三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 04
4 開いた トランク
どこまでも 続く 闇 の トンネル の ような 夜道 。
── その 奥 に 、 パッと 幻 の ように 、 明るい 光 が 見えて 来た 。
「 ドライブ ・ イン だ 。
── 一休み して 行 くかい ? ハンドル を 握って いた 国 友 は 、 ちょっと 後ろ の 座席 を 振り返って 、 思わず 笑って しまった 。
もちろん 、 深夜 の 長い ドライブ で 、 疲れて は いる のだろう 。
それ に 、 若い のだ し ……。
佐々 本家 の 三 姉妹 は 、 互いに もた れ 合って 、 いとも 安らかに 眠り 込んで いた のである 。
「 このまま 行き ます か 」
と 、 少し スピード を 落し ながら 、 国 友 は 、 助手 席 に 座った 石垣 園子 を 見た 。
「 あと どの くらい かかり ます ? 「 そう です ね 、 たぶん この 様子 なら ……、 二 時間 は かから ない と 思い ます わ 」
と 、 園子 は 言って 、「 でも 、 ずっと 運転 を お 任せ して しまって 、 お 疲れ で は あり ませ ん ?
何 でしたら 、 あそこ で 一息 ついて 行か れたら ──」
「 そう です ね 」
国 友 も 、 無理 は 避け たかった 。
何といっても 、 大事な 夕 里子 ── いや 他の 二 人 だって 大事だ が ── を 乗せて いる のだ 。 事故 は 起し たく ない 。
「 じゃ 、 この 子 たち は 起して も 可哀そうだ 。
手っ取り早く コーヒー でも 飲んで 来 ましょう か 」
国 友 は 、 車 を ドライブ ・ イン の 前 に 寄せた 。
別に 眠気 が さして いる わけで は ない が 、 ここ で 少し 休んで おか ない と 、 これ から 山道 を 上る と いう のに 、 途中 で 眠く なって 来たら 、 大変だ 。
「 じゃ 、 私 も ──」
と 園子 が シートベルト を 外して 、「 少し お腹 が 空き ました わ 。
軽く 食べる もの を ──」
と 、 いきなり 後ろ の 座席 から 、
「 私 も !
と 声 が 上った 。
珠美 が 、 眠 そうな 目 を こすり ながら 、
「 私 も !
お腹 ── 空いた んだ もん 」
欠 伸し ながら も 主張 する 、 その 逞 し さ に 、 国 友 は 吹き出して しまった 。
「 珠美 ったら ……」
夕 里子 は 、 もた れて いた 珠美 が 起き上って 、 ガクッ と 頭 が 落ち 、 目 が 覚めて しまった のである 。
「 何 よ 、 夕 里子 姉ちゃん だって 、 起きた じゃ ない の 」
「 おいおい 、 こんな 所 で ケンカ する な よ 。
── 綾子 君 は ? 綾子 は ただ 一 人 、 我が 道 を 行く と いう 感じ で スヤスヤ と 眠り 込んで いる 。
「 お 姉ちゃん は だめ 。
低 血圧 で 、 起こして も 三十 分 ぐらい は ボーッ と して る から 」
「 そう か 。
じゃ 、 寝か せて おこう 」
「 しばらく は あったかい でしょ 」
と 、 夕 里子 も 少々 無責任に 、 それ でも 一応 自分 が 膝 に かけて いた 毛布 を 綾子 の 肩 に かけて やって から 、 車 の 外 へ 出た 。
「 ワッ !
思わず 声 を 上げる 、 空気 の 冷た さ !
まるで 都心 と は 違う 。
「 もう 、 かなり 山 の 中 だ から ね 」
と 言う 国 友 の 言葉 も 、 白い 息 に なって 風 に 流れて 行く 。
「 きっと 向 うは 雪 です わ 」
と 、 園子 が 言った 。
「 じゃ 、 中 へ 入り ましょう 」
── 小さな ドライブ ・ イン で 、 もちろん 大した もの は なかった が 、 それ でも 、 こんな 場所 なら 、 ホットドッグ も ごちそう に なる 。
みんな ホットドッグ と コーヒー を 取って 、 一 息 つく 。
「── や あ 、 こりゃ 石垣 さん の 奥さん 」
── カウンター の 中 の 、 エプロン を した 中年 男 が 、 園子 を 見て 、 声 を かけた 。
「 あら 、 久しぶり ね 」
と 、 園子 は 笑顔 で 、「 東京 から 、 いつ 戻った の ?
「 もう 二 、 三 週間 前 です よ 。
こっち は 寒い ねえ 」
「 東京 に いる 方 が 楽でしょう に 」
「 貧乏 人 は 働か に ゃ 」
と 、 男 は 笑った 。
「── これ から 東京 です か ? 「 帰る ところ 」
と 、 園子 が 答える 。
「 そう です か 。
じゃ 、 ご 主人 と 一緒で 」
── 園子 の 顔 から 、 ふと 笑み が 消えた 。
夕 里子 は 、 それ に 気付いた 。
外 の 寒 さ で 、 いやで も 目 が 覚め 、 頭 も スッキリ して しまった せい だ 。
園子 は 、 ことさら に さりげない 調子 で 、
「 主人 も ここ に 寄った の ?
と 、 訊 いた 。
「 ええ 。
つい 一 時間 ぐらい 前 かな 。 これ から 帰る ところ だ と おっしゃって ね 。 ── ご 一緒じゃ なかった んです か ? 「 え ?
── いえ 、 もちろん 、 一緒 よ 。 ただ ── 帰り は 明日 に する と か 言って た ので 、 びっくり した だけ 」
いかにも 言い訳 だ 、 と 夕 里子 は 思った 。
なぜ だろう ?
「 じゃ 、 もう 奥さん が お 帰り に なって る と 思って おら れた の かも しれ ませ ん ね 」
「 そう ね 。
── 追い越さ れた の かも 」
園子 は 、 窓 の 外 へ 目 を やって 、「 また お 客 さん だ わ 」
と 言った 。
話 を そらす ため の 言葉 だ 、 と 分 った 。
夕 里子 は 、 チラッ と 国 友 の 方 を 見た が 、 国 友 は 、 運ば れて 来た コーヒー ( と いう より お 湯 に 近かった が ) を 飲み ながら 、 置いて あった スポーツ 新聞 を 広げて いる 。
園子 は 、 明らかに 、 夫 が 東京 へ 行って いた こと を 知ら なかった のだ 。
それ を 知って 、 急に 、 あの 穏やかな 顔 が こわばった 。
そう 。
── 夫 に 愛人 が いる の かも しれ ない 。 東京 に いて 、 時々 会い に 行って る と したら ?
夫 が 、 こんな 時間 に 、 あわてて 妻 より 先 に 山荘 へ 戻ろう と する の も 分 る と いう もの だ 。
それ に ── 園子 が 、 こんな 夜中 に 車 を 走ら せて まで 、 今夜 中 に 山荘 へ 着こう と して いる の も 、 夫 の 在宅 を 確かめ たい と いう 気持 から だった ので は ……。
夕 里子 と して も 、 証拠 の ない 推測 に 過ぎ ない と いう 点 は 認め ざる を 得 なかった が 、 しかし 、 こういう こと を 考えて いる と 、 やたら 楽しく なっちゃ う んだ から 、 全く 、 困った 女の子 である !
── 新しい 客 は 、 かなり にぎやか そうだった 。
小型の 車 から ゾロゾロ と 出て 来た の は 、 若い 、 高校 生 ぐらい の グループ で ……。
「 寒い よう !
と 、 店 の 中 へ 飛び 込んで 来た の は ……。
「 敦子 !
と 、 夕 里子 は 目 を 丸く した 。
「 夕 里子 じゃ ない !
片 瀬 敦子 である 。
「 それ に ── 国 友 さん まで ! 高校 の 、 夕 里子 の 親友 だ 。
── まさか こんな 所 で 、 と 二 人 が びっくり して 顔 を 見合わせて いる と 、 敦子 の 他 の 面々 が ドッと 入って 来て 、 突っ立って いた 敦子 は 、 弾き 飛ばさ れ そうに なって しまった 。
「 キャッ !
「 何 だ 、 おい 、 何 を こんな 所 に 突っ立って んだ よ 」
「 吾郎 !
ほら 、 夕 里子 よ 」
「 夕 里子 ?
── 馬鹿 、 こんな 所 に あの うるさい の が いる わけ ──。 本当だ 」
「 うるさくて 悪かった な 」
と 、 夕 里子 が 言い 返した 。
「 ちょっと ツラ 貸し な 」
「 お 姉ちゃん 、 国 友 さん の 前 だ よ 」
と 、 珠美 が つつく 。
「 百 年 の 恋 も さめちゃ う から 」
「 二 、 三 年 の 恋 なら 大丈夫 よ 」
と 、 夕 里子 は 、 いい加減な こと を 言った 。
「 でも ── びっくり した !
「 どっち が 」
と 、 敦子 は 言った 。
「 夕 里子 、 旅行 に は 出 ない って 言って た じゃ ない の 」
「 急に 事情 が 変った の 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 そっち は 何の グループ ? 「 文芸 部 の 合宿 よ 」
「 あ 、 そう か 。
── 水谷 先生 、 こんにち は 」
「 や あ 、 佐々 本 か !
水谷 は 高校 の 現代 国語 の 教師 である 。
しかし 、 たいてい 、 新入 生 は 誰 でも 、
「 あの 人 、 体育 の 先生 でしょ 」
と 言う のだ 。
確かに 、 イメージ と して は 、 上 背 も あり 、 逞 しく 、 スポーツマン の 印象 。
そして 、 実際 、 スポーツ 万能 な のである 。
女子 学生 に は 、 大いに もてて いる 。
特に 、 二十四 歳 の 若 さ で 独身 !
「── 独身 ?
国 友 は 思わず 訊 き 返した 。
「 あの ── いかつい ゴリラ みたいな 奴 が ? 「 ゴリラ は ない でしょ 」
夕 里子 が 国 友 を にらむ 。
「 ハンサムじゃ ない 。 凄い 人気者 な の よ 、 学校 じゃ 」
「 そう かね ……」
国 友 は 、 面白く な さ そうな 顔 で 、 その テーブル の 方 を 見 やった 。
「 スポーツ 万能 、 授業 は 面白い し 、 その 上 、 詩人 な の 」
「 死人 ?
「 詩人 。
ポエト 。 ── 分 る ? 「 それ ぐらい 分 る !
と 、 国 友 は むき に なって 言った 。
「 僕 だって 、 詩 ぐらい 知って る 。 〈 山 の かなた の 空 遠く 、 山 の あなた は 今 いずこ 〉」
珠美 が ギャハハ 、 と 笑い 出した 。
「── あの ね 、 水谷 先生 は 、 本物 の 詩人 な の 。
詩 の 雑誌 に も 時々 出て る し 、 詩集 も 二 冊 出して る の よ 」
「 ふん 。
── ま 、 結構だ ね 」
と 国 友 は そっぽ を 向いた 。
何の こと は ない 、 妬 いて る のである 。
── 片 瀬 敦子 が 、 夕 里子 たち の テーブル へ やって 来る と 、
「 座って いい ?
「 うん 。
もちろん 。 ── あっ ち は いい の ? 「 一 人 、 はみ出して る の 」
と 、 敦子 は 言った 。
「 美人 は 辛い 」
「 よく 言う よ 」
と 、 夕 里子 は 肘 で つついた 。
「 あら 、 綾子 さん は ?
と 、 敦子 が 訊 く 。
「 うん 、 車 の 中 で 寝て る 」
「 へえ 。
寒く ない ? 「 さあ ね 。
── 珠美 、 ちょっと 見て 来て 」
「 や だ よ 。
この 寒い のに 」
「 あんた 一 番 若い の よ 」
「 関係 ない !
脂肪 の 厚み は お 姉ちゃん の 方 が 上 」
「 何 よ 、 その 言い 方 。
── じゃ 、 ほれ 、 百 円 」
「 ケチ !
── ま 、 いい や 」
百 円 玉 を ポケット に 入れ 、 珠美 は 、 立ち上った 。
さて ── 車 の 中 で 眠って いた 綾子 の 方 は 、 と 言えば ……。
ウーン ……。
綾子 は 、 ちょっと 呻き声 を 上げて 、 身動き した 。
── と 思ったら 、 ドサッ と 横倒し に なって しまった 。
これ で は 、 いくら 鈍い 綾子 でも 、 目 が 覚めよう と いう もの である 。
それ に ── いやに 寒かった 。
ブルッ と 身震い して 、 綾子 は 目 を 開いた 。
「 夕 里子 ──。
珠美 ? 車 の 中 に は 誰 も い ない 。
「 寒い ! 見れば 、 窓 が 開いて いる のだ 。
これ じゃ 寒い はずである 。
車 は 停 って いて 、 国 友 も 石垣 園子 の 姿 も 見え ない 。
でも ── あの 明り は ?
綾子 は 、 やっと 車 が ドライブ ・ イン の 前 に 停 って いる の に 気付いた 。
そう か 。
じゃ 、 みんな 、 あの 店 に 入って る んだ わ 。 それにしても 、 私 一 人 、 置いて く なんて !
きっと 夕 里子 が 、 お 姉ちゃん は どうせ 低 血圧 だ から 、 起き やしない わ よ 、 と か 言った んだ わ 。
綾子 の 推理 も 、 時に は 当る こと が ある 。
「 私 も 行こう か な ……」
と 、 綾子 は ブル ブルッ と 、 犬 みたいに 頭 を 振って 、 窓越し に 、 ドライブ ・ イン の 方 を 見 やった 。
その 反対 側 の 、 開いた 窓 から ── 白い 手 が 、 そっと 中 へ 伸びて 来る 。
綾子 は まるで 気付か なかった 。
その 手 は 、 綾子 の 首 へ と 伸びて 来た 。
そして 、 指 を 一杯に 広げる と 、 つかみ かかろう と ……。
「 ハックション !
綾子 は 派手に クシャミ を した 。
白い 手 は 、 パッと 引っ込んだ 。
「 ああ 、 これ じゃ 風邪 引いちゃ う ……」
と 、 綾子 は 反対 側 の 窓 ヘヒョイ と 目 を やった 。
そこ に は もう 、 白い 手 は 見え なかった 。
「 閉め とか なきゃ 」
綾子 は 、 その 窓 の ガラス を 上げる と 、「 これ で よし 、 と ──」
向き直って ドア を 開けよう と ──。
「 キャッ !
窓 の 所 に グッと 顔 を 押しつけて いる の は ── 珠美 だった 。
「 びっくり さ せ ないで よ !
と 、 綾子 は ドア を 開けて にらんだ 。
「 起きて る と は 思わ なかった んだ もん 」
「 私 だけ 除け者 に して ……」
「 すね ない の 。
── しわ が ふえる よ 」
「 大きな お 世話 よ 」
二 人 は 、 ドライブ ・ イン へ と 入って 行った ……。
「 あれ が 金田 吾郎 君 」
と 、 夕 里子 が 、 紹介 して いる 。
「── ね 、 敦子 」
「 うん ?
「 金田 君 の 隣 の 子 は ?
「 ああ 、 あの 子 、 うち の 高校 じゃ ない の 」
「 でしょ ?
見た こと ない もの 」
「 金田 君 の ガールフレンド よ 」
「 へえ !
文芸 部 って 、 そんな 合宿 が ある の ? 「 まさか 。
ちゃんと 水谷 先生 の 許可 が 取って ある わ よ 。 彼女 ね 、 美人 でしょ ? 「 うん 」
と 肯 いた の は 、 国 友 だった 。
「── ああ 、 もちろん 、 君 たち ほど じゃ ない けど 」
「 わざとらしい の よ 」
「 ね ー え 」
夕 里子 と 敦子 に にらま れて 、 国 友 は あわてて 、 目 を そらした 。
「── あの 子 、 川西 みどり って いう の 。
種 を あかせば ね 、 水谷 先生 の いとこ な んだ 」
「 そう な の 」
と 、 夕 里子 は 肯 いた 。
確かに 美人 である 。
美人 、 と いう 点 で は 敦子 も かなり 目立つ 方 だ が 、 川西 みどり は 、 どこ か 冷たい 、 妖し さ さえ 感じ させる 美人 で 、 その 雰囲気 は 、 敦子 に も ない もの だった 。
「 金田 君 に ゃ 、 もったいない 」
テーブル が 離れて いる から 、 夕 里子 は 、 勝手な こと を 言って いた 。
「── 楽し そうで いい わ ね 」
と 、 その 様子 を 見て いた 石垣 園子 が 微笑み ながら 言った 。
「 みなさん に も 、 泊 って いただき たかった わ 」
「 分 って りゃ 、 民宿 、 予約 し なかった のに なあ !
と 、 敦子 は 悔し がって いる 。
「 キャンセル したら ?
「 まさか 。
これ だけ の 人数 よ 。 そんな わけ に いか ない 」
「 それ も そう ね 。
── ま 、 敦子 は せいぜい 、 孤独 を 楽しんで ちょうだい 」
「 あ !
夕 里子 ったら 、 国 友 さん が いる と 思って ……」
「 あら 、 私 も 孤独 よ 。
ねえ 、 国 友 さん 」
「── もう 勘弁 して くれ よ 」
と 、 国 友 が 情 ない 顔 で 言った 。
「 夕 里子 」
と 、 やっと 目 が 覚めた 様子 の 綾子 が 言った 。
「 雪 だ わ 」
── 本当だった 。
暗い 夜 に 漂う ように 、 白く 雪 片 が 風 に 舞って いる 。
「 や あ 、 本当だ 」
国 友 は 大きく 伸び を して 、「 積ら ない 内 に 、 出かけよう か 」
「 待って 。
お 姉ちゃん が まだ ココア 飲んで る から 」
「 あ 、 そう か 。
── ごめん 。 じゃ 、 先 に 行って エンジン かけ とく よ 。 ゆっくり おい で 」
「 はい 」
綾子 は そう 言って から 、「 窓 、 閉め とき ました から 」
立ち上って 、 歩き かけた 国 友 は 、 振り向いて 、
「 窓 ?
「 ええ 。
開いて た から 」
「 まさか 。
── 閉って た はずだ よ 」
「 そう よ 。
開いて りゃ 分 る よ 」
と 、 珠美 が 言った 。
「 だって ……。
本当に 開いて た の よ 」
「 じゃ 、 ずっと 、 窓 、 開けた まま 寝て たって いう の ?
夕 里子 は 笑って 、「 じゃ 、 お 姉ちゃん 、 とっくに 凍死 して る 」
「 人 を からかって !
だって 本当に ──」
「 夢 、 見た んでしょ 」
「 本当 よ ……」
しかし 、 そう 人 から 言わ れる と 、 強く 言い 返せ ない の が 、 綾子 である 。
しかも 、 その 内 に は 、 本当に 自分 の 方 が 間違って いた ような 気 に なって 来て しまう 。
国 友 が 肩 を すくめて 、
「 ま 、 この 寒い 中 で 、 泥棒 も 出 ない だろう 」
と 言って 、 出口 の 方 へ 歩き 出した 。
「 あ 、 それ から 、 後ろ の トランク が 開いて た みたい 」
と 、 綾子 が また 言った 。
「── お 姉ちゃん 、 大丈夫 ?
「 幻覚 を 見る ように なる と 、 重症 だ よ 」
と 、 珠美 は 言った 。
「 原因 は ? 失恋 ? 「 姉 を からかう んじゃ ない の 」
と 、 にらんで 、 綾子 は ココア を ガブッ と 飲み 、「 アチッ !
と 、 悲鳴 を 上げた 。
国 友 は 、 外 へ 出る と 、 吹きつけて 来る 寒風 、 そして 雪 片 に 目 を 細く した 。
一 段 と 、 寒く なって いる ようだった 。
車 の 方 へ と 駆けて 行く 。
── ロック を 開け 、 ドア に 手 を かけて ……。 何となく 、 後ろ へ 回って みた 。
トランク が 、 少し 開いて いる 。
綾子 の 言った 通り だ 。
国 友 は 、 大きく 持ち 上げて みた 。 ── 荷物 が 入って いる だけ だ 。
しかし ── 綾子 の 言った 通り だった のだ 。
すると 、 窓 の こと も ?
国 友 は 、 ドア を 開け 、 運転 席 に 座った 。
── 十 分 ほど して 、 夕 里子 たち も 席 を 立って 表 に 出た 。
「 早く 乗 ろ !
凍えちゃ う ! 珠美 が 走り 出す 。
── 夕 里子 と 綾子 は 、 石垣 園子 が 支払い を 終えて 出て 来る の を 待って いた 。
「── ちょっと すみません 」
川西 みどり が 、 戸 を 開けて 出て 来た 。
「 夕 里子 さん って 、 あなた です か 」
「 ええ 。
── 何 ? 川西 みどり は 、 不思議な 眼差し で 、 夕 里子 を 見つめて 、
「 あなた の 顔 、 死 相 が でて る わ 」
と 言った 。
「 ええ ?
夕 里子 は 思わず 訊 き 返した 。
「 あなた 、 死ぬ わ よ 。
── 気 を 付けて 。 むだでしょう けど 」
それ だけ 言う と 、 呆 気 に 取ら れて いる 夕 里子 を 残して 、 さっさと 店 の 中 へ 戻って 行って しまう 。
入れ違い に 、 石垣 園子 が 出て 来た 。
「 お 待た せ した わ ね 。
── 行き ましょう 」
「 ええ 」
夕 里子 は 、 姉 を 促して 、 歩き 出した 。
何 だろう 、 あの 子 は ?
金田 君 も 、 変な ガールフレンド 作った もん だ な ……。
石垣 園子 を 助手 席 に 、 佐々 本 三 姉妹 は 後部 席 に 並んで 落ちつき 、
「 じゃ 、 行こう 」
と 、 国 友 は 、 車 を スタート さ せた 。
「 夕 里子 姉ちゃん 、 ほら 、 手 、 振って る よ !
珠美 に 言わ れて 、 夕 里子 は 、 ドライブ ・ イン の 方 へ 目 を やった 。
白く くもった ガラス を 手 で こすって 、 敦子 が 手 を 振って いる 。
夕 里子 も 手 を 振り 返した 。
車 が 道路 へ 出て 、 走り 出す とき 、 夕 里子 は 、 少し 離れた 窓 の ところ に 、 あの 川西 みどり らしい 姿 が 、 ぼんやり と 立って いる の を 、 目 に 止めた 。
それ は 、 くもった ガラス 越し の 、 白い 影 に 過ぎ なかった が 、 しかし 、 夕 里子 に は 、 川西 みどり に 違いない 、 と 思えた 。
そして 、 見えた はず が ない のに 、 川西 みどり が 、 冷ややかに 笑って いる ように 思えて なら なかった ……。