三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 10 (2)
「 近づいたら 、 刺し殺す から ね !
「 おい 、 待て 。
落ちつけよ 」
と 、 タカシ は 、 やっと 立ち上って 、「 なあ 、 何も そんなに カッカ し なくて も ──」
「 私 ね 、 落ち目 の スター に 抱か れる 趣味 は ない の 」
この 一言 が 、 タカシ に は 応えた らしい 。
サッと 青ざめ 、 体 が 、 はっきり 分 る ほど 震えた 。
珠美 が いくら ドライで も 、 こういう 場合 、 怖い の は 当然である 。
しまった 、 と 思った 。
相手 は 、 いくら 軟弱 と は いえ 、 一応 男 である 。
本気で 怒ったら ── 殺さ れる かも しれ ない 。
珠美 の 脳裏 を 一瞬 かすめた の は ──「 生命 保険 に 入っと け ば 良かった ! 」 と いう 思い だった ……。
しかし 、 神山 田 タカシ は 、 一向に 牙 を むき 出して 飛びかかって 来る 様子 は なかった 。
そして 、 突然 …… ヘナヘナ と その 場 に 座り込む と 、 グスングスン と 泣き出した のである 。
これ に は 珠美 も 呆 気 に 取ら れた 。
しかし 、 演技 と いう 可能 性 も ある から 、 油断 は でき ない 。
珠美 は ジリジリ と 横 に 動いて 、 台所 の ドア の 方 へ と 近づいて 行った 。
「── 逃げ なく たって いい ぜ 」
と 、 タカシ が 顔 を 上げて 、 言った 。
涙 に 汚れた 顔 は 、 およそ スター の イメージ と は 程遠かった 。
声 に も 力 が なくなって 、 まるで 別人 の ように 甘ったるい 声 に なって いる 。
「 私 が どうして 逃げる の よ 」
と 、 珠美 は 、 強気 を 取り戻して 言った 。
「 あんた が 出て 行く の が 筋 でしょう 」
「 警察 に 知らせ ない の かい ?
「 知らせて ほしきゃ 、 知らせて やる わ よ 」
タカシ は 、 急に 老け 込んで しまった ようだった 。
ガックリ と 肩 を 落として 、
「 任せる よ 。
好きに して くれ 」
と 、 投げ出す ような 口調 で 言った 。
珠美 は 、 椅子 を 引き寄せて 、 腰 を かけた 。
「── 一一〇 番 したら 、 どう なる と 思う の ?
あんた 、 もう 歌手 と して 、 やって行け なく なる わ よ 」
「 ああ 、 それ も 悪 か ない よ 」
と 、 肩 を すくめて 、「 どうせ 落ち目 の 俺 な んだ 。
やめる ふんぎり も つくって もん さ 」
「 へえ 。
分って んだ 」 タカシ は 珠美 を 見て 、 ちょっと 笑った 。 「── お前 、 いく つ だい ?
「 十五 よ 」
「 十五 か 。
── 俺 に も そんな ころ が あった んだ な 」
「 いやに 年寄り じみ たこ と 言う の ね 」
「 そりゃ そう さ 。
俺 が いくつか 知って る かい ? 「 二十一って ふれ込み よ ね 。 でも 、 もう 二十四 ぐらい に なって んでしょ ? 「 二十八 だ よ 」
「── 八 ?
呆れた ! 「 くたびれて んだ 、 確かに 。
女 の 一 人 や 二 人 、 相手 に して なきゃ たまらない よ 」
「 あの 殺さ れた マネージャー の 奥さん と 結婚 する んじゃ なかった の ?
「 一 度 は その 気 に も なった けど な 。
── 今度 は向う が びびって ん の さ 。 俺 に ケチ が ついた 。 こう なる と 落ちる の も 早い 」
「 金 の 切れ目 が 縁 の 切れ目って わけ ね 」 「 よく 分って る じゃ ない か 」 「 私 、 お 金って 大好きな の 」 と 珠美 は アッサリ と 言った 。 「 でも 、 あんた 、 お 金 も 大して な さ そう ね 」
「 言いにくい こと を はっきり 言う 奴 だ なあ 」
と 、 タカシ は 苦笑い した 。
「 口止め 料 でも 払えって の かい ? 「 そう 言いたい とこ だ けど 、 勘弁 して あげる わ 」 と 、 珠美 は 言った 。 「 その代り 、 三 日 の 文化 祭 は 無料 出演 よ 。 分った ? 「 タダ ?
「 留置 場 と 、 どっち が いい ?
「 分った よ ! ── 金田 の 奴 に 言っと く よ 」 「 OK 。 じゃ 、 細かい 打ち合せ を やり ま しょ 」
「 打ち合せ ?
と 、 タカシ は 目 を パチクリ さ せて 言った 。
── 少し して 、 夕 里子 と 綾子 が 帰って 来た 。
「 あら 、 誰 か 来て る わ 」
と 、 夕 里子 は 言って 、「── 珠美 。
ただいま 」
と 声 を かけ ながら 、 居間 を 覗いた 。
「 まあ 」
夕 里子 は 目 を 見開いた 。
テーブル を 挟んで 、 珠美 が ── なぜ か 傍 に 包丁 を 置いて ── 神山 田 タカシ と 交渉 の 最中 だった 。
「 だめ !
二十五 曲 は 歌わ なきゃ 、 一一〇 番 よ ! 「 勘弁 して くれ !
とても 喉 が もた ない よ 」
タカシ が 情 ない 声 を 出した 。