第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【6】
だい|ふた|しょう|かれ||だれ||あい||
Kapitel 2 Wen wollte er treffen? [6
Chapter 2 Who Did He Want to See? [6
Capítulo 2 ¿A quién quería conocer? [6
제2장 그는 누구를 만나고 싶었나 [6]?
Kapitel 2: Vem missade han [6]?
第2章 他想见谁? [6]
第 2 章 他想见谁?[6
パチンコ 店 「 ワンダーランド 」 は 、 街道 沿い に 忽然 と ある 。
ぱちんこ|てん|||かいどう|ぞい||こつぜん||
pachinko||Wonderland||street|||suddenly||
|||||||突然||
海 沿い の 県道 が 左 へ 大きく カーブ した 途端 、 下品で 巨大な 看板 が 現れ 、 その先 に バッキンガム 宮殿 を 貧相に 模した 店舗 が 建って いる 。
うみ|ぞい||けんどう||ひだり||おおきく|かーぶ||とたん|げひんで|きょだいな|かんばん||あらわれ|そのさき||ばっきんがむ|きゅうでん||ひんそうに|もした|てんぽ||たって|
|||prefectural road|||||||moment|tacky|huge||||||Buckingham|palace||shabbily|mimicked|store||standing|
|||||||||||下品な|||||||バッキンガム宮殿|||貧相に|模倣した||||
店舗 を 囲む 巨大な 駐車 場 の 門 は 、 パリ の 凱旋 門 を 模して 作られて おり 、 入口 に は 自由 の 女神 が 立って いる 。
てんぽ||かこむ|きょだいな|ちゅうしゃ|じょう||もん||ぱり||がいせん|もん||もして|つくら れて||いりぐち|||じゆう||めがみ||たって|
store||surround|||||||Paris||triumph|||modeled|made|||||||goddess|||
||||||||||||||||||||||女神|||
誰 が 見て も 醜悪な 建物 だ が 、 市 内 の パチンコ 屋 に 比べる と 、 出 玉 の 確率 が 高い ので 、 週 末 は もちろん 、 平日 でも 大きな 駐車 場 に は 、 まるで 砂糖 に たかる 蟻 の ように 、 多く の 車 が 停められて いる 。
だれ||みて||しゅうあくな|たてもの|||し|うち||ぱちんこ|や||くらべる||だ|たま||かくりつ||たかい||しゅう|すえ|||へいじつ||おおきな|ちゅうしゃ|じょう||||さとう|||あり|||おおく||くるま||とめ られて|
||||ugly||||||||||||payout|||probability||||||||||||||||sugar||swarming||||||cars||parked|
二 階 の スロットマシンフロア で 、 柴田 一二三 は 残り 数 十 枚 と なった コイン を ねじり 込む ように 投入 口 へ 押し込んで いた 。
ふた|かい||||しばた|ひふみ||のこり|すう|じゅう|まい||||||こむ||とうにゅう|くち||おしこんで|
|||slot machine floor||Shibata|123||||dozens||||||twist|||insert|||pushed|
|||スロットマシンフロア|||Shibata Ichinisan|||||||||||||||||
狙って いた 台 に 先客 が おり 、 仕方なく 選んだ 台 で 、 手持ち の コイン が なくなったら やめよう と 決めて いた 。
ねらって||だい||せんきゃく|||しかたなく|えらんだ|だい||てもち|||||||きめて|
||||previous customer|||||slot machine||on hand||||disappears||||
三十 分 ほど 前 、 一二三 は 祐一 に メール を 送った 。
さんじゅう|ぶん||ぜん|ひふみ||ゆういち||めーる||おくった
||||123||||||
「 今 、 ワンダー に おる 。
いま|||
|wonder||
仕事 帰り に ちょっと 寄ら ん や ?
しごと|かえり|||よら||
||||stop by||
」 と 送る と 、 すぐに 「 分かった 」 と いう 短い 返信 が あった 。
|おくる|||わかった|||みじかい|へんしん||
||||||||reply||
一二三 と 祐一 は 幼なじみ で 、 以前 は 両親 と 一緒に 祐一 と 同じ 地区 に 住んで いた のだ が 、 中学 を 卒業 する 半年 ほど 前 に 小さな 家 と 土地 を 売って 、 今では 市 内 の 賃貸 マンション に 暮らして いる 。
ひふみ||ゆういち||おさななじみ||いぜん||りょうしん||いっしょに|ゆういち||おなじ|ちく||すんで||||ちゅうがく||そつぎょう||はんとし||ぜん||ちいさな|いえ||とち||うって|いまでは|し|うち||ちんたい|まんしょん||くらして|
||||childhood friend||||||||||neighborhood|||||||||||||||||land|||||||rented|||living|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||rental||||
もちろん 埋め立て で 海岸 線 を 奪わ れた 漁港 に 近い 土地 が 高く 売れる はず も ない のだ が 、 当時 一二三 の 父親 が ギャンブル で 借金 を こしらえ 、 その 抵当 に 取ら れた 挙げ句 、 六 畳 二 間 の 今 の マンション へ 夜逃げ 同然 で 引っ越した のだ 。
|うめたて||かいがん|せん||うばわ||ぎょこう||ちかい|とち||たかく|うれる||||||とうじ|ひふみ||ちちおや||ぎゃんぶる||しゃっきん||||ていとう||とら||あげく|むっ|たたみ|ふた|あいだ||いま||まんしょん||よにげ|どうぜん||ひっこした|
|reclamation||coast|||||||||but|||||||||||father||gambling||debt|object marker|accumulated||collateral||||to make matters worse||||||||||fleeing at night|as if|||
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||逃げた|同然のように|||
引っ越して から も 連絡 を 取り合った の は 祐一 だけ で 、 その後 も 付き合い は 続いて いる 。
ひっこして|||れんらく||とりあった|||ゆういち|||そのご||つきあい||つづいて|
|||||kept in touch|||||||||||
一緒に いて も 、 祐一 は 冗談 一 つ 言わ ず 、 決して 面白い 男 で は ない 。
いっしょに|||ゆういち||じょうだん|ひと||いわ||けっして|おもしろい|おとこ|||
一二三 に も それ は 分かって いる のだ が 、 なぜ か 未 だに 付き合い が 続いて いる のだ 。
ひふみ|||||わかって||||||み||つきあい||つづいて||
|||||||||||still||||||
あれ は 三 年 ほど 前 だった か 、 当時 付き合って いた 女 を 乗せて 、 平戸 へ ドライブ した 帰り 、 とつぜん 車 が エンコ した 。
||みっ|とし||ぜん|||とうじ|つきあって||おんな||のせて|ひらと||どらいぶ||かえり||くるま|||
|||||||||||||gave a ride|Hirado||||||||engine|
||||||||||||||||||||||エンコした|
JAF を 呼ぶ 金 も なく 、 何 人 か の 知り合い に 連絡 を 入れて みた もの の 、 忙しい だの 、 知った こと か だの 、 全員 つれない 。
jaf||よぶ|きむ|||なん|じん|||しりあい||れんらく||いれて||||いそがしい||しった||||ぜんいん|
Japan Automobile Federation||||||||||||||||||busy|||||and so on||cold
そんな 中 、 唯一 、 牽引 ロープ 持参 で 助け に 来て くれた の が 祐一 だった 。
|なか|ゆいいつ|けんいん|ろーぷ|じさん||たすけ||きて||||ゆういち|
|||towing||brought|||||||||
「 すま ん な 」 と 一二三 は 謝った 。
||||ひふみ||あやまった
祐一 は 無表情で ロープ を 結び ながら 、「 どうせ 家 で 寝 とった だけ やけん 」 と 言った 。
ゆういち||むひょうじょうで|ろーぷ||むすび|||いえ||ね|||||いった
||expressionless|||||anyway||||||||
|||||||結局||||||||
牽引 して もらう 車 に 女 を 乗せる わけに も いか ず 、 祐一 の 車 の 助手 席 に 乗せた 。
けんいん|||くるま||おんな||のせる|||||ゆういち||くるま||じょしゅ|せき||のせた
towing||||||||||||||||passenger|||
付き合い の ある 整備 工場 まで 引いて もらって 、 祐一 と は あっさり と そこ で 別れた 。
つきあい|||せいび|こうじょう||ひいて||ゆういち|||||||わかれた
|||maintenance||||||||easily||||
祐一 の 車 を 見送る 女 に 、「 よか 男 やろ が ?
ゆういち||くるま||みおくる|おんな|||おとこ||
||||see off||||||
」 と カマ を かける と 、「 車 の 中 で ぜんぜん 喋ら ん と や もん 。
|かま||||くるま||なか|||しゃべら||||
|sickle|||||||||talk||||
|カマ|||||||||||||
お礼 言って も 、『 ああ 』って 無愛想に 頷く だけ やし ……、 なんか 、 息 つまった 」 と 笑って いた 。
お れい|いって||||ぶあいそうに|うなずく||||いき|||わらって|
|||||unfriendly|||that's why|||choked|||
実際 そういう 男 だった 。
じっさい||おとこ|
最後 の 十 数 枚 の ところ で 、 スロットマシン に 当たり が 出 始めた 。
さいご||じゅう|すう|まい||||||あたり||だ|はじめた
||||||||slot machine|||||
一二三 は 混 んだ 店 内 を 見渡し 、 珈琲 の サービス を して いる ミニスカート の 店員 を 探した 。
ひふみ||こん||てん|うち||みわたし|こーひー||さーびす||||||てんいん||さがした
||||||||||||||miniskirt||||
入口 の ほう へ 顔 を 向けた とき 、 螺旋 階段 を 上がって くる 祐一 の 姿 を 見つけた 。
いりぐち||||かお||むけた||らせん|かいだん||あがって||ゆういち||すがた||みつけた
||||face||||spiral|||||||||
手 を 挙げて 合図 を 送る と 、 すぐに 気づいて 狭い 通路 を 歩いて くる 。
て||あげて|あいず||おくる|||きづいて|せまい|つうろ||あるいて|
|||signal|||||||passageway|||
現場 帰り な ので 汚れた 紺 の ニッカボッカ に 、 同じく 紺色 の ドカジャン を ひっかけて いる のだ が 、 ジッパー の 隙間 から 派手な ピンク 色 の トレーナー が ちらっと 見える 。
げんば|かえり|||けがれた|こん||||おなじく|こんいろ||||||||じっぱー||すきま||はでな|ぴんく|いろ||とれーなー|||みえる
||||dirty|navy||knickerbockers|||navy|possessive particle|work jacket||||||||gap||||||||glance|
|||||紺色||ニッカボッカ|||||ジャンパー|||||||||||||||||
祐一 は 隣 の 席 に 腰 を 下ろす と 、 一 階 で 買って きた らしい 缶 珈琲 を 開けた 。
ゆういち||となり||せき||こし||おろす||ひと|かい||かって|||かん|こーひー||あけた
||||||||||||||||can|||
祐一 が ポケット から 千 円 札 を 一 枚 出し 、 何も 言わ ず に 横 の 台 で 打ち 始める 。
ゆういち||ぽけっと||せん|えん|さつ||ひと|まい|だし|なにも|いわ|||よこ||だい||うち|はじめる
近く に 来る と 、 祐一 の 臭い が 鼻 に つく 。
ちかく||くる||ゆういち||くさい||はな||
||||||||nose||
夏場 と 違って 汗 臭い と いう ので は ない 。
なつば||ちがって|あせ|くさい|||||
summer|||||||||
土埃 と いう か セメント と いう か 、 とにかく 廃屋 に 漂って いる ような 臭い だ 。
つちぼこり||||せめんと|||||はいおく||ただよって|||くさい|
dust||||cement||||anyway|abandoned house||wafting||||
|||||||||abandoned house||||||
「 三瀬 峠 で 、 事件 の あった と 知っと る や ?
みつせ|とうげ||じけん||||ち っと||
祐一 が とつぜん 口 を 開いた の は 、 あっという間 に 千 円 分 を すった ころ だった 。
ゆういち|||くち||あいた|||あっというま||せん|えん|ぶん||||
||||||||||||||sucked||
||||||||||||||吸った||
「 女の子 が 殺さ れたら しか な 」
おんなのこ||ころさ|||
祐一 が 横 に 座って から 、 急に 調子 が 良く なって いた 一二三 は 、 顔 も 動かさ ず に 答えた 。
ゆういち||よこ||すわって||きゅうに|ちょうし||よく|||ひふみ||かお||うごかさ|||こたえた
|||||||mood||||||||||||
訊 いて きた の は 自分 の くせ に 、 祐一 が いつも の ように 黙り 込む 。
じん|||||じぶん||||ゆういち|||||だまり|こむ
「 あれ 、 出会い 系 と か で けっこう 男 たち 引っ掛け とったら しか ぞ 。
|であい|けい|||||おとこ||ひっかけ|||
|||||||||approached|took||
今日 、 テレビ で そう 言い よった けど 」
きょう|てれび|||いい||
一二三 が ボタン を 押し ながら 会話 を 繋ぐ と 、「 すぐ 見つかる さ ね ?
ひふみ||ぼたん||おし||かいわ||つなぐ|||みつかる||
||||||||connect|||||
」 と 祐一 が 訊 いて くる 。
|ゆういち||じん||
「 見つかるって ?
みつかる って
is found
「……」
「 犯人 や ?
はんにん|
「……」
「 すぐ 見つかる さ 。
|みつかる|
電話 会社 で 調べれば 、 すぐに 履歴 も 分かる や ろうし 」
でんわ|かいしゃ||しらべれば||りれき||わかる||
|||if you investigate||history||||probably
この とき 、 一二三 は 祐一 の ほう を 一 度 も 見 ず に 喋り 続けて いた 。
||ひふみ||ゆういち||||ひと|たび||み|||しゃべり|つづけて|
三十 分 ほど スロット を 打ち 、 一二三 と 祐一 は 店 を 出た 。
さんじゅう|ぶん||||うち|ひふみ||ゆういち||てん||でた
|||slot|||||||||
結局 、 一二三 が 一万五千 円 、 祐一 が 二千 円 の 負け だった 。
けっきょく|ひふみ||いちまんごせん|えん|ゆういち||にせん|えん||まけ|
|||||||two thousand||||
すでに 日 は 落ち 、 駐車 場 を 強い ライト が 照らして いた 。
|ひ||おち|ちゅうしゃ|じょう||つよい|らいと||てらして|
|||set||||||||
足元 に 二 人 の 濃い 影 が 伸び 、 ときどき パーキング の 白線 と 交わる 。
あしもと||ふた|じん||こい|かげ||のび||ぱーきんぐ||はくせん||まじわる
|||||dark|||||||white line||
||||||||||駐車場||||
祐一 と 違って まったく 車 に 興味 の ない 一二三 は 、 安い 軽 自動車 に 乗って いた 。
ゆういち||ちがって||くるま||きょうみ|||ひふみ||やすい|けい|じどうしゃ||のって|
鍵 を 開ける と 、 祐一 が すぐに 助手 席 に 乗り込んで くる 。
かぎ||あける||ゆういち|||じょしゅ|せき||のりこんで|
key|||||||assistant||||
一二三 は ふと 空 を 見上げた 。
ひふみ|||から||みあげた
波 の 音 が 空 から 落ちて きた ように 聞こえた のだ 。
なみ||おと||から||おちて|||きこえた|
普段 なら 満天 の 星空 な のだ が 、 今夜 は 金星 だけ が 瞬いて いる 。
ふだん||まんてん||ほしぞら||||こんや||きんせい|||またたいて|
||full of stars||starry sky||||||Venus|||twinkling|
|||||||||||||twinkling|
雨 で も 降る のだろう か と 一二三 は 思った 。
あめ|||ふる||||ひふみ||おもった
海 沿い の 県道 を 祐一 の 家 へ 向かい ながら 、 一二三 は なかなか 職 が 見つから ない と 愚痴 を こぼした 。
うみ|ぞい||けんどう||ゆういち||いえ||むかい||ひふみ|||しょく||みつから|||ぐち||
|along|||||||||||||job|||||complaint||
実際 、 この 日 も 午前 中 は ハローワーク で 過ごし 、 顔見知り に なった 若い 女子 事務 員 を 、「 今度 、 飲み に 行こう 」 と 求人 募集 を チェック し ながら 誘って いた 。
じっさい||ひ||ごぜん|なか||||すごし|かおみしり|||わかい|じょし|じむ|いん||こんど|のみ||いこう||きゅうじん|ぼしゅう||ちぇっく|||さそって|
|||||||Hello Work|||acquaintance|||||||||||||job offer|recruitment|||||inviting|
|||||||ハローワーク|||acquaintance||||||||||||||||||||
結局 、 仕事 も なく 、 誘い も 断ら れた が 、 午前 中 いっぱい を ハローワーク で 過ごした こと で 、「 やろう と 思えば 仕事 なんて いくら で も ある 」 と いう 楽観 的な 気持ち に なって いた 。
けっきょく|しごと|||さそい||ことわら|||ごぜん|なか|||||すごした|||||おもえば|しごと||||||||らっかん|てきな|きもち|||
||||||declined|||||||||||||||||||||||optimistic|||||
ラジオ から 流れて いた 曲 が 終わって 、 短い ニュース 番組 が 始まった 。
らじお||ながれて||きょく||おわって|みじかい|にゅーす|ばんぐみ||はじまった
真っ先 に 三瀬 峠 で の 事件 が 伝えられる 。
まっさき||みつせ|とうげ|||じけん||つたえ られる
||||||||reported
助手 席 に 乗り込んだ きり 、 まったく 口 を 開か ない 祐一 に 、「 三瀬って いえば さ ……」 と 一二三 は 声 を かけた 。
じょしゅ|せき||のりこんだ|||くち||あか||ゆういち||みつせ って||||ひふみ||こえ||
外 を 眺めて いた 祐一 が 、 狭い 車 内 で 少し 身 を 引く ように して 振り返る 。
がい||ながめて||ゆういち||せまい|くるま|うち||すこし|み||ひく|||ふりかえる
|||||||||||||pull back|||
「…… 覚え とる や ?
おぼえ||
ほら 、 前 に 俺 が あそこ で 幽霊 見たって 話 」 急 カーブ で ハンドル を 切り ながら 一二三 は 言った 。
|ぜん||おれ||||ゆうれい|みた って|はなし|きゅう|かーぶ||はんどる||きり||ひふみ||いった
|||||||ghost|saying I saw|||||||||||
祐一 の からだ が その 反動 で ぺったり と ドア に はりつく 。
ゆういち|||||はんどう||ぺっ たり||どあ||
||body|||recoil||flattened||||stuck
|||||反動||ぺったり||||くっつく
「 ほら 、 前 に 博多 の 会社 の 面接 に 行った 帰り 、 一 人 で 峠 越え し よったら 、 急に ライト が 消えて さ 。
|ぜん||はかた||かいしゃ||めんせつ||おこなった|かえり|ひと|じん||とうげ|こえ|||きゅうに|らいと||きえて|
||||||||||||||mountain pass|||and|||||
ビビって すぐに 車 停めて 、 もう 一 回 エンジン かけ 直し よったら 、 助手 席 に 血まみれの 男 が 乗っとったって 話 。
ビビ って||くるま|とめて||ひと|かい|えんじん||なおし||じょしゅ|せき||ちまみれの|おとこ||のっとった って|はなし
nervously||||||||||||||bloodied|||got on|
|||||||||||||||||乗っていた|
覚え とら ん や ?
おぼえ|||
のろのろ と 道 の 真ん中 を 走って いる カブ を 煽り ながら 、 一二三 は ちらっと 祐一 に 目 を 向けた 。
||どう||まんなか||はしって||かぶ||あおり||ひふみ|||ゆういち||め||むけた
slowly||||||||mini truck||tailgating||||glanced|||||
||||||||カブ|||||||||||
「 あれ 、 マジ で ビビった けん ね 。
|||ビビ った||
|||got scared||
エンジン は かから ん し 、 助手 席 に 血まみれの 男 は 座っと る し 、 たぶん 、 俺 、 悲鳴 上げ ながら キー 回し とった と 思う 」 そう 言い ながら 、 一二三 が 自分 で 自分 の 話 に 笑って いる と 、 祐一 は 、「 早う 、 抜け 」 と 前 の カブ を 顎 で しゃくった 。
えんじん|||||じょしゅ|せき||ちまみれの|おとこ||ざ っと||||おれ|ひめい|あげ||きー|まわし|||おもう||いい||ひふみ||じぶん||じぶん||はなし||わらって|||ゆういち||はやう|ぬけ||ぜん||かぶ||あご||しゃく った
||||||||bloody|||sitting|||||scream||||||||||||||||||||||||quickly|out||||||||shoved
あの 夜 、 一二三 が 峠 を 越えた の は 、 夜 八 時 を 回った ころ だった 。
|よ|ひふみ||とうげ||こえた|||よ|やっ|じ||まわった||
||123|||||||night||||||
博多 で 、 あれ は 何の 会社 だった か 、 面接 を 受け 、「 こりゃ 、 駄目だ な 」 と 落胆 した 足 で 、 天神 の ヘルス へ 行った 。
はかた||||なんの|かいしゃ|||めんせつ||うけ||だめだ|||らくたん||あし||てんじん||||おこなった
|||||||||||||||disappointment||||||health||
|||||||||||||||||||||ヘルス||
どちら か と 言えば 、 会社 の 面接 より も 、 ヘルス 選び の ほう に 力 が 入って いた と 思う 。
|||いえば|かいしゃ||めんせつ||||えらび||||ちから||はいって|||おもう
とにかく ヘルス で 一 発 抜いて 、 ラーメン を 食べた あと 、 車 で 峠 に 差しかかった 。
|||ひと|はつ|ぬいて|らーめん||たべた||くるま||とうげ||さしかかった
|||||came|||||||mountain pass||was approaching
||||||||||||||差し掛かった
まだ 八 時 を 回った ばかりな のに 、 峠 道 に は 先 を 行く 車 は おろか 、 すれ違う 車 も なかった 。
|やっ|じ||まわった|||とうげ|どう|||さき||いく|くるま|||すれちがう|くるま||
||||||||||||||||let alone|pass by|||
正直 、 車 の ライト に 青白く 照らし出さ れる 藪 や 林 が 不気味で 、 こんな こと なら 節約 せ ず に 高速 を 使う べきだった と 後悔 して いた 。
しょうじき|くるま||らいと||あおじろく|てらしださ||やぶ||りん||ぶきみで||||せつやく||||こうそく||つかう|||こうかい||
honestly||||||illuminated||thicket||||creepy||||||||highway|||should have||regret||
||||||||||||不気味な|||||||||||||||
たった 一 人きり の 車 内 で 紛らわし に 声 を 張り上げて 歌って みて も 、 逆に その 声 が 周囲 の 林 に すっと 吸い込まれて いく 。
|ひと|ひときり||くるま|うち||まぎらわし||こえ||はりあげて|うたって|||ぎゃくに||こえ||しゅうい||りん||す っと|すいこま れて|
only|||||||confusing|||(object marker)|raising||||||||surroundings||||smoothly|being sucked in|
真っ暗な 山中 で 、 命綱 と も いえる ライト の 調子 が おかしく なった の は 、 いよいよ 峠 の 山頂 に さしかかった ころ で 、 最初 、 自分 の 目 が おかしく なった の か と 一二三 は 思った 。
まっくらな|さんちゅう||いのちづな||||らいと||ちょうし|||||||とうげ||さんちょう|||||さいしょ|じぶん||め|||||||ひふみ||おもった
pitch-black|mountains||lifeline|||||||||||||||mountain top||approaching|||||||||||||||
|||safety line||||||||||||||||||||||||||||||||
次の 瞬間 、 点滅 する ライト の 中 を 、 すっと 黒い 何 か が 通った 。
つぎの|しゅんかん|てんめつ||らいと||なか||す っと|くろい|なん|||かよった
|moment|blinking||||||smoothly|||||
一二三 は 慌てて ブレーキ を 踏み 、 必死に ブレ る ハンドル に しがみついた 。
ひふみ||あわてて|ぶれーき||ふみ|ひっしに|||はんどる||
||||||desperately|swerve||||clung
ライト が 完全に 消えた の は その とき だった 。
らいと||かんぜんに|きえた|||||
フロント ガラス の 先 は 、 まるで 目 を 閉じて いる ような 暗闇 で 、 エンジン は かかって いる のに 、 車 を 取り囲む 森 の 中 で 、 耳 を 塞ぎ たく なる ほど 虫 の 声 が 高く なる 。
ふろんと|がらす||さき|||め||とじて|||くらやみ||えんじん|||||くるま||とりかこむ|しげる||なか||みみ||ふさぎ||||ちゅう||こえ||たかく|
||||||||||||||||||||surrounded|||||||plugging||||insect|||||
冷房 は ギンギン に 入れて いた のに 、 どっと 汗 が 噴き出した 。
れいぼう||ぎんぎん||いれて||||あせ||ふきだした
air conditioning||intensely|||||suddenly|||gushed
||冷たい|||||突然|||
汗 と いう より も 、 ぬるい お 湯 を 全身 に 浴びせられた ようだった 。
あせ|||||||ゆ||ぜんしん||あびせ られた|
sweat|||||||||||poured|
その 瞬間 、 車体 が 一 度 大きく 揺れて 、 エンジン が 止まった 。
|しゅんかん|しゃたい||ひと|たび|おおきく|ゆれて|えんじん||とまった
助手 席 に 何 か が いる の を 感じた の は その とき だった 。
じょしゅ|せき||なん||||||かんじた|||||
assistant||||||||||||||
恐怖 は 人間 の 視野 を 狭める 。
きょうふ||にんげん||しや||せばめる
fear||||perspective||narrows
||||||narrow
横 を 向け ない 。
よこ||むけ|
振り向け ない 。
ふりむけ|
turn|
前 だけ しか 見られ なく なる のだ 。
ぜん|||み られ|||
かけ 直そう と した エンジン が かから なかった 。
|なおそう|||えんじん|||
|tried to fix||||||
一二三 は 悲鳴 を 上げた 。
ひふみ||ひめい||あげた
||scream||
横 に 何 か が いる の は 分かって いる 。
よこ||なん||||||わかって|
ただ 、 それ が 何 な の か 分から なかった 。
|||なん||||わから|
「…… もう 苦 しか 」
|く|
|painful|
助手 席 から 、 ふと 男 の 声 が した 。
じょしゅ|せき|||おとこ||こえ||
|||suddenly|||||
一二三 は 自分 の 悲鳴 で 耳 を 塞いだ 。
ひふみ||じぶん||ひめい||みみ||ふさいだ
||||||||covered
||||||||耳をふさいだ
エンジン は かから ない 。
えんじん|||
「…… もう 無理 ばい 」
|むり|
||goodbye
横 で 男 の 声 が する 。
よこ||おとこ||こえ||
一二三 は 逃げ出そう と ドア に 手 を かけた 。
ひふみ||にげだそう||どあ||て||
その 瞬間 、 窓 ガラス に 血まみれの 男 が 映った 。
|しゅんかん|まど|がらす||ちまみれの|おとこ||うつった
男 は こちら を じっと 見つめて いた 。
おとこ|||||みつめて|
||||intently||
玄関 で 物音 が して 、 房枝 は ちらっと 時計 を 見 遣 り 、 ぼんやり と 見つめて いた 茶 封筒 を 慌てて エプロン の ポケット に 押し込んだ 。
げんかん||ものおと|||ふさえ|||とけい||み|つか||||みつめて||ちゃ|ふうとう||あわてて|えぷろん||ぽけっと||おしこんだ
||sound|||||glanced|||see|glance||absentmindedly|||||envelope|||||||
封筒 に は 「 領収 書 在中 」 と 書いて ある 。
ふうとう|||りょうしゅう|しょ|ざいちゅう||かいて|
|||receipt||inside|||
房枝 は 椅子 に 座った まま 、 ガス レンジ に 手 を 伸ばし 、 あら かぶ の 煮付け を 温め 直した 。
ふさえ||いす||すわった||がす|れんじ||て||のばし||||につけ||あたため|なおした
||chair|||||stove||||||turnip||simmered dish||heated|
||||||||||||あらかぶ||||||
「 おじゃま しま ー す 」
||-|
excuse me|||
明るい 一二三 の 声 が 聞こえて きた の は その とき で 、 房枝 は 立ち上がる と 、「 あら 、 一二三 くん と 一緒 やった と ね ?
あかるい|ひふみ||こえ||きこえて|||||||ふさえ||たちあがる|||ひふみ|||いっしょ|||
と 声 を 返し ながら 廊下 へ 出た 。
|こえ||かえし||ろうか||でた
|||||hallway||
さっさと 靴 を 脱いだ 一二三 が 、 祐一 を 押しのける ように 上がって きて 、「 おばさん 、 なんか 旨 そうな 匂い や ねぇ 」 と 台所 を 覗き込んで くる 。
|くつ||ぬいだ|ひふみ||ゆういち||おしのける||あがって||||むね|そう な|におい||||だいどころ||のぞきこんで|
promptly|||took off|||||||||||delicious||||right||kitchen||peering|
||||||||押しのける|||||||||||||||
「 何も 食べ とら ん と ?
なにも|たべ|||
すぐ 用意 して やる けん 、 祐一 と 一緒に 食べ ん ね 」
|ようい||||ゆういち||いっしょに|たべ||
房枝 の 言葉 に 、 一二三 が 嬉し そうに 、「 食べる 。
ふさえ||ことば||ひふみ||うれし|そう に|たべる
食べる 」 と 何度 も 頷く 。
たべる||なんど||うなずく
「 パチンコ ね ?
ぱちんこ|
房枝 は 鍋 に 蓋 を した 。
ふさえ||なべ||ふた||
||pot||lid||
「 いや 、 スロット 。
でも ぜんぜん 駄目 。
||だめ
また 損した よ 」
|そんした|
|lost|
「 いくら ?
房枝 の 質問 に 、 一二三 が 「 一万五千 円 」 と 指 で 示して 見せる 。
ふさえ||しつもん||ひふみ||いちまんごせん|えん||ゆび||しめして|みせる
房枝 は 祐一 が 一二三 と 一緒に 帰って きた こと で 、 どこ か 気分 が 軽く なった 。
ふさえ||ゆういち||ひふみ||いっしょに|かえって||||||きぶん||かるく|
|||||||||||||||lightly|
三瀬 峠 で 起きた と いう 事件 と 祐一 が まったく 無関係である こと は 分かって いた が 、 昼 前 に やってきた 刑事 に 、「 日曜日 、 祐一 は 出かけて ない 」 と 、 咄嗟に 嘘 を ついて しまった こと で 、 実際 は 無関係な のに 、 妙な しこり が 残って いた のだ 。
みつせ|とうげ||おきた|||じけん||ゆういち|||むかんけいである|||わかって|||ひる|ぜん|||けいじ||にちようび|ゆういち||でかけて|||とっさに|うそ||||||じっさい||むかんけいな||みょうな|||のこって||
|||||||||||unrelated||||||||||detective||||||||on the spur of the moment|||||||||irrelevant||strange|awkward feeling||||
|||||||||||||||||||||||||||||すぐに||||||||||||感情のもつれ||||
祐一 が あの 夜 、 車 で 出かけた の は 間違い なかった 。
ゆういち|||よ|くるま||でかけた|||まちがい|
ただ 、 岡崎 の ばあさん が 、「 祐一 は 出かけて いない 」 と 証言 した のだ から 、 出かけた と して も そう 長い 時間 で は ない はずだ 。
|おかざき||||ゆういち||でかけて|||しょうげん||||でかけた|||||ながい|じかん||||
||||||||||testimony||||||||||||||
以前 、 祐一 が 勝治 を 病院 に 送った とき も そう だ 。
いぜん|ゆういち||かつじ||びょういん||おくった||||
|||Katsuji||||||||
あの ばあさん は 、 祐一 の 車 が 一 、 二 時間 なくて も その 日 は 出かけて いない と 言う 癖 が ある 。
|||ゆういち||くるま||ひと|ふた|じかん||||ひ||でかけて|||いう|くせ||
|||||||||||||||||||habit||
「 一二三 くん 、 日曜日 も 祐一 と 一緒 やった と やろ ?
ひふみ||にちようび||ゆういち||いっしょ|||
房枝 は 当の 祐一 が 二 階 へ 上がった の を 確認 して から 尋ねた 。
ふさえ||とうの|ゆういち||ふた|かい||あがった|||かくにん|||たずねた
||the||||||||||||
||その||||||||||||
鍋 に 入った あら かぶ の 煮付け を 覗き込み ながら 、「 日曜 ?
なべ||はいった||||につけ||のぞきこみ||にちよう
||||turnip||simmered dish||peering||
」 と 首 を 捻った 一二三 が 、
|くび||ねじった|ひふみ|
|||turned||
|||twisted||
「 俺 は 一緒じゃ なかった けど ……、 ああ 、 整備 屋 に 行っとった んじゃ ない 。
おれ||いっしょじゃ||||せいび|や||ぎょう っと った||
||together||||maintenance|||went||
なんか 車 の 部品 、 また 換えるって 言い よった し 」 と 答えて 鍋 に 手 を 突っ込む 。
|くるま||ぶひん||かえる って|いい||||こたえて|なべ||て||つっこむ
|||part||he said he had to replace some car parts||||||||||reached
「 ほら 、 すぐ 用意 して やる けん 」 と 房枝 は その 手 を 叩いた 。
||ようい|||||ふさえ|||て||たたいた
||||||||||||clapped
素直に 手 を 引っ込めた 一二三 が 、「 刺身 ない と ?
すなおに|て||ひっこめた|ひふみ||さしみ||
docile||||||sashimi||
」 と 、 今度 は 冷蔵 庫 を 開ける 。
|こんど||れいぞう|こ||あける
一二三 の 分 の 食事 だけ を 先 に 用意 して 、 房枝 は 夕方 畳んだ 洗濯物 を 二 階 の 祐一 の 部屋 へ 運んだ 。
ひふみ||ぶん||しょくじ|||さき||ようい||ふさえ||ゆうがた|たたんだ|せんたくもの||ふた|かい||ゆういち||へや||はこんだ
||||||||||||||folded|laundry|||||||||carried
ドア を 開ける と 、 ベッド に 寝 転がって いた 祐一 が 、「 すぐ 降りて く けん 」 と 無愛想に 呟く 。
どあ||あける||べっど||ね|ころがって||ゆういち|||おりて||||ぶあいそうに|つぶやく
||||||||||||||||unfriendly|
房枝 は 持ってきた 洗濯物 を 古い タンス の 引き出し に 入れた 。
ふさえ||もってきた|せんたくもの||ふるい|たんす||ひきだし||いれた
|||laundry|||dresser||drawer||
この タンス は 祐一 が 母親 と 一緒に ここ へ 来た とき から 使って いる もの で 、 引き出し の 取っ手 が 熊 の 顔 に なって いる 。
|たんす||ゆういち||ははおや||いっしょに|||きた|||つかって||||ひきだし||とって||くま||かお|||
|||||||||||||using||||||handle|||||||
|||||||||||||||||||取っ手|||||||
「 今日 、 警察 の 来た と よ 」
きょう|けいさつ||きた||
|police||||
房枝 は わざと 祐一 の 顔 を 見 ず に 、 洗濯物 を 押し込み ながら 告げた 。
ふさえ|||ゆういち||かお||み|||せんたくもの||おしこみ||つげた
||わざと||||||||||||
「 あんた 、 福岡 に 文通 し よる 女の子 が おる とって ?
|ふくおか||ぶんつう|||おんなのこ|||
|||pen pal||by||||
もう 知っと る やろう けど 、 その 子 が ほら 、 日曜日 に 亡くなった と やろ ?
|ち っと|||||こ|||にちようび||なくなった||
房枝 は そこ で 初めて 祐一 へ 目 を 向けた 。
ふさえ||||はじめて|ゆういち||め||むけた
祐一 は 頭 だけ を 起こして こちら を 見て いた 。
ゆういち||あたま|||おこして|||みて|
表情 は なく 、 何 か 他の こと を 考えて いる ようだった 。
ひょうじょう|||なん||たの|||かんがえて||
「 知っと る と やろ ?
ち っと|||
その 女の子 が ほら ……」
|おんなのこ||
房枝 が 改めて 尋ねる と 、「 知っと る よ 」 と 祐一 が ゆっくり と 口 を 動かす 。
ふさえ||あらためて|たずねる||ち っと||||ゆういち||||くち||うごかす
||again|||||||||||||
「 あんた 、 その 子 に 会った こと ある と ね ?
||こ||あった||||
文通 だけ やった と ね ?
ぶんつう||||
correspondence||||
「 なんで ?
「 なんでって 、 会った こと ある なら 、 お 葬式 くらい 行った ほう が いい んじゃ ない か と 思う て さ 」 「 葬式 ?
なんで って|あった|||||そうしき||おこなった||||||||おもう|||そうしき
why||||||funeral|||||||||||||
「 そう よ 。
文通 だけ なら そこ まで する こと ない けど 、 会う たこ と ある なら ……」
ぶんつう|||||||||あう||||
correspondence|||||||||to meet|person|||
「 会う たこ と ない よ 」
あう||||
こちら に 向けられた 祐一 の 靴下 の 裏 が 指 の 形 で 汚れて いた 。
||むけ られた|ゆういち||くつした||うら||ゆび||かた||けがれて|
||pointed at|||||inside||toes||shape|||
祐一 は じっと こちら を 見て いる 。
ゆういち|||||みて|
||intently||||
房枝 の 背後 に 誰 か が 立って いる ような 視線 だった 。
ふさえ||はいご||だれ|||たって|||しせん|
「 どこ の 誰 か 知ら ん けど 、 世の中 に は 惨 たらし かこ と する 人 も おる もん や ねぇ 。
||だれ||しら|||よのなか|||さん|||||じん|||||
||||||||||cruel|miserable|||||||||
…… 警察 の 人 の 話 じゃ 、 もう 犯人 は 分 かっとって 、 その 人 が 今 、 逃げ回り よる けん 、 必死で 探し よる みたい やけど 」 房枝 の 言葉 に 、 むくっと 祐一 が 起き上がった 。
けいさつ||じん||はなし|||はんにん||ぶん|か っと って||じん||いま|にげまわり|||ひっしで|さがし||||ふさえ||ことば||むく っと|ゆういち||おきあがった
||||||||||saying|||||running away|||desperately|search||||||||suddenly|||
|||||||||||||||||||||||||||急に|||
体重 で ベッド の パイプ が 軋む 。
たいじゅう||べっど||ぱいぷ||きしむ
body weight||||||
||||パイプ||きしむ
「 犯人 、 もう 分かっと る と ?
はんにん||ぶん か っと||
「 らしい よ 。
it seems|
駐在 さん が そう 言い よった 。
ちゅうざい||||いい|
resident|||||
ただ 、 どっか に 逃げて し も うて 、 まだ 見つから んって 」 「 それって 、 あの 大学生 ?
|ど っか||にげて|||||みつから|ん って|それ って||だいがくせい
||||||||not found||||
「 大学生 ?
だいがくせい
「 ほら 、 テレビ で 言い よる やろ ?
|てれび||いい||
食いついて くる ような 祐一 の 物言い に 、「 ああ 、 やっぱり この 子 は 事件 の こと を 知っていた のだ 」 と 房枝 は 確信 した 。
くいついて|||ゆういち||ものいい|||||こ||じけん||||しっていた|||ふさえ||かくしん|
|||||way of speaking||||||||||||||||conviction|
|||||話し方|||||||||||||||||
「 警察 が 本当に そう 言う た と ?
けいさつ||ほんとうに||いう||
その 大学生 が 犯人って 」 祐一 に 訊 かれ 、 房枝 は 頷いた 。
|だいがくせい||はんにん って|ゆういち||じん||ふさえ||うなずいた
|||the culprit|||asked|was asked|||nodded
祐一 と 殺さ れた 女性 が どこ まで 親しかった の か 知ら ない が 、 犯人 へ の 憎しみ ぐらい は 分かる 。
ゆういち||ころさ||じょせい||||したしかった|||しら|||はんにん|||にくしみ|||わかる
||||||||close friends|||||||||hatred|||
「 すぐに 捕まる さ 。
|つかまる|
|will be caught|
そう 、 逃げ 切れる もん ね 」
|にげ|きれる||
|||理由|
房枝 は 慰める ように 言った 。
ふさえ||なぐさめる||いった
Fusae||comfort||
||to comfort||
ベッド から 立ち上がった 祐一 の 顔 が 紅潮 して いた 。
べっど||たちあがった|ゆういち||かお||こうちょう||
|||||||blushing||
よほど 憎い のだろう と 思った が 、 どちら か と 言えば 、 犯人 が 分かった こと に 安堵 して いる ように も 見える 。
|にくい|||おもった|||||いえば|はんにん||わかった|||あんど|||||みえる
very|hateful||||||||||||||relief|||||
|||||||||||||||安心|||||
「 そう いえば 、 あんた 、 この 前 の 日曜日 、 どこ に 出かけた と ね ?
||||ぜん||にちようび|||でかけた||
夜 、 ちょ ろっと 出かけ とった ろ ?
よ||ろ っと|でかけ||
|a little|a little|||
「 日曜 ?
にちよう
「 また 車 の 整備 工場 やろ 」
|くるま||せいび|こうじょう|
房枝 の 断定 的な 言い 方 に 、 祐一 が 頷く 。
ふさえ||だんてい|てきな|いい|かた||ゆういち||うなずく
Fusae||assertive|||||||
「 警察 に 訊 かれた と よ 。
けいさつ||じん|||
一応 、 その 女の子 の 知り合い 全員 に 訊 いて 回り よる とって 。
いちおう||おんなのこ||しりあい|ぜんいん||じん||まわり||
岡崎 の ばあさん が 祐一 は どこ に も 出かけ とら んって 言う た らしくて 、 嘘 つく つもりじゃ なかった ばって ん 、 私 も そう やろって 答え とった よ 。
おかざき||||ゆういち|||||でかけ||ん って|いう|||うそ||||ば って||わたくし|||やろ って|こたえ||
Okazaki|||||||||||||||||intended||probably|||||probably|||
|||||||||||||||||||けど||||||||
岡崎 の ばあちゃん は 一 、 二 時間 、 車 で 出かけて も 、 出かけた うち に は 入ら ん けん ねぇ 。
おかざき||||ひと|ふた|じかん|くるま||でかけて||でかけた||||はいら|||
ところで 、 ごはん は 風呂 に 入って から 食べる と やろ ?
|||ふろ||はいって||たべる||
房枝 は 一方的に そこ まで 言う と 、 返事 も 待た ず に 部屋 を 出た 。
ふさえ||いっぽうてきに|||いう||へんじ||また|||へや||でた
Fusae||one-sided||||||||||||
階段 を 下りた ところ で 振り返り 、 二 階 を 見上げた 。
かいだん||おりた|||ふりかえり|ふた|かい||みあげた
夫 の 勝治 が からだ を 壊し 、 入 退院 を 繰り返して いる 今 、 自分 が 頼れる の は 祐一 しか いない のだ と 、 ふと 思う 。
おっと||かつじ||||こわし|はい|たいいん||くりかえして||いま|じぶん||たよれる|||ゆういち||||||おもう
||||||damaged||leaving the hospital||repeatedly|||||reliable||||||||suddenly|
実の 娘 だろう が 、 父親 の 見舞い に も 来 ない 長女 は もちろん 、 祐一 の 母 である 次女 を 当て に できる はず も ない 。
じつの|むすめ|||ちちおや||みまい|||らい||ちょうじょ|||ゆういち||はは||じじょ||あて|||||
|daughter|||||||||||||||||second daughter|||||||
||||||||||||||||||||当てる|||||
房枝 は エプロン の ポケット から 、 一 通 の 茶 封筒 を 取り出した 。
ふさえ||えぷろん||ぽけっと||ひと|つう||ちゃ|ふうとう||とりだした
Fusae||||||||||||
中 に は 一 枚 の 領収 書 が 入って いる 。
なか|||ひと|まい||りょうしゅう|しょ||はいって|
〈 品 代 漢方 薬 一式 合計 ¥263500〉
しな|だい|かんぽう|くすり|いっしき|ごうけい
||||one set|
公民 館 に 健康 セミナー の 講師 と して 来て いた 堤 下 に 、「 市 内 の 事務 所 に くれば 、 安く 漢方 薬 を 分けて 上げられる 」 と 言わ れ 、 勝治 の 病院 へ 行った 帰り に 、 興味 半分 で 寄った の は 昨日 の こと だった 。
こうみん|かん||けんこう|せみなー||こうし|||きて||つつみ|した||し|うち||じむ|しょ|||やすく|かんぽう|くすり||わけて|あげ られる||いわ||かつじ||びょういん||おこなった|かえり||きょうみ|はんぶん||よった|||きのう|||
||||||||||||||||||||||||||given||||Katsuji||||||||||stopped by||||||
買う つもり など なかった 。
かう|||
病院 と 家 と の 往復 に 疲れ 、 堤 下 の 笑い話 でも 聞く つもりで 寄った だけ だった のに 、 乱暴な 口 を きく 若い 男 たち に 囲ま れ 、 契約 書 に サイン さ せられた 。
びょういん||いえ|||おうふく||つかれ|つつみ|した||わらいばなし||きく||よった||||らんぼうな|くち|||わかい|おとこ|||かこま||けいやく|しょ||さいん||せら れた
|||||round trip||tired||under||funny story||||||||rude|||||||||||||||made to sign
今 は お 金 が ない と 涙声 で 訴える と 、 男 たち は 房枝 を 無理やり 郵便 局 まで 連れて いった 。
いま|||きむ||||なみだごえ||うったえる||おとこ|||ふさえ||むりやり|ゆうびん|きょく||つれて|
|||||||tearful voice||pleaded|||||Fusae|||post||||
||||||||||||||||強引に|||||
あまりに も 恐ろしくて 、 助け も 呼べ なかった 。
||おそろしくて|たすけ||よべ|
||so怖くて|help|also|call|
房枝 は 監視 さ れた まま 、 なけなし の 貯金 を 下ろす しか なかった 。
ふさえ||かんし||||||ちょきん||おろす||
Fusae||surveillance||||measly||savings||||
||||||わずかな||||||