足 もと の 火 を 消す の が 先決 だ 。 全 艦隊 、 ただちに イゼルローン に 帰 投 する ぞ 」

ゼークト の 命令 にたいし 、 「 お 待ち ください 」

陰気な ほど 静かな 声 は 、 だが 室 内 を 圧した 。 自分 の 前 に 進み でて きた 士官 を 見て 、 ゼークト の 顔 に 露骨な 嫌悪 と 反発 の 表情 が 浮きあがった 。 半 白 の 頭髪 、 蒼白 い 頰 、 またしても オーベルシュタイン 大佐 !

「 貴 官 に 意見 を 訊 いた おぼえ は ない ぞ 、 大佐 」

「 承知 して おります 。 ですが 、 あえて 申しあげます 」 「…… なに を 言いたい のだ ? 」 「 これ は 罠 です 。 帰還 し ない ほう が よろしい か と 存じます 」 「…………」

司令 官 は 無言 で あご を ひいて 、 不愉快な こと を 不愉快な 口調 で 言う 不愉快な 部下 を 、 憎らし げ に にらみつけた 。

「 貴 官 の 目 に は ありとあらゆる もの が 罠 に 見える らしい な 」

「 閣下 、 お 聞き ください 」

「 もう いい ! 全 艦隊 、 回 頭 、 第 二 戦闘 速度 で イゼルローン に むかえ 。 宇宙 もぐら ども に 貸し を つくる 好機 だ ぞ 」

幅 の 広い 背中 が 、 オーベルシュタイン から 遠ざかって いった 。

「 怒 気 あって 真 の 勇気 なき 小人 め 、 語る に たら ん 」

冷 然 たる 侮 蔑 を こめて つぶやき 捨てる と 、 オーベルシュタイン は 踵 を めぐらせて 艦 橋 を でて いった 。 誰 も 制止 し なかった 。

士官 の 声紋 に のみ 反応 する 専用 の エレベーター に 乗る と 、 オーベルシュタイン は 、 六〇 階建 の ビル に 匹敵 する 巨艦 の なか を 艦 底 へ と おりて ゆく 。

「 敵 艦隊 、 射程 距離 に はいり ました ! 」 「 要塞 主砲 、 エネルギー 充 塡 、 すでに 完了 」 「 照準 OK ! いつでも 発射 できます 」 活性 化 さ れた 緊張 感 を もつ 声 が 、 イゼルローン 要塞 指令 室 の 内部 で 交錯 した 。

「 もう すこし ひきつけろ 」

ヤン は シュトックハウゼン の 指揮 卓 に すわって いた 。 着席 して いる ので は なく 、 卓 の 上 に あぐら を かいて 、 行儀 の 悪い その 姿勢 で 、 スクリーン の 広大な 画面 を 埋めて 接近 して くる 光 点 の 群 を 見つめて いる 。 やがて 、 ひと つ 深呼吸 する と 、

「 撃て ! 」 ヤン の くだした 命令 は 大きく は なかった が 、 ヘッドホン を とおして 砲手 たち に 明確に 伝達 さ れた 。 スイッチ が おさ れた 。

白い 、 量 感 に あふれた 光 の 塊 が 、 光 点 の 群 に 襲いかかって ゆく の を 砲手 たち は 見た 。 それ は 衝撃 的な 光景 だった 。

帝国 軍 の 先頭 に あって 、 イゼルローン 要塞 主砲 群 の 直撃 を うけた 百 余 隻 は 、 瞬時 に 消滅 した 。 あまり の 高熱 、 高 濃度 エネルギー が 、 爆発 を 生じ させる いとま さえ あたえ なかった のだ 。 有機 物 も 無機 物 も 蒸発 した あと に 、 完全に ちかい 虚無 だけ が 残った 。

爆発 が 生じた の は その 後方 、 帝国 軍 の 第 二 陣 、 あるいは 直撃 を うけ なかった 左右 の 艦 列 に おいて だった 。 さらに その 外側 に 位置 して いた 艦 も 膨大な エネルギー の 余波 を うけて 無秩序に 揺れ うごいた 。

第 一撃 に 生き残った 帝国 軍 艦艇 の 通信 回路 を 、 悲鳴 と 叫び声 が 占拠 した 。

「 味方 を なぜ 撃つ のだ !?」

「 いや 、 ちがう 、 きっと 叛乱 を おこした 奴 ら が ! 」 「 どう する んだ ! 対抗 でき ない ぞ 。 どう やって あの 主砲 から のがれる 」

要塞 の 内部 で は 、 スクリーン に 視線 を 凝固 さ せて 、 同盟 軍 の 将兵 が ひとしく 声 と 息 を のんで いた 。 〝 雷神 の 鎚 〟 と 称さ れる イゼルローン 要塞 主砲 の 魔 的な 破壊 力 を 、 彼ら は 初めて 目のあたり に した のだ 。

帝国 軍 は 恐怖 に 全身 を しめつけ られて いた 。 それ まで 強力 無比 な 守護 神 であった 要塞 主砲 が 、 対抗 し え ない 悪霊 の 剣 と 化して 、 彼ら の 咽 喉 もと に つきつけ られた のだ 。

「 応戦 しろ ! 全 艦 、 主砲 斉 射 ! 」 ゼークト 大将 の 怒号 が 轟いた 。 この 怒号 に は 、 混乱 した 将兵 を それなり に 律する 効果 が あった 。 蒼白な 顔色 の 砲手 が 操作 卓 に 手 を のばし 、 自動 照準 システム を あわせ 、 スイッチ を おす 。 数 百 条 の ビーム が 幾 何 的な 線 を 宇宙 空間 に 描きだした 。

だが 、 艦砲 の 出力 ていど で イゼルローン 要塞 の 外壁 を 破壊 する の は 不可能だった 。 放た れた すべて の ビーム は 、 外壁 に あたって は じき かえさ れ 、 むなしく 四散 した 。

過去 に 同盟 軍 の 将兵 が あじわった 屈辱 と 敗北 感 と 恐怖 を 、 帝国 軍 は 増幅 して 思い知ら さ れる こと に なった 。

艦砲 から 放た れる ビーム より 一〇 倍 も 太い 光 の 束 が 、 ふたたび イゼルローン 要塞 から ほとばしり 、 ふたたび 大量の 死 と 破壊 を 産み だした 。 帝国 軍 の 艦 列 に は 、 埋め がたい 巨大な 穴 が あき 、 その 周縁 部 は 損傷 を うけた 艦 体 や その 破片 に 装飾 さ れた 。

たった 二 回 の 砲撃 で 、 帝国 軍 は 半身 不随 と なって いた 。 生き残った 者 も 戦意 を 喪失 し 、 かろうじて その 場 に 踏みとどまって いる に すぎ ない 。

スクリーン から 視線 を そらして 、 ヤン は 胃 の あたり を なでた 。 ここ まで やら ねば 勝て ない もの な の か 、 と いう 気 が する 。

ヤン の 傍 で やはり スクリーン の 情景 に 見いって いた シェーンコップ 大佐 が 、 ことさら に 大きな せき を した 。

「 こいつ は 戦闘 と 呼べる もの では ありません な 、 閣下 。 一方的な 虐殺 です 」

大佐 の ほう を ふりむいた ヤン は 、 怒って は い なかった 。

「…… そう 、 その とおり だ な 。 帝国 軍 の 悪い ま ね を 吾々 が する こと は ない 。 大佐 、 彼ら に 降伏 を 勧告 して みて くれ 。 それ が いや なら 逃げる ように 、 追撃 は し ない 、 と 」

「 わかり ました 」

シェーンコップ は 興味深 げ に 若い 上官 を 見 やった 。 降伏 の 勧告 まで なら ほか の 武人 も する だろう が 、 敵 に むかって 「 逃げろ 」 と は まず 言う まい 。 ヤン ・ ウェンリー と いう 稀 世 の 用 兵 家 の 、 これ は 長所 だろう か 、 短所 だろう か 。

「 司令 官 閣下 、 イゼルローン から 通信 です ! 」 旗 艦 の 艦 橋 で 通信 士官 が わめいた 。 血走った 眼 で ゼークト が にらむ の へ 、

「 やはり イゼルローン は 同盟 軍 、 いや 叛乱 軍 に 占拠 されて います 。 その 指揮 官 ヤン 少将 の 名 で 言って おります 。 これ 以上 の 流血 は 無益である 、 降伏 せよ 、 と 」

「 降伏 だ と !?」

「 はい 、 そして 、 もし 降伏 する の が いや なら 逃げよ 、 追撃 は し ない 、 と ……」

一瞬 、 艦 橋 内 に 生 色 が みなぎった 。 そう だ 、 逃げる と いう 策 が あった のだ 。 しかし 、 その 生 色 を 猛 々 しい 怒声 が かき消した 。

「 叛乱 軍 に 降伏 など できる か ! 」 ゼークト は 軍靴 で 床 を 蹴った 。 イゼルローン を 敵 手 に ゆだね 、 配下 の 艦隊 の なかば を 失い 、 敗 軍 の 将 と して 皇帝 陛下 に 見えろ と いう の か 。 ゼークト に とって 、 そんな こと は 不可能だった 。 彼 に 残さ れた 最後 の 名誉 は 、 玉砕 ある のみ だった のだ 。

「 通信 士官 、 叛乱 軍 に 返信 しろ 、 内容 は こう だ 」

ゼークト が 告げる 内容 を 聞いて 、 周囲 の 将兵 は 色 を 失った 。 彼ら の 面 上 を 司令 官 の 苛烈 な 眼光 が 通過 して いった 。

「 いま より 全 艦 、 イゼルローン に 突入 する 。 この 期 に およんで 生命 を おしむ 奴 は よもや おる まい な 」

「…………」

返答 は ない 。

「 帝国 軍 から 返答 が あり ました 」

いっぽう 、 イゼルローン で ヤン に そう 告げた の は シェーンコップ だった 。 渋 面 に なって いる 。

「 汝 は 武人 の 心 を 弁え ず 、 吾 、 死 して 名誉 を 全うする の 道 を 知る 、 生きて 汚 辱 に 塗れる の 道 を 知ら ず 」

「…………」

「 このうえ は 全 艦 突入 して 玉砕 し 、 もって 皇帝 陛下 の 恩 顧 に むくいる ある のみ ―― そう 言って います 」 「 武人 の 心 だって ? 」 にがい 怒り の ひびき を 、 フレデリカ ・ グリーンヒル 中尉 は ヤン の 声 に 感じた 。 実際 、 ヤン は 怒り を おぼえて いた 。 死 を もって 敗戦 の 罪 を つぐなう と いう の なら 、 それ も よかろう 。 だが 、 それ なら なぜ 、 自分 ひと り で 死な ない 。 なぜ 部下 を 強制 的に 道連れ に する の か 。

こんな 奴 が いる から 戦争 が 絶え ない のだ 、 と さえ ヤン は 思う 。 もう まっぴら だ 。 こんな 奴 ら に かかわる の は 。

「 敵 、 全 艦 突入 して きます ! 」 オペレーター の 声 だった 。 「 砲手 ! 敵 の 旗 艦 を 識別 できる か 。 集中 的に それ を 狙え ! 」 これほど するどい 命令 を ヤン が 発した の は 初めて だった 。 フレデリカ と シェーンコップ は 、 それぞれ の 表情 で 司令 官 を 見つめた 。

「 これ が 最後 の 砲撃 だ 。 旗 艦 を 失えば 、 残り の 連中 は 逃げる だろう 」

砲手 たち は 慎重に 照準 を あわせた 。 帝国 軍 から は 無数の 光 の 矢 が 放た れた が 、 ひと つ と して 効果 を あげた もの は なかった 。

照準 が 完璧に あわさ れた 。


第 五 章 イゼルローン 攻略 (4) だい|いつ|しょう||こうりゃく Chapter 5 The Iserlohn Offensive (4)

応用 化学 者 であった ゼッフル が 、 惑星 規模 の 鉱物 採掘 や 土木 工事 を おこなう ため 発明 した もの で 、 要するに それ は 、 一定 量 以上 の 熱量 や エネルギー に 反応 して 制御 可能な 範囲 内 で 引火 爆発 する ガス の ような もの だ 。 おうよう|かがく|もの||||わくせい|きぼ||こうぶつ|さいくつ||どぼく|こうじ||||はつめい||||ようするに|||いってい|りょう|いじょう||ねつりょう||えねるぎー||はんのう||せいぎょ|かのうな|はんい|うち||いんか|ばくはつ||がす|||| しかし 、 どんな 分野 の 工業 技術 であって も 、 人類 は それ を 軍事 に 転用 して きた のである 。 ||ぶんや||こうぎょう|ぎじゅつ|||じんるい||||ぐんじ||てんよう|||

レムラー 中佐 の 顔 は 、 ほとんど 黒ずんで みえた 。 |ちゅうさ||かお|||くろずんで| エネルギー ・ ビーム を 発射 する ブラスター は 使用 不可能に なった のだ 。 えねるぎー|||はっしゃ||||しよう|ふかのうに|| 撃てば 共倒れ に なる 。 うてば|ともだおれ|| 空気 中 の ゼッフル 粒子 が ビーム に 引火 し 、 室 内 に いる 全員 が 一瞬 で 灰 に なって しまう 。 くうき|なか|||りゅうし||||いんか||しつ|うち|||ぜんいん||いっしゅん||はい|||

「 ち ゅ 、 中佐 ……」 ||ちゅうさ

警備 兵 の ひと り が 悲鳴 じ みた 声 を あげた 。 けいび|つわもの|||||ひめい|||こえ|| レムラー 中佐 は うつろな 光 を たたえた 眼 で 、 シュトックハウゼン 大将 を 見た 。 |ちゅうさ|||ひかり|||がん|||たいしょう||みた シェーンコップ が 心もち 腕 を ゆるめる と 、 二 度 ほど 激しい 呼吸 を した のち 、 イゼルローン 要塞 の 司令 官 は 屈服 した 。 ||こころもち|うで||||ふた|たび||はげしい|こきゅう|||||ようさい||しれい|かん||くっぷく|

「 お前 ら の 勝ち だ 。 おまえ|||かち| しかたない 、 降伏 する 」 |こうふく|

シェーンコップ は 内心 で 安堵 の 吐息 を 洩らした 。 ||ないしん||あんど||といき||もらした

「 よし 、 各 員 、 予定 どおり に 行動 だ 」 |かく|いん|よてい|||こうどう|

大佐 の 部下 たち は 指示 に したがって 行動 に うつった 。 たいさ||ぶか|||しじ|||こうどう|| 管制 コンピューター の プログラム を 変更 し 、 あらゆる 防御 システム を 無力 化 さ せ 、 空調 システム を つうじて 全 要塞 に 睡眠 ガス を 流す 。 かんせい|こんぴゅーたー||ぷろぐらむ||へんこう|||ぼうぎょ|しすてむ||むりょく|か|||くうちょう|しすてむ|||ぜん|ようさい||すいみん|がす||ながす ブレーメン 型 軽 巡 に 身 を ひそめて いた 技術 兵 が とびだして 、 これら の 作業 を 手ぎわ よく 実行 して いった 。 |かた|けい|めぐり||み||||ぎじゅつ|つわもの|||||さぎょう||てぎわ||じっこう|| ごく 一部 の 者 しか 気づか ない あいだ に 、 イゼルローン の 体 細胞 は ガン に 冒さ れた ように 機能 を 奪われて いった のだ 。 |いちぶ||もの||きづか||||||からだ|さいぼう||がん||おかさ||よう に|きのう||うばわれて|| 五 時間 後 、 豆 スープ の ように 濁った 睡眠 から 解放 さ れた 帝国 軍 の 将兵 たち は 、 武装 を 解除 されて 捕虜 と なった 自分 たち の 姿 を 見て 呆然と した 。 いつ|じかん|あと|まめ|すーぷ||よう に|にごった|すいみん||かいほう|||ていこく|ぐん||しょうへい|||ぶそう||かいじょ||ほりょ|||じぶん|||すがた||みて|ぼうぜんと| 彼ら の 総数 は 、 戦闘 、 通信 、 補給 、 医療 、 整備 、 管制 、 技術 など の 要員 を 合して 五〇万 人 に およんで いた 。 かれら||そうすう||せんとう|つうしん|ほきゅう|いりょう|せいび|かんせい|ぎじゅつ|||よういん||あわして|いつ|よろず|じん||| 巨大な 食糧 工場 など 、 駐留 艦隊 も ふくめて 一〇〇万 以上 の 人口 を ささえる 環境 と 設備 が ととのって おり 、 帝国 が イゼルローン を 名実ともに 永久 要塞 たら しめ ん と 意図 した 事実 が あきらかだった 。 きょだいな|しょくりょう|こうじょう||ちゅうりゅう|かんたい|||ひと|よろず|いじょう||じんこう|||かんきょう||せつび||||ていこく||||めいじつともに|えいきゅう|ようさい|||||いと||じじつ||

だが 、 そこ に は いまや 、 同盟 軍 第 一三 艦隊 の 将兵 が 歩きまわって いた 。 |||||どうめい|ぐん|だい|かずみ|かんたい||しょうへい||あるきまわって|

こうして 、 過去 、 同盟 軍将 兵 数 百万 の 人 血 を ポンプ の ように 吸いあげた イゼルローン 要塞 は 、 あらたな 血 を 一 滴 も くわえる こと なく 、 その 所有 者 を 変えた のである 。 |かこ|どうめい|ぐんしょう|つわもの|すう|ひゃくまん||じん|ち||ぽんぷ||よう に|すいあげた||ようさい|||ち||ひと|しずく||||||しょゆう|もの||かえた|

Ⅳ 障害 物 と 危険に みちた 回廊 の なか を 、 帝国 軍 イゼルローン 駐留 艦隊 は 敵 を もとめて 徘徊 して いた 。 しょうがい|ぶつ||きけんに||かいろう||||ていこく|ぐん||ちゅうりゅう|かんたい||てき|||はいかい|| 通信 士官 たち は 要塞 と の 連絡 を とる の に 苦心 して いた が 、 やがて 血相 を 変えて ゼークト 司令 官 を 呼んだ 。 つうしん|しかん|||ようさい|||れんらく|||||くしん|||||けっそう||かえて||しれい|かん||よんだ 執拗な 妨害 波 を 排除 して 、 ようやく 通信 を 回復 さ せた のだ が 、 要塞 から もたらさ れた の は 、「 一部 兵士 の 叛乱 勃発 、 救援 を 請う 」 と いう 内容 の 通信 だった のだ 。 しつような|ぼうがい|なみ||はいじょ|||つうしん||かいふく|||||ようさい||||||いちぶ|へいし||はんらん|ぼっぱつ|きゅうえん||こう|||ないよう||つうしん||

「 要塞 内部 で 叛乱 だ と ? ようさい|ないぶ||はんらん|| 」 ゼークト は 舌 打 した 。 ||した|だ| 「 配下 を 治める こと も よう でき ん の か 、 シュトックハウゼン の 無能 者 は ! はいか||おさめる||||||||||むのう|もの| 」 だが 、 辞 を 低く して 救援 を 請わ れ 、 ゼークト は 内心 、 優越 感 を くすぐられて いた 。 |じ||ひくく||きゅうえん||こわ||||ないしん|ゆうえつ|かん||| 同僚 に 小さく ない 貸し を つくる こと に なる と 思う と 、 いっそ 愉快である 。 どうりょう||ちいさく||かし|||||||おもう|||ゆかいである

「 足 もと の 火 を 消す の が 先決 だ 。 あし|||ひ||けす|||せんけつ| 全 艦隊 、 ただちに イゼルローン に 帰 投 する ぞ 」 ぜん|かんたい||||かえ|とう||

ゼークト の 命令 にたいし 、 ||めいれい| 「 お 待ち ください 」 |まち|

陰気な ほど 静かな 声 は 、 だが 室 内 を 圧した 。 いんきな||しずかな|こえ|||しつ|うち||あっした 自分 の 前 に 進み でて きた 士官 を 見て 、 ゼークト の 顔 に 露骨な 嫌悪 と 反発 の 表情 が 浮きあがった 。 じぶん||ぜん||すすみ|||しかん||みて|||かお||ろこつな|けんお||はんぱつ||ひょうじょう||うきあがった 半 白 の 頭髪 、 蒼白 い 頰 、 またしても オーベルシュタイン 大佐 ! はん|しろ||とうはつ|そうはく|||||たいさ

「 貴 官 に 意見 を 訊 いた おぼえ は ない ぞ 、 大佐 」 とうと|かん||いけん||じん||||||たいさ

「 承知 して おります 。 しょうち|| ですが 、 あえて 申しあげます 」 ||もうしあげます 「…… なに を 言いたい のだ ? ||いいたい| 」 「 これ は 罠 です 。 ||わな| 帰還 し ない ほう が よろしい か と 存じます 」 きかん||||||||ぞんじます 「…………」

司令 官 は 無言 で あご を ひいて 、 不愉快な こと を 不愉快な 口調 で 言う 不愉快な 部下 を 、 憎らし げ に にらみつけた 。 しれい|かん||むごん|||||ふゆかいな|||ふゆかいな|くちょう||いう|ふゆかいな|ぶか||にくらし|||

「 貴 官 の 目 に は ありとあらゆる もの が 罠 に 見える らしい な 」 とうと|かん||め||||||わな||みえる||

「 閣下 、 お 聞き ください 」 かっか||きき|

「 もう いい ! 全 艦隊 、 回 頭 、 第 二 戦闘 速度 で イゼルローン に むかえ 。 ぜん|かんたい|かい|あたま|だい|ふた|せんとう|そくど|||| 宇宙 もぐら ども に 貸し を つくる 好機 だ ぞ 」 うちゅう||||かし|||こうき||

幅 の 広い 背中 が 、 オーベルシュタイン から 遠ざかって いった 。 はば||ひろい|せなか||||とおざかって|

「 怒 気 あって 真 の 勇気 なき 小人 め 、 語る に たら ん 」 いか|き||まこと||ゆうき||こびと||かたる|||

冷 然 たる 侮 蔑 を こめて つぶやき 捨てる と 、 オーベルシュタイン は 踵 を めぐらせて 艦 橋 を でて いった 。 ひや|ぜん||あなど|さげす||||すてる||||かかと|||かん|きょう||| 誰 も 制止 し なかった 。 だれ||せいし||

士官 の 声紋 に のみ 反応 する 専用 の エレベーター に 乗る と 、 オーベルシュタイン は 、 六〇 階建 の ビル に 匹敵 する 巨艦 の なか を 艦 底 へ と おりて ゆく 。 しかん||せいもん|||はんのう||せんよう||えれべーたー||のる||||むっ|かいだて||びる||ひってき||きょかん||||かん|そこ||||

「 敵 艦隊 、 射程 距離 に はいり ました ! てき|かんたい|しゃてい|きょり||| 」 「 要塞 主砲 、 エネルギー 充 塡 、 すでに 完了 」 ようさい|しゅほう|えねるぎー|まこと|||かんりょう 「 照準 OK ! しょうじゅん| いつでも 発射 できます 」 |はっしゃ| 活性 化 さ れた 緊張 感 を もつ 声 が 、 イゼルローン 要塞 指令 室 の 内部 で 交錯 した 。 かっせい|か|||きんちょう|かん|||こえ|||ようさい|しれい|しつ||ないぶ||こうさく|

「 もう すこし ひきつけろ 」

ヤン は シュトックハウゼン の 指揮 卓 に すわって いた 。 ||||しき|すぐる||| 着席 して いる ので は なく 、 卓 の 上 に あぐら を かいて 、 行儀 の 悪い その 姿勢 で 、 スクリーン の 広大な 画面 を 埋めて 接近 して くる 光 点 の 群 を 見つめて いる 。 ちゃくせき||||||すぐる||うえ|||||ぎょうぎ||わるい||しせい||すくりーん||こうだいな|がめん||うずめて|せっきん|||ひかり|てん||ぐん||みつめて| やがて 、 ひと つ 深呼吸 する と 、 |||しんこきゅう||

「 撃て ! うて 」 ヤン の くだした 命令 は 大きく は なかった が 、 ヘッドホン を とおして 砲手 たち に 明確に 伝達 さ れた 。 |||めいれい||おおきく||||へっどほん|||ほうて|||めいかくに|でんたつ|| スイッチ が おさ れた 。 すいっち|||

白い 、 量 感 に あふれた 光 の 塊 が 、 光 点 の 群 に 襲いかかって ゆく の を 砲手 たち は 見た 。 しろい|りょう|かん|||ひかり||かたまり||ひかり|てん||ぐん||おそいかかって||||ほうて|||みた それ は 衝撃 的な 光景 だった 。 ||しょうげき|てきな|こうけい|

帝国 軍 の 先頭 に あって 、 イゼルローン 要塞 主砲 群 の 直撃 を うけた 百 余 隻 は 、 瞬時 に 消滅 した 。 ていこく|ぐん||せんとう||||ようさい|しゅほう|ぐん||ちょくげき|||ひゃく|よ|せき||しゅんじ||しょうめつ| あまり の 高熱 、 高 濃度 エネルギー が 、 爆発 を 生じ させる いとま さえ あたえ なかった のだ 。 ||こうねつ|たか|のうど|えねるぎー||ばくはつ||しょうじ|||||| 有機 物 も 無機 物 も 蒸発 した あと に 、 完全に ちかい 虚無 だけ が 残った 。 ゆうき|ぶつ||むき|ぶつ||じょうはつ||||かんぜんに||きょむ|||のこった

爆発 が 生じた の は その 後方 、 帝国 軍 の 第 二 陣 、 あるいは 直撃 を うけ なかった 左右 の 艦 列 に おいて だった 。 ばくはつ||しょうじた||||こうほう|ていこく|ぐん||だい|ふた|じん||ちょくげき||||さゆう||かん|れつ||| さらに その 外側 に 位置 して いた 艦 も 膨大な エネルギー の 余波 を うけて 無秩序に 揺れ うごいた 。 ||そとがわ||いち|||かん||ぼうだいな|えねるぎー||よは|||むちつじょに|ゆれ|

第 一撃 に 生き残った 帝国 軍 艦艇 の 通信 回路 を 、 悲鳴 と 叫び声 が 占拠 した 。 だい|いちげき||いきのこった|ていこく|ぐん|かんてい||つうしん|かいろ||ひめい||さけびごえ||せんきょ|

「 味方 を なぜ 撃つ のだ !?」 みかた|||うつ|

「 いや 、 ちがう 、 きっと 叛乱 を おこした 奴 ら が ! |||はんらん|||やつ|| 」 「 どう する んだ ! 対抗 でき ない ぞ 。 たいこう||| どう やって あの 主砲 から のがれる 」 |||しゅほう||

要塞 の 内部 で は 、 スクリーン に 視線 を 凝固 さ せて 、 同盟 軍 の 将兵 が ひとしく 声 と 息 を のんで いた 。 ようさい||ないぶ|||すくりーん||しせん||ぎょうこ|||どうめい|ぐん||しょうへい|||こえ||いき||| 〝 雷神 の 鎚 〟 と 称さ れる イゼルローン 要塞 主砲 の 魔 的な 破壊 力 を 、 彼ら は 初めて 目のあたり に した のだ 。 らいじん||つち||そやさ|||ようさい|しゅほう||ま|てきな|はかい|ちから||かれら||はじめて|まのあたり|||

帝国 軍 は 恐怖 に 全身 を しめつけ られて いた 。 ていこく|ぐん||きょうふ||ぜんしん|||| それ まで 強力 無比 な 守護 神 であった 要塞 主砲 が 、 対抗 し え ない 悪霊 の 剣 と 化して 、 彼ら の 咽 喉 もと に つきつけ られた のだ 。 ||きょうりょく|むひ||しゅご|かみ||ようさい|しゅほう||たいこう||||あくりょう||けん||かして|かれら||むせ|のど|||||

「 応戦 しろ ! おうせん| 全 艦 、 主砲 斉 射 ! ぜん|かん|しゅほう|ひとし|い 」 ゼークト 大将 の 怒号 が 轟いた 。 |たいしょう||どごう||とどろいた この 怒号 に は 、 混乱 した 将兵 を それなり に 律する 効果 が あった 。 |どごう|||こんらん||しょうへい||||りっする|こうか|| 蒼白な 顔色 の 砲手 が 操作 卓 に 手 を のばし 、 自動 照準 システム を あわせ 、 スイッチ を おす 。 そうはくな|かおいろ||ほうて||そうさ|すぐる||て|||じどう|しょうじゅん|しすてむ|||すいっち|| 数 百 条 の ビーム が 幾 何 的な 線 を 宇宙 空間 に 描きだした 。 すう|ひゃく|じょう||||いく|なん|てきな|せん||うちゅう|くうかん||えがきだした

だが 、 艦砲 の 出力 ていど で イゼルローン 要塞 の 外壁 を 破壊 する の は 不可能だった 。 |かんぽう||しゅつりょく||||ようさい||がいへき||はかい||||ふかのうだった 放た れた すべて の ビーム は 、 外壁 に あたって は じき かえさ れ 、 むなしく 四散 した 。 はなた||||||がいへき|||||かえ さ|||しさん|

過去 に 同盟 軍 の 将兵 が あじわった 屈辱 と 敗北 感 と 恐怖 を 、 帝国 軍 は 増幅 して 思い知ら さ れる こと に なった 。 かこ||どうめい|ぐん||しょうへい|||くつじょく||はいぼく|かん||きょうふ||ていこく|ぐん||ぞうふく||おもいしら|||||

艦砲 から 放た れる ビーム より 一〇 倍 も 太い 光 の 束 が 、 ふたたび イゼルローン 要塞 から ほとばしり 、 ふたたび 大量の 死 と 破壊 を 産み だした 。 かんぽう||はなた||||ひと|ばい||ふとい|ひかり||たば||||ようさい||||たいりょうの|し||はかい||うみ| 帝国 軍 の 艦 列 に は 、 埋め がたい 巨大な 穴 が あき 、 その 周縁 部 は 損傷 を うけた 艦 体 や その 破片 に 装飾 さ れた 。 ていこく|ぐん||かん|れつ|||うずめ||きょだいな|あな||||しゅうえん|ぶ||そんしょう|||かん|からだ|||はへん||そうしょく||

たった 二 回 の 砲撃 で 、 帝国 軍 は 半身 不随 と なって いた 。 |ふた|かい||ほうげき||ていこく|ぐん||はんしん|ふずい||| 生き残った 者 も 戦意 を 喪失 し 、 かろうじて その 場 に 踏みとどまって いる に すぎ ない 。 いきのこった|もの||せんい||そうしつ||||じょう||ふみとどまって||||

スクリーン から 視線 を そらして 、 ヤン は 胃 の あたり を なでた 。 すくりーん||しせん|||||い|||| ここ まで やら ねば 勝て ない もの な の か 、 と いう 気 が する 。 ||||かて||||||||き||

ヤン の 傍 で やはり スクリーン の 情景 に 見いって いた シェーンコップ 大佐 が 、 ことさら に 大きな せき を した 。 ||そば|||すくりーん||じょうけい||みいって|||たいさ||||おおきな|||

「 こいつ は 戦闘 と 呼べる もの では ありません な 、 閣下 。 ||せんとう||よべる|||||かっか 一方的な 虐殺 です 」 いっぽうてきな|ぎゃくさつ|

大佐 の ほう を ふりむいた ヤン は 、 怒って は い なかった 。 たいさ|||||||いかって|||

「…… そう 、 その とおり だ な 。 帝国 軍 の 悪い ま ね を 吾々 が する こと は ない 。 ていこく|ぐん||わるい||||われ々||||| 大佐 、 彼ら に 降伏 を 勧告 して みて くれ 。 たいさ|かれら||こうふく||かんこく||| それ が いや なら 逃げる ように 、 追撃 は し ない 、 と 」 ||||にげる|よう に|ついげき||||

「 わかり ました 」

シェーンコップ は 興味深 げ に 若い 上官 を 見 やった 。 ||きょうみぶか|||わかい|じょうかん||み| 降伏 の 勧告 まで なら ほか の 武人 も する だろう が 、 敵 に むかって 「 逃げろ 」 と は まず 言う まい 。 こうふく||かんこく|||||たけと|||||てき|||にげろ||||いう| ヤン ・ ウェンリー と いう 稀 世 の 用 兵 家 の 、 これ は 長所 だろう か 、 短所 だろう か 。 ||||まれ|よ||よう|つわもの|いえ||||ちょうしょ|||たんしょ||

「 司令 官 閣下 、 イゼルローン から 通信 です ! しれい|かん|かっか|||つうしん| 」 旗 艦 の 艦 橋 で 通信 士官 が わめいた 。 き|かん||かん|きょう||つうしん|しかん|| 血走った 眼 で ゼークト が にらむ の へ 、 ちばしった|がん||||||

「 やはり イゼルローン は 同盟 軍 、 いや 叛乱 軍 に 占拠 されて います 。 |||どうめい|ぐん||はんらん|ぐん||せんきょ|| その 指揮 官 ヤン 少将 の 名 で 言って おります 。 |しき|かん||しょうしょう||な||いって| これ 以上 の 流血 は 無益である 、 降伏 せよ 、 と 」 |いじょう||りゅうけつ||むえきである|こうふく||

「 降伏 だ と !?」 こうふく||

「 はい 、 そして 、 もし 降伏 する の が いや なら 逃げよ 、 追撃 は し ない 、 と ……」 |||こうふく||||||にげよ|ついげき||||

一瞬 、 艦 橋 内 に 生 色 が みなぎった 。 いっしゅん|かん|きょう|うち||せい|いろ|| そう だ 、 逃げる と いう 策 が あった のだ 。 ||にげる|||さく||| しかし 、 その 生 色 を 猛 々 しい 怒声 が かき消した 。 ||せい|いろ||もう|||どせい||かきけした

「 叛乱 軍 に 降伏 など できる か ! はんらん|ぐん||こうふく||| 」 ゼークト は 軍靴 で 床 を 蹴った 。 ||ぐんか||とこ||けった イゼルローン を 敵 手 に ゆだね 、 配下 の 艦隊 の なかば を 失い 、 敗 軍 の 将 と して 皇帝 陛下 に 見えろ と いう の か 。 ||てき|て|||はいか||かんたい||||うしない|はい|ぐん||すすむ|||こうてい|へいか||みえろ|||| ゼークト に とって 、 そんな こと は 不可能だった 。 ||||||ふかのうだった 彼 に 残さ れた 最後 の 名誉 は 、 玉砕 ある のみ だった のだ 。 かれ||のこさ||さいご||めいよ||ぎょくさい||||

「 通信 士官 、 叛乱 軍 に 返信 しろ 、 内容 は こう だ 」 つうしん|しかん|はんらん|ぐん||へんしん||ないよう|||

ゼークト が 告げる 内容 を 聞いて 、 周囲 の 将兵 は 色 を 失った 。 ||つげる|ないよう||きいて|しゅうい||しょうへい||いろ||うしなった 彼ら の 面 上 を 司令 官 の 苛烈 な 眼光 が 通過 して いった 。 かれら||おもて|うえ||しれい|かん||かれつ||がんこう||つうか||

「 いま より 全 艦 、 イゼルローン に 突入 する 。 ||ぜん|かん|||とつにゅう| この 期 に およんで 生命 を おしむ 奴 は よもや おる まい な 」 |き|||せいめい|||やつ|||||

「…………」

返答 は ない 。 へんとう||

「 帝国 軍 から 返答 が あり ました 」 ていこく|ぐん||へんとう|||

いっぽう 、 イゼルローン で ヤン に そう 告げた の は シェーンコップ だった 。 ||||||つげた|||| 渋 面 に なって いる 。 しぶ|おもて|||

「 汝 は 武人 の 心 を 弁え ず 、 吾 、 死 して 名誉 を 全うする の 道 を 知る 、 生きて 汚 辱 に 塗れる の 道 を 知ら ず 」 なんじ||たけと||こころ||わきまえ||われ|し||めいよ||まっとうする||どう||しる|いきて|きたな|じょく||ぬれる||どう||しら|

「…………」

「 このうえ は 全 艦 突入 して 玉砕 し 、 もって 皇帝 陛下 の 恩 顧 に むくいる ある のみ ―― そう 言って います 」 ||ぜん|かん|とつにゅう||ぎょくさい|||こうてい|へいか||おん|こ||||||いって| 「 武人 の 心 だって ? たけと||こころ| 」 にがい 怒り の ひびき を 、 フレデリカ ・ グリーンヒル 中尉 は ヤン の 声 に 感じた 。 |いかり||||||ちゅうい||||こえ||かんじた 実際 、 ヤン は 怒り を おぼえて いた 。 じっさい|||いかり||| 死 を もって 敗戦 の 罪 を つぐなう と いう の なら 、 それ も よかろう 。 し|||はいせん||ざい||||||||| だが 、 それ なら なぜ 、 自分 ひと り で 死な ない 。 ||||じぶん||||しな| なぜ 部下 を 強制 的に 道連れ に する の か 。 |ぶか||きょうせい|てきに|みちづれ||||

こんな 奴 が いる から 戦争 が 絶え ない のだ 、 と さえ ヤン は 思う 。 |やつ||||せんそう||たえ|||||||おもう もう まっぴら だ 。 こんな 奴 ら に かかわる の は 。 |やつ|||||

「 敵 、 全 艦 突入 して きます ! てき|ぜん|かん|とつにゅう|| 」 オペレーター の 声 だった 。 ||こえ| 「 砲手 ! ほうて 敵 の 旗 艦 を 識別 できる か 。 てき||き|かん||しきべつ|| 集中 的に それ を 狙え ! しゅうちゅう|てきに|||ねらえ 」 これほど するどい 命令 を ヤン が 発した の は 初めて だった 。 ||めいれい||||はっした|||はじめて| フレデリカ と シェーンコップ は 、 それぞれ の 表情 で 司令 官 を 見つめた 。 ||||||ひょうじょう||しれい|かん||みつめた

「 これ が 最後 の 砲撃 だ 。 ||さいご||ほうげき| 旗 艦 を 失えば 、 残り の 連中 は 逃げる だろう 」 き|かん||うしなえば|のこり||れんちゅう||にげる|

砲手 たち は 慎重に 照準 を あわせた 。 ほうて|||しんちょうに|しょうじゅん|| 帝国 軍 から は 無数の 光 の 矢 が 放た れた が 、 ひと つ と して 効果 を あげた もの は なかった 。 ていこく|ぐん|||むすうの|ひかり||や||はなた|||||||こうか|||||

照準 が 完璧に あわさ れた 。 しょうじゅん||かんぺきに|あわ さ|