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三姉妹探偵団 1, 三姉妹探偵団01 chapter 07 (1)

三 姉妹 探偵 団 01 chapter 07 (1)

7 怪しい 奴

「 課長 ! 野上 幸代 に 呼びかけ られて 、 植松 は ギョッ と 顔 を 上げ 、 その 拍子 に 、 湯 呑 み 茶碗 を ひっくり返した 。

「 な 、 何 だ ね ! びっくり する じゃ ない か 、 急に 大きな 声 で ──」

「 私 が 囁き かけたら 、 もっと びっくり なさる でしょ 」

と 、 野上 幸代 は 平気な もの で 、「 この 伝票 、 書き 直して 下さい 」

「 何 だ ? こんな もの 、 鈴木 君 に 言って くれよ 」

「 今日 は お 休み です 」

と 、 植松 の 目の前 に 、 新しい 伝票 を 一 枚 置いて 、「 そう 手間 じゃ あり ませ ん でしょ 。 名前 と 金額 を 入れる だけ です よ 」

「 分 った よ 」

植松 は 渋々 自分 の 万年筆 を 出す と 、 キャップ を 外した 。

「 まあ 、 高 そうな 万年筆 」

と 、 野上 幸代 が 声 を 上げる と 、 植松 は 多少 気分 が 良く なった ようで 、

「 そう だろう 。 純金 の 特製 品 で 七十万 も した んだ ぞ 」

「 七十万 ! 私 の 月給 の 何 ヵ 月 分 かしら 」

宝 の 持ち 腐れ です ね 、 と 言い たい の を 、 何とか こらえた 。

植松 は 伝票 に 金額 と 名前 を 入れ 、 自分 で 印 を 押した 。 自分 で 書いた 伝票 を 自分 で 承認 する のだ から 妙な もの だ 。

「 どうも お 手数 でした 」

野上 幸代 が 、 さっさと 行って しまう と 、 植松 は 、 万年筆 に 見とれ ながら 、 メモ 用紙 へ 、

「 字 は 人 なり 」

など と 汚 ない 字 で 書いて 悦 に 入って いた 。 割合 に 単純な のであろう 。

「 あ 、 いかん 、 印 を 間違えた 」

植松 は 、 今 伝票 に 押した ハンコ を 見て 、 呟いた 。 「 全く 、 面倒だ な 。 ── おい 、 野上 君 ! 植松 は 席 を 立って 、 通路 を 抜け 、 野上 幸代 の 席 へ 行った 。 だが 席 は 空 である 。

「 野上 君 は ? 「 さっき 急に 出て 来る と 言って ……。 たぶん お茶 でも 飲み に 行った んじゃ ない です か 」

と 隣 の 席 の 女性 が 言った 。

植松 は ちょっと 戸惑い 顔 で 立って いた が 、 急に 顔 を こわばら せる と 、 急いで エレベーター ホール へ と 歩いて 行った 。

「── や あ 、 待た せて ごめん ね 」

と 、 野上 幸代 が 元気 良く 店 へ 入って 来る 。

「 どうも すみません 、 面倒な こと お 願い して 」

と 夕 里子 が 言った 。

「 いい の よ 。 ねえ 、 ちょっと 、 コーヒー ! 旨 くい れて よ 。 この 前 の 、 苦くて 飲め なかった から ね 」

「 は いはい 」

店 の マスター らしい 男 も 笑い ながら 返事 を する 。 こういう 幸代 の 言葉 に は 、 慣れて いる のだろう 。 それ に 、 言い 方 は 乱暴で も 、 カラッと して 、 トゲ が ない のだ 。

「 はい 、 伝票 一 枚 、 ご 注文 の 通り 、 書か せて 来た よ 」

と 幸代 が 、 植松 に 書か せた 伝票 を 、 テーブル に 置いた 。

「 すみません 。 怪しま れ ませ ん でした ? 「 ありゃ 単 細胞 だ から ね 、 大丈夫 よ 」

「 この ペン は ……」

「 自分 の 万年筆 。 たぶん 、 いつも 使って る やつ だ から 、 例の 偽造 伝票 も 、 もし 植松 が 作った の なら 、 その 万年筆 を 使って る と 思う よ 。 キザ な 外国 製品 だ から 、 きっと インク も 特別だ よ 」

「 ありがとう ございました 。 早速 調べて もらい ます わ 」

と 、 夕 里子 は 頭 を 下げる 。

「 礼 なんか いい の よ 。 私 も 佐々 本 さん は 好きだった し さ 、 あの 人 が 身 に 覚え の ない こと で 追わ れて る なんて 思う と たま んな いもん ね 。 私 で 手伝える こと が あったら 、 どんどん 言って ちょうだい 」

夕 里子 は 、 野上 幸代 の 言葉 が ありがたかった 。 こんな 心強い 味方 は い ない 。

「 それにしても 、 佐々 本 さん は 何 して ん の か ねえ 」

と 、 幸代 は 、 ちょっと 表情 を 曇らせて 、

「 それ が 心配な の よ 」

「 ええ 、 私 も そう な んです 」

「 あんた たち が 心配 して る の は 、 百 も 承知 だろう から ねえ 。 それでいて 連絡 して 来 ない 、 って いう の は ……」

「 父 は 死んで る の かも しれ ませ ん 」

「 まさか ! 「 もちろん 、 そんな こと 信じ たく あり ませ ん けど 、 覚悟 は して い ない と ……。 姉 も 妹 も 、 父 に 頼り切って い ました から 、 私 が しっかり し ない と だめな んです 」

「 あんた は 偉い よ 」

幸代 は 目 を 潤ま せて いた 。 「 きっと いい 奥さん に なる だろう ね 」

夕 里子 は 少々 照れて 赤く なった 。

「 じゃ 、 私 、 これ で ──」

「 ああ 、 気 を 付けて ね 。 いい よ 、 コーヒー 代 は 。 これ ぐらい もた せ と くれ 」

「 じゃ 、 ごちそう に なり ます 」

夕 里子 は 素直に 受ける こと に した 。 何しろ 、 余分な 金 を 使う と 、 珠美 が うるさい のだ 。

「 そう だ わ 」

店 を 出て 、 夕 里子 は 腕 時計 を 見た 。 ── 珠美 の 病院 に も 回ら なくて は なら ない 。 でも 、 先 に 国友 と 連絡 が つけば 、 そっち へ 回る ぐらい の 時間 は ある だろう 。

「 電話 、 電話 、 と ……」

表 は 車 の 通行 も 多くて うるさい 。 地下 へ 入ろう 。

地下鉄 連絡 口 、 と いう 階段 を 降りて 行く 。 ── 連絡 口 と いって も 、 地下鉄 の 駅 と の もの は 、 ちょっと 先 の 方 に あって 、 ビル を つなぐ 連絡 通路 が 左右 へ 走って いる のだ 。

「 あそこ に あった ……」

地下 道 に も 、 ちゃんと 休憩 所 らしき 場所 が ある 。 小ぎれいな ベンチ が 並んで 、 その 奥 に 電話 ボックス が 三 つ 、 洒落た デザイン で 設置 して あった 。

こういう 地下 道 が 、 いつしか 浮 浪 者 の ねぐら に なって しまう の は どこ も 同じで 、 ここ も 、 ベンチ は 四 、 五 人 の 浮 浪 者 が 丸く なったり 、 寝そべったり して 、 占領 さ れて いた 。

昼 休み と も なれば 、 地下 道 の 並び に は 安い 食堂 、 ラーメン 屋 など が ある ので 、 サラリーマン や OL で 賑わう のだろう が 、 まだ 午前 中 の この 時間 で は 、 ほとんど 人通り も ない 。

浮 浪 者 も 安眠 できる わけである 。

汚れ 切った 服 に 、 髪 を 埃 だらけ に して 、 酒 の カップ を 手 に した 浮 浪 者 が 、 夕 里子 の 方 を 、 赤く 充血 した 目 で チラッ と 眺めた 。 生気 の ない 目 で 、 それでいて 、 粘っこく まとわり つく ような 視線 である 。

夕 里子 は ちょっと 気味 が 悪く なって 、 足早に 電話 ボックス へ と 飛び込んだ 。

「 ええ と …… 国友 さん は ……」

持ち歩いて いる 国友 の メモ を 出し 、 電話 を かける 。

「── 国友 さん 、 いらっしゃい ませ ん か ? 「 ええ と …… いる と 思う んだ けど 、 急用 です か ? 同僚 らしい 男性 の 声 。

「 ええ 、 急ぐ んです 」

「 じゃ 、 捜して 来よう 。 このまま 待って ます か ? 表 から ? 「 はい 、 そう です 」

「 十 円 玉 は 大丈夫 ? 「 大丈夫です 。 待た せて いただき ます から 」

「 じゃ 、 捜して みる から ね 」

と 、 受話器 を 机 の 上 に でも 置いた の か 、 ゴトン 、 と 音 が した 。

夕 里子 は のんびり と 傍 に もたれて 、 待った 。 ともかく 国友 に この 伝票 を 渡し さえ すれば いい わけだ 。 それ で 、 もし 植松 の 筆 蹟 が 、 あの 偽 の 伝票 の 字 と 同じ と 分 れば 、 警察 だって 、 放っておく まい 。

夕 里子 が 、 植松 の こと を 怪しい と 思った の は 、 別に 植松 が 金 を 出そう と した から で は ない 。 部下 から 殺人 容疑 者 が 出れば 、 上司 と して は あれこれ 迷惑 を 蒙る の は 当然の こと で 、 あの 態度 そのもの は 不自然 と は いえ ない 。

しかし 、 父 が 出張 と いって 出て 行った からに は 、 恐らく 出張 に 違いなかった のだ 、 と 夕 里子 は 信じて いた 。 もし 父 に 愛人 が いた と して も 、 何 日間 も 家 を 留守 に して その 女 の 所 へ 行ったり 、 女 と 旅行 したり など と いう こと は 考え られ ない 。

いや 、 それ ほど の 仲 なら 、 夕 里子 に 話して いる はずな のである 。 綾子 は デリケートだ し 、 珠美 は まだ 子供 だ から 黙って いる と して も 、 夕 里子 に は 、 父 は 信頼 を 置いて 、 何でも 打ちあけて いた 。

女性 と の 仲 が 、 ある ところ まで 進んだ と したら 、 父 が 夕 里子 へ 言わ ない はず が ない のだ 。

父 が 出張 だ と 言った の は 、 事実 に 違いない 、 と 夕 里子 は 結論づけた 。 と なる と 、 必然 的に それ を 言いつけた の は 植松 と いう こと に なる 。 そして 、 植松 は 父 が 休暇 を 取って いた 、 と 言った 。 ── 父 の 同僚 の 西川 が 言った ように 、 父 は 急に 休暇 を 取る に して も 、 仕事 に 差し支える ような こと は 決して し ない 人間 である 。

つまり 、 植松 が 噓 を ついた の に 違いない 、 と 夕 里子 は 思った のだ 。 あの 休暇 届 が 偽物 だ と 分 った ので 、 夕 里子 の 疑念 は 一層 強く なった 。 おそらく 、 夕 里子 が 訪ねて 行って 、 あんな こと を 訊 いた ので 、 急に 不安に なって 、 休暇 届 を 作った ので は ない か 。 しかし 、 不器用な ので 、 専門 家 が 見れば 、 すぐに 見破ら れる 程度 の もの しか 、 作れ なかった のだ 。

夕 里子 は 、 ため息 を ついた 。 ── 国友 さん 、 どこ へ 行って る んだろう 。

もう 、 たっぷり 五 分 は 待って いる 。 十 円 玉 は 沢山 持ち歩いて いる から 大丈夫だ けれども ……。

人 の 影 が さして 、 夕 里子 は 振り向いた 。 同時に ボックス の 扉 が 開いて 、 ベンチ に 寝て いた 浮 浪 者 たち が 、 中 へ 入り込んで 来た 。

「 何 する の ! あっ ち に 行って ! 三 人 の 浮 浪 者 が 笑い声 を 立て ながら 、 狭い ボックス の 中 へ 体 を 押し込んで 来る 。

「 やめて ! 一 人 が 電話 を 切った 。 十 円 玉 が 戻って 、 チリン 、 と 音 を 立てる 。

「 お 金 なら あげる 。 大事な 電話 を して る の よ 」

夕 里子 は 、 異様な 臭い に 顔 を 歪めた 。 アルコール の 臭気 が ボックス の 中 に 立ちこめる 。

「 金 を 出し な 」

と 、 一 人 が 舌 の もつれた ような 声 を 出した 。 夕 里子 は バッグ を 震える 手 で 開けよう と した 。

「 ちょっと …… 外 へ 出て よ 。 動け ない じゃ ない の 」

男 の 一 人 の 手 が バッグ を ひったくった 。

「 やめて ! お 金 だけ じゃ ない の よ ! 叫び声 を 出そう と した とき 、 夕 里子 は 下 腹 を いやというほど 殴ら れた 。 苦痛 に 目 を 閉じ 、 上体 を 前かがみ に する と 、 一 人 の 手 が 夕 里子 の 口 へ 押し当て られた 。 夕 里子 は 胸元 へ のびて 来た 手 を 、 必死に 体 を よじって 逃れよう と した 。

誰 が 誰 な の か 分 ら ない 。 いく つ も の 手 が 夕 里子 の 胸 や スカート の 中 へ 入り込んで 来る 。 暴れよう と して も 、 男 たち の 重み で 角 へ 押しつけ られて 、 身動き が 取れ ない のだ 。

このまま じゃ だめだ ! 夕 里子 は 、 口 を ふさいで いる 手 が 少し ゆるんだ 、 と 見る と 、 思い 切り口 を 開け 、 その 手 に かみついた 。

「 ワーッ ! と 、 男 が 悲鳴 を 上げる 。

手 が 離れる と 、 夕 里子 は 、

「 助けて ! 誰 か 助けて ! と 大声 を 上げた 。

「 こら っ ! 貴 様 ら ──」

巡回 中 だった らしい ガードマン が 走って 来る の が 見えた 。

三 人 の 浮 浪 者 たち は 、 アッという間 に 、 すばしこく 逃げて 行く 。 夕 里子 は 、 急に 体 の 力 が 抜けて 、 そのまま ボックス の 床 へ 崩れる ように 倒れて しまった 。

巧 く 行く とき は 、 何もかも 巧 く 行く もの な のだ 。

今日 、 綾子 は つくづく そう 感じて いた 。

昨日 の こと を 思えば 、 正に 「 今 泣いた カラス が もう 笑った 」 と いう 感じ である 。

もちろん 、 夕 里子 の いる 片瀬 家 で 奥さん が 殺さ れる と いう 怖い 事件 は あった が 、 綾子 に とって は ── 申し訳ない と は 思い つつ も ── 今日 、 会社 で 叱ら れ ず に 済む か どう か の 方 が 、 大 問題 な のだった 。

そして 今日 は 、 出だし から 好調だった 。

「 佐々木 君 」

と 、 昨日 、 小包 の こと で 文句 を 言った 課長 が 、 席 に ついた とたん に やって 来た ので 、 綾子 は 一瞬 ゾッと した のだ が 、

「 昨日 は 悪かった ねえ 」

と 言い出した ので 、 呆 気 に 取ら れた 。

「 いいえ 」

「 いや 、 調べて みたら 、 あの 紐 の ゆるい 包み は 、 君 の やった 分 じゃ なかった よ 。 まあ 、 勘弁 して くれ 。 チョコレート は 好き かね ? 「 は あ ……」

その 課長 は 、 チョコレート を 一 箱 、 ポケット から 出す と 、 綾子 の 前 に 置いて 、

「 まあ 、 しっかり や ん なさい 」

と 、 行って しまった 。

しばし 、 綾子 は 呆然と して いた 。 しかし 、 それ は 幸福な 呆然 であった 。 幸福 と いう の は 、 割合 に 身近な ところ に ある んだ わ 、 と 綾子 は 哲学 的な こと を 考えた 。

この 朝 の 出来事 に 加えて 、 この 日 の 仕事 は 得意な (? ) コピー だった 。


三 姉妹 探偵 団 01 chapter 07 (1) みっ|しまい|たんてい|だん|

7  怪しい 奴 あやしい|やつ 7 Suspicious

「 課長 ! かちょう " Manager ! 野上 幸代 に 呼びかけ られて 、 植松 は ギョッ と 顔 を 上げ 、 その 拍子 に 、 湯 呑 み 茶碗 を ひっくり返した 。 のかみ|さちよ||よびかけ||うえまつ||||かお||あげ||ひょうし||ゆ|どん||ちゃわん||ひっくりかえした Yukie Nogami asked Uematsu to raise his face, and at that time, he turned the teacup into a bowl.

「 な 、 何 だ ね ! |なん|| "What the hell! びっくり する じゃ ない か 、 急に 大きな 声 で ──」 |||||きゅうに|おおきな|こえ| You might be surprised, suddenly in a loud voice 」"

「 私 が 囁き かけたら 、 もっと びっくり なさる でしょ 」 わたくし||ささやき||||| "I will be more amazed if I start calling you."

と 、 野上 幸代 は 平気な もの で 、「 この 伝票 、 書き 直して 下さい 」 |のかみ|さちよ||へいきな||||でんぴょう|かき|なおして|ください And, Yukie Nogami is unfriendly, "Please rewrite this slip"

「 何 だ ? なん| こんな もの 、 鈴木 君 に 言って くれよ 」 ||すずき|きみ||いって| Tell me something like this, Suzuki.

「 今日 は お 休み です 」 きょう|||やすみ|

と 、 植松 の 目の前 に 、 新しい 伝票 を 一 枚 置いて 、「 そう 手間 じゃ あり ませ ん でしょ 。 |うえまつ||めのまえ||あたらしい|でんぴょう||ひと|まい|おいて||てま||||| And, in front of Uematsu, put a new slip, "So it's not a hassle. 名前 と 金額 を 入れる だけ です よ 」 なまえ||きんがく||いれる||| All you have to do is enter your name and amount. "

「 分 った よ 」 ぶん||

植松 は 渋々 自分 の 万年筆 を 出す と 、 キャップ を 外した 。 うえまつ||しぶしぶ|じぶん||まんねんひつ||だす||きゃっぷ||はずした

「 まあ 、 高 そうな 万年筆 」 |たか|そう な|まんねんひつ "Well, it looks like a fountain pen"

と 、 野上 幸代 が 声 を 上げる と 、 植松 は 多少 気分 が 良く なった ようで 、 |のかみ|さちよ||こえ||あげる||うえまつ||たしょう|きぶん||よく|| When Yukie Nogami raised her voice, Uematsu seemed to feel a little better.

「 そう だろう 。 純金 の 特製 品 で 七十万 も した んだ ぞ 」 じゅんきん||とくせい|しな||しちじゅうまん|||| It's made over 70,000 with a special product of pure gold. "

「 七十万 ! しちじゅうまん 私 の 月給 の 何 ヵ 月 分 かしら 」 わたくし||げっきゅう||なん||つき|ぶん| How many months of my monthly salary?

宝 の 持ち 腐れ です ね 、 と 言い たい の を 、 何とか こらえた 。 たから||もち|くされ||||いい||||なんとか| I managed to say that I would like to say that it is a treasure's possession.

植松 は 伝票 に 金額 と 名前 を 入れ 、 自分 で 印 を 押した 。 うえまつ||でんぴょう||きんがく||なまえ||いれ|じぶん||いん||おした Uematsu put the amount and the name in the slip and pressed the mark by himself. 自分 で 書いた 伝票 を 自分 で 承認 する のだ から 妙な もの だ 。 じぶん||かいた|でんぴょう||じぶん||しょうにん||||みょうな|| It is strange because you approve the slips you wrote yourself.

「 どうも お 手数 でした 」 ||てすう| "I was very sorry to bother you"

野上 幸代 が 、 さっさと 行って しまう と 、 植松 は 、 万年筆 に 見とれ ながら 、 メモ 用紙 へ 、 のかみ|さちよ|||おこなって|||うえまつ||まんねんひつ||みとれ||めも|ようし| When Yukie Nogami immediately went to Uematsu, while looking into a fountain pen, to the memo paper,

「 字 は 人 なり 」 あざ||じん| "The character is a person"

など と 汚 ない 字 で 書いて 悦 に 入って いた 。 ||きたな||あざ||かいて|えつ||はいって| I was writing in a sloppy letter, and I was in the coffin. 割合 に 単純な のであろう 。 わりあい||たんじゅんな| It will be relatively simple.

「 あ 、 いかん 、 印 を 間違えた 」 ||いん||まちがえた "Ah, I made a mistake in the mark."

植松 は 、 今 伝票 に 押した ハンコ を 見て 、 呟いた 。 うえまつ||いま|でんぴょう||おした|||みて|つぶやいた Uematsu looked at Hanko who pressed it to the slip, and it peeped. 「 全く 、 面倒だ な 。 まったく|めんどうだ| ── おい 、 野上 君 ! |のかみ|きみ 植松 は 席 を 立って 、 通路 を 抜け 、 野上 幸代 の 席 へ 行った 。 うえまつ||せき||たって|つうろ||ぬけ|のかみ|さちよ||せき||おこなった Uematsu stood up, went through the aisle, and went to Nojo Yukiyo's seat. だが 席 は 空 である 。 |せき||から| But the seat is empty.

「 野上 君 は ? のかみ|きみ| 「 さっき 急に 出て 来る と 言って ……。 |きゅうに|でて|くる||いって "Just say it will come out ...... たぶん お茶 でも 飲み に 行った んじゃ ない です か 」 |おちゃ||のみ||おこなった|||| Maybe you went for a cup of tea.

と 隣 の 席 の 女性 が 言った 。 |となり||せき||じょせい||いった Said the woman in the next seat.

植松 は ちょっと 戸惑い 顔 で 立って いた が 、 急に 顔 を こわばら せる と 、 急いで エレベーター ホール へ と 歩いて 行った 。 うえまつ|||とまどい|かお||たって|||きゅうに|かお|||||いそいで|えれべーたー|ほーる|||あるいて|おこなった Uematsu was standing with a slightly confused face, but when he suddenly broke his face, he quickly walked to the elevator hall.

「── や あ 、 待た せて ごめん ね 」 ||また||| "Hey, sorry for making me wait"

と 、 野上 幸代 が 元気 良く 店 へ 入って 来る 。 |のかみ|さちよ||げんき|よく|てん||はいって|くる And, Yukie Nogami comes into the store cheerfully.

「 どうも すみません 、 面倒な こと お 願い して 」 ||めんどうな|||ねがい| "Thank you very much for your troubles"

と 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 いい の よ 。 ねえ 、 ちょっと 、 コーヒー ! ||こーひー 旨 くい れて よ 。 むね||| Please eat it. この 前 の 、 苦くて 飲め なかった から ね 」 |ぜん||にがくて|のめ||| Because I was bitter and couldn't drink it last time.

「 は いはい 」

店 の マスター らしい 男 も 笑い ながら 返事 を する 。 てん||ますたー||おとこ||わらい||へんじ|| A man who seems to be the master of the store also replies while laughing. こういう 幸代 の 言葉 に は 、 慣れて いる のだろう 。 |さちよ||ことば|||なれて|| You may be used to such Koyo words. それ に 、 言い 方 は 乱暴で も 、 カラッと して 、 トゲ が ない のだ 。 ||いい|かた||らんぼうで||からっと||とげ||| Moreover, even if it says wildly, it is sloppy and there is no thorn.

「 はい 、 伝票 一 枚 、 ご 注文 の 通り 、 書か せて 来た よ 」 |でんぴょう|ひと|まい||ちゅうもん||とおり|かか||きた| "Yes, I am allowed to write one slip according to your order"

と 幸代 が 、 植松 に 書か せた 伝票 を 、 テーブル に 置いた 。 |さちよ||うえまつ||かか||でんぴょう||てーぶる||おいた And Yukiyo put the slip written on Uematsu on the table.

「 すみません 。 怪しま れ ませ ん でした ? あやしま|||| Did not you wonder? 「 ありゃ 単 細胞 だ から ね 、 大丈夫 よ 」 |ひとえ|さいぼう||||だいじょうぶ| "If it is a single cell, it 's okay."

「 この ペン は ……」 |ぺん|

「 自分 の 万年筆 。 じぶん||まんねんひつ "My own fountain pen. たぶん 、 いつも 使って る やつ だ から 、 例の 偽造 伝票 も 、 もし 植松 が 作った の なら 、 その 万年筆 を 使って る と 思う よ 。 ||つかって|||||れいの|ぎぞう|でんぴょう|||うえまつ||つくった||||まんねんひつ||つかって|||おもう| Maybe I'm always using it, so I think I would use that fountain pen, if Uematsu made it, even for the counterfeit slips of the example. キザ な 外国 製品 だ から 、 きっと インク も 特別だ よ 」 ||がいこく|せいひん||||いんく||とくべつだ| The ink is also special because it is a dull foreign product.

「 ありがとう ございました 。 早速 調べて もらい ます わ 」 さっそく|しらべて||| I will ask you to investigate immediately

と 、 夕 里子 は 頭 を 下げる 。 |ゆう|さとご||あたま||さげる And Yuuriko lowered her head.

「 礼 なんか いい の よ 。 れい|||| "Thank you very much. 私 も 佐々 本 さん は 好きだった し さ 、 あの 人 が 身 に 覚え の ない こと で 追わ れて る なんて 思う と たま んな いもん ね 。 わたくし||ささ|ほん|||すきだった||||じん||み||おぼえ|||||おわ||||おもう||||| I also liked Sasamoto-san, and I think it would be surprising if I thought that he would be chased by something I don't remember. 私 で 手伝える こと が あったら 、 どんどん 言って ちょうだい 」 わたくし||てつだえる|||||いって| Please tell me more and more if you have something to help me.

夕 里子 は 、 野上 幸代 の 言葉 が ありがたかった 。 ゆう|さとご||のかみ|さちよ||ことば|| こんな 心強い 味方 は い ない 。 |こころづよい|みかた||| There is no such strong friend.

「 それにしても 、 佐々 本 さん は 何 して ん の か ねえ 」 |ささ|ほん|||なん||||| "Even so, what does Sasamoto do?

と 、 幸代 は 、 ちょっと 表情 を 曇らせて 、 |さちよ|||ひょうじょう||くもらせて

「 それ が 心配な の よ 」 ||しんぱいな|| "I'm worried about that."

「 ええ 、 私 も そう な んです 」 |わたくし|||| "Yes, I am too."

「 あんた たち が 心配 して る の は 、 百 も 承知 だろう から ねえ 。 |||しんぱい|||||ひゃく||しょうち||| "You know that one hundred are what you are anxious about. それでいて 連絡 して 来 ない 、 って いう の は ……」 |れんらく||らい||||| Even so, I can't contact you ...

「 父 は 死んで る の かも しれ ませ ん 」 ちち||しんで|||||| "My father may be dead."

「 まさか ! 「 もちろん 、 そんな こと 信じ たく あり ませ ん けど 、 覚悟 は して い ない と ……。 |||しんじ||||||かくご||||| "Of course I do not want to believe such a thing, but I have to be prepared for ... .... 姉 も 妹 も 、 父 に 頼り切って い ました から 、 私 が しっかり し ない と だめな んです 」 あね||いもうと||ちち||たよりきって||||わたくし||||||| Neither my older sister nor my sister trusted my father, so I have to be firm. "

「 あんた は 偉い よ 」 ||えらい|

幸代 は 目 を 潤ま せて いた 。 さちよ||め||うるま|| Yukiyo was moistening her eyes. 「 きっと いい 奥さん に なる だろう ね 」 ||おくさん|||| "I will surely be a good wife"

夕 里子 は 少々 照れて 赤く なった 。 ゆう|さとご||しょうしょう|てれて|あかく| Yuriko got a little bit red and turned red.

「 じゃ 、 私 、 これ で ──」 |わたくし||

「 ああ 、 気 を 付けて ね 。 |き||つけて| "Oh, take care. いい よ 、 コーヒー 代 は 。 ||こーひー|だい| It's good, coffee cost is. これ ぐらい もた せ と くれ 」 Let me have this time. "

「 じゃ 、 ごちそう に なり ます 」 "Well, I'm going to have a feast"

夕 里子 は 素直に 受ける こと に した 。 ゆう|さとご||すなおに|うける||| Yuriko decided to accept it straightly. 何しろ 、 余分な 金 を 使う と 、 珠美 が うるさい のだ 。 なにしろ|よぶんな|きむ||つかう||たまみ||| After all, with extra money, Tamami is loud.

「 そう だ わ 」

店 を 出て 、 夕 里子 は 腕 時計 を 見た 。 てん||でて|ゆう|さとご||うで|とけい||みた After leaving the store, Yuuriko saw an arm watch. ── 珠美 の 病院 に も 回ら なくて は なら ない 。 たまみ||びょういん|||まわら|||| ── I have to go to a hospital in Tamami. でも 、 先 に 国友 と 連絡 が つけば 、 そっち へ 回る ぐらい の 時間 は ある だろう 。 |さき||くにとも||れんらく|||||まわる|||じかん||| But if you get in touch with your friend first, you will have enough time to get there.

「 電話 、 電話 、 と ……」 でんわ|でんわ|

表 は 車 の 通行 も 多くて うるさい 。 ひょう||くるま||つうこう||おおくて| The table is noisy with lots of car traffic. 地下 へ 入ろう 。 ちか||はいろう Let's get into the basement.

地下鉄 連絡 口 、 と いう 階段 を 降りて 行く 。 ちかてつ|れんらく|くち|||かいだん||おりて|いく Get off at the subway entrance, which is called the stairs. ── 連絡 口 と いって も 、 地下鉄 の 駅 と の もの は 、 ちょっと 先 の 方 に あって 、 ビル を つなぐ 連絡 通路 が 左右 へ 走って いる のだ 。 れんらく|くち||||ちかてつ||えき||||||さき||かた|||びる|||れんらく|つうろ||さゆう||はしって|| 連絡 Even if it is a contact mouth, the one with the subway station is a little ahead, and the communication passage connecting the buildings is running to the left and right.

「 あそこ に あった ……」 "I was there ..."

地下 道 に も 、 ちゃんと 休憩 所 らしき 場所 が ある 。 ちか|どう||||きゅうけい|しょ||ばしょ|| There is a well rest area in the underground route. 小ぎれいな ベンチ が 並んで 、 その 奥 に 電話 ボックス が 三 つ 、 洒落た デザイン で 設置 して あった 。 こぎれいな|べんち||ならんで||おく||でんわ|ぼっくす||みっ||しゃれた|でざいん||せっち|| The small benches lined up, and three telephone boxes were installed in the back of it with a fancy design.

こういう 地下 道 が 、 いつしか 浮 浪 者 の ねぐら に なって しまう の は どこ も 同じで 、 ここ も 、 ベンチ は 四 、 五 人 の 浮 浪 者 が 丸く なったり 、 寝そべったり して 、 占領 さ れて いた 。 |ちか|どう|||うか|ろう|もの||||||||||おなじで|||べんち||よっ|いつ|じん||うか|ろう|もの||まるく||ねそべったり||せんりょう||| It is no different that such underpasses will eventually become the roost of the vagrants, and here too, the bench was occupied by four or five vagrants becoming round and lying down. .

昼 休み と も なれば 、 地下 道 の 並び に は 安い 食堂 、 ラーメン 屋 など が ある ので 、 サラリーマン や OL で 賑わう のだろう が 、 まだ 午前 中 の この 時間 で は 、 ほとんど 人通り も ない 。 ひる|やすみ||||ちか|どう||ならび|||やすい|しょくどう|らーめん|や|||||さらりーまん||ol||にぎわう||||ごぜん|なか|||じかん||||ひとどおり|| As it is a lunch break, there are cheap cafeterias and ramen shops in the line of underpasses, so it will be crowded with office workers and OLs, but at this time in the morning, there is hardly any crowded street.

浮 浪 者 も 安眠 できる わけである 。 うか|ろう|もの||あんみん|| It is also possible for sleepless people to sleep.

汚れ 切った 服 に 、 髪 を 埃 だらけ に して 、 酒 の カップ を 手 に した 浮 浪 者 が 、 夕 里子 の 方 を 、 赤く 充血 した 目 で チラッ と 眺めた 。 けがれ|きった|ふく||かみ||ほこり||||さけ||かっぷ||て|||うか|ろう|もの||ゆう|さとご||かた||あかく|じゅうけつ||め||||ながめた A dangling clothes, her hair covered with dust, and a bottle of liquor in her hands, looked at Yuuriko with a red, engorged eye, with a glance. 生気 の ない 目 で 、 それでいて 、 粘っこく まとわり つく ような 視線 である 。 せいき|||め|||ねばっこく||||しせん| It is a lifeless eye that is still sticky and clinging to it.

夕 里子 は ちょっと 気味 が 悪く なって 、 足早に 電話 ボックス へ と 飛び込んだ 。 ゆう|さとご|||きみ||わるく||あしばやに|でんわ|ぼっくす|||とびこんだ Yuuriko got a little weird and jumped into the phone box quickly.

「 ええ と …… 国友 さん は ……」 ||くにとも||

持ち歩いて いる 国友 の メモ を 出し 、 電話 を かける 。 もちあるいて||くにとも||めも||だし|でんわ|| Make a note of the friend you carry around and make a phone call.

「── 国友 さん 、 いらっしゃい ませ ん か ? くにとも||||| 「 ええ と …… いる と 思う んだ けど 、 急用 です か ? ||||おもう|||きゅうよう|| "Well ... I think you're there, but are you in a hurry? 同僚 らしい 男性 の 声 。 どうりょう||だんせい||こえ A male voice like a colleague.

「 ええ 、 急ぐ んです 」 |いそぐ| "Yes, I'm rushing."

「 じゃ 、 捜して 来よう 。 |さがして|こよう このまま 待って ます か ? |まって|| Are you waiting as it is? 表 から ? ひょう| From the table? 「 はい 、 そう です 」

「 十 円 玉 は 大丈夫 ? じゅう|えん|たま||だいじょうぶ "Are you okay with ten yen balls? 「 大丈夫です 。 だいじょうぶです 待た せて いただき ます から 」 また|||| I will wait for you. "

「 じゃ 、 捜して みる から ね 」 |さがして||| "Well, I'm looking for it"

と 、 受話器 を 机 の 上 に でも 置いた の か 、 ゴトン 、 と 音 が した 。 |じゅわき||つくえ||うえ|||おいた|||||おと|| And, I heard that I put the handset on my desk, and I heard a gothon.

夕 里子 は のんびり と 傍 に もたれて 、 待った 。 ゆう|さとご||||そば||もた れて|まった Yuuriko leaned on her side and waited. ともかく 国友 に この 伝票 を 渡し さえ すれば いい わけだ 。 |くにとも|||でんぴょう||わたし|||| Anyway, all you have to do is pass this voucher to your friends. それ で 、 もし 植松 の 筆 蹟 が 、 あの 偽 の 伝票 の 字 と 同じ と 分 れば 、 警察 だって 、 放っておく まい 。 |||うえまつ||ふで|あと|||ぎ||でんぴょう||あざ||おなじ||ぶん||けいさつ||ほうっておく| So, if Uematsu's brush stroke is the same as that fake slip letter, the police will not leave it alone.

夕 里子 が 、 植松 の こと を 怪しい と 思った の は 、 別に 植松 が 金 を 出そう と した から で は ない 。 ゆう|さとご||うえまつ||||あやしい||おもった|||べつに|うえまつ||きむ||だそう|||||| Yuriko thought that Uematsu was suspicious was not because Uematsu tried to put out the money aside. 部下 から 殺人 容疑 者 が 出れば 、 上司 と して は あれこれ 迷惑 を 蒙る の は 当然の こと で 、 あの 態度 そのもの は 不自然 と は いえ ない 。 ぶか||さつじん|ようぎ|もの||でれば|じょうし|||||めいわく||かぶる|||とうぜんの||||たいど|その もの||ふしぜん|||| If a murder suspect comes out of a subordinate, it is natural for him to be bothered as a boss, and that attitude itself is not unnatural.

しかし 、 父 が 出張 と いって 出て 行った からに は 、 恐らく 出張 に 違いなかった のだ 、 と 夕 里子 は 信じて いた 。 |ちち||しゅっちょう|||でて|おこなった|||おそらく|しゅっちょう||ちがいなかった|||ゆう|さとご||しんじて| However, Yuuriko believed that because my father went out on a business trip, he probably had to go on a business trip. もし 父 に 愛人 が いた と して も 、 何 日間 も 家 を 留守 に して その 女 の 所 へ 行ったり 、 女 と 旅行 したり など と いう こと は 考え られ ない 。 |ちち||あいじん||||||なん|にち かん||いえ||るす||||おんな||しょ||おこなったり|おんな||りょこう|||||||かんがえ|| Even if my father had a lover, I could not think of going home to the woman for many days, traveling to the woman, or traveling with the woman.

いや 、 それ ほど の 仲 なら 、 夕 里子 に 話して いる はずな のである 。 ||||なか||ゆう|さとご||はなして||| No, I should be talking to Yuuriko if I have a close relationship. 綾子 は デリケートだ し 、 珠美 は まだ 子供 だ から 黙って いる と して も 、 夕 里子 に は 、 父 は 信頼 を 置いて 、 何でも 打ちあけて いた 。 あやこ||でりけーとだ||たまみ|||こども|||だまって|||||ゆう|さとご|||ちち||しんらい||おいて|なんでも|うちあけて| Yuko was delicate and Shumi was still a child, so even if she kept silent, her father put her trust in Yuriko, and she overthrew everything.

女性 と の 仲 が 、 ある ところ まで 進んだ と したら 、 父 が 夕 里子 へ 言わ ない はず が ない のだ 。 じょせい|||なか|||||すすんだ|||ちち||ゆう|さとご||いわ||||| If my relationship with a woman goes to a certain place, my father can not say to Yuuriko.

父 が 出張 だ と 言った の は 、 事実 に 違いない 、 と 夕 里子 は 結論づけた 。 ちち||しゅっちょう|||いった|||じじつ||ちがいない||ゆう|さとご||けつろんづけた Yuko Riko concluded that it must be a fact that my father said he was on a business trip. と なる と 、 必然 的に それ を 言いつけた の は 植松 と いう こと に なる 。 |||ひつぜん|てきに|||いいつけた|||うえまつ||||| In that case, it is Uematsu to necessarily say it. そして 、 植松 は 父 が 休暇 を 取って いた 、 と 言った 。 |うえまつ||ちち||きゅうか||とって|||いった Then Uematsu said that my father was on vacation. ── 父 の 同僚 の 西川 が 言った ように 、 父 は 急に 休暇 を 取る に して も 、 仕事 に 差し支える ような こと は 決して し ない 人間 である 。 ちち||どうりょう||にしかわ||いった||ちち||きゅうに|きゅうか||とる||||しごと||さしつかえる||||けっして|||にんげん| -As my father 's colleague Nishikawa said, a father is a human being who will not take any part in his work even if he suddenly takes a vacation.

つまり 、 植松 が 噓 を ついた の に 違いない 、 と 夕 里子 は 思った のだ 。 |うえまつ|||||||ちがいない||ゆう|さとご||おもった| In other words, Yuuriko thought that Uematsu must be holding a coffin. あの 休暇 届 が 偽物 だ と 分 った ので 、 夕 里子 の 疑念 は 一層 強く なった 。 |きゅうか|とどけ||にせもの|||ぶん|||ゆう|さとご||ぎねん||いっそう|つよく| Yuuriko's suspicions became even stronger, as she found out that the vacation notice was a fake. おそらく 、 夕 里子 が 訪ねて 行って 、 あんな こと を 訊 いた ので 、 急に 不安に なって 、 休暇 届 を 作った ので は ない か 。 |ゆう|さとご||たずねて|おこなって||||じん|||きゅうに|ふあんに||きゅうか|とどけ||つくった|||| Perhaps Yuriko visited and asked about such things, so I suddenly became anxious and made vacation notices. しかし 、 不器用な ので 、 専門 家 が 見れば 、 すぐに 見破ら れる 程度 の もの しか 、 作れ なかった のだ 。 |ぶきような||せんもん|いえ||みれば||みやぶら||ていど||||つくれ|| However, because it is clumsy, the experts could only make something that could be seen immediately.

夕 里子 は 、 ため息 を ついた 。 ゆう|さとご||ためいき|| Yuuriko sighed. ── 国友 さん 、 どこ へ 行って る んだろう 。 くにとも||||おこなって|| 友 Mr. Gutomo, where are you going?

もう 、 たっぷり 五 分 は 待って いる 。 ||いつ|ぶん||まって| I already have five minutes waiting. 十 円 玉 は 沢山 持ち歩いて いる から 大丈夫だ けれども ……。 じゅう|えん|たま||たくさん|もちあるいて|||だいじょうぶだ| It is fine because I carry around a lot of 10 yen balls ... but ....

人 の 影 が さして 、 夕 里子 は 振り向いた 。 じん||かげ|||ゆう|さとご||ふりむいた The shadow of the people came, Yuuriko turned around. 同時に ボックス の 扉 が 開いて 、 ベンチ に 寝て いた 浮 浪 者 たち が 、 中 へ 入り込んで 来た 。 どうじに|ぼっくす||とびら||あいて|べんち||ねて||うか|ろう|もの|||なか||はいりこんで|きた At the same time, the door of the box opened, and the vagrants who slept on the bench came inside.

「 何 する の ! なん|| あっ ち に 行って ! |||おこなって Go to that place! 三 人 の 浮 浪 者 が 笑い声 を 立て ながら 、 狭い ボックス の 中 へ 体 を 押し込んで 来る 。 みっ|じん||うか|ろう|もの||わらいごえ||たて||せまい|ぼっくす||なか||からだ||おしこんで|くる Three vagrants squeeze their bodies into a narrow box while laughing.

「 やめて ! 一 人 が 電話 を 切った 。 ひと|じん||でんわ||きった One person hung up the phone. 十 円 玉 が 戻って 、 チリン 、 と 音 を 立てる 。 じゅう|えん|たま||もどって|||おと||たてる A ten-yen coin returns and makes a noise.

「 お 金 なら あげる 。 |きむ|| "I will give you some money. 大事な 電話 を して る の よ 」 だいじな|でんわ||||| I'm making an important phone call. "

夕 里子 は 、 異様な 臭い に 顔 を 歪めた 。 ゆう|さとご||いような|くさい||かお||ゆがめた Yuuriko distorted her face with an odd smell. アルコール の 臭気 が ボックス の 中 に 立ちこめる 。 あるこーる||しゅうき||ぼっくす||なか||たちこめる The odor of alcohol rises in the box.

「 金 を 出し な 」 きむ||だし| "Don't pay money"

と 、 一 人 が 舌 の もつれた ような 声 を 出した 。 |ひと|じん||した||||こえ||だした And one man uttered a tongue-like voice. 夕 里子 は バッグ を 震える 手 で 開けよう と した 。 ゆう|さとご||ばっぐ||ふるえる|て||あけよう|| Yuriko tried to open the bag with a shaking hand.

「 ちょっと …… 外 へ 出て よ 。 |がい||でて| "A little ... go outside. 動け ない じゃ ない の 」 うごけ|||| I can not move it. "

男 の 一 人 の 手 が バッグ を ひったくった 。 おとこ||ひと|じん||て||ばっぐ|| A man's hand grabbed the bag.

「 やめて ! お 金 だけ じゃ ない の よ ! |きむ||||| It 's not only money! 叫び声 を 出そう と した とき 、 夕 里子 は 下 腹 を いやというほど 殴ら れた 。 さけびごえ||だそう||||ゆう|さとご||した|はら|||なぐら| When she tried to scream, Yuriko was beaten to her lower belly. 苦痛 に 目 を 閉じ 、 上体 を 前かがみ に する と 、 一 人 の 手 が 夕 里子 の 口 へ 押し当て られた 。 くつう||め||とじ|じょうたい||まえかがみ||||ひと|じん||て||ゆう|さとご||くち||おしあて| With her eyes closed in pain and her upper body forward, one hand was pressed into Yuriko's mouth. 夕 里子 は 胸元 へ のびて 来た 手 を 、 必死に 体 を よじって 逃れよう と した 。 ゆう|さとご||むなもと|||きた|て||ひっしに|からだ|||のがれよう|| Yuriko tried to escape with the hands that came to her chest, desperately by twisting her body.

誰 が 誰 な の か 分 ら ない 。 だれ||だれ||||ぶん|| I do not know who is who. いく つ も の 手 が 夕 里子 の 胸 や スカート の 中 へ 入り込んで 来る 。 ||||て||ゆう|さとご||むね||すかーと||なか||はいりこんで|くる Many hands come into Yuuriko's chest and skirt. 暴れよう と して も 、 男 たち の 重み で 角 へ 押しつけ られて 、 身動き が 取れ ない のだ 。 あばれよう||||おとこ|||おもみ||かど||おしつけ||みうごき||とれ|| Even if you try to go wild, you can not move because you are pushed to the corner by the weight of the men.

このまま じゃ だめだ ! Don't leave it this way! 夕 里子 は 、 口 を ふさいで いる 手 が 少し ゆるんだ 、 と 見る と 、 思い 切り口 を 開け 、 その 手 に かみついた 。 ゆう|さとご||くち||||て||すこし|||みる||おもい|きりくち||あけ||て|| When Yuuriko saw that the hand covering her mouth was loosened a little, she opened her heart and bitten in her hand.

「 ワーッ ! と 、 男 が 悲鳴 を 上げる 。 |おとこ||ひめい||あげる And the man screams.

手 が 離れる と 、 夕 里子 は 、 て||はなれる||ゆう|さとご| When the hand is released, Yuuriko is

「 助けて ! たすけて 誰 か 助けて ! だれ||たすけて と 大声 を 上げた 。 |おおごえ||あげた And raised a loud voice.

「 こら っ ! 貴 様 ら ──」 とうと|さま| You guys 」"

巡回 中 だった らしい ガードマン が 走って 来る の が 見えた 。 じゅんかい|なか|||がーどまん||はしって|くる|||みえた I saw a guard man running that seemed to be on the road.

三 人 の 浮 浪 者 たち は 、 アッという間 に 、 すばしこく 逃げて 行く 。 みっ|じん||うか|ろう|もの|||あっというま|||にげて|いく The three vagrants flee fast in a while. 夕 里子 は 、 急に 体 の 力 が 抜けて 、 そのまま ボックス の 床 へ 崩れる ように 倒れて しまった 。 ゆう|さとご||きゅうに|からだ||ちから||ぬけて||ぼっくす||とこ||くずれる||たおれて| Yuriko suddenly lost her strength and fell as if to fall on the floor of the box.

巧 く 行く とき は 、 何もかも 巧 く 行く もの な のだ 。 こう||いく|||なにもかも|こう||いく||| When you go well, everything is going well.

今日 、 綾子 は つくづく そう 感じて いた 。 きょう|あやこ||||かんじて| Today, I felt that Reiko was coming.

昨日 の こと を 思えば 、 正に 「 今 泣いた カラス が もう 笑った 」 と いう 感じ である 。 きのう||||おもえば|まさに|いま|ないた|からす|||わらった|||かんじ| If you think about yesterday, it is a feeling that "the crow who just cried has already laughed".

もちろん 、 夕 里子 の いる 片瀬 家 で 奥さん が 殺さ れる と いう 怖い 事件 は あった が 、 綾子 に とって は ── 申し訳ない と は 思い つつ も ── 今日 、 会社 で 叱ら れ ず に 済む か どう か の 方 が 、 大 問題 な のだった 。 |ゆう|さとご|||かたせ|いえ||おくさん||ころさ||||こわい|じけん||||あやこ||||もうしわけない|||おもい|||きょう|かいしゃ||しから||||すむ|||||かた||だい|もんだい|| Of course there was a scary case that the wife would be killed at Katase 's house where Yuuriko is, but for Keiko-despite thinking that I'm sorry-I wonder if I will not be beaten at work today. The person was a big problem.

そして 今日 は 、 出だし から 好調だった 。 |きょう||でだし||こうちょうだった And today it was strong from the beginning.

「 佐々木 君 」 ささき|きみ "Sasaki you"

と 、 昨日 、 小包 の こと で 文句 を 言った 課長 が 、 席 に ついた とたん に やって 来た ので 、 綾子 は 一瞬 ゾッと した のだ が 、 |きのう|こづつみ||||もんく||いった|かちょう||せき||||||きた||あやこ||いっしゅん|ぞっと||| And yesterday, as the manager who complained about the parcel came to my seat as soon as I got into the seat, Reiko had a momentary chill,

「 昨日 は 悪かった ねえ 」 きのう||わるかった| "It was bad yesterday."

と 言い出した ので 、 呆 気 に 取ら れた 。 |いいだした||ぼけ|き||とら|

「 いいえ 」

「 いや 、 調べて みたら 、 あの 紐 の ゆるい 包み は 、 君 の やった 分 じゃ なかった よ 。 |しらべて|||ひも|||つつみ||きみ|||ぶん||| "No, after examining it, the loose packet of that string was not what you did. まあ 、 勘弁 して くれ 。 |かんべん|| Well, please forgive me. チョコレート は 好き かね ? ちょこれーと||すき| 「 は あ ……」

その 課長 は 、 チョコレート を 一 箱 、 ポケット から 出す と 、 綾子 の 前 に 置いて 、 |かちょう||ちょこれーと||ひと|はこ|ぽけっと||だす||あやこ||ぜん||おいて The manager put a box of chocolate out of his pocket and put it in front of the dumplings,

「 まあ 、 しっかり や ん なさい 」 "Well, do it well"

と 、 行って しまった 。 |おこなって| And, I went.

しばし 、 綾子 は 呆然と して いた 。 |あやこ||ぼうぜんと|| For a while, Reiko was stunned. しかし 、 それ は 幸福な 呆然 であった 。 |||こうふくな|ぼうぜん| However, it was happy and stunned. 幸福 と いう の は 、 割合 に 身近な ところ に ある んだ わ 、 と 綾子 は 哲学 的な こと を 考えた 。 こうふく|||||わりあい||みぢかな|||||||あやこ||てつがく|てきな|||かんがえた Happiness is relatively close to me, Reiko considered philosophical things.

この 朝 の 出来事 に 加えて 、 この 日 の 仕事 は 得意な (? |あさ||できごと||くわえて||ひ||しごと||とくいな In addition to the events of this morning, are you good at work on this day (? ) コピー だった 。 こぴー| ) It was a copy.