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三姉妹探偵団 2 キャンパス篇, 三姉妹探偵団(2) Chapter 00 (1)

三姉妹探偵団(2) Chapter 00 (1)

プロローグ 「 今夜 は 眠れ そう も ない ぜ 」 先 に 着替え を 済ませて いた 先輩 の 北山 が そう 言って 、 帽子 を かぶった 。 「 何 か ある んです か ? 」 太田 は 、 ガードマン の 制服 の ボタン を 一 つ ずつ とめ ながら 訊 いた 。 M サイズ の 制服 が 、 やっと 二十 歳 に なった ばかりの 太田 に は 、 少し 窮屈だった 。 しかし 、 L サイズ は 腹 の 出た 中年 の 体型 向き に 作ら れて いる ので 、 いずれ に して も 太田 に は 合わ ない 。 いくら 制服 支給 った って 、 サイズ が 合わ ない んじゃ ね 、 と 太田 は いつも ブツブツ 言って いた 。 ズボン だって 短 めで 、 靴下 が 覗いて いる のだ 。 何とも カッコ悪い のである 。 体 は 丈夫だ し 、 腕力 に も 自信 が ある が 、 あまり 知性 に は 自信 の ない 太田 が ガードマン と いう 職業 に ついた の は 、 多少 、 制服 姿 に 憧れた から で も あった 。 いや 、 正確に 言う と 、 制服 姿 に 憧れる 女の子 に 憧れた 、 と 言う べき かも しれ ない 。 要するに 、 制服 を 着て りゃ もてる か な 、 と 思った のである 。 もともと 、 あまり もてる 方 じゃ なかった から だ 。 だ から 、 その 肝心の 制服 が チンチクリン で は 、 大いに 不満な わけだった 。 「 何とか って スター が 泊る んだ 、 この ホテル に 」 「 スター です か 」 TV なし で 一 日 過 す と 頭痛 が して 来る と いう 太田 は 、 ちょっと 興味 を 感じた 。 「 女の子 です か ? 」 北山 は ニヤリ と して 、 「 男 だ よ 。 だから 大変な んじゃ ない か 」 「 つまり ファン の 女の子 が ──」 「 どの 部屋 に 泊って る か 、 かぎ 回る の が 必ず 五 、 六 人 は いる 。 うまく 追い返さ ない と いけない から な 」 「 物好きだ なあ 」 もし 、 これ が 女優 か 何 か だったら 、 自分 だって 部屋 を 見 に 行く くせ に 、 太田 は 、 ちょっと 呆れた ように 言った 。 「 誰 が 泊って る んです か ? 」 「 何とか いう 歌手 さ 」 北山 は ロッカールーム から 出 ながら 、 首 を ひねって 、「 ええ と ……、 よく 名前 を 憶 えて ない んだ 。 ほら 、 週 末 は どう と か いう 歌 が はやって る だろう 」 「〈 週 末 の ロンサムナイト 〉 です か ? 」 TV の 歌 番組 の ベスト ・ テン なら 、 大体 太田 は 諳んじて いた 。 「 そうそう 、 それ だ 」 「 じゃ 、 神山 田 タカシ です ね 」 「 そう だった っけ 。 何だか 長たらしい 名前 だった な 」 二 人 は 〈 保安 センター 〉 と 書か れた ドア を 押して 中 へ 入って 行った 。 「 五 分 遅刻 だ ぞ 」 前 の 組 の 一 人 が 、 冗談 混 り に 北山 へ 言った 。 「 自分 は もっと 遅刻 して る くせ に 」 と 北山 が 応じる 。 「── 何 か 問題 は ? 」 「 今 の ところ 、 静かな もん だ 」 モニター の テレビ が 、 目の前 に 並んで いる 。 ホテル の 正面 玄関 と 通用口 、 フロント 、 それ から 金庫 の ある 事務 所 の 入口 を 映し出して いる 。 「 聞いて る だ ろ 、 例の 神 山田 タカシ の こと 」 と 、 前 の 組 の チーフ が 帽子 を 手 に 取って 、 言った 。 「 何 号 室 だ ? 」 「 最上 階 。 二〇一四 号 だ 」 「 スイート か 。 豪勢だ な 」 と 、 北山 は 首 を 振った 。 「 もう 入った の か な 」 「 ああ 。 一 時間 くらい 前 に チェック ・ イン して た よ 。 今 の ところ ファン らしい 女の子 の 姿 は 見え ない な 」 「 穏やかに お 引き取り 願う んだ な 、 もしや って 来たら 」 「 うまく やって くれ 。 ── それ じゃ 」 「 ご 苦労 さん 」 ── 殺風景な 部屋 は 、 北山 と 太田 の 二 人 に なった 。 「 その 神 ── 何とか いう の は 、 いく つ ぐらい な んだ ? 」 と 、 北山 が 訊 いた 。 「 十八 歳 って 言って ます けど 、 本当 は 二十 歳 を 越えて る らしい です よ 」 芸能 情報 に は 詳しい 太田 が 言った 。 「 それにしても 、 若い んだ な 」 北山 は 、 ちょっと ため息 を ついた 。 ── 北山 は もう 四十 代 の 半ば 。 頭 が 少し 薄く なり かけて いた 。 太田 は 壁 の 時計 を 見た 。 「── あと 五 分 で 十二 時 です ね 。 巡回 に 行って 来 ます 」 「 ああ 、 頼む 。 ── おい 、 太田 」 「 は あ 」 立ち上って 、 ドア の 方 へ 行き かけた 太田 は 、 足 を 止めて 、 振り向いた 。 「 その 歌手 を 目当て に うろついて る 女の子 を 見たら ──」 「 分 って ます 。 追い返し ます よ 」 「 いや 、 そう じゃ ない 」 と 、 北山 は 手 を 振って 、「 穏やかに やる んだ 。 ── 相手 は 十五 、 六 の 女の子 だ 。 当人 は それなり に 真剣に 思い詰めて る から 、 下手に 馬鹿に しよう もん なら 、 むき に なる 。 廊下 で キーキー 喚 かれたら お 客 が みんな 起き ち まう ぞ 。 プレゼント や 手紙 が あったら 、 預 って 、 ちゃんと 渡して やる 、 と 言って 、 うまく 説得 する んだ 。 いい な ? 間違っても 、 怒鳴ったり する な よ 」 「 分 り ました 」 なるほど 、 そんな もんか 、 と 太田 は 感心 した 。 業務 用 の エレベーター で 、 一 番 上 の 二十 階 へ 上る 。 そこ から 下 へ 、 一 階 ずつ 見回って 、 階段 で 降りて 行く のである 。 廊下 は 静かだった 。 ── 二十 階 は 、 いわば 上 客 だけ の 泊る フロア で 、 部屋 も 広い 。 神山 田 タカシ の いる 二〇一四 号 室 も 、 スイートルーム で 、 四 人 は 泊 れる ように なって いる のだ 。 「 神 山田 タカシ 、 か …」 太田 から 見たら 、 あんな 、 ナヨナヨ した 、 やせ っぽ ち の 、 どこ が いい んだ 、 と いう こと に なる 。 まあ 、 どうせ 、 一 、 二 年 で 消えて 行く 、 流れ星 みたいな 「 スター 」 の 一 人 だろう が 、 それ でも 今 、 若い 女の子 たち が 熱狂 して いる の は 事実 だった 。 「 まあ 、 客 は 客 だ から な …」 と 、 太田 は 肩 を すくめて 呟いた 。 二〇一四 号 室 の 前 を 通る と 、 中 から 笑い声 が 聞こえて 来た 。 グラス に 氷 を 入れて いる ような 音 も する 。 マネージャー と でも 飲んで る の か な 、 と 太田 は 思った 。 二十 階 の 廊下 に は 、 誰 も い なかった 。 太田 は 、 十九 階 、 十八 階 、 と 降りて 行った 。 この ホテル で 働く ように なって 、 もう 半年 である 。 最初の 内 は 、 常連 の お 客 を 浮 浪 者 と 間違えて つまみ出そう と したり した こと も あった 。 まあ 、 やっと 慣れて 来た 、 と いう ところ か ……。 ここ が 一生 の 職場 と は 思って い ない が 、 差し当り は 悪い 仕事 じゃ なかった 。 「── ん ? 」 十四 階 の 廊下 で 、 太田 は 足 を 止めた 。 十六 、 七 歳 と 見える 女の子 が 、 左右 を キョロキョロ 見 ながら 、 やって 来る 。 長い 髪 、 小柄だ が 、 スタイル は 悪く なかった 。 割合 に 地味な 、 セーター と スカート 。 リボン を かけた 箱 を 、 大事 そうに 両手 で 、 抱きしめる ように して いる 。 あれ は 、 もしかすると ……。 「 どうした の ? 」 と 、 太田 が 声 を かける と 、 その 少女 は 、 びっくり して 声 を 上げ そうに した 。 「 あ ── あの ──」 「 いや 、 びっくり さ せて ごめん 」 太田 は 笑い かけた 。 ── 色白な 、 可愛い 少女 だ 。 これ なら 、 北山 に 言わ れる まで も なく 、 優しく 話して やり たく なる 。 「 どうかした の ? 」 と 、 太田 は もう 一 度 訊 いた 。 「 ええ と …… 私 ……」 少女 は 、 言いにく そうに 顔 を 伏せた 。 「 神 山田 タカシ の 部屋 を 捜して る の ? 」 太田 の 言葉 に 、 少女 は ハッと 顔 を 上げた 。 「 そう な んです 。 ── この 階 か と 思って 」 「 外れた ね 、 残念 ながら 」 と 太田 は 首 を 振った 。 「 どこ だ か 教えて 下さい 」 「 悪い けど 、 それ は だめな んだ 。 もし 、 プレゼント が ある の なら 、 預かる よ 。 明日 、 必ず 渡す 。 約束 する よ 」 少女 は 、 ちょっと ためらった が 、 「 でも ── お 願い し ます 。 決して ご 迷惑 は お かけ し ませ ん 。 どうしても 直接 手渡し たい んです 」 「 それ は ちょっと ねえ ……」 「 お 願い し ます 」 少女 は 、 床 に つく か と 思う くらい 、 オーバーに 頭 を 下げた 。 「 困った なあ 」 と 、 太田 は 苦笑 した 。 「 あなた から 聞いた こと 、 誰 に も 言い ませ ん 。 それ に 、 私 、 タカシ と 握手 でも して もらえば 、 もう 満足な んです 。 すぐ そのまま 、 回れ 右 して 帰り ます 。 約束 し ます 。 何なら 、 どこ か で 隠れて 見て て 下さい 」 息 も つか ず に しゃべり 続ける その 少女 を 見て 、 太田 は 少々 哀れに なった 。 見るからに 真面目 そうな 女の子 だ 。 ああいう 歌手 を 追い回して いる 女の子 たち に よく ある 、 虚 ろ な 目つき と は 違って 、 その 目 は 一途な 輝き を 見せて いた 。 もちろん 、 ルームナンバー を 教える なんて 、 とんでもない こと だ 。 この 少女 だって 、 本当の こと を 言えば 、 会った こと が ない から 、 憧れて い られる のだ 。 ── 実際 に 会ったら 、 きっと がっかり する だろう 。 そうだ 。 このまま 帰して やら なくちゃ いけない 。 「 二十 階 へ 行って ごらん 」 と 、 太田 は 言った 。 「 二〇一四 号 室 かも しれ ない よ 。 ── たぶん 」 少女 が 頰 を 紅潮 さ せた 。 「 ありがとう ございます ! 」 バネ 仕掛 の 人形 みたいに 、 ピョコン と 頭 を 下げ 、 廊下 を 駆け出して 行く 。 「 エレベーター は 逆の 方 だ よ ! 」 と 、 太田 は 呼びかけた 。 「 いやだ ! すみません 」 少女 は 、 Uターン して 、 恥ずかし そうに 太田 の 前 を 通り抜けて 行った 。 ── やれやれ 。 太田 は 肩 を すくめた 。 どうして 、 ルームナンバー を 教え ち まったん だろう ? 何だか 、 自分 でも よく 分 ら ない 。 ただ 、 あの 子 なら 大丈夫 の ような 気 が した のだ 。 あの 子 が 、 色白で 可愛かった から か ? そう かも しれ ない 。 まあ ── どう って こと ない さ 、 と 太田 は 思った 。 たまたま あの 子 が 捜し当てた 、 って こと も ある んだ から ……。 ── 十四 階 か 。 どうして ここ に いた の か な ? そう か 。 きっと 〈 二〇一四 号 室 〉 の 〈 一四 〉 の ところ だけ 、 どこ か で 耳 に した のだ 。 それ で 十四 階 か と 思った んだろう 。 それにしても 、 あんな 可愛い 娘 が 、 こんな 時間 に わざわざ 、 プレゼント 一 つ 、 手渡す ため に やって 来る なんて 。 「 俺 の 所 に ゃ 、 バレンタイン の チョコレート だって 来 ない のに 」 また 巡回 を 続け ながら 、 太田 は グチ を 言った 。 ── 保安 センター に 戻る と 、 北山 が 大 欠 伸 を して いた 。 「 何 か あった か ? 」 「 いえ 別に 」 と 、 太田 は 首 を 振った 。 「 コーヒー でも 飲めよ 。 ── ファン らしい の は い なかった か ? 」 「 ええ 」 太田 は 、 ポット の コーヒー を 紙 コップ に 注いだ 。 「 そう か 。 さっき 裏口 の 方 に 、 それ らしい の が 二 、 三 人 見えて た けど 、 いつの間にか 見え なく なった よ 。 外 は 雨 らしい 。 この 分 じゃ 、 来た 子 が いて も 、 みんな 帰 っち まう だろう 」 「 雨 です か 」 ホテル の 中 に いる と 、 雨 が 降ろう と 雪 が 降ろう と 、 一向に 分 ら ない 。 ── 退屈な 時間 が 過ぎた 。 夜中 の 十二 時 の 後 、 一 時 、 二 時 、 と 巡回 が ある 。 後 は 明け方 五 時 の 交替 前 に もう 一 度 回る だけ だ 。 「 そろそろ 一 時 だ な 」 と 、 北山 は 言った 。 「 悪い けど 、 もう 一 度 回って くれる か ? 俺 は 二 時 に 回る 」 「 いい です よ 」 太田 は 肯 いた 。 座って いて も 眠く なる ばかりだ から 、 歩いた 方 が いい 。 それ に ── ちょっと 気 に なった こと が あった 。 さっき の 女の子 が 出て 行く の が 、 どの モニター に も 映ら なかった のである 。 もちろん 、 あれ で 二十 階 へ 直行 して 、 神山 田 タカシ に プレゼント を 手渡し 、 すぐに 帰って 行った の なら 、 太田 が 保安 センター に 戻る 前 に 、 ホテル を 出て いて 不思議 は ない 。 ただ 、 それ なら 、 北山 の 目 に 止って い そうな 気 も する が ……。 しかし 、 いくら ガードマン だって 、 モニター テレビ の 画面 から 、 一瞬 たり と 目 を 離さ ない と いう わけで は ない し 、 トイレ に だって 立つ こと が ある 。 まあ 、 どう って こと は ない だろう ……。 二十 階 に 上った 太田 は 、 ゆっくり と 廊下 を 歩き 出した 。 ── さっき は 、 いく つ か の 部屋 から 、 シャワー の 音 や 、 TV の 声 らしい もの が 聞こえて いた が 、 今 は すっかり 静かである 。 二〇一四 号 室 の 前 に 来る と 、 太田 は つい 足取り を 緩めて 、 中 の 様子 に 注意 を 向けた 。 しかし 、 物音 一 つ 、 聞こえて 来 ない 。 とっくに 眠って しまった の かも しれ ない 。 太田 は 、 ヒョイ と 肩 を すくめて 、 普通の 足取り で 歩き 始めた 。 五 、 六 メートル 進んだ とき 、 背後 で 、 急に ガチャッ と 音 が して 、 太田 は 振り向いた 。 二〇一四 号 室 の ドア が 開いた 。 そして 、 中 から 、 髪 を 振り乱した 少女 が 、 よろける ように 飛び出して 来る 。 太田 は 目 を 見張った 。 ── あの 女の子 だ ! 駆け出そう と して 、 その 少女 は 太田 に 気付く と 、 ハッと した 様子 で 、 目 を 見張った 。 太田 の 方 も 、 愕然と して いた 。


三姉妹探偵団(2) Chapter 00 (1) みっ しまい たんてい だん|chapter Three Sisters Detectives (2) Chapter 00 (1)

プロローグ 「 今夜 は 眠れ そう も ない ぜ 」   先 に 着替え を 済ませて いた 先輩 の 北山 が そう 言って 、 帽子 を かぶった 。 ぷろろーぐ|こんや||ねむれ|||||さき||きがえ||すませて||せんぱい||きたやま|||いって|ぼうし|| Prologue "I'm unlikely to sleep tonight." Senior manager Kitayama who had already changed clothes earlier wore a hat. Prólogo “Não consigo dormir esta noite.” Kitayama, uma veterana que já havia mudado de roupa, disse isso e colocou um chapéu. 「 何 か ある んです か ? なん|||| "Is something there?" 」   太田 は 、 ガードマン の 制服 の ボタン を 一 つ ずつ とめ ながら 訊 いた 。 おおた||がーどまん||せいふく||ぼたん||ひと|||||じん| Ota asked while holding the buttons of the guardman's uniform one by one. M サイズ の 制服 が 、 やっと 二十 歳 に なった ばかりの 太田 に は 、 少し 窮屈だった 。 m|さいず||せいふく|||にじゅう|さい||||おおた|||すこし|きゅうくつだった M size uniform was a bit cramped in Ota which I just finished twenty years old. しかし 、 L サイズ は 腹 の 出た 中年 の 体型 向き に 作ら れて いる ので 、 いずれ に して も 太田 に は 合わ ない 。 |l|さいず||はら||でた|ちゅうねん||たいけい|むき||つくら||||||||おおた|||あわ| However, since the L size is made for the body type of middle-aged person who got hungry, it does not suit Ota anyway. いくら 制服 支給 った って 、 サイズ が 合わ ない んじゃ ね 、 と 太田 は いつも ブツブツ 言って いた 。 |せいふく|しきゅう|||さいず||あわ|||||おおた|||ぶつぶつ|いって| Ota always told me that it would not fit the size if I received uniforms. ズボン だって 短 めで 、 靴下 が 覗いて いる のだ 。 ずぼん||みじか||くつした||のぞいて|| Even trousers are short, socks are peeping in. 何とも カッコ悪い のである 。 なんとも|かっこわるい| It is not cool at all. 体 は 丈夫だ し 、 腕力 に も 自信 が ある が 、 あまり 知性 に は 自信 の ない 太田 が ガードマン と いう 職業 に ついた の は 、 多少 、 制服 姿 に 憧れた から で も あった 。 からだ||じょうぶだ||わんりょく|||じしん|||||ちせい|||じしん|||おおた||がーどまん|||しょくぎょう|||||たしょう|せいふく|すがた||あこがれた|||| The body is strong and I am confident in my muscular strength, but Ota, who is not confident in my intelligence, got into a profession called guardman because it was somewhat because I longed for uniforms. いや 、 正確に 言う と 、 制服 姿 に 憧れる 女の子 に 憧れた 、 と 言う べき かも しれ ない 。 |せいかくに|いう||せいふく|すがた||あこがれる|おんなのこ||あこがれた||いう|||| No, to be precise, it may be said that I was admired by a girl who admired her uniform. 要するに 、 制服 を 着て りゃ もてる か な 、 と 思った のである 。 ようするに|せいふく||きて||||||おもった| もともと 、 あまり もてる 方 じゃ なかった から だ 。 |||かた|||| Originally, it wasn't too much of a person. だ から 、 その 肝心の 制服 が チンチクリン で は 、 大いに 不満な わけだった 。 |||かんじんの|せいふく|||||おおいに|ふまんな| Therefore, I was very dissatisfied with the essential uniform in Chinchikurine. 「 何とか って スター が 泊る んだ 、 この ホテル に 」 「 スター です か 」   TV なし で 一 日 過 す と 頭痛 が して 来る と いう 太田 は 、 ちょっと 興味 を 感じた 。 なんとか||すたー||とまる|||ほてる||すたー|||tv|||ひと|ひ|か|||ずつう|||くる|||おおた|||きょうみ||かんじた 「 女の子 です か ? おんなのこ|| 」   北山 は ニヤリ と して 、 「 男 だ よ 。 きたやま|||||おとこ|| だから 大変な んじゃ ない か 」 「 つまり ファン の 女の子 が ──」 「 どの 部屋 に 泊って る か 、 かぎ 回る の が 必ず 五 、 六 人 は いる 。 |たいへんな|||||ふぁん||おんなのこ|||へや||とまって||||まわる|||かならず|いつ|むっ|じん|| うまく 追い返さ ない と いけない から な 」 「 物好きだ なあ 」   もし 、 これ が 女優 か 何 か だったら 、 自分 だって 部屋 を 見 に 行く くせ に 、 太田 は 、 ちょっと 呆れた ように 言った 。 |おいかえさ||||||ものずきだ|||||じょゆう||なん|||じぶん||へや||み||いく|||おおた|||あきれた||いった 「 誰 が 泊って る んです か ? だれ||とまって||| 」 「 何とか いう 歌手 さ 」   北山 は ロッカールーム から 出 ながら 、 首 を ひねって 、「 ええ と ……、 よく 名前 を 憶 えて ない んだ 。 なんとか||かしゅ||きたやま||||だ||くび||||||なまえ||おく||| ほら 、 週 末 は どう と か いう 歌 が はやって る だろう 」 「〈 週 末 の ロンサムナイト 〉 です か ? |しゅう|すえ||||||うた|||||しゅう|すえ|||| 」   TV の 歌 番組 の ベスト ・ テン なら 、 大体 太田 は 諳んじて いた 。 tv||うた|ばんぐみ||べすと|||だいたい|おおた||そらんじて| 「 そうそう 、 それ だ 」 「 じゃ 、 神山 田 タカシ です ね 」 「 そう だった っけ 。 そう そう||||かみやま|た|たかし||||| 何だか 長たらしい 名前 だった な 」   二 人 は 〈 保安 センター 〉 と 書か れた ドア を 押して 中 へ 入って 行った 。 なんだか|ながたらしい|なまえ|||ふた|じん||ほあん|せんたー||かか||どあ||おして|なか||はいって|おこなった 「 五 分 遅刻 だ ぞ 」   前 の 組 の 一 人 が 、 冗談 混 り に 北山 へ 言った 。 いつ|ぶん|ちこく|||ぜん||くみ||ひと|じん||じょうだん|こん|||きたやま||いった 「 自分 は もっと 遅刻 して る くせ に 」   と 北山 が 応じる 。 じぶん|||ちこく||||||きたやま||おうじる 「── 何 か 問題 は ? なん||もんだい| 」 「 今 の ところ 、 静かな もん だ 」   モニター の テレビ が 、 目の前 に 並んで いる 。 いま|||しずかな|||もにたー||てれび||めのまえ||ならんで| ホテル の 正面 玄関 と 通用口 、 フロント 、 それ から 金庫 の ある 事務 所 の 入口 を 映し出して いる 。 ほてる||しょうめん|げんかん||つうようぐち|ふろんと|||きんこ|||じむ|しょ||いりぐち||うつしだして| 「 聞いて る だ ろ 、 例の 神 山田 タカシ の こと 」   と 、 前 の 組 の チーフ が 帽子 を 手 に 取って 、 言った 。 きいて||||れいの|かみ|やまだ|たかし||||ぜん||くみ||ちーふ||ぼうし||て||とって|いった 「 何 号 室 だ ? なん|ごう|しつ| 」 「 最上 階 。 さいじょう|かい 二〇一四 号 だ 」 「 スイート か 。 ふた|いちし|ごう||| 豪勢だ な 」   と 、 北山 は 首 を 振った 。 ごうせいだ|||きたやま||くび||ふった 「 もう 入った の か な 」 「 ああ 。 |はいった|||| 一 時間 くらい 前 に チェック ・ イン して た よ 。 ひと|じかん||ぜん||ちぇっく|いん||| 今 の ところ ファン らしい 女の子 の 姿 は 見え ない な 」 「 穏やかに お 引き取り 願う んだ な 、 もしや って 来たら 」 「 うまく やって くれ 。 いま|||ふぁん||おんなのこ||すがた||みえ|||おだやかに||ひきとり|ねがう|||||きたら||| I can not see the appearance of a girl who seems to be fans at the moment. "" Please take it calmly, come back "" Do it well. ── それ じゃ 」 「 ご 苦労 さん 」  ── 殺風景な 部屋 は 、 北山 と 太田 の 二 人 に なった 。 |||くろう||さっぷうけいな|へや||きたやま||おおた||ふた|じん|| 「 その 神 ── 何とか いう の は 、 いく つ ぐらい な んだ ? |かみ|なんとか|||||||| 」   と 、 北山 が 訊 いた 。 |きたやま||じん| 「 十八 歳 って 言って ます けど 、 本当 は 二十 歳 を 越えて る らしい です よ 」   芸能 情報 に は 詳しい 太田 が 言った 。 じゅうはち|さい||いって|||ほんとう||にじゅう|さい||こえて|||||げいのう|じょうほう|||くわしい|おおた||いった 「 それにしても 、 若い んだ な 」   北山 は 、 ちょっと ため息 を ついた 。 |わかい|||きたやま|||ためいき|| ── 北山 は もう 四十 代 の 半ば 。 きたやま|||しじゅう|だい||なかば 頭 が 少し 薄く なり かけて いた 。 あたま||すこし|うすく||| 太田 は 壁 の 時計 を 見た 。 おおた||かべ||とけい||みた 「── あと 五 分 で 十二 時 です ね 。 |いつ|ぶん||じゅうに|じ|| 巡回 に 行って 来 ます 」 「 ああ 、 頼む 。 じゅんかい||おこなって|らい|||たのむ ── おい 、 太田 」 「 は あ 」   立ち上って 、 ドア の 方 へ 行き かけた 太田 は 、 足 を 止めて 、 振り向いた 。 |おおた|||たちのぼって|どあ||かた||いき||おおた||あし||とどめて|ふりむいた 「 その 歌手 を 目当て に うろついて る 女の子 を 見たら ──」 「 分 って ます 。 |かしゅ||めあて||||おんなのこ||みたら|ぶん|| 追い返し ます よ 」 「 いや 、 そう じゃ ない 」   と 、 北山 は 手 を 振って 、「 穏やかに やる んだ 。 おいかえし||||||||きたやま||て||ふって|おだやかに|| ── 相手 は 十五 、 六 の 女の子 だ 。 あいて||じゅうご|むっ||おんなのこ| 当人 は それなり に 真剣に 思い詰めて る から 、 下手に 馬鹿に しよう もん なら 、 むき に なる 。 とうにん||||しんけんに|おもいつめて|||へたに|ばかに|||||| 廊下 で キーキー 喚 かれたら お 客 が みんな 起き ち まう ぞ 。 ろうか|||かん|||きゃく|||おき||| プレゼント や 手紙 が あったら 、 預 って 、 ちゃんと 渡して やる 、 と 言って 、 うまく 説得 する んだ 。 ぷれぜんと||てがみ|||よ|||わたして|||いって||せっとく|| いい な ? 間違っても 、 怒鳴ったり する な よ 」 「 分 り ました 」   なるほど 、 そんな もんか 、 と 太田 は 感心 した 。 まちがっても|どなったり||||ぶん|||||||おおた||かんしん| 業務 用 の エレベーター で 、 一 番 上 の 二十 階 へ 上る 。 ぎょうむ|よう||えれべーたー||ひと|ばん|うえ||にじゅう|かい||のぼる そこ から 下 へ 、 一 階 ずつ 見回って 、 階段 で 降りて 行く のである 。 ||した||ひと|かい||みまわって|かいだん||おりて|いく| 廊下 は 静かだった 。 ろうか||しずかだった ── 二十 階 は 、 いわば 上 客 だけ の 泊る フロア で 、 部屋 も 広い 。 にじゅう|かい|||うえ|きゃく|||とまる|ふろあ||へや||ひろい 神山 田 タカシ の いる 二〇一四 号 室 も 、 スイートルーム で 、 四 人 は 泊 れる ように なって いる のだ 。 かみやま|た|たかし|||ふた|いちし|ごう|しつ||||よっ|じん||はく||||| 「 神 山田 タカシ 、 か …」   太田 から 見たら 、 あんな 、 ナヨナヨ した 、 やせ っぽ ち の 、 どこ が いい んだ 、 と いう こと に なる 。 かみ|やまだ|たかし||おおた||みたら||なよなよ|||||||||||||| まあ 、 どうせ 、 一 、 二 年 で 消えて 行く 、 流れ星 みたいな 「 スター 」 の 一 人 だろう が 、 それ でも 今 、 若い 女の子 たち が 熱狂 して いる の は 事実 だった 。 ||ひと|ふた|とし||きえて|いく|ながれぼし||すたー||ひと|じん|||||いま|わかい|おんなのこ|||ねっきょう|||||じじつ| 「 まあ 、 客 は 客 だ から な …」   と 、 太田 は 肩 を すくめて 呟いた 。 |きゃく||きゃく|||||おおた||かた|||つぶやいた 二〇一四 号 室 の 前 を 通る と 、 中 から 笑い声 が 聞こえて 来た 。 ふた|いちし|ごう|しつ||ぜん||とおる||なか||わらいごえ||きこえて|きた グラス に 氷 を 入れて いる ような 音 も する 。 ぐらす||こおり||いれて|||おと|| マネージャー と でも 飲んで る の か な 、 と 太田 は 思った 。 まねーじゃー|||のんで||||||おおた||おもった 二十 階 の 廊下 に は 、 誰 も い なかった 。 にじゅう|かい||ろうか|||だれ||| 太田 は 、 十九 階 、 十八 階 、 と 降りて 行った 。 おおた||じゅうきゅう|かい|じゅうはち|かい||おりて|おこなった この ホテル で 働く ように なって 、 もう 半年 である 。 |ほてる||はたらく||||はんとし| 最初の 内 は 、 常連 の お 客 を 浮 浪 者 と 間違えて つまみ出そう と したり した こと も あった 。 さいしょの|うち||じょうれん|||きゃく||うか|ろう|もの||まちがえて|つまみだそう|||||| まあ 、 やっと 慣れて 来た 、 と いう ところ か ……。 ||なれて|きた|||| ここ が 一生 の 職場 と は 思って い ない が 、 差し当り は 悪い 仕事 じゃ なかった 。 ||いっしょう||しょくば|||おもって||||さしあたり||わるい|しごと|| 「── ん ? 」   十四 階 の 廊下 で 、 太田 は 足 を 止めた 。 じゅうよん|かい||ろうか||おおた||あし||とどめた 十六 、 七 歳 と 見える 女の子 が 、 左右 を キョロキョロ 見 ながら 、 やって 来る 。 じゅうろく|なな|さい||みえる|おんなのこ||さゆう|||み|||くる 長い 髪 、 小柄だ が 、 スタイル は 悪く なかった 。 ながい|かみ|こがらだ||すたいる||わるく| 割合 に 地味な 、 セーター と スカート 。 わりあい||じみな|せーたー||すかーと リボン を かけた 箱 を 、 大事 そうに 両手 で 、 抱きしめる ように して いる 。 りぼん|||はこ||だいじ|そう に|りょうて||だきしめる||| あれ は 、 もしかすると ……。 「 どうした の ? 」   と 、 太田 が 声 を かける と 、 その 少女 は 、 びっくり して 声 を 上げ そうに した 。 |おおた||こえ|||||しょうじょ||||こえ||あげ|そう に| 「 あ ── あの ──」 「 いや 、 びっくり さ せて ごめん 」   太田 は 笑い かけた 。 |||||||おおた||わらい| ── 色白な 、 可愛い 少女 だ 。 いろじろな|かわいい|しょうじょ| これ なら 、 北山 に 言わ れる まで も なく 、 優しく 話して やり たく なる 。 ||きたやま||いわ|||||やさしく|はなして||| 「 どうかした の ? 」   と 、 太田 は もう 一 度 訊 いた 。 |おおた|||ひと|たび|じん| 「 ええ と …… 私 ……」   少女 は 、 言いにく そうに 顔 を 伏せた 。 ||わたくし|しょうじょ||いいにく|そう に|かお||ふせた 「 神 山田 タカシ の 部屋 を 捜して る の ? かみ|やまだ|たかし||へや||さがして|| 」   太田 の 言葉 に 、 少女 は ハッと 顔 を 上げた 。 おおた||ことば||しょうじょ||はっと|かお||あげた 「 そう な んです 。 ── この 階 か と 思って 」 「 外れた ね 、 残念 ながら 」   と 太田 は 首 を 振った 。 |かい|||おもって|はずれた||ざんねん|||おおた||くび||ふった 「 どこ だ か 教えて 下さい 」 「 悪い けど 、 それ は だめな んだ 。 |||おしえて|ください|わるい||||| もし 、 プレゼント が ある の なら 、 預かる よ 。 |ぷれぜんと|||||あずかる| 明日 、 必ず 渡す 。 あした|かならず|わたす 約束 する よ 」   少女 は 、 ちょっと ためらった が 、 「 でも ── お 願い し ます 。 やくそく|||しょうじょ|||||||ねがい|| 決して ご 迷惑 は お かけ し ませ ん 。 けっして||めいわく|||||| どうしても 直接 手渡し たい んです 」 「 それ は ちょっと ねえ ……」 「 お 願い し ます 」   少女 は 、 床 に つく か と 思う くらい 、 オーバーに 頭 を 下げた 。 |ちょくせつ|てわたし||||||||ねがい|||しょうじょ||とこ|||||おもう||おーばーに|あたま||さげた 「 困った なあ 」   と 、 太田 は 苦笑 した 。 こまった|||おおた||くしょう| 「 あなた から 聞いた こと 、 誰 に も 言い ませ ん 。 ||きいた||だれ|||いい|| それ に 、 私 、 タカシ と 握手 でも して もらえば 、 もう 満足な んです 。 ||わたくし|たかし||あくしゅ|||||まんぞくな| すぐ そのまま 、 回れ 右 して 帰り ます 。 ||まわれ|みぎ||かえり| 約束 し ます 。 やくそく|| 何なら 、 どこ か で 隠れて 見て て 下さい 」   息 も つか ず に しゃべり 続ける その 少女 を 見て 、 太田 は 少々 哀れに なった 。 なんなら||||かくれて|みて||ください|いき||||||つづける||しょうじょ||みて|おおた||しょうしょう|あわれに| 見るからに 真面目 そうな 女の子 だ 。 みるからに|まじめ|そう な|おんなのこ| ああいう 歌手 を 追い回して いる 女の子 たち に よく ある 、 虚 ろ な 目つき と は 違って 、 その 目 は 一途な 輝き を 見せて いた 。 |かしゅ||おいまわして||おんなのこ|||||きょ|||めつき|||ちがって||め||いちずな|かがやき||みせて| もちろん 、 ルームナンバー を 教える なんて 、 とんでもない こと だ 。 |||おしえる|||| この 少女 だって 、 本当の こと を 言えば 、 会った こと が ない から 、 憧れて い られる のだ 。 |しょうじょ||ほんとうの|||いえば|あった|||||あこがれて||| ── 実際 に 会ったら 、 きっと がっかり する だろう 。 じっさい||あったら|||| そうだ 。 そう だ このまま 帰して やら なくちゃ いけない 。 |かえして||| 「 二十 階 へ 行って ごらん 」   と 、 太田 は 言った 。 にじゅう|かい||おこなって|||おおた||いった 「 二〇一四 号 室 かも しれ ない よ 。 ふた|いちし|ごう|しつ|||| ── たぶん 」   少女 が 頰 を 紅潮 さ せた 。 |しょうじょ||||こうちょう|| 「 ありがとう ございます ! 」   バネ 仕掛 の 人形 みたいに 、 ピョコン と 頭 を 下げ 、 廊下 を 駆け出して 行く 。 ばね|しかけ||にんぎょう||||あたま||さげ|ろうか||かけだして|いく 「 エレベーター は 逆の 方 だ よ ! えれべーたー||ぎゃくの|かた|| 」   と 、 太田 は 呼びかけた 。 |おおた||よびかけた 「 いやだ ! すみません 」   少女 は 、 Uターン して 、 恥ずかし そうに 太田 の 前 を 通り抜けて 行った 。 |しょうじょ||u たーん||はずかし|そう に|おおた||ぜん||とおりぬけて|おこなった ── やれやれ 。 太田 は 肩 を すくめた 。 おおた||かた|| どうして 、 ルームナンバー を 教え ち まったん だろう ? |||おしえ||| 何だか 、 自分 でも よく 分 ら ない 。 なんだか|じぶん|||ぶん|| ただ 、 あの 子 なら 大丈夫 の ような 気 が した のだ 。 ||こ||だいじょうぶ|||き||| あの 子 が 、 色白で 可愛かった から か ? |こ||いろじろで|かわいかった|| そう かも しれ ない 。 まあ ── どう って こと ない さ 、 と 太田 は 思った 。 |||||||おおた||おもった たまたま あの 子 が 捜し当てた 、 って こと も ある んだ から ……。 ||こ||さがしあてた|||||| ── 十四 階 か 。 じゅうよん|かい| どうして ここ に いた の か な ? そう か 。 きっと 〈 二〇一四 号 室 〉 の 〈 一四 〉 の ところ だけ 、 どこ か で 耳 に した のだ 。 |ふた|いちし|ごう|しつ||いちし|||||||みみ||| それ で 十四 階 か と 思った んだろう 。 ||じゅうよん|かい|||おもった| それにしても 、 あんな 可愛い 娘 が 、 こんな 時間 に わざわざ 、 プレゼント 一 つ 、 手渡す ため に やって 来る なんて 。 ||かわいい|むすめ|||じかん|||ぷれぜんと|ひと||てわたす||||くる| 「 俺 の 所 に ゃ 、 バレンタイン の チョコレート だって 来 ない のに 」   また 巡回 を 続け ながら 、 太田 は グチ を 言った 。 おれ||しょ|||ばれんたいん||ちょこれーと||らい||||じゅんかい||つづけ||おおた||||いった ── 保安 センター に 戻る と 、 北山 が 大 欠 伸 を して いた 。 ほあん|せんたー||もどる||きたやま||だい|けつ|しん||| 「 何 か あった か ? なん||| 」 「 いえ 別に 」   と 、 太田 は 首 を 振った 。 |べつに||おおた||くび||ふった 「 コーヒー でも 飲めよ 。 こーひー||のめよ ── ファン らしい の は い なかった か ? ふぁん|||||| 」 「 ええ 」   太田 は 、 ポット の コーヒー を 紙 コップ に 注いだ 。 |おおた||ぽっと||こーひー||かみ|こっぷ||そそいだ 「 そう か 。 さっき 裏口 の 方 に 、 それ らしい の が 二 、 三 人 見えて た けど 、 いつの間にか 見え なく なった よ 。 |うらぐち||かた||||||ふた|みっ|じん|みえて|||いつのまにか|みえ||| 外 は 雨 らしい 。 がい||あめ| この 分 じゃ 、 来た 子 が いて も 、 みんな 帰 っち まう だろう 」 「 雨 です か 」   ホテル の 中 に いる と 、 雨 が 降ろう と 雪 が 降ろう と 、 一向に 分 ら ない 。 |ぶん||きた|こ|||||かえ||||あめ|||ほてる||なか||||あめ||ふろう||ゆき||ふろう||いっこうに|ぶん|| ── 退屈な 時間 が 過ぎた 。 たいくつな|じかん||すぎた 夜中 の 十二 時 の 後 、 一 時 、 二 時 、 と 巡回 が ある 。 よなか||じゅうに|じ||あと|ひと|じ|ふた|じ||じゅんかい|| 後 は 明け方 五 時 の 交替 前 に もう 一 度 回る だけ だ 。 あと||あけがた|いつ|じ||こうたい|ぜん|||ひと|たび|まわる|| 「 そろそろ 一 時 だ な 」   と 、 北山 は 言った 。 |ひと|じ||||きたやま||いった 「 悪い けど 、 もう 一 度 回って くれる か ? わるい|||ひと|たび|まわって|| 俺 は 二 時 に 回る 」 「 いい です よ 」   太田 は 肯 いた 。 おれ||ふた|じ||まわる||||おおた||こう| 座って いて も 眠く なる ばかりだ から 、 歩いた 方 が いい 。 すわって|||ねむく||||あるいた|かた|| それ に ── ちょっと 気 に なった こと が あった 。 |||き||||| さっき の 女の子 が 出て 行く の が 、 どの モニター に も 映ら なかった のである 。 ||おんなのこ||でて|いく||||もにたー|||うつら|| もちろん 、 あれ で 二十 階 へ 直行 して 、 神山 田 タカシ に プレゼント を 手渡し 、 すぐに 帰って 行った の なら 、 太田 が 保安 センター に 戻る 前 に 、 ホテル を 出て いて 不思議 は ない 。 |||にじゅう|かい||ちょっこう||かみやま|た|たかし||ぷれぜんと||てわたし||かえって|おこなった|||おおた||ほあん|せんたー||もどる|ぜん||ほてる||でて||ふしぎ|| ただ 、 それ なら 、 北山 の 目 に 止って い そうな 気 も する が ……。 |||きたやま||め||とまって||そう な|き||| しかし 、 いくら ガードマン だって 、 モニター テレビ の 画面 から 、 一瞬 たり と 目 を 離さ ない と いう わけで は ない し 、 トイレ に だって 立つ こと が ある 。 ||がーどまん||もにたー|てれび||がめん||いっしゅん|||め||はなさ||||||||といれ|||たつ||| まあ 、 どう って こと は ない だろう ……。 二十 階 に 上った 太田 は 、 ゆっくり と 廊下 を 歩き 出した 。 にじゅう|かい||のぼった|おおた||||ろうか||あるき|だした ── さっき は 、 いく つ か の 部屋 から 、 シャワー の 音 や 、 TV の 声 らしい もの が 聞こえて いた が 、 今 は すっかり 静かである 。 ||||||へや||しゃわー||おと||tv||こえ||||きこえて|||いま|||しずかである 二〇一四 号 室 の 前 に 来る と 、 太田 は つい 足取り を 緩めて 、 中 の 様子 に 注意 を 向けた 。 ふた|いちし|ごう|しつ||ぜん||くる||おおた|||あしどり||ゆるめて|なか||ようす||ちゅうい||むけた しかし 、 物音 一 つ 、 聞こえて 来 ない 。 |ものおと|ひと||きこえて|らい| とっくに 眠って しまった の かも しれ ない 。 |ねむって||||| 太田 は 、 ヒョイ と 肩 を すくめて 、 普通の 足取り で 歩き 始めた 。 おおた||||かた|||ふつうの|あしどり||あるき|はじめた 五 、 六 メートル 進んだ とき 、 背後 で 、 急に ガチャッ と 音 が して 、 太田 は 振り向いた 。 いつ|むっ|めーとる|すすんだ||はいご||きゅうに|||おと|||おおた||ふりむいた 二〇一四 号 室 の ドア が 開いた 。 ふた|いちし|ごう|しつ||どあ||あいた そして 、 中 から 、 髪 を 振り乱した 少女 が 、 よろける ように 飛び出して 来る 。 |なか||かみ||ふりみだした|しょうじょ||||とびだして|くる 太田 は 目 を 見張った 。 おおた||め||みはった ── あの 女の子 だ ! |おんなのこ| 駆け出そう と して 、 その 少女 は 太田 に 気付く と 、 ハッと した 様子 で 、 目 を 見張った 。 かけだそう||||しょうじょ||おおた||きづく||はっと||ようす||め||みはった 太田 の 方 も 、 愕然と して いた 。 おおた||かた||がくぜんと||