×

Utilizziamo i cookies per contribuire a migliorare LingQ. Visitando il sito, acconsenti alla nostra politica dei cookie.


image

三姉妹探偵団 2 キャンパス篇, 三姉妹探偵団(2) Chapter 01

三姉妹探偵団(2) Chapter 01

1 頼りない 幹事

「 私 、 当っちゃった 」 と 、 佐々 本 綾子 は 言った 。 二 人 の 妹 は 、 ちょっと 顔 を 見合わせ 、 それ から 同時に 口 を 開いた 。

「 悪い もの でも 食べた の ?

「 いくら 当った の ?

── 前 の セリフ は 次女 の 夕 里子 、 後 の セリフ は 三女 の 珠美 である 。

「 いや ねえ 、 一 人 ずつ 言って よ 」

と 、 綾子 は 笑った 。

一 人 ずつ 言わ れたって 、 綾子 に は よく 呑み込め ない こと が ある のだ 。 まして や 二 人 なんて ……。

「 当ったって 言う から 、 てっきり 古い もの 食べて お腹 こわした の か と ──」 次女 の 夕 里子 は 、 食べ 盛り の 十八 歳 らしく 、 食べ物 の 方 に 連想 が 働いた らしい 。 「 今 、 夕 ご飯 ちゃん と 食べた じゃ ない の 」

と 、 綾子 は 言った 。

「 やっぱり 宝くじ に 当った の ?

私 、 すぐ そう 思った ! 三女 珠美 十五 歳 。

中学 三 年生 である 。 もちろん 、 こちら も 食べ 盛り で は ある のだ が 、 思い切り 食べる の は 、 他人 の 財布 で 支払わ れる とき に 限られて いた 。 「 珠美ったら 、 すぐ お 金 の こと ばっかり 」 と 、 夕 里子 が ため息 を ついて 、 妹 を 見る 。 「 もて ない よ 、 そんな こと じゃ 」

「 お 金 を 馬鹿に する 者 は 、 お 金 に 泣く の よ 」

と 、 珠美 は 言い返した 。

「 待って よ 」

と 、 綾子 が 止め に 入る 。

「 どっち も 外れ 」

「 じゃ 、 歩いて て 棒 に 当った んだ 」

「 犬 じゃ ない わ よ 、 私 」

二十 歳 の 綾子 を 頭 に 、 夕 里子 、 珠美 の 三 人 姉妹 。

── 夜 八 時 半 、 ちょっと 遅 目 の 夕食 を 、 成田 空港 から の 帰り 、 都心 の ホテル で 取って いる ところ である 。

父親 、 佐々 本 周平 は 今日 から 半月 の アメリカ 出張 な のだ 。

どうせ 明日 は 日曜日 と いう ので 、 成田 まで 見送り に 行って 、 その 帰り 、 と いう わけである 。

三 人 の 母親 は 六 年 前 に 死んで 、 以後 、 父 と 三 人 の 娘 と で 暮して 来た 。

当然 、 長女 の 綾子 が 母親 代り ── と いう の が 普通だ が 、 人 並外れて 気 の 弱い 綾子 に は とても 無理な 役目 だった 。

そこ で 人 並外れて しっかり者 の (?

) 次女 、 夕 里子 が 、 一家 の 主婦 役 を 立派に つとめて いた 。 ── ただ 、 経済 的 側面 だけ は 、「 先天 的 ケチ 」 の 三女 珠美 が 頑張って いる 。

「 ちょっと !

と 、 珠美 は ウエイトレス を 呼んだ 。

「 コーヒー 、 おかわり 下さい 」

「 珠美 、 三 杯 目 よ 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 体 に 悪い よ 」

「 おかわり 自由な のに 、 二 杯 しか 飲ま なかったら 、 後 で 悔しくて 眠れ なく なる 」

「── 呆れた 」

夕 里子 は 首 を 振った 。

「 それにしても …… 何も なきゃ いい けど ね 」

「 どういう 意味 ?

と 、 綾子 が 訊 いた 。

「 パパ が 出張 して る と 、 ろくな こと が ない んだ もん 」

「 この前 だけ じゃ ない の 」

「 あんな こと 、 一 度 で 沢山だ わ 」

そう 。

父親 が いない 間 に 、 この 三 人 姉妹 、 一 度 ひどい 目 に あって いる のである 。 だが 、 それ は それ と して ──。

「 じゃ 、 一体 何 に 当った の よ ?

と 、 珠美 が じれった そうに 訊 いた 。

綾子 は 猫舌 な ので 、 熱い コーヒー を こわごわ すすって 、

「 え ?

どうした の ?

夕 里子 、 車 に でも 当て 逃げ さ れた の ? ── こう だ から ね 、 姉さん は 、 と 夕 里子 は ため息 を ついた 。

いつも の こと と は いえ 、 何とも 疲れる のである 。

「 今 、 自分 で 言った じゃ ない 。

何 か に 当ったって 」 「 そう だっけ ? 綾子 は 、 しばし 考えて 、「 ああ 、 そう か 。

思い出した 」

「 早い じゃ ない !

綾子 姉ちゃん に しちゃ 、 その 日 の 内 に 思い出す なんて 上出来 よ 」

と 、 珠美 が からかった 。

「 少し 長女 を 尊敬 し なさい 」

と 、 綾子 は 、 てんで 迫力 の ない 目つき で 珠美 を にらんだ 。

「 しかも 、 幹事 さん な んだ から ね 」

「── カンジ ?

と 、 夕 里子 が 眉 を ひそめた 。

「 何 か やる とき に 、 中心 に なって やる 『 幹事 』 の こと ? 「 そう よ 。

偉い んだ から ね 」

綾子 は 少し 胸 を 張った 。

「 お 姉さん が 幹事 、 ねえ ……」

「 分った 。 『 泣き虫 選手 権 大会 』 で も やる んでしょ 」

先天 的 多 涙 症 ── なんて の が ある の か どう か 知ら ない が 、 ともかく 人 並外れた 泣き虫 の 綾子 を からかって いる のだ 。

「 冗談 じゃ ない わ 。

れっきとした 、 大学 文化 祭 の 幹事 な んだ から 」

「 お 姉さん が ?

夕 里子 は 目 を 丸く した 。

「 驚いた ! 「 じゃ 、 もう だめだ 」

と 珠美 。

「 文化 祭 は 中止 だ よ 」

「 失礼 ねえ 。

── それ に 私 は 、 全部 の 幹事って わけじゃ ない もん 。 イベント 係 な の 」

「 へえ 。

でも 、 それ が 何で 『 当った 』 わけ ? 「 くじ 引いた の 。

そ したら 当って ね 」

「 そんな こと だ と 思った 」

夕 里子 も やっと 納得 した 。

そう で も なきゃ 、 綾子 を 幹事 に 選ぶ 物好き が いる わけない 。

「 だけど ……」

と 珠美 が ちょっと 考えて 、「 綾子 姉ちゃん の 大学 、 文化 祭って 来週 じゃ なかった ?

十一 月 の 三 日 から だ よ ね 」

「 うん 、 そう よ 」

「 今ごろ 幹事 決めて 、 間に合わ ない んじゃ ない の ?

「 馬鹿 ねえ 」

と 、 夕 里子 が 笑って 言った 。

「 来年 の 幹事 よ 。

決って る じゃ ない の 。 それ ぐらい 前 から で なきゃ 、 大学 の 文化 祭 なんて やれ ない の よ 」

「 あら 、 どうして ?

と 、 綾子 が 言った 。

夕 里子 は 、 少し 黙って いた が 、

「── お 姉さん 、 まさか ── 今年 の 幹事 を 、 今 、 引き受けた の ?

「 そう よ 。

だって 一 週間 ある じゃ ない 」

と 、 綾子 は 平然と して いる 。

「 だけど ── ねえ 、 何 を やる の ?

イベント 係って ……」

「 あの ね 、 何だか ほら ── よく コンサート やる じゃ ない 、 よく TV に 出る ような タレント と か 歌手 呼んで 。

あれ よ 」

「 だって ── もう プログラム 出来て んでしょ ?

だったら 決って る んじゃ ない の ? 「 当日 の 世話だ よ 、 きっと 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 それ も ある んだ けど ね 」

と 、 綾子 は 肯 いて 、「 何だか 、 役員 の 話 じゃ ── ああ 、 役員って 、 幹事 より 偉い の 。 何だか 逆 みたいだ けど ね 」

「 そんな こと いい わ よ 」

「 うん 。

── 何 だっけ 。 ── あ 、 そうだ 。 本当 は ね 、 何とか いう ロック シンガー が 来る こと に なって たん だって 。 そ したら 二 、 三 日 前 に 、 捕まっちゃった んですって 。 大麻 か 何 か で 。 それ で 急いで 他の 人 を 捜さ なきゃ 、って いう んで ……」 夕 里子 は 目 を 丸く して 、 「 今 から 捜す の ? お 姉さん が ?

「 うん 。

だって 、 簡単じゃ ない の 」

「 どう やって 捜す つもり ?

「 メモ 、 もらって 来た もん 。

あっちこっち の プロダクション の 電話 番号 の 。 ── ここ へ 電話 して 、 十一 月 三 日 に 、 何とか さん に 出て ほしい んです けどって 頼めば いい んでしょ 。 後 は 、 その 日 に 、 楽屋 で お茶 でも 出して ……」

「 一 週間 しか ない の よ !

しかも ── 三 日 なんて 、 どこ の 大学 だって 、たいてい は 文化 祭 やって て 、 みんな 、 人気 の ある タレント を 呼んで て ……。 今 から 、 そんな こと 頼んで 、 出て くれる 人 、 いる と 思う の ? 夕 里子 の 言葉 に も 、 綾子 は 一向に 動じる 様子 は なく 、

「 だって 、 歌手って 、 歌 を 歌う の が 仕事 でしょ ? と やって いる 。

夕 里子 は 、 ため息 を ついて 、

「── また 甘い もの 食べ たく なった 」

と 言った 。

「 私 も ……」

珍しく 、 珠美 も 同調 した 。

── 綾子 が トイレ に 立つ と 、 夕 里子 が 言った 。

「 どう する ?

「 どう する 、って 、 何 よ 」 珠美 が 肩 を すくめる 。 「 どうにも な んな い じゃ ない 。 私 、 綾子 姉ちゃん の 大学 に 通って る わけじゃ ない んだ から 」

「 分って る けど 、 あれ じゃ 、 お 姉さん 、 まるで だめ よ 」 「 そりゃ そう ね 。 ああ も 世間知らず と は 思わ なかった 」

「 珠美 、 誰 か 知ら ない ?

「 誰 か 、って ? 「 頼め そうな 人 よ 。

お 姉さん の 文化 祭 に 出て くれる 人 」

「 私 が どうして 歌手 なんて 知って る の ?

「 本人 を 知ら なくて も 、 その 友だち と か 、 親類 と か 、 プロダクション の 人 と か ──」

「 残念でした 。

いれば 、 見逃しゃ し ない わ 」

「 そう ね 。

あんた なら 」

夕 里子 は 首 を 振った 。

ケーキ が 来て 、 夕 里子 は フォーク を 手 に 取った 。

「 だけど さ 、 珠美 ……」

「 うん ?

「 お 姉さん が 、 何も 分 ん ないで 引き受けちゃった の は 、 そりゃ 良く ない けど 、 でも 可哀そうじゃ ない 。 みんな に 責任 取れ と か 言われて ── そう か 、 分った ! 夕 里子 は 肯 いた 。

「 どうした の ?

「 どうして お 姉さん に お 鉢 が 回った の か 、 よ 。

── どうにも な んな いって こと が 、 役員 たち に も 分って る の よ 。 だから 、 急いで 、 わけ の 分 ら ない お 姉さん を 担当 の 幹事 に して 、 責任 逃れ する つもりな んだ わ ! 「 なるほど ね 」

珠美 は ゆっくり と 肯 いて 、「 うまい 手 ね 。

私 も やろうっと 」 「 お人好しの お 姉さん を 、 くじ で 当った と か 言って 、 うまく 騙して 押しつけちゃった んだ わ 、 きっと 。 ── 困った なあ 」

「 いい じゃ ない 。

綾子 姉ちゃん に は 、 いい 勉強 に なる よ 」

「 あんた 、 冷たい の ね 」

「 もう 二十 歳 よ 、 綾子 姉ちゃん 。

世の中 、 そう 甘 か ないって こと も 知った 方 が いい んだ よ 」 珠美 は あくまで クール である 。 「 分って る 。 お 姉さん だって 、 あと 二 年 すりゃ 卒業 で 、 あと 五 、 六 年 すりゃ お 嫁 に 行く わ 。 ── でも ね 、 人 に は 持って 生れた 性格って もん が ある の 。 お 姉さん は 、 いく つ に なって も きっと あの まま よ 。 それ が いい ところ なんだ から 。 そう 思わ ない ? 「 うん ……」

珠美 は 、 唇 を キュッ と 曲げて 、「 まあ ── 分 ん ない こと ない けど 。

でも 、 どう やって 探す の ? そんな つて なんて 、 持って ない よ 」

「 何 か 考えて よ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 私 の お 小づかい 、 今月 分 を 半分 あげる から 」

「 任し といて 」

珠美 は ガラッ と 変った 。

「 じゃ 、 手付け に 、 まず 二千 円 」

「 ガメツイ んだ から !

ため息 を つき ながら 、 夕 里子 は 財布 を 取り出した ……。

── トイレ から 戻る と 、 綾子 は 、

「 ねえ 、 大学 で 潰れ そうな 所 、 ない かしら ?

と 言った 。

「 潰れ そうな 大学 ?

「 今 、 トイレ で 考えて た の 。

どこ か の 大学 が さ 、 もし 倒産 したら 、 文化 祭 も 中止 に なる じゃ ない 。 そ したら 、 そこ で 呼んだ 歌手 も 手 が 空く でしょ ? ね 、 いい 考え だ と 思わ ない ? 夕 里子 は 、 返事 を する 元気 も なく 、 ただ かすかに 笑って 見せる の が 精一杯 だった ……。


三姉妹探偵団(2) Chapter 01 みっ しまい たんてい だん|chapter

1 頼りない 幹事 たよりない|かんじ 1 Unreliable secretary

「 私 、 当っちゃった 」 と 、 佐々 本 綾子 は 言った 。 わたくし|あたっちゃ った||ささ|ほん|あやこ||いった 二 人 の 妹 は 、 ちょっと 顔 を 見合わせ 、 それ から 同時に 口 を 開いた 。 ふた|じん||いもうと|||かお||みあわせ|||どうじに|くち||あいた

「 悪い もの でも 食べた の ? わるい|||たべた|

「 いくら 当った の ? |あたった|

── 前 の セリフ は 次女 の 夕 里子 、 後 の セリフ は 三女 の 珠美 である 。 ぜん||せりふ||じじょ||ゆう|さとご|あと||せりふ||さんじょ||たまみ|

「 いや ねえ 、 一 人 ずつ 言って よ 」 ||ひと|じん||いって|

と 、 綾子 は 笑った 。 |あやこ||わらった

一 人 ずつ 言わ れたって 、 綾子 に は よく 呑み込め ない こと が ある のだ 。 ひと|じん||いわ|れた って|あやこ||||のみこめ||||| まして や 二 人 なんて ……。 ||ふた|じん|

「 当ったって 言う から 、 てっきり 古い もの 食べて お腹 こわした の か と ──」 次女 の 夕 里子 は 、 食べ 盛り の 十八 歳 らしく 、 食べ物 の 方 に 連想 が 働いた らしい 。 あたった って|いう|||ふるい||たべて|おなか|||||じじょ||ゆう|さとご||たべ|さかり||じゅうはち|さい||たべもの||かた||れんそう||はたらいた| 「 今 、 夕 ご飯 ちゃん と 食べた じゃ ない の 」 いま|ゆう|ごはん|||たべた|||

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 やっぱり 宝くじ に 当った の ? |たからくじ||あたった|

私 、 すぐ そう 思った ! わたくし|||おもった 三女 珠美 十五 歳 。 さんじょ|たまみ|じゅうご|さい

中学 三 年生 である 。 ちゅうがく|みっ|ねんせい| もちろん 、 こちら も 食べ 盛り で は ある のだ が 、 思い切り 食べる の は 、 他人 の 財布 で 支払わ れる とき に 限られて いた 。 |||たべ|さかり||||||おもいきり|たべる|||たにん||さいふ||しはらわ||||かぎら れて| 「 珠美ったら 、 すぐ お 金 の こと ばっかり 」 と 、 夕 里子 が ため息 を ついて 、 妹 を 見る 。 たまみ ったら|||きむ|||||ゆう|さとご||ためいき|||いもうと||みる 「 もて ない よ 、 そんな こと じゃ 」

「 お 金 を 馬鹿に する 者 は 、 お 金 に 泣く の よ 」 |きむ||ばかに||もの|||きむ||なく||

と 、 珠美 は 言い返した 。 |たまみ||いいかえした

「 待って よ 」 まって|

と 、 綾子 が 止め に 入る 。 |あやこ||とどめ||はいる

「 どっち も 外れ 」 ||はずれ

「 じゃ 、 歩いて て 棒 に 当った んだ 」 |あるいて||ぼう||あたった|

「 犬 じゃ ない わ よ 、 私 」 いぬ|||||わたくし

二十 歳 の 綾子 を 頭 に 、 夕 里子 、 珠美 の 三 人 姉妹 。 にじゅう|さい||あやこ||あたま||ゆう|さとご|たまみ||みっ|じん|しまい

── 夜 八 時 半 、 ちょっと 遅 目 の 夕食 を 、 成田 空港 から の 帰り 、 都心 の ホテル で 取って いる ところ である 。 よ|やっ|じ|はん||おそ|め||ゆうしょく||なりた|くうこう|||かえり|としん||ほてる||とって|||

父親 、 佐々 本 周平 は 今日 から 半月 の アメリカ 出張 な のだ 。 ちちおや|ささ|ほん|しゅうへい||きょう||はんつき||あめりか|しゅっちょう||

どうせ 明日 は 日曜日 と いう ので 、 成田 まで 見送り に 行って 、 その 帰り 、 と いう わけである 。 |あした||にちようび||||なりた||みおくり||おこなって||かえり|||

三 人 の 母親 は 六 年 前 に 死んで 、 以後 、 父 と 三 人 の 娘 と で 暮して 来た 。 みっ|じん||ははおや||むっ|とし|ぜん||しんで|いご|ちち||みっ|じん||むすめ|||くらして|きた

当然 、 長女 の 綾子 が 母親 代り ── と いう の が 普通だ が 、 人 並外れて 気 の 弱い 綾子 に は とても 無理な 役目 だった 。 とうぜん|ちょうじょ||あやこ||ははおや|かわり|||||ふつうだ||じん|なみはずれて|き||よわい|あやこ||||むりな|やくめ|

そこ で 人 並外れて しっかり者 の (? ||じん|なみはずれて|しっかりもの|

) 次女 、 夕 里子 が 、 一家 の 主婦 役 を 立派に つとめて いた 。 じじょ|ゆう|さとご||いっか||しゅふ|やく||りっぱに|| ── ただ 、 経済 的 側面 だけ は 、「 先天 的 ケチ 」 の 三女 珠美 が 頑張って いる 。 |けいざい|てき|そくめん|||せんてん|てき|||さんじょ|たまみ||がんばって|

「 ちょっと !

と 、 珠美 は ウエイトレス を 呼んだ 。 |たまみ||||よんだ

「 コーヒー 、 おかわり 下さい 」 こーひー||ください

「 珠美 、 三 杯 目 よ 」 たまみ|みっ|さかずき|め|

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 体 に 悪い よ 」 からだ||わるい|

「 おかわり 自由な のに 、 二 杯 しか 飲ま なかったら 、 後 で 悔しくて 眠れ なく なる 」 |じゆうな||ふた|さかずき||のま||あと||くやしくて|ねむれ||

「── 呆れた 」 あきれた

夕 里子 は 首 を 振った 。 ゆう|さとご||くび||ふった

「 それにしても …… 何も なきゃ いい けど ね 」 |なにも||||

「 どういう 意味 ? |いみ

と 、 綾子 が 訊 いた 。 |あやこ||じん|

「 パパ が 出張 して る と 、 ろくな こと が ない んだ もん 」 ぱぱ||しゅっちょう|||||||||

「 この前 だけ じゃ ない の 」 この まえ||||

「 あんな こと 、 一 度 で 沢山だ わ 」 ||ひと|たび||たくさんだ|

そう 。

父親 が いない 間 に 、 この 三 人 姉妹 、 一 度 ひどい 目 に あって いる のである 。 ちちおや|||あいだ|||みっ|じん|しまい|ひと|たび||め|||| だが 、 それ は それ と して ──。

「 じゃ 、 一体 何 に 当った の よ ? |いったい|なん||あたった||

と 、 珠美 が じれった そうに 訊 いた 。 |たまみ|||そう に|じん|

綾子 は 猫舌 な ので 、 熱い コーヒー を こわごわ すすって 、 あやこ||ねこじた|||あつい|こーひー|||

「 え ?

どうした の ?

夕 里子 、 車 に でも 当て 逃げ さ れた の ? ゆう|さとご|くるま|||あて|にげ||| ── こう だ から ね 、 姉さん は 、 と 夕 里子 は ため息 を ついた 。 ||||ねえさん|||ゆう|さとご||ためいき||

いつも の こと と は いえ 、 何とも 疲れる のである 。 ||||||なんとも|つかれる|

「 今 、 自分 で 言った じゃ ない 。 いま|じぶん||いった||

何 か に 当ったって 」 「 そう だっけ ? なん|||あたった って||だ っけ 綾子 は 、 しばし 考えて 、「 ああ 、 そう か 。 あやこ|||かんがえて|||

思い出した 」 おもいだした

「 早い じゃ ない ! はやい||

綾子 姉ちゃん に しちゃ 、 その 日 の 内 に 思い出す なんて 上出来 よ 」 あやこ|ねえちゃん||||ひ||うち||おもいだす||じょうでき|

と 、 珠美 が からかった 。 |たまみ||

「 少し 長女 を 尊敬 し なさい 」 すこし|ちょうじょ||そんけい||

と 、 綾子 は 、 てんで 迫力 の ない 目つき で 珠美 を にらんだ 。 |あやこ|||はくりょく|||めつき||たまみ||

「 しかも 、 幹事 さん な んだ から ね 」 |かんじ|||||

「── カンジ ?

と 、 夕 里子 が 眉 を ひそめた 。 |ゆう|さとご||まゆ||

「 何 か やる とき に 、 中心 に なって やる 『 幹事 』 の こと ? なん|||||ちゅうしん||||かんじ|| 「 そう よ 。

偉い んだ から ね 」 えらい|||

綾子 は 少し 胸 を 張った 。 あやこ||すこし|むね||はった

「 お 姉さん が 幹事 、 ねえ ……」 |ねえさん||かんじ|

「 分った 。 ぶん った 『 泣き虫 選手 権 大会 』 で も やる んでしょ 」 なきむし|せんしゅ|けん|たいかい||||

先天 的 多 涙 症 ── なんて の が ある の か どう か 知ら ない が 、 ともかく 人 並外れた 泣き虫 の 綾子 を からかって いる のだ 。 せんてん|てき|おお|なみだ|しょう|||||||||しら||||じん|なみはずれた|なきむし||あやこ||||

「 冗談 じゃ ない わ 。 じょうだん|||

れっきとした 、 大学 文化 祭 の 幹事 な んだ から 」 |だいがく|ぶんか|さい||かんじ|||

「 お 姉さん が ? |ねえさん|

夕 里子 は 目 を 丸く した 。 ゆう|さとご||め||まるく|

「 驚いた ! おどろいた 「 じゃ 、 もう だめだ 」

と 珠美 。 |たまみ

「 文化 祭 は 中止 だ よ 」 ぶんか|さい||ちゅうし||

「 失礼 ねえ 。 しつれい|

── それ に 私 は 、 全部 の 幹事って わけじゃ ない もん 。 ||わたくし||ぜんぶ||かんじ って||| イベント 係 な の 」 いべんと|かかり||

「 へえ 。

でも 、 それ が 何で 『 当った 』 わけ ? |||なんで|あたった| 「 くじ 引いた の 。 |ひいた|

そ したら 当って ね 」 ||あたって|

「 そんな こと だ と 思った 」 ||||おもった

夕 里子 も やっと 納得 した 。 ゆう|さとご|||なっとく|

そう で も なきゃ 、 綾子 を 幹事 に 選ぶ 物好き が いる わけない 。 ||||あやこ||かんじ||えらぶ|ものずき|||

「 だけど ……」

と 珠美 が ちょっと 考えて 、「 綾子 姉ちゃん の 大学 、 文化 祭って 来週 じゃ なかった ? |たまみ|||かんがえて|あやこ|ねえちゃん||だいがく|ぶんか|まつって|らいしゅう||

十一 月 の 三 日 から だ よ ね 」 じゅういち|つき||みっ|ひ||||

「 うん 、 そう よ 」

「 今ごろ 幹事 決めて 、 間に合わ ない んじゃ ない の ? いまごろ|かんじ|きめて|まにあわ||||

「 馬鹿 ねえ 」 ばか|

と 、 夕 里子 が 笑って 言った 。 |ゆう|さとご||わらって|いった

「 来年 の 幹事 よ 。 らいねん||かんじ|

決って る じゃ ない の 。 けっ って|||| それ ぐらい 前 から で なきゃ 、 大学 の 文化 祭 なんて やれ ない の よ 」 ||ぜん||||だいがく||ぶんか|さい|||||

「 あら 、 どうして ?

と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった

夕 里子 は 、 少し 黙って いた が 、 ゆう|さとご||すこし|だまって||

「── お 姉さん 、 まさか ── 今年 の 幹事 を 、 今 、 引き受けた の ? |ねえさん||ことし||かんじ||いま|ひきうけた|

「 そう よ 。

だって 一 週間 ある じゃ ない 」 |ひと|しゅうかん|||

と 、 綾子 は 平然と して いる 。 |あやこ||へいぜんと||

「 だけど ── ねえ 、 何 を やる の ? ||なん|||

イベント 係って ……」 いべんと|かかって

「 あの ね 、 何だか ほら ── よく コンサート やる じゃ ない 、 よく TV に 出る ような タレント と か 歌手 呼んで 。 ||なんだか|||こんさーと|||||tv||でる||たれんと|||かしゅ|よんで

あれ よ 」

「 だって ── もう プログラム 出来て んでしょ ? ||ぷろぐらむ|できて|

だったら 決って る んじゃ ない の ? |けっ って|||| 「 当日 の 世話だ よ 、 きっと 」 とうじつ||せわだ||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 それ も ある んだ けど ね 」

と 、 綾子 は 肯 いて 、「 何だか 、 役員 の 話 じゃ ── ああ 、 役員って 、 幹事 より 偉い の 。 |あやこ||こう||なんだか|やくいん||はなし|||やくいん って|かんじ||えらい| 何だか 逆 みたいだ けど ね 」 なんだか|ぎゃく|||

「 そんな こと いい わ よ 」

「 うん 。

── 何 だっけ 。 なん|だ っけ ── あ 、 そうだ 。 |そう だ 本当 は ね 、 何とか いう ロック シンガー が 来る こと に なって たん だって 。 ほんとう|||なんとか||ろっく|しんがー||くる||||| そ したら 二 、 三 日 前 に 、 捕まっちゃった んですって 。 ||ふた|みっ|ひ|ぜん||つかまっちゃ った|んです って 大麻 か 何 か で 。 たいま||なん|| それ で 急いで 他の 人 を 捜さ なきゃ 、って いう んで ……」 夕 里子 は 目 を 丸く して 、 「 今 から 捜す の ? ||いそいで|たの|じん||さがさ|||||ゆう|さとご||め||まるく||いま||さがす| お 姉さん が ? |ねえさん|

「 うん 。

だって 、 簡単じゃ ない の 」 |かんたんじゃ||

「 どう やって 捜す つもり ? ||さがす|

「 メモ 、 もらって 来た もん 。 めも||きた|

あっちこっち の プロダクション の 電話 番号 の 。 ||||でんわ|ばんごう| ── ここ へ 電話 して 、 十一 月 三 日 に 、 何とか さん に 出て ほしい んです けどって 頼めば いい んでしょ 。 ||でんわ||じゅういち|つき|みっ|ひ||なんとか|||でて|||けど って|たのめば|| 後 は 、 その 日 に 、 楽屋 で お茶 でも 出して ……」 あと|||ひ||がくや||おちゃ||だして

「 一 週間 しか ない の よ ! ひと|しゅうかん||||

しかも ── 三 日 なんて 、 どこ の 大学 だって 、たいてい は 文化 祭 やって て 、 みんな 、 人気 の ある タレント を 呼んで て ……。 |みっ|ひ||||だいがく||||ぶんか|さい||||にんき|||たれんと||よんで| 今 から 、 そんな こと 頼んで 、 出て くれる 人 、 いる と 思う の ? いま||||たのんで|でて||じん|||おもう| 夕 里子 の 言葉 に も 、 綾子 は 一向に 動じる 様子 は なく 、 ゆう|さとご||ことば|||あやこ||いっこうに|どうじる|ようす||

「 だって 、 歌手って 、 歌 を 歌う の が 仕事 でしょ ? |かしゅ って|うた||うたう|||しごと| と やって いる 。

夕 里子 は 、 ため息 を ついて 、 ゆう|さとご||ためいき||

「── また 甘い もの 食べ たく なった 」 |あまい||たべ||

と 言った 。 |いった

「 私 も ……」 わたくし|

珍しく 、 珠美 も 同調 した 。 めずらしく|たまみ||どうちょう|

── 綾子 が トイレ に 立つ と 、 夕 里子 が 言った 。 あやこ||といれ||たつ||ゆう|さとご||いった

「 どう する ?

「 どう する 、って 、 何 よ 」 珠美 が 肩 を すくめる 。 |||なん||たまみ||かた|| 「 どうにも な んな い じゃ ない 。 私 、 綾子 姉ちゃん の 大学 に 通って る わけじゃ ない んだ から 」 わたくし|あやこ|ねえちゃん||だいがく||かよって|||||

「 分って る けど 、 あれ じゃ 、 お 姉さん 、 まるで だめ よ 」 「 そりゃ そう ね 。 ぶん って||||||ねえさん|||||| ああ も 世間知らず と は 思わ なかった 」 ||せけんしらず|||おもわ|

「 珠美 、 誰 か 知ら ない ? たまみ|だれ||しら|

「 誰 か 、って ? だれ|| 「 頼め そうな 人 よ 。 たのめ|そう な|じん|

お 姉さん の 文化 祭 に 出て くれる 人 」 |ねえさん||ぶんか|さい||でて||じん

「 私 が どうして 歌手 なんて 知って る の ? わたくし|||かしゅ||しって||

「 本人 を 知ら なくて も 、 その 友だち と か 、 親類 と か 、 プロダクション の 人 と か ──」 ほんにん||しら||||ともだち|||しんるい|||||じん||

「 残念でした 。 ざんねんでした

いれば 、 見逃しゃ し ない わ 」 |みのがしゃ|||

「 そう ね 。

あんた なら 」

夕 里子 は 首 を 振った 。 ゆう|さとご||くび||ふった

ケーキ が 来て 、 夕 里子 は フォーク を 手 に 取った 。 けーき||きて|ゆう|さとご||ふぉーく||て||とった

「 だけど さ 、 珠美 ……」 ||たまみ

「 うん ?

「 お 姉さん が 、 何も 分 ん ないで 引き受けちゃった の は 、 そりゃ 良く ない けど 、 でも 可哀そうじゃ ない 。 |ねえさん||なにも|ぶん|||ひきうけちゃ った||||よく||||かわいそうじゃ| みんな に 責任 取れ と か 言われて ── そう か 、 分った ! ||せきにん|とれ|||いわ れて|||ぶん った 夕 里子 は 肯 いた 。 ゆう|さとご||こう|

「 どうした の ?

「 どうして お 姉さん に お 鉢 が 回った の か 、 よ 。 ||ねえさん|||はち||まわった|||

── どうにも な んな いって こと が 、 役員 たち に も 分って る の よ 。 ||||||やくいん||||ぶん って||| だから 、 急いで 、 わけ の 分 ら ない お 姉さん を 担当 の 幹事 に して 、 責任 逃れ する つもりな んだ わ ! |いそいで|||ぶん||||ねえさん||たんとう||かんじ|||せきにん|のがれ|||| 「 なるほど ね 」

珠美 は ゆっくり と 肯 いて 、「 うまい 手 ね 。 たまみ||||こう|||て|

私 も やろうっと 」 「 お人好しの お 姉さん を 、 くじ で 当った と か 言って 、 うまく 騙して 押しつけちゃった んだ わ 、 きっと 。 わたくし||やろう っと|おひとよしの||ねえさん||||あたった|||いって||だまして|おしつけちゃ った||| ── 困った なあ 」 こまった|

「 いい じゃ ない 。

綾子 姉ちゃん に は 、 いい 勉強 に なる よ 」 あやこ|ねえちゃん||||べんきょう|||

「 あんた 、 冷たい の ね 」 |つめたい||

「 もう 二十 歳 よ 、 綾子 姉ちゃん 。 |にじゅう|さい||あやこ|ねえちゃん

世の中 、 そう 甘 か ないって こと も 知った 方 が いい んだ よ 」 珠美 は あくまで クール である 。 よのなか||あま||ない って|||しった|かた|||||たまみ|||| 「 分って る 。 ぶん って| お 姉さん だって 、 あと 二 年 すりゃ 卒業 で 、 あと 五 、 六 年 すりゃ お 嫁 に 行く わ 。 |ねえさん|||ふた|とし||そつぎょう|||いつ|むっ|とし|||よめ||いく| ── でも ね 、 人 に は 持って 生れた 性格って もん が ある の 。 ||じん|||もって|うまれた|せいかく って|||| お 姉さん は 、 いく つ に なって も きっと あの まま よ 。 |ねえさん|||||||||| それ が いい ところ なんだ から 。 そう 思わ ない ? |おもわ| 「 うん ……」

珠美 は 、 唇 を キュッ と 曲げて 、「 まあ ── 分 ん ない こと ない けど 。 たまみ||くちびる||||まげて||ぶん|||||

でも 、 どう やって 探す の ? |||さがす| そんな つて なんて 、 持って ない よ 」 |||もって||

「 何 か 考えて よ 」 なん||かんがえて|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 私 の お 小づかい 、 今月 分 を 半分 あげる から 」 わたくし|||こづかい|こんげつ|ぶん||はんぶん||

「 任し といて 」 まかし|

珠美 は ガラッ と 変った 。 たまみ||||かわった

「 じゃ 、 手付け に 、 まず 二千 円 」 |てつけ|||にせん|えん

「 ガメツイ んだ から !

ため息 を つき ながら 、 夕 里子 は 財布 を 取り出した ……。 ためいき||||ゆう|さとご||さいふ||とりだした

── トイレ から 戻る と 、 綾子 は 、 といれ||もどる||あやこ|

「 ねえ 、 大学 で 潰れ そうな 所 、 ない かしら ? |だいがく||つぶれ|そう な|しょ||

と 言った 。 |いった

「 潰れ そうな 大学 ? つぶれ|そう な|だいがく

「 今 、 トイレ で 考えて た の 。 いま|といれ||かんがえて||

どこ か の 大学 が さ 、 もし 倒産 したら 、 文化 祭 も 中止 に なる じゃ ない 。 |||だいがく||||とうさん||ぶんか|さい||ちゅうし|||| そ したら 、 そこ で 呼んだ 歌手 も 手 が 空く でしょ ? ||||よんだ|かしゅ||て||あく| ね 、 いい 考え だ と 思わ ない ? ||かんがえ|||おもわ| 夕 里子 は 、 返事 を する 元気 も なく 、 ただ かすかに 笑って 見せる の が 精一杯 だった ……。 ゆう|さとご||へんじ|||げんき|||||わらって|みせる|||せいいっぱい|