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野分 夏目漱石, 「五」 野分 夏目漱石

「五 」 野 分 夏目 漱石

ミルク ホール に 這 入る 。 上下 を 擦り 硝子 ( ガラス ) に して 中 一 枚 を 透き 通し に した 腰 障子 に 近く 据えた 一 脚 の 椅子 に 腰 を おろす 。 焼 麺 麭 ( やき パン ) を 噛って 、 牛乳 を 飲む 。 懐中 に は 二十 円 五十 銭 ある 。 ただ今 地理 学 教授 法 の 原稿 を 四十一 頁 渡して 金 に 換えて 来た ばかりである 。 一 頁 五十 銭 の 割合 に なる 。 一 頁 五十 銭 を 超 ゆ べ から ず 、 一 ヵ 月 五十 頁 を 超 ゆ べ から ず と 申し渡されて ある 。 これ で 今月 は どう か 、 こう か 食える 。 ほか から くれる 十 円 近く の 金 は 故 里 の 母 に 送ら なければ なら ない 。 故 里 は もう 落 鮎 の 時節 である 。 ことに よる と 崩れ かかった 藁屋 根 に 初霜 が 降った かも 知れ ない 。 鶏 が 菊 の 根 方 を 暴 ら して いる 事 だろう 。 母 は 丈夫 かしら 。 向 う の 机 を 占領 して いる 学生 が 二 人 、 西 洋菓子 を 食い ながら 、 団子 坂 の 菊 人形 の 収入 に ついて 大 に 論じて いる 。 左 に 蜜柑 を むき ながら 、 その 汁 を 牛乳 の 中 へ たらして いる 書生 が ある 。 一 房 絞って は 、 文芸 倶楽部 の 芸者 の 写真 を 一 枚 は ぐ り 、 一 房 絞って は 一 枚 はぐ る 。 芸者 の 絵 が 尽きた 時 、 彼 は コップ の 中 を 匙 で 攪 き 廻して 妙な 顔 を して いる 。 酸 で 牛乳 が 固まった ので 驚 ろ いて いる のだろう 。 高柳 君 は そこ に 重ねて ある 新聞 の 下 から 雑誌 を 引きずり出して 、 あれこれ と 見る 。 目的 の 江 湖 雑誌 は 朝日 新聞 の 下 に 折れて いた 。 折れて は いる が まだ 新 らしい 。 四五 日 前 に 出た ばかり のである 。 折れた 所 は 六 号 活字 で 何だか 色 鉛筆 の 赤い 圏 点 が 一面に ついて いる 。 僕 の 恋愛 観 と 云 う 表題 の 下 に 中野 春 台 と ある 。 春 台 は 無論 輝一 の 号 である 。 高柳 君 は 食い 欠いた 焼 麺 麭 ( やき パン ) を 皿 の 上 へ 置いた なり 「 僕 の 恋愛 観 」 を 見て いた が やがて 、 に やり と 笑った 。 恋愛 観 の 結末 に 同じく 色 鉛筆 で 色 情 狂 ※[# 感嘆 符 三 つ 、320-13] と 書いて ある 。 高柳 君 は 頁 を はぐった 。 六 号 活字 は だいぶ 長い 。 もっとも いろいろの 人 の 名前 が 出て いる 。 一 番 始め に は 現代 青年 の 煩 悶 に 対する 諸 家 の 解決 と ある 。 高柳 君 は 急に 読んで 見る 気 に なった 。 ―― 第 一 は 静 心 の 工夫 を 積め と 云 う 注意 だ 。 積め と は どう 積む の か ちっとも わから ない 。 第 二 は 運動 を して 冷水 摩擦 を やれ と 云 う 。 簡単な もの である 。 第 三 は 読書 も せ ず 、 世間 も 知ら ぬ 青年 が 煩 悶 する 法 が ない と 論じて いる 。 無い と 云って も 有れば 仕方 が ない 。 第 四 は 休暇 ごと に 必ず 旅行 せよ と 勧告 して いる 。 しかし 旅費 の 出 処 は 明記 して ない 。 ―― 高柳 君 は あと を 読む の が 厭 に なった 。 颯 と 引っくりかえして 、 第 一 頁 を あける 。 「 解脱 と 拘泥 …… 憂世 子 」 と 云 うの が ある 。 標題 が 面白い ので ちょっと 目 を 通す 。 「 身体 の 局部 が どこ ぞ 悪い と 気 に かかる 。 何 を して いて も 、 それ が コダワって 来る 。 ところが 非常に 健康な 人 は 行 住 坐 臥 ともに わが 身体 の 存在 を 忘れて いる 。 一 点 の 局部 だ にわ が 注意 を 集 注 す べき 患 所 が ない から 、 かく 安 々 と 胖 か な のである 。 瘠せて 蒼 い 顔 を して いる 人 に 、 君 は 胃 が 悪い だろう と 尋ねて 見た 事 が ある 。 すると その 男 が 答えて 、 胃 は 少しも 故障 が ない 、 その 証拠 に は 僕 は この 年 に なる が 、 いまだに 胃 が どこ に ある か 知ら ない と 云 うた 。 その 時 は 笑って 済んだ が 、 後 で 考えて 見る と 大 に 悟った 言葉 である 。 この 人 は 全く 胃 が 健康だ から 胃 に 拘泥 する 必要 が ない 、 必要 が ない から 胃 が どこ に あって も 構わ ない の と 見える 。 自在 飲 、 自在 食 、 いっこう 平気である 。 この 男 は 胃 に おいて 悟 を 開いた もの である 。 ……」 高柳 君 は これ は 少し 妙だ よ と 口 の なか で 云った 。 胃 の 悟り は 妙だ と 云った 。 「 胃 に ついて 道 い 得 べき 事 は 、 惣身 に ついて も 道 い 得 べき 事 である 。 惣身 に ついて 道 い 得 べき 事 は 、 精神 に ついて も 道 い 得 べき 事 である 。 ただ 精神 生活 に おいて は 得失 の 両面 に おいて 等しく 拘泥 を 免 かれ ぬ ところ が 、 身体 より 煩い に なる 。 「 一 能 の 士 は 一 能 に 拘泥 し 、 一 芸 の 人 は 一 芸 に 拘泥 して 己 れ を 苦しめて いる 。 芸能 は 気 の 持ち よう で は すぐ 忘れる 事 も 出来る 。 わが 欠点 に 至って は 容易に 解脱 は 出来 ぬ 。 「 百 円 や 二百 円 も する 帯 を しめて 女 が 音楽 会 へ 行く と この 帯 が 妙に 気 に なって 音楽 が 耳 に 入ら ぬ 事 が ある 。 これ は 帯 に 拘泥 する から である 。 しかし これ は 自慢 の 例 じゃ 。 得意の 方 は 前 云 う 通り 祟 り を 避け 易い 。 しかし 不 面目 の 側 は なかなか 強情に 祟 る 。 昔 し さる 所 で 一 人 の 客 に 紹介 さ れた 時 、 御 互 に 椅子 の 上 で 礼 を して 双方 共 頭 を 下げた 。 下げ ながら 、 向 う の 足 を 見る と その 男 の 靴 足袋 の 片 々 が 破れて 親指 の 爪 が 出て いる 。 こちら が 頭 を 下げる と 同時に 彼 は 満足な 足 を あげて 、 破れ 足袋 の 上 に 加えた 。 この 人 は 足袋 の 穴 に 拘泥 して いた のである 。 ……」 おれ も 拘泥 して いる 。 おれ の から だ は 穴 だらけ だ と 高柳 君 は 思い ながら 先 へ 進む 。 「 拘泥 は 苦痛 である 。 避け なければ なら ぬ 。 苦痛 そのもの は 避け がたい 世 であろう 。 しかし 拘泥 の 苦痛 は 一 日 で 済む 苦痛 を 五 日 、 七 日 に 延長 する 苦痛 である 。 いら ざる 苦痛 である 。 避け なければ なら ぬ 。 「 自己 が 拘泥 する の は 他人 が 自己 に 注意 を 集 注 する と 思う から で 、 つまり は 他人 が 拘泥 する から である 。 ……」 高柳 君 は 音楽 会 の 事 を 思いだした 。 「 したがって 拘泥 を 解脱 する に は 二 つ の 方法 が ある 。 他人 が いくら 拘泥 して も 自分 は 拘泥 せ ぬ の が 一 つ の 解脱 法 である 。 人 が 目 を 峙 て て も 、 耳 を 聳 や かして も 、 冷 評して も 罵 詈 して も 自分 だけ は 拘泥 せ ず に さっさと 事 を 運んで 行く 。 大久保 彦左 衛 門 は 盥 で 登 城 した 事 が ある 。 ……」 高柳 君 は 彦左 衛 門 が 羨ま しく なった 。 「 立派な 衣装 を 馬 士 に 着せる と 馬 士 は すぐ 拘泥 して しまう 。 華族 や 大名 は この 点 に おいて 解脱 の 方 を 得て いる 。 華族 や 大名 に 馬 士 の 腹掛 を かけ さす と 、 すぐ 拘泥 して しまう 。 釈迦 や 孔子 は この 点 に おいて 解脱 を 心得て いる 。 物質 界 に 重 を 置か ぬ もの は 物質 界 に 拘泥 する 必要 が ない から である 。 ……」 高柳 君 は 冷め かかった 牛乳 を ぐっと 飲んで 、 う う と 云った 。 「 第 二 の 解脱 法 は 常 人 の 解脱 法 である 。 常 人 の 解脱 法 は 拘泥 を 免 かる る ので は ない 、 拘泥 せ ねば なら ぬ ような 苦しい 地位 に 身 を 置く の を 避ける のである 。 人 の 視聴 を 惹 く の 結果 、 われ より 苦痛 が 反射 せ ぬ ように と 始め から 用心 する のである 。 したがって 始め より 流 俗に 媚 び て 一 世 に 附和 する 心底 が なければ 成功 せ ぬ 。 江戸 風 な 町人 は この 解脱 法 を 心得て いる 。 芸 妓通 客 は この 解脱 法 を 心得て いる 。 西洋 の いわゆる 紳士 ( ゼントルマン ) は もっとも よく この 解脱 法 を 心得た もの である 。 ……」 芸者 と 紳士 ( ゼントルマン ) が いっしょに なって る の は 、 面白い と 、 青年 は また 焼 麺 麭 ( やき パン ) の 一片 を 、 横合 から 半円 形 に 食い 欠いた 。 親指 に ついた 牛 酪 ( バタ ) を そのまま 袴 の 膝 へ なすりつけた 。 「 芸 妓 、 紳士 、 通 人 から 耶蘇 ( ヤソ ) 孔子 釈迦 を 見れば 全然 たる 狂 人 である 。 耶蘇 、 孔子 、 釈迦 から 芸 妓 、 紳士 、 通 人 を 見れば 依然と して 拘泥 して いる 。 拘泥 の うち に 拘泥 を 脱し 得たり と 得意なる もの は 彼ら である 。 両者 の 解脱 は 根本 義 に おいて 一致 すべ から ざる もの である 。 ……」 高柳 君 は 今 まで 解脱 の 二 字 に おいて かつて 考えた 事 は なかった 。 ただ 文 界 に 立って 、 ある 物 に なりたい 、 なりたい が なれ ない 、 なれ ん ので は ない 、 金 が ない 、 時 が ない 、 世間 が 寄ってたかって 己 れ を 苦しめる 、 残念だ 無念だ と ばかり 思って いた 。 あと を 読む 気 に なる 。 「 解脱 は 便法 に 過ぎ ぬ 。 下 れる 世に 立って 、 わが 真 を 貫徹 し 、 わが 善 を 標榜 し 、 わが 美 を 提唱 する の 際 、 甚泥 帯 水 の 弊 を まぬがれ 、 勇猛 精進 の 志 を 固く して 、 現代 下 根 の 衆生 より 受 くる 迫害 の 苦痛 を 委 却 する ため の 便法 である 。 この 便法 を 証 得し 得 ざる 時 、 英霊 の 俊 児 、 また ついに 鬼 窟 裏 に 堕 在 して 彼 の いわゆる 芸 妓紳 士 通 人 と 得失 を 較 する の 愚 を 演じて 憚 から ず 。 国家 の ため 悲しむ べき 事 である 。 「 解脱 は 便法 である 。 この 方便 門 を 通じて 出頭 し 来る 行為 、 動作 、 言説 の 是非 は 解脱 の 関する ところ で は ない 。 したがって 吾人 は 解脱 を 修得 する 前 に 正 鵠 に あた れる 趣味 を 養成 せ ねば なら ぬ 。 下 劣 なる 趣味 を 拘泥 なく 一 代 に 塗 抹 する は 学 人 の 恥 辱 である 。 彼ら が 貴重なる 十 年 二十 年 を 挙げて 故 紙 堆裏 に 兀々 たる は 、 衣食 の ため で は ない 、 名 聞 の ため で は ない 、 ないし 爵禄 財宝 の ため で は ない 。 微 か なる 墨 痕 の うち に 、 光明 の 一 炬 を 点じ 得て 、 点じ 得 たる 道 火 を 解脱 の 方便 門 より 担い 出して 暗黒 世界 を 遍 照 せ ん が ため である 。 「 この ゆえ に 真に 自家 証 得 底 の 見解 ある もの の ため に 、 拘泥 の 煩 を 払って 、 でき 得る 限り 彼ら を して 第 一種 の 解脱 に 近づか しむ る を 道徳 と 云 う 。 道徳 と は 有道 の 士 を して 道 を 行わ しめ ん が ため に 、 吾人 が これ に 対して 与 うる 自由 の 異名 である 。 この 大 道徳 を 解せ ざる もの を 俗 人 と 云 う 。 「 天下 の 多数 は 俗 人 である 。 わが 位 に 着する が ため に この 大 道徳 を 解し 得 ぬ 。 わが 富 に 着する が ため に この 大 道徳 を 解し 得 ぬ 。 下 れる もの は 、 わが 酒 と わが 女 に 着する が ため に この 大 道徳 を 解し 得 ぬ 。 「 光明 は 趣味 の 先駆 である 。 趣味 は 社会 の 油 である 。 油 なき 社会 は 成立 せ ぬ 。 汚れ たる 油 に 廻 転 する 社会 は 堕落 する 。 か の 紳士 、 通 人 、 芸 妓 の 徒 は 、 汚れ たる 油 の 上 を 滑って 墓 に 入る もの である 。 華族 と 云 い 貴 顕 と 云 い 豪商 と 云 う もの は 門 閥 の 油 、 権勢 の 油 、 黄 白 の 油 を もって 一 世 を 逆 しま に 廻 転せん と 欲する もの である 。 「 真 正 の 油 は 彼ら の 知る ところ で は ない 。 彼ら は 生れて より 以来 この 油 に ついて 何ら の 工夫 も 費やして おら ん 。 何ら の 工夫 を 費やさ ぬ もの が 、 この 大 道徳 を 解せ ぬ の は 許す 。 光明 の 学徒 を 圧迫 せんと する に 至って は 、 俗 人 の 域 を 超越 して 罪人 の 群 に 入る 。 「 三味線 を 習う に も 五六 年 は かかる 。 巧 拙 を 聴き 分 くる さえ 一 カ月 の 修業 で は 出来 ぬ 。 趣味 の 修養 が 三 味 の 稽古 より 易い と 思う の は 間違って いる 。 茶の湯 を 学ぶ 彼ら は いら ざる 儀式 に 貴重な 時間 を 費やして 、 一 々 に 師匠 の 云 う 通り に なる 。 趣味 は 茶の湯 より 六 ず か しい もの じゃ 。 茶 坊主 に 頭 を 下げる 謙 徳 が ある ならば 、 趣味 の 本家 たる 学 者 の 考 は なおさら 傾聴 せ ねば なら ぬ 。 「 趣味 は 人間 に 大切な もの である 。 楽器 を 壊 つ もの は 社会 から 音楽 を 奪う 点 に おいて 罪人 である 。 書物 を 焼く もの は 社会 から 学問 を 奪う 点 に おいて 罪人 である 。 趣味 を 崩す もの は 社会 そのもの を 覆え す 点 に おいて 刑法 の 罪人 より も はなはだしき 罪人 である 。 音楽 は なく と も 吾人 は 生きて いる 、 学問 が なくて も 吾人 は いきて いる 。 趣味 が なくて も 生きて おら れる かも 知れ ぬ 。 しかし 趣味 は 生活 の 全体 に 渉 る 社会 の 根本 要素 である 。 これ なく して 生き ん と する は 野 に 入って 虎 と 共に 生き ん と する と 一般 である 。 「 ここ に 一 人 が ある 。 この 一 人 が 単に 自己 の 思う ように なら ぬ と 云 う 源 因 の もと に 、 多勢 が 朝 に 晩 に 、 この 一 人 を 突つき 廻 わして 、 幾 年 の 後 この 一 人 の 人格 を 堕落 せ しめて 、 下 劣 なる 趣味 に 誘い 去り たる 時 、 彼ら は 殺人 より 重い 罪 を 犯した のである 。 人 を 殺せば 殺さ れる 。 殺さ れた もの は 社会 から 消えて 行く 。 後 患 は 遺 さ ない 。 趣味 の 堕落 した もの は 依然と して 現存 する 。 現存 する 以上 は 堕落 した 趣味 を 伝染 せ ねば やま ぬ 。 彼 は ペスト である 。 ペスト を 製造 した もの は もちろん 罪人 である 。 「 趣味 の 世界 に ペスト を 製造 して 罰せられ ん の は 人殺し を して 罰せられ ん の と 同様である 。 位 地 の 高い もの は もっとも この 罪 を 犯し やすい 。 彼ら は 彼ら の 社会 的 地位 から して 、 他 に 働きかける 便宜 の 多い 場所 に 立って いる 。 他 に 働きかける 便宜 を 有して 、 働きかける 道 を 弁え ぬ もの は 危険である 。 「 彼ら は 趣味 に おいて 専門 の 学徒 に 及ば ぬ 。 しかも 学徒 以上 他 に 働きかける の 能力 を 有して いる 。 能力 は 権利 で は ない 。 彼ら の ある もの は この 区別 さえ 心得て おら ん 。 彼ら の 趣味 を 教育 す べく この世 に 出現 せる 文学 者 を 捕えて すら これ を 逆 しま に 吾意 の ごとく せんと する 。 彼ら は 単に 大 道徳 を 忘れ たる のみ なら ず 、 大 不道徳 を 犯して 恬然 と して 社会 に 横行 し つつ ある のである 。 「 彼ら の 意 の ごとく なる 学徒 が あれば 、 自己 の 天職 を 自覚 せ ざる 学徒 である 。 彼ら を 教育 する 事 の 出来 ぬ 学徒 が あれば 腰 の 抜け たる 学徒 である 。 学徒 は 光明 を 体せ ん 事 を 要す 。 光明 より 流れ出 ずる 趣味 を 現 実せん 事 を 要す 。 しか して これ を 現 実せん が ため に 、 拘泥 せ ざら ん 事 を 要す 。 拘泥 せ ざら ん が ため に 解脱 を 要す 」 高柳 君 は 雑誌 を 開いた まま 、 茫然と して 眼 を 挙げた 。 正面 の 柱 に かかって いる 、 八 角 時計 が ぼ うんと 一 時 を 打つ 。 柱 の 下 の 椅子 に ぽつ 然 と 腰 を 掛けて いた 小 女 郎 が 時計 の 音 と 共に 立ち上がった 。 丸 テーブル の 上 に は 安い 京 焼 の 花 活 に 、 浅ましく 水仙 を 突きさして 、 葉 の 先 が 黄ばんで いる の を 、 いつまでも そのまま に 水 を やら ぬ 気 と 見える 。 小 女 郎 は 水仙 の 花 に ちょっと 手 を 触れて 、 花 活 の そば に ある 新聞 を とり上げた 。 読む か と 思ったら 四 つ に 畳んで 傍 に 置いた 。 この 女 は 用 も ない の に 立ち上がった のである 。 退屈 の あまり 、 ぼ うん を 聞いて 器械 的に 立ち上がった のである 。 羨ま し い 女 だ と 高柳 君 は すぐ 思う 。 菊 人形 の 収入 に ついて の 議論 は 片づいた と 見えて 、 二 人 の 学生 は 煙草 を ふかして 往来 を 見て いる 。 「 おや 、 富田 が 通る 」 と 一 人 が 云 う 。 「 どこ に 」 と 一 人 が 聞く 。 富田 君 は 三 寸 ばかり 開いて いた 硝子 戸 ( ガラス ど ) の 間 を ちら と 通り抜けた のである 。 「 あれ は 、 よく 食う 奴 じゃ な 」「 食う 、 食う 」 と 答えた ところ に よる と よほど 食う と 見える 。 「 人間 は 食う 割に 肥 ら ん もの だ な 。 あいつ は あんなに 食う 癖 に いっこう 肥え ん 」「 書物 は 沢山 読む が 、 ちっとも 、 えろ うなら ん の が おる と 同じ 事 じゃ 」「 そう よ 。 御 互 に 勉強 は なるべく せ ん 方 が いい の 」「 ハハハハ 。 そんな つもり で 云った んじゃ ない 」「 僕 は そう 云 う つもり に した の さ 」「 富田 は 肥 らん が なかなか 敏捷だ 。 やはり 沢山 食う だけ の 事 は ある 」「 敏捷な 事 が ある もの か 」「 いや 、 この 間 四 丁目 を 通ったら 、 後ろ から 出し抜けに 呼ぶ もの が ある から 、 振り 反る と 富田 だ 。 頭 を 半分 刈った まま で 、 大きな 敷布 の ような もの を 肩 から 纏う て いる 」「 元来 どうした の か 」「 床屋 から 飛び出して 来た のだ 」「 どうして 」「 髪 を 刈って おったら 、 僕 の 影 が 鏡 に 写った もの だ から 、 すぐ 馳 け 出した んだ そうだ 」「 ハハハハ そ いつ は 驚 ろ いた 」「 おれ も 驚 ろ いた 。 そうして 尚志 会 の 寄 附金 を 無理に 取って 、 また 床屋 へ 引き返した ぜ 」「 ハハハハ なるほど 敏捷な もの だ 。 それ じゃ 御 互 に なるべく 食う 事 に しよう 。 敏捷に せ ん と 、 卒業 して から 困る から な 」「 そう よ 。 文学 士 の ように 二十 円 くらい で 下宿 に 屏息 して いて は 人間 と 生れた 甲斐 は ない から な 」 高柳 君 は 勘定 を して 立ち上った 。 ありがとう と 云 う 下 女 の 声 に 、 文芸 倶楽部 の 上 に つっ伏して いた 書生 が 、 赤い 眼 を とろ つか せて 、 睨め る ように 高柳 君 を 見た 。 牛 の 乳 の なか の 酸 に 中毒 でも した のだろう 。

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「五 」 野 分 夏目 漱石 いつ|の|ぶん|なつめ|そうせき Nobe Natsume Soseki

ミルク ホール に 這 入る 。 みるく|ほーる||は|はいる Crawl into the milk hole. 上下 を 擦り 硝子 ( ガラス ) に して 中 一 枚 を 透き 通し に した 腰 障子 に 近く 据えた 一 脚 の 椅子 に 腰 を おろす 。 じょうげ||かすり|がらす|がらす|||なか|ひと|まい||すき|とおし|||こし|しょうじ||ちかく|すえた|ひと|あし||いす||こし|| |||glass|||||||||||||||||||||||| A chair is set close to a lattice sliding door, which is made of glass on the top and bottom and has a translucent middle part. 焼 麺 麭 ( やき パン ) を 噛って 、 牛乳 を 飲む 。 や|めん|ほう||ぱん||か って|ぎゅうにゅう||のむ ||bread||||biting||| Chew baked bread and drink milk. 懐中 に は 二十 円 五十 銭 ある 。 かいちゅう|||にじゅう|えん|ごじゅう|せん| The pocketbook has 20.50 yen. ただ今 地理 学 教授 法 の 原稿 を 四十一 頁 渡して 金 に 換えて 来た ばかりである 。 ただいま|ちり|まな|きょうじゅ|ほう||げんこう||しじゅういち|ぺーじ|わたして|きむ||かえて|きた| ||||||||forty-one|page|||||| I have just exchanged forty-one pages of the manuscript of the book "Teaching Geography" for money. 一 頁 五十 銭 の 割合 に なる 。 ひと|ぺーじ|ごじゅう|せん||わりあい|| The rate will be 50 sen per page. 一 頁 五十 銭 を 超 ゆ べ から ず 、 一 ヵ 月 五十 頁 を 超 ゆ べ から ず と 申し渡されて ある 。 ひと|ぺーじ|ごじゅう|せん||ちょう|||||ひと||つき|ごじゅう|ぺーじ||ちょう||||||もうしわたさ れて| ||||||||||||||||||||||was instructed| The publishers are instructed not to exceed 50 yen per page, and not to exceed 50 pages per month. これ で 今月 は どう か 、 こう か 食える 。 ||こんげつ||||||くえる This will give us something to eat this month. ほか から くれる 十 円 近く の 金 は 故 里 の 母 に 送ら なければ なら ない 。 |||じゅう|えん|ちかく||きむ||こ|さと||はは||おくら||| The nearly ten yen that is given to me from other sources must be sent to my mother in my home town. 故 里 は もう 落 鮎 の 時節 である 。 こ|さと|||おと|あゆ||じせつ| ||||||of|| It is already the time of year for sweetfish in my hometown. ことに よる と 崩れ かかった 藁屋 根 に 初霜 が 降った かも 知れ ない 。 |||くずれ||わらや|ね||はつしも||ふった||しれ| |||||straw house|||first frost||||| According to some, the first frost may have fallen on the collapsed straw roofs. 鶏 が 菊 の 根 方 を 暴 ら して いる 事 だろう 。 にわとり||きく||ね|かた||あば||||こと| The chickens are probably exposing the roots of the chrysanthemum. 母 は 丈夫 かしら 。 はは||じょうぶ| I wonder if my mother is healthy. 向 う の 机 を 占領 して いる 学生 が 二 人 、 西 洋菓子 を 食い ながら 、 団子 坂 の 菊 人形 の 収入 に ついて 大 に 論じて いる 。 むかい|||つくえ||せんりょう|||がくせい||ふた|じん|にし|ようがし||くい||だんご|さか||きく|にんぎょう||しゅうにゅう|||だい||ろんじて| Two students occupying the desk in front of me are eating Western sweets and discussing the income of the chrysanthemum dolls on the Dango Hill. 左 に 蜜柑 を むき ながら 、 その 汁 を 牛乳 の 中 へ たらして いる 書生 が ある 。 ひだり||みかん|||||しる||ぎゅうにゅう||なか||||しょせい|| On the left, a calligrapher peels a mandarin orange while pouring its juice into a glass of milk. 一 房 絞って は 、 文芸 倶楽部 の 芸者 の 写真 を 一 枚 は ぐ り 、 一 房 絞って は 一 枚 はぐ る 。 ひと|ふさ|しぼって||ぶんげい|くらぶ||げいしゃ||しゃしん||ひと|まい||||ひと|ふさ|しぼって||ひと|まい|| After each cell, I remove a photo of a geisha from the Bungei Club, and after each cell, I remove another. 芸者 の 絵 が 尽きた 時 、 彼 は コップ の 中 を 匙 で 攪 き 廻して 妙な 顔 を して いる 。 げいしゃ||え||つきた|じ|かれ||こっぷ||なか||さじ||かく||まわして|みょうな|かお||| When he runs out of pictures of geisha, he stirs the cup with a spoon and makes a strange face. 酸 で 牛乳 が 固まった ので 驚 ろ いて いる のだろう 。 さん||ぎゅうにゅう||かたまった||おどろ|||| They are probably surprised that the acid has hardened the milk. 高柳 君 は そこ に 重ねて ある 新聞 の 下 から 雑誌 を 引きずり出して 、 あれこれ と 見る 。 たかやなぎ|きみ||||かさねて||しんぶん||した||ざっし||ひきずりだして|||みる Takayanagi pulls out a magazine from under a stack of newspapers and looks at it. 目的 の 江 湖 雑誌 は 朝日 新聞 の 下 に 折れて いた 。 もくてき||こう|こ|ざっし||あさひ|しんぶん||した||おれて| The desired Eko magazine was folded under the Asahi newspaper. 折れて は いる が まだ 新 らしい 。 おれて|||||しん| broken|||||| It is broken but still looks new. 四五 日 前 に 出た ばかり のである 。 しご|ひ|ぜん||でた|| It had just left 45 days earlier. 折れた 所 は 六 号 活字 で 何だか 色 鉛筆 の 赤い 圏 点 が 一面に ついて いる 。 おれた|しょ||むっ|ごう|かつじ||なんだか|いろ|えんぴつ||あかい|けん|てん||いちめんに|| The broken part is covered with red dots of colored pencil in No. 6 type. 僕 の 恋愛 観 と 云 う 表題 の 下 に 中野 春 台 と ある 。 ぼく||れんあい|かん||うん||ひょうだい||した||なかの|はる|だい|| Under the title "My View of Love," the book is titled "Nakano Shundai. 春 台 は 無論 輝一 の 号 である 。 はる|だい||むろん|きいち||ごう| ||||Kaito||| Shundai is, of course, the name of Kiichi. 高柳 君 は 食い 欠いた 焼 麺 麭 ( やき パン ) を 皿 の 上 へ 置いた なり 「 僕 の 恋愛 観 」 を 見て いた が やがて 、 に やり と 笑った 。 たかやなぎ|きみ||くい|かいた|や|めん|ほう||ぱん||さら||うえ||おいた||ぼく||れんあい|かん||みて|||||||わらった Takayanagi put a piece of bread on his plate and said, "I've always been in love with you." He was looking at the "I" and then he smiled. 恋愛 観 の 結末 に 同じく 色 鉛筆 で 色 情 狂 ※[# 感嘆 符 三 つ 、320-13] と 書いて ある 。 れんあい|かん||けつまつ||おなじく|いろ|えんぴつ||いろ|じょう|くる|かんたん|ふ|みっ|||かいて| At the end of the love story, the same colored pencil is used to write the words "amorous madness" [three exclamation marks, 320-13]. 高柳 君 は 頁 を はぐった 。 たかやなぎ|きみ||ぺーじ||はぐ った |||||turned Takayanagi has torn off the page. 六 号 活字 は だいぶ 長い 。 むっ|ごう|かつじ|||ながい No. 6 print is much longer. もっとも いろいろの 人 の 名前 が 出て いる 。 ||じん||なまえ||でて| The names of the most varied people are mentioned. 一 番 始め に は 現代 青年 の 煩 悶 に 対する 諸 家 の 解決 と ある 。 ひと|ばん|はじめ|||げんだい|せいねん||わずら|もん||たいする|しょ|いえ||かいけつ|| |||||||||||to|||||| The first is the solution of various families to the anxieties of modern youth. 高柳 君 は 急に 読んで 見る 気 に なった 。 たかやなぎ|きみ||きゅうに|よんで|みる|き|| Takayanagi suddenly became interested in reading the book. ―― 第 一 は 静 心 の 工夫 を 積め と 云 う 注意 だ 。 だい|ひと||せい|こころ||くふう||つめ||うん||ちゅうい| -- The first is to be careful to be quiet and creative. 積め と は どう 積む の か ちっとも わから ない 。 つめ||||つむ||||| I have no idea how to stack them. 第 二 は 運動 を して 冷水 摩擦 を やれ と 云 う 。 だい|ふた||うんどう|||れいすい|まさつ||||うん| The second is to exercise and do cold-water friction. 簡単な もの である 。 かんたんな|| It is simple. 第 三 は 読書 も せ ず 、 世間 も 知ら ぬ 青年 が 煩 悶 する 法 が ない と 論じて いる 。 だい|みっ||どくしょ||||せけん||しら||せいねん||わずら|もん||ほう||||ろんじて| ||||||||||||||||||||arguing| Third, he argues that there is no law for a young man who has not read and does not know the world to agonize over. 無い と 云って も 有れば 仕方 が ない 。 ない||うん って||あれば|しかた|| ||||if there is||| If there is no such thing, it can't be helped. 第 四 は 休暇 ごと に 必ず 旅行 せよ と 勧告 して いる 。 だい|よっ||きゅうか|||かならず|りょこう|||かんこく|| The fourth recommends that each vacation must be followed by travel. しかし 旅費 の 出 処 は 明記 して ない 。 |りょひ||だ|しょ||めいき|| However, the source of the travel expenses is not clearly stated. ―― 高柳 君 は あと を 読む の が 厭 に なった 。 たかやなぎ|きみ||||よむ|||いと|| ||||||||disliked|| -- Takayanagi was sick of reading the rest. 颯 と 引っくりかえして 、 第 一 頁 を あける 。 さつ||ひっくりかえして|だい|ひと|ぺーじ|| ||flipping over||||| I turn the page and open it to the first page. 「 解脱 と 拘泥 …… 憂世 子 」 と 云 うの が ある 。 げだつ||こうでい|ゆうよ|こ||うん||| |||sorrowful world|||||| "Dissolution and Restraint: ...... Gloomy Child." The first is called the "Hashimoto's Law" (Hashimoto, 1964). 標題 が 面白い ので ちょっと 目 を 通す 。 ひょうだい||おもしろい|||め||とおす The title is interesting, so I'll take a look. 「 身体 の 局部 が どこ ぞ 悪い と 気 に かかる 。 からだ||きょくぶ||||わるい||き|| |of||||||||| I feel something is wrong in some area of my body. 何 を して いて も 、 それ が コダワって 来る 。 なん|||||||コダワ って|くる |||||||obsessing over| No matter what I do, it comes to me. ところが 非常に 健康な 人 は 行 住 坐 臥 ともに わが 身体 の 存在 を 忘れて いる 。 |ひじょうに|けんこうな|じん||ぎょう|じゅう|すわ|が|||からだ||そんざい||わすれて| ||||||||lying down|||||||| However, a very healthy person forgets the existence of my body when he or she goes, lives, sits, or lies down. 一 点 の 局部 だ にわ が 注意 を 集 注 す べき 患 所 が ない から 、 かく    安 々 と 胖 か な のである 。 ひと|てん||きょくぶ||||ちゅうい||しゅう|そそ|||わずら|しょ|||||やす|||ゆたか||| ||||||||||||||||||||||fat||| It is so easy and carefree because there is no single localized area to which we should focus our attention. 瘠せて 蒼 い 顔 を して いる 人 に 、 君 は 胃 が 悪い だろう と 尋ねて 見た 事 が ある 。 やせて|あお||かお||||じん||きみ||い||わるい|||たずねて|みた|こと|| thin|pale||||||||||||||||||| I once asked a thin man with a pale face if he had a stomach problem. すると その 男 が 答えて 、 胃 は 少しも 故障 が ない 、 その 証拠 に は 僕 は この 年 に なる が 、 いまだに 胃 が どこ に ある か 知ら ない と 云 うた 。 ||おとこ||こたえて|い||すこしも|こしょう||||しょうこ|||ぼく|||とし|||||い||||||しら|||うん| The man replied that his stomach had not failed him in the slightest, and that the proof was that at my age I still did not know where my stomach was. その 時 は 笑って 済んだ が 、 後 で 考えて 見る と 大 に 悟った 言葉 である 。 |じ||わらって|すんだ||あと||かんがえて|みる||だい||さとった|ことば| I laughed it off at the time, but later I realized that it was a very enlightening statement. この 人 は 全く 胃 が 健康だ から 胃 に 拘泥 する 必要 が ない 、 必要 が ない から 胃 が どこ に あって も 構わ ない の と 見える 。 |じん||まったく|い||けんこうだ||い||こうでい||ひつよう|||ひつよう||||い||||||かまわ||||みえる It seems to me that this person has a perfectly healthy stomach and therefore does not need to be concerned about it, or does not care where it is located because it is not needed. 自在 飲 、 自在 食 、 いっこう 平気である 。 じざい|いん|じざい|しょく||へいきである Eating and drinking at will is fine. この 男 は 胃 に おいて 悟 を 開いた もの である 。 |おとこ||い|||さとし||あいた|| This man was enlightened by his stomach. ……」 高柳 君 は これ は 少し 妙だ よ と 口 の なか で 云った 。 たかやなぎ|きみ||||すこし|みょうだ|||くち||||うん った ......" Takayanagi said inside his mouth, "This is a little strange. 胃 の 悟り は 妙だ と 云った 。 い||さとり||みょうだ||うん った I told him that the enlightenment of the stomach is strange. 「 胃 に ついて 道 い 得 べき 事 は 、 惣身 に ついて も 道 い 得 べき 事 である 。 い|||どう||とく||こと||そうみ||||どう||とく||こと| What should be taught about the stomach should also be taught about the body. 惣身 に ついて 道 い 得 べき 事 は 、 精神 に ついて も 道 い 得 べき 事 である 。 そうみ|||どう||とく||こと||せいしん||||どう||とく||こと| whole body|||||||||||||||||| What is to be taught about the body is also to be taught about the mind. ただ 精神 生活 に おいて は 得失 の 両面 に おいて 等しく 拘泥 を 免 かれ ぬ ところ が 、 身体 より 煩い に なる 。 |せいしん|せいかつ||||とくしつ||りょうめん|||ひとしく|こうでい||めん|||||からだ||わずらい|| However, the mental life is more troublesome than the physical, since both gain and loss are equally detrimental to the mental life. 「 一 能 の 士 は 一 能 に 拘泥 し 、 一 芸 の 人 は 一 芸 に 拘泥 して 己 れ を 苦しめて いる 。 ひと|のう||し||ひと|のう||こうでい||ひと|げい||じん||ひと|げい||こうでい||おのれ|||くるしめて| A person of one performance is obsessed with one performance, and a person of one art is obsessed with one art, and suffers for it. 芸能 は 気 の 持ち よう で は すぐ 忘れる 事 も 出来る 。 げいのう||き||もち|||||わすれる|こと||できる Entertainment can be easily forgotten if one is in the right frame of mind. わが 欠点 に 至って は 容易に 解脱 は 出来 ぬ 。 |けってん||いたって||よういに|げだつ||でき| ||||||liberation||| My shortcomings are not easily overcome. 「 百 円 や 二百 円 も する 帯 を しめて 女 が 音楽 会 へ 行く と この 帯 が 妙に 気 に なって 音楽 が 耳 に 入ら ぬ 事 が ある 。 ひゃく|えん||にひゃく|えん|||おび|||おんな||おんがく|かい||いく|||おび||みょうに|き|||おんがく||みみ||はいら||こと|| When a woman goes to a music concert wearing a belt that costs 100 or 200 yen, this belt sometimes bothers her so much that she can't hear the music. これ は 帯 に 拘泥 する から である 。 ||おび||こうでい||| This is because they are bound by the belt. しかし これ は 自慢 の 例 じゃ 。 |||じまん||れい| But this is an example of pride. 得意の 方 は 前 云 う 通り 祟 り を 避け 易い 。 とくいの|かた||ぜん|うん||とおり|たたり|||さけ|やすい As I said before, it is easier to avoid hauntings if you are good at it. しかし 不 面目 の 側 は なかなか 強情に 祟 る 。 |ふ|めんぼく||がわ|||ごうじょうに|たたり| |||||||stubbornly|| However, the ungrateful side is quite stubborn and possessive. 昔 し さる 所 で 一 人 の 客 に 紹介 さ れた 時 、 御 互 に 椅子 の 上 で 礼 を して 双方 共 頭 を 下げた 。 むかし|||しょ||ひと|じん||きゃく||しょうかい|||じ|ご|ご||いす||うえ||れい|||そうほう|とも|あたま||さげた Once upon a time, when I was introduced to a guest at a restaurant, we both bowed and thanked each other on our chairs. 下げ ながら 、 向 う の 足 を 見る と その 男 の 靴 足袋 の 片 々 が 破れて 親指 の 爪 が 出て いる 。 さげ||むかい|||あし||みる|||おとこ||くつ|たび||かた|||やぶれて|おやゆび||つめ||でて| As he lowered his shoe, I looked at his other foot and saw that one of the man's socks was torn and his thumbnail was sticking out. こちら が 頭 を 下げる と 同時に 彼 は 満足な 足 を あげて 、 破れ 足袋 の 上 に 加えた 。 ||あたま||さげる||どうじに|かれ||まんぞくな|あし|||やぶれ|たび||うえ||くわえた ||||||||||||||tabi|||| At the same time we bowed our heads, he lifted his satisfied foot and added it to his torn socks. この 人 は 足袋 の 穴 に 拘泥 して いた のである 。 |じん||たび||あな||こうでい||| He was obsessed with the hole in the tabi. ……」 おれ も 拘泥 して いる 。 ||こうでい|| ......" I'm also obsessed with it. おれ の から だ は 穴 だらけ だ と 高柳 君 は 思い ながら 先 へ 進む 。 |||||あな||||たかやなぎ|きみ||おもい||さき||すすむ My body is full of holes," Takayanagi thought as he continued on. 「 拘泥 は 苦痛 である 。 こうでい||くつう| The detainment is painful. 避け なければ なら ぬ 。 さけ||| It must be avoided. 苦痛 そのもの は 避け がたい 世 であろう 。 くつう|その もの||さけ||よ| Pain itself is inevitable in this world. しかし 拘泥 の 苦痛 は 一 日 で 済む 苦痛 を 五 日 、 七 日 に 延長 する 苦痛 である 。 |こうでい||くつう||ひと|ひ||すむ|くつう||いつ|ひ|なな|ひ||えんちょう||くつう| However, the pain of detention is a pain that extends from one day to five or seven days. いら ざる 苦痛 である 。 ||くつう| It's pain that I don't want. 避け なければ なら ぬ 。 さけ||| It must be avoided. 「 自己 が 拘泥 する の は 他人 が 自己 に 注意 を 集 注 する と 思う から で 、 つまり は 他人 が 拘泥 する から である 。 じこ||こうでい||||たにん||じこ||ちゅうい||しゅう|そそ|||おもう|||||たにん||こうでい||| The self becomes obsessed because it thinks others will pay attention to it, in other words, because others are obsessed with it. ……」 高柳 君 は 音楽 会 の 事 を 思いだした 。 たかやなぎ|きみ||おんがく|かい||こと||おもいだした ||||||||remembered ......" Takayanagi remembered the music concert. 「 したがって 拘泥 を 解脱 する に は 二 つ の 方法 が ある 。 |こうでい||げだつ||||ふた|||ほうほう|| Therefore, there are two ways to break free from the bondage. 他人 が いくら 拘泥 して も 自分 は 拘泥 せ ぬ の が 一 つ の 解脱 法 である 。 たにん|||こうでい|||じぶん||こうでい|||||ひと|||げだつ|ほう| No matter how much others may hold you back, it is a method of liberation. 人 が 目 を 峙 て て も 、 耳 を 聳 や かして も 、 冷 評して も 罵 詈 して も 自分 だけ は 拘泥 せ ず に さっさと 事 を 運んで 行く 。 じん||め||じ||||みみ||しょう||||ひや|ひょうして||ののし|り|||じぶん|||こうでい|||||こと||はこんで|いく ||||staring|||||||||||||||||||||||||||| Even if people look at you with shining eyes or deaf ears, even if they criticize you coldly or revile you, you do not hold yourself back and get on with things quickly. 大久保 彦左 衛 門 は 盥 で 登 城 した 事 が ある 。 おおくぼ|ひこひだり|まもる|もん||たらい||のぼる|しろ||こと|| |Hikoza||||washbasin||||||| Okubo Hikozaemon once ascended the castle in a washbasin. ……」 高柳 君 は 彦左 衛 門 が 羨ま しく なった 。 たかやなぎ|きみ||ひこひだり|まもる|もん||うらやま|| ......" Takayanagi became envious of Hikozaemon. 「 立派な 衣装 を 馬 士 に 着せる と 馬 士 は すぐ 拘泥 して しまう 。 りっぱな|いしょう||うま|し||きせる||うま|し|||こうでい|| If you put a fine costume on a horseman, he will immediately become obsessed with it. 華族 や 大名 は この 点 に おいて 解脱 の 方 を 得て いる 。 かぞく||だいみょう|||てん|||げだつ||かた||えて| The nobility and feudal lords have achieved liberation in this respect. 華族 や 大名 に 馬 士 の 腹掛 を かけ さす と 、 すぐ 拘泥 して しまう 。 かぞく||だいみょう||うま|し||はらがけ||||||こうでい|| |||||||belly guard|||||||| If a nobleman or a feudal lord was allowed to wear a horseman's coat, he would be immediately detained. 釈迦 や 孔子 は この 点 に おいて 解脱 を 心得て いる 。 しゃか||こうし|||てん|||げだつ||こころえて| ||Confucius||||||||| In this respect, Buddha and Confucius were aware of liberation. 物質 界 に 重 を 置か ぬ もの は 物質 界 に 拘泥 する 必要 が ない から である 。 ぶっしつ|かい||おも||おか||||ぶっしつ|かい||こうでい||ひつよう|||| The reason is that those who do not place importance on the material world do not need to be bound by the material world. ……」 高柳 君 は 冷め かかった 牛乳 を ぐっと 飲んで 、 う う と 云った 。 たかやなぎ|きみ||さめ||ぎゅうにゅう|||のんで||||うん った ......" Takayanagi gulped down the nearly cold milk and said, "Ugh. 「 第 二 の 解脱 法 は 常 人 の 解脱 法 である 。 だい|ふた||げだつ|ほう||とわ|じん||げだつ|ほう| |||liberation|||||||| The second method of liberation is the method of ordinary people. 常 人 の 解脱 法 は 拘泥 を 免 かる る ので は ない 、 拘泥 せ ねば なら ぬ ような 苦しい 地位 に 身 を 置く の を 避ける のである 。 とわ|じん||げだつ|ほう||こうでい||めん||||||こうでい||||||くるしい|ちい||み||おく|||さける| The normal person's way of liberation is not to be exempted from bondage, but to avoid putting oneself in a difficult position where one must be held in bondage. 人 の 視聴 を 惹 く の 結果 、 われ より 苦痛 が 反射 せ ぬ ように と 始め から 用心 する のである 。 じん||しちょう||じゃく|||けっか|||くつう||はんしゃ|||||はじめ||ようじん|| From the very beginning, we must be careful not to reflect more pain as a result of what people see. したがって 始め より 流 俗に 媚 び て 一 世 に 附和 する 心底 が なければ 成功 せ ぬ 。 |はじめ||りゅう|ぞくに|び|||ひと|よ||ふわ||しんそこ|||せいこう|| |||||||ing||||conformity||||||| Therefore, from the very beginning, we must have a heart that is in tune with the popular culture and is in harmony with the times, or we will not succeed. 江戸 風 な 町人 は この 解脱 法 を 心得て いる 。 えど|かぜ||ちょうにん|||げだつ|ほう||こころえて| |style||||||||| Edo style townspeople know how to solve this problem. 芸 妓通 客 は この 解脱 法 を 心得て いる 。 げい|きとおり|きゃく|||げだつ|ほう||こころえて| |prostitute|||||||| The geiko connoisseur knows how to break the rules. 西洋 の いわゆる 紳士 ( ゼントルマン ) は もっとも よく この 解脱 法 を 心得た もの である 。 せいよう|||しんし||||||げだつ|ほう||こころえた|| ||||gentleman|||||||||| The so-called gentlemen in the West were the most familiar with this method of liberation. ……」 芸者 と 紳士 ( ゼントルマン ) が いっしょに なって る の は 、 面白い と 、 青年 は また 焼 麺 麭 ( やき パン ) の 一片 を 、 横合 から 半円 形 に 食い 欠いた 。 げいしゃ||しんし||||||||おもしろい||せいねん|||や|めん|ほう||ぱん||いっぺん||よこあい||はんえん|かた||くい|かいた |||||||||||||||||||||||side|||||| ......" The young man thought it was interesting to see a geisha and a gentleman together, and bit off a piece of baked bread from the side in a semicircle. 親指 に ついた 牛 酪 ( バタ ) を そのまま 袴 の 膝 へ なすりつけた 。 おやゆび|||うし|らく||||はかま||ひざ|| ||||||||||||smeared He rubbed the dairy on his thumb against Hakama's knee. 「 芸 妓 、 紳士 、 通 人 から 耶蘇 ( ヤソ ) 孔子 釈迦 を 見れば 全然 たる 狂 人 である 。 げい|き|しんし|つう|じん||やそ||こうし|しゃか||みれば|ぜんぜん||くる|じん| ||||||Jesus|Jesus||||||||| If geiko, gentlemen, and passersby look at Confucius and Sakyamuni, they see a slacker. 耶蘇 、 孔子 、 釈迦 から 芸 妓 、 紳士 、 通 人 を 見れば 依然と して 拘泥 して いる 。 やそ|こうし|しゃか||げい|き|しんし|つう|じん||みれば|いぜん と||こうでい|| From Ye Su, Confucius, and the Buddha to geishas, gentlemen, and passersby, they are still obsessed. 拘泥 の うち に 拘泥 を 脱し 得たり と 得意なる もの は 彼ら である 。 こうでい||||こうでい||だっし|えたり||とくいなる|||かれら| |||||||||proud|||| They are the ones who are the best at getting out of a bind. 両者 の 解脱 は 根本 義 に おいて 一致 すべ から ざる もの である 。 りょうしゃ||げだつ||こんぽん|ただし|||いっち||||| Their liberation is not identical in fundamental principles. ……」 高柳 君 は 今 まで 解脱 の 二 字 に おいて かつて 考えた 事 は なかった 。 たかやなぎ|きみ||いま||げだつ||ふた|あざ||||かんがえた|こと|| ......" Takayanagi had never thought about the word "liberation" until now. ただ 文 界 に 立って 、 ある 物 に なりたい 、 なりたい が なれ ない 、 なれ ん ので は ない 、 金 が ない 、 時 が ない 、 世間 が 寄ってたかって 己 れ を 苦しめる 、 残念だ 無念だ と ばかり 思って いた 。 |ぶん|かい||たって||ぶつ||なり たい|なり たい|||||||||きむ|||じ|||せけん||よってたかって|おのれ|||くるしめる|ざんねんだ|むねんだ|||おもって| I just wanted to stand up in the world of literature and become something, but I couldn't. I thought it was a shame and a disappointment that I couldn't, that I didn't have the money or the time, and that the world was making it hard for me. あと を 読む 気 に なる 。 ||よむ|き|| I'll be interested to read the rest of the book. 「 解脱 は 便法 に 過ぎ ぬ 。 げだつ||べんぽう||すぎ| ||expedient method||| Liberation is nothing more than a convenience. 下 れる 世に 立って 、 わが 真 を 貫徹 し 、 わが 善 を 標榜 し 、 わが 美 を 提唱 する の 際 、 甚泥 帯 水 の 弊 を まぬがれ 、 勇猛 精進 の 志 を 固く して 、 現代 下 根 の 衆生 より 受 くる 迫害 の 苦痛 を 委 却 する ため の 便法 である 。 した||よに|たって||まこと||かんてつ|||ぜん||ひょうぼう|||び||ていしょう|||さい|じんどろ|おび|すい||へい|||ゆうもう|しょうじん||こころざし||かたく||げんだい|した|ね||しゅじょう||じゅ||はくがい||くつう||い|きゃく||||べんぽう| |||||||||||||||||||||deep mud|||||||||||||||||||||||||||||||| This is a way of avoiding the evils of the deepest mud and water, and of being firm in one's will of valor and devotion, and of resigning oneself to the suffering of persecution from the sentient beings of the modern world. この 便法 を 証 得し 得 ざる 時 、 英霊 の 俊 児 、 また ついに 鬼 窟 裏 に 堕 在 して 彼 の いわゆる 芸 妓紳 士 通 人 と 得失 を 較 する の 愚 を 演じて 憚 から ず 。 |べんぽう||あかし|とくし|とく||じ|えいれい||しゆん|じ|||おに|いわや|うら||だ|ざい||かれ|||げい|きしん|し|つう|じん||とくしつ||かく|||ぐ||えんじて|はばか|| |||||||||||||||||||||||||geisha|||||||||||||not hesitate|| When you can't prove it, you are a child of the spirit, and you have finally fallen into the devil's backyard, and you dare not compare yourself with his so called geiko gentleman friends. 国家 の ため 悲しむ べき 事 である 。 こっか|||かなしむ||こと| It is a grievous matter for the nation. 「 解脱 は 便法 である 。 げだつ||べんぽう| "Liberation is a convenience. この 方便 門 を 通じて 出頭 し 来る 行為 、 動作 、 言説 の 是非 は 解脱 の 関する ところ で は ない 。 |ほうべん|もん||つうじて|しゅっとう||くる|こうい|どうさ|げんせつ||ぜひ||げだつ||かんする|||| The validity of the acts, actions, and discourse that come to us through this gateway does not concern liberation. したがって 吾人 は 解脱 を 修得 する 前 に 正 鵠 に あた れる 趣味 を 養成 せ ねば なら ぬ 。 |ごじん||げだつ||しゅうとく||ぜん||せい|くぐい||||しゅみ||ようせい|||| Therefore, before I can attain liberation, I must cultivate a hobby that hits the nail on the head. 下 劣 なる 趣味 を 拘泥 なく 一 代 に 塗 抹 する は 学 人 の 恥 辱 である 。 した|おと||しゅみ||こうでい||ひと|だい||ぬ|まつ|||まな|じん||はじ|じょく| |||||||||||to erase|||||||| It is a disgrace for a learned man to smear his inferior hobbies on a single generation without restraint. 彼ら が 貴重なる 十 年 二十 年 を 挙げて 故 紙 堆裏 に 兀々 たる は 、 衣食 の ため で は ない 、 名 聞 の ため で は ない 、 ないし 爵禄 財宝 の ため で は ない 。 かれら||きちょうなる|じゅう|とし|にじゅう|とし||あげて|こ|かみ|ついうら||こつ々|||いしょく||||||な|き|||||||しゃくろく|ざいほう||||| ||precious|||||||||behind the pile|||||||||||||||||||nobility salary|||||| The reason they spent ten or twenty precious years soaking in the tombs of the deceased was not for food and clothing, not for fame, not for their nobility, nor for their treasure. 微 か なる 墨 痕 の うち に 、 光明 の 一 炬 を 点じ 得て 、 点じ 得 たる 道 火 を 解脱 の 方便 門 より 担い 出して 暗黒 世界 を 遍 照 せ ん が ため である 。 び|||すみ|あと||||こうみょう||ひと|きょ||てんじ|えて|てんじ|とく||どう|ひ||げだつ||ほうべん|もん||にない|だして|あんこく|せかい||へん|あきら||||| |||||||||||torch|||||||||||||||||||||||||| In the faintest inkstain, we may light a torch of light, and carry it through the gate of liberation to illuminate the underworld. 「 この ゆえ に 真に 自家 証 得 底 の 見解 ある もの の ため に 、 拘泥 の 煩 を 払って 、 でき 得る 限り 彼ら を して 第 一種 の 解脱 に 近づか しむ る を 道徳 と 云 う 。 |||しんに|じか|あかし|とく|そこ||けんかい||||||こうでい||わずら||はらって||える|かぎり|かれら|||だい|いっしゅ||げだつ||ちかづか||||どうとく||うん| ||||||||||||||||||||||||||||||||||object marker|morality||| Therefore, for the sake of those who truly have an insight into the bottom of self-satisfaction, it is called morality that they should be brought as close as possible to the first kind of liberation, by paying attention to the troubles they face. 道徳 と は 有道 の 士 を して 道 を 行わ しめ ん が ため に 、 吾人 が これ に 対して 与 うる 自由 の 異名 である 。 どうとく|||ありみち||し|||どう||おこなわ||||||ごじん||||たいして|あずか||じゆう||いみょう| |||possessing virtue|||||||||||||||||||||of|| Morality is the alias for the freedom we can give to the virtuous in order to make them do the right thing. この 大 道徳 を 解せ ざる もの を 俗 人 と 云 う 。 |だい|どうとく||かいせ||||ぞく|じん||うん| Those who do not understand this great moral principle are called philistines. 「 天下 の 多数 は 俗 人 である 。 てんか||たすう||ぞく|じん| Many in the world are philistines. わが 位 に 着する が ため に この 大 道徳 を 解し 得 ぬ 。 |くらい||ちゃくする|||||だい|どうとく||かいし|とく| |||||||||||understand|| Because of my position, I have failed to understand this great moral principle. わが 富 に 着する が ため に この 大 道徳 を 解し 得 ぬ 。 |とみ||ちゃくする|||||だい|どうとく||かいし|とく| I cannot understand this great moral because of my wealth. 下 れる もの は 、 わが 酒 と わが 女 に 着する が ため に この 大 道徳 を 解し 得 ぬ 。 した|||||さけ|||おんな||ちゃくする|||||だい|どうとく||かいし|とく| The lowly cannot understand this great morality because they are dressed in my wine and my women. 「 光明 は 趣味 の 先駆 である 。 こうみょう||しゅみ||せんく| The light is the precursor of the hobby. 趣味 は 社会 の 油 である 。 しゅみ||しゃかい||あぶら| Hobbies are the oil of society. 油 なき 社会 は 成立 せ ぬ 。 あぶら||しゃかい||せいりつ|| Oil is not the key to a society. 汚れ たる 油 に 廻 転 する 社会 は 堕落 する 。 けがれ||あぶら||まわ|てん||しゃかい||だらく| A society that turns to dirty oil is corrupt. か の 紳士 、 通 人 、 芸 妓 の 徒 は 、 汚れ たる 油 の 上 を 滑って 墓 に 入る もの である 。 ||しんし|つう|じん|げい|き||と||けがれ||あぶら||うえ||すべって|はか||はいる|| Gentlemen, commoners, and geisha used to slip on the slick oil to enter the tombs. 華族 と 云 い 貴 顕 と 云 い 豪商 と 云 う もの は 門 閥 の 油 、 権勢 の 油 、 黄 白 の 油 を もって 一 世 を 逆 しま に 廻 転せん と 欲する もの である 。 かぞく||うん||とうと|あきら||うん||ごうしょう||うん||||もん|ばつ||あぶら|けんせい||あぶら|き|しろ||あぶら|||ひと|よ||ぎゃく|||まわ|てんせん||ほっする|| |||||||||||||||lineage||||power||||||||||||||||will turn|||| The nobility, the high society, and the wealthy merchants are all eager to turn the world around with the oil of their clans, the oil of their power, and the oil of the yellow and white. 「 真 正 の 油 は 彼ら の 知る ところ で は ない 。 まこと|せい||あぶら||かれら||しる|||| They do not know the true oil. 彼ら は 生れて より 以来 この 油 に ついて 何ら の 工夫 も 費やして おら ん 。 かれら||うまれて||いらい||あぶら|||なんら||くふう||ついやして|| ||||since||||||||||| They have not spent any effort on this oil since its birth. 何ら の 工夫 を 費やさ ぬ もの が 、 この 大 道徳 を 解せ ぬ の は 許す 。 なんら||くふう||ついやさ|||||だい|どうとく||かいせ||||ゆるす I do not forgive those who do not use their ingenuity to understand this great moral. 光明 の 学徒 を 圧迫 せんと する に 至って は 、 俗 人 の 域 を 超越 して 罪人 の 群 に 入る 。 こうみょう||がくと||あっぱく||||いたって||ぞく|じん||いき||ちょうえつ||ざいにん||ぐん||はいる ||||||||||||||||||of||| When they try to oppress the students of the light, they transcend the realm of the mundane and join the ranks of sinners. 「 三味線 を 習う に も 五六 年 は かかる 。 しゃみせん||ならう|||ごろく|とし|| It takes fifty-six years to learn to play the shamisen. 巧 拙 を 聴き 分 くる さえ 一 カ月 の 修業 で は 出来 ぬ 。 こう|せつ||きき|ぶん|||ひと|かげつ||しゅぎょう|||でき| It takes more than a month of practice to even hear and know what is good and what is bad. 趣味 の 修養 が 三 味 の 稽古 より 易い と 思う の は 間違って いる 。 しゅみ||しゅうよう||みっ|あじ||けいこ||やすい||おもう|||まちがって| |||subject marker|||||||||||| It is wrong to think that the cultivation of a hobby is easier than the practice of a three-sport art. 茶の湯 を 学ぶ 彼ら は いら ざる 儀式 に 貴重な 時間 を 費やして 、 一 々 に 師匠 の 云 う 通り に なる 。 ちゃのゆ||まなぶ|かれら||||ぎしき||きちょうな|じかん||ついやして|ひと|||ししょう||うん||とおり|| They spend their valuable time on unnecessary rituals, and every so often they do what the master tells them to do. 趣味 は 茶の湯 より 六 ず か しい もの じゃ 。 しゅみ||ちゃのゆ||むっ||||| A hobby is much more than the tea ceremony. 茶 坊主 に 頭 を 下げる 謙 徳 が ある ならば 、 趣味 の 本家 たる 学 者 の 考 は なおさら 傾聴 せ ねば なら ぬ 。 ちゃ|ぼうず||あたま||さげる|けん|とく||||しゅみ||ほんけ||まな|もの||こう|||けいちょう|||| |||||||||||||||||||||attentive listening|||| If we have the humility to bow down to a tea master, we should listen even more closely to the thoughts of a scholar who is a true master of the hobby. 「 趣味 は 人間 に 大切な もの である 。 しゅみ||にんげん||たいせつな|| Hobbies are important for human beings. 楽器 を 壊 つ もの は 社会 から 音楽 を 奪う 点 に おいて 罪人 である 。 がっき||こわ||||しゃかい||おんがく||うばう|てん|||ざいにん| Those who destroy musical instruments are sinners in that they deprive society of music. 書物 を 焼く もの は 社会 から 学問 を 奪う 点 に おいて 罪人 である 。 しょもつ||やく|||しゃかい||がくもん||うばう|てん|||ざいにん| Those who burn books are sinners in that they deprive society of learning. 趣味 を 崩す もの は 社会 そのもの を 覆え す 点 に おいて 刑法 の 罪人 より も はなはだしき 罪人 である 。 しゅみ||くずす|||しゃかい|その もの||おおえ||てん|||けいほう||ざいにん||||ざいにん| ||||||||overwhelms||||||||||exceedingly|| Those who destroy hobbies are worse offenders than criminals in criminal law in that they subvert society itself. 音楽 は なく と も 吾人 は 生きて いる 、 学問 が なくて も 吾人 は いきて いる 。 おんがく|||||ごじん||いきて||がくもん||||ごじん||| I am alive without music, and I am alive without learning. 趣味 が なくて も 生きて おら れる かも 知れ ぬ 。 しゅみ||||いきて||||しれ| He might be able to live without his hobbies. しかし 趣味 は 生活 の 全体 に 渉 る 社会 の 根本 要素 である 。 |しゅみ||せいかつ||ぜんたい||わたる||しゃかい||こんぽん|ようそ| However, hobbies are a fundamental element of society that encompass the entirety of life. これ なく して 生き ん と する は 野 に 入って 虎 と 共に 生き ん と する と 一般 である 。 |||いき|||||の||はいって|とら||ともに|いき|||||いっぱん| To live without it is like trying to live with a tiger in the field. 「 ここ に 一 人 が ある 。 ||ひと|じん|| "Here is one person. この 一 人 が 単に 自己 の 思う ように なら ぬ と 云 う 源 因 の もと に 、 多勢 が 朝 に 晩 に 、 この 一 人 を 突つき 廻 わして 、 幾 年 の 後 この 一 人 の 人格 を 堕落 せ しめて 、 下 劣 なる 趣味 に 誘い 去り たる 時 、 彼ら は 殺人 より 重い 罪 を 犯した のである 。 |ひと|じん||たんに|じこ||おもう|||||うん||げん|いん||||たぜい||あさ||ばん|||ひと|じん||つつき|まわ||いく|とし||あと||ひと|じん||じんかく||だらく|||した|おと||しゅみ||さそい|さり||じ|かれら||さつじん||おもい|ざい||おかした| When, from the source of this one person's inability to do as they pleased, many poked and prodded him morning and night, and after years of degrading his character and luring him into inferior pursuits, they had committed a crime worse than murder. 人 を 殺せば 殺さ れる 。 じん||ころせば|ころさ| If you kill people, you will be killed. 殺さ れた もの は 社会 から 消えて 行く 。 ころさ||||しゃかい||きえて|いく Those who are killed disappear from society. 後 患 は 遺 さ ない 。 あと|わずら||い|| There will be no lasting effects. 趣味 の 堕落 した もの は 依然と して 現存 する 。 しゅみ||だらく||||いぜん と||げんそん| The corruption of the hobby still exists. 現存 する 以上 は 堕落 した 趣味 を 伝染 せ ねば やま ぬ 。 げんそん||いじょう||だらく||しゅみ||でんせん|||| ||||decadence|||||||| As long as we exist, we must spread our corrupted taste. 彼 は ペスト である 。 かれ||ぺすと| He is a pest. ペスト を 製造 した もの は もちろん 罪人 である 。 ぺすと||せいぞう|||||ざいにん| The pest manufacturer is, of course, a sinner. 「 趣味 の 世界 に ペスト を 製造 して 罰せられ ん の は 人殺し を して 罰せられ ん の と 同様である 。 しゅみ||せかい||ぺすと||せいぞう||ばっせ られ||||ひとごろし|||ばっせ られ||||どうようである "To be punished for manufacturing plague in the world of hobbies is like being punished for killing people. 位 地 の 高い もの は もっとも この 罪 を 犯し やすい 。 くらい|ち||たかい|||||ざい||おかし| Those of high rank are most likely to commit this sin. 彼ら は 彼ら の 社会 的 地位 から して 、 他 に 働きかける 便宜 の 多い 場所 に 立って いる 。 かれら||かれら||しゃかい|てき|ちい|||た||はたらきかける|べんぎ||おおい|ばしょ||たって| Because of their social position, they stand in a position of great convenience to reach out to others. 他 に 働きかける 便宜 を 有して 、 働きかける 道 を 弁え ぬ もの は 危険である 。 た||はたらきかける|べんぎ||ゆうして|はたらきかける|どう||わきまえ||||きけんである |||||||||understand|||| It is dangerous to have the convenience of working with others, but not to know how to work with them. 「 彼ら は 趣味 に おいて 専門 の 学徒 に 及ば ぬ 。 かれら||しゅみ|||せんもん||がくと||およば| They are not as good as professional students in terms of hobbies. しかも 学徒 以上 他 に 働きかける の 能力 を 有して いる 。 |がくと|いじょう|た||はたらきかける||のうりょく||ゆうして| Moreover, they have the ability to reach out to others beyond the student body. 能力 は 権利 で は ない 。 のうりょく||けんり||| Ability is not a right. 彼ら の ある もの は この 区別 さえ 心得て おら ん 。 かれら||||||くべつ||こころえて|| |||thing||||||| Some of them don't even know the difference. 彼ら の 趣味 を 教育 す べく この世 に 出現 せる 文学 者 を 捕えて すら これ を 逆 しま に 吾意 の ごとく せんと する 。 かれら||しゅみ||きょういく|||このよ||しゅつげん||ぶんがく|もの||とらえて||||ぎゃく|||われい|||| |||||||||||||||||||||my intention|||| I will not only capture the literary scholars who come into the world to educate them in their hobbies, but I will also do as I please with them. 彼ら は 単に 大 道徳 を 忘れ たる のみ なら ず 、 大 不道徳 を 犯して 恬然 と して 社会 に 横行 し つつ ある のである 。 かれら||たんに|だい|どうとく||わすれ|||||だい|ふどうとく||おかして|てんぜん|||しゃかい||おうこう|||| ||||||||||||great immorality|||||||||||| Not only have they forgotten the great moral principles, but they are perpetrating great immorality and perpetrating it nonchalantly in society. 「 彼ら の 意 の ごとく なる 学徒 が あれば 、 自己 の 天職 を 自覚 せ ざる 学徒 である 。 かれら||い||||がくと|||じこ||てんしょく||じかく|||がくと| If a student is what they say they are, they are a student who has not found their calling. 彼ら を 教育 する 事 の 出来 ぬ 学徒 が あれば 腰 の 抜け たる 学徒 である 。 かれら||きょういく||こと||でき||がくと|||こし||ぬけ||がくと| |||||||||subject marker||||||| If any student is incapable of educating them, it is a student who has lost his or her nerve. 学徒 は 光明 を 体せ ん 事 を 要す 。 がくと||こうみょう||たいせ||こと||ようす ||||to embody|||| The students must be able to see the light. 光明 より 流れ出 ずる 趣味 を 現 実せん 事 を 要す 。 こうみょう||ながれで||しゅみ||げん|じっせん|こと||ようす |than|flows out|||||to realize||| We need to make the hobbies that flow from the brightest light a reality. しか して これ を 現 実せん が ため に 、 拘泥 せ ざら ん 事 を 要す 。 ||||げん|じっせん||||こうでい||||こと||ようす |||||||||||||thing|(object marker)|requires However, in order to make this a reality, we must not be deterred. 拘泥 せ ざら ん が ため に 解脱 を 要す 」 高柳 君 は 雑誌 を 開いた まま 、 茫然と して 眼 を 挙げた 。 こうでい|||||||げだつ||ようす|たかやなぎ|きみ||ざっし||あいた||ぼうぜんと||がん||あげた To be bound by it, we must be liberated from it." Takayanagi opened the magazine and raised his eyes, stunned. 正面 の 柱 に かかって いる 、 八 角 時計 が ぼ うんと 一 時 を 打つ 。 しょうめん||ちゅう||||やっ|かど|とけい||||ひと|じ||うつ The octagonal clock on the pillar in front of the building beats an hour. 柱 の 下 の 椅子 に ぽつ 然 と 腰 を 掛けて いた 小 女 郎 が 時計 の 音 と 共に 立ち上がった 。 ちゅう||した||いす|||ぜん||こし||かけて||しょう|おんな|ろう||とけい||おと||ともに|たちあがった The little girl who was sitting on a chair under the pillar stood up with the sound of the clock. 丸 テーブル の 上 に は 安い 京 焼 の 花 活 に 、 浅ましく 水仙 を 突きさして 、 葉 の 先 が 黄ばんで いる の を 、 いつまでも そのまま に 水 を やら ぬ 気 と 見える 。 まる|てーぶる||うえ|||やすい|けい|や||か|かつ||あさましく|すいせん||つきさして|は||さき||きばんで|||||||すい||||き||みえる |||||||||||||||||||||yellowing||||||||||||| On a round table, a daffodil is shallowly propped up in a cheap kyoyaki flower vase, and the tips of its leaves are yellowing, as if it is not watered as it should be. 小 女 郎 は 水仙 の 花 に ちょっと 手 を 触れて 、 花 活 の そば に ある 新聞 を とり上げた 。 しょう|おんな|ろう||すいせん||か|||て||ふれて|か|かつ|||||しんぶん||とりあげた ||||||||||||||||||||picked up The little wench touched the daffodil and picked up a newspaper near the flower. 読む か と 思ったら 四 つ に 畳んで 傍 に 置いた 。 よむ|||おもったら|よっ|||たたんで|そば||おいた I folded it into four and put it on the table beside me. この 女 は 用 も ない の に 立ち上がった のである 。 |おんな||よう|||||たちあがった| The woman stood up even though she had nothing to do. 退屈 の あまり 、 ぼ うん を 聞いて 器械 的に 立ち上がった のである 。 たいくつ||||||きいて|きかい|てきに|たちあがった| Bored, he got up mechanically when he heard the boom. 羨ま し い 女 だ と 高柳 君 は すぐ 思う 。 うらやま|||おんな|||たかやなぎ|きみ|||おもう Takayanagi immediately thinks she is an enviable woman. 菊 人形 の 収入 に ついて の 議論 は 片づいた と 見えて 、 二 人 の 学生 は 煙草 を ふかして 往来 を 見て いる 。 きく|にんぎょう||しゅうにゅう||||ぎろん||かたづいた||みえて|ふた|じん||がくせい||たばこ|||おうらい||みて| The discussion about Kikugoro's income appears to have been settled, and the two students are puffing on cigarettes and watching the traffic. 「 おや 、 富田 が 通る 」 と 一 人 が 云 う 。 |とみた||とおる||ひと|じん||うん| "Oh, Tomita's coming through." One of them said, "I'm not sure I can do this. 「 どこ に 」 と 一 人 が 聞く 。 |||ひと|じん||きく "Where?" One of them asked, "What do you want to do? 富田 君 は 三 寸 ばかり 開いて いた 硝子 戸 ( ガラス ど ) の 間 を ちら と 通り抜けた のである 。 とみた|きみ||みっ|すん||あいて||がらす|と|がらす|||あいだ||||とおりぬけた| Tomita-kun glanced through the glass door, which was open for about three inches. 「 あれ は 、 よく 食う 奴 じゃ な 」「 食う 、 食う 」 と 答えた ところ に よる と よほど 食う と 見える 。 |||くう|やつ|||くう|くう||こたえた||||||くう||みえる "He's a good eater." "Eat. Eat." The answer, "I'm not sure," suggests that he eats a lot. 「 人間 は 食う 割に 肥 ら ん もの だ な 。 にんげん||くう|わりに|こえ||||| "Humans don't get fat for all the food they eat. あいつ は あんなに 食う 癖 に いっこう 肥え ん 」「 書物 は 沢山 読む が 、 ちっとも 、 えろ うなら ん の が おる と 同じ 事 じゃ 」「 そう よ 。 |||くう|くせ|||こえ||しょもつ||たくさん|よむ||||||||||おなじ|こと||| He eats so much and yet he never gets fat. "It's the same as if you read a lot of books, but you don't get any good out of them." Yes. 御 互 に 勉強 は なるべく せ ん 方 が いい の 」「 ハハハハ 。 ご|ご||べんきょう|||||かた|||| It's best if we don't study together. Hahahaha . そんな つもり で 云った んじゃ ない 」「 僕 は そう 云 う つもり に した の さ 」「 富田 は 肥 らん が なかなか 敏捷だ 。 |||うん った|||ぼく|||うん|||||||とみた||こえ||||びんしょうだ ||||||||||||||||||||||agile I didn't mean it like that. "That's what I thought I was going to say." Tomita is rambunctious and quite agile. やはり 沢山 食う だけ の 事 は ある 」「 敏捷な 事 が ある もの か 」「 いや 、 この 間 四 丁目 を 通ったら 、 後ろ から 出し抜けに 呼ぶ もの が ある から 、 振り 反る と 富田 だ 。 |たくさん|くう|||こと|||びんしょうな|こと|||||||あいだ|よっ|ちょうめ||かよったら|うしろ||だしぬけに|よぶ|||||ふり|そる||とみた| ||||||||agile||||||||||||||||||||||turns||| After all, it's worth eating a lot of food." "What is there to be agile about?" I was passing by Yonchome the other day when I heard someone calling out from behind me, so I turned around and saw it was Tomita. 頭 を 半分 刈った まま で 、 大きな 敷布 の ような もの を 肩 から 纏う て いる 」「 元来 どうした の か 」「 床屋 から 飛び出して 来た のだ 」「 どうして 」「 髪 を 刈って おったら 、 僕 の 影 が 鏡 に 写った もの だ から 、 すぐ 馳 け 出した んだ そうだ 」「 ハハハハ そ いつ は 驚 ろ いた 」「 おれ も 驚 ろ いた 。 あたま||はんぶん|かった|||おおきな|しきふ|||||かた||まとう|||がんらい||||とこや||とびだして|きた|||かみ||かって||ぼく||かげ||きよう||うつった|||||ち||だした||そう だ|||||おどろ|||||おどろ|| |||cut||||||||||||ing||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| His head is half-cropped, and he wears a big blanket over his shoulders." "What's the matter with you originally?" "I just jumped out of a barbershop." "Why?" He said, "I was mowing my hair and saw my shadow in the mirror, so I ran right out." "Ha ha ha ha, that was a surprise." I was astonished. そうして 尚志 会 の 寄 附金 を 無理に 取って 、 また 床屋 へ 引き返した ぜ 」「 ハハハハ なるほど 敏捷な もの だ 。 |たかし|かい||よ|ふきん||むりに|とって||とこや||ひきかえした||||びんしょうな|| |Shoushi||||donation||||||||||||| Then he forced me to take his donation and go back to the barbershop. "Ha ha ha, I see, you are very agile. それ じゃ 御 互 に なるべく 食う 事 に しよう 。 ||ご|ご|||くう|こと|| Then we will eat each other as much as possible. 敏捷に せ ん と 、 卒業 して から 困る から な 」「 そう よ 。 びんしょうに||||そつぎょう|||こまる|||| You have to be agile, or you'll be in trouble when you graduate." Yes. 文学 士 の ように 二十 円 くらい で 下宿 に 屏息 して いて は 人間 と 生れた 甲斐 は ない から な 」 高柳 君 は 勘定 を して 立ち上った 。 ぶんがく|し|||にじゅう|えん|||げしゅく||びょういき||||にんげん||うまれた|かい|||||たかやなぎ|きみ||かんじょう|||たちのぼった ||||||||||holding breath|||||||||||||||bill||| If you have to live in a rooming house for 20 yen like a literary scholar, it's not worth being born a human being. Takayanagi stood up to pay the bill. ありがとう と 云 う 下 女 の 声 に 、 文芸 倶楽部 の 上 に つっ伏して いた 書生 が 、 赤い 眼 を とろ つか せて 、 睨め る ように 高柳 君 を 見た 。 ||うん||した|おんな||こえ||ぶんげい|くらぶ||うえ||つ っ ふくして||しょせい||あかい|がん|||||にらめ|||たかやなぎ|きみ||みた ||||||||||||||collapsed forward|||||||||||||||| At the sound of the servant's voice saying, "Thank you," the calligrapher, who was lying on top of the Literature Club, looked at Takayanagi with glazed red eyes. 牛 の 乳 の なか の 酸 に 中毒 でも した のだろう 。 うし||ちち||||さん||ちゅうどく||| He must have been poisoned by the acid in the cow's milk.