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【朗読】声を便りに、声を頼りに, 萩原朔太郎、猫町(3)

萩原 朔 太郎 、猫 町(3)

その 頃 私 は 、 北 越 地方 の K と いう 温泉 に 滞留 して いた 。 九 月 も 末 に 近く 、 彼岸 を 過ぎた 山 の 中 で は 、 もう すっかり 秋 の 季節 に なって いた 。 都会 から 来た 避暑 客 は 、 既に 皆 帰って しまって 、 後 に は 少し ばかり の 湯治 客 が 、 静かに 病 を 養って いる のであった 。 秋 の 日影 は 次第に 深く 、 旅館 の 侘 しい 中庭 に は 、 木々 の 落葉 が 散らばって いた 。 私 は フランネル の 着物 を 着て 、 ひと り で 裏山 など を 散歩 し ながら 、 所在 の ない 日々 の 日課 を すごして いた 。

私 の いる 温泉 地 から 、 少し ばかり 離れた 所 に 、 三 つ の 小さな 町 が あった 、 いずれ も 町 と いう より は 、 村 と いう ほど の 小さな 部落 であった けれども 、 その 中 の 一 つ は 相当に 小 ぢん まり した 田舎 町 で 、 一 通り の 日常 品 も 売って いる し 、 都会 風 の 飲食 店 など も 少し は あった 。 温泉 地 から それ ら の 町 へ は 、 いずれ も 直通 の 道路 が あって 、 毎日 定期 の 乗 合馬 車 が 往復 して いた 。 特に その 繁 華 な U 町 へ は 、 小さな 軽便 鉄道 が 布 設 されて いた 。 私 は しばしば その 鉄道 で 、 町 へ 出かけて 行って 買物 を したり 、 時に は また 、 女 の いる 店 で 酒 を 飲んだり した 。 だが 私 の 実 の 楽しみ は 、 軽便 鉄道 に 乗る こと の 途中 に あった 。 その 玩具 の ような 可愛い 汽車 は 、 落葉 樹 の 林 や 、 谷間 の 見える 山 峡 や を 、 うねうね と 曲り ながら 走って 行った 。

或る 日 私 は 、 軽便 鉄道 を 途中 で 下車 し 、 徒歩 で U 町 の 方 へ 歩いて 行った 。 それ は 見晴し の 好 い 峠 の 山道 を 、 ひと り で ゆっくり 歩き たかった から であった 。 道 は 軌道 ( レール ) に 沿い ながら 、 林 の 中 の 不規則な 小径 を 通った 。 所々 に 秋草 の 花 が 咲き 、 赫土 の 肌 が 光り 、 伐られた 樹木 が 横たわって いた 。 私 は 空 に 浮んだ 雲 を 見 ながら 、 この 地方 の 山中 に 伝説 して いる 、 古い 口 碑 の こと を 考えて いた 。 概して 文化 の 程度 が 低く 、 原始 民族 の タブー と 迷信 に 包まれて いる この 地方 に は 、 実際 色々な 伝説 や 口 碑 が あり 、 今 でも なお 多数 の 人々 は 、 真面目に 信じて いる のである 、 現に 私 の 宿 の 女 中 や 、 近所 の 村 から 湯治 に 来て いる 人 たち は 、 一種 の 恐怖 と 嫌悪 の 感情 と で 、 私 に 様々の こと を 話して くれた 。 彼ら の 語る ところ に よれば 、 或る 部落 の 住民 は 犬 神 に 憑 かれて おり 、 或る 部落 の 住民 は 猫 神 に 憑 かれて いる 。 犬 神 に 憑 かれた もの は 肉 ばかり を 食い 、 猫 神 に 憑 かれた もの は 魚 ばかり 食って 生活 して いる 。

そうした 特異な 部落 を 称して 、 この 辺 の 人々 は 「 憑 き 村 」 と 呼び 、 一切 の 交際 を 避けて 忌み 嫌った 。 「 憑 き 村 」 の 人々 は 、 年 に 一 度 、 月 の ない 闇夜 を 選んで 祭礼 を する 。 その 祭 の 様子 は 、 彼ら 以外 の 普通の 人 に は 全く 見え ない 。 稀 れ に 見て 来た 人 が あって も 、 なぜ か 口 を つぐんで 話 を し ない 。 彼ら は 特殊の 魔力 を 有し 、 所 因 の 解ら ぬ 莫大 の 財産 を 隠して いる 。 等 々 。

こうした 話 を 聞か せた 後 で 、 人々 は また 追加 して 言った 。 現に この 種 の 部落 の 一 つ は 、 つい 最近 まで 、 この 温泉 場 の 附近 に あった 。 今では さすが に 解消 して 、 住民 は 何 所 か へ 散って しまった けれども 、 おそらく やはり 、 何 所 か で 秘密の 集団 生活 を 続けて いる に ちがいない 。 その 疑い ない 証拠 と して 、 現に 彼ら の オクラ ( 魔 神 の 正体 ) を 見た と いう 人 が ある と 。 こうした 人々 の 談話 の 中 に は 、 農民 一流 の 頑迷 さ が 主張 づけられて いた 。 否 でも 応 でも 、 彼ら は 自己 の 迷信 的 恐怖 と 実在 性 と を 、 私 に 強制 しよう と する のであった 。 だが 私 は 、 別の ちがった 興味 でもって 、 人々 の 話 を 面白く 傾聴 して いた 。 日本 の 諸国 に ある この 種 の 部落 的 タブー は 、 おそらく 風俗 習慣 を 異にした 外国 の 移住 民 や 帰化 人 や を 、 先祖 の 氏神 にもつ 者 の 子孫 であろう 。 あるいは 多分 、 もっと 確実な 推測 と して 、 切 支丹 ( キリシタン ) 宗 徒 の 隠れた 集合 的 部落 であった のだろう 。 しかし 宇宙 の 間 に は 、 人間 の 知ら ない 数々 の 秘密 が ある 。 ホレーシオ が 言う ように 、 理 智 は 何事 を も 知り は し ない 。 理 智 は すべて を 常識 化 し 、 神話 に 通俗 の 解説 を する 。 しかも 宇宙 の 隠れた 意味 は 、 常に 通俗 以上 である 。 だから すべて の 哲学 者 は 、 彼ら の 窮 理 の 最後に 来て 、 いつも 詩人 の 前 に 兜 を 脱いで る 。 詩人 の 直 覚 する 超 常識 の 宇宙 だけ が 、 真 の メタフィジック の 実在 な のだ 。

こうした 思 惟 に 耽 り ながら 、 私 は ひと り 秋 の 山道 を 歩いて いた 。 その 細い 山道 は 、 経路 に 沿う て 林 の 奥 へ 消えて 行った 。 目的 地 へ の 道標 と して 、 私 が 唯一 の たより に して いた 汽車 の 軌道 ( レール ) は 、 もはや 何 所 に も 見え なく なった 。 私 は 道 を なくした のだ 。

「 迷い 子 ! 瞑想 から 醒 め た 時 に 、 私 の 心 に 浮んだ の は 、 この 心細い 言葉 であった 。 私 は 急に 不安に なり 、 道 を 探そう と して あわて 出した 。 私 は 後 へ 引返して 、 逆に 最初の 道 へ 戻ろう と した 。 そして 一層 地理 を 失い 、 多岐に 別れた 迷路 の 中 へ 、 ぬきさし なら ず 入って しまった 。 山 は 次第に 深く なり 、 小径 は 荊棘 の 中 に 消えて しまった 。 空しい 時間 が 経過 して 行き 、 一 人 の 樵夫 に も 逢わ なかった 。 私 は だんだん 不安に なり 、 犬 の ように 焦燥 し ながら 、 道 を 嗅ぎ 出そう と して 歩き 廻った 。 そして 最後に 、 漸 く 人 馬 の 足跡 の はっきり ついた 、 一 つ の 細い 山道 を 発見 した 。 私 は その 足跡 に 注意 し ながら 、 次第に 麓 の 方 へ 下って 行った 。 どっち の 麓 に 降りよう と も 、 人家 の ある 所 へ 着き さえ すれば 、 とにかく 安心 が できる のである 。

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萩原 朔 太郎 、猫 町(3) はぎはら|さく|たろう|ねこ|まち Sakutaro Hagiwara, Nekomachi (3)

その 頃 私 は 、 北 越 地方 の K と いう 温泉 に 滞留 して いた 。 |ころ|わたくし||きた|こ|ちほう||k|||おんせん||たいりゅう|| |||||||||||||staying|| 九 月 も 末 に 近く 、 彼岸 を 過ぎた 山 の 中 で は 、 もう すっかり 秋 の 季節 に なって いた 。 ここの|つき||すえ||ちかく|ひがん||すぎた|やま||なか|||||あき||きせつ||| ||||||equinoctial week||||||||||||||| 都会 から 来た 避暑 客 は 、 既に 皆 帰って しまって 、 後 に は 少し ばかり の 湯治 客 が 、 静かに 病 を 養って いる のであった 。 とかい||きた|ひしょ|きゃく||すでに|みな|かえって||あと|||すこし|||とうじ|きゃく||しずかに|びょう||やしなって|| ||||||||||||||||hot spring therapy|||||||| 秋 の 日影 は 次第に 深く 、 旅館 の 侘 しい 中庭 に は 、 木々 の 落葉 が 散らばって いた 。 あき||ひかげ||しだいに|ふかく|りょかん||た||なかにわ|||きぎ||らくよう||ちらばって| ||sunlight||||||lonely||courtyard|||||||| 私 は フランネル の 着物 を 着て 、 ひと り で 裏山 など を 散歩 し ながら 、 所在 の ない 日々 の 日課 を すごして いた 。 わたくし||||きもの||きて||||うらやま|||さんぽ|||しょざい|||ひび||にっか||| ||flannel||||||||||||||lack of purpose|||||||| I wore a flannel kimono and spent my days wandering alone in the back mountains, going through a routine without any purpose.

私 の いる 温泉 地 から 、 少し ばかり 離れた 所 に 、 三 つ の 小さな 町 が あった 、 いずれ も 町 と いう より は 、 村 と いう ほど の 小さな 部落 であった けれども 、 その 中 の 一 つ は 相当に 小 ぢん まり した 田舎 町 で 、 一 通り の 日常 品 も 売って いる し 、 都会 風 の 飲食 店 など も 少し は あった 。 わたくし|||おんせん|ち||すこし||はなれた|しょ||みっ|||ちいさな|まち|||||まち|||||むら|||||ちいさな|ぶらく||||なか||ひと|||そうとうに|しょう||||いなか|まち||ひと|とおり||にちじょう|しな||うって|||とかい|かぜ||いんしょく|てん|||すこし|| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||small|||||||||||||||||||||||| From the hot spring area where I was, there were three small towns a little distance away. They were more like small villages than towns, but one of them was quite a cozy little rural town, selling everyday goods and having a few trendy eateries. 温泉 地 から それ ら の 町 へ は 、 いずれ も 直通 の 道路 が あって 、 毎日 定期 の 乗 合馬 車 が 往復 して いた 。 おんせん|ち|||||まち|||||ちょくつう||どうろ|||まいにち|ていき||じょう|おうま|くるま||おうふく|| |||||||||||direct||||||||||||round trip|| There were direct roads from the hot spring area to these towns, and every day a regular stagecoach made the round trip. 特に その 繁 華 な U 町 へ は 、 小さな 軽便 鉄道 が 布 設 されて いた 。 とくに||しげ|はな||u|まち|||ちいさな|けいべん|てつどう||ぬの|せつ|さ れて| ||||||||||light railway||||established|| 私 は しばしば その 鉄道 で 、 町 へ 出かけて 行って 買物 を したり 、 時に は また 、 女 の いる 店 で 酒 を 飲んだり した 。 わたくし||||てつどう||まち||でかけて|おこなって|かいもの|||ときに|||おんな|||てん||さけ||のんだり| I often went out to town on that railway, shopping or sometimes drinking at a bar with women. だが 私 の 実 の 楽しみ は 、 軽便 鉄道 に 乗る こと の 途中 に あった 。 |わたくし||み||たのしみ||けいべん|てつどう||のる|||とちゅう|| However, my real pleasure was in riding the light railway. その 玩具 の ような 可愛い 汽車 は 、 落葉 樹 の 林 や 、 谷間 の 見える 山 峡 や を 、 うねうね と 曲り ながら 走って 行った 。 |がんぐ|||かわいい|きしゃ||らくよう|き||りん||たにま||みえる|やま|きょう|||||まがり||はしって|おこなった |||||||||||||||||||||winding||| That toy-like cute train twisted and turned as it ran through the forest of deciduous trees and the valleys visible in the gorges.

或る 日 私 は 、 軽便 鉄道 を 途中 で 下車 し 、 徒歩 で U 町 の 方 へ 歩いて 行った 。 ある|ひ|わたくし||けいべん|てつどう||とちゅう||げしゃ||とほ||u|まち||かた||あるいて|おこなった |||||||||got off|||||||||| それ は 見晴し の 好 い 峠 の 山道 を 、 ひと り で ゆっくり 歩き たかった から であった 。 ||みはらし||よしみ||とうげ||やまみち||||||あるき||| ||view||||mountain pass||mountain road||||||||| I wanted to walk slowly alone on the mountain path of the pass with a good view. 道 は 軌道 ( レール ) に 沿い ながら 、 林 の 中 の 不規則な 小径 を 通った 。 どう||きどう|れーる||ぞい||りん||なか||ふきそくな|しょうけい||かよった |||||||||||irregular||| The road followed the tracks (rails) and passed through the irregular paths in the forest. 所々 に 秋草 の 花 が 咲き 、 赫土 の 肌 が 光り 、 伐られた 樹木 が 横たわって いた 。 ところどころ||あきくさ||か||さき|せきつち||はだ||ひかり|ばつ られた|じゅもく||よこたわって| ||autumn grass|||||red earth|||||cut down|||| Here and there, autumn flowers were blooming, the reddish earth was shining, and felled trees were lying around. 私 は 空 に 浮んだ 雲 を 見 ながら 、 この 地方 の 山中 に 伝説 して いる 、 古い 口 碑 の こと を 考えて いた 。 わたくし||から||うかんだ|くも||み|||ちほう||さんちゅう||でんせつ|||ふるい|くち|ひ||||かんがえて| ||||floating|||||||||||||||||||| 概して 文化 の 程度 が 低く 、 原始 民族 の タブー と 迷信 に 包まれて いる この 地方 に は 、 実際 色々な 伝説 や 口 碑 が あり 、 今 でも なお 多数 の 人々 は 、 真面目に 信じて いる のである 、 現に 私 の 宿 の 女 中 や 、 近所 の 村 から 湯治 に 来て いる 人 たち は 、 一種 の 恐怖 と 嫌悪 の 感情 と で 、 私 に 様々の こと を 話して くれた 。 がいして|ぶんか||ていど||ひくく|げんし|みんぞく||たぶー||めいしん||つつま れて|||ちほう|||じっさい|いろいろな|でんせつ||くち|ひ|||いま|||たすう||ひとびと||まじめに|しんじて|||げんに|わたくし||やど||おんな|なか||きんじょ||むら||とうじ||きて||じん|||いっしゅ||きょうふ||けんお||かんじょう|||わたくし||さまざまの|||はなして| generally||||||primitive|||taboo||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||disgust||||||||||| Generally, this region, which has a low level of culture and is enveloped in the taboos and superstitions of primitive tribes, has various legends and oral traditions, and even now, many people seriously believe in them. Indeed, the maid at my inn and those who have come to the hot springs from the neighboring village told me various things with a sense of fear and disgust. 彼ら の 語る ところ に よれば 、 或る 部落 の 住民 は 犬 神 に 憑 かれて おり 、 或る 部落 の 住民 は 猫 神 に 憑 かれて いる 。 かれら||かたる||||ある|ぶらく||じゅうみん||いぬ|かみ||ひょう|||ある|ぶらく||じゅうみん||ねこ|かみ||ひょう|| According to their accounts, some residents of a certain village are possessed by a dog deity, while others are possessed by a cat deity. 犬 神 に 憑 かれた もの は 肉 ばかり を 食い 、 猫 神 に 憑 かれた もの は 魚 ばかり 食って 生活 して いる 。 いぬ|かみ||ひょう||||にく|||くい|ねこ|かみ||ひょう||||ぎょ||くって|せいかつ|| ||||||||||||||possessed||||||||| Those possessed by the dog deity eat only meat, while those possessed by the cat deity live by eating only fish.

そうした 特異な 部落 を 称して 、 この 辺 の 人々 は 「 憑 き 村 」 と 呼び 、 一切 の 交際 を 避けて 忌み 嫌った 。 |とくいな|ぶらく||そやして||ほとり||ひとびと||ひょう||むら||よび|いっさい||こうさい||さけて|いみ|きらった ||||referred to||||||||||||||||taboo|disliked The people around here refer to such a peculiar settlement as 'the possessed village' and completely avoid any interaction with it. 「 憑 き 村 」 の 人々 は 、 年 に 一 度 、 月 の ない 闇夜 を 選んで 祭礼 を する 。 ひょう||むら||ひとびと||とし||ひと|たび|つき|||やみよ||えらんで|さいれい|| |||||||||||||dark night|||festival|| The people of 'the possessed village' hold a festival once a year, choosing a dark night with no moon. その 祭 の 様子 は 、 彼ら 以外 の 普通の 人 に は 全く 見え ない 。 |さい||ようす||かれら|いがい||ふつうの|じん|||まったく|みえ| The nature of the festival is completely invisible to ordinary people other than themselves. 稀 れ に 見て 来た 人 が あって も 、 なぜ か 口 を つぐんで 話 を し ない 。 まれ|||みて|きた|じん||||||くち|||はなし||| |||||||||||||remained silent|||| 彼ら は 特殊の 魔力 を 有し 、 所 因 の 解ら ぬ 莫大 の 財産 を 隠して いる 。 かれら||とくしゅの|まりょく||ゆうし|しょ|いん||わから||ばくだい||ざいさん||かくして| |||||possessing||||understood||enormous||||| They possess special magical powers and are hiding a vast fortune of unknown origin. 等 々 。 とう| And so on.

こうした 話 を 聞か せた 後 で 、 人々 は また 追加 して 言った 。 |はなし||きか||あと||ひとびと|||ついか||いった After hearing such stories, people added to what they said. 現に この 種 の 部落 の 一 つ は 、 つい 最近 まで 、 この 温泉 場 の 附近 に あった 。 げんに||しゅ||ぶらく||ひと||||さいきん|||おんせん|じょう||ふきん|| ||||||||||||||||nearby|| Indeed, one of this type of settlement was located near this hot spring until quite recently. 今では さすが に 解消 して 、 住民 は 何 所 か へ 散って しまった けれども 、 おそらく やはり 、 何 所 か で 秘密の 集団 生活 を 続けて いる に ちがいない 。 いまでは|||かいしょう||じゅうみん||なん|しょ|||ちって|||||なん|しょ|||ひみつの|しゅうだん|せいかつ||つづけて||| Now, it has certainly been dissolved, and the residents have scattered to various places, but they are probably still continuing to live in secret collective groups somewhere. その 疑い ない 証拠 と して 、 現に 彼ら の オクラ ( 魔 神 の 正体 ) を 見た と いう 人 が ある と 。 |うたがい||しょうこ|||げんに|かれら|||ま|かみ||しょうたい||みた|||じん||| |||||||||okra|||||||||||| As undeniable evidence, there are people who claim to have seen their Okura (the true identity of the demon). こうした 人々 の 談話 の 中 に は 、 農民 一流 の 頑迷 さ が 主張 づけられて いた 。 |ひとびと||だんわ||なか|||のうみん|いちりゅう||がんめい|||しゅちょう|づけ られて| |||||||||||stubbornness||||| In the discourse of such people, the obstinacy of the first-class farmers was emphasized. 否 でも 応 でも 、 彼ら は 自己 の 迷信 的 恐怖 と 実在 性 と を 、 私 に 強制 しよう と する のであった 。 いな||おう||かれら||じこ||めいしん|てき|きょうふ||じつざい|せい|||わたくし||きょうせい|||| ||yes|||||||||||||||||||| Whether they liked it or not, they were trying to impose their superstitious fears and realities onto me. だが 私 は 、 別の ちがった 興味 でもって 、 人々 の 話 を 面白く 傾聴 して いた 。 |わたくし||べつの||きょうみ|でも って|ひとびと||はなし||おもしろく|けいちょう|| However, I was listening to the people's stories with a different kind of interest and found them fascinating. 日本 の 諸国 に ある この 種 の 部落 的 タブー は 、 おそらく 風俗 習慣 を 異にした 外国 の 移住 民 や 帰化 人 や を 、 先祖 の 氏神 にもつ 者 の 子孫 であろう 。 にっぽん||しょこく||||しゅ||ぶらく|てき|たぶー|||ふうぞく|しゅうかん||ことにした|がいこく||いじゅう|たみ||きか|じん|||せんぞ||うじがみ||もの||しそん| |||||||||||||customs|||differed from||||||naturalization||||||ancestral deity||||| The taboos of this kind found in various regions of Japan are probably descendants of those who have foreign immigrants or naturalized citizens with different customs, who are related to those who have their ancestral deity. あるいは 多分 、 もっと 確実な 推測 と して 、 切 支丹 ( キリシタン ) 宗 徒 の 隠れた 集合 的 部落 であった のだろう 。 |たぶん||かくじつな|すいそく|||せつ|したん|きりしたん|はじめ|と||かくれた|しゅうごう|てき|ぶらく|| ||||||||Christian|Christian||believer|||meeting|||| Alternatively, perhaps a more certain guess is that it was a hidden collective community of Christian believers. しかし 宇宙 の 間 に は 、 人間 の 知ら ない 数々 の 秘密 が ある 。 |うちゅう||あいだ|||にんげん||しら||かずかず||ひみつ|| However, between the cosmos, there are many secrets unknown to humanity. ホレーシオ が 言う ように 、 理 智 は 何事 を も 知り は し ない 。 ||いう||り|さとし||なにごと|||しり||| Horatio||||||||||||| As Horatio says, reason knows nothing. 理 智 は すべて を 常識 化 し 、 神話 に 通俗 の 解説 を する 。 り|さとし||||じょうしき|か||しんわ||つうぞく||かいせつ|| ||||||||||popular|||| Reason rationalizes everything and provides a popular explanation for myths. しかも 宇宙 の 隠れた 意味 は 、 常に 通俗 以上 である 。 |うちゅう||かくれた|いみ||とわに|つうぞく|いじょう| |||||||popular|| Moreover, the hidden meaning of the universe is always beyond the popular. だから すべて の 哲学 者 は 、 彼ら の 窮 理 の 最後に 来て 、 いつも 詩人 の 前 に 兜 を 脱いで る 。 |||てつがく|もの||かれら||きゅう|り||さいごに|きて||しじん||ぜん||かぶと||ぬいで| ||||||||distress||||||||||||| Therefore, all philosophers, at the end of their distress, always bow their heads before the poet. 詩人 の 直 覚 する 超 常識 の 宇宙 だけ が 、 真 の メタフィジック の 実在 な のだ 。 しじん||なお|あきら||ちょう|じょうしき||うちゅう|||まこと||||じつざい|| ||||||||||(subject marker)||||||| Only the universe of the super-norm that the poet directly perceives is the true reality of metaphysics.

こうした 思 惟 に 耽 り ながら 、 私 は ひと り 秋 の 山道 を 歩いて いた 。 |おも|ただ||たん|||わたくし||||あき||やまみち||あるいて| ||thinking||immersed|||||||||||| Lost in such thoughts, I was walking alone along a mountain path in autumn. その 細い 山道 は 、 経路 に 沿う て 林 の 奥 へ 消えて 行った 。 |ほそい|やまみち||けいろ||そう||りん||おく||きえて|おこなった ||||||along||||||| 目的 地 へ の 道標 と して 、 私 が 唯一 の たより に して いた 汽車 の 軌道 ( レール ) は 、 もはや 何 所 に も 見え なく なった 。 もくてき|ち|||みちしるべ|||わたくし||ゆいいつ||||||きしゃ||きどう|れーる|||なん|しょ|||みえ|| ||||signpost||||||||||||||||||||||| The railway tracks, which I had relied on as the only guide to my destination, can no longer be seen anywhere. 私 は 道 を なくした のだ 。 わたくし||どう||| I have lost my way.

「 迷い 子 ! まよい|こ "Lost child!" 瞑想 から 醒 め た 時 に 、 私 の 心 に 浮んだ の は 、 この 心細い 言葉 であった 。 めいそう||せい|||じ||わたくし||こころ||うかんだ||||こころぼそい|ことば| |||||||||||||||lonely|| When I woke up from meditation, the words that floated in my mind were these lonely words. 私 は 急に 不安に なり 、 道 を 探そう と して あわて 出した 。 わたくし||きゅうに|ふあんに||どう||さがそう||||だした I suddenly became anxious and started to panic, trying to find a way. 私 は 後 へ 引返して 、 逆に 最初の 道 へ 戻ろう と した 。 わたくし||あと||ひきかえして|ぎゃくに|さいしょの|どう||もどろう|| ||||returned||||||| I turned back and tried to return to the original path. そして 一層 地理 を 失い 、 多岐に 別れた 迷路 の 中 へ 、 ぬきさし なら ず 入って しまった 。 |いっそう|ちり||うしない|たきに|わかれた|めいろ||なか|||||はいって| |||||in various ways||||||not returning|||| And then I lost my sense of direction even more, and found myself unavoidably entering into a maze that diverged in many directions. 山 は 次第に 深く なり 、 小径 は 荊棘 の 中 に 消えて しまった 。 やま||しだいに|ふかく||しょうけい||けいなつめ||なか||きえて| |||||||thornbush||||| The mountains grew deeper, and the small paths disappeared among the brambles. 空しい 時間 が 経過 して 行き 、 一 人 の 樵夫 に も 逢わ なかった 。 むなしい|じかん||けいか||いき|ひと|じん||しょうおっと|||あわ| empty|||||||||woodsman|||| Empty hours passed by, and I did not encounter a single woodcutter. 私 は だんだん 不安に なり 、 犬 の ように 焦燥 し ながら 、 道 を 嗅ぎ 出そう と して 歩き 廻った 。 わたくし|||ふあんに||いぬ|||しょうそう|||どう||かぎ|だそう|||あるき|まわった ||||||||impatience|||||||||| I gradually became anxious and, like a dog, walked around trying to sniff out the path in impatience. そして 最後に 、 漸 く 人 馬 の 足跡 の はっきり ついた 、 一 つ の 細い 山道 を 発見 した 。 |さいごに|すすむ||じん|うま||あしあと||||ひと|||ほそい|やまみち||はっけん| Then finally, I discovered a narrow mountain path with clear footprints of horses and humans. 私 は その 足跡 に 注意 し ながら 、 次第に 麓 の 方 へ 下って 行った 。 わたくし|||あしあと||ちゅうい|||しだいに|ふもと||かた||くだって|おこなった |||||||||foot of the mountain||||| I paid attention to those footprints and gradually made my way down toward the foothills. どっち の 麓 に 降りよう と も 、 人家 の ある 所 へ 着き さえ すれば 、 とにかく 安心 が できる のである 。 ||ふもと||おりよう|||じんか|||しょ||つき||||あんしん||| ||foot of||||||||||||||||| No matter which foothill I descend to, as long as I reach a place with houses, I can at least feel safe.