43. 王さまと靴屋 - 新美南吉
王さま と 靴 屋 - 新美 南 吉
ある 日 、 王さま は こじき の ような ようす を して 、 ひと り で 町 へ やって ゆきました 。 町 に は 小さな 靴 屋 が いっけん あって 、 お じいさん が せっせと 靴 を つくって おりました 。 王さま は 靴 屋 の 店 に は いって 、
「 これ これ 、 じい や 、 その ほう は なんという 名 まえ か 。」
と たずねました 。 靴 屋 の じいさん は 、 その かた が 王さま である と は 知りません でした ので 、 「 ひと にもの を きく なら 、 もっと ていねいに いう もの だ よ 。」
と 、 つっけんどんに いって 、 とんとん と 仕事 を して いました 。 「 これ 、 名 まえ は なんと 申す ぞ 。」
と また 王さま は たずねました 。 「 ひと に くち を きく に は 、 もっと ていねいに いう もの だ と いう のに 。」
と じいさん は また 、 ぶっきらぼうに いって 、 仕事 を し つづけました 。 王さま は 、 なるほど じぶん が まちがって いた 、 と 思って 、 こんど は やさしく 、
「 おまえ の 名 まえ を 教えて おくれ 。」
と たのみました 。 「 わし の 名 まえ は 、 マギステル だ 。」
と じいさん は 、 やっと 名 まえ を 教えました 。 そこ で 王さま は 、
「 マギステル の じいさん 、 ないしょ の はなし だ が 、 おまえ は この 国 の 王さま は ばか やろう だ と おもわ ない か 。」
と たずねました 。 「 おもわ ない よ 。」
と マギステル じいさん は こたえました 。 「 それでは 、 こゆび の さきほど ばかだ と は おもわ ない か 。」
と 王さま は また たずねました 。 「 おもわ ない よ 。」
と マギステル じいさん は こたえて 、 靴 の かかと を うちつけました 。 「 もし おまえ が 、 王さま は こゆび の さきほど ばかだ と いったら 、 わし は これ を やる よ 。 だれ も ほか に きいて や し ない から 、 だいじょうぶだ よ 。」
と 王さま は 、 金 の 時計 を ポケット から 出して 、 じいさん の ひざ に のせました 。 「 この 国 の 王さま が ばかだ と いえば これ を くれる の かい 。」
と じいさん は 、 金づち を もった 手 を わき に たれて 、 ひざ の 上 の 時計 を みました 。 「 うん 、 小さい 声 で 、 ほんの ひとくち いえば あげる よ 。」
と 王さま は 手 を もみあわ せ ながら いいました 。 する と じいさん は 、 やにわに その 時計 を ひっつか んで 床 の うえ に たたきつけました 。 「 さっさと 出て う せろ 。 ぐずぐず して る と ぶち ころして しまう ぞ 。 不 忠 者 め が 。 この 国 の 王さま ほど ご りっぱな おかた が 、 世界中 に またと ある か ッ 。」
そして 、 もって いた 金づち を ふりあげました 。 王さま は 靴 屋 の 店 から とびだしました 。 とびだす とき 、 ひ おい の 棒 に ご つんと 頭 を ぶつけて 、 大きな こぶ を つくりました 。 けれど 王さま は 、 こころ を 花 の ように あかるく して 、
「 わし の 人民 は よい 人民 だ 。 わし の 人民 は よい 人民 だ 。」
と くりかえし ながら 、 宮殿 の ほう へ かえって ゆきました 。