×

Utilizziamo i cookies per contribuire a migliorare LingQ. Visitando il sito, acconsenti alla nostra politica dei cookie.


image

三姉妹探偵団 3 珠美・初恋篇, 三姉妹探偵団 3 Chapter 10

三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 10

10 忙しい 迷子

ドア を ノック する 音 。

「 起きて る かい ?

と 、 小 峰 の 秘書 、 井口 の 声 が した 。

「 入る よ 」

鍵 が 回る 音 が して 、 ドア が 開く 。

井口 は 、 中 を 見 回して 、 ちょっと 眉 を ひそめた 。

ベッド が 高く もり上って 、 毛布 を スッポリ かぶって 眠って いる ようだ 。

「 おいおい 。

それ じゃ ドレス が し わく ちゃ に な っ ち ま う じゃ ない か 。 ── 起きて くれ なきゃ 困る んだ 」

井口 が 部屋 の 中 へ 入って 来る と 、 ドア の 陰 に 隠れて いた 珠美 は 、 手 に して いた 重い 青銅 の 花びん を 高々 と 持ち 上げて ──。

両手 を 一杯に 上 に 上げて いる とき 、 わき の 下 を くすぐら れた から たまら ない 。

コチョコチョ 、 と やられて 、

「 キャッ !

珠美 は 声 を 上げた 。

花びん は 空しく 床 に 落ちて 、 ゴーン 、 と 除夜 の 鐘 みたいな 音 を 立てた 。

「 だめ よ 、 用心 し なきゃ 」

入って 来た の は 、 草間 由美子 だった 。

「 私 が い なかったら 、 今ごろ あなた 、 のびて た わ よ 」

「 やれやれ 」

井口 は 首 を 振って 、 珠美 を 見る と 、「 手間 の かかる 子 だ 」

「 人 を か っ さ ら っと いて 、 何 よ !

と 、 珠美 は かみついた 。

「 私 に は 、 優秀な 刑事 さん の 友だち が いる んだ から ね 」

「 警視 総監 が 友だち だって 構わ ない よ 」

と 、 井口 は まるで 本気に して い ない 様子 で 言った 。

「 さあ 行こう 」

「 どこ へ 連れて く の ?

デパート の オモチャ 売場 に 並べる 気 ? 「 面白い 子 ね 、 あなた って 」

と 、 草間 由美子 が 笑って 、「 飼 っと いたら 、 飽き ない でしょう ね 」

「 犬 と 間違え ないで よ 」

と 、 珠美 は ふくれ っ つ ら で 言った 。

井口 と 草間 由美子 、 二 人 に 挟ま れて いる ので は 、 逃げ 出す わけに も いか ず 、 珠美 は 仕方なく 歩き 出した 。

廊下 。

── やたら と 長く 、 暗い 。

「 ここ 、 どこ ?

「 地下 な の よ 」

と 、 草間 由美子 が 言った 。

そう か 。

それ で 部屋 に も 窓 が 一 つ も なかった んだ 。

「 こっち よ 」

と 、 促さ れて 、 廊下 を 曲って 行く と 、 突き当り 。

先 が ない 。

が 、 井口 が どこ やら 壁 の 一部 を 押す と 、 正面 の 壁 が スルスル と 左右 へ 開いた 。

── エレベーター な のだ !

珠美 も これ に は びっくり した 。

「 さ 、 行 くわ よ 」

と 、 促さ れて 中 へ ……。

「 地下 は 食料 品 売場 じゃ ない の ?

と 、 珠美 は 言った 。

エレベーター が 静かに 上って 行く 。

「 三 階 まで しか ない の 」

「 そりゃ そう だ よ 。

個人 の 屋敷 だ から な 」

扉 が 開く と 、 そこ は もう 広々 と した 部屋 だった 。

広い と いって も 、 ガランと して いる わけで は ない 。

天井 が 高い ので 、 どこ か 寒々 と は して いる が 、 部屋 そのもの に は 、 やたら 、 美術 品 らしき 彫刻 や 、 鳥 や 獣 の 剝製 が 置か れて いて 、 むしろ 狭苦しい くらい である 。

中央 に 暖炉 が あり 、 火 が 燃えて いる 。

その 前 に 、 人 が 二 人 は 座れ そうな 、 大きな 椅子 が あった 。

「── 連れて 参り ました 」

と 、 井口 が 言った 。

「 そう か 」

声 が して 、 小峰 が 立ち上った 。

いやに 小柄だ 、 と 珠美 は 思った 。

いや 、 椅子 が 大きい ので 、 そう 思える のだろう 。

「 や あ 、 よく 来た な 」

小峰 は にこやかに 笑って いる 。

「 まあ 、 ここ に かけ なさい 」

ここ で 逆らった ところ で 仕方ない 。

珠美 は 、 言わ れる まま に 、 椅子 に 腰 を おろした 。

小峰 が 座って いた 椅子 ほど で は ない が 、 やはり 、 相当な 大き さ で 、 スッポリ と 全身 が 隠れて しまい そうだ 。

「 いや 、 可愛い !

実に 可愛い ! 小峰 は 、 珠美 を 眺めて 、 嬉し そうに 声 を 上げた 。

「 全く 、 惚れ惚れ する ! ── 本当に 可愛い ! 近く へ 寄ったり 、 遠ざかったり し ながら 、 時に は 正面 から 、 また 右 から 左 から 、 後ろ へ 回って 、 高い 背もたれ の わき から 、 覗き 込んだり して は 、

「 可愛い 」

を 連発 して いる 。

珠美 とて 、 可愛い と 言わ れりゃ 悪い 気 は し ない が 、 しかし 、 こういう 年寄 に 言わ れて も 、 あまり 嬉しく ない 。

それ に 小 峰 の 感激 の 仕方 は 、 いささか 度 が 過ぎて いる ように 思えた 。

珠美 も 、 自分 の 美貌 (? ) に 自信 が ない わけで は なかった が (! )、 これ だけ 人 を ウットリ さ せる ほど と は 思え ない ……。

「 あの 、 失礼です けど ──」

と 珠美 が 言い かける と 、

「 シッ !

と 、 小峰 は 鋭く 遮った 。

「 君 は 人形 だ 。 人形 が 勝手に 口 を きいて は いかん 」

こりゃ 完全に キ 印 だ わ 、 と 珠美 は 首 を 振った 。

人 は 見かけ に よら ない もの だ 。

「 私 と この 子 、 二 人きり に して くれ 」

と 、 小峰 が 井口 たち に 言った 。

「 ですが ──」

井口 が 、 ちょっと ためらって 、「 まだ この 人形 は 未完成でして ……」

「 危険 が ある かも しれ ませ ん 」

と 、 草間 由美子 が 言った 。

「 二 人 に して くれ と 言った ぞ 」

小峰 が 、 はっきり と 不愉快 さ を 顔 に 出して 言った 。

「 私 の 言った こと が 分 らん と いう の か ? 「 いえ ──。

かしこまり ました 」

井口 は 、 頭 を 下げた 。

井口 と 草間 由美子 が 、 あの エレベーター へ と 姿 を 消す 。

しめた 、 と 珠美 が 思った の は 当然である 。

この 爺さん 一 人 なら 、 相手 に した って 互角に ゃ 闘 える !

「 さて ……」

小峰 は 、 井口 たち が い なく なる と 、 歩き 回る の を やめて 、 元 の 椅子 に 戻った 。

珠美 は 、 頭 を 振った 。

大体 、 着 なれて い ない ドレス なんか 着せ られて いる ので 、 窮屈で たまら ない のだ 。

「 窮屈な 思い を さ せて 済ま ん ね 」

小 峰 の 言葉 に 、 珠美 は ちょっと びっくり した 。

── 今 まで の 、 いささか イカレ た 老人 と いう 印象 が 、 きれいに 消えて 、 ごく 冷静な 紳士 に 戻った ようだった から だ 。

「 あの ……」

と 、 珠美 が 言い かける と 、

「 分 って る よ 」

と 、 小峰 は 肯 いた 。

「 私 は 君 を ここ へ さらって 来た 。 見付かれば 誘拐 罪 に なる 」

「 どうして こんな こと を ?

「 色々 と 事情 が あって ね 」

と 、 小峰 は 言った 。

「 まあ 、 やがて 君 に も 分 る だろう 」

「 やがて 、 じゃ 困り ます 。

家 へ 帰して 下さい ! と 、 珠美 は 断固と して 要求 した 。

「 元気 が いい な 」

小峰 は 笑って 言った 。

「 それ より 、 君 に 訊 き たい こと が あった んだ 。 井口 たち が 君 を 連れて 来 なくて も 、 君 に は ぜひ 会い たかった 」

「 私 に 何 かご 用 だった んです か ?

「 そう だ 」

小峰 は 、 突然 立ち上った 。

珠美 は ギョッ と した 。 その 勢い が あまりに 激しくて ── 何だか 、 襲い かかって でも 来る か の よう に 思えた のだった 。

いくら 計算 高く たって 、 こんな 爺さん と の 「 初 体験 」 なんて 、 いくら もらって も いやだ から ね 、 と 思った 。

しかし 、 それ は 取り越し苦労 だった ようだ 。

小峰 は 、 内心 の 苦し み を 押し 隠す ように 、 額 に 深く しわ を 刻んで 、

「 教えて くれ 」

と 言った 。

「 え ?

「 娘 を 殺した の は 誰 な んだ ?

娘 ── つまり 、 有田 信子 の こと だ と 気付く のに 、 少し かかった 。

「 私 ── 知り ませ ん 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 どうして 私 が 知って る と 思った んです か 」

「 知ら ん と 言う の か 」

「 知り ませ ん よ 」

「 私 は ね 、 警察 に も 色々 と 知り合い を 持って いる 」

と 、 小峰 は 言った 。

「 耳 に 入った のだ 。 娘 が 殺さ れた とき 、 バッグ の 中 に は 、 テスト の 問題 の コピー が 入って いた 、 と ね 」

「 あ 、 その こと です か 。

── ええ 、 そりゃ 私 の 鞄 に も ──」

「 そして 君 は 停学 処分 を 受けた 。

君 は 罪 を 認めた と いう じゃ ない か 」

「 そんな !

珠美 は 目 を むいた 。

「 私 、 何も 知り ませ ん ! 本当な んです 」

「 それ は おかしい 。

学校 当局 に 訊 いた ところ で は 、 母親 と 君 が 泣いて 詫びた 、 と ──」

人 の 話 と いう もの が 、 いかに 不正確に 伝わる もの か 、 よく 分 ろう と いう もの である 。

珠美 は 、 自分 に 母親 は い ない こと 、 一緒に 行った 姉 が 泣き虫 で 、 一 人 で 勝手に 泣いた だけ と いう こと 、 決して やった と 認めた わけじゃ ない こと を 、 くり返し 強調 した 。

「── なるほど 」

小峰 は 肯 いた 。

「 君 は なかなか 頭 の いい 子 らしい ね 」

「 どっち か と いう と 、 頭 より 要領 の 方 が いい んです 」

珠美 の 言葉 に 、 小峰 は 笑い 出した 。

いかにも 楽し げな 、 カラッと した 笑い で 、 何となく 珠美 は 安心 した 。

「 君 の こと が 気 に 入った よ 。

どうやら 私 の 思い違い だった ようだ 」

「 そう です か 。

でも ──」

珠美 も 、 いささか 夕 里子 的 好奇心 (?

) を 刺激 さ れて いた 。 「 勇一 君 も 、 母親 を 殺した 犯人 を 捜して いる こと 、 ご存知 です か ? 「 勇一 ?

小峰 が 目 を 見開いて 、「 君 は 私 の 孫 を 知って いる の か ね 」

「 ええ 。

ちょっと した 知り合い です 」

「 行方 が 知れ ない と 聞いた 。

では 、 信子 を 殺した 犯人 を ……」

「 自分 の 手 で 見付ける んだ と 言って ました 」

「 そう か ……」

小峰 は ゆっくり と 肯 いた 。

「 孫 の 顔 を 、 何とか この 目 で 見 たい もん だ 」

「 見 られ ます よ 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 君 は ── 勇一 の 居場所 を 知って いる の か ね ?

「 そう です ね ……。

まあ 、 多少 見当 が つか ない こと も あり ませ ん けど 」

しかし 、 いくら 珠美 でも 、 今 、 勇一 が この 屋敷 へ やって 来て いる と は 思わ なかった 。

「 教えて くれ 」

と 、 小峰 は 身 を 乗り出す ように して 言った 。

「 じゃ 、 私 を 家 へ 帰して 下さい 」

タダ の 取引 なんて 、 珠美 の 許せる ところ で は ない 。

「 家 へ 、 か ……」

小峰 は 、 深々と 息 を ついた 。

「 君 に は 分 っと らん のだ 」

「 分 る って 、 何 が です か ?

「 私 が ── 殺さ れる かも しれ ん と いう こと が さ 」

と 、 小峰 は 言った 。

「 凄い パーティ だ なあ 」

と 、 勇一 は 、 呆れた ように 言った 。

そう 。

夕 里子 も 、 珠美 の こと を 心配 して いた の は もちろん だ が 、 その 一方 で 、 パーティ の 大がかりな こと に 、 びっくり して いた 。

三千 坪 と いう 広大な 敷地 。

その 庭 に 、 やたら 着飾って 集まって いる 男女 が 何 百 人 に なる だろう か 。

食べ物 、 飲み物 だって 、 莫大な 量 に なる だろう 。

── 世の中 に は 金 持って の が いる もの な のだ 。

「── 国 友 さん 、 どこ へ 行った の かしら ?

と 、 夕 里子 は 周囲 を 見 回した 。

何しろ 、 広い し 、 人 は 多い 。

それ に 、 いくら 照明 は あって も 、 深夜 の 庭 である 。 やはり 薄暗い から 、 少し 離れる と 姿 を 見失って しまう のだ 。

「 あそこ に いる よ 」

と 、 勇一 が 指さす 方 へ 目 を やる と 、 相 変ら ず シャツ を 外 へ 出し 、 髪 を クシャクシャ に した 国 友 が 、 例の ルミ と 二 人 で 歩いて 来る 。

「 いやだ わ 、 あんな 格好で 」

と 、 夕 里子 が 文句 を 言う と 、

「 あの 娘 に 恋人 を 取ら れる んじゃ ない か 、 心配な んだ ろ 」

と 、 勇一 が 、 からかう ように 言った 。

「 何 よ !

夕 里子 は 勇一 を にらんで 、「 あんた を かくまって やった の 、 誰 だ と 思って ん の よ 」

「 分 った よ 。

そう 怒 んな よ 」

「 怒って ない わ よ 」

どう みて も 怒って いる と いう 顔 で 、 夕 里子 は 言った 。

「── だめだ 」

国 友 が 、 息 を ついて 、「 駐車 場 を 見て 来た けど 、 青 の ビュイック は ない 」

「 もう 、 パーティ も 半ば でしょ 」

夕 里子 は 、 ルミ を にらんで 、「 あんた 、 本当に その 車 を 前 に 見た んでしょう ね 」

「 何 よ 、 人 が 親切に 教えて やった のに 」

と 、 ルミ は ムッと した ように 言った 。

「 他 に 駐車 場 は ない の ?

「 訊 いて みた 」

と 、 国 友 が 言った 。

「 他 に は ない そうだ 。 あぶ れた 車 は 、 外 で 路上 駐車 らしい 」

「 そっち も 見た の ?

「 もちろん だ よ 」

── 夕 里子 とて 、 ルミ の 話 が 全く の 噓 だ と は 思って い ない 。

何といっても 、 小 峰 と いう 男 は 、 有田 信子 の 父親 で 、 しかも 珠美 は 、 それ に 関連 して 殺さ れた ( らしい ) 丸山 の 葬儀 から 、 連れ 去ら れて いる 。

そう なる と ……。

「 ちょっと ──」

夕 里子 は 、 ふと 思い 付いて 、「 駐車 場 だ わ !

と 声 を あげた 。

「 見て 来た わ よ 」

と 、 ルミ が 言った 。

「 そう じゃ ない の よ 。

この パーティ に 来る 客 の ため の 駐車 場 に は ない かも しれ ない けど 、 この 家 の 駐車 場 は ? 「 なるほど 」

国 友 は 肯 いた 。

「 これ だけ の 屋敷 だ 。 車 も 一 台 って こと は ある まい 」

「 でも 、 どこ だ か 分 ら ない わ 」

と 、 ルミ が 言った 。

「 捜す の よ !

いくら 広い 屋敷 だって 、 駐車 場 が 屋上 に あったり 、 池 の 中 に ある わけじゃ ない でしょ 」

「 きっと 門 を 入って 反対 側 へ 入った 方 だろう な 」

と 、 国 友 は 言った 。

「 しかし ──」

「 どうした の ?

「 いや 、 例の ガードマン たち だ 。

門 の 辺り を うろうろ して る から な 」

「 そこ は 何とか うまく 目 を そらして ──」

「 ともかく 行って みよう ぜ 」

と 、 勇一 が 言った 。

「 当って 砕け ろ だ 」

「 あんた 、 いい こと 言う わ ね 」

と 、 夕 里子 は 勇一 の 肩 を ポン と 叩いた 。

「 気 に 入った わ !

四 人 が 、 門 の 方 へ と 戻って 行く 。

車 が 一 台 、 新たな 客 を 乗せて 入って 来た 。

来客 用 の 駐車 場 へ と 向 って 行く その 車 と 、 夕 里子 たち は すれ違った 。

「 あれ ?

四 人 の 最後に くっついて 来て いた ルミ が 、 すれ違った 車 の 方 を 振り返る 。

「 どうした の ?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。

「 今 の 車 に 乗って た の ── 坂口 の 奴 だ わ 」

「 坂口 ?

「 ああ 、 坂口 って 、 あの とき 君 と 一緒に 学校 に いた 男の子 だ な ?

と 、 国 友 が 言った 。

「 この パーティ へ 呼ば れて る の か な 」

「 そりゃ そう よ 。

前 は 私 と 来て た んだ もの 」

ルミ は 不服 そうだった 。

「 他の 女 と 一緒だった わ 。 馬鹿に して る ! 「 勝手な こ と 言って る 」

と 、 つい 夕 里子 は 笑って しまった 。

「 だって ── 何だか ネグリジェ の お化け みたいな の 着た 女 が 隣 に 乗って た の よ 。

私 の 代り なら 、 もっと ましな の を 選んで ほしい もん だ わ 」

夕 里子 は 、 放っておく こと に して 、 歩き 出した 。

まさか 、 その 「 ネグリジェ の お化け 」 が 、 姉 の 綾子 だ と は 、 思って も い ない のである ……。

「 さあ 、 どこ に いる の ?

と 、 綾子 は 、 坂口 正明 を つついた 。

「 待って よ 。

そんな こと 言わ れた って ──」

正明 は 情 ない 顔 で 、「 この 人出 です よ 。

捜す った って 大変だ 」

「 一万 人 は い ない でしょ 」

「 そりゃ そう です けど 」

「 じゃ 、 早く 見付けて !

「 来て る の は 確かです よ 。

彼女 の と この 車 が あり ました から ……」

「 車 が あって も 仕方ない の !

「 すみません ……」

正明 が 首 を すぼめた 。

ところで 、 綾子 ── ネグリジェ の お 化け 、 と ルミ が 言った の も 、 あながち 間違い で も ない 。

「 パーティ に 出る なら 、 ドレス で なきゃ 」

と いう 正明 の 言葉 に 、 ドレス なんか 持って い ない 綾子 、 必死で 頭 を ひねった 挙句 、 古い ネグリジェ に ベルト を しめて 、 着て 来た のである 。

到底 、 白昼 、 人目 の ある 所 を 歩ける スタイル で は なかった が 、 今 は 珠美 の こと で 頭 が 一杯な のだ 。

「 そう だ わ 」

と 、 綾子 は 名案 を 思い 付いた 。

「 呼出し して もらう の よ 」

「 呼出し ?

── あの 、 デパート なんか で やって る やつ ? 「 そう 。

それ が 一 番 手っ取り早い わ 」

「 そりゃ そう かも しれ ない けど …… でも 、 そんな こと 、 やって る か なあ 」

「 やら せる の よ !

これ だけ の 屋敷 で 、 館 内 放送 の 設備 が ない わけな いわ 」

綾子 の ような タイプ の 強 味 は 、 思い 込んだら 、 まず 容易な こと で は 諦め ない 、 と いう ところ に ある 。

「 中 で 訊 いて みよう 」

と 、 正明 を 置き去り に して 、 綾子 は 、 屋敷 の 方 へ と 歩いて 行った 。

── テラス から 中 へ 入る と 、 広間 が やはり パーティ 会場 と して 使わ れて いる 。

そこ に は 椅子 や ソファ が ある ので 、 立ち話 に くたびれた 客 たち が 集まって いて 、 かなり の 混雑 だった 。

「 お 店 の 人 は どこ かしら ……」

と 、 綾子 は 呟いた 。

デパート や ホテル と 勘違い して いる のである 。

「 おい 、 君 !

と 、 太い 男 の 声 が した 。

「 君 ! ちょっと ! 「 私 です か ?

と 振り向く と 、 すっかり 酔っ払って いる らしい 禿げ 頭 の おじさん で 、 頭 の 天辺 まで 真 赤 に なって いた 。

「 あの ね 、 君 …… ちょっと ウイスキー が 足ら ん よ 」

少々 ろ れつ が 回ら ない くらい 酔って いる 様子 だ 。

「 それ が どうかし まして ?

綾子 は 苛々 して いた 。

「 もっと どんどん 持って 来て くれた まえ !

どうやら 、 綾子 を ここ の 使用人 だ と 思って いる らしい 。

「 あの 、 私 、 客 な んです けど 」

「 客 ?

── ハハ 、 冗談 が 巧 い ね 。 うむ 、 なかなか いい 」

と 、 一 歩 退 がって 、 綾子 を ジロジロ 眺め 、

「 特に ヒップ の ライン が 、 なかなか 悩ましい よ 。

触り 心地 は どう か な 」

お 尻 の 方 へ 手 を 伸して 来た ので 、 綾子 は びっくり した 。

もちろん 、 二十 歳 に は なって いて も 、 綾子 は まるで アルコール は だめ 。 バー と か スナック の 類 も 、 行った こと が ない 。

酔った 男 が 女の子 の お 尻 に 触る なんて いう の は 、 小説 か TV の 中 だけ の こと だ と 思って いる のである 。

「 何 する んです か !

と 、 あわてて 後 ず さる 。

「 変な こと する と 人 を 呼び ます よ ! 「 そんな かたい こと 言わ んで ── 君 、 パーティ だ よ 、 パーティ 。

何事 も 楽しま なくちゃ 。 そう だ ろ ? と 、 男 の 方 は 悪乗り して 、 やおら 綾子 に 抱きついて 来る 。

「 キャッ !

綾子 は 、 仰天 して 逃げ 出した 。

「 お っ 、 隠れんぼ か ?

そ いつも 面白い な 。 こら 、 待て ! 男 は 、 すっかり ゲーム でも やって いる 気分 で 、 綾子 の 後 を 追い かけ 始めた 。

庭 の 方 へ 逃げれば 良かった のだ が 、 行きがかり 上 、 綾子 は 、 広間 の 更に 奥 の 方 へ と 駆け 出して いた 。

「 逃がさ ない ぞ !

こら ! 男 の 声 が 背後 から 追って くる 。

綾子 は 、 二 、 三 人 の 客 を 突き飛ばし 、 ともかく 目 に ついた ドア から 、 廊下 へ と 出て いた 。

逃げ なきゃ 。

ともかく ── どっち だ ?

今 は 場 内 呼出し どころ じゃ ない 。

あの 気 の 狂った 男 ( と しか 、 綾子 に は 思え ない ) から 逃げ なくて は 。

「 見付けた ぞ !

男 が 廊下 へ 出て 来て 、 歓声 を 上げる 。

「 キャアッ !

綾子 は 、 弾か れた ように 飛び上って 駆け 出した 。

── 男 の 方 が 酔って いて 、 少し 足 が もつれて いる の が 幸いした 。

何しろ 、 綾子 の 運動 神経 と 来たら ── まあ 、 そこ は 想像 に お 任せ した 方 が 良 さ そうである 。

廊下 を 走って 、 右 へ 左 へ と 、 思い 付く まま に 曲って いる 内 、 やっと 、 男 の 馬鹿げた 甲高い 笑い声 も 聞こえ なく なって 、 綾子 は 足 を 止めた 。

「 ああ …… くたびれた !

ハアハア 息 を 切らして 、 しばし 壁 に もた れて 休む こと に する 。

およそ 、 普段 から 全力 で 走った こと なんか ない のだ 。

「 全く もう !

と 、 文句 を 言って みた ところ で 、 どうにも なら ない のだ が ……。

「 私 、 絶対 に お 酒飲み と は 結婚 し ない わ ! とんだ 所 で 、 綾子 は 人生 の 方針 を 決めて いる のだった 。

「 あ 、 そう だ 」

やっと 、 思い出した 。

珠美 が 誘拐 さ れて る んだ っけ !

そうだ 。

あの 女の子 を 捜さ なきゃ 。 場 内 呼出し を して もらう んだった !

でも ── 綾子 は 、 青く なった 。

肝心の 女の子 の 名前 を 忘れて しまった のだ 。

レミ だった かな ?

フミ ? ユミ ? ミ ── が ついた と 思った けど ……。 ミケ だった かしら ?

「 参った なあ 」

綾子 は 、 ため息 を ついた 。

── 名前 が 分 ら ない んじゃ 、 呼出し を 頼む わけに も いか ない 。

大体 、 呼出して くれる もの やら 、 それ も 分 ら ない のだ と いう こと に 、 やっと 綾子 は 思い 至った 。

こう なったら 、 自分 で あの 何とか いう 女の子 を 捜す しか ない !

長女 と して の 責任 感 から 、 綾子 は 悲壮な (?

) 決意 を 固めた のだった 。

しかし 、 その 前 に 解決 す べき 問題 が 多々 あった 。

パーティ 会場 へ 戻ら なくて は 、 捜し よう も ない わけだ が 、 どこ を どう 行けば 戻れる もの やら 、 見当 も つか ない 。

広い んだ わ 、 この 屋敷 。

── 改めて 、 綾子 は 呆 気 に 取ら れた 。

廊下 と いって も 、 今 来た 所 を 逆に 辿 って 行く なんて 「 芸当 」 は 、 綾子 に は 不可能である 。

ともかく 、 今 住んで いる 大して 大きく も ない マンション の 中 だって 、 迷う こと が ある くらい 、 徹底 した 天才 的 方向 音痴 な のだ 。

仕方ない 。

ともかく 廊下 が ある 限り 、 どこ か へ つながって いる に は 違いない のだ 。

綾子 は 歩き 始めた 。

── それにしても 大した 屋敷 だ 。

遠く から 、 音楽 が 聞こえて いる 。

パーティー の ため に 流して ある のだろう が 、 遠 すぎて 、 どの 方角 から 聞こえて 来る の やら 、 よく 分 ら ない 。

誰 も い ない の かしら ?

これ だけ の 屋敷 だ 。

人 だって 大勢 住んで い そうな もの だ けど 、 これ だけ 歩いて いて も 、 誰 に も 出会わ ない なんて ……。

綾子 は 角 を 曲った 。

そこ の ドア が 、 少し 開いて いた 。 中 から 、 人 の 声 が する 。

綾子 は ホッと 息 を ついた 。

── やっと 人間 に 会える !

まるで サハラ 砂漠 でも さまよって いた みたいに 、 感激 した のである 。

その ドア の 方 へ と 、 綾子 は 歩いて 行った が ……。

「 何 を 言って る んだ !

男 の 声 の 、 激しい 口調 に 、 綾子 は ギョッ と して 足 を 止めた 。

「 今さら ためらって る 場合 じゃ ない だろう 」

と 、 男 は 少し 穏やかな 口調 に なって 、 言った 。

「 そりゃ 分 って る けど ──」

女 の 声 だ 。

少し 弱気な 感じ の 声 だった 。

「 分 って れば いい 」

と 、 男 が 突き放す ように 言った 。

「 計画 通り 、 やる しか ない よ 。 君 だって 、 賛成 した んじゃ ない か 」

「 ええ 、 それ は ……。

でも 、 いざ と なる と ね ……」

「 怖い の は 分 る 。

当然だ よ 」

「 怖い んじゃ ない の よ 。

それ も ある と して も ── 大した こと ない わ 」

「 じゃ 、 何 だい ?

「 分 ら ない ……。

ただ 、 どうしても ためらい が あって ……」

少し 間 が あった 。

男 が 女 に キス した らしい 、 チュッ と いう 音 が して 、 綾子 は 赤く なった 。

盗み聞き だ わ 、 これ じゃ 。

こんな こと しちゃ いけない んだ わ ……。

咳払い でも して 、 存在 を 主張 しよう か と 考えて いる と 、 ドア の 中 で 、 話 の 続き に なった 。

「 それ は 当然 さ 。

何しろ 人 を 殺す んだ 。 相当 の 覚悟 が いる 」

と 、 男 が 言った 。

綾子 は 耳 を 疑った 。

── 人 を 殺す ? 殺す って 言った わ 、 この 人 。

「 しかし 、 今 やる しか ない んだ 。

分 る だろう ? 男 は 続けた 。

「 娘 は 死 ん じ まった が 、 孫 と いう の が 出て 来た 。 孫 に 会って 、 全 財産 を 孫 へ 譲る と でも 言い 出したら 、 大変な こと に なる 」

「 ええ 、 そう ね 」

「 有田 勇一 の 行方 は 今 の ところ こっち も つかめて い ない 。

警察 だって 、 もちろん 勇一 を 捜しちゃ いる だろう が 、 いざ 逮捕 さ れて 、 小峰 様 と の 関係 が 知れる と まずい 。 本当 は 、 その 前 に 僕 ら の 方 で 、 勇一 を 押え られる と いい んだ が ……」

── 有田 勇一 ?

綾子 とて 、 うち に 居候 して いる 勇一 の こと だ と いう の は 分 った 。

でも 、 どうして こんな 所 で 、 勇一 の 話 が 出る の か は 、 まるで 分 ら ない のである 。

「 それ が 無理 と なれば 、 早く やって のける しか ない 」

と 男 の 声 が 言った 。

「 小峰 様 に 、 死んで いただく しか ない よ ……」


三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 10 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

10  忙しい 迷子 いそがしい|まいご

ドア を ノック する 音 。 どあ||||おと

「 起きて る かい ? おきて||

と 、 小 峰 の 秘書 、 井口 の 声 が した 。 |しょう|みね||ひしょ|いぐち||こえ||

「 入る よ 」 はいる|

鍵 が 回る 音 が して 、 ドア が 開く 。 かぎ||まわる|おと|||どあ||あく

井口 は 、 中 を 見 回して 、 ちょっと 眉 を ひそめた 。 いぐち||なか||み|まわして||まゆ||

ベッド が 高く もり上って 、 毛布 を スッポリ かぶって 眠って いる ようだ 。 べっど||たかく|もりあがって|もうふ||||ねむって|| It seems that the bed is overhilling and sleeping with a blanket covered with a shibori.

「 おいおい 。

それ じゃ ドレス が し わく ちゃ に な っ ち ま う じゃ ない か 。 ||どれす||||||||||||| Well then it might be a dress to do. ── 起きて くれ なきゃ 困る んだ 」 おきて|||こまる|

井口 が 部屋 の 中 へ 入って 来る と 、 ドア の 陰 に 隠れて いた 珠美 は 、 手 に して いた 重い 青銅 の 花びん を 高々 と 持ち 上げて ──。 いぐち||へや||なか||はいって|くる||どあ||かげ||かくれて||たまみ||て||||おもい|せいどう||かびん||たかだか||もち|あげて

両手 を 一杯に 上 に 上げて いる とき 、 わき の 下 を くすぐら れた から たまら ない 。 りょうて||いっぱいに|うえ||あげて|||||した|||||| When I raise my hands full, I was unable to get tired of under his side.

コチョコチョ 、 と やられて 、

「 キャッ !

珠美 は 声 を 上げた 。 たまみ||こえ||あげた

花びん は 空しく 床 に 落ちて 、 ゴーン 、 と 除夜 の 鐘 みたいな 音 を 立てた 。 かびん||むなしく|とこ||おちて|||じょや||かね||おと||たてた

「 だめ よ 、 用心 し なきゃ 」 ||ようじん||

入って 来た の は 、 草間 由美子 だった 。 はいって|きた|||くさま|ゆみこ|

「 私 が い なかったら 、 今ごろ あなた 、 のびて た わ よ 」 わたくし||||いまごろ||||| "If I had not been there, you have been stretching these days"

「 やれやれ 」

井口 は 首 を 振って 、 珠美 を 見る と 、「 手間 の かかる 子 だ 」 いぐち||くび||ふって|たまみ||みる||てま|||こ|

「 人 を か っ さ ら っと いて 、 何 よ ! じん||||||||なん|

と 、 珠美 は かみついた 。 |たまみ||

「 私 に は 、 優秀な 刑事 さん の 友だち が いる んだ から ね 」 わたくし|||ゆうしゅうな|けいじ|||ともだち|||||

「 警視 総監 が 友だち だって 構わ ない よ 」 けいし|そうかん||ともだち||かまわ||

と 、 井口 は まるで 本気に して い ない 様子 で 言った 。 |いぐち|||ほんきに||||ようす||いった

「 さあ 行こう 」 |いこう

「 どこ へ 連れて く の ? ||つれて||

デパート の オモチャ 売場 に 並べる 気 ? でぱーと||おもちゃ|うりば||ならべる|き 「 面白い 子 ね 、 あなた って 」 おもしろい|こ|||

と 、 草間 由美子 が 笑って 、「 飼 っと いたら 、 飽き ない でしょう ね 」 |くさま|ゆみこ||わらって|か|||あき|||

「 犬 と 間違え ないで よ 」 いぬ||まちがえ||

と 、 珠美 は ふくれ っ つ ら で 言った 。 |たまみ|||||||いった

井口 と 草間 由美子 、 二 人 に 挟ま れて いる ので は 、 逃げ 出す わけに も いか ず 、 珠美 は 仕方なく 歩き 出した 。 いぐち||くさま|ゆみこ|ふた|じん||はさま|||||にげ|だす|||||たまみ||しかたなく|あるき|だした

廊下 。 ろうか

── やたら と 長く 、 暗い 。 ||ながく|くらい

「 ここ 、 どこ ?

「 地下 な の よ 」 ちか|||

と 、 草間 由美子 が 言った 。 |くさま|ゆみこ||いった

そう か 。

それ で 部屋 に も 窓 が 一 つ も なかった んだ 。 ||へや|||まど||ひと||||

「 こっち よ 」

と 、 促さ れて 、 廊下 を 曲って 行く と 、 突き当り 。 |うながさ||ろうか||まがって|いく||つきあたり

先 が ない 。 さき||

が 、 井口 が どこ やら 壁 の 一部 を 押す と 、 正面 の 壁 が スルスル と 左右 へ 開いた 。 |いぐち||||かべ||いちぶ||おす||しょうめん||かべ||するする||さゆう||あいた

── エレベーター な のだ ! えれべーたー||

珠美 も これ に は びっくり した 。 たまみ||||||

「 さ 、 行 くわ よ 」 |ぎょう||

と 、 促さ れて 中 へ ……。 |うながさ||なか|

「 地下 は 食料 品 売場 じゃ ない の ? ちか||しょくりょう|しな|うりば|||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

エレベーター が 静かに 上って 行く 。 えれべーたー||しずかに|のぼって|いく

「 三 階 まで しか ない の 」 みっ|かい||||

「 そりゃ そう だ よ 。

個人 の 屋敷 だ から な 」 こじん||やしき|||

扉 が 開く と 、 そこ は もう 広々 と した 部屋 だった 。 とびら||あく|||||ひろびろ|||へや|

広い と いって も 、 ガランと して いる わけで は ない 。 ひろい||||がらんと|||||

天井 が 高い ので 、 どこ か 寒々 と は して いる が 、 部屋 そのもの に は 、 やたら 、 美術 品 らしき 彫刻 や 、 鳥 や 獣 の 剝製 が 置か れて いて 、 むしろ 狭苦しい くらい である 。 てんじょう||たかい||||さむざむ||||||へや|その もの||||びじゅつ|しな||ちょうこく||ちょう||けだもの||剝せい||おか||||せまくるしい||

中央 に 暖炉 が あり 、 火 が 燃えて いる 。 ちゅうおう||だんろ|||ひ||もえて|

その 前 に 、 人 が 二 人 は 座れ そうな 、 大きな 椅子 が あった 。 |ぜん||じん||ふた|じん||すわれ|そう な|おおきな|いす||

「── 連れて 参り ました 」 つれて|まいり|

と 、 井口 が 言った 。 |いぐち||いった

「 そう か 」

声 が して 、 小峰 が 立ち上った 。 こえ|||こみね||たちのぼった

いやに 小柄だ 、 と 珠美 は 思った 。 |こがらだ||たまみ||おもった

いや 、 椅子 が 大きい ので 、 そう 思える のだろう 。 |いす||おおきい|||おもえる|

「 や あ 、 よく 来た な 」 |||きた|

小峰 は にこやかに 笑って いる 。 こみね|||わらって|

「 まあ 、 ここ に かけ なさい 」

ここ で 逆らった ところ で 仕方ない 。 ||さからった|||しかたない

珠美 は 、 言わ れる まま に 、 椅子 に 腰 を おろした 。 たまみ||いわ||||いす||こし||

小峰 が 座って いた 椅子 ほど で は ない が 、 やはり 、 相当な 大き さ で 、 スッポリ と 全身 が 隠れて しまい そうだ 。 こみね||すわって||いす|||||||そうとうな|おおき|||||ぜんしん||かくれて||そう だ It is not as good as the chair where Komine was sitting, but it is still quite large, and it seems that Supori and the whole body are hidden.

「 いや 、 可愛い ! |かわいい

実に 可愛い ! じつに|かわいい 小峰 は 、 珠美 を 眺めて 、 嬉し そうに 声 を 上げた 。 こみね||たまみ||ながめて|うれし|そう に|こえ||あげた

「 全く 、 惚れ惚れ する ! まったく|ほれぼれ| ── 本当に 可愛い ! ほんとうに|かわいい 近く へ 寄ったり 、 遠ざかったり し ながら 、 時に は 正面 から 、 また 右 から 左 から 、 後ろ へ 回って 、 高い 背もたれ の わき から 、 覗き 込んだり して は 、 ちかく||よったり|とおざかったり|||ときに||しょうめん|||みぎ||ひだり||うしろ||まわって|たかい|せもたれ||||のぞき|こんだり|| While approaching or going away, sometimes turning backwards from the front, from the right to the left, looking from the side of the high backrest,

「 可愛い 」 かわいい

を 連発 して いる 。 |れんぱつ||

珠美 とて 、 可愛い と 言わ れりゃ 悪い 気 は し ない が 、 しかし 、 こういう 年寄 に 言わ れて も 、 あまり 嬉しく ない 。 たまみ||かわいい||いわ||わるい|き|||||||としより||いわ||||うれしく| Although it does not feel bad if it is said to be beautiful with pearls, however, even though such old people say, it is not very happy.

それ に 小 峰 の 感激 の 仕方 は 、 いささか 度 が 過ぎて いる ように 思えた 。 ||しょう|みね||かんげき||しかた|||たび||すぎて|||おもえた

珠美 も 、 自分 の 美貌 (? たまみ||じぶん||びぼう ) に 自信 が ない わけで は なかった が (! |じしん|||||| ) Although I was not confident (! )、 これ だけ 人 を ウットリ さ せる ほど と は 思え ない ……。 ||じん||||||||おもえ|

「 あの 、 失礼です けど ──」 |しつれいです|

と 珠美 が 言い かける と 、 |たまみ||いい||

「 シッ !

と 、 小峰 は 鋭く 遮った 。 |こみね||するどく|さえぎった

「 君 は 人形 だ 。 きみ||にんぎょう| 人形 が 勝手に 口 を きいて は いかん 」 にんぎょう||かってに|くち||||

こりゃ 完全に キ 印 だ わ 、 と 珠美 は 首 を 振った 。 |かんぜんに||いん||||たまみ||くび||ふった

人 は 見かけ に よら ない もの だ 。 じん||みかけ|||||

「 私 と この 子 、 二 人きり に して くれ 」 わたくし|||こ|ふた|ひときり||| "Let me and this child, just two people"

と 、 小峰 が 井口 たち に 言った 。 |こみね||いぐち|||いった

「 ですが ──」

井口 が 、 ちょっと ためらって 、「 まだ この 人形 は 未完成でして ……」 いぐち||||||にんぎょう||みかんせいでして

「 危険 が ある かも しれ ませ ん 」 きけん||||||

と 、 草間 由美子 が 言った 。 |くさま|ゆみこ||いった

「 二 人 に して くれ と 言った ぞ 」 ふた|じん|||||いった| "I told you to make me two people"

小峰 が 、 はっきり と 不愉快 さ を 顔 に 出して 言った 。 こみね||||ふゆかい|||かお||だして|いった

「 私 の 言った こと が 分 らん と いう の か ? わたくし||いった|||ぶん||||| "Do you mean that what I said is obvious? 「 いえ ──。

かしこまり ました 」

井口 は 、 頭 を 下げた 。 いぐち||あたま||さげた

井口 と 草間 由美子 が 、 あの エレベーター へ と 姿 を 消す 。 いぐち||くさま|ゆみこ|||えれべーたー|||すがた||けす

しめた 、 と 珠美 が 思った の は 当然である 。 ||たまみ||おもった|||とうぜんである

この 爺さん 一 人 なら 、 相手 に した って 互角に ゃ 闘 える ! |じいさん|ひと|じん||あいて||||ごかくに||たたか|

「 さて ……」

小峰 は 、 井口 たち が い なく なる と 、 歩き 回る の を やめて 、 元 の 椅子 に 戻った 。 こみね||いぐち|||||||あるき|まわる||||もと||いす||もどった

珠美 は 、 頭 を 振った 。 たまみ||あたま||ふった

大体 、 着 なれて い ない ドレス なんか 着せ られて いる ので 、 窮屈で たまら ない のだ 。 だいたい|ちゃく||||どれす||ちゃくせ||||きゅうくつで|||

「 窮屈な 思い を さ せて 済ま ん ね 」 きゅうくつな|おもい||||すま||

小 峰 の 言葉 に 、 珠美 は ちょっと びっくり した 。 しょう|みね||ことば||たまみ||||

── 今 まで の 、 いささか イカレ た 老人 と いう 印象 が 、 きれいに 消えて 、 ごく 冷静な 紳士 に 戻った ようだった から だ 。 いま||||||ろうじん|||いんしょう|||きえて||れいせいな|しんし||もどった|||

「 あの ……」

と 、 珠美 が 言い かける と 、 |たまみ||いい||

「 分 って る よ 」 ぶん|||

と 、 小峰 は 肯 いた 。 |こみね||こう|

「 私 は 君 を ここ へ さらって 来た 。 わたくし||きみ|||||きた 見付かれば 誘拐 罪 に なる 」 みつかれば|ゆうかい|ざい||

「 どうして こんな こと を ?

「 色々 と 事情 が あって ね 」 いろいろ||じじょう|||

と 、 小峰 は 言った 。 |こみね||いった

「 まあ 、 やがて 君 に も 分 る だろう 」 ||きみ|||ぶん||

「 やがて 、 じゃ 困り ます 。 ||こまり|

家 へ 帰して 下さい ! いえ||かえして|ください と 、 珠美 は 断固と して 要求 した 。 |たまみ||だんこと||ようきゅう|

「 元気 が いい な 」 げんき|||

小峰 は 笑って 言った 。 こみね||わらって|いった

「 それ より 、 君 に 訊 き たい こと が あった んだ 。 ||きみ||じん|||||| 井口 たち が 君 を 連れて 来 なくて も 、 君 に は ぜひ 会い たかった 」 いぐち|||きみ||つれて|らい|||きみ||||あい| Even if Iguchi did not bring you, I wanted to see you all means. "

「 私 に 何 かご 用 だった んです か ? わたくし||なん||よう|||

「 そう だ 」

小峰 は 、 突然 立ち上った 。 こみね||とつぜん|たちのぼった

珠美 は ギョッ と した 。 たまみ|||| その 勢い が あまりに 激しくて ── 何だか 、 襲い かかって でも 来る か の よう に 思えた のだった 。 |いきおい|||はげしくて|なんだか|おそい|||くる|||||おもえた| That momentum was too intense - somehow it seemed as though it would come even if it attacked it.

いくら 計算 高く たって 、 こんな 爺さん と の 「 初 体験 」 なんて 、 いくら もらって も いやだ から ね 、 と 思った 。 |けいさん|たかく|||じいさん|||はつ|たいけん|||||||||おもった How much it was calculated, I thought that I do not want to get any "first experience" with such a grandfather.

しかし 、 それ は 取り越し苦労 だった ようだ 。 |||とりこしぐろう||

小峰 は 、 内心 の 苦し み を 押し 隠す ように 、 額 に 深く しわ を 刻んで 、 こみね||ないしん||にがし|||おし|かくす||がく||ふかく|||きざんで

「 教えて くれ 」 おしえて|

と 言った 。 |いった

「 え ?

「 娘 を 殺した の は 誰 な んだ ? むすめ||ころした|||だれ||

娘 ── つまり 、 有田 信子 の こと だ と 気付く のに 、 少し かかった 。 むすめ||ありた|のぶこ|||||きづく||すこし|

「 私 ── 知り ませ ん 」 わたくし|しり||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 どうして 私 が 知って る と 思った んです か 」 |わたくし||しって|||おもった||

「 知ら ん と 言う の か 」 しら|||いう||

「 知り ませ ん よ 」 しり|||

「 私 は ね 、 警察 に も 色々 と 知り合い を 持って いる 」 わたくし|||けいさつ|||いろいろ||しりあい||もって|

と 、 小峰 は 言った 。 |こみね||いった

「 耳 に 入った のだ 。 みみ||はいった| 娘 が 殺さ れた とき 、 バッグ の 中 に は 、 テスト の 問題 の コピー が 入って いた 、 と ね 」 むすめ||ころさ|||ばっぐ||なか|||てすと||もんだい||こぴー||はいって|||

「 あ 、 その こと です か 。

── ええ 、 そりゃ 私 の 鞄 に も ──」 ||わたくし||かばん||

「 そして 君 は 停学 処分 を 受けた 。 |きみ||ていがく|しょぶん||うけた

君 は 罪 を 認めた と いう じゃ ない か 」 きみ||ざい||みとめた|||||

「 そんな !

珠美 は 目 を むいた 。 たまみ||め||

「 私 、 何も 知り ませ ん ! わたくし|なにも|しり|| 本当な んです 」 ほんとうな|

「 それ は おかしい 。

学校 当局 に 訊 いた ところ で は 、 母親 と 君 が 泣いて 詫びた 、 と ──」 がっこう|とうきょく||じん|||||ははおや||きみ||ないて|わびた| I asked the school authorities that my mother and I cried and apologized.

人 の 話 と いう もの が 、 いかに 不正確に 伝わる もの か 、 よく 分 ろう と いう もの である 。 じん||はなし||||||ふせいかくに|つたわる||||ぶん||||| It is about how to tell the story of a person inaccurately.

珠美 は 、 自分 に 母親 は い ない こと 、 一緒に 行った 姉 が 泣き虫 で 、 一 人 で 勝手に 泣いた だけ と いう こと 、 決して やった と 認めた わけじゃ ない こと を 、 くり返し 強調 した 。 たまみ||じぶん||ははおや|||||いっしょに|おこなった|あね||なきむし||ひと|じん||かってに|ないた|||||けっして|||みとめた|||||くりかえし|きょうちょう| Emi repeatedly emphasized that she did not admit that she had never done that she had no mother, that her sister who went with her was a crybaby, she cried just by herself without permission.

「── なるほど 」

小峰 は 肯 いた 。 こみね||こう|

「 君 は なかなか 頭 の いい 子 らしい ね 」 きみ|||あたま|||こ||

「 どっち か と いう と 、 頭 より 要領 の 方 が いい んです 」 |||||あたま||ようりょう||かた|||

珠美 の 言葉 に 、 小峰 は 笑い 出した 。 たまみ||ことば||こみね||わらい|だした

いかにも 楽し げな 、 カラッと した 笑い で 、 何となく 珠美 は 安心 した 。 |たのし|げ な|からっと||わらい||なんとなく|たまみ||あんしん|

「 君 の こと が 気 に 入った よ 。 きみ||||き||はいった|

どうやら 私 の 思い違い だった ようだ 」 |わたくし||おもいちがい||

「 そう です か 。

でも ──」

珠美 も 、 いささか 夕 里子 的 好奇心 (? たまみ|||ゆう|さとご|てき|こうきしん

) を 刺激 さ れて いた 。 |しげき||| 「 勇一 君 も 、 母親 を 殺した 犯人 を 捜して いる こと 、 ご存知 です か ? ゆういち|きみ||ははおや||ころした|はんにん||さがして|||ごぞんじ|| 「 勇一 ? ゆういち

小峰 が 目 を 見開いて 、「 君 は 私 の 孫 を 知って いる の か ね 」 こみね||め||みひらいて|きみ||わたくし||まご||しって||||

「 ええ 。

ちょっと した 知り合い です 」 ||しりあい|

「 行方 が 知れ ない と 聞いた 。 ゆくえ||しれ|||きいた

では 、 信子 を 殺した 犯人 を ……」 |のぶこ||ころした|はんにん|

「 自分 の 手 で 見付ける んだ と 言って ました 」 じぶん||て||みつける|||いって|

「 そう か ……」

小峰 は ゆっくり と 肯 いた 。 こみね||||こう|

「 孫 の 顔 を 、 何とか この 目 で 見 たい もん だ 」 まご||かお||なんとか||め||み|||

「 見 られ ます よ 」 み|||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 君 は ── 勇一 の 居場所 を 知って いる の か ね ? きみ||ゆういち||いばしょ||しって||||

「 そう です ね ……。

まあ 、 多少 見当 が つか ない こと も あり ませ ん けど 」 |たしょう|けんとう|||||||||

しかし 、 いくら 珠美 でも 、 今 、 勇一 が この 屋敷 へ やって 来て いる と は 思わ なかった 。 ||たまみ||いま|ゆういち|||やしき|||きて||||おもわ|

「 教えて くれ 」 おしえて|

と 、 小峰 は 身 を 乗り出す ように して 言った 。 |こみね||み||のりだす|||いった

「 じゃ 、 私 を 家 へ 帰して 下さい 」 |わたくし||いえ||かえして|ください

タダ の 取引 なんて 、 珠美 の 許せる ところ で は ない 。 ただ||とりひき||たまみ||ゆるせる||||

「 家 へ 、 か ……」 いえ||

小峰 は 、 深々と 息 を ついた 。 こみね||しんしんと|いき||

「 君 に は 分 っと らん のだ 」 きみ|||ぶん|||

「 分 る って 、 何 が です か ? ぶん|||なん|||

「 私 が ── 殺さ れる かも しれ ん と いう こと が さ 」 わたくし||ころさ||||||||| "It is that I might be killed"

と 、 小峰 は 言った 。 |こみね||いった

「 凄い パーティ だ なあ 」 すごい|ぱーてぃ||

と 、 勇一 は 、 呆れた ように 言った 。 |ゆういち||あきれた||いった

そう 。

夕 里子 も 、 珠美 の こと を 心配 して いた の は もちろん だ が 、 その 一方 で 、 パーティ の 大がかりな こと に 、 びっくり して いた 。 ゆう|さとご||たまみ||||しんぱい|||||||||いっぽう||ぱーてぃ||おおがかりな|||||

三千 坪 と いう 広大な 敷地 。 さんせん|つぼ|||こうだいな|しきち

その 庭 に 、 やたら 着飾って 集まって いる 男女 が 何 百 人 に なる だろう か 。 |にわ|||きかざって|あつまって||だんじょ||なん|ひゃく|じん||||

食べ物 、 飲み物 だって 、 莫大な 量 に なる だろう 。 たべもの|のみもの||ばくだいな|りょう|||

── 世の中 に は 金 持って の が いる もの な のだ 。 よのなか|||きむ|もって||||||

「── 国 友 さん 、 どこ へ 行った の かしら ? くに|とも||||おこなった||

と 、 夕 里子 は 周囲 を 見 回した 。 |ゆう|さとご||しゅうい||み|まわした

何しろ 、 広い し 、 人 は 多い 。 なにしろ|ひろい||じん||おおい

それ に 、 いくら 照明 は あって も 、 深夜 の 庭 である 。 |||しょうめい||||しんや||にわ| やはり 薄暗い から 、 少し 離れる と 姿 を 見失って しまう のだ 。 |うすぐらい||すこし|はなれる||すがた||みうしなって||

「 あそこ に いる よ 」

と 、 勇一 が 指さす 方 へ 目 を やる と 、 相 変ら ず シャツ を 外 へ 出し 、 髪 を クシャクシャ に した 国 友 が 、 例の ルミ と 二 人 で 歩いて 来る 。 |ゆういち||ゆびさす|かた||め||||そう|かわら||しゃつ||がい||だし|かみ||くしゃくしゃ|||くに|とも||れいの|るみ||ふた|じん||あるいて|くる

「 いやだ わ 、 あんな 格好で 」 |||かっこうで

と 、 夕 里子 が 文句 を 言う と 、 |ゆう|さとご||もんく||いう|

「 あの 娘 に 恋人 を 取ら れる んじゃ ない か 、 心配な んだ ろ 」 |むすめ||こいびと||とら|||||しんぱいな||

と 、 勇一 が 、 からかう ように 言った 。 |ゆういち||||いった

「 何 よ ! なん|

夕 里子 は 勇一 を にらんで 、「 あんた を かくまって やった の 、 誰 だ と 思って ん の よ 」 ゆう|さとご||ゆういち||||||||だれ|||おもって|||

「 分 った よ 。 ぶん||

そう 怒 んな よ 」 |いか||

「 怒って ない わ よ 」 いかって|||

どう みて も 怒って いる と いう 顔 で 、 夕 里子 は 言った 。 |||いかって||||かお||ゆう|さとご||いった

「── だめだ 」

国 友 が 、 息 を ついて 、「 駐車 場 を 見て 来た けど 、 青 の ビュイック は ない 」 くに|とも||いき|||ちゅうしゃ|じょう||みて|きた||あお||||

「 もう 、 パーティ も 半ば でしょ 」 |ぱーてぃ||なかば|

夕 里子 は 、 ルミ を にらんで 、「 あんた 、 本当に その 車 を 前 に 見た んでしょう ね 」 ゆう|さとご||るみ||||ほんとうに||くるま||ぜん||みた||

「 何 よ 、 人 が 親切に 教えて やった のに 」 なん||じん||しんせつに|おしえて||

と 、 ルミ は ムッと した ように 言った 。 |るみ||むっと|||いった

「 他 に 駐車 場 は ない の ? た||ちゅうしゃ|じょう|||

「 訊 いて みた 」 じん||

と 、 国 友 が 言った 。 |くに|とも||いった

「 他 に は ない そうだ 。 た||||そう だ あぶ れた 車 は 、 外 で 路上 駐車 らしい 」 ||くるま||がい||ろじょう|ちゅうしゃ|

「 そっち も 見た の ? ||みた|

「 もちろん だ よ 」

── 夕 里子 とて 、 ルミ の 話 が 全く の 噓 だ と は 思って い ない 。 ゆう|さとご||るみ||はなし||まったく||||||おもって|| ── With evening Riko, I do not think that Rumi's story is totally true.

何といっても 、 小 峰 と いう 男 は 、 有田 信子 の 父親 で 、 しかも 珠美 は 、 それ に 関連 して 殺さ れた ( らしい ) 丸山 の 葬儀 から 、 連れ 去ら れて いる 。 なんといっても|しょう|みね|||おとこ||ありた|のぶこ||ちちおや|||たまみ||||かんれん||ころさ|||まるやま||そうぎ||つれ|さら|| Regardless, the man called Komine is the father of Nobuko Arita, and Tami is taken away from the funeral of Maruyama (which seems to have been killed in connection with it).

そう なる と ……。

「 ちょっと ──」

夕 里子 は 、 ふと 思い 付いて 、「 駐車 場 だ わ ! ゆう|さとご|||おもい|ついて|ちゅうしゃ|じょう||

と 声 を あげた 。 |こえ||

「 見て 来た わ よ 」 みて|きた||

と 、 ルミ が 言った 。 |るみ||いった

「 そう じゃ ない の よ 。

この パーティ に 来る 客 の ため の 駐車 場 に は ない かも しれ ない けど 、 この 家 の 駐車 場 は ? |ぱーてぃ||くる|きゃく||||ちゅうしゃ|じょう|||||||||いえ||ちゅうしゃ|じょう| 「 なるほど 」

国 友 は 肯 いた 。 くに|とも||こう|

「 これ だけ の 屋敷 だ 。 |||やしき| 車 も 一 台 って こと は ある まい 」 くるま||ひと|だい|||||

「 でも 、 どこ だ か 分 ら ない わ 」 ||||ぶん|||

と 、 ルミ が 言った 。 |るみ||いった

「 捜す の よ ! さがす||

いくら 広い 屋敷 だって 、 駐車 場 が 屋上 に あったり 、 池 の 中 に ある わけじゃ ない でしょ 」 |ひろい|やしき||ちゅうしゃ|じょう||おくじょう|||いけ||なか|||||

「 きっと 門 を 入って 反対 側 へ 入った 方 だろう な 」 |もん||はいって|はんたい|がわ||はいった|かた||

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 しかし ──」

「 どうした の ?

「 いや 、 例の ガードマン たち だ 。 |れいの|がーどまん||

門 の 辺り を うろうろ して る から な 」 もん||あたり||||||

「 そこ は 何とか うまく 目 を そらして ──」 ||なんとか||め||

「 ともかく 行って みよう ぜ 」 |おこなって||

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

「 当って 砕け ろ だ 」 あたって|くだけ|| "Please hit and crush"

「 あんた 、 いい こと 言う わ ね 」 |||いう||

と 、 夕 里子 は 勇一 の 肩 を ポン と 叩いた 。 |ゆう|さとご||ゆういち||かた||||たたいた

「 気 に 入った わ ! き||はいった|

四 人 が 、 門 の 方 へ と 戻って 行く 。 よっ|じん||もん||かた|||もどって|いく

車 が 一 台 、 新たな 客 を 乗せて 入って 来た 。 くるま||ひと|だい|あらたな|きゃく||のせて|はいって|きた

来客 用 の 駐車 場 へ と 向 って 行く その 車 と 、 夕 里子 たち は すれ違った 。 らいきゃく|よう||ちゅうしゃ|じょう|||むかい||いく||くるま||ゆう|さとご|||すれちがった The car that goes towards the parking lot for visitors passed and Yuriko passed.

「 あれ ?

四 人 の 最後に くっついて 来て いた ルミ が 、 すれ違った 車 の 方 を 振り返る 。 よっ|じん||さいごに||きて||るみ||すれちがった|くるま||かた||ふりかえる

「 どうした の ?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 今 の 車 に 乗って た の ── 坂口 の 奴 だ わ 」 いま||くるま||のって|||さかぐち||やつ||

「 坂口 ? さかぐち

「 ああ 、 坂口 って 、 あの とき 君 と 一緒に 学校 に いた 男の子 だ な ? |さかぐち||||きみ||いっしょに|がっこう|||おとこのこ||

と 、 国 友 が 言った 。 |くに|とも||いった

「 この パーティ へ 呼ば れて る の か な 」 |ぱーてぃ||よば|||||

「 そりゃ そう よ 。

前 は 私 と 来て た んだ もの 」 ぜん||わたくし||きて|||

ルミ は 不服 そうだった 。 るみ||ふふく|そう だった

「 他の 女 と 一緒だった わ 。 たの|おんな||いっしょだった| 馬鹿に して る ! ばかに|| 「 勝手な こ と 言って る 」 かってな|||いって|

と 、 つい 夕 里子 は 笑って しまった 。 ||ゆう|さとご||わらって|

「 だって ── 何だか ネグリジェ の お化け みたいな の 着た 女 が 隣 に 乗って た の よ 。 |なんだか|||おばけ|||きた|おんな||となり||のって|||

私 の 代り なら 、 もっと ましな の を 選んで ほしい もん だ わ 」 わたくし||かわり||||||えらんで||||

夕 里子 は 、 放っておく こと に して 、 歩き 出した 。 ゆう|さとご||ほうっておく||||あるき|だした

まさか 、 その 「 ネグリジェ の お化け 」 が 、 姉 の 綾子 だ と は 、 思って も い ない のである ……。 ||||おばけ||あね||あやこ||||おもって||||

「 さあ 、 どこ に いる の ?

と 、 綾子 は 、 坂口 正明 を つついた 。 |あやこ||さかぐち|まさあき||

「 待って よ 。 まって|

そんな こと 言わ れた って ──」 ||いわ||

正明 は 情 ない 顔 で 、「 この 人出 です よ 。 まさあき||じょう||かお|||ひとで||

捜す った って 大変だ 」 さがす|||たいへんだ

「 一万 人 は い ない でしょ 」 いちまん|じん||||

「 そりゃ そう です けど 」

「 じゃ 、 早く 見付けて ! |はやく|みつけて

「 来て る の は 確かです よ 。 きて||||たしかです|

彼女 の と この 車 が あり ました から ……」 かのじょ||||くるま||||

「 車 が あって も 仕方ない の ! くるま||||しかたない|

「 すみません ……」

正明 が 首 を すぼめた 。 まさあき||くび||

ところで 、 綾子 ── ネグリジェ の お 化け 、 と ルミ が 言った の も 、 あながち 間違い で も ない 。 |あやこ||||ばけ||るみ||いった||||まちがい|||

「 パーティ に 出る なら 、 ドレス で なきゃ 」 ぱーてぃ||でる||どれす||

と いう 正明 の 言葉 に 、 ドレス なんか 持って い ない 綾子 、 必死で 頭 を ひねった 挙句 、 古い ネグリジェ に ベルト を しめて 、 着て 来た のである 。 ||まさあき||ことば||どれす||もって|||あやこ|ひっしで|あたま|||あげく|ふるい|||べると|||きて|きた|

到底 、 白昼 、 人目 の ある 所 を 歩ける スタイル で は なかった が 、 今 は 珠美 の こと で 頭 が 一杯な のだ 。 とうてい|はくちゅう|ひとめ|||しょ||あるける|すたいる|||||いま||たまみ||||あたま||いっぱいな|

「 そう だ わ 」

と 、 綾子 は 名案 を 思い 付いた 。 |あやこ||めいあん||おもい|ついた

「 呼出し して もらう の よ 」 よびだし||||

「 呼出し ? よびだし

── あの 、 デパート なんか で やって る やつ ? |でぱーと||||| 「 そう 。

それ が 一 番 手っ取り早い わ 」 ||ひと|ばん|てっとりばやい|

「 そりゃ そう かも しれ ない けど …… でも 、 そんな こと 、 やって る か なあ 」

「 やら せる の よ !

これ だけ の 屋敷 で 、 館 内 放送 の 設備 が ない わけな いわ 」 |||やしき||かん|うち|ほうそう||せつび||||

綾子 の ような タイプ の 強 味 は 、 思い 込んだら 、 まず 容易な こと で は 諦め ない 、 と いう ところ に ある 。 あやこ|||たいぷ||つよ|あじ||おもい|こんだら||よういな||||あきらめ||||||

「 中 で 訊 いて みよう 」 なか||じん||

と 、 正明 を 置き去り に して 、 綾子 は 、 屋敷 の 方 へ と 歩いて 行った 。 |まさあき||おきざり|||あやこ||やしき||かた|||あるいて|おこなった

── テラス から 中 へ 入る と 、 広間 が やはり パーティ 会場 と して 使わ れて いる 。 てらす||なか||はいる||ひろま|||ぱーてぃ|かいじょう|||つかわ||

そこ に は 椅子 や ソファ が ある ので 、 立ち話 に くたびれた 客 たち が 集まって いて 、 かなり の 混雑 だった 。 |||いす||||||たちばなし|||きゃく|||あつまって||||こんざつ|

「 お 店 の 人 は どこ かしら ……」 |てん||じん|||

と 、 綾子 は 呟いた 。 |あやこ||つぶやいた

デパート や ホテル と 勘違い して いる のである 。 でぱーと||ほてる||かんちがい|||

「 おい 、 君 ! |きみ

と 、 太い 男 の 声 が した 。 |ふとい|おとこ||こえ||

「 君 ! きみ ちょっと ! 「 私 です か ? わたくし||

と 振り向く と 、 すっかり 酔っ払って いる らしい 禿げ 頭 の おじさん で 、 頭 の 天辺 まで 真 赤 に なって いた 。 |ふりむく|||よっぱらって|||はげ|あたま||||あたま||てっぺん||まこと|あか|||

「 あの ね 、 君 …… ちょっと ウイスキー が 足ら ん よ 」 ||きみ||ういすきー||たら||

少々 ろ れつ が 回ら ない くらい 酔って いる 様子 だ 。 しょうしょう||||まわら|||よって||ようす|

「 それ が どうかし まして ?

綾子 は 苛々 して いた 。 あやこ||いらいら||

「 もっと どんどん 持って 来て くれた まえ ! ||もって|きて||

どうやら 、 綾子 を ここ の 使用人 だ と 思って いる らしい 。 |あやこ||||しようにん|||おもって||

「 あの 、 私 、 客 な んです けど 」 |わたくし|きゃく|||

「 客 ? きゃく

── ハハ 、 冗談 が 巧 い ね 。 |じょうだん||こう|| うむ 、 なかなか いい 」

と 、 一 歩 退 がって 、 綾子 を ジロジロ 眺め 、 |ひと|ふ|しりぞ||あやこ||じろじろ|ながめ

「 特に ヒップ の ライン が 、 なかなか 悩ましい よ 。 とくに|ひっぷ||らいん|||なやましい|

触り 心地 は どう か な 」 さわり|ここち||||

お 尻 の 方 へ 手 を 伸して 来た ので 、 綾子 は びっくり した 。 |しり||かた||て||のして|きた||あやこ|||

もちろん 、 二十 歳 に は なって いて も 、 綾子 は まるで アルコール は だめ 。 |にじゅう|さい||||||あやこ|||あるこーる|| バー と か スナック の 類 も 、 行った こと が ない 。 ばー|||すなっく||るい||おこなった|||

酔った 男 が 女の子 の お 尻 に 触る なんて いう の は 、 小説 か TV の 中 だけ の こと だ と 思って いる のである 。 よった|おとこ||おんなのこ|||しり||さわる|||||しょうせつ||tv||なか||||||おもって||

「 何 する んです か ! なん|||

と 、 あわてて 後 ず さる 。 ||あと||

「 変な こと する と 人 を 呼び ます よ ! へんな||||じん||よび|| 「 そんな かたい こと 言わ んで ── 君 、 パーティ だ よ 、 パーティ 。 |||いわ||きみ|ぱーてぃ|||ぱーてぃ

何事 も 楽しま なくちゃ 。 なにごと||たのしま| そう だ ろ ? と 、 男 の 方 は 悪乗り して 、 やおら 綾子 に 抱きついて 来る 。 |おとこ||かた||わるのり|||あやこ||だきついて|くる

「 キャッ !

綾子 は 、 仰天 して 逃げ 出した 。 あやこ||ぎょうてん||にげ|だした

「 お っ 、 隠れんぼ か ? ||かくれんぼ|

そ いつも 面白い な 。 ||おもしろい| こら 、 待て ! |まて 男 は 、 すっかり ゲーム でも やって いる 気分 で 、 綾子 の 後 を 追い かけ 始めた 。 おとこ|||げーむ||||きぶん||あやこ||あと||おい||はじめた

庭 の 方 へ 逃げれば 良かった のだ が 、 行きがかり 上 、 綾子 は 、 広間 の 更に 奥 の 方 へ と 駆け 出して いた 。 にわ||かた||にげれば|よかった|||いきがかり|うえ|あやこ||ひろま||さらに|おく||かた|||かけ|だして|

「 逃がさ ない ぞ ! にがさ||

こら ! 男 の 声 が 背後 から 追って くる 。 おとこ||こえ||はいご||おって|

綾子 は 、 二 、 三 人 の 客 を 突き飛ばし 、 ともかく 目 に ついた ドア から 、 廊下 へ と 出て いた 。 あやこ||ふた|みっ|じん||きゃく||つきとばし||め|||どあ||ろうか|||でて|

逃げ なきゃ 。 にげ|

ともかく ── どっち だ ?

今 は 場 内 呼出し どころ じゃ ない 。 いま||じょう|うち|よびだし|||

あの 気 の 狂った 男 ( と しか 、 綾子 に は 思え ない ) から 逃げ なくて は 。 |き||くるった|おとこ|||あやこ|||おもえ|||にげ||

「 見付けた ぞ ! みつけた|

男 が 廊下 へ 出て 来て 、 歓声 を 上げる 。 おとこ||ろうか||でて|きて|かんせい||あげる

「 キャアッ !

綾子 は 、 弾か れた ように 飛び上って 駆け 出した 。 あやこ||はじか|||とびあがって|かけ|だした

── 男 の 方 が 酔って いて 、 少し 足 が もつれて いる の が 幸いした 。 おとこ||かた||よって||すこし|あし||||||さいわいした

何しろ 、 綾子 の 運動 神経 と 来たら ── まあ 、 そこ は 想像 に お 任せ した 方 が 良 さ そうである 。 なにしろ|あやこ||うんどう|しんけい||きたら||||そうぞう|||まかせ||かた||よ||そう である

廊下 を 走って 、 右 へ 左 へ と 、 思い 付く まま に 曲って いる 内 、 やっと 、 男 の 馬鹿げた 甲高い 笑い声 も 聞こえ なく なって 、 綾子 は 足 を 止めた 。 ろうか||はしって|みぎ||ひだり|||おもい|つく|||まがって||うち||おとこ||ばかげた|かんだかい|わらいごえ||きこえ|||あやこ||あし||とどめた

「 ああ …… くたびれた !

ハアハア 息 を 切らして 、 しばし 壁 に もた れて 休む こと に する 。 はあはあ|いき||きらして||かべ||||やすむ|||

およそ 、 普段 から 全力 で 走った こと なんか ない のだ 。 |ふだん||ぜんりょく||はしった||||

「 全く もう ! まったく|

と 、 文句 を 言って みた ところ で 、 どうにも なら ない のだ が ……。 |もんく||いって||||||||

「 私 、 絶対 に お 酒飲み と は 結婚 し ない わ ! わたくし|ぜったい|||さけのみ|||けっこん||| とんだ 所 で 、 綾子 は 人生 の 方針 を 決めて いる のだった 。 |しょ||あやこ||じんせい||ほうしん||きめて||

「 あ 、 そう だ 」

やっと 、 思い出した 。 |おもいだした

珠美 が 誘拐 さ れて る んだ っけ ! たまみ||ゆうかい|||||

そうだ 。 そう だ

あの 女の子 を 捜さ なきゃ 。 |おんなのこ||さがさ| 場 内 呼出し を して もらう んだった ! じょう|うち|よびだし||||

でも ── 綾子 は 、 青く なった 。 |あやこ||あおく|

肝心の 女の子 の 名前 を 忘れて しまった のだ 。 かんじんの|おんなのこ||なまえ||わすれて||

レミ だった かな ?

フミ ? ふみ ユミ ? ゆみ ミ ── が ついた と 思った けど ……。 ||||おもった| ミケ だった かしら ?

「 参った なあ 」 まいった|

綾子 は 、 ため息 を ついた 。 あやこ||ためいき||

── 名前 が 分 ら ない んじゃ 、 呼出し を 頼む わけに も いか ない 。 なまえ||ぶん||||よびだし||たのむ||||

大体 、 呼出して くれる もの やら 、 それ も 分 ら ない のだ と いう こと に 、 やっと 綾子 は 思い 至った 。 だいたい|よびだして||||||ぶん|||||||||あやこ||おもい|いたった

こう なったら 、 自分 で あの 何とか いう 女の子 を 捜す しか ない ! ||じぶん|||なんとか||おんなのこ||さがす||

長女 と して の 責任 感 から 、 綾子 は 悲壮な (? ちょうじょ||||せきにん|かん||あやこ||ひそうな

) 決意 を 固めた のだった 。 けつい||かためた|

しかし 、 その 前 に 解決 す べき 問題 が 多々 あった 。 ||ぜん||かいけつ|||もんだい||たた|

パーティ 会場 へ 戻ら なくて は 、 捜し よう も ない わけだ が 、 どこ を どう 行けば 戻れる もの やら 、 見当 も つか ない 。 ぱーてぃ|かいじょう||もどら|||さがし|||||||||いけば|もどれる|||けんとう|||

広い んだ わ 、 この 屋敷 。 ひろい||||やしき

── 改めて 、 綾子 は 呆 気 に 取ら れた 。 あらためて|あやこ||ぼけ|き||とら|

廊下 と いって も 、 今 来た 所 を 逆に 辿 って 行く なんて 「 芸当 」 は 、 綾子 に は 不可能である 。 ろうか||||いま|きた|しょ||ぎゃくに|てん||いく||げいとう||あやこ|||ふかのうである

ともかく 、 今 住んで いる 大して 大きく も ない マンション の 中 だって 、 迷う こと が ある くらい 、 徹底 した 天才 的 方向 音痴 な のだ 。 |いま|すんで||たいして|おおきく|||まんしょん||なか||まよう|||||てってい||てんさい|てき|ほうこう|おんち||

仕方ない 。 しかたない

ともかく 廊下 が ある 限り 、 どこ か へ つながって いる に は 違いない のだ 。 |ろうか|||かぎり||||||||ちがいない|

綾子 は 歩き 始めた 。 あやこ||あるき|はじめた

── それにしても 大した 屋敷 だ 。 |たいした|やしき|

遠く から 、 音楽 が 聞こえて いる 。 とおく||おんがく||きこえて|

パーティー の ため に 流して ある のだろう が 、 遠 すぎて 、 どの 方角 から 聞こえて 来る の やら 、 よく 分 ら ない 。 ぱーてぃー||||ながして||||とお|||ほうがく||きこえて|くる||||ぶん||

誰 も い ない の かしら ? だれ|||||

これ だけ の 屋敷 だ 。 |||やしき|

人 だって 大勢 住んで い そうな もの だ けど 、 これ だけ 歩いて いて も 、 誰 に も 出会わ ない なんて ……。 じん||おおぜい|すんで||そう な||||||あるいて|||だれ|||であわ||

綾子 は 角 を 曲った 。 あやこ||かど||まがった

そこ の ドア が 、 少し 開いて いた 。 ||どあ||すこし|あいて| 中 から 、 人 の 声 が する 。 なか||じん||こえ||

綾子 は ホッと 息 を ついた 。 あやこ||ほっと|いき||

── やっと 人間 に 会える ! |にんげん||あえる

まるで サハラ 砂漠 でも さまよって いた みたいに 、 感激 した のである 。 |さはら|さばく|||||かんげき||

その ドア の 方 へ と 、 綾子 は 歩いて 行った が ……。 |どあ||かた|||あやこ||あるいて|おこなった|

「 何 を 言って る んだ ! なん||いって||

男 の 声 の 、 激しい 口調 に 、 綾子 は ギョッ と して 足 を 止めた 。 おとこ||こえ||はげしい|くちょう||あやこ|||||あし||とどめた

「 今さら ためらって る 場合 じゃ ない だろう 」 いまさら|||ばあい|||

と 、 男 は 少し 穏やかな 口調 に なって 、 言った 。 |おとこ||すこし|おだやかな|くちょう|||いった

「 そりゃ 分 って る けど ──」 |ぶん|||

女 の 声 だ 。 おんな||こえ|

少し 弱気な 感じ の 声 だった 。 すこし|よわきな|かんじ||こえ|

「 分 って れば いい 」 ぶん|||

と 、 男 が 突き放す ように 言った 。 |おとこ||つきはなす||いった

「 計画 通り 、 やる しか ない よ 。 けいかく|とおり|||| 君 だって 、 賛成 した んじゃ ない か 」 きみ||さんせい||||

「 ええ 、 それ は ……。

でも 、 いざ と なる と ね ……」

「 怖い の は 分 る 。 こわい|||ぶん|

当然だ よ 」 とうぜんだ|

「 怖い んじゃ ない の よ 。 こわい||||

それ も ある と して も ── 大した こと ない わ 」 ||||||たいした|||

「 じゃ 、 何 だい ? |なん|

「 分 ら ない ……。 ぶん||

ただ 、 どうしても ためらい が あって ……」

少し 間 が あった 。 すこし|あいだ||

男 が 女 に キス した らしい 、 チュッ と いう 音 が して 、 綾子 は 赤く なった 。 おとこ||おんな||きす||||||おと|||あやこ||あかく|

盗み聞き だ わ 、 これ じゃ 。 ぬすみぎき||||

こんな こと しちゃ いけない んだ わ ……。

咳払い でも して 、 存在 を 主張 しよう か と 考えて いる と 、 ドア の 中 で 、 話 の 続き に なった 。 せきばらい|||そんざい||しゅちょう||||かんがえて|||どあ||なか||はなし||つづき||

「 それ は 当然 さ 。 ||とうぜん|

何しろ 人 を 殺す んだ 。 なにしろ|じん||ころす| 相当 の 覚悟 が いる 」 そうとう||かくご||

と 、 男 が 言った 。 |おとこ||いった

綾子 は 耳 を 疑った 。 あやこ||みみ||うたがった

── 人 を 殺す ? じん||ころす 殺す って 言った わ 、 この 人 。 ころす||いった|||じん

「 しかし 、 今 やる しか ない んだ 。 |いま||||

分 る だろう ? ぶん|| 男 は 続けた 。 おとこ||つづけた

「 娘 は 死 ん じ まった が 、 孫 と いう の が 出て 来た 。 むすめ||し|||||まご|||||でて|きた 孫 に 会って 、 全 財産 を 孫 へ 譲る と でも 言い 出したら 、 大変な こと に なる 」 まご||あって|ぜん|ざいさん||まご||ゆずる|||いい|だしたら|たいへんな|||

「 ええ 、 そう ね 」

「 有田 勇一 の 行方 は 今 の ところ こっち も つかめて い ない 。 ありた|ゆういち||ゆくえ||いま|||||||

警察 だって 、 もちろん 勇一 を 捜しちゃ いる だろう が 、 いざ 逮捕 さ れて 、 小峰 様 と の 関係 が 知れる と まずい 。 けいさつ|||ゆういち||さがしちゃ|||||たいほ|||こみね|さま|||かんけい||しれる|| 本当 は 、 その 前 に 僕 ら の 方 で 、 勇一 を 押え られる と いい んだ が ……」 ほんとう|||ぜん||ぼく|||かた||ゆういち||おさえ|||||

── 有田 勇一 ? ありた|ゆういち

綾子 とて 、 うち に 居候 して いる 勇一 の こと だ と いう の は 分 った 。 あやこ||||いそうろう|||ゆういち||||||||ぶん|

でも 、 どうして こんな 所 で 、 勇一 の 話 が 出る の か は 、 まるで 分 ら ない のである 。 |||しょ||ゆういち||はなし||でる|||||ぶん|||

「 それ が 無理 と なれば 、 早く やって のける しか ない 」 ||むり|||はやく||||

と 男 の 声 が 言った 。 |おとこ||こえ||いった

「 小峰 様 に 、 死んで いただく しか ない よ ……」 こみね|さま||しんで||||