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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第一章 永遠の夜のなかで (3)

第 一 章 永遠 の 夜 の なか で (3)

あんな 奴 ら に 支配 さ れる ため に 、 宇宙 は 存在 する んじゃ ない 」

「 ラインハルト さま ……」

「 そう さ 、 キルヒアイス 、 おれ も お前 も 、 あんな 奴 ら の 風下 に 立つ べき 理由 は なにひとつ ない んだ 」

この 種 の 会話 は 両者 の あいだ で 幾 度 と なく かわさ れた が 、 ある とき 、 ラインハルト は 赤毛 の 親友 に 強烈 きわまる 衝撃 を あたえた 。

首都 の いたる処 に 傲然 と そびえ 立つ ルドルフ 大帝 の 像 に 敬礼 した あと ―― これ に 礼 を ほどこす の は 帝国 臣民 の 神聖な 義務 だった 。 大帝 像 の 両眼 は 精巧な テレビ ・ アイ に なって おり 、 帝 威 を おそれ ぬ 危険 分子 は 内務 省 に きびしく 監視 されて いる のだ ―― ラインハルト は 熱っぽい 口調 で 語りかけた 。 「 キルヒアイス 、 こう 考えて みた こと は ない か ? ゴールデンバウム 王朝 は 人類 の 発生 以来 、 つづいて きた わけじゃ ない 。 始祖 は あの 傲岸 不遜 な ルドルフ だ 。 始祖 が いる と いう こと は 、 それ 以前 は 帝 室 など で なく 、 名 も ない 一 市民 に すぎ なかったって こと だ 。 もともと ルドルフ は なり あがり の 野心 家 に すぎ なかった 。 それ が 時流 に のって 神聖 不可侵 の 皇帝 など に なり おおせた んだ 」

この 人 は なに を 言おう と して いる の か ? キルヒアイス は 鼓動 の 高まり を おぼえた 。 ラインハルト は 言った 。

「 ルドルフ に 可能だった こと が 、 おれ に は 不可能だ と 思う か ? 」 そして キルヒアイス を 凝視 した ラインハルト の 蒼氷 色 の 宝石 の ような 瞳 を 、 赤毛 の 少年 は 呼吸 を 停める 思い で 見かえした のだ 。 それ は ふた り が 軍隊 に は いる 直前 の 冬 の こと だった 。

Ⅲ 「…… 科学 技術 の 無秩序な 発展 が 人類 の アイデンティティ に 危険 を およぼした 例 は 、 西暦 二〇 世紀 から 二一 世紀 に かけて 多数 を 見いだす こと が できる 。 ことに 遺伝子 工学 の 一 成果 である 生命 複製 は 、 それ が たんに 理論 上 の 可能 性 を しめした だけ であった に も かかわら ず 、 永遠の 生命 を 保障 さ れた か の よう に 誤解 さ れた 。 それ が 社会 ダーウィニズム と 結合 さ れた とき 、 おそるべき 生命 軽視 の 思想 が 地球 と いう 名 の 惑星 上 を 跋扈 する に いたった 。 劣悪な 遺伝子 の 所有 者 に 子 を 生む 資格 は なく 、 劣等 人種 を 淘汰 する こと に よって 人類 の 質的 向上 を はかる べきだ と の 意見 が 勢力 を ました 。 これ は じつに 、 後日 の ルドルフ ・ フォン ・ ゴールデンバウム の 主張 の 遠い 萌芽 と なった もの であり ……」

操作 卓 の 小さな 画面 に 映しだされて いた 文章 が 急に 薄れて 消えた 。 調節 ボタン に 指 が 触れる より 早く 、 べつの 文章 が 浮かびあがる 。

「 ヤン 准将 、 司令 官 が お呼び です 。 指揮 官 席 へ 至急 おいで ください 」

読書 の 途中 を 邪魔 さ れた ヤン ・ ウェンリー 准将 は 、 軍用 ベレー を 取って おさまり の 悪い 黒い 頭髪 を かきまわした 。

彼 は 自由 惑星 同盟 軍 第 二 艦隊 の 次 席 幕僚 であり 、 旗 艦 パトロクロス の 艦 橋 の 一角 に 座 を しめて いた 。 本来 、 戦術 コンピューター 用 の 操作 卓 に 書籍 VTR を いれて 私的な 読書 を 楽しんで いた のだ から 、 不愉快 がる 道理 は ない 。

ヤン の 姓名 表記 型式 は E 式 と なって いる 。 これ は 銀河 連邦 成立 以前 から の 伝統 で 、 姓 が 名 の 前 に くる 型式 であり 、 E と は 東洋 の 頭文字 だ と されて いた 。 逆に 名 が 姓 の 前 に くる 表記 型式 を W 式 と 称し 、 これ は 西洋 の 頭文字 と いう こと に なって いる 。

もっとも 、 混血 が いちじるしく すすんだ この 時代 、 姓名 は 直系 の 祖先 の 出身 を おぼろげに しめす だけ の 役割 しか もって いない 。 ヤン は 黒い 髪 、 黒い 目 、 中肉 中 背 の 体 軀 を もつ 二九 歳 の 青年 で 、 軍人 と いう より は 冷静な 学者 と いった 印象 を あたえる 。 だが それ も しいて 言えば の こと で 、 ごく 温和 そうな 青年 と いう 以上 に は 他人 は み ない ようであった 。 軍隊 に おける 彼 の 階級 を 聞いてたいてい の 人 は 驚く 。 「 ヤン 准将 、 まいり ました 」

敬礼 する 青年 士官 に 、 艦隊 司令 官 パエッタ 中将 は 非 好意 的な 視線 を むけた 。 こちら は 、 軍人 以外 の 職業 が 想像 でき ない ような 、 いかめしい 顔つき の 中年 の 人物 である 。

「 きみ の 提出 した 作戦 案 を 見た 」

それ だけ 言って 、 また ヤン を 観察 する 。 こんな 軟弱 そうな 孺子 が 、 自分 より 二 階級 しか 下 で ない こと を 、 どうしても 納得 でき ぬ と 言い た げ である 。

「 なかなか 興味深い 案 だった 。 しかし 、 慎重に すぎて いささか 消極 的で は ない か な 」

「 そう でしょう か 」

ヤン は ごく 温和な 口調 で 応じた が 、 考えて みれば これ は 上官 にたいして かなり 無礼な 応答 であった かも しれ ない 。 パエッタ 中将 は 気づか なかった 。

「 きみ 自身 が 記して いる とおり 、 たしかに 負け がたい 作戦 案 で は ある 。 しかし 負け ない だけ で は 意味 が ない 。 勝た なくて は な 。 わが 軍 は 敵 を 三方 から 包囲 して いる 。 しかも 敵 の 二 倍 の 兵力 で だ 。 これ だけ 大勝 の 要件 を そなえて 、 なぜ 、 いまさら 、 負け ない 算段 を せ ねば なら ん のだ ? 」 「 ですが 、 まだ 包囲 網 が 完成 さ れた わけ では ありません 」 今度 は 中将 も 気づいた 。 彼 は 不快 そうに 眉 根 を よせ 、 みごとな 縦 皺 を 一 本 、 眉間 に 深く 刻んだ 。

ヤン は 平然と して いる 。

九 年 前 、 国防 軍 士官 学校 を 卒業 した とき 、 ヤン は 平凡な 新任 少尉 だった 。 卒業 時 の 席次 は 四八四〇 名 中 、 一九〇九 番 だった のだ 。 そして 現在 は 平凡な 准将 、 と は 言え ない 。 彼 は 同盟 全軍 を つうじて 一六 名 しか いない 二〇 代 の 将官 の ひと り な のである 。 パエッタ 中将 は 、 この 若い 准将 の 戦 歴 を 知ら ない わけで は ない 。 九 年間 に 一〇〇 回 以上 の 戦闘 に 参加 して いる 。 今回 の ように 五 桁 の 艦艇 が 集結 する ような 大規模 の 戦闘 は めったに なかった が 、 それ でも 幼児 の 花火 ごっこ と は わけ が ちがう のだ 。 そして なにより も 、 あの 〝 エル ・ ファシル 脱出 行 〟 の 輝 ける 英雄 !

若い ながら 歴戦 の 勇士 である はずな のだ が 、 そういう 印象 を パエッタ は まるで うけ ない のである 。 後方 勤務 本部 で 兵士 の 給料 の 計算 でも して いる ほう が 似つかわしく 思えて なら ない 。

「 とにかく 、 この 作戦 案 を 却下 する 」

書類 を 、 中将 は ヤン に さしだした 。

「 言って おく が 、 きみ に 含む ところ が ある わけで は ない ぞ 」

よけいな こと を 中将 は 言った 。

Ⅳ ヤン ・ ウェンリー の 父親 ヤン ・ タイロン は 自由 惑星 同盟 の 多く の 交易 商人 の なか でも 、 手腕 に 富んだ 男 と して 知られて いた 。 人 を そらさ ぬ 微笑 の 奥 で 高 性能 の 商業 用 頭脳 を 回転 さ せ 、 一 介 の 小 商船 主 から 出発 して どんどん 財産 を ふやして いった のだ 。

「 おれ は 金銭 を 可愛がって る から …………」

と 、 彼 は 成功 の 秘訣 を 訊 ねる 友人 に 答えた もの だ 。

「 恩 を 感じた 金銭 が 出世 して もどって くる の さ 。 銅貨 は 銀貨 に 、 銀貨 は 金貨 に な 。 要するに 育て かた ひと つ だ よ ! 」 彼 自身 は それ を 気 の きいた 冗談 と 思って いた ようで 、 こと ある ごと に そう 言って まわった ので 、〝 金銭 育て の 名人 〟 と いう ニックネーム を たてまつら れた 。 かならずしも 好意 的な もの と は 言いがたい が 、 言わ れる 当人 は 満足 して いた ようである 。

ヤン ・ タイロン は 、 また 、 古美術 品 の 収集 家 で も あった 。 西暦 が 使用 されて いた 当時 の 絵画 、 彫刻 、 陶磁器 など が 、 彼 の 邸宅 に は 山積み に なって いた 。 オフィス に 陣どって 恒星 間 商船 隊 に 指揮 を くだして いない とき の 彼 は 、 邸 内 の 古美術 品 を 鑑賞 したり 磨き たてたり する のに 忙しかった 。 趣味 が 高じた あげく 、 彼 は 配偶 者 まで 古美術 品 を えらんだ 、 と 噂 さ れた 。 浪費 癖 の ある 最初の 妻 と 離婚 した あと 、 彼 は 評判 の 美女 と 再婚 した が 、 彼女 は とある 軍人 の 未亡人 だった のである 。 そして 息子 ―― ヤン ・ ウェンリー が 生まれた 。

男児 誕生 の 報 を 、 ヤン ・ タイロン は 自 邸 の 書斎 で うけた が 、 古い 花瓶 を 磨く 手 を 休める と つぶやいた 。

「 おれ が 死んだら 、 この 美術 品 は みんな そい つ の もの に なって しまう んだ なあ 」

そして また 磨き つづけた 。

ヤン ・ ウェンリー が 五 歳 に なった とき 、 母親 が 死んだ 。 急性 の 心臓 疾患 に よる もの で 、 それ まで 健康であった だけ に 、 その 突然の 死 は さすが の ヤン ・ タイロン を も 驚かせた 。

彼 は 手 に して いた 青銅 の 獅子 の 置物 を 床 に とり 落とした が 、 我 に かえって それ を 拾いあげる と 、 妻 の 親族 一同 を 憤慨 さ せる 台詞 を 吐いた 。

「 割れもの を 磨いて いる とき で なくて よかった ……」

生別 と 死別 に よって ふた り の 妻 を 失った ヤン ・ タイロン は 、 もう 結婚 する 意思 を もた なかった 。 彼 は 息子 に メイド を つけた が 、 メイド が 休暇 の とき など 扱い に こまり 、 自分 の 傍 に すわら せて 一緒に 壺 を 磨いたり して いた 。

亡 妻 の 親族 が 彼 の 邸宅 を 訪れ 、 書斎 で 無言 の まま 壺 を 磨いて いる 父子 の 姿 を 見て 呆れかえり 、 かくも 無責任な 父親 の 手 から 幼児 を 救出 す べきだ 、 と 主張 する に いたった 。 息子 と 古美術 品 の どちら が だいじ か 、 と 詰問 されて 、 交易 商人 は 答えた 。 「 美術 品 を 集める に は 資金 が かかった から なあ 」

息子 の ほう は ただ だった 、 と いう わけである 。

この 言 種 に 怒りくるった 親族 一同 は 、 こと を 法廷 に もちこんで 解決 する 姿勢 を しめした が 、 それ を 察した ヤン ・ タイロン は 息子 を 抱いて みずから 恒星 間 商船 に 乗りこみ 、 首都 ハイネセン から 姿 を 消して しまった 。 まさか 、 父親 が 息子 を 誘拐 した と 訴える こと も でき ず 、 親族 一同 は 肩 を すくめて 、 星空 に 宇宙 船 の 軌跡 を おう しか なかった 。 まあ しかたない 、 息子 を つれて 行った と いう こと は 、 あの 男 に も 脈 が ある と いう こと な のだろう ……。

こうして ヤン ・ ウェンリー は 一六 歳 に なる まで 、 人生 のたいはん を 宇宙 船 の 船 内 で すごす こと に なった のだ 。 幼い ヤン ・ ウェンリー は 最初 、 跳躍 の たび に 体調 を 崩して 吐いたり 発熱 したり した が 、 やがて 慣れて しまう と 、 悠然と して 自分 の 境遇 を うけいれた 。 彼 は 機器 へ の 興味 を ひととおり みたして しまう と 、 他の 方面 へ 関心 を むける ように なった 。 歴史 に 、 である 。

少年 は ビデオ も 見 、 再 刊 さ れた 古書 も 読み 、 昔 語り も 喜んで 聞いた が 、 とくに 〝 史上 最悪 の 簒奪 者 〟 ルドルフ にたいして の 興味 は 深かった 。 自由 惑星 同盟 の 人々 が 話す こと だ から 、 当然 、 ルドルフ は 悪 の 権化 と して 表現 さ れた が 、 聞く うち に 少年 は 疑問 を いだく ように なった 。 ルドルフ が それほど の 悪党 だった なら 、 なぜ 、 人々 は 彼 を 支持 し 権力 を あたえた の か ?

「 そり や あ 、 ルドルフ は とことん あくどい 奴 だった から な 、 民衆 を うまく だました の さ 」

「 民衆 は どうして だまさ れた んだろう ? 」 「 ルドルフ が なにしろ 悪い 奴 だった から だ よ 」 こういう 問答 は 少年 を 満足 さ せ なかった のだ が 、 父親 の 見解 は ほか の 人々 と 多少 、 ことなって いた 。 息子 の 質問 に 彼 は こう 答えた 。

「 民衆 が 楽 を したがった から さ 」

「 楽 を し た がる ? 」 「 そう と も 。 自分 たち の 努力 で 問題 を 解決 せ ず 、 どこ から か 超人 なり 聖者 なり が あらわれて 、 彼ら の 苦労 を 全部 ひと り でしょ いこん で くれる の を 待って いた んだ 。 そこ を ルドルフ に つけこま れた 。 いい か 、 おぼえて おく んだ 。 独裁 者 は 出現 さ せる 側 に より 多く の 責任 が ある 。 積極 的に 支持 し なくて も 、 黙って 見て いれば 同罪 だ …… しかし だ な 、 お前 、 そんな こと より もっと 有益な もの に 関心 を もて 」

「 有益な ものって ? 」 「 金銭 と 美術 品 だ 。

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第 一 章 永遠 の 夜 の なか で (3) だい|ひと|しょう|えいえん||よ||| Chapter 1 In the Eternal Night (3)

あんな 奴 ら に 支配 さ れる ため に 、 宇宙 は 存在 する んじゃ ない 」 |やつ|||しはい|||||うちゅう||そんざい||| The universe doesn't exist to be ruled by them. "

「 ラインハルト さま ……」 "Reinhardt ..."

「 そう さ 、 キルヒアイス 、 おれ も お前 も 、 あんな 奴 ら の 風下 に 立つ べき 理由 は なにひとつ ない んだ 」 |||||おまえ|||やつ|||かざしも||たつ||りゆう|||| "Yeah, Kircheis, I and you have no reason to stand downwind of them."

この 種 の 会話 は 両者 の あいだ で 幾 度 と なく かわさ れた が 、 ある とき 、 ラインハルト は 赤毛 の 親友 に 強烈 きわまる 衝撃 を あたえた 。 |しゅ||かいわ||りょうしゃ||||いく|たび||||||||||あかげ||しんゆう||きょうれつ||しょうげき|| This kind of conversation was repeated several times between the two, but at one time Reinhardt gave his red-haired close friend a strong shock.

首都 の いたる処 に 傲然 と そびえ 立つ ルドルフ 大帝 の 像 に 敬礼 した あと ―― これ に 礼 を ほどこす の は 帝国 臣民 の 神聖な 義務 だった 。 しゅと||いたるところ||ごうぜん|||たつ||たいてい||ぞう||けいれい|||||れい|||||ていこく|しんみん||しんせいな|ぎむ| 大帝 像 の 両眼 は 精巧な テレビ ・ アイ に なって おり 、 帝 威 を おそれ ぬ 危険 分子 は 内務 省 に きびしく 監視 されて いる のだ ―― ラインハルト は 熱っぽい 口調 で 語りかけた 。 たいてい|ぞう||りょうがん||せいこうな|てれび|||||みかど|たけし||||きけん|ぶんし||ないむ|しょう|||かんし||||||ねつっぽい|くちょう||かたりかけた The two eyes of the Great Emperor are elaborate television eyes, and dangerous elements that do not threaten the Emperor are being closely monitored by the Home Office-Reinhardt spoke with a feverish tone. 「 キルヒアイス 、 こう 考えて みた こと は ない か ? ||かんがえて||||| ゴールデンバウム 王朝 は 人類 の 発生 以来 、 つづいて きた わけじゃ ない 。 |おうちょう||じんるい||はっせい|いらい|||| The Golden Baum dynasty has not continued since the outbreak of mankind. 始祖 は あの 傲岸 不遜 な ルドルフ だ 。 しそ|||ごうきし|ふそん||| 始祖 が いる と いう こと は 、 それ 以前 は 帝 室 など で なく 、 名 も ない 一 市民 に すぎ なかったって こと だ 。 しそ||||||||いぜん||みかど|しつ||||な|||ひと|しみん||||| Having an ancestor means that before that it was not an imperial family, but just an unnamed citizen. もともと ルドルフ は なり あがり の 野心 家 に すぎ なかった 。 ||||||やしん|いえ||| Originally, Rudolf was nothing more than an up-and-coming ambitionist. それ が 時流 に のって 神聖 不可侵 の 皇帝 など に なり おおせた んだ 」 ||じりゅう|||しんせい|ふかしん||こうてい|||||

この 人 は なに を 言おう と して いる の か ? |じん||||いおう||||| What is this person trying to say? キルヒアイス は 鼓動 の 高まり を おぼえた 。 ||こどう||たかまり|| ラインハルト は 言った 。 ||いった

「 ルドルフ に 可能だった こと が 、 おれ に は 不可能だ と 思う か ? ||かのうだった||||||ふかのうだ||おもう| 」 そして キルヒアイス を 凝視 した ラインハルト の 蒼氷 色 の 宝石 の ような 瞳 を 、 赤毛 の 少年 は 呼吸 を 停める 思い で 見かえした のだ 。 |||ぎょうし||||あおこおり|いろ||ほうせき|||ひとみ||あかげ||しょうねん||こきゅう||とめる|おもい||みかえした| And Reinhardt's blue-ice-colored jewel-like eyes staring at Kircheis, the red-haired boy looked back with the thought of holding his breath. それ は ふた り が 軍隊 に は いる 直前 の 冬 の こと だった 。 |||||ぐんたい||||ちょくぜん||ふゆ|||

Ⅲ 「…… 科学 技術 の 無秩序な 発展 が 人類 の アイデンティティ に 危険 を およぼした 例 は 、 西暦 二〇 世紀 から 二一 世紀 に かけて 多数 を 見いだす こと が できる 。 かがく|ぎじゅつ||むちつじょな|はってん||じんるい||あいでんてぃてぃ||きけん|||れい||せいれき|ふた|せいき||にいち|せいき|||たすう||みいだす||| Ⅲ “… Many examples can be found from the 20th century to the 21st century AD when the disorderly development of scientific technology endangered the identity of humankind. ことに 遺伝子 工学 の 一 成果 である 生命 複製 は 、 それ が たんに 理論 上 の 可能 性 を しめした だけ であった に も かかわら ず 、 永遠の 生命 を 保障 さ れた か の よう に 誤解 さ れた 。 |いでんし|こうがく||ひと|せいか||せいめい|ふくせい|||||りろん|うえ||かのう|せい|||||||||えいえんの|せいめい||ほしょう|||||||ごかい|| In particular, life replication, a result of genetic engineering, was misunderstood as if it had guaranteed eternal life, even though it only showed theoretical potential. .. それ が 社会 ダーウィニズム と 結合 さ れた とき 、 おそるべき 生命 軽視 の 思想 が 地球 と いう 名 の 惑星 上 を 跋扈 する に いたった 。 ||しゃかい|||けつごう|||||せいめい|けいし||しそう||ちきゅう|||な||わくせい|うえ||ばっこ||| When it was combined with social Darwinism, the terrifying idea of disrespect for life led to a sneak peek on a planet named Earth. 劣悪な 遺伝子 の 所有 者 に 子 を 生む 資格 は なく 、 劣等 人種 を 淘汰 する こと に よって 人類 の 質的 向上 を はかる べきだ と の 意見 が 勢力 を ました 。 れつあくな|いでんし||しょゆう|もの||こ||うむ|しかく|||れっとう|じんしゅ||とうた|||||じんるい||しつてき|こうじょう||||||いけん||せいりょく|| The opinion was that the owners of the poor genes were not eligible to give birth and that the qualitative improvement of humankind should be achieved by eliminating inferior races. これ は じつに 、 後日 の ルドルフ ・ フォン ・ ゴールデンバウム の 主張 の 遠い 萌芽 と なった もの であり ……」 |||ごじつ||||||しゅちょう||とおい|ほうが|||| This is, in fact, a distant sprout of Rudolf von Goldenbaum's claim at a later date ... "

操作 卓 の 小さな 画面 に 映しだされて いた 文章 が 急に 薄れて 消えた 。 そうさ|すぐる||ちいさな|がめん||うつしだされて||ぶんしょう||きゅうに|うすれて|きえた The text that was projected on the small screen of the operation console suddenly faded and disappeared. 調節 ボタン に 指 が 触れる より 早く 、 べつの 文章 が 浮かびあがる 。 ちょうせつ|ぼたん||ゆび||ふれる||はやく||ぶんしょう||うかびあがる

「 ヤン 准将 、 司令 官 が お呼び です 。 |じゅんしょう|しれい|かん||および| 指揮 官 席 へ 至急 おいで ください 」 しき|かん|せき||しきゅう||

読書 の 途中 を 邪魔 さ れた ヤン ・ ウェンリー 准将 は 、 軍用 ベレー を 取って おさまり の 悪い 黒い 頭髪 を かきまわした 。 どくしょ||とちゅう||じゃま|||||じゅんしょう||ぐんよう|||とって|||わるい|くろい|とうはつ|| Brigadier General Yang Wen-li, who was disturbed while reading, took a military beret and scratched his badly-fitting black hair.

彼 は 自由 惑星 同盟 軍 第 二 艦隊 の 次 席 幕僚 であり 、 旗 艦 パトロクロス の 艦 橋 の 一角 に 座 を しめて いた 。 かれ||じゆう|わくせい|どうめい|ぐん|だい|ふた|かんたい||つぎ|せき|ばくりょう||き|かん|||かん|きょう||いっかく||ざ||| He was the Deputy Staff of the 2nd Fleet of the Free Planet Alliance and was seated in a corner of the bridge of the flagship Patroclus. 本来 、 戦術 コンピューター 用 の 操作 卓 に 書籍 VTR を いれて 私的な 読書 を 楽しんで いた のだ から 、 不愉快 がる 道理 は ない 。 ほんらい|せんじゅつ|こんぴゅーたー|よう||そうさ|すぐる||しょせき|vtr|||してきな|どくしょ||たのしんで||||ふゆかい||どうり|| Originally, I enjoyed reading privately by putting a book VTR in the operation table for a tactical computer, so there is no reason to be unpleasant.

ヤン の 姓名 表記 型式 は E 式 と なって いる 。 ||せいめい|ひょうき|けいしき||e|しき||| これ は 銀河 連邦 成立 以前 から の 伝統 で 、 姓 が 名 の 前 に くる 型式 であり 、 E と は 東洋 の 頭文字 だ と されて いた 。 ||ぎんが|れんぽう|せいりつ|いぜん|||でんとう||せい||な||ぜん|||けいしき||e|||とうよう||かしらもじ|||| 逆に 名 が 姓 の 前 に くる 表記 型式 を W 式 と 称し 、 これ は 西洋 の 頭文字 と いう こと に なって いる 。 ぎゃくに|な||せい||ぜん|||ひょうき|けいしき||w|しき||そやし|||せいよう||かしらもじ||||||

もっとも 、 混血 が いちじるしく すすんだ この 時代 、 姓名 は 直系 の 祖先 の 出身 を おぼろげに しめす だけ の 役割 しか もって いない 。 |こんけつ|||||じだい|せいめい||ちょっけい||そせん||しゅっしん||||||やくわり||| However, in this era of mixed races, surnames and surnames have only a role to obscure the origins of their direct ancestors. ヤン は 黒い 髪 、 黒い 目 、 中肉 中 背 の 体 軀 を もつ 二九 歳 の 青年 で 、 軍人 と いう より は 冷静な 学者 と いった 印象 を あたえる 。 ||くろい|かみ|くろい|め|ちゅうにく|なか|せ||からだ||||にきゅう|さい||せいねん||ぐんじん|||||れいせいな|がくしゃ|||いんしょう|| だが それ も しいて 言えば の こと で 、 ごく 温和 そうな 青年 と いう 以上 に は 他人 は み ない ようであった 。 ||||いえば|||||おんわ|そう な|せいねん|||いじょう|||たにん|||| But, by the way, it seemed that no one else was seen more than a young man who seemed to be very mild. 軍隊 に おける 彼 の 階級 を 聞いてたいてい の 人 は 驚く 。 ぐんたい|||かれ||かいきゅう||きいてたいてい||じん||おどろく 「 ヤン 准将 、 まいり ました 」 |じゅんしょう|| "Brigadier General Yang, I'm here."

敬礼 する 青年 士官 に 、 艦隊 司令 官 パエッタ 中将 は 非 好意 的な 視線 を むけた 。 けいれい||せいねん|しかん||かんたい|しれい|かん||ちゅうじょう||ひ|こうい|てきな|しせん|| こちら は 、 軍人 以外 の 職業 が 想像 でき ない ような 、 いかめしい 顔つき の 中年 の 人物 である 。 ||ぐんじん|いがい||しょくぎょう||そうぞう|||||かおつき||ちゅうねん||じんぶつ|

「 きみ の 提出 した 作戦 案 を 見た 」 ||ていしゅつ||さくせん|あん||みた

それ だけ 言って 、 また ヤン を 観察 する 。 ||いって||||かんさつ| こんな 軟弱 そうな 孺子 が 、 自分 より 二 階級 しか 下 で ない こと を 、 どうしても 納得 でき ぬ と 言い た げ である 。 |なんじゃく|そう な|じゅし||じぶん||ふた|かいきゅう||した||||||なっとく||||いい||| He said that he couldn't convince him that such a weak-looking 孺 子 was only two ranks lower than himself.

「 なかなか 興味深い 案 だった 。 |きょうみぶかい|あん| しかし 、 慎重に すぎて いささか 消極 的で は ない か な 」 |しんちょうに|||しょうきょく|てきで||||

「 そう でしょう か 」

ヤン は ごく 温和な 口調 で 応じた が 、 考えて みれば これ は 上官 にたいして かなり 無礼な 応答 であった かも しれ ない 。 |||おんわな|くちょう||おうじた||かんがえて||||じょうかん|||ぶれいな|おうとう|||| パエッタ 中将 は 気づか なかった 。 |ちゅうじょう||きづか|

「 きみ 自身 が 記して いる とおり 、 たしかに 負け がたい 作戦 案 で は ある 。 |じしん||しるして||||まけ||さくせん|あん||| "As you write, it's certainly an unbeatable strategy. しかし 負け ない だけ で は 意味 が ない 。 |まけ|||||いみ|| However, there is no point in just not losing. 勝た なくて は な 。 かた||| I have to win. わが 軍 は 敵 を 三方 から 包囲 して いる 。 |ぐん||てき||さんぼう||ほうい|| しかも 敵 の 二 倍 の 兵力 で だ 。 |てき||ふた|ばい||へいりょく|| これ だけ 大勝 の 要件 を そなえて 、 なぜ 、 いまさら 、 負け ない 算段 を せ ねば なら ん のだ ? ||たいしょう||ようけん|||||まけ||さんだん|||||| 」 「 ですが 、 まだ 包囲 網 が 完成 さ れた わけ では ありません 」 ||ほうい|あみ||かんせい||||| "But the siege has not been completed yet." 今度 は 中将 も 気づいた 。 こんど||ちゅうじょう||きづいた 彼 は 不快 そうに 眉 根 を よせ 、 みごとな 縦 皺 を 一 本 、 眉間 に 深く 刻んだ 。 かれ||ふかい|そう に|まゆ|ね||||たて|しわ||ひと|ほん|みけん||ふかく|きざんだ

ヤン は 平然と して いる 。 ||へいぜんと||

九 年 前 、 国防 軍 士官 学校 を 卒業 した とき 、 ヤン は 平凡な 新任 少尉 だった 。 ここの|とし|ぜん|こくぼう|ぐん|しかん|がっこう||そつぎょう|||||へいぼんな|しんにん|しょうい| 卒業 時 の 席次 は 四八四〇 名 中 、 一九〇九 番 だった のだ 。 そつぎょう|じ||せきじ||しはちし|な|なか|いちきゅう|ここの|ばん|| At the time of graduation, the number of seats was 1909 out of 4840. そして 現在 は 平凡な 准将 、 と は 言え ない 。 |げんざい||へいぼんな|じゅんしょう|||いえ| 彼 は 同盟 全軍 を つうじて 一六 名 しか いない 二〇 代 の 将官 の ひと り な のである 。 かれ||どうめい|ぜんぐん|||いちろく|な|||ふた|だい||しょうかん||||| He is one of the 20th generals, with only 16 members throughout the entire alliance. パエッタ 中将 は 、 この 若い 准将 の 戦 歴 を 知ら ない わけで は ない 。 |ちゅうじょう|||わかい|じゅんしょう||いくさ|れき||しら|||| 九 年間 に 一〇〇 回 以上 の 戦闘 に 参加 して いる 。 ここの|ねんかん||ひと|かい|いじょう||せんとう||さんか|| 今回 の ように 五 桁 の 艦艇 が 集結 する ような 大規模 の 戦闘 は めったに なかった が 、 それ でも 幼児 の 花火 ごっこ と は わけ が ちがう のだ 。 こんかい||よう に|いつ|けた||かんてい||しゅうけつ|||だいきぼ||せんとう|||||||ようじ||はなび||||||| Large-scale battles such as this one, in which five-digit ships gather, were rare, but they are still different from infant fireworks. そして なにより も 、 あの 〝 エル ・ ファシル 脱出 行 〟 の 輝 ける 英雄 ! ||||||だっしゅつ|ぎょう||あきら||えいゆう

若い ながら 歴戦 の 勇士 である はずな のだ が 、 そういう 印象 を パエッタ は まるで うけ ない のである 。 わかい||れきせん||ゆうし||||||いんしょう||||||| 後方 勤務 本部 で 兵士 の 給料 の 計算 でも して いる ほう が 似つかわしく 思えて なら ない 。 こうほう|きんむ|ほんぶ||へいし||きゅうりょう||けいさん||||||につかわしく|おもえて|| It should not seem more appropriate to calculate the salary of soldiers at the logistical headquarters.

「 とにかく 、 この 作戦 案 を 却下 する 」 ||さくせん|あん||きゃっか|

書類 を 、 中将 は ヤン に さしだした 。 しょるい||ちゅうじょう||||

「 言って おく が 、 きみ に 含む ところ が ある わけで は ない ぞ 」 いって|||||ふくむ||||||| "I tell you, but I don't have anything to include."

よけいな こと を 中将 は 言った 。 |||ちゅうじょう||いった

Ⅳ ヤン ・ ウェンリー の 父親 ヤン ・ タイロン は 自由 惑星 同盟 の 多く の 交易 商人 の なか でも 、 手腕 に 富んだ 男 と して 知られて いた 。 |||ちちおや||||じゆう|わくせい|どうめい||おおく||こうえき|しょうにん||||しゅわん||とんだ|おとこ|||しられて| 人 を そらさ ぬ 微笑 の 奥 で 高 性能 の 商業 用 頭脳 を 回転 さ せ 、 一 介 の 小 商船 主 から 出発 して どんどん 財産 を ふやして いった のだ 。 じん||||びしょう||おく||たか|せいのう||しょうぎょう|よう|ずのう||かいてん|||ひと|かい||しょう|しょうせん|おも||しゅっぱつ|||ざいさん|||| Behind the undistracted smile, he spun a high-performance commercial brain, starting from a small merchant ship owner and steadily increasing his fortune.

「 おれ は 金銭 を 可愛がって る から …………」 ||きんせん||かわいがって||

と 、 彼 は 成功 の 秘訣 を 訊 ねる 友人 に 答えた もの だ 。 |かれ||せいこう||ひけつ||じん||ゆうじん||こたえた||

「 恩 を 感じた 金銭 が 出世 して もどって くる の さ 。 おん||かんじた|きんせん||しゅっせ||||| "The money that I felt gracious will come back to my career. 銅貨 は 銀貨 に 、 銀貨 は 金貨 に な 。 どうか||ぎんか||ぎんか||きんか|| Bronze coins are silver coins, and silver coins are gold coins. 要するに 育て かた ひと つ だ よ ! ようするに|そだて||||| In short, it's just one way to grow it! 」 彼 自身 は それ を 気 の きいた 冗談 と 思って いた ようで 、 こと ある ごと に そう 言って まわった ので 、〝 金銭 育て の 名人 〟 と いう ニックネーム を たてまつら れた 。 かれ|じしん||||き|||じょうだん||おもって||||||||いって|||きんせん|そだて||めいじん|||||| かならずしも 好意 的な もの と は 言いがたい が 、 言わ れる 当人 は 満足 して いた ようである 。 |こうい|てきな||||いいがたい||いわ||とうにん||まんぞく||| It is hard to say that it is always favorable, but it seems that the person being said was satisfied.

ヤン ・ タイロン は 、 また 、 古美術 品 の 収集 家 で も あった 。 ||||こびじゅつ|しな||しゅうしゅう|いえ||| 西暦 が 使用 されて いた 当時 の 絵画 、 彫刻 、 陶磁器 など が 、 彼 の 邸宅 に は 山積み に なって いた 。 せいれき||しよう|||とうじ||かいが|ちょうこく|とうじき|||かれ||ていたく|||やまづみ||| オフィス に 陣どって 恒星 間 商船 隊 に 指揮 を くだして いない とき の 彼 は 、 邸 内 の 古美術 品 を 鑑賞 したり 磨き たてたり する のに 忙しかった 。 おふぃす||じんどって|こうせい|あいだ|しょうせん|たい||しき||||||かれ||てい|うち||こびじゅつ|しな||かんしょう||みがき||||いそがしかった 趣味 が 高じた あげく 、 彼 は 配偶 者 まで 古美術 品 を えらんだ 、 と 噂 さ れた 。 しゅみ||こうじた||かれ||はいぐう|もの||こびじゅつ|しな||||うわさ|| As a hobby, he was rumored to have chosen antiques even for his spouse. 浪費 癖 の ある 最初の 妻 と 離婚 した あと 、 彼 は 評判 の 美女 と 再婚 した が 、 彼女 は とある 軍人 の 未亡人 だった のである 。 ろうひ|くせ|||さいしょの|つま||りこん|||かれ||ひょうばん||びじょ||さいこん|||かのじょ|||ぐんじん||みぼうじん|| そして 息子 ―― ヤン ・ ウェンリー が 生まれた 。 |むすこ||||うまれた

男児 誕生 の 報 を 、 ヤン ・ タイロン は 自 邸 の 書斎 で うけた が 、 古い 花瓶 を 磨く 手 を 休める と つぶやいた 。 だんじ|たんじょう||ほう|||||じ|てい||しょさい||||ふるい|かびん||みがく|て||やすめる||

「 おれ が 死んだら 、 この 美術 品 は みんな そい つ の もの に なって しまう んだ なあ 」 ||しんだら||びじゅつ|しな||||||||||| "If I die, all of this work of art will be its own."

そして また 磨き つづけた 。 ||みがき|

ヤン ・ ウェンリー が 五 歳 に なった とき 、 母親 が 死んだ 。 |||いつ|さい||||ははおや||しんだ 急性 の 心臓 疾患 に よる もの で 、 それ まで 健康であった だけ に 、 その 突然の 死 は さすが の ヤン ・ タイロン を も 驚かせた 。 きゅうせい||しんぞう|しっかん|||||||けんこうであった||||とつぜんの|し||||||||おどろかせた

彼 は 手 に して いた 青銅 の 獅子 の 置物 を 床 に とり 落とした が 、 我 に かえって それ を 拾いあげる と 、 妻 の 親族 一同 を 憤慨 さ せる 台詞 を 吐いた 。 かれ||て||||せいどう||しし||おきもの||とこ|||おとした||われ|||||ひろいあげる||つま||しんぞく|いちどう||ふんがい|||せりふ||はいた He dropped the bronze lion figurine he had in his hand on the floor, but when he picked it up, he uttered a line of resentment to all his wife's relatives.

「 割れもの を 磨いて いる とき で なくて よかった ……」 われもの||みがいて|||||

生別 と 死別 に よって ふた り の 妻 を 失った ヤン ・ タイロン は 、 もう 結婚 する 意思 を もた なかった 。 せいべつ||しべつ||||||つま||うしなった|||||けっこん||いし||| 彼 は 息子 に メイド を つけた が 、 メイド が 休暇 の とき など 扱い に こまり 、 自分 の 傍 に すわら せて 一緒に 壺 を 磨いたり して いた 。 かれ||むすこ||||||||きゅうか||||あつかい|||じぶん||そば||||いっしょに|つぼ||みがいたり|| He gave his son a maid, but he was so busy with it when he was on vacation that he would sit beside him and polish the jar with him.

亡 妻 の 親族 が 彼 の 邸宅 を 訪れ 、 書斎 で 無言 の まま 壺 を 磨いて いる 父子 の 姿 を 見て 呆れかえり 、 かくも 無責任な 父親 の 手 から 幼児 を 救出 す べきだ 、 と 主張 する に いたった 。 な|つま||しんぞく||かれ||ていたく||おとずれ|しょさい||むごん|||つぼ||みがいて||ふし||すがた||みて|あきれかえり||むせきにんな|ちちおや||て||ようじ||きゅうしゅつ||||しゅちょう||| 息子 と 古美術 品 の どちら が だいじ か 、 と 詰問 されて 、 交易 商人 は 答えた 。 むすこ||こびじゅつ|しな|||||||きつもん||こうえき|しょうにん||こたえた When asked whether his son or antiques was more important, the trader replied. 「 美術 品 を 集める に は 資金 が かかった から なあ 」 びじゅつ|しな||あつめる|||しきん||||

息子 の ほう は ただ だった 、 と いう わけである 。 むすこ|||||||| The son was just that.

この 言 種 に 怒りくるった 親族 一同 は 、 こと を 法廷 に もちこんで 解決 する 姿勢 を しめした が 、 それ を 察した ヤン ・ タイロン は 息子 を 抱いて みずから 恒星 間 商船 に 乗りこみ 、 首都 ハイネセン から 姿 を 消して しまった 。 |げん|しゅ||いかりくるった|しんぞく|いちどう||||ほうてい|||かいけつ||しせい||||||さっした||||むすこ||いだいて||こうせい|あいだ|しょうせん||のりこみ|しゅと|||すがた||けして| All the relatives who got angry at this word showed their attitude to bring it to the court and solve it, but when he saw it, Yang Tyrone embraced his son and boarded the interstellar merchant ship and disappeared from the capital Heinesen. I've done it. まさか 、 父親 が 息子 を 誘拐 した と 訴える こと も でき ず 、 親族 一同 は 肩 を すくめて 、 星空 に 宇宙 船 の 軌跡 を おう しか なかった 。 |ちちおや||むすこ||ゆうかい|||うったえる|||||しんぞく|いちどう||かた|||ほしぞら||うちゅう|せん||きせき|||| No way, the father couldn't accuse him of kidnapping his son, and all the relatives had to shrug their shoulders and follow the trajectory of the spaceship in the starry sky. まあ しかたない 、 息子 を つれて 行った と いう こと は 、 あの 男 に も 脈 が ある と いう こと な のだろう ……。 ||むすこ|||おこなった||||||おとこ|||みゃく||||||| Well, the fact that I went with my son probably means that the man also has a pulse ...

こうして ヤン ・ ウェンリー は 一六 歳 に なる まで 、 人生 のたいはん を 宇宙 船 の 船 内 で すごす こと に なった のだ 。 ||||いちろく|さい||||じんせい|||うちゅう|せん||せん|うち|||||| 幼い ヤン ・ ウェンリー は 最初 、 跳躍 の たび に 体調 を 崩して 吐いたり 発熱 したり した が 、 やがて 慣れて しまう と 、 悠然と して 自分 の 境遇 を うけいれた 。 おさない||||さいしょ|ちょうやく||||たいちょう||くずして|はいたり|はつねつ|||||なれて|||ゆうぜんと||じぶん||きょうぐう|| 彼 は 機器 へ の 興味 を ひととおり みたして しまう と 、 他の 方面 へ 関心 を むける ように なった 。 かれ||きき|||きょうみ||||||たの|ほうめん||かんしん|||よう に| Once he had a complete interest in the device, he began to take an interest in other areas. Una vez que tuvo un interés completo en el dispositivo, comenzó a interesarse en otras áreas. 歴史 に 、 である 。 れきし||

少年 は ビデオ も 見 、 再 刊 さ れた 古書 も 読み 、 昔 語り も 喜んで 聞いた が 、 とくに 〝 史上 最悪 の 簒奪 者 〟 ルドルフ にたいして の 興味 は 深かった 。 しょうねん||びでお||み|さい|かん|||こしょ||よみ|むかし|かたり||よろこんで|きいた|||しじょう|さいあく||さんだつ|もの||||きょうみ||ふかかった 自由 惑星 同盟 の 人々 が 話す こと だ から 、 当然 、 ルドルフ は 悪 の 権化 と して 表現 さ れた が 、 聞く うち に 少年 は 疑問 を いだく ように なった 。 じゆう|わくせい|どうめい||ひとびと||はなす||||とうぜん|||あく||ごんげ|||ひょうげん||||きく|||しょうねん||ぎもん|||よう に| Of course, Rudolf was described as the incarnation of evil, as the people of the Free Planet Alliance speak, but as he heard it, the boy began to question. ルドルフ が それほど の 悪党 だった なら 、 なぜ 、 人々 は 彼 を 支持 し 権力 を あたえた の か ? ||||あくとう||||ひとびと||かれ||しじ||けんりょく||||

「 そり や あ 、 ルドルフ は とことん あくどい 奴 だった から な 、 民衆 を うまく だました の さ 」 |||||||やつ||||みんしゅう|||||

「 民衆 は どうして だまさ れた んだろう ? みんしゅう||||| 」 「 ルドルフ が なにしろ 悪い 奴 だった から だ よ 」 |||わるい|やつ|||| こういう 問答 は 少年 を 満足 さ せ なかった のだ が 、 父親 の 見解 は ほか の 人々 と 多少 、 ことなって いた 。 |もんどう||しょうねん||まんぞく||||||ちちおや||けんかい||||ひとびと||たしょう|| 息子 の 質問 に 彼 は こう 答えた 。 むすこ||しつもん||かれ|||こたえた

「 民衆 が 楽 を したがった から さ 」 みんしゅう||がく|||| "Because the people wanted to have fun."

「 楽 を し た がる ? がく|||| 」 「 そう と も 。 自分 たち の 努力 で 問題 を 解決 せ ず 、 どこ から か 超人 なり 聖者 なり が あらわれて 、 彼ら の 苦労 を 全部 ひと り でしょ いこん で くれる の を 待って いた んだ 。 じぶん|||どりょく||もんだい||かいけつ||||||ちょうじん||せいじゃ||||かれら||くろう||ぜんぶ|||||||||まって|| They didn't solve the problem with their own efforts, and waited for somewhere to appear as superhumans or saints, and to take care of all their hardships. そこ を ルドルフ に つけこま れた 。 Lo aproveché en Rudolph. いい か 、 おぼえて おく んだ 。 独裁 者 は 出現 さ せる 側 に より 多く の 責任 が ある 。 どくさい|もの||しゅつげん|||がわ|||おおく||せきにん|| 積極 的に 支持 し なくて も 、 黙って 見て いれば 同罪 だ …… しかし だ な 、 お前 、 そんな こと より もっと 有益な もの に 関心 を もて 」 せっきょく|てきに|しじ||||だまって|みて||どうざい|||||おまえ|||||ゆうえきな|||かんしん|| Even if you don't actively support it, you're guilty if you keep silent ... But, you, be interested in something more useful than that. "

「 有益な ものって ? ゆうえきな| 」 「 金銭 と 美術 品 だ 。 きんせん||びじゅつ|しな|