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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 61. お母さん の ひきがえる - 小川 未明
61. お母さん の ひきがえる - 小川 未明
お母さん の ひきがえる - 小川 未明 .
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かえる と いう もの は 、 みんな おとなしい もの です けれど 、 この 大きな ひきがえる は 、 たくさんの 小さな ひきがえる の お母さん であった だけ に 、 いちばん おとなしい ので ありました 。
町 の 裏 は 、 坂 に なって 、 細い 道 が つづいて いました 。
道 の 両側 は やぶ に なって いました ので 、 そこ に 、 かえる は すんで いた のであります 。
去年 の ちょうど いまごろ に も 、 この お母さん の かえる は 、 坂 の 通り へ 出て 、 小さな 子供 たち の ぴょんぴょん おもしろ そうに 飛ぶ の を ながめて いました 。
往来 を 歩く 人 は 、 みんな この かえる を 見て ゆきました 。
「 かわいらしい かえる だ こと 、 踏ま ない ように して ゆきましょう ね 。」
と 、 女の子 たち は いって 、 避けて 歩いて ゆきました 。
お母さん の かえる は 、 ほんとうに 、 人間 と いう もの は しんせつな もの だ と 思いました 。
やがて 、 今年 も その 時分 に なった のです 。
五月雨 時分 の 坂道 は 、 じめじめ と して 、 やぶ の 草木 は 、 青々 と しげりました 。
お母さん の かえる も 去年 の ように 、 道 の 上 へ 出て いました 。
ある 日 の こと 、 この 大きな かえる は 、 人間 の 住んで いる 家 は 、 どんな ような 有り様 だろう と 思いました 。
「 ひと つ 、 今日 は 見物 に いって みましょう 。」
と いって 、 のこのこ と 坂 を 下りて 、 町 へ やってきた のでした 。
かえる の 足 は 、 のろかった から 、 町 へ きた 時分 は 、 もう 、 かれこれ 晩方 に なって いました 。
「 まあ 、 一 軒 、 一 軒 、 歩いて みる こと に しよう 。」
と 、 大きな かえる は 思いました 。
人間 と いう もの は 、 みんな やさしい もの だ と 思って いた かえる は 、 なにも ほか の こと を 考えません でした 。
すぐ 、 その 一 軒 の 入り口 から はいりました 。
その 家 は 、 米屋 で ありました 。
米屋 の お じいさん は 、 なに か 、 黒い 、 大きな もの が はいって きた と 思って 、 よく 見ます と 、 それ は 、 ひきがえる で ありました から 、 「 まあ 、 まあ 、 こんな ところ へ は いって きて は 困る じゃ ない か 。
さあ 、 出ておいで 。」
と いって 、 お じいさん は 、 笑い ながら 、 かえる を 棒 の 先 で 、 往来 へ 出して しまいました 。
お母さん の ひきがえる は 、 かくべつ それ を 悲しい と も 思いません でした 。
こんど は 、 隣 の 家 へ は いって ゆきました 。
隣 の 家 は 、 炭屋 でした 。
おかみ さん が 、 冬 の 用意 に 、 たどん を 造って いました が 、 ひきがえる が はいって くる と 、 「 こんな ところ へ は いって くる と 、 真っ黒に なって しまう よ 。
さあ 、 あっち へ お ゆき 。」
と いって 、 そこ に あった ほうき で 、 かえる を 往来 の 方 へ はき出す ま ね を しました 。
お母さん の ひきがえる は 、 これ を 悲しい と も 思いません でした 。
おとなしく 、 その 家 を 出る と また 、 その つぎ の 隣 の 家 の 方 へ 歩いて ゆきました 。
晩がた の 空 は 晴れて いました 。
かえる は 、 入り口 から は いる と 、 きれいな 水 が あって 、 魚 が たくさん 泳いで いました から 、 大喜びで いきなり 中 へ 飛び込みました 。
「 あっ。」
と いって 、 そこ に いた 子供 たち は 、 みんな 驚きました 。
その 家 は 、 金魚 屋 だった のです 。
金魚 屋 の お じいさん は 、 すぐに ひきがえる を 網 で すくって 、 外 の 往来 の 上 へ ぽん と ほうり出しました 。
子供 たち は 、 また 、 どっと 笑いました 。
お母さん の かえる は 、 自分 の 子供 たち の こと を 思い出して 、 暗い 坂 の 方 へ 帰って ゆきました 。
. ―― 一九二六・六 ――
61. お母さん の ひきがえる - 小川 未明
お かあさん|||おがわ|みめい
61. mother's toad - OGAWA Mimei
61. Материнская жаба - Миаки Огава
お母さん の ひきがえる - 小川 未明 .
お かあさん|||おがわ|みめい
||accordion||
Mama no Hikaeru - Ogawa Mimei .
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かえる と いう もの は 、 みんな おとなしい もの です けれど 、 この 大きな ひきがえる は 、 たくさんの 小さな ひきがえる の お母さん であった だけ に 、 いちばん おとなしい ので ありました 。
|||||||||||おおきな||||ちいさな|||お かあさん|||||||
All frogs are docile, but this big one was the most docile because she was the mother of many little ones.
町 の 裏 は 、 坂 に なって 、 細い 道 が つづいて いました 。
まち||うら||さか|||ほそい|どう|||
道 の 両側 は やぶ に なって いました ので 、 そこ に 、 かえる は すんで いた のであります 。
どう||りょうがわ|||||||||||||
Both sides of the road were overgrown, so the frogs had lived there.
去年 の ちょうど いまごろ に も 、 この お母さん の かえる は 、 坂 の 通り へ 出て 、 小さな 子供 たち の ぴょんぴょん おもしろ そうに 飛ぶ の を ながめて いました 。
きょねん|||||||お かあさん||||さか||とおり||でて|ちいさな|こども|||ぴょ ん ぴょ ん||そう に|とぶ||||
||||||||||||||||||||hopping|||||||
往来 を 歩く 人 は 、 みんな この かえる を 見て ゆきました 。
おうらい||あるく|じん||||||みて|
「 かわいらしい かえる だ こと 、 踏ま ない ように して ゆきましょう ね 。」
||||ふま||よう に|||
||||||||let's go|
と 、 女の子 たち は いって 、 避けて 歩いて ゆきました 。
|おんなのこ||||さけて|あるいて|
お母さん の かえる は 、 ほんとうに 、 人間 と いう もの は しんせつな もの だ と 思いました 。
お かあさん|||||にんげん|||||||||おもいました
||||||||||kind||||
やがて 、 今年 も その 時分 に なった のです 。
|ことし|||じぶん|||
五月雨 時分 の 坂道 は 、 じめじめ と して 、 やぶ の 草木 は 、 青々 と しげりました 。
さみだれ|じぶん||さかみち|||||||くさき||あおあお||
||||||||||plants||lush||grown thick
お母さん の かえる も 去年 の ように 、 道 の 上 へ 出て いました 。
お かあさん||||きょねん||よう に|どう||うえ||でて|
ある 日 の こと 、 この 大きな かえる は 、 人間 の 住んで いる 家 は 、 どんな ような 有り様 だろう と 思いました 。
|ひ||||おおきな|||にんげん||すんで||いえ||||ありさま|||おもいました
「 ひと つ 、 今日 は 見物 に いって みましょう 。」
||きょう||けんぶつ|||
と いって 、 のこのこ と 坂 を 下りて 、 町 へ やってきた のでした 。
||の この こ||さか||おりて|まち|||
||slowly||||||||
かえる の 足 は 、 のろかった から 、 町 へ きた 時分 は 、 もう 、 かれこれ 晩方 に なって いました 。
||あし||||まち|||じぶん||||ばん がた|||
||||slow|||||||||evening|||
「 まあ 、 一 軒 、 一 軒 、 歩いて みる こと に しよう 。」
|ひと|のき|ひと|のき|あるいて||||
と 、 大きな かえる は 思いました 。
|おおきな|||おもいました
人間 と いう もの は 、 みんな やさしい もの だ と 思って いた かえる は 、 なにも ほか の こと を 考えません でした 。
にんげん||||||||||おもって|||||||||かんがえません|
すぐ 、 その 一 軒 の 入り口 から はいりました 。
||ひと|のき||いりぐち||
その 家 は 、 米屋 で ありました 。
|いえ||こめや||
米屋 の お じいさん は 、 なに か 、 黒い 、 大きな もの が はいって きた と 思って 、 よく 見ます と 、 それ は 、 ひきがえる で ありました から 、 「 まあ 、 まあ 、 こんな ところ へ は いって きて は 困る じゃ ない か 。
こめや|||||||くろい|おおきな||||||おもって||みます|||||||||||||||||こまる|||
さあ 、 出ておいで 。」
|でて おいで
|come
と いって 、 お じいさん は 、 笑い ながら 、 かえる を 棒 の 先 で 、 往来 へ 出して しまいました 。
|||||わらい||||ぼう||さき||おうらい||だして|
お母さん の ひきがえる は 、 かくべつ それ を 悲しい と も 思いません でした 。
お かあさん|||||||かなしい|||おもいません|
||gecko||different|||||||
こんど は 、 隣 の 家 へ は いって ゆきました 。
||となり||いえ||||
隣 の 家 は 、 炭屋 でした 。
となり||いえ||すみ や|
||||charcoal shop|
おかみ さん が 、 冬 の 用意 に 、 たどん を 造って いました が 、 ひきがえる が はいって くる と 、 「 こんな ところ へ は いって くる と 、 真っ黒に なって しまう よ 。
|||ふゆ||ようい||たど ん||つくって|||||||||||||||まっくろに|||
|||||||tadon||||||||||||||||||||
さあ 、 あっち へ お ゆき 。」
と いって 、 そこ に あった ほうき で 、 かえる を 往来 の 方 へ はき出す ま ね を しました 。
|||||||||おうらい||かた||はきだす||||
|||||||||||||swept||||
お母さん の ひきがえる は 、 これ を 悲しい と も 思いません でした 。
お かあさん||||||かなしい|||おもいません|
おとなしく 、 その 家 を 出る と また 、 その つぎ の 隣 の 家 の 方 へ 歩いて ゆきました 。
||いえ||でる||||||となり||いえ||かた||あるいて|
晩がた の 空 は 晴れて いました 。
ばん が た||から||はれて|
evening|||||
かえる は 、 入り口 から は いる と 、 きれいな 水 が あって 、 魚 が たくさん 泳いで いました から 、 大喜びで いきなり 中 へ 飛び込みました 。
||いりぐち||||||すい|||ぎょ|||およいで|||おおよろこびで||なか||とびこみました
|||||||||||||||||||||jumped
「 あっ。」
と いって 、 そこ に いた 子供 たち は 、 みんな 驚きました 。
|||||こども||||おどろきました
その 家 は 、 金魚 屋 だった のです 。
|いえ||きんぎょ|や||
金魚 屋 の お じいさん は 、 すぐに ひきがえる を 網 で すくって 、 外 の 往来 の 上 へ ぽん と ほうり出しました 。
きんぎょ|や||||||||あみ|||がい||おうらい||うえ||||ほうりだしました
||||||||||||||||||||tossed
子供 たち は 、 また 、 どっと 笑いました 。
こども|||||わらいました
お母さん の かえる は 、 自分 の 子供 たち の こと を 思い出して 、 暗い 坂 の 方 へ 帰って ゆきました 。
お かあさん||||じぶん||こども|||||おもいだして|くらい|さか||かた||かえって|
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―― 一九二六・六 ――
いちきゅうにろく|むっ