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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 44.「の」の字の世界 - 佐藤春夫

44.「の」の字の世界 - 佐藤春夫

「 の 」 の 字 の 世界 - 佐藤 春夫

うた ちゃん は 、 三 人 兄弟 の 末 で 、 来年 から は 幼稚園 へ 行こう と いう のです が 、 早く から 、 自分 で は お 姉ちゃん 気どり で 「 えい ちゃん 」「 えい ちゃん 」 と 、 自分 を よんで います 。 「 えい ちゃん 」 と は 、 ねえちゃん の かたこと な のです 。

うた ちゃん は 、「 えい ちゃん 」 だけ に 、 二 つ 上 の なき虫 の 兄 が なく と 、 すぐ 手ぬぐい を 持って行って 、 なみだ を ふいて やったり 、 頭 を さすったり 、 まことに よく 気 の つく 、 りこうな 子 な のです 。 それ だ のに 、 どうしても 字 を おぼえません 。 なき虫 の 兄さん の 方 は 、 うた ちゃん の 年ごろ に は 、 だれ も 少しも 教え ない のに 、 野球 かるた で 、 平 が な は すっかり 読み書き を おぼえ 、 それ から は 、 すもう の 名 まえ と いっしょに 、 その 本 字 まで たくさん おぼえて いた もの です 。 兄弟 でも 、 これほど ちがう もの か 。 うた ちゃん も 、 今に は ひと り で おぼえる だろう 、 と いって いて も 、 なかなか その け ぶり も ありません 。 うた ちゃん は 、 え 本 でも なんでも 、 あけて みて は すぐ おもしろい お 話 を こしらえて 、 みな ひと り で 読んで しまう のです 。 これ で は 、 まるで 字 の 必要 も ない わけな のだ 、 と 気 が つきました 。 それにしても 、 自分 の 名 まえ ぐらい 書け ないで は ようち園 で も こまる だろう 。

ちょっと ためしに 、 名 まえ の 三 字 だけ でも おぼえ させて 見よう 、 と 「 う 」 の 字 から 教え はじめた が 、 やっぱり だめな のです 。 二 、 三 日 か ゝって 、 やっと 読み 方 は おぼえた が 、 書く こと は どうしても だめな ので 、 あきらめて 「 の 」 の 字 を 教え はじめました 。 「 う 」 の 字 の 下 を 「 の 」 の ように 書く の に 気 が ついた から です 。 「 の 」 の 字 を 、 はじめ は まるい 字 と よんで 、 これ を 読む こと は すぐ おぼえました が 、 書く の は 、 逆の 方向 に まげたり 、 しっぽ の 方 から 頭 へ もって行ったり 、 どうしても だめでした が 、 三 日 ほど したら 、 どうやら それ らしい 字 が でき はじめました 。 書き はじめて も 、 読み 方 を わすれて は いけない 、 と 書く けいこ を さ せ ながら も 、 え 本 や 学校 の 本 など を 出して きて 、 うた ちゃん に 「 の 」 の 字 を さがし出さ せて いる うち に 、 兄さん の 野球 の 雑誌 から も 、 お 父さん の 新聞 の うしろ から も 、 うた ちゃん は 「 の 」 の 字 さえ 見れば 、 きっと ひろい 出す ように なり 、 書く こと も だんだん 上手に なりました 。 うた ちゃん の 世界 は 、 今や 「 の 」 の 字 の 世界 に なりました 。 新聞 に は 、 大きい の や 小さい の や 「 の 」 の 字 は どっさり 。 うた ちゃん に は 、 新聞 も 「 の 」 の 字 ばかり です 。 お 兄さん の まわす コマ が 、「 の 」 の 字 を 書いて いる し 、 コマ の ヒモ も 、 お えんがわ で 「 の 」 の 字 に なって います 。 お 庭 の カタツムリ は 「 の 」 の 字 を しょって 歩いて いる し 、 うた ちゃん の 夜具 の カラクサ もよう も 、 あちら むき や こちら むき の 「 の 」 の 字 が 一 ぱい です 。 お 兄さん の 頭 の 上 に 、 だれ か 「 の 」 の 字 を 書いて いる と いう の を 見る と 、 つむ じ の こと な のです 。 お 庭 に 「 の 」 の 字 が 生きて 動いて いた 、 と いう ので 、 ついて行って 見る と 、 ミミズ が いた ので 、 みんな で わらいました 。 みんな が わらった ので 、 うた ちゃん は 、 ひどく しょげて しまった ので 、 わたし は

『 ほんとうに 「 の 」 の 字 が 生きて 、 ねん ね して いた ね 』

と 、 うた ちゃん を 、 なぐさめて やって から いいました 。 『 うた ちゃん 、 字 は 「 の 」 の 字 の ほか に も まだ たくさん ある のです 。 うた ちゃん の 「 う 」 の 字 でも 、「 た 」 の 字 でも 、 ね 。 みんな おぼえます か 』 うた ちゃん は 、 大きく うなずいた 。 うた ちゃん は 、 一 字 おぼえて 自信 が でき 、 おもしろく なった のでしょう 。 うた ちゃん は 、 今に 字 を みな おぼえて 、 世界中 を 読む でしょう 、 きっと 。

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44.「の」の字の世界 - 佐藤春夫 |の あざ の せかい|さとう はるお |world|Sato Haruo 44. The World of the Character "no" - Haruo Sato 44. "de" El mundo del personaje "の字" - Haruo Sato 44.「의」자의 세계 - 사토 하루오 44. "Нет". Мир персонажа "нет" - Харуо Сато 44. "av" Världen av karaktären "の字" - Haruo Sato

「 の 」 の 字 の 世界 - 佐藤 春夫 ||あざ||せかい|さとう|はるお ||character|||Sato|Haruo

うた ちゃん は 、 三 人 兄弟 の 末 で 、 来年 から は 幼稚園 へ 行こう と いう のです が 、 早く から 、 自分 で は お 姉ちゃん 気どり で 「 えい ちゃん 」「 えい ちゃん 」 と 、 自分 を よんで います 。 |||みっ|じん|きょうだい||すえ||らいねん|||ようちえん||いこう|||||はやく||じぶん||||ねえちゃん|きどり|||||||じぶん|||い ます song|suffix||three||brothers||youngest||next year|||kindergarten|||||||soon|from|||||big sister|acting grown-up||Ei|||||||calling| Uta-chan, the youngest of three brothers, is planning to go to kindergarten from next year, but from early on, she called herself "Ei-chan" and "Ei-chan". Masu. 「 えい ちゃん 」 と は 、 ねえちゃん の かたこと な のです 。 sister||||older sister||affairs|| "Ei-chan" is the Katakoto of Nee-chan.

うた ちゃん は 、「 えい ちゃん 」 だけ に 、 二 つ 上 の なき虫 の 兄 が なく と 、 すぐ 手ぬぐい を 持って行って 、 なみだ を ふいて やったり 、 頭 を さすったり 、 まことに よく 気 の つく 、 りこうな 子 な のです 。 |||||||ふた||うえ||なきむし||あに|||||てぬぐい||もっていって|||||あたま|||||き||||こ|| song|||Ei||||two||||crying insect|||||||hand towel|||||wiped||||scratched|truly||||to notice|smart|child|| Uta-chan, only for E-chan, has an older brother who is two years older and a crybaby. She immediately brings a handkerchief to wipe away the tears and gently strokes his head. She is truly a thoughtful and clever child. それ だ のに 、 どうしても 字 を おぼえません 。 ||||あざ||おぼえ ませ ん |||by all means|||remember Despite that, she just won't learn how to read and write. なき虫 の 兄さん の 方 は 、 うた ちゃん の 年ごろ に は 、 だれ も 少しも 教え ない のに 、 野球 かるた で 、 平 が な は すっかり 読み書き を おぼえ 、 それ から は 、 すもう の 名 まえ と いっしょに 、 その 本 字 まで たくさん おぼえて いた もの です 。 なきむし||にいさん||かた|||||としごろ|||||すこしも|おしえ|||やきゅう|||ひら|||||よみかき||||||||な|||||ほん|あざ|||||| ||brother|||||||around that age|||anyone||not at all|taught|||baseball|playing cards||flat||||completely|reading and writing||learned||||sumo||name|name||||||||learned||| On the other hand, the crybaby older brother, at Uta-chan's age, learned to read and write completely with no one teaching him at all, through baseball karuta, and after that, he remembered a lot of names from sumo along with their characters. 兄弟 でも 、 これほど ちがう もの か 。 きょうだい||||| ||this much|different|| Even as brothers, how can we be so different? うた ちゃん も 、 今に は ひと り で おぼえる だろう 、 と いって いて も 、 なかなか その け ぶり も ありません 。 |||いまに||||||||||||||||あり ませ ん |||soon||one|one||memorize|||to say|||not easily||behavior|behavior|also|not Even though I say that Uta-chan will learn on her own eventually, there isn't much indication of that yet. うた ちゃん は 、 え 本 でも なんでも 、 あけて みて は すぐ おもしろい お 話 を こしらえて 、 みな ひと り で 読んで しまう のです 。 ||||ほん|||||||||はなし|||||||よんで|| ||||||anything|opened|trying|||interesting||||creates|everyone||||reading|finished| Uta-chan opens books or anything and immediately comes up with an interesting story, and everyone ends up reading it together. これ で は 、 まるで 字 の 必要 も ない わけな のだ 、 と 気 が つきました 。 ||||あざ||ひつよう||||||き||つき ました |||just like|||necessity|||reason||quotation particle|I||arrived With this, it became clear that there was no need for letters at all. それにしても 、 自分 の 名 まえ ぐらい 書け ないで は ようち園 で も こまる だろう 。 |じぶん||な|||かけ|||ようちえん|||| still|||||about|write|without||kindergarten|||have trouble| Even so, if you can't write your own name, it would be a problem even in kindergarten.

ちょっと ためしに 、 名 まえ の 三 字 だけ でも おぼえ させて 見よう 、 と 「 う 」 の 字 から 教え はじめた が 、 やっぱり だめな のです 。 ||な|||みっ|あざ||||さ せて|みよう||||あざ||おしえ||||| a little|for a trial|||||||||let|let's try||the|||||started|||no good| Just to try, I thought I would teach them the three characters of their name, starting with the character 'u', but it still didn't work. 二 、 三 日 か ゝって 、 やっと 読み 方 は おぼえた が 、 書く こと は どうしても だめな ので 、 あきらめて 「 の 」 の 字 を 教え はじめました 。 ふた|みっ|ひ||ゝ って||よみ|かた||||かく|||||||||あざ||おしえ|はじめ ました ||||repeating|finally|reading|||remembered||||||||gave up||||||started 「 う 」 の 字 の 下 を 「 の 」 の ように 書く の に 気 が ついた から です 。 ||あざ||した|||||かく|||き|||| ||||||||||||||stuck||です 「 の 」 の 字 を 、 はじめ は まるい 字 と よんで 、 これ を 読む こと は すぐ おぼえました が 、 書く の は 、 逆の 方向 に まげたり 、 しっぽ の 方 から 頭 へ もって行ったり 、 どうしても だめでした が 、 三 日 ほど したら 、 どうやら それ らしい 字 が でき はじめました 。 ||あざ|||||あざ|||||よむ||||おぼえ ました||かく|||ぎゃくの|ほうこう|||||かた||あたま||もっていったり||||みっ|ひ||||||あざ|||はじめ ました ||||began||round|||called|||||||learned|||||opposite|direction||bending|tail||||head||brought||no good||||||it seems|it||character||| I initially called the character 'の' a round character and quickly learned to read it, but when it came to writing it, I just couldn’t bend it in the opposite direction or bring it from the tail to the head. No matter how hard I tried, I couldn't do it at all. However, after about three days, it seemed that I started to be able to form that character. 書き はじめて も 、 読み 方 を わすれて は いけない 、 と 書く けいこ を さ せ ながら も 、 え 本 や 学校 の 本 など を 出して きて 、 うた ちゃん に 「 の 」 の 字 を さがし出さ せて いる うち に 、 兄さん の 野球 の 雑誌 から も 、 お 父さん の 新聞 の うしろ から も 、 うた ちゃん は 「 の 」 の 字 さえ 見れば 、 きっと ひろい 出す ように なり 、 書く こと も だんだん 上手に なりました 。 かき|||よみ|かた||||||かく||||||||ほん||がっこう||ほん|||だして|||||||あざ||さがしださ|||||にいさん||やきゅう||ざっし||||とうさん||しんぶん||||||||||あざ||みれば|||だす|||かく||||じょうずに|なり ました writing||||||forgetting|(topic marker)||||practice|||||||||school||||||||||||||find|||while|locative particle|||||magazine||||||newspaper||back|||||||||even|if|sure|wide|to take out||||||gradually|well| Even as I began to write, I was told not to forget how to read it. While practicing writing, I took out picture books and school books, asking Uta-chan to find the character 'の'. In the meantime, Uta-chan began to surely discover 'の' from my brother's baseball magazines and the back of my father's newspaper, and gradually got better at writing it. うた ちゃん の 世界 は 、 今や 「 の 」 の 字 の 世界 に なりました 。 |||せかい||いまや|||あざ||せかい||なり ました |||||now||possessive particle||||| Uta-chan's world has now become the world of the character 'の'. 新聞 に は 、 大きい の や 小さい の や 「 の 」 の 字 は どっさり 。 しんぶん|||おおきい|||ちいさい|||||あざ|| |||||||||||||in large quantities うた ちゃん に は 、 新聞 も 「 の 」 の 字 ばかり です 。 ||||しんぶん||||あざ|| ||||newspaper|||||| お 兄さん の まわす コマ が 、「 の 」 の 字 を 書いて いる し 、 コマ の ヒモ も 、 お えんがわ で 「 の 」 の 字 に なって います 。 |にいさん|||こま||||あざ||かいて|||こま||ひも|||||||あざ|||い ます |||spinning|top|||||||is||||string|||handle||||||| お 庭 の カタツムリ は 「 の 」 の 字 を しょって 歩いて いる し 、 うた ちゃん の 夜具 の カラクサ もよう も 、 あちら むき や こちら むき の 「 の 」 の 字 が 一 ぱい です 。 |にわ||かたつむり||||あざ||しょ って|あるいて||||||やぐ|||||||||||||あざ||ひと|| honorific prefix|garden||snail|||possessive particle|||carrying|||||||bedding||pattern|pattern||||||facing|||||||a lot| The garden snail is walking around with the character 'no' on its back, and there are plenty of 'no' characters facing this way and that on Uta-chan's bedding with arabesque patterns. お 兄さん の 頭 の 上 に 、 だれ か 「 の 」 の 字 を 書いて いる と いう の を 見る と 、 つむ じ の こと な のです 。 |にいさん||あたま||うえ||||||あざ||かいて||||||みる||||||| |||||top||||||||||||||||squint||||| When I see someone writing the character 'no' on top of my brother's head, it refers to his whorl. お 庭 に 「 の 」 の 字 が 生きて 動いて いた 、 と いう ので 、 ついて行って 見る と 、 ミミズ が いた ので 、 みんな で わらいました 。 |にわ||||あざ||いきて|うごいて|||||ついていって|みる||みみず||||||わらい ました ||||||||moved|||||followed|||earthworm||||||laughed In the garden, it was said that the character 'no' was alive and moving, so when we went to check it out, we found a worm, and everyone laughed. みんな が わらった ので 、 うた ちゃん は 、 ひどく しょげて しまった ので 、 わたし は ||laughed|||||very|downhearted|ended up|||

『 ほんとうに 「 の 」 の 字 が 生きて 、 ねん ね して いた ね 』 |||あざ||いきて||||| ||||||sleeping|||| It was really like the character 'no' was alive, sleeping peacefully.

と 、 うた ちゃん を 、 なぐさめて やって から いいました 。 |||||||いい ました ||||comforted|||said I said this after comforting Uta-chan. 『 うた ちゃん 、 字 は 「 の 」 の 字 の ほか に も まだ たくさん ある のです 。 ||あざ||||あざ|||||||| |||||||||||still||| Uta-chan, there are many more characters besides the character 'no'. うた ちゃん の 「 う 」 の 字 でも 、「 た 」 の 字 でも 、 ね 。 |||||あざ||||あざ|| |||||||ta|||| みんな おぼえます か 』 |おぼえ ます| |remembers| うた ちゃん は 、 大きく うなずいた 。 |||おおきく| |||big|nodded うた ちゃん は 、 一 字 おぼえて 自信 が でき 、 おもしろく なった のでしょう 。 |||ひと|あざ||じしん||||| |||||remembered|confidence|||||probably うた ちゃん は 、 今に 字 を みな おぼえて 、 世界中 を 読む でしょう 、 きっと 。 |||いまに|あざ||||せかいじゅう||よむ|| song|||soon|||||||||surely Uta-chan will surely remember all the characters soon and will read all around the world.