小川 未明 - 牛 女 ( Eriko Shima ) (1)
おがわ|みめい|うし|おんな||
stream|Miyako|cow|||
Ogawa|Miyume|vaca|||
ある 村 に 、 脊 の 高い 、 大きな 女 が ありました 。
|むら||せき||たかい|おおきな|おんな||
có|||||||||
|village||back|||big|||
あまり 大きい ので 、 くび を 垂れて 歩きました 。
|おおきい||||しだれて|あるきました
|||neck||dropped|
|||||pendendo|
It was so big that I walked around with my head drooping.
その 女 は 、 おし でありました 。
|おんな|||で ありました
|||ancestor|was
|||mãe|
The woman was mute.
性質 は 、 いたって やさしく 、 涙もろくて 、 よく 、 一人 の 子供 を かわいがりました 。
せいしつ||||なみだもろくて||ひとり||こども||
nature||very||sentimental||||||cherished
a criança||muito|gentil|emocional||||||
He was of a very gentle and tearful nature, and he often doted on one child.
女 は 、 いつも 黒い ような 着物 を きて いました 。
おんな|||くろい||きもの|||
|||preto|||||
ただ 子供 と 二人 ぎり で ありました 。
|こども||ふた り|||
just|child|||just||was
|criança|||apenas||
It was just the two of us, just me and my child.
まだ 年 の いか ない 子供 の 手 を 引いて 、 道 を 歩いて いる の を 、 村 の人 は よく 見た のであります 。
|とし||||こども||て||ひいて|どう||あるいて||||むら|の じん|||みた|
still|year||まだ年のいかない||||||pulling||||||||||||
|ano||||||||puxando||||||||||||
The villagers would often see him walking down the road holding the hand of a young child.
そして 、 大 女 で やさしい ところ から 、 だれ が いった もの か 「 牛 女 」 と 名づけた のであります 。
|だい|おんな||||||||||うし|おんな||なづけた|
|big|||||||||||cow||||
|||||caráter||quem||||||||nomeou|
And because she was a large woman and kind, someone must have named her "Cow Woman."
村 の 子供 ら は 、 この 女 が 通る と 、「 牛 女 」 が 通った と いって 、 珍しい もの でも 見る よう に 、 みんな して 、 後ろ に ついていって 、 いろいろの こと を いい はやしました けれど 、 女 は おし で 、 耳 が 聞こえません から 、 黙って 、 いつも の よう に 下 を 向いて 、 の そり の そり と 歩いて ゆく ようす が 、 いかにも かわいそうであった のであります 。
むら||こども||||おんな||とおる||うし|おんな||かよった|||めずらしい|||みる|||||うしろ|||||||||おんな||||みみ||きこえません||だまって|||||した||むいて||||||あるいて||||||
||||||||passes|||||passed|||rare|こと||||||||||||||||||||||||silently|||||||||sledge||||||||||
|||as||||||||||passou|||||mesmo||||||||seguindo|||||disseram||||surda||||||silenciosamente|||||||olhando|||||||vai|||como se||
牛 女 は 、 自分 の 子供 を かわいがる こと は 、 一 通り で ありません でした 。
うし|おんな||じぶん||こども|||||ひと|とおり|||
|||||||adorar||||normalidade|||
自分 が 不 具者 だ と いう こと も 、 子供 が 、 不 具者 の 子だから 、 みんな に ばかに される のだろう と いう こと も 、 父親 が ない から 、 ほか に だれ も 子供 を 育てて くれる もの が ない と いう こと も 、 よく 知っていました 。
じぶん||ふ|ぐ しゃ||||||こども||ふ|ぐ しゃ||こだから||||さ れる||||||ちちおや||||||||こども||そだてて||||||||||しっていました
||não|deficiente||||||||deficiente|deficiente|||||zombar|será|deve|||||||||||ninguém||||criar||||||||||
それ です から 、 いっそう 子供 に 対する 不憫 がました と みえて 、 子供 を かわいがった のであります 。
||||こども||たいする|ふびん||||こども|||
||||||đối với|||||||yêu quý|thì
|is||all the more|||toward|pity|increased|||child|||
|||ainda mais|||em relação a|piedade|parece||||||
子供 は 男の子 で 、 母親 を 慕いました 。
こども||おとこのこ||ははおや||したいました
||cậu bé||mẹ||thương yêu
||||||adored
||||||admira
そして 、 母親 の ゆく ところ へ は 、 どこ へ でも ついて ゆきました 。
|ははおや||||||||||
và|mẹ||đi|nơi|||||||đi
||||place|||||||
|||ir||||||||
牛 女 は 、 大 女 で 、 力 も 、 また ほか の人 たち より は 、 幾 倍 も ありました うえ に 、 性質 が 、 やさしく あった から 、 人々 は 、 牛 女 に 力 仕事 を 頼みました 。
うし|おんな||だい|おんな||ちから||||の じん||||いく|ばい|||||せいしつ|||||ひとびと||うし|おんな||ちから|しごと||たのみました
bò|nữ||||||||||||||||||||||||||||||công việc||
|||||||||other||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||quantos||||||natureza|||||||||||||confiaram
たき ぎ を しょったり 、 石 を 運んだり 、 また 、 荷物 を かつが したり 、 いろいろの こと を 頼みました 。
||||いし||はこんだり||にもつ||かつ が|||||たのみました
thác|gì||||||||||||||
waterfall|branch||carried||||||||||||asked
|||carregar|pedra||transportar||bagagem||carregar|||||
牛 女 は 、 よく 働きました 。
うし|おんな|||はたらきました
||||đã làm việc
そして 、 その 金 で 二人 は 、 その 日 、 その 日 を 暮らして いました 。
||きむ||ふた り|||ひ||ひ||くらして|
|||||||||||vivendo|
こんなに 大きくて 、 力 の 強い 牛 女 も 、 病気 に なりました 。
|おおきくて|ちから||つよい|うし|おんな||びょうき||
tão|grande|||||||doença||
どんな もの でも 、 病気 に かからない もの は ないで ありましょう 。
|||びょうき||かから ない||||
any|||||will not catch||||
|||||pegar||||
しかも 、 牛 女 の 病気 は 、 なかなか 重かった のであります 。
|うし|おんな||びょうき|||おもかった|
||||||||was
além disso||||||bastante||
そして 働く こと も でき なく なりました 。
|はたらく|||||
牛 女 は 、 自分 は 死ぬ のでない か と 思いました 。
うし|おんな||じぶん||しぬ|ので ない|||おもいました
|||||||||thought
もし 、 自分 が 死ぬ ような こと が あった なら 、 子供 を だれ が 見て くれよう と 思いました 。
|じぶん||しぬ||||||こども||||みて|||おもいました
||||||||||||||faria||
そう 思う と 、 たとえ 死んで も 死に きれない 。
|おもう|||しんで||しに|きれ ない
|||mesmo que||||
自分 の 霊魂 は 、 なに か に 化けて きて も 、 きっと 子供 の 行く末 を 見守ろう と 思いました 。
じぶん||れいこん|||||ばけて||||こども||ゆくすえ||みまもろう||おもいました
||alma|||||se transformar|||certamente|||futuro||verificar||
牛 女 の 大きな やさしい 目 の 中 から 、 大粒の 涙 が 、 ぽと り ぽと り と 流れた のであります 。
うし|おんな||おおきな||め||なか||おおつぶの|なみだ|||||||ながれた|
|||||||||grande lágrima|||||||||
しかし 、 運命 に は 牛 女 も 、 しかたがなかった と みえます 。
|うんめい|||うし|おんな||||
but|fate|||cow|||||
|destino||||||||parece
病気 が 重く なって 、 とうとう 牛 女 は 死んで しまいました 。
びょうき||おもく|||うし|おんな||しんで|
||||finalmente|||||
村 の人々 は 、 牛 女 を かわいそうに 思いました 。
むら|の ひとびと||うし|おんな|||おもいました
|as pessoas da vila||||||
どんなに 置いて いった 子供 の こと に 心 を 取ら たろう と 、 だれしも 深く 察して 、 牛 女 を あわれま ぬ もの は なかった のであります 。
|おいて||こども||||こころ||とら||||ふかく|さっして|うし|おんな|||||||
|placed||||||||||||||||||||||
não importa quão|deixar|||||||||||ninguém||entender||||a pena||||não havia|
人々 は 寄り集まって 、 牛 女 の 葬式 を 出して 、 墓地 に うずめて やりました 。
ひとびと||よりあつまって|うし|おんな||そうしき||だして|ぼち|||
|(topic marker)|gathered|||possessive particle|funeral|||cemetery|locative particle||
||se reuniram||||||||||
そして 、 後 に 残った 子供 を 、 みんな が めんどう を 見て 育てて やる こと に なりました 。
|あと||のこった|こども||||||みて|そだてて||||
|||||||(subject marker)|trouble|||||||
子供 は 、 ここの 家 から 、 かしこ の 家 へ と いう ふうに 移り変わって 、 だんだん 月日 と ともに 大きく なって いった のであります 。
こども||ここ の|いえ||||いえ|||||うつりかわって||つきひ|||おおきく|||
||cái nhà này||||||||||||||||||
しかし 、 うれしい こと 、 また 、 悲しい こと が ある に つけて 、 子供 は 死んだ 母親 を 恋しく 思いました 。
||||かなしい||||||こども||しんだ|ははおや||こいしく|おもいました
村 に は 、 春 が き 、 夏 が き 、 秋 と なり 、 冬 と なりました 。
むら|||はる|||なつ|||あき|||ふゆ||
子供 は 、 だんだん 死んだ 母親 を なつかしく 思い 、 恋しく 思う ばかりでありました 。
こども|||しんだ|ははおや|||おもい|こいしく|おもう|
ある 冬 の 日 の こと 、 子供 は 、 村 は ずれ に 立って 、 かなた の 国境 の 山々 を ながめて います と 、 大きな 山 の 半 腹 に 、 母 の 姿 が はっきり と 、 真っ白な 雪 の 上 に 黒く 浮き出 して 見えた のであります 。
|ふゆ||ひ|||こども||むら||||たって|||くにざかい||やまやま|||||おおきな|やま||はん|はら||はは||すがた||||まっしろな|ゆき||うえ||くろく|うきで||みえた|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||stood out|浮き出して||
これ を 見る と 、 子供 は びっくり しました 。
||みる||こども|||
けれど 、 この こと を 口 に 出して だれ に も いいません でした 。
||||くち||だして|||||
子供 は 、 母親 が 恋しく なる と 、 村 は ずれ に 立って 、 かなた の 山 を 見ました 。
こども||ははおや||こいしく|||むら||||たって|||やま||みました
すると 、 天気 の いい 晴れた 日 に は 、 いつでも 母親 の 黒い 姿 を ありあり と 見る こと が できた の です 。
|てんき|||はれた|ひ||||ははおや||くろい|すがた||||みる|||||
ちょうど 母親 は 、 黙って 、 じっと こちら を 見つめて 、 我が 子 の 身の上 を 見守って いる よう に 思われた ので ありました 。
|ははおや||だまって||||みつめて|わが|こ||みのうえ||みまもって||||おもわれた||
子供 は 、 口 に 出して 、 その こと を いいません でした けれど 、 いつか 村人 は 、 ついに これ を 見つけました 。
こども||くち||だして||||||||むらびと|||||みつけました
「 西 の 山 に 、 牛 女 が 現れた 。」
にし||やま||うし|おんな||あらわれた
と 、 いいふらしました 。
そして 、 みんな 外 に 出て 、 西 の 山 を ながめた のであります 。
||がい||でて|にし||やま|||
「 きっと 、 子供 の こと を 思って 、 あの 山 に 現れた のだろう 。」
|こども||||おもって||やま||あらわれた|
と 、 みんな は 口々に いいました 。
|||くちぐちに|
子供 ら は 、 天気 の いい 晩 方 に は 、 西 の 国境 の 山 の 方 を 見て 、
こども|||てんき|||ばん|かた|||にし||くにざかい||やま||かた||みて
||||||||||||border||||||
「 牛 女 !
うし|おんな
牛 女 !
うし|おんな
」 と 、 口々に いって 、 その 話 で もち きった の です 。
|くちぐちに|||はなし|||||
ところが 、 いつしか 春 が きて 、 雪 が 消え かかる と 、 牛 女 の 姿 も だんだん うすく なって いって 、 まったく 雪 が 消えて しまう 春 の 半ば ごろ に なる と 、 牛 女 の 姿 は 見られ なく なって しまった の です 。
||はる|||ゆき||きえ|||うし|おんな||すがた|||||||ゆき||きえて||はる||なかば|||||うし|おんな||すがた||みられ|||||
しかし 、 冬 と なって 、 雪 が 山 に 積もり 里 に 降る ころ に なる と 、 西 の 山 に 、 またしても 、 ありあり と 牛 女 の 黒い 姿 が 現れました 。
|ふゆ|||ゆき||やま||つもり|さと||ふる|||||にし||やま|||||うし|おんな||くろい|すがた||あらわれました
村 の人々 や 子供 ら は 冬 の 間 、 牛 女 の うわさ で もちきりました 。
むら|の ひとびと||こども|||ふゆ||あいだ|うし|おんな||||
そして 、 牛 女 の 残して いった 子供 は 、 恋しい 母親 の 姿 を 、 毎日 の よう に 村 は ずれ に 立って ながめた のであります 。
|うし|おんな||のこして||こども||こいしい|ははおや||すがた||まいにち||||むら||||たって||
「 牛 女 が 、 また 西 の 山 に 現れた 。
うし|おんな|||にし||やま||あらわれた
あんなに 子供 の 身の上 を 心配 して いる 。
|こども||みのうえ||しんぱい||
かわいそうな もの だ 。」
と 、 村人 は いって 、 その 子供 の めんどう を よく 見て やった のす 。
|むらびと||||こども|||||みて||
|||||||care|||||
やがて 春 が きて 、 暖かに なる と 、 牛 女 の 姿 は 、 その 雪 と ともに 消えて しまった のでありました 。
|はる|||あたたかに|||うし|おんな||すがた|||ゆき|||きえて||
eventually|||||||||||||||together|||