三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 08
8 珠美 の 人形
「 珠美 ったら 、 全く ──」
夕 里子 は 、 マンション の ロビー へ 入り ながら 、 ブツブツ 文句 を 言って いた 。
独り言 である 。
帰り に 待ち合せて いた と いう のに 、 一 時間 以上 待って も 、 珠美 が やって 来 なかった のである 。
「 来 られ なきゃ 、 電話 の 一 本 ぐらい かけて 来りゃ いい の よ !
エレベーター の 中 でも 、 まだ グチ が 出る 。
── 玄関 を 入って 、 夕 里子 は 、 あれ 、 と 思った 。
男 もの の 靴 。
── はき 古 して 、 大分 くたびれて いる 。 これ は きっと ……。
「 お 帰り 」
国 友 が 、 顔 を 覗か せた 。
「 国 友 さん !
忙しい んじゃ ない の ? 「 忙しい けど 、 ちょっと 寄る ぐらい の ヒマ は ある よ 」
「 そう 。
でも ──」
夕 里子 は 、 やっと 気付いた 。
勇一 が ここ に いる んだ !
「 あら 、 夕 里子 、 珠美 と 一緒じゃ なかった の ?
台所 に 立って いる 綾子 が 訊 いた 。
「 それ が 、 待ち惚け で ……。
お 姉さん 」
「 何 よ ?
夕 里子 は 、 国 友 が 居間 に いる の を 確かめて 、 急いで 綾子 の そば へ 行った 。
「 あの 子 は ?
と 、 押し殺した 声 で 訊 く 。
「 あの 子 って ?
「 ほら 、 有田 勇一 よ 」
「 ああ 、 有田 勇一 ね 」
「 しっ !
と 、 あわてて 言って 、「 どうした の ?
隠れて る の ? 「 い なかった わ よ 。
帰って 来た とき は 」
「 い なかった ?
「 そう 。
出かけた んじゃ ない ? 夕 里子 は ホッ と して 、 息 を ついた 。
何しろ 綾子 は 、 勇一 が ご飯 を 食べて いたって 平気で 国 友 を 食堂 へ 通す ぐらい の こと は やり かね ない のだ 。
しかし 、 勇一 は どこ へ 出かけた のだろう ?
手配 さ れて いる の は 分 って いる のに 。
「 国 友 さん 、 ご飯 食べて 行く って 。
夕 里子 、 手伝って よ 」
「 うん 。
いい わ よ 」
── 手早く 料理 を 作る の は 、 夕 里子 の 十八 番 。
もっとも 、 味 の 方 は 保証 の 限り で ない 。
しかし 、 食べた 国 友 は 、
「 旨 い !
と 絶賛 して いた 。
「── じゃ 、 珠美 と 会った の ?
食事 し ながら 、 夕 里子 は 国 友 の 話 に 、 ちょっと けげんな 表情 に なった 。
「 うん 。
待って る はずだった が 、 戻って みる と 、 もう い なくて ね 。 出 棺 まで いた けど 、 結局 帰って 来 なかった んだ 」
「 変 ね 。
どこ へ 行った の かしら 」
「 てっきり 先 に 帰った んだ と 思った けど ね 」
「 でも 、 待ち合せ の 店 に 来 なかった の よ 」
夕 里子 は 首 を かしげた 。
もちろん 、 珠美 とて 、 少々 いい加減な ところ は ある 。
いや 、 少々 で は なく 、「 かなり 」 かも しれ ない 。
しかし 、 待って いる と 言って おいて 、 い なく なる と か 、 待ち合せ を す っぽ かす と か ── そんな こと を する の は 、 いかにも 珠美 らしく ない こと であった 。
「 事故 に でも 遭った の かしら 」
と 、 綾子 が 言い 出した 。
「 まさか 。
── そんな こと ない わ よ 」
「 僕 が 早く 戻って りゃ 良かった んだ が ……」
「 もし ── 車 に でも はね られて ……」
綾子 は 、 青く なって 来た 。
「 どう しよう ! パパ が い ない って いう のに 、 留守 を 守る 責任 は 私 に ある のに 、 万一 の こと が あったら ……。 珠美 は まだ 十五 な の よ 。 十五 歳 の 若 さ で 死ぬ なんて ……」
綾子 は シクシク 泣き 出した 。
「 もう ── お 姉さん たら 、 勝手に 想像 して 泣か ないで よ 」
夕 里子 は 、 ため息 を ついた 。
「 大丈夫 。
珠美 君 は しっかり者 だ 。 滅多な こと が ある もん か 」
と 、 国 友 が 力づける ように 言った 。
「── 本当に そう 思う ?
綾子 が 赤く なった 目 で 国 友 を 見る 。
「 ああ !
決 って る さ 」
と 、 力強く 肯 く 国 友 に 、 安心 した の か 、
「 じゃ 、 きっと 何でもない わ ね 」
綾子 は パクパク と ご飯 を 食べ 始めた 。
夕 里子 も 、 これ に は 呆れる しか なかった ……。
と 、 そこ へ チャイム が 鳴る 。
「 珠美 だ わ !
全く 、 人騒がせな んだ から 」
夕 里子 は 、 席 を 立って 玄関 へ 出て 行った 。
「── 何 やって た の よ 」
と 、 ドア を 開けて ……。
立って いた の は 珠美 で は なかった 。
「 や あ 、 恋 が たき さん 」
いとも 可愛い ワンピース に 、 毛皮 の ハーフコート を ヒョイ と は おって 立って いる の は 、 あの 、 杉 下 ルミ だった 。
「 あんた な の 」
と 、 夕 里子 は 顔 を しかめた 。
「 国 友 さん 、 ここ でしょ ?
「 だったら 何 だって の よ 」
「 会い たい の 」
「 へえ 。
── じゃ 、 待って なさい 」
夕 里子 が ツンと して 言った 。
国 友 の 方 が 、 声 を 聞き つけて 出て 来る 。
「 また 君 か 」
「 悪かった わ ねえ 。
お 二 人 で 愛し 合って た の ? と 、 ルミ は にっこり 笑った 。
「 晩 ご飯 よ 」
と 、 夕 里子 が 言った 。
「 国 友 さん に 話 が ある の なら 、 言えば ? 「 うん 。
── ねえ 、 私 の 国 友 さん 。 今夜 、 パーティ が ある の 。 行か ない ? 「 今 、 殺人 事件 の 捜査 の 最中 だ ぞ 。
遊んで る 時間 は ない んだ 」
「 あら 、 この 子 と なら 遊んで て も いい の ?
「 夕食 を ごちそう に なって る だけ さ 」
「 だったら 、 私 と 行った 方 が 、 よっぽど おいしい もの 、 食べ られる わ よ 」
夕 里子 は カチン と 来て 、
「 私 の 料理 が まずい って 言い たい の ?
と 、 腕組み を した 。
「 あら 怖い 。
女 組長 って 感じ ね 」
「 いい加減に して くれ よ 」
と 、 国 友 は うんざり した 様子 で 、「 君 は 誰 か 他の ボーイフレンド を 捜して 行く んだ ね 、 その パーティ と やら に 」
「 残念だ なあ 」
「 じゃ 、 バイバイ 」
夕 里子 が ドア を 閉めよう と する と 、 ルミ が 言った 。
「 妹 さん 、 心配 ね 」
── 夕 里子 は 、 また ドア を 開けた 。
「 あんた 、 今 、 何て 言った ?
「 妹 よ 、 あんた の 。
まだ 帰って ない んでしょ ? と ルミ が 得意 げ に 言った 。
「 どうして 知って る の ?
「 私 、 見た んだ もん 」
「 何 を ?
「 さあ ねえ ……。
もう 忘れちゃ った なあ ……」
と 、 ルミ が とぼける 。
「 ちょっと 、 あんた ──」
夕 里子 が 顔色 を 変えて 、「 何 か 知って る の なら 、 言い なさい よ !
「 人 に もの を 訊 く とき は 、 もっと 丁寧に 言う もん よ 」
夕 里子 は 、 怒り で 真 赤 に なった 。
「 おい 、 君 」
と 、 国 友 が 見 かねて 、「 何 だい 、 一体 ?
もったいぶら ず に 言えよ 」
「 国 友 さん の 頼み なら 、 聞いちゃ う 」
ルミ は ニヤニヤ して 、「 今日 も 、 国 友 さん の 後 を 尾 け て た の 」
「 昼間 から ?
「 そう よ 。
── お 葬式 に 行った でしょ 」
「 ああ 」
「 で 、 ここ の 妹 と しゃべって た でしょ 。
学校 で 顔 見て る から 、 分 る もん 」
「 珠美 君 だ よ 」
「 それ で 、 国 友 さん 、 電話 かけ に 行って ── 戻って みる と 、 もう 、 あの 子 は い なかった 。
── ね ? 「 そう だ よ 。
君 、 何 か 見て た の か ? 「 うん 。
あの 子 、 車 に 押し 込ま れて 連れ 去ら れた の よ 」
「 何で すって ?
夕 里子 が 目 を 見張った 。
「 それ ── 本当な の ? 「 信じ ない なら いい わよう 」
と 、 ルミ は 口 を 尖ら せて 、「 せっかく 人 が 親切に 教えて あげて る のに 」
「 連れ 去ら れた って 、 無理に って こと か ?
と 、 国 友 が 訊 いた 。
「 でしょう ね 。
男 と 女 の 二 人 連れだった 。 車 は ね 、 ビュイック 」
「 ビュイック ?
高級 車 だ な 」
「 そう ね 。
── あんた の とこ 、 お 金持 ? 「 うち が ?
まさか 」
「 じゃ 、 身代金 、 払え ない わ ね 」
夕 里子 と 国 友 は 顔 を 見合わせた 。
その とき ── ドシン 、 と いう 音 が 、 夕 里子 の 背後 で 聞こえた 。
振り向く と 、 綾子 が 倒れて いる 。
「 話 を 聞いちゃ った んだ わ 」
と 、 夕 里子 が 言った 。
「 ショック で 失神 した の よ 」
「 いい かい 、 君 」
と 、 国 友 が ルミ に 言った 。
「 よく 聞く んだ 。 もし これ が 冗談 だったら 、 僕 は 許さ ない ぞ 」
「 本当 よ 。
信じて 」
「── 分 った 」
と 、 国 友 は 肯 いた 。
「 車 の 色 は ? 「 青 ね 。
メタリック の 」
「 ナンバー 、 見た かい ?
「 そこ まで 憶 えて らん ない わ 。
私 、 カメラ じゃ ない もん 」
と 、 ルミ は 言った 。
「 一 桁 か 二 桁 で も いい んだ 」
「 だめ 。
忘れた 」
「 そう か 。
── しかし 、 そう 沢山 ある 車 じゃ ない から 」
「 国 友 さん 、 すぐ 調べて くれる ?
と 、 夕 里子 が 、 綾子 を 介抱 し ながら 言った 。
「 もちろん だ 。
電話 を 借りる よ 」
と 、 国 友 が 、 居間 の 方 へ 行き かける と 、
「 国 友 さん !
と 、 ルミ が 呼び止めた 。
「 パーティ に 行こう よ 」
「 それ どころ じゃ ないだ ろ !
誘拐 事件 だ と したら 大変だ 」
「 パーティ へ 来て る かも よ 」
「 誰 が ?
「 その ビュイック 」
国 友 は 、 目 を パチクリ さ せた 。
「 どういう 意味 だい ?
「 私 、 見 憶 え が ある の 。
あの 車 。 ── ちょっと 変った ステッカー 貼って あって ね 」
「 それ と パーティ と ──」
「 関係 ある の よ 。
うち みたいな 上流 家庭 に は ね 、 よく パーティ の 案内 が 来る わ 。 たいてい は つま ん なくて 行か ない んだ けど 、 今夜 の パーティ は 二 ヵ 月 に 一 回 、 定期 的に あって ね 、 割と 楽しい の 。 前 、 この パーティ に 行った とき 、 駐車 場 で 、 あの ビュイック を 見た の よ 」
「── 確か かい ?
「 百 パーセント と は 言わ ない けど 、 たぶん 確か よ 」
と 、 ルミ は 肯 いた 。
「 あそこ の 客 は たいてい 定 連 。 今夜 も 来て る んじゃ ない か な 」
夕 里子 は 、 綾子 を 寝か せた まま 、 立ち上って 、
「 私 も 行く わ 」
と 言った 。
「 だめ よ 。
だって 、 男女 の カップル で ない と いけない んだ もん 」
と ルミ が 言った 。
「 私 は 国 友 さん と 行く わ 。 あんた 、 誰 か ボーイフレンド いる の ? 夕 里子 は ぐっと 詰った 。
ボーイフレンド の 一 人 や 二 人 ── と 言い たい が 、 いやし ない のである 。
「 何とか ── 見付ける わ よ 」
「 無理じゃ ない ?
今 すぐ 見付けよう った って 」
ルミ は 楽し げに 言った 、「 ね 、 国 友 さん 、 出かけ ま しょ 」
その とき だった 。
── タッタッ と 足音 が した と 思う と 、 玄関 へ 入って 来た の は ……。
「 おお 寒い !
こごえ ち まう よ 」
と 、 勇一 が 身震い して ── 国 友 に 気付いた 。
「 あ ……」
「 お前 ──」
国 友 が 啞然 と した 。
「 有田 勇一 だ な ! 「 待って !
夕 里子 が 間 に 飛び 込んだ 。
「 ね 、 待って ! 国 友 さん !
今 は 見逃して 」
「 だけど ──」
「 私 、 この 子 と パーティ に 行く 」
「 何 だって ?
「 今 は 珠美 の 方 が 大事 。
── ね ? 分 って ちょうだい ! 「 それ は …… まあ 、 そう だ けど ……」
「 説明 は 後 で する わ !
ね 、 あんた も 上って ! パパ の 服 を 着る の よ 」
と 、 勇一 を 引 張り上げる 。
「 おい 、 何 だ よ !
勇一 は 、 わけ が 分 ら ず 、 前 へ つんのめり そうに なり ながら 、 奥 へ と 入って 行った 。
眠い ……。
頭 が 重い 。
── 珠美 は 、 やっと の 思い で 、 目 を 開けた 。
あー あ 。
どう しちゃ った んだ ろ ?
どこ か に 寝て いる 。
── うち じゃ ない みたい 。 天井 が 違う 。
それ に ── いやに 大きな ベッド ……。
「 どう なって ん の ?
と 、 呟いて 、 ゆっくり と 起き上る 。
何 か 、 いやに ガサゴソ と 音 が する 服 で ……。
「── 何 よ 、 これ !
一気に 目 が さめて しまった 。
珠美 が 着て いる の は ── どう 見た って 、 自分 の 服 じゃ なかった 。
制服 で も ない 。
だって …… まるで フランス 人形 みたいな 、 と いう か 、 TV で アイドル 歌手 が 着る ぐらい しか 使い よう の ない 、 フワッ と 広がった 、 やたらに 飾り の ついた 真 白 な ドレス を 着て いる のである 。
「 私 ── これ 、 夢 じゃ ない の ?
珠美 は ポカン 、 と 拳 で 頭 を 殴った 。
「 いて て ! 現実 らしい 。
しかし 、 どうして こんな 格好 を ?
「 あ 、 そう だ !
やっと 思い出した 。
あの 小 峰 の 秘書 と か いう 井口 と いう 男 、 それ に 草間 由美子 と 、 車 に 乗って た んだ 。
そして 、 ジュース を 飲んだ 。
「 薬 が 入って た んだ !
今に なって 悔し がって も 遅い が 、 それにしても ……。
何 だろう 、 これ は ?
部屋 そのもの は 、 重厚な 英国 風 の 調度 の 、 豪華な 寝室 と いう 趣 だった 。
寝て いた ベッド も 、 それ に ふさわしい 、 大きな サイズ の もの で 、 寝心地 は 悪く ない 。
しかし 、 この 衣裳 ……。
これ ばっかり は 、 いただけ ない !
「 野暮ったい なあ 」
と 、 ブツクサ 言って いる と 、 ドア が 開いた 。
「 や あ 、 目 が 覚めた か 」
井口 である 。
「 どういう こと です か 、 これ ?
と 、 珠美 は 、 井口 を にらんだ 。
「 いや 、 悪かった 。
しかし 、 その 服 は 、 きっと 君 の 趣味 じゃ ない か と 思った んで ね 」
と 、 井口 は 平然と して いる 。
「 こんな の 、 悪 趣味 です 」
「 その 通り 。
しかし 、 小峰 様 の 趣味 で ね 」
珠美 は 、 ちょっと ゾッと した 。
「── 私 に どう しろ って いう んです か ?
「 君 は 何も し ない 」
と 、 井口 は 言った 。
「 何も ?
「 でき ない の さ 。
人形 だ から な 」
「 人形 って ── 私 が ?
「 そう 。
まあ 、 一種 の ゲーム だ な 」
珠美 は 、 ちょっと 怖く なった 。
考えて みれば 、 この 服 を 着せ られた と いう こと は 、 その 前 に 、 服 を 脱 が さ れて いる のだ 。
「── 変な こと する んじゃ ない でしょう ね ?
「 それ は 、 君 が 誰 に もらわ れて 行く か に よる な 」
「 もらわ れて ?
どういう こと ? 「 君 は ね 、 賞品 な んだ 」
「── 馬鹿げて る わ !
「 まあ 、 それ は 事実 だ ね 。
しかし 、 小峰 様 は 、 君 を すっかり お 気 に 入り だ 。 本当 は 手 もと に 置いて おき たい らしい 」
「 私 、 人間 よ !
「 あと 三十 分 くらい したら 、 呼び に 来る よ 」
と 、 井口 は 言って 、 出て 行った 。
「 待って ──」
珠美 は ドア へ 向 って 駆け 出した が 、 まだ 薬 の ききめ が 残って いる の か 、 途中 で 足 が もつれて 、 ひっくり返って しまった 。
ドア が 、 カチリ と 閉じる 。
立ち上って 、 ドア まで 行って みた が 、 鍵 が かかって いた 。
部屋 の 中 を 見 回した が 、 窓 が 一 つ も ない のだ 。
これ じゃ 、 出 られ や し ない 。
「 参った なあ ……」
珠美 は 、 何だか 信じ られ なかった 。
まだ 夢 を 見て る んじゃ ない か 、 と いう 気 が して ……。
── あの 小峰 って いう 人 、 少し おかしい んだ わ 。
見た ところ は 紳士 な のに 。
勇一 の 母親 も 、 父親 が 少し 変だ と 知って 、 堪え られ なくて 、 出て 行った の かも しれ ない 。
だけど 、 差し当り 、 そんな こと が 分 って も 仕方ない 。
何とか して 、 出 なきゃ !
人形 だの 、 賞品 だ の って 、 冗談 じゃ ない わ 。
こ ち と ら 、 そんな 遊び に 付き合って る ヒマ は ない んだ から 。
珠美 は 、 部屋 の 中 を 隅 から 隅 まで 、 見て 回った 。
どこ か 、 出 られる 所 、 逃げ 出せる 手がかり で も ない か 、 と ……。
しかし 、 むだだった 。
くたびれて 、 ベッド に 引っくり返る 。
どれ くらい 眠って た の かしら ?
お腹 の 空き 具合 から いく と 、 たぶん まだ 夜 ……。
真 夜中 に は なって い ない だろう 。
それにしても ── 一体 、 女の子 に こんな 格好 を さ せて 、 どう しよう って いう の かしら ?
この 衣裳 の 可愛らし さ 、 靴 から ブレスレット から 、 総 て 、 イメージ を 統一 した この スタイル が 、 却って 、 薄気味悪い 。
「 国 友 さん でも 助け に 来 ない か なあ 」
と 、 珠美 は 呟いた 。
「 私 の 貯金 全部 ── いえ 、 半分 か 三 分 の 一 ぐらい なら 、 あげる んだ けど ……」
── どこ から か 、 にぎやかな 音楽 が 流れて 来た 。