新 発明 の マクラ
「 やれやれ 、 なんとか 大 発明 が 完成 した 」
小さな 研究 室 の なか で 、 エフ 博士 は 声 を あげた 。 それ を 耳 に して 、 お となり の 家 の 主人 が やってきて 聞いた 。
「 なに を 発明 なさった の です か 。 見た ところ 、 マクラ の よう です が 」
そば の 机 の 上 に 大事 そうに 置いて ある 品 は 、 大き さ と いい 形 と いい 、 マクラ に よく 似て いる 。
「 たしかに 、 眠る 時 に 頭 を のせる ため の もの だ 。 しかし 、 ただ の マクラ で は ない 」
と 、 博士 は なか を あけて 、 指さした 。 電気 部品 が 、 ぎっしり と つまって いる 。 お となり の 主人 は 、 目 を 丸く して 質問 した 。
「 すごい もの です ね 。 これ を 使う と 、 すばらしい 夢 でも 見られる のでしょう か 」
「 いや 、 もっと 役 に 立つ もの だ 。 眠って いて 勉強 が できる しかけ 。 つまり 、 マクラ の なか に たくわえて ある 知識 が 、 電磁 波 の 作用 に よって 、 眠って いる あいだ に 、 頭 の なか に 送りこま れる と いう わけだ 」
「 なんだか 便利 そうな お 話 です が 、 それ で 、 どんな 勉強 が できる の です か 」
「 これ は まだ 試作 品 だから 、 英語 だけ だ 。 眠って いる うち に 、 英語 が 話せる よう に なる 。 しかし 、 改良 を 加えれば 、 ほか の 勉強 に も 、 同じ よう に 使える こと に なる だろう 」
「 驚く べき 発明 では ありません か 。 どんな なまけ者 でも 、 夜 、 これ を マクラ に して 寝て い さえ すれば 、 なんでも 身 に ついて しまう の です ね 」
お となり の 主人 は 、 ますます 感心 する 。 博士 は 、 とくいげに うなずいて 答えた 。
「 その 通り だ 。 近ごろ は 、 努力 を し た がら ない人 が 多い 。 そんな人 たち が 、 買い た がる だろう 。 おかげ で 、 わたし も 大もうけ が できる 」
「 ききめ が 本当に ある の なら 、 だれ も が 欲しがる に きまって います よ 」
「 もちろん 、 ききめ は ある はずだ 」
お となり の 主人 は 、 それ を 聞きとがめた 。
「 と いう と 、 まだ たしかめてない の です か 」
「 ああ 、 わたし は この 研究 に 熱中 し 、 そして 完成 した 。 しかし 考えて みる と 、 わたし は すでに 英語 が できる 。 だから 、 自分 で たしかめて みる こと が 、 できない のだ 」
と 、 博士 は 少し 困った ような 顔 に なった 。 お となり の 主人 は 、 恥ずかし そうに 身 を 乗り出して 言った 。
「 それ なら 、 わたし に 使わ せて 下さい 。 勉強 は めん どくさい が 、 英語 が うまく なりたい と 思って いた ところ です 。 ぜひ 、 お 願い します 」
「 いい と も 。 やれやれ 、 こう すぐに 希望者 が あらわれる と は 、 思わ なかった 」
「 どれ くらい 、 かかる のでしょう か 」
「 一 ヵ 月 ぐらい で 、 かなり 上達 する はずだ 」
「 ありがとう ございます 」
と 、 お となり の 主人 は 、 新 発明 の マクラ を 持って 、 うれし そうに 帰って いった 。 しかし 、 二 ヵ 月 ほど たつ と 、 つまらな そうな 顔 で 、 エフ 博士 に マクラ を 返し に きた 。
「 あれ から 、 ずっと 使って みました が 、 いっこうに 英語 が 話せる よう に なりません 。 もう 、 やめます 」
博士 は なか を 調べ 、 つぶやいた 。
「 おかしい な 。 故障 は して いない 。 どこ か が 、 まちがって いた のだろう か 」
だが 、 ききめ が なければ 、 使い物 に ならない 。 せっかく の 発明 も 、 だめだった ようだ 。
それ から しばらく して 、 エフ 博士 は 道 で お となり の 女の子 に 会った 。 声 を かける 。
「 そのご 、 お とうさん は お 元気 か ね 」
「 ええ 。 だけど 、 ちょっと へんな こと が ある わ 。 このごろ 、 ねごと を 英語 で 言う の よ 。 いま まで 、 こんな こと なかった のに 。 どうした の かしら 」
眠って いる あいだ の 勉強 が 役 に 立つ の は 、 やはり 、 眠って いる 時 だけ な のだった 。