三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 02
みっ|しまい|たんてい|だん|chapter
2 家庭 教師
かてい|きょうし
「── でも 、 妙な 話 だ ね 」
|みょうな|はなし||
と 、 夕 里子 が 言った 。
|ゆう|さとご||いった
「 その 男の子 、 超 能力 を 持って んじゃ ない の ?
|おとこのこ|ちょう|のうりょく||もって|||
「 未来 を 予知 する 能力 ね 。
みらい||よち||のうりょく|
あったら 便利だろう な 」
|べんりだろう|
と 、 珠美 が ちょっと 考えて 、「 そう !
|たまみ|||かんがえて|
私 なら 、 まず 、 宝くじ の 当り 番号 を 教えて もらっちゃ う !
わたくし|||たからくじ||あたり|ばんごう||おしえて||
「 あんた らしい わ 」
と 、 夕 里子 が 呆れて 、「 でも 、 ともかく その 子 の おかげ で 助かった んだ から 」
|ゆう|さとご||あきれて||||こ||||たすかった||
「 そう ね ……」
三 人 は 無事 を 祝って ── かつ 、 代り に 亡くなった あの 太った おばさん と 、 運転手 の 冥福 を 祈って (?
みっ|じん||ぶじ||いわって||かわり||なくなった||ふとった|||うんてんしゅ||めいふく||いのって
)── ホテル で 食事 を して いた 。
ほてる||しょくじ|||
「 だけど 、 そんな こと って ある の かしら ?
と 、 綾子 は 言った 。
|あやこ||いった
「 偶然 かも しれ ない わ 」
ぐうぜん||||
「 でも 、 それ に しちゃ でき すぎ て る よ !
珠美 は 、 断固と して 、「 絶対 に 超 能力 よ !
たまみ||だんこと||ぜったい||ちょう|のうりょく|
と 、 主張 した 。
|しゅちょう|
「 どっち で も いい けど 、 ともかく 食べ なさい 。
||||||たべ|
高い の よ 、 残さ ないで 」
たかい|||のこさ|
It's too expensive. Don't leave it.
「 は あい 。
I love it.
── 夕 里子 姉ちゃん 、 すっかり 世帯 じ みて 来た ね 」
ゆう|さとご|ねえちゃん||せたい|||きた|
Yuriko, you've become a household name, haven't you?
と 、 珠美 が からかう 。
|たまみ||
「 あんまり 世帯 じ みる と 、 国 友 さん に 嫌わ れる よ 」
|せたい||||くに|とも|||きらわ||
If you look too closely, Kunitomo-san won't like you."
「 何 よ !
なん|
What is it?
夕 里子 が むき に なって 珠美 を にらむ 。
ゆう|さとご|||||たまみ||
Yuriko has her panties in a bunch and glares at Tamami.
「 よし なさい よ 」
"Okay, sir."
と 、 綾子 は 言った 。
|あやこ||いった
国 友 と いう の は 、 夕 里子 の 恋人 で 、 M 署 の 若き 刑事 である 。
くに|とも|||||ゆう|さとご||こいびと||m|しょ||わかき|けいじ|
当然 独身 。
とうぜん|どくしん
Naturally single.
男 まさり と 定評 の ある (?
おとこ|||ていひょう||
The famous "manly" (or is it?)
) 夕 里子 が 、 国 友 の 前 で は ぐっと 女らしく なる ── と いう の は 当人 のみ の 意見 で 、 はた目 に は 、 ちっとも 変ら ない と いう 評判 だった 。
ゆう|さとご||くに|とも||ぜん||||おんならしく||||||とうにん|||いけん||はため||||かわら||||ひょうばん|
Yuriko's reputation was that she did not change at all when she was in front of Kunitomo.
「 ねえ 、 それ は ともかく さ 」
"Hey, you know what?
と 、 珠美 が 言った 。
|たまみ||いった
「 年 末 年始 は どう する の ?
とし|すえ|ねんし||||
What do you do at the end of the year and the beginning of the new year?
「 どう って ?
What do you mean?
食事 が 終って 、 デザート が 来る の を 待って いる ところ である 。
しょくじ||しまって|でざーと||くる|||まって|||
夕 里子 は 、
ゆう|さとご|
「 何も 計画 して ない んだ もの 。
なにも|けいかく||||
I don't have anything planned.
今 から どこ か 行こう った って 、 無理 よ 」
いま||||いこう|||むり|
It's impossible to go anywhere now.
「 そう か あ ……。
I see. .......
つま ん ない な 」
と 、 珠美 は ふくれ っ つ ら で 、「 クラス の 子 、 みんな スキー と か スケート 、 温泉 と か 、 行く んだ よ 」
|たまみ|||||||くらす||こ||すきー|||すけーと|おんせん|||いく||
Tamami looked bloated and said, "All the kids in my class go skiing, skating, to the hot springs, and so on.
「 お 風呂 なら 、 うち で 入れる じゃ ない の 」
|ふろ||||いれる|||
"We can bathe at home."
と 、 綾子 が 夢 の ない こと を 言い 出した 。
|あやこ||ゆめ|||||いい|だした
Ayako started to talk about something she had never dreamed of.
「 たまに は 三 人 で 旅行 し ない ?
||みっ|じん||りょこう||
"Why don't the three of us take a trip together once in a while?
ねえ 」
珠美 の 意見 も 、 もっともで は ある 。
たまみ||いけん||||
Tamami's opinion is also plausible.
何しろ 珠美 だって もう 来年 は 高校 生 だ 。
なにしろ|たまみ|||らいねん||こうこう|せい|
After all, Tamami will be a high school student next year.
別に 迷子 に なる 心配 を する 年齢 で は ない 。
べつに|まいご|||しんぱい|||ねんれい|||
He is not old enough to worry about getting lost.
ただ 、 問題 は 長女 の 綾子 が 、 いとも 出 不精 と いう 点 に ある 。
|もんだい||ちょうじょ||あやこ|||だ|ぶしょう|||てん||
The problem, however, is that Ayako, the eldest daughter, has been very reluctant to go out.
「 あんた たち 、 行って くれば 。
||おこなって|
You guys should go.
私 、 うち で 寝て る 」
わたくし|||ねて|
I'm sleeping at home."
── と 、 こういう 具合 。
||ぐあい
And here's the picture.
「 全く もう !
まったく|
Oh, my God!
それ でも 二十 歳 ?
||にじゅう|さい
But you're 20?
「 一応 ね 。
いちおう|
I'm not sure.
あんた も 逆の 意味 で 十五 に は 思え ない わ よ 」
||ぎゃくの|いみ||じゅうご|||おもえ|||
I don't think you're fifteen either, just the opposite."
と 、 綾子 が 珍しく やり 返した 。
|あやこ||めずらしく||かえした
Ayako responded in an unusual manner.
「 ええ と ……。
じゃ 、 コーヒー ね 」
|こーひー|
Okay, coffee.
夕 里子 は 、 ウェイター を 呼んで 注文 する と 、「 ともかく 、 パパ に 言わ れて る でしょ 。
ゆう|さとご||||よんで|ちゅうもん||||ぱぱ||いわ|||
Yuriko called the waiter to order.
パパ が 留守 の 間 は 、 三 人 一緒に 行動 する ように 、 って 」
ぱぱ||るす||あいだ||みっ|じん|いっしょに|こうどう|||
He said the three of us should do things together while Dad is away."
「 じゃ 、 夕 里子 姉ちゃん 、 ハネムーン に も みんな で 行く つもり ?
|ゆう|さとご|ねえちゃん|はねむーん|||||いく|
I'm sure you'll be able to find a way to get a good deal on a new house.
「 あんた 、 極端な の 、 言う こと が 」
|きょくたんな||いう||
"You're extreme, you know that?"
夕 里子 と 珠美 が やり 合って いる と 、 五十 がらみ の 紳士 が 、 三 人 の テーブル の そば を 通ろう と して 、 ふと 足 を 止め 、
ゆう|さとご||たまみ|||あって|||ごじゅう|||しんし||みっ|じん||てーぶる||||とおろう||||あし||とどめ
「 おお 、 何 だ 、 佐々 本 君 じゃ ない か 」
|なん||ささ|ほん|きみ|||
"Oh, what, it's Sasamoto-kun, isn't it?"
と 言った 。
|いった
「 は ──?
声 を かけ られた 綾子 は 、 ポカン と して 、「 あの ── 私 、 佐々 本 綾子 で ございます が 」
こえ||||あやこ||||||わたくし|ささ|ほん|あやこ|||
When she was approached, Ayako looked blankly and said, "Um, my name is Ayako Sasamoto.
その 紳士 、 笑い 出して 、
|しんし|わらい|だして
That gentleman started laughing,
「 いや 、 君 は 、 大学 で 取って いる ゼミ の 教授 の 顔 も 憶 え とら ん の か ?
|きみ||だいがく||とって||ぜみ||きょうじゅ||かお||おく|||||
「 あ 、 先生 ── す 、 すみません !
|せんせい||
綾子 は 、 あわてて 立ち上った ので 、 椅子 を 引っくり返して 、 また 、「 キャッ !
あやこ|||たちのぼった||いす||ひっくりかえして||
と 、 悲鳴 を 上げる 始末 。
|ひめい||あげる|しまつ
夕 里子 は ため息 を ついた 。
ゆう|さとご||ためいき||
Yuriko sighed.
「 妹 の 夕 里子 です 」
いもうと||ゆう|さとご|
と 、 自己 紹介 して 、「 これ が 一 番 下 の 珠美 です 。
|じこ|しょうかい||||ひと|ばん|した||たまみ|
姉 を どうか 落第 さ せ ないで 下さい 」
あね|||らくだい||||ください
Please don't let my sister fail."
と 挨拶 した 。
|あいさつ|
I greeted him with a "hello".
「 なるほど 。
I see.
君 ら が 有名な 佐々 本 の 三 人 姉妹 か 。
きみ|||ゆうめいな|ささ|ほん||みっ|じん|しまい|
私 は 教授 の 沼 淵 だ 」
わたくし||きょうじゅ||ぬま|ふち|
I am Professor Swamp Abyss."
あ 、 そう だった 。
Oh, that's right.
綾子 も やっと 名前 が 分 って 、 ホッと した 。
あやこ|||なまえ||ぶん||ほっと|
Ayako was relieved to finally know her name.
「 あの ──」
と 、 夕 里子 が 言った 。
|ゆう|さとご||いった
「 私 たち の こと 、 どういう 風 に 有名な んです か ?
わたくし|||||かぜ||ゆうめいな||
What are we famous for?
「 いや 、 まあ 風 の 便り に ね ……」
||かぜ||たより||
"No, well with the letter of the wind ... ...."
と 、 沼 淵 は とぼけた 。
|ぬま|ふち||
Numafuchi blurted out, "I'm not sure I've ever seen anything like this before.
「 じゃ 、 大学 、 無 試験 で 入れて 下さい 」
|だいがく|む|しけん||いれて|ください
"Then, please enter the university without an exam."
と 、 珠美 が 言い 出して 、 夕 里子 に つつか れた 。
|たまみ||いい|だして|ゆう|さとご|||
Tamami started to say, "I'm not sure I can do this," and Yuriko poked her.
「── そうだ 」
そう だ
と 、 沼 淵 は 何 か 思い 付いた 様子 で 、「 佐々 本 君 、 この 年 末 年始 は 予定 が ある の か ?
|ぬま|ふち||なん||おもい|ついた|ようす||ささ|ほん|きみ||とし|すえ|ねんし||よてい||||
Numafuchi seemed to have an idea, and asked, "Sasamoto, do you have any plans for the end of the year and the beginning of the new year?
「 はい 」
と 、 綾子 は 答えた 。
|あやこ||こたえた
「 そう か 。
残念だ な 」
ざんねんだ|
「 ずっと うち に いる 予定 です 」
||||よてい|
"I'm going to stay here forever."
綾子 は 、 別に ふざけて いる わけで は ない のである 。
あやこ||べつに||||||
Ayako was not kidding around.
「 そう か 」
沼 淵 は 笑い を こらえ ながら 、「 いや 、 実は 、 いい 家庭 教師 は い ない か と 頼ま れて いて な 」
ぬま|ふち||わらい|||||じつは||かてい|きょうし||||||たのま|||
Numbu caught a laugh while saying, "No, in fact, you are being asked to have a good tutor."
「 家庭 教師 です か ?
かてい|きょうし||
「 そう な んだ 。
I see.
君 、 ヒマ なら 、 やって みちゃ どう だ ?
きみ|ひま|||||
If you're not busy, why don't you give it a try?
姉さん が 家庭 教師 ね 。
ねえさん||かてい|きょうし|
My sister is a governess.
── 夕 里子 は 、 この 先生 、 お 姉さん の こと 、 全然 分 って ない ね 、 と 思った 。
ゆう|さとご|||せんせい||ねえさん|||ぜんぜん|ぶん|||||おもった
Yuriko thought that this teacher didn't understand her sister at all.
一 日 で 断ら れて 来る こと 、 必至である 。
ひと|ひ||ことわら||くる||ひっしである
It is inevitable that they will come to us in one day.
「 でも ── それ は 学生 課 の 方 の 仕事 じゃ あり ませ ん か ?
|||がくせい|か||かた||しごと|||||
But isn't that the job of the student affairs office?
と 、 綾子 が 珍しく まともな こと を 言った 。
|あやこ||めずらしく||||いった
Ayako said something unusually serious.
「 休み に 入って から 、 話 が 来た の さ 」
やすみ||はいって||はなし||きた||
"They came to me after the vacations."
と 、 沼 淵 が 言った 。
|ぬま|ふち||いった
「 それ も 、 個人 的に 、 私 の 所 へ 来た んだ 」
||こじん|てきに|わたくし||しょ||きた|
"It also came to me personally."
「 先生 の ご存知 の 方 な んです か ?
せんせい||ごぞんじ||かた|||
"Do you know this person?
「 大分 昔 の 教え子 な んだ よ 。
だいぶ|むかし||おしえご|||
He was a student of mine a long time ago.
そこ の 子 が 十三 歳 な んだ そうだ 」
||こ||じゅうさん|さい|||そう だ
「 十三 です か 」
じゅうさん||
「 男の子 で 、 決して 頭 の 悪い 子 じゃ ない らしい が 、 少し 病気 がちで 、 学校 も 一 年 遅れて いる 。
おとこのこ||けっして|あたま||わるい|こ|||||すこし|びょうき||がっこう||ひと|とし|おくれて|
He's a boy, not a bad kid by any means, but he's a little sickly and a year behind in school.
その分 を 、 何とか 取り戻し たい 、 と いう こと な んだ 。
そのぶん||なんとか|とりもどし||||||
It is that I want to regain that part somehow.
── どう だ ね ?
What do you think?
「 私 に つとまる でしょう か 」
わたくし||||
"Will it work for me?"
「 大丈夫 さ 。
だいじょうぶ|
相手 は 十三 だ ぞ 。
あいて||じゅうさん||
The other party is 13.
── ただ 、 この 暮れ から 、 と いう こと な ので 、 なかなか 、 見付ける の は 容易じゃ ない 、 と 言って おいた よ 」
||くれ||||||||みつける|||よういじゃ|||いって||
I told him that it would be difficult to find them, since it would be at the end of the year.
「 は あ 。
でも ── もし 、 私 が やる と したら ──」
||わたくし||||
But if I were to do it..."
「 やって くれる か ?
"Can you do it?
と 、 沼 淵 が 訊 いた 。
|ぬま|ふち||じん|
Numafuchi asked.
「 いや 、 もし 引き受けて くれる と ありがたい 。
||ひきうけて|||
No, I'd be grateful if you'd take me on.
石垣 も 喜ぶ だろう 」
いしがき||よろこぶ|
Ishigaki will be pleased as well "
「 石垣 さん と おっしゃる んです か 」
いしがき|||||
「 うん 。
父親 も 母親 も 私 の 教え子 で ね 。
ちちおや||ははおや||わたくし||おしえご||
My father and mother were both my students.
二 人 と も 、 なかなか ユニークな 学生 だった 」
ふた|じん||||ゆにーくな|がくせい|
They were both quite unique students."
ユニークな 点 じゃ 、 綾子 も 負け ない 。
ゆにーくな|てん||あやこ||まけ|
Ayako is no slouch when it comes to uniqueness.
「── 本当に やって くれる か ?
ほんとうに|||
"Are you sure you can do it?
沼 淵 に 訊 かれて 、 綾子 は 夕 里子 の 方 を 向いて 、
ぬま|ふち||じん||あやこ||ゆう|さとご||かた||むいて
Asked by Numabuchi, Ayako turned to Yuriko,
「 どう する ?
What are you going to do?
妹 に 訊 いて りゃ 世話 は ない 。
いもうと||じん|||せわ||
I don't care if you ask my sister.
「 一 日 いくら いただける んです か ?
ひと|ひ||||
"How much do you give me a day?
と 、 夕 里子 が 訊 いた 。
|ゆう|さとご||じん|
「 うん 。
一 日 に 一万 円 出す と 言う んだ 」
ひと|ひ||いちまん|えん|だす||いう|
珠美 の 目 が 輝いた 。
たまみ||め||かがやいた
The eye of Meyrite shined.
「 お 姉ちゃん !
|ねえちゃん
絶対 に 引き受け な よ !
ぜったい||ひきうけ||
Do not accept it!
「 あんた は 黙って て 」
||だまって|
"You shut your mouth."
と 、 夕 里子 が つつく 。
|ゆう|さとご||
「 実は 、 場所 が 不便な んだ よ 」
じつは|ばしょ||ふべんな||
"Actually, it's not a great location."
と 、 沼 淵 が 言った 。
|ぬま|ふち||いった
「 子供 の 健康 の こと を 考えて 山 の 中 に 住んで いる 」
こども||けんこう||||かんがえて|やま||なか||すんで|
「 エベレスト か どこ か です か ?
えべれすと|||||
"Everest or somewhere?
「 珠美 。
たまみ
── じゃ 、 泊り 込み です ね 」
|とまり|こみ||
「 うん 。
ただし 、 そこ は ホテル な んだ 。
|||ほてる||
However, it is a hotel.
夏 の 間 の 山荘 と いう か な 。
なつ||あいだ||さんそう||||
だから 、 いくら でも 部屋 は ある 」
|||へや||
So there's plenty of room."
「 経営 して いる んです か 」
けいえい||||
"Do you run a business?"
「 そう らしい 。
"Apparently so.
── ま 、 私 も ここ しばらく 会って い ない から 、 詳しい こと は 知ら ん が 、 電話 の 話 で は 、 冬 の 間 は 閉めて いる ので 、 ヒマ だ そうだ 。
|わたくし||||あって||||くわしい|||しら|||でんわ||はなし|||ふゆ||あいだ||しめて|||ひま||そう だ
I haven't seen him for a while, so I don't know much about him, but he told me on the phone that he's closed for the winter, so he's not busy.
一 人 で来る の が 心細ければ 、 友だち と でも いい 、 と いう こと だった よ 」
ひと|じん|できる|||こころぼそければ|ともだち||||||||
He said that if I didn't feel comfortable coming alone, I could come with a friend.
「 姉妹 じゃ どう でしょう ?
しまい|||
「 珠美 !
たまみ
図 々 し いわ よ 」
ず||||
It's brazen."
「 いや 、 構わ ん と も 」
|かまわ|||
"No, no, I don't mind."
と 、 沼 淵 は 首 を 振って 、「 向 う は 、 にぎやかな 方 が ありがたい と 言って いた よ 。
|ぬま|ふち||くび||ふって|むかい||||かた||||いって||
Numafuchi shook his head and said, "The other side said that they appreciate the bustle.
── どう だ ね 、 君 ら 三 人 で 行ったら ?
|||きみ||みっ|じん||おこなったら
I don't know. Why don't you three go together?
私 の 方 から 連絡 して おく 。
わたくし||かた||れんらく||
I will contact you.
きれいな 山荘 で 、 温泉 も 出る らしい ぞ 」
|さんそう||おんせん||でる||
It's a beautiful mountain lodge with a hot spring.
珠美 が 、 身 を 乗り出す ように して 、
たまみ||み||のりだす||
Tamami leaned forward,
「 みんな タダ です か ?
|ただ||
"Is it free for everyone?
「 あんた は 図 々 しい の !
||ず|||
You are brazen!
「 もちろん さ 。
Of course.
向 う は 、 何でも 親 の 遺産 で 悠々と 暮して いる らしい 。
むかい|||なんでも|おや||いさん||ゆうゆうと|くらして||
It seems that they are living comfortably on their parents' inheritance.
そんな こと に 気 を つかう 必要 は ない よ 」
|||き|||ひつよう|||
── 夕 里子 は 、 少し 迷って いた 。
ゆう|さとご||すこし|まよって|
いや 、 もちろん 、 家庭 教師 と して 頼ま れた の は 綾子 だ が 、 一 人 で そんな 所 へ 行か せる わけに は いか ない 。
||かてい|きょうし|||たのま||||あやこ|||ひと|じん|||しょ||いか|||||
Of course, Ayako was asked to be the governess, but I couldn't let her go to such a place alone.
しかし 、 三 人 と も で 、 みんな タダ で いい 、 と いう の は ……。
|みっ|じん|||||ただ||||||
However, all three of us are free of charge. ......
少し 話 が うま すぎる ような 気 が した のである 。
すこし|はなし|||||き|||
It seemed a little too good to be true.
珠美 の 方 は 、 もう すっかり 行く 気 だ 。
たまみ||かた||||いく|き|
Tamami is already ready to go.
そして 当の 綾子 は ── この 人 は 、 夕 里子 が 決めたら その 通り に する 。
|とうの|あやこ|||じん||ゆう|さとご||きめたら||とおり||
And Ayako, on the other hand, would do exactly as Yuriko decided.
「── じゃ 、 引き受けて くれる な ?
|ひきうけて||
"Well then, will you take care of it?
沼 淵 も 、 三 人 の 様子 を 見て いて 、 マネージャー 的 存在 が 夕 里子 である こと を 察した らしく 、 直接 夕 里子 に 訊 いた 。
ぬま|ふち||みっ|じん||ようす||みて||まねーじゃー|てき|そんざい||ゆう|さとご||||さっした||ちょくせつ|ゆう|さとご||じん|
Numafuchi also seemed to have sensed Yuriko's presence as a manager by watching the three of them, and asked her directly.
夕 里子 は 、 少し 考えて から 、
ゆう|さとご||すこし|かんがえて|
「── 結構です 」
けっこうです
と 、 答えた 。
|こたえた
「 じゃ 、 いつ から お邪魔 すれば ?
|||おじゃま|
When should I start?
「 早ければ 早い ほど いい らしい 。
はやければ|はやい|||
"The earlier the earlier, the better.
君 ら の うち へ 電話 さ せる よ 」
きみ|||||でんわ|||
「 分 り ました 」
ぶん||
夕 里子 は そう 言って から 、「 それ と 、 もう 一 つ ──」
ゆう|さとご|||いって|||||ひと|
「 何 だ ね ?
なん||
「 もしかしたら 、 あと 一 人 、 ふえる かも しれ ませ ん けど ……」
||ひと|じん||||||
Maybe one more person will join us. ......
珠美 が 夕 里子 を つついて 、
たまみ||ゆう|さとご||
Tamami poked Yuriko,
「 国 友 さん でしょ !
くに|とも||
お 姉ちゃん の 方 が 、 よっぽど 図 々 しい !
|ねえちゃん||かた|||ず||
Your sister is much more brazen than me!
と 言った 。
|いった
そういう 勘 に かけて は 、 珠美 も 超 能力 に 近い もの を 持って いる のである ……。
|かん||||たまみ||ちょう|のうりょく||ちかい|||もって||
When it comes to that kind of intuition, Tamami has something close to a superpower. ......
さて ── 佐々 本家 の 三 姉妹 が 、 のんびり と 食後 の デザート 、 コーヒー を 楽しみ ながら 、 突然 舞い込んだ 「 うまい 話 」 に 、 それぞれ 思い を はせて いる ころ ……。
|ささ|ほんけ||みっ|しまい||||しょくご||でざーと|こーひー||たのしみ||とつぜん|まいこんだ||はなし|||おもい||||
Well now ─ ─ The three sisters of Sasami Honke's thoughts are putting their thoughts on "suicide" suddenly whilst enjoying the dessert and coffee after the meal slowly ....
その ホテル の 、 レストラン の 照明 を 、 恨めし げ に 見上げて いた 男 が 、 ふと 呟いて いた 。
|ほてる||れすとらん||しょうめい||うらめし|||みあげて||おとこ|||つぶやいて|
「 やれやれ ……。
あんな 高い レストラン で 、 ぬくぬく と 晩 飯 を 食って る 奴 も いる のに 、 どうして こっち は 空っ風 に 吹か れて なきゃ なら ない んだ ?
|たかい|れすとらん||||ばん|めし||くって||やつ|||||||からっかぜ||ふか|||||
Why do we have to sit out in the open air when some of them are eating their dinner in the comfort of that expensive restaurant?
独り言 の つもりだった のに 、 聞か れ たく ない 人間 の 耳 に は 、 よく 入る もの で 、
ひとりごと||||きか||||にんげん||みみ||||はいる||
I thought I was talking to myself, but people who don't want to be heard often hear me,
「 そう グチ を 言う な 。
|||いう|
ここ で 死体 に なって る よりゃ いい だ ろ 」
||したい|||||||
It's better than being dead in here."
その 声 に 振り返った 国 友 は 、
|こえ||ふりかえった|くに|とも|
Kunitomo turned around at the sound of that voice,
「 あ !
三崎 さん 」
みさき|
と 、 あわてて 言った 。
||いった
Said in a hurry.
「 何 だ 、 いつ 来た んです ?
なん|||きた|
"What, when did you come?
一言 声 を かけて くれりゃ いい のに 」
いちげん|こえ|||||
A word of advice would have been nice."
国 友 の ボス に 当る 三崎 刑事 は 、 この 寒空 でも 、 いつ に 変ら ぬ 、 とぼけた 顔つき である 。
くに|とも||ぼす||あたる|みさき|けいじ|||さむぞら||||かわら|||かおつき|
The boss of the Kunitomo group, Detective Misaki, still has the same nonchalant expression on his face, even in this cold weather.
「 お前 が 何だか 物思い に 耽 って る から 、 邪魔 しちゃ 悪い と 思って な 」
おまえ||なんだか|ものおもい||たん||||じゃま||わるい||おもって|
"You were being a bit pensive, and I didn't want to intrude."
と 、 真面目 くさった 顔 で 、「 例 の 可愛い 高校 生 の 娘 の こと でも 考えて る の か ?
|まじめ||かお||れい||かわいい|こうこう|せい||むすめ||||かんがえて|||
And, with a serious face, "Are you thinking about the daughter of an example cute high school student?
「 冷やかさ ないで 下さい よ 。
ひややか さ||ください|
Don't be so cold.
ただ で さえ 寒くて しょうがない のに 」
|||さむくて||
Even for free, I'm so cold."
と 、 国 友 は コート の 襟 を 立てて 、 マフラー を 引 張り上げた 。
|くに|とも||こーと||えり||たてて|まふらー||ひ|はりあげた
Kunitomo turned up the collar of his coat and pulled up his scarf.
「 へえ 、 国 友 君 は 、 そんなに 大きな 娘 が いる の か ?
|くに|とも|きみ|||おおきな|むすめ||||
"Oh, you have such a big daughter, Kunitomo?
と 、 やって 来た 検死 官 、 三崎 の 言葉 を 小 耳 に 挟んだ らしい 。
||きた|けんし|かん|みさき||ことば||しょう|みみ||はさんだ|
「 見かけ に よら ず トシ な んだ な 」
みかけ||||とし|||
"You're as old as you look."
「 よして 下さい 。
|ください
Please don't do that.
娘 じゃ ない 、 恋人 です よ 」
むすめ|||こいびと||
She's not my daughter, she's my lover.
国 友 は 少々 ふくれて 、「 それ より 、 どう です 、 被害 者 の 方 は ?
くに|とも||しょうしょう||||||ひがい|もの||かた|
Kunitomo became a little flustered and asked, "But more importantly, how are the victims doing?
風 が 吹こう が 槍 が 降ろう が 、 殺人 事件 と なれば 、 刑事 と して は 出て 来 ない わけに は いか ない 。
かぜ||ふこう||やり||ふろう||さつじん|じけん|||けいじ||||でて|らい|||||
Whether the wind blows or the spears descend, but if it becomes a murder case, it can not be impossible to appear as a detective.
昨日 が クリスマス だった から って 、 何の 関係 も ない のである 。
きのう||くりすます||||なんの|かんけい|||
The fact that it was Christmas yesterday had nothing to do with it.
ここ は 、 高速 道路 の 下 。
||こうそく|どうろ||した
This is under the highway.
昼 なお 薄暗い 、 寂しい 空間 である 。
ひる||うすぐらい|さびしい|くうかん|
ただ 、 昼間 は 子供 の 遊び場 に して ある らしく 、 周囲 に 金網 が めぐら して あって 、 ブランコ や シーソー 、 砂場 、 と いった 、 えらく クラシックな 遊具 が 並んで いた 。
|ひるま||こども||あそびば|||||しゅうい||かなあみ|||||ぶらんこ|||すなば||||くらしっくな|ゆうぐ||ならんで|
However, during the daytime, it seemed to be a playground for children, with wire mesh around the perimeter and a line of very classic playground equipment, including swings, seesaws, and a sandbox.
しかし 、 昼間 だって 、 ほんの 短 時間 を 除けば 陽 が 当る と は 思え ない この 場所 で 、 この 真 冬 に 果して 遊ぶ 子 が いる の かしら 、 と 国 友 は 首 を かしげた のだった ……。
|ひるま|||みじか|じかん||のぞけば|よう||あたる|||おもえ|||ばしょ|||まこと|ふゆ||はたして|あそぶ|こ||||||くに|とも||くび|||
However, even in the daytime, the kokoro wrote his head, if there is a child playing in this winter at this place where it is unlikely that the sun will hit except for a short time ....
「 死んで る よ 」
しんで||
"You're dead."
と 、 検死 官 は 言った 。
|けんし|かん||いった
「 そりゃ 分 って ます けど 」
|ぶん|||
"Of course I know that."
「 まだ 若い のに な 。
|わかい||
気の毒だ 」
きのどくだ
と 、 検死 官 は 首 を 振った 。
|けんし|かん||くび||ふった
The coroner shook his head.
「 死因 は ?
しいん|
「 絞殺 だ な 。
こうさつ||
首 の 周囲 に 、 くっきり と 跡 が ある 。
くび||しゅうい||||あと||
しかし 、 現場 は ここ じゃ ない ぞ 」
|げんば|||||
But this is not where it's happening.
「 それ は 分 っと る よ 」
||ぶん|||
I know that.
と 、 三崎 が 肯 く 。
|みさき||こう|
「 死後 、 大分 たって いる か ?
しご|だいぶ|||
"Has it been long since his death?
「 そう だ な 、 たぶん 半日 は ──」
||||はんにち|
Yeah, maybe half a day.
「 半日 ?
はんにち
と 、 国 友 は 思わず 訊 き 返した 。
|くに|とも||おもわず|じん||かえした
「 十二 時間 、 と いう こと です か ?
じゅうに|じかん|||||
「 そう 。
少なくとも それ 以上 だ 。
すくなくとも||いじょう|
At least more than that.
運んで 帰って 調べれば 、 もっと 詳しい こと が 分 る だろう が ね 」
はこんで|かえって|しらべれば||くわしい|||ぶん||||
I'm sure we'll know more once we get it home and check it out."
「 今 が ── 午後 の 九 時 か 」
いま||ごご||ここの|じ|
と 、 三崎 が 腕 時計 を 見る 。
|みさき||うで|とけい||みる
Misaki looks at his wristwatch.
「 して みる と 、 殺した 直後 に ここ へ 置か れた の なら 、 昼間 の 間 、 ずっと 放って あった こと に なる 」
|||ころした|ちょくご||||おか||||ひるま||あいだ||はなって||||
Let's look at it this way: "If they put him here right after they killed him, then they must have left him here all day long.
国 友 と 三崎 は 、 風 で かすかに 揺れて いる ブランコ の そば に 歩み寄った 。
くに|とも||みさき||かぜ|||ゆれて||ぶらんこ||||あゆみよった
── キッ 、 キッ 、 と 、 金具 が きしむ 。
|||かなぐ||
ブランコ の 一 つ に 、 その 娘 は 座って いた 。
ぶらんこ||ひと||||むすめ||すわって|
The girl was sitting on one of the swings.
── もちろん 、 死んで 、 と いう こと だ が 。
|しんで|||||
Of course, I mean dead.
板 を 渡した だけ の ブランコ なら 、 落ちて しまって いる だろう 。
いた||わたした|||ぶらんこ||おちて|||
If the swing had been just a plank, it would have fallen off.
小さな 椅子 を 鎖 で 下げた ような 形 の ブランコ な ので 、 こうして 、 一見 した ところ 、 ただ 居眠り して いる ように 見える のである 。
ちいさな|いす||くさり||さげた||かた||ぶらんこ||||いっけん||||いねむり||||みえる|
「 しかし 、 三崎 さん ──」
|みさき|
と 、 国 友 は 言った 。
|くに|とも||いった
Kunitomo said.
「 こう やって 暗い 所 で 見て いる と 、 よく 分 ら ない けど 、 もし ずっと 昼間 、 ここ に 放って あった の なら 、 やはり 誰 か 気 が 付き ます よ 」
||くらい|しょ||みて||||ぶん||||||ひるま|||はなって|||||だれ||き||つき||
"Although I do not know well when I look at it in a dark place, if I have been left here for the daytime, I will notice anyone as I expected."
「 うん 、 それ は そう だ な 」
"Yeah, that's true."
「 つまり 、 どこ か で 殺さ れて 、 暗く なって から 、 ここ へ 運ば れた んでしょう 。
||||ころさ||くらく|||||はこば||
In other words, he was killed somewhere and brought here after dark.
でも 今 の 時期 は 、 夕方 、 暗く なる の が 早い です から ね 」
|いま||じき||ゆうがた|くらく||||はやい|||
「 目撃 者 が いる と 助かる が な 」
もくげき|もの||||たすかる||
三崎 は 、 周囲 を 見 回した 。
みさき||しゅうい||み|まわした
片側 は 普通の 道路 、 反対 側 は アパート が 並んで いる 。
かたがわ||ふつうの|どうろ|はんたい|がわ||あぱーと||ならんで|
窓 が こっち へ 開いて いる が 、 たぶん 昼間 も 高架 の 高速 道路 の せい で 、 ほとんど 光 が 当る まい 。
まど||||あいて||||ひるま||こうか||こうそく|どうろ|||||ひかり||あたる|
The window is open this way, but there is little light, probably because of the elevated highway, even during the day.
今 は 当然 、 カーテン が 引か れて いた 。
いま||とうぜん|かーてん||ひか||
「── あの 辺 を 聞き 込み に 回る こと に なり そうだ な 」
|ほとり||きき|こみ||まわる||||そう だ|
"I guess we'll have to start canvassing that area."
と 、 三崎 が 言った 。
|みさき||いった
風 が 、 更に 強まって 、 国 友 は 、 思わず 声 を 上げ そうに なる 。
かぜ||さらに|つよまって|くに|とも||おもわず|こえ||あげ|そう に|
── 畜生 !
ちくしょう
何て 寒い んだ 。
なんて|さむい|
殺さ れた 娘 の 顔 を 、 国 友 は こわごわ 覗き 込んだ 。
ころさ||むすめ||かお||くに|とも|||のぞき|こんだ
首 を 絞め られた に して は 、 そう 苦悶 の 跡 が 残って い ない ので 、 少し ホッ と する 。
くび||しめ||||||くもん||あと||のこって||||すこし|ほっ||
I am relieved to see that the strangulation did not leave a trace of anguish.
まだ 若い ── せいぜい 二十 歳 そこそこ で は ない か 。
|わかい||にじゅう|さい|||||
He is still young, maybe twenty or so at the most.
服装 も 悪く ない 。
ふくそう||わるく|
The clothes are not bad either.
セーター の 上 に 、 かなり 暖か そうな ハーフコート 。
せーたー||うえ|||あたたか|そう な|
スカート は チェック の 模様 。
すかーと||ちぇっく||もよう
The skirt has a check pattern.
「 なかなか 美人 だ ぞ 」
|びじん||
She's quite beautiful.
と 、 三崎 が 言った 。
|みさき||いった
「 男 です か ね 」
おとこ|||
"Is it a man?"
「 かもし れ ん な 。
Maybe.
靴下 を はいて ない 」
くつした|||
No socks."
三崎 に 言わ れて 、 目 を 下 へ やる と 、 なるほど 、 靴 は ちゃんと はいて いる が 、 靴下 なし である 。
みさき||いわ||め||した|||||くつ||||||くつした||
「 殺して から 服 を 着せた の かも しれ ん な 。
ころして||ふく||きせた|||||
"Maybe he killed her and then dressed her.
靴下 を はか せる の を 忘れた 、 と いう こと も あり 得る 」
くつした||||||わすれた||||||える
It could be that they forgot to put their socks on.
「 そう です ね 」
と 、 国 友 は 肯 いた 。
|くに|とも||こう|
「 何 か 所持 品 は ?
なん||しょじ|しな|
「 何も あり ませ ん 」
なにも|||
"There is nothing."
と 、 国 友 が 首 を 振って 、「 たぶん 犯人 が 捨てた か 隠した か 、 でしょう 」
|くに|とも||くび||ふって||はんにん||すてた||かくした||
Kunitomo shook his head and said, "Maybe the murderer threw it away or hid it.
「── 三崎 さん 、 こんな もの が 」
みさき||||
Mr. Misaki, something like this...
と 、 警官 が 何やら ビニール 袋 に 入れて 持って 来る 。
|けいかん||なにやら|びにーる|ふくろ||いれて|もって|くる
A policeman comes with something in a plastic bag.
「 何 だ ?
なん|
明り の 方 へ かざして 見る と 、 十字架 である 。
あかり||かた|||みる||じゅうじか|
Holding it up to the light, we see it is a cross.
鎖 が ついて いて 、 首 から 下げて いた もの らしい 。
くさり||||くび||さげて|||
It had a chain attached to it and was apparently worn around the neck.
その 鎖 が 切れて いた 。
|くさり||きれて|
The chain was broken.
「 オモチャ に しちゃ 妙です ね 」
おもちゃ|||みょうです|
と 、 国 友 が それ を じっと 見て 、「 何 か 関係 が ある の か な ?
|くに|とも|||||みて|なん||かんけい|||||
My friend stared at it and said, "Is there a connection?
「 さあ ね 」
"Come on."
と 、 三崎 は 肩 を すくめた 。
|みさき||かた||
「 他 に は 何も ない ようだ 。
た|||なにも||
There doesn't seem to be anything else.
── おい 、 本庁 から は まだ か 」
|ほんちょう||||
Hey, are you still from the main office? "
殺人 事件 と なる と 、 M 署 だけ の 担当 で は なく 、 警視 庁 の 捜査 一 課 も 乗り出して 来る 。
さつじん|じけん||||m|しょ|||たんとう||||けいし|ちょう||そうさ|ひと|か||のりだして|くる
When it comes to the murder case, it is not only the responsibility of the M police station, but also the investigation department of the Metropolitan Police Department.
「 今 、 連絡 が あり ました 」
いま|れんらく|||
"We just got the call."
と 、 パトカー の 警官 が 声 を かけて 来た 。
|ぱとかー||けいかん||こえ|||きた
A police officer in a patrol car called out to us.
「 事故 の 渋滞 に 巻き 込ま れて 、 いくら サイレン を 鳴らして も 進め ない んだ そうです 」
じこ||じゅうたい||まき|こま|||さいれん||ならして||すすめ|||そう です
"They're stuck in traffic from the accident, and no matter how many sirens they sound, they can't get going."
「 やれやれ 」
と 、 三崎 は ため息 を ついた 。
|みさき||ためいき||
Misaki sighed.
「 三十 分 ほど で 着く だろう と ──」
さんじゅう|ぶん|||つく||
"We should be there in about 30 minutes."
「 分 った 」
ぶん|
と 、 三崎 は 手 を 上げて 見せた 。
|みさき||て||あげて|みせた
国 友 は 、 その 娘 の 顔 に 、 明り を 当てた 。
くに|とも|||むすめ||かお||あかり||あてた
The friend shone a light on the girl's face.
確かに 、 なかなか の 美人 だ 。
たしかに|||びじん|
Indeed, she is quite beautiful.
イメージ から する と 、 どこ か の 女子 大 生 と いう ところ 。
いめーじ|||||||じょし|だい|せい|||
The image I have of her is that of some college girl.
化粧 っ 気 が ほとんど ない ので 、 学生 っぽく 見える のだろう 。
けしょう||き|||||がくせい||みえる|
She has almost no makeup, which probably makes her look like a student.
手 も 白くて ふっくら と して 、 どうも あまり 労働 に は 縁 の ない 様子 である 。
て||しろくて||||||ろうどう|||えん|||ようす|
Her hands are white and plump, and she does not appear to be much of a laborer.
「── 寒い 所 に いたんじゃ ない か な 」
さむい|しょ|||||
Maybe you've been out in the cold.
と 、 検死 官 が 、 いつの間に やら 、 そば へ 来て いる 。
|けんし|かん||いつのまに||||きて|
The coroner was standing by.
「 どうして です ?
「 指 の 先 さ 。
ゆび||さき|
It's the tip of my finger.
── 少し 赤く なって る だ ろ 。
すこし|あかく||||
You're a little red.
しもやけ だ よ 」
It's frostbite."
「 しもやけ ……」
なるほど 、 言わ れて よく 見る と 、 そう らしい 。
|いわ|||みる|||
I see, and looking at it more closely, it seems to be so.
都会 に いる と 、 今どき あまり しもやけ が できる こと は ない が ……。
とかい||||いまどき||||||||
In the city, you don't get many chilblains nowadays. ......
「 柔らかい 手 です ね 」
やわらかい|て||
"You have soft hands."
と 、 国 友 は 、 死体 の 手 を 、 そっと 持ち 上げた 。
|くに|とも||したい||て|||もち|あげた
Kunitomo gently lifted up the corpse's hand.
もちろん 、 冷たく 、 こわばって いる が 、 生きて いる とき は 、 本当に 柔らかい 手 だったろう 。
|つめたく||||いきて||||ほんとうに|やわらかい|て|
They are cold and stiff, of course, but when they were alive, they must have been really soft.
寒風 が 吹けば 、 つい 両手 で 包み 込んで 守って やり たく なる ような 。
かんぷう||ふけば||りょうて||つつみ|こんで|まもって||||
国 友 は 、 袖 を 少し 押し上げて 、 手首 の 方 まで 見る と 、 ギョッ と した 。
くに|とも||そで||すこし|おしあげて|てくび||かた||みる||||
The national friend pushed up the sleeve a little, and when I looked up to the wrist, I felt guilty.
「 これ は ──」
「 何 だ ?
なん|
と 、 検死 官 が 覗く 。
|けんし|かん||のぞく
手首 に 、 こす れた ような 、 痛々しい 傷 が ある のだ 。
てくび|||||いたいたしい|きず|||
There was a painful scar on his wrist, as if he had rubbed it.
「 縛ら れて いた らしい な 」
しばら||||
"I heard you were tied up."
と 、 検死 官 が 言った 。
|けんし|かん||いった
「 これ は 縄 の 跡 だ 」
||なわ||あと|
「 ひどい こと を する !
"You do terrible things!
国 友 は カッ と して 思わず 言った 。
くに|とも|||||おもわず|いった
Kunitomo was so angry that he couldn't help but say, "I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry.
「 よく 調べて みよう 。
|しらべて|
Let's look into it.
他 に も 跡 が ない か どう か 、 な 」
た|||あと||||||
検死 官 は そう 言う と 、 少し 離れて 、 金網 の 破れ 目 を 見て いる 三崎 の 方 へ と 歩いて 行った 。
けんし|かん|||いう||すこし|はなれて|かなあみ||やぶれ|め||みて||みさき||かた|||あるいて|おこなった
国 友 は 、 ブランコ に 座った 死体 の 前 に しゃがみ 込んだ 。
くに|とも||ぶらんこ||すわった|したい||ぜん|||こんだ
Kunitomo crouched down in front of the corpse on the swing.
左手 の 手首 に も 、 同じ 跡 を 見付けた 。
ひだりて||てくび|||おなじ|あと||みつけた
I found the same mark on my left wrist.
この 娘 は 、 理由 は 分 ら ない が 手首 を 縛ら れ 、 どこ か に 監禁 さ れて いた の かも しれ ない 。
|むすめ||りゆう||ぶん||||てくび||しばら|||||かんきん|||||||
誘拐 と いう こと も 考え られる 。
ゆうかい|||||かんがえ|
Kidnapping is another possibility.
もちろん 、 届 は 出て い ない が 、 親 が 、 警察 へ 届け ないで 解決 しよう と する こと も ある のだ から 、 それ は あり 得 ない こと で は ない 。
|とどけ||でて||||おや||けいさつ||とどけ||かいけつ||||||||||||とく|||||
Of course, this is not impossible, since parents sometimes try to solve a problem without reporting it to the police, even though it has not been reported.
しかし ── いずれ に して も 、 何とも むごい 傷跡 である 。
|||||なんとも||きずあと|
But anyway, it is a very ugly scar.
「 ひどい 奴 だ ……」
|やつ|
国 友 は 、 寒 さ も 忘れて 、 激しい 怒り で 胸 を 熱く して いた 。
くに|とも||さむ|||わすれて|はげしい|いかり||むね||あつく||
「 必ず 犯人 を 捕まえて やる から な 」
かならず|はんにん||つかまえて|||
そう 言って 、 国 友 は 、 がっくり と 前 に 垂れた 娘 の 顔 に 、 下 から 明り を 当てた 。
|いって|くに|とも||||ぜん||しだれた|むすめ||かお||した||あかり||あてた
Saying this, Kunitomo shined the light from below on his daughter's face, which was drooping forward.
する と ── 娘 が 、 パチッ と 目 を 開き 、 ニッコリ 笑った 。
||むすめ||||め||あき|にっこり|わらった
Then my daughter opened her eyes and smiled at me.