×

Utilizziamo i cookies per contribuire a migliorare LingQ. Visitando il sito, acconsenti alla nostra politica dei cookie.


image

銀河英雄伝説 01黎明篇, 第三章 帝国の残照 (1)

第 三 章 帝国 の 残照 (1)

Ⅰ 優美に 彎曲 した 特殊 ガラス の 壁面 の 彼方 に 、 釣鐘 の かたち を した 奇 岩 が 林立 して いる 。 その 背景 と なる 空 に は 黄昏 が 音 も なく 翼 を ひろげ 、 水分 の すくない 空気 の 微 粒子 が 、 見る 者 の 視界 全体 を 、 底 知れ ぬ 青 さ に 染め あげる か と 想わ れた 。

腰 の 背後 で かるく 両手 を くみあわせて 壁 ぎ わに たたずんで いた 人物 が 、 首 だけ を うごかして 室 内 を かえりみた 。 その 視線 の さき に 、 大きな 白 亜 の 操作 卓 が すえ られ 、 傍 に は 初老 の 男 が 姿勢 正しく 立って いる 。

「 する と ……」

壁 ぎ わ の 人物 が 声 を 発した 。 おもおもしい ひびき を もつ 、 太い 男 の 声 であった 。

「…… 帝国 軍 が 勝った 、 ただし 勝ち すぎ は し なかった と 、 そう いう わけだ な 、 ボルテック 」

「 さ ようです 、 自治 領主 。 同盟 軍 は 敗れ は し ました が 、 全軍 崩壊 と いう まで に は たち いたりません でした 」 「 態勢 を たてなおした か ? 」 「 態勢 を たてなおし 、 反撃 して 一 矢 を むくいて も おります 。 全体 と して 帝国 軍 の 勝利 は うごかし がたい のです が 、 同盟 軍 も 殴ら れっぱなし と いう わけで も ありません ので …… わが フェザーン と して は 、 まず 満足 べき 結果 を えた 、 と 、 こう 申して も よろしい か と 存じます が 、 いかがでしょう 、 自治 領主 」 壁 ぎ わ の 男 ―― 第 五 代 フェザーン 自治 領主 の アドリアン ・ ルビンスキー は 身体 ごと 室 内 に むきなおった 。

異 相 であった 。 年齢 は 四〇 歳 前後 か と 思わ れる が 、 頭部 に は 一 本 の 毛髪 も ない 。 肌 は 浅黒い 。 眉 、 目 、 鼻 、 口 など 顔 の 造作 は すべて 大きく 、 美男 子 と は 称し がたい が 他者 に 強烈な 印象 を あたえ ず に は おか ない 風貌 である 。 その 身体 は 上 背 に 恵まれて いる だけ で なく 、 肩 幅 が 広く 、 胸 郭 は たくましく 、 圧倒 的な 精気 と 活力 を みなぎら せて いる ようだ 。

在任 五 年 、〝 フェザーン の 黒 狐 〟 と 帝国 ・ 同盟 の 双方 から にがにがしく 呼称 されて いる 中継 交易 国家 の 終身 制 統治 者 、 それ が 彼 だった 。 「 そう 満足 して も い られ ん ぞ 、 ボルテック 」

皮肉 そうな 視線 と 声 を 、 異 相 の 自治 領主 は 腹心 の 補佐 官 に 投げかけた 。

「 その 結果 が もたらさ れた の は 偶然であって 、 そう なる ように 吾々 が 努力 した から で は ない 。 将来 も 幸運 ばかり を あて に して は い られ んだろう 。 情報 の 収集 分析 を いちだん と 活発に して 、 切札 の 数 を ふやして おく べきだろう な 」

黒い タートルネック の セーター に 淡 緑色 の スーツ ―― およそ 一 国 の 支配 者 らしから ぬ 軽装 の ルビンスキー は 、 悠然たる 歩調 で 操作 卓 に 歩みよった 。

ボルテック の 手 が うごいて 、 操作 卓 の 中央 ディスプレイ に 、 ある 図 を 映しだした 。

「 これ が 両軍 の 配置 図 です 。 天 頂 方向 から 俯 瞰 した もの です 、 ごらん ください 」

それ は 三 日 前 に 、 キルヒアイス が ラインハルト に しめした もの と 同一だった 。 帝国 軍 が 赤 、 同盟 軍 が 緑 。 赤い 矢印 に むかって 緑 の 矢印 が 三 本 、 前面 と 左右 から 迫って いる 。 矢印 を 点 と すれば 、 緑 点 を 頂点 と した 三 角形 の 内心 に 赤 点 が 位置 して いる ように も みえた 。

「 艦艇 の 数 は 帝国 軍 が 二万 隻 、 同盟 軍 が 合計 四万 隻 でした 。 数 的に は 同盟 軍 が 圧倒 的に 有利だった のです 」

「 位置 的に も な 。 三方 から 帝国 軍 を 包囲 する 態勢 だ 。 しかし 待てよ 、 こいつ は ……」

ルビンスキー は 太い 指 で 額 の 端 を おさえた 。

「 こいつ は たしか 、 百 年 以上 も 昔 に 、〝 ダゴン の 殲滅 戦 〟 で 同盟 軍 が 使った 陣形 じゃ ない か 。 夢 よもう 一 度 と いう わけ か 、 進歩 の ない 奴 ら だ 」

「 しかし 用 兵 学 上 は 論理 的な 作戦 です 」

「 はん ! 机上 の 作戦 は いつ だって 完璧に 決 まっとる さ 。 だが 実戦 は 相手 あって の もの だ から な 。 帝国 軍 の 総 指揮 官 は 例の 金髪 の 孺子 だった な 」

「 さ ようで 、 ローエングラム 伯 です 」

ルビンスキー は 悦 に いった ような 笑い声 を たてた 。 五 年 前 、 急死 した 前任 者 ワレンコフ の あと を ついで 、 当時 三六 歳 の 彼 が 政権 を にぎった とき 、 反対 派 は 五〇 代 の 老練な 候補 者 を 擁して 、 三〇 代 の 元首 など 若 すぎる と 騒ぎたてた もの だ 。 ところが ローエングラム 伯 と きて は 、 当時 の 彼 より さらに 一六 歳 も 若い のである 。 先例 だの 習慣 だ の を 口 に する しか 能 の ない 老 兵 ども に は 、 不愉快な 時代 が 、 どうやら 到来 し つつ ある らしい 。

「 この 危機 を 、 ローエングラム 伯 は いかに して 切りぬけた か 、 自治 領主 に は お わかり です か ? 」 ボルテック の 口調 に 、 楽しむ ような ひびき が ある 。 異 相 の 自治 領主 は 補佐 官 を ちらり と 見る と 、 ディスプレイ に 見いった 。 そして 、 こともなげに 断言 した 。

「 敵 が 分散 して いる 状況 を 利用 して 各 個 撃破 だ な 。 それ しか ある まい 」

補佐 官 は 頰 を 殴ら れた ような 表情 で 、 彼 の 政治 的 忠誠 の 対象 を 見 やった 。

「 おっしゃる とおり です 。 いや 、 ご 炯眼 おそれいり ました 」

ルビンスキー は ふてぶてしい ほど おちついた 微笑 で 、 その 讃辞 を うけとめた 。

「 専門 家 が 素人 に おくれ を とる 場合 が 、 往々 に して ある 。 長所 より 短所 を 、 好機 より 危機 を みて しまう から だ 。 この 双方 の 布陣 を みれば 、 専門 家 は 包囲 さ れた 帝国 軍 の 敗北 は 必至 と 思いこんで しまう だろう な 。 だが 、 まだ 包囲 網 が 完成 さ れた わけで は ない し 、 兵力 が 分散 して いる 同盟 軍 の ほう に むしろ 危機 的 状況 が みられる の さ 」 「 おっしゃる とおり です な 」

「 要するに 同盟 軍 は ローエングラム 伯 ラインハルト の 指揮 能力 を 過小 評価 した と いう わけだ 。 まあ 、 無理 も ない こと だ が な 。 具体 的な 状況 の 変化 を みせて もらおう か 」

ボルテック の 操作 に したがって 、 ディスプレイ に 映しださ れた 図 型 が 躍動 し 変化 して いった 。 赤い 矢 が 緑色 の 矢 の 一 本 に むけて 急速に 直進 し 、 それ を 粉砕 した あと 、 反転 して いま 一 本 の 緑 の 矢 を 消滅 さ せ 、 さらに 方向 を 転じて 三 本 目 の 緑 の 矢 に 対峙 する 状況 を 、 自治 領主 は 両眼 を 細めて 見まもった 。 操作 の 停止 を 命じ 、 ディスプレイ を 注視 した まま 歎息 する 。

「 理想 的な 各 個 撃破 だ な 。 ダイナミックで アクティブな 用 兵 だ 。 みごとな もの だ が ……」

語 を きって 首 を かしげる 。

「 しかし 、 ここ まで 状況 が 変化 すれば 、 帝国 軍 の 勝利 は ほとんど 完全な もの と なって いる はずだ 。 この 段階 から 同盟 軍 が 劣勢 を 挽回 する の は 容易で は ない ぞ 。 全軍 崩壊 、 敗走 と いう 事態 に なって 当然だ 。 同盟 軍 の 第 三 部隊 は 誰 が 指揮 して いた ? 」 「 最初 は パエッタ 中将 です 。 しかし 戦闘 開始 後 、 旗 艦 が 被弾 して 重傷 を おい 、 その後 は 次 席 幕僚 ヤン ・ ウェンリー 准将 が 指揮 権 を うけつぎ ました 」

「 ヤン ・ ウェンリー …… 聞いた こと が ある 名 だ が 」

「 八 年 前 エル ・ ファシル 脱出 作戦 を 指揮 した 男 です 」

「 ああ 、 あの とき の 」

ルビンスキー は 納得 した 。

「 なかなか おもしろい 男 が 同盟 に も いる と 思って いた が …… で 、 エル ・ ファシル の 英雄 は どう 兵 を うごかした のだ ? 」 ルビンスキー の 質問 に 応じて 首席 補佐 官 は ディスプレイ を 操作 し 、〝 アスターテ 会戦 〟 の 最終 段階 の 戦況 を 上司 に しめした 。 緑 の 矢 が 左右 に 分かれ 、 その 機先 を 制する か の ごとく 赤い 矢 が 急進 して 中央 突破 を はかる 。 左右 に 分断 さ れた か に みえる 緑 の 矢 が 、 赤い 矢 の 両 側面 を 逆 進 し 、 後 背 に でて 合流 し 、 赤い 矢 の 後方 から 襲いかかった ……。

ルビンスキー は 低く うめいた 。 これほど 洗練 さ れた 戦術 を 駆使 する 指揮 官 が 同盟 軍 に いた と は 予想外だった 。

しかも 全軍 崩壊 の 危機 に 直面 して 、 これほど 冷静に 戦況 を 把握 し 、 事態 に 対処 し うる と は 、 ローエングラム 伯 以上 に 凡物 で は あり え ない 。

第 五 代 フェザーン 自治 領主 は しばらく 、 ディスプレイ に 視線 を 凍結 さ せて いた 。

「 なかなか 興味深い 魔術 を 見た な 」

やがて 、 ルビンスキー は ディスプレイ の 映像 を 消す よう 手ぶり で 命じた 。 それ に したがった あと 、 ボルテック は 一 歩 退いて つぎの 指示 を 待った 。

「 ヤン ・ ウェンリー 、 だった な 、 その 准将 に ついて 至急 データ を 集める よう 、 ハイネセン の 高等 弁 務 官 事務 所 に 指令 を だせ 。 エル ・ ファシル の 件 が まぐれ など で ない こと が よく わかった 」

「 かしこまり ました 」

「 どんな 組織 でも 機械 でも 、 運用 する の は しょせん 、 人間 だ 。 上位 に たつ 者 の 才 幹 と 器量 しだい で 、 虎 が 猫 に も なり その 逆に も なる 。 虎 の 牙 が どちら を むく か 、 これ も また 猛獣 使い しだい だ 。 くわしく 人がら を 知って おくに しく は ない 」

それ に よって 使途 も できる 、 と 考え ながら 、 ルビンスキー は 補佐 官 を 退室 さ せた 。

恒星 フェザーン は 四 個 の 惑星 を したがえて いる 。 その 三 個 まで は 高熱 の ガス の 塊 であり 、 第 二 惑星 のみ が 硬い 地殻 を 所有 して いた 。 気体 の 組成 分 は 人類 の 故郷 である 太陽 系 第 三 惑星 と ほとんど ことなら ない 。 八 割 ちかく の 窒素 と 二 割 ちかく の 酸素 ―― 最大 の 差異 は 本来 、 二 酸化 炭素 を 欠く こと で 、 したがって 植物 が 存在 し なかった 。

水 も すくない 。 藍 藻類 から 順次 、 高等な 植物 種子 の 散布 へ と すすんだ 惑星 緑化 も 、 地表 の 全域 を 緑 の 沃野 と 化せ しめる に は いたら ず 、 水利 の よい 地域 のみ が 緑色 の 帯状 に 惑星 表面 を いろどって いる 。 赤い 部分 は 岩 砂漠 の 荒野 で 、 侵 蝕 と 風化 の すすんだ 地形 が 奇 景奇 観 を 誇って いた 。

フェザーン は 恒星 の 名 である と 同時に 、 唯一 の 有人 地 である 第 二 惑星 の 名 であり 、 星 系 全体 の 名 であり 、 それ を 領域 と して 帝国 暦 三七三 年 に 成立 した 自治 領 の 名 である 。 軍隊 は 少数 の 警備 艦隊 のみ で 、 二〇億 人 の フェザーン 人 は 帝国 ・ 同盟 間 の 交易 路 を 支配 し 、 利益 を あげる こと に 情熱 を かたむけて きた 。 かたち と して は 帝国 に 従属 し ながら 、 事実 上 は 完全に ちかい 政治 的 独立 を たもち 、 経済 力 に いたって は 両 大国 を 凌 駕 する 勢い を すら しめして いる 。

だが 今日 に いたる 道程 が 平坦で なかった の は むろん の こと で 、 初代 の レオポルド ・ ラープ 以来 、 歴代 の 自治 領主 は , その 地位 を 安泰に する ため の 政治 工作 に 腐心 して きた 。 その 国是 は 、〝 侮り を うける ほど 弱から ず 、 恐怖 さ れる ほど 強から ず 〟 であった のだ が 、〝 帝国 四八 、 同盟 四〇 、 フェザーン 一二 〟 と いう 勢力 比 の 数値 が 、 半 世紀 来 まったく 変化 し ない と いう 事実 が 、 フェザーン 為政 当局 の 苦心 を 如実に しめして いた 。

帝国 と フェザーン の 勢力 を 合 すれば 、 同盟 より 有利な 立場 と なる が 、 それ でも 同盟 を 滅ぼす の は 困難である 。 逆に 、 同盟 と フェザーン が 連合 すれば 、 帝国 を 凌 駕 する こと が 可能だ が 、 圧倒 する と まで は いか ない 。

この 芸術 的な まで に 微妙な バランス を 維持 する こと が 、 フェザーン の 政 戦 両 略 の 真骨頂 であった 。 強く なり すぎて は いけない 。


第 三 章 帝国 の 残照 (1) だい|みっ|しょう|ていこく||ざんしょう

Ⅰ 優美に 彎曲 した 特殊 ガラス の 壁面 の 彼方 に 、 釣鐘 の かたち を した 奇 岩 が 林立 して いる 。 ゆうびに|わんきょく||とくしゅ|がらす||へきめん||かなた||つりがね|||||き|いわ||りんりつ|| その 背景 と なる 空 に は 黄昏 が 音 も なく 翼 を ひろげ 、 水分 の すくない 空気 の 微 粒子 が 、 見る 者 の 視界 全体 を 、 底 知れ ぬ 青 さ に 染め あげる か と 想わ れた 。 |はいけい|||から|||たそがれ||おと|||つばさ|||すいぶん|||くうき||び|りゅうし||みる|もの||しかい|ぜんたい||そこ|しれ||あお|||しめ||||おもわ|

腰 の 背後 で かるく 両手 を くみあわせて 壁 ぎ わに たたずんで いた 人物 が 、 首 だけ を うごかして 室 内 を かえりみた 。 こし||はいご|||りょうて|||かべ|||||じんぶつ||くび||||しつ|うち|| その 視線 の さき に 、 大きな 白 亜 の 操作 卓 が すえ られ 、 傍 に は 初老 の 男 が 姿勢 正しく 立って いる 。 |しせん||||おおきな|しろ|あ||そうさ|すぐる||||そば|||しょろう||おとこ||しせい|まさしく|たって|

「 する と ……」

壁 ぎ わ の 人物 が 声 を 発した 。 かべ||||じんぶつ||こえ||はっした おもおもしい ひびき を もつ 、 太い 男 の 声 であった 。 ||||ふとい|おとこ||こえ|

「…… 帝国 軍 が 勝った 、 ただし 勝ち すぎ は し なかった と 、 そう いう わけだ な 、 ボルテック 」 ていこく|ぐん||かった||かち||||||||||

「 さ ようです 、 自治 領主 。 |よう です|じち|りょうしゅ 同盟 軍 は 敗れ は し ました が 、 全軍 崩壊 と いう まで に は たち いたりません でした 」 どうめい|ぐん||やぶれ|||||ぜんぐん|ほうかい|||||||| 「 態勢 を たてなおした か ? たいせい||| 」 「 態勢 を たてなおし 、 反撃 して 一 矢 を むくいて も おります 。 たいせい|||はんげき||ひと|や|||| 全体 と して 帝国 軍 の 勝利 は うごかし がたい のです が 、 同盟 軍 も 殴ら れっぱなし と いう わけで も ありません ので …… わが フェザーン と して は 、 まず 満足 べき 結果 を えた 、 と 、 こう 申して も よろしい か と 存じます が 、 いかがでしょう 、 自治 領主 」 ぜんたい|||ていこく|ぐん||しょうり||||の です||どうめい|ぐん||なぐら||||||||||||||まんぞく||けっか|||||もうして|||||ぞんじます|||じち|りょうしゅ 壁 ぎ わ の 男 ―― 第 五 代 フェザーン 自治 領主 の アドリアン ・ ルビンスキー は 身体 ごと 室 内 に むきなおった 。 かべ||||おとこ|だい|いつ|だい||じち|りょうしゅ|||||からだ||しつ|うち||

異 相 であった 。 い|そう| 年齢 は 四〇 歳 前後 か と 思わ れる が 、 頭部 に は 一 本 の 毛髪 も ない 。 ねんれい||よっ|さい|ぜんご|||おもわ|||とうぶ|||ひと|ほん||もうはつ|| 肌 は 浅黒い 。 はだ||あさぐろい 眉 、 目 、 鼻 、 口 など 顔 の 造作 は すべて 大きく 、 美男 子 と は 称し がたい が 他者 に 強烈な 印象 を あたえ ず に は おか ない 風貌 である 。 まゆ|め|はな|くち||かお||ぞうさく|||おおきく|びなん|こ|||そやし|||たしゃ||きょうれつな|いんしょう||||||||ふうぼう| その 身体 は 上 背 に 恵まれて いる だけ で なく 、 肩 幅 が 広く 、 胸 郭 は たくましく 、 圧倒 的な 精気 と 活力 を みなぎら せて いる ようだ 。 |からだ||うえ|せ||めぐまれて|||||かた|はば||ひろく|むね|かく|||あっとう|てきな|せいき||かつりょく|||||

在任 五 年 、〝 フェザーン の 黒 狐 〟 と 帝国 ・ 同盟 の 双方 から にがにがしく 呼称 されて いる 中継 交易 国家 の 終身 制 統治 者 、 それ が 彼 だった 。 ざいにん|いつ|とし|||くろ|きつね||ていこく|どうめい||そうほう|||こしょう|||ちゅうけい|こうえき|こっか||しゅうしん|せい|とうち|もの|||かれ| 「 そう 満足 して も い られ ん ぞ 、 ボルテック 」 |まんぞく|||||||

皮肉 そうな 視線 と 声 を 、 異 相 の 自治 領主 は 腹心 の 補佐 官 に 投げかけた 。 ひにく|そう な|しせん||こえ||い|そう||じち|りょうしゅ||ふくしん||ほさ|かん||なげかけた

「 その 結果 が もたらさ れた の は 偶然であって 、 そう なる ように 吾々 が 努力 した から で は ない 。 |けっか||||||ぐうぜんであって|||よう に|われ々||どりょく||||| 将来 も 幸運 ばかり を あて に して は い られ んだろう 。 しょうらい||こううん||||||||| 情報 の 収集 分析 を いちだん と 活発に して 、 切札 の 数 を ふやして おく べきだろう な 」 じょうほう||しゅうしゅう|ぶんせき||||かっぱつに||きりふだ||すう|||||

黒い タートルネック の セーター に 淡 緑色 の スーツ ―― およそ 一 国 の 支配 者 らしから ぬ 軽装 の ルビンスキー は 、 悠然たる 歩調 で 操作 卓 に 歩みよった 。 くろい|||せーたー||あわ|みどりいろ||すーつ||ひと|くに||しはい|もの|||けいそう||||ゆうぜんたる|ほちょう||そうさ|すぐる||あゆみよった

ボルテック の 手 が うごいて 、 操作 卓 の 中央 ディスプレイ に 、 ある 図 を 映しだした 。 ||て|||そうさ|すぐる||ちゅうおう|でぃすぷれい|||ず||うつしだした

「 これ が 両軍 の 配置 図 です 。 ||りょうぐん||はいち|ず| 天 頂 方向 から 俯 瞰 した もの です 、 ごらん ください 」 てん|いただ|ほうこう||うつむ|かん|||||

それ は 三 日 前 に 、 キルヒアイス が ラインハルト に しめした もの と 同一だった 。 ||みっ|ひ|ぜん|||||||||どういつだった 帝国 軍 が 赤 、 同盟 軍 が 緑 。 ていこく|ぐん||あか|どうめい|ぐん||みどり 赤い 矢印 に むかって 緑 の 矢印 が 三 本 、 前面 と 左右 から 迫って いる 。 あかい|やじるし|||みどり||やじるし||みっ|ほん|ぜんめん||さゆう||せまって| 矢印 を 点 と すれば 、 緑 点 を 頂点 と した 三 角形 の 内心 に 赤 点 が 位置 して いる ように も みえた 。 やじるし||てん|||みどり|てん||ちょうてん|||みっ|すみ かた||ないしん||あか|てん||いち|||よう に||

「 艦艇 の 数 は 帝国 軍 が 二万 隻 、 同盟 軍 が 合計 四万 隻 でした 。 かんてい||すう||ていこく|ぐん||にまん|せき|どうめい|ぐん||ごうけい|しまん|せき| 数 的に は 同盟 軍 が 圧倒 的に 有利だった のです 」 すう|てきに||どうめい|ぐん||あっとう|てきに|ゆうりだった|の です

「 位置 的に も な 。 いち|てきに|| 三方 から 帝国 軍 を 包囲 する 態勢 だ 。 さんぼう||ていこく|ぐん||ほうい||たいせい| しかし 待てよ 、 こいつ は ……」 |まてよ||

ルビンスキー は 太い 指 で 額 の 端 を おさえた 。 ||ふとい|ゆび||がく||はし||

「 こいつ は たしか 、 百 年 以上 も 昔 に 、〝 ダゴン の 殲滅 戦 〟 で 同盟 軍 が 使った 陣形 じゃ ない か 。 |||ひゃく|とし|いじょう||むかし||||せんめつ|いくさ||どうめい|ぐん||つかった|じんけい||| 夢 よもう 一 度 と いう わけ か 、 進歩 の ない 奴 ら だ 」 ゆめ||ひと|たび|||||しんぽ|||やつ||

「 しかし 用 兵 学 上 は 論理 的な 作戦 です 」 |よう|つわもの|まな|うえ||ろんり|てきな|さくせん|

「 はん ! 机上 の 作戦 は いつ だって 完璧に 決 まっとる さ 。 きじょう||さくせん||||かんぺきに|けっ|| だが 実戦 は 相手 あって の もの だ から な 。 |じっせん||あいて|||||| 帝国 軍 の 総 指揮 官 は 例の 金髪 の 孺子 だった な 」 ていこく|ぐん||そう|しき|かん||れいの|きんぱつ||じゅし||

「 さ ようで 、 ローエングラム 伯 です 」 |||はく|

ルビンスキー は 悦 に いった ような 笑い声 を たてた 。 ||えつ||||わらいごえ|| 五 年 前 、 急死 した 前任 者 ワレンコフ の あと を ついで 、 当時 三六 歳 の 彼 が 政権 を にぎった とき 、 反対 派 は 五〇 代 の 老練な 候補 者 を 擁して 、 三〇 代 の 元首 など 若 すぎる と 騒ぎたてた もの だ 。 いつ|とし|ぜん|きゅうし||ぜんにん|もの||||||とうじ|さんろく|さい||かれ||せいけん||||はんたい|は||いつ|だい||ろうれんな|こうほ|もの||ようして|みっ|だい||げんしゅ||わか|||さわぎたてた|| ところが ローエングラム 伯 と きて は 、 当時 の 彼 より さらに 一六 歳 も 若い のである 。 ||はく||||とうじ||かれ|||いちろく|さい||わかい| 先例 だの 習慣 だ の を 口 に する しか 能 の ない 老 兵 ども に は 、 不愉快な 時代 が 、 どうやら 到来 し つつ ある らしい 。 せんれい||しゅうかん||||くち||||のう|||ろう|つわもの||||ふゆかいな|じだい|||とうらい||||

「 この 危機 を 、 ローエングラム 伯 は いかに して 切りぬけた か 、 自治 領主 に は お わかり です か ? |きき|||はく||||きりぬけた||じち|りょうしゅ|||||| 」 ボルテック の 口調 に 、 楽しむ ような ひびき が ある 。 ||くちょう||たのしむ|||| 異 相 の 自治 領主 は 補佐 官 を ちらり と 見る と 、 ディスプレイ に 見いった 。 い|そう||じち|りょうしゅ||ほさ|かん||||みる||でぃすぷれい||みいった そして 、 こともなげに 断言 した 。 ||だんげん|

「 敵 が 分散 して いる 状況 を 利用 して 各 個 撃破 だ な 。 てき||ぶんさん|||じょうきょう||りよう||かく|こ|げきは|| それ しか ある まい 」

補佐 官 は 頰 を 殴ら れた ような 表情 で 、 彼 の 政治 的 忠誠 の 対象 を 見 やった 。 ほさ|かん||||なぐら|||ひょうじょう||かれ||せいじ|てき|ちゅうせい||たいしょう||み|

「 おっしゃる とおり です 。 いや 、 ご 炯眼 おそれいり ました 」 ||きょうめ||

ルビンスキー は ふてぶてしい ほど おちついた 微笑 で 、 その 讃辞 を うけとめた 。 |||||びしょう|||さんじ||

「 専門 家 が 素人 に おくれ を とる 場合 が 、 往々 に して ある 。 せんもん|いえ||しろうと|||||ばあい||おうおう||| 長所 より 短所 を 、 好機 より 危機 を みて しまう から だ 。 ちょうしょ||たんしょ||こうき||きき||||| この 双方 の 布陣 を みれば 、 専門 家 は 包囲 さ れた 帝国 軍 の 敗北 は 必至 と 思いこんで しまう だろう な 。 |そうほう||ふじん|||せんもん|いえ||ほうい|||ていこく|ぐん||はいぼく||ひっし||おもいこんで||| だが 、 まだ 包囲 網 が 完成 さ れた わけで は ない し 、 兵力 が 分散 して いる 同盟 軍 の ほう に むしろ 危機 的 状況 が みられる の さ 」 ||ほうい|あみ||かんせい|||||||へいりょく||ぶんさん|||どうめい|ぐん|||||きき|てき|じょうきょう|||| 「 おっしゃる とおり です な 」

「 要するに 同盟 軍 は ローエングラム 伯 ラインハルト の 指揮 能力 を 過小 評価 した と いう わけだ 。 ようするに|どうめい|ぐん|||はく|||しき|のうりょく||かしょう|ひょうか|||| まあ 、 無理 も ない こと だ が な 。 |むり|||||| 具体 的な 状況 の 変化 を みせて もらおう か 」 ぐたい|てきな|じょうきょう||へんか||||

ボルテック の 操作 に したがって 、 ディスプレイ に 映しださ れた 図 型 が 躍動 し 変化 して いった 。 ||そうさ|||でぃすぷれい||うつしださ||ず|かた||やくどう||へんか|| 赤い 矢 が 緑色 の 矢 の 一 本 に むけて 急速に 直進 し 、 それ を 粉砕 した あと 、 反転 して いま 一 本 の 緑 の 矢 を 消滅 さ せ 、 さらに 方向 を 転じて 三 本 目 の 緑 の 矢 に 対峙 する 状況 を 、 自治 領主 は 両眼 を 細めて 見まもった 。 あかい|や||みどりいろ||や||ひと|ほん|||きゅうそくに|ちょくしん||||ふんさい|||はんてん|||ひと|ほん||みどり||や||しょうめつ||||ほうこう||てんじて|みっ|ほん|め||みどり||や||たいじ||じょうきょう||じち|りょうしゅ||りょうがん||ほそめて|みまもった 操作 の 停止 を 命じ 、 ディスプレイ を 注視 した まま 歎息 する 。 そうさ||ていし||めいじ|でぃすぷれい||ちゅうし|||たんいき|

「 理想 的な 各 個 撃破 だ な 。 りそう|てきな|かく|こ|げきは|| ダイナミックで アクティブな 用 兵 だ 。 だいなみっくで|あくてぃぶな|よう|つわもの| みごとな もの だ が ……」

語 を きって 首 を かしげる 。 ご|||くび||

「 しかし 、 ここ まで 状況 が 変化 すれば 、 帝国 軍 の 勝利 は ほとんど 完全な もの と なって いる はずだ 。 |||じょうきょう||へんか||ていこく|ぐん||しょうり|||かんぜんな||||| この 段階 から 同盟 軍 が 劣勢 を 挽回 する の は 容易で は ない ぞ 。 |だんかい||どうめい|ぐん||れっせい||ばんかい||||よういで||| 全軍 崩壊 、 敗走 と いう 事態 に なって 当然だ 。 ぜんぐん|ほうかい|はいそう|||じたい|||とうぜんだ 同盟 軍 の 第 三 部隊 は 誰 が 指揮 して いた ? どうめい|ぐん||だい|みっ|ぶたい||だれ||しき|| 」 「 最初 は パエッタ 中将 です 。 さいしょ|||ちゅうじょう| しかし 戦闘 開始 後 、 旗 艦 が 被弾 して 重傷 を おい 、 その後 は 次 席 幕僚 ヤン ・ ウェンリー 准将 が 指揮 権 を うけつぎ ました 」 |せんとう|かいし|あと|き|かん||ひだん||じゅうしょう|||そのご||つぎ|せき|ばくりょう|||じゅんしょう||しき|けん|||

「 ヤン ・ ウェンリー …… 聞いた こと が ある 名 だ が 」 ||きいた||||な||

「 八 年 前 エル ・ ファシル 脱出 作戦 を 指揮 した 男 です 」 やっ|とし|ぜん|||だっしゅつ|さくせん||しき||おとこ|

「 ああ 、 あの とき の 」

ルビンスキー は 納得 した 。 ||なっとく|

「 なかなか おもしろい 男 が 同盟 に も いる と 思って いた が …… で 、 エル ・ ファシル の 英雄 は どう 兵 を うごかした のだ ? ||おとこ||どうめい|||||おもって|||||||えいゆう|||つわもの||| 」 ルビンスキー の 質問 に 応じて 首席 補佐 官 は ディスプレイ を 操作 し 、〝 アスターテ 会戦 〟 の 最終 段階 の 戦況 を 上司 に しめした 。 ||しつもん||おうじて|しゅせき|ほさ|かん||でぃすぷれい||そうさ|||かいせん||さいしゅう|だんかい||せんきょう||じょうし|| 緑 の 矢 が 左右 に 分かれ 、 その 機先 を 制する か の ごとく 赤い 矢 が 急進 して 中央 突破 を はかる 。 みどり||や||さゆう||わかれ||きせん||せいする||||あかい|や||きゅうしん||ちゅうおう|とっぱ|| 左右 に 分断 さ れた か に みえる 緑 の 矢 が 、 赤い 矢 の 両 側面 を 逆 進 し 、 後 背 に でて 合流 し 、 赤い 矢 の 後方 から 襲いかかった ……。 さゆう||ぶんだん||||||みどり||や||あかい|や||りょう|そくめん||ぎゃく|すすむ||あと|せ|||ごうりゅう||あかい|や||こうほう||おそいかかった

ルビンスキー は 低く うめいた 。 ||ひくく| これほど 洗練 さ れた 戦術 を 駆使 する 指揮 官 が 同盟 軍 に いた と は 予想外だった 。 |せんれん|||せんじゅつ||くし||しき|かん||どうめい|ぐん|||||よそうがいだった

しかも 全軍 崩壊 の 危機 に 直面 して 、 これほど 冷静に 戦況 を 把握 し 、 事態 に 対処 し うる と は 、 ローエングラム 伯 以上 に 凡物 で は あり え ない 。 |ぜんぐん|ほうかい||きき||ちょくめん|||れいせいに|せんきょう||はあく||じたい||たいしょ||||||はく|いじょう||ぼんもの|||||

第 五 代 フェザーン 自治 領主 は しばらく 、 ディスプレイ に 視線 を 凍結 さ せて いた 。 だい|いつ|だい||じち|りょうしゅ|||でぃすぷれい||しせん||とうけつ|||

「 なかなか 興味深い 魔術 を 見た な 」 |きょうみぶかい|まじゅつ||みた|

やがて 、 ルビンスキー は ディスプレイ の 映像 を 消す よう 手ぶり で 命じた 。 |||でぃすぷれい||えいぞう||けす||てぶり||めいじた それ に したがった あと 、 ボルテック は 一 歩 退いて つぎの 指示 を 待った 。 ||||||ひと|ふ|しりぞいて||しじ||まった

「 ヤン ・ ウェンリー 、 だった な 、 その 准将 に ついて 至急 データ を 集める よう 、 ハイネセン の 高等 弁 務 官 事務 所 に 指令 を だせ 。 |||||じゅんしょう|||しきゅう|でーた||あつめる||||こうとう|べん|つとむ|かん|じむ|しょ||しれい|| エル ・ ファシル の 件 が まぐれ など で ない こと が よく わかった 」 |||けん|||||||||

「 かしこまり ました 」

「 どんな 組織 でも 機械 でも 、 運用 する の は しょせん 、 人間 だ 。 |そしき||きかい||うんよう|||||にんげん| 上位 に たつ 者 の 才 幹 と 器量 しだい で 、 虎 が 猫 に も なり その 逆に も なる 。 じょうい|||もの||さい|みき||きりょう|||とら||ねこ|||||ぎゃくに|| 虎 の 牙 が どちら を むく か 、 これ も また 猛獣 使い しだい だ 。 とら||きば|||||||||もうじゅう|つかい|| くわしく 人がら を 知って おくに しく は ない 」 |ひとがら||しって||||

それ に よって 使途 も できる 、 と 考え ながら 、 ルビンスキー は 補佐 官 を 退室 さ せた 。 |||しと||||かんがえ||||ほさ|かん||たいしつ||

恒星 フェザーン は 四 個 の 惑星 を したがえて いる 。 こうせい|||よっ|こ||わくせい||| その 三 個 まで は 高熱 の ガス の 塊 であり 、 第 二 惑星 のみ が 硬い 地殻 を 所有 して いた 。 |みっ|こ|||こうねつ||がす||かたまり||だい|ふた|わくせい|||かたい|ちかく||しょゆう|| 気体 の 組成 分 は 人類 の 故郷 である 太陽 系 第 三 惑星 と ほとんど ことなら ない 。 きたい||そせい|ぶん||じんるい||こきょう||たいよう|けい|だい|みっ|わくせい|||| 八 割 ちかく の 窒素 と 二 割 ちかく の 酸素 ―― 最大 の 差異 は 本来 、 二 酸化 炭素 を 欠く こと で 、 したがって 植物 が 存在 し なかった 。 やっ|わり|||ちっそ||ふた|わり|||さんそ|さいだい||さい||ほんらい|ふた|さんか|たんそ||かく||||しょくぶつ||そんざい||

水 も すくない 。 すい|| 藍 藻類 から 順次 、 高等な 植物 種子 の 散布 へ と すすんだ 惑星 緑化 も 、 地表 の 全域 を 緑 の 沃野 と 化せ しめる に は いたら ず 、 水利 の よい 地域 のみ が 緑色 の 帯状 に 惑星 表面 を いろどって いる 。 あい|そうるい||じゅんじ|こうとうな|しょくぶつ|しゅし||さんぷ||||わくせい|りょくか||ちひょう||ぜんいき||みどり||よくや||かせ||||||すいり|||ちいき|||みどりいろ||おびじょう||わくせい|ひょうめん||| 赤い 部分 は 岩 砂漠 の 荒野 で 、 侵 蝕 と 風化 の すすんだ 地形 が 奇 景奇 観 を 誇って いた 。 あかい|ぶぶん||いわ|さばく||こうや||おか|むしば||ふうか|||ちけい||き|けいき|かん||ほこって|

フェザーン は 恒星 の 名 である と 同時に 、 唯一 の 有人 地 である 第 二 惑星 の 名 であり 、 星 系 全体 の 名 であり 、 それ を 領域 と して 帝国 暦 三七三 年 に 成立 した 自治 領 の 名 である 。 ||こうせい||な|||どうじに|ゆいいつ||ゆうじん|ち||だい|ふた|わくせい||な||ほし|けい|ぜんたい||な||||りょういき|||ていこく|こよみ|さんしちさん|とし||せいりつ||じち|りょう||な| 軍隊 は 少数 の 警備 艦隊 のみ で 、 二〇億 人 の フェザーン 人 は 帝国 ・ 同盟 間 の 交易 路 を 支配 し 、 利益 を あげる こと に 情熱 を かたむけて きた 。 ぐんたい||しょうすう||けいび|かんたい|||ふた|おく|じん|||じん||ていこく|どうめい|あいだ||こうえき|じ||しはい||りえき|||||じょうねつ||| かたち と して は 帝国 に 従属 し ながら 、 事実 上 は 完全に ちかい 政治 的 独立 を たもち 、 経済 力 に いたって は 両 大国 を 凌 駕 する 勢い を すら しめして いる 。 ||||ていこく||じゅうぞく|||じじつ|うえ||かんぜんに||せいじ|てき|どくりつ|||けいざい|ちから||||りょう|たいこく||しの|が||いきおい||||

だが 今日 に いたる 道程 が 平坦で なかった の は むろん の こと で 、 初代 の レオポルド ・ ラープ 以来 、 歴代 の 自治 領主 は , その 地位 を 安泰に する ため の 政治 工作 に 腐心 して きた 。 |きょう|||どうてい||へいたんで||||||||しょだい||||いらい|れきだい||じち|りょうしゅ|||ちい||あんたいに||||せいじ|こうさく||ふしん|| その 国是 は 、〝 侮り を うける ほど 弱から ず 、 恐怖 さ れる ほど 強から ず 〟 であった のだ が 、〝 帝国 四八 、 同盟 四〇 、 フェザーン 一二 〟 と いう 勢力 比 の 数値 が 、 半 世紀 来 まったく 変化 し ない と いう 事実 が 、 フェザーン 為政 当局 の 苦心 を 如実に しめして いた 。 |こくぜ||あなどり||||よわから||きょうふ||||つよから|||||ていこく|しはち|どうめい|よっ||いちに|||せいりょく|ひ||すうち||はん|せいき|らい||へんか|||||じじつ|||ためまつりごと|とうきょく||くしん||にょじつに||

帝国 と フェザーン の 勢力 を 合 すれば 、 同盟 より 有利な 立場 と なる が 、 それ でも 同盟 を 滅ぼす の は 困難である 。 ていこく||||せいりょく||ごう||どうめい||ゆうりな|たちば||||||どうめい||ほろぼす|||こんなんである 逆に 、 同盟 と フェザーン が 連合 すれば 、 帝国 を 凌 駕 する こと が 可能だ が 、 圧倒 する と まで は いか ない 。 ぎゃくに|どうめい||||れんごう||ていこく||しの|が||||かのうだ||あっとう||||||

この 芸術 的な まで に 微妙な バランス を 維持 する こと が 、 フェザーン の 政 戦 両 略 の 真骨頂 であった 。 |げいじゅつ|てきな|||びみょうな|ばらんす||いじ||||||まつりごと|いくさ|りょう|りゃく||しんこっちょう| 強く なり すぎて は いけない 。 つよく||||