三 姉妹 探偵 団 01 chapter 11 (2)
まだ 何 時 に 出 られる か 、 はっきり し ない んだ 」
「 大丈夫です か 」
「 適当な 名前 を 言って くれれば いい 。
十二 時 頃 に かけて くれ 」
「 分 り ました 」
「 僕 から かける と 、 声 で 分 って しまう だろう し 、 君 の 妹 が 聞いて いる かも しれ ない から な 」
「 ええ 。
必ず 電話 し ます 」
「 じゃ 、 先 に 行き なさい 。
少し 間 を 置いて 帰る 」
「 ええ 。
じゃ …… 明日 」
「 ああ 」
綾子 は 木 の 陰 から 出る と 、 道 の 左右 を 見回して 、 それ から 歩き 出した 。
「 お 姉さん 」
少し 行った 所 で 、 声 を かけ られて 、 綾子 は ギクリと した 。
「 夕 里子 ──」
「 どこ へ 行って た の ?
心配 して た の よ 」
「 ごめん 。
ちょっと …… 駅 の 方 に ね 」
「 この 道 、 寂しい んだ から 、 気 を 付け なくちゃ 」
「 そう ね 」
二 人 は 道 を 戻り 始めた 。
綾子 は 、
「 あの 喪章 の こと 、 何 か 分 った ?
と 訊 いた 。
「 お 葬式 に 来て いた 人 たち に 訊 いて みた わ 。
でも 、 誰 が 喪章 して た か なんて 、 みんな よく 憶 えて ない の 。 まして なくした 人 なんて 、 とても とても 。 ── ただ 、 途中 から い なく なった 人 は 、 何 人 か いた ようだ けど 」
「 怪しい わ ね 」
ちょっと 間 を 置いて 、 夕 里子 が 言った 。
「 安東 先生 も 入って る の よ 」
綾子 は 思わず 夕 里子 の 顔 を 見た 。
「 何で すって ?
どういう 意味 ? 「 特別な 意味 じゃ ない わ よ 。
ただ 、 安東 先生 は 、 お 葬式 の 途中 で い なく なった って こと だけ 」
「 それ に したって ……。
失礼じゃ ない の 、 そんな こと 言う の 」
「 何も 言って ない じゃ ない の 。
どうして そう 怒る の ? 「 当り前でしょう 。
先生 は 、 私 と 珠美 を ずっと 置いて 下さった の よ ! 本当に 立派な 方 じゃ ない の 。 それ を まるで 犯人 みたいに 言って ……」
「 犯人 だ なんて 言って ない わ よ 。
でも 、 犯人 の 条件 に は 当てはまる わ 。 パパ の こと を 知って る し 、 と いって 、 急な 出張 の こと まで は 知ら なかった だろう し 、 火事 の とき 、 最初に 駆けつけて 来た の は 先生 だった し 、 それ に あの ご 夫婦 、 巧 く 行って ない みたい 。 そう でしょ ? それ に 加えて 、 神田 初江 が 殺さ れた とき 、 お 葬式 から 抜け出て いた 。 喪章 も つけて いたって 近所 の 人 が 言って た わ 」
「 夕 里子 !
綾子 は 声 を 震わせて いた 。
「 いくら 何でも 、 ひどい わ よ 。 もう やめ ない と 怒る わ よ 、 私 」
「 そんなに むき に なら なく たって いい じゃ ない の 。
単純な 理屈 を 言った だけ よ 」
「 そんな の 無 茶 よ !
あんた なんか に 何 が 分 る の よ ! いい加減に し なさい よ ! 綾子 は 自分 を 抑え 切れ なく なって いた 。
思い切り 叫ぶ と 、 そのまま 駆け出して 行って しまう 。
夕 里子 は 、 軽く 息 を ついた 。
「 かなり いか れちゃ って る ……」
と 呟く 。
今 まで 、 おそらく 安東 に 会って いた ので は ない か と 思った ので 、 わざと かま を かけて みた のだ 。
あの 怒り ぶり は 、 かなり 我 を 忘れて いる 。
夕 里子 は 肩 を すくめて 歩き 出した 。
今 、 綾子 に 話し ながら 、 夕 里子 自身 、 安東 が 、 犯人 の イメージ に うまく 重なって 来る こと に 驚いて いた のである 。
そうだ 。
さらに 付け加える と すれば 、 神田 初江 が 見かけた 、 水口 淳子 と 一緒に いた 、「 がっしり した 男 」 と いう 点 も 、 ぴったりである 。
夕 里子 は ぞくぞく して 来た 。
寒い ので は ない 。 長く 捜し 続けて いた もの が 、 現実 に 姿 を 現し つつ ある とき の 、 一種 の もどかし さ と 、 奇妙な 落胆 と の 混合 した 感覚 であった 。
まさか 安東 先生 が 。
── 夕 里子 とて 、 そう 思う 。 しかし 、 殺人 と いう の は 、 ほとんど が 、
「 まさか 、 あの 人 が 」
と いう 人物 が 犯す もの である 。
たぶん 、 日頃 から 、 粗暴で 、 嫌わ れ 、 恐れ られて いる ような 人間 は 、 酔った 勢い や 一 時 の 腹立ち で 人 を 殺して しまう こと は ある かも しれ ない が 、 憎しみ を 長い 間 蓄え 続け 、 殺意 に 育て上げて 、 綿密に 計画 して 人 を 殺す と いう こと は ない だろう 。
粗暴な 人間 は 、 方々 で 、 不満 や 怒り を ぶつけて 解消 して いる から だ 。
それ の でき ない 人間 が 、 日々 、 ストレス を まるで 池 の 底 の 土 の ように 、 徐々に 、 わずか ずつ で は ある が 、 確実に 蓄えて 行く のである 。
それ から 考えれば 、 教職 に ある 安東 など は 、 やはり 外 へ 発散 する こと の でき ない 人間 であろう 。
特に 妻 の 岐子 と の 間 も 、 決して うまく 行って は い ない ようだ し 、 その 点 も 考えれば 、 日常 の 不満 を 、 仕事 に 紛 わす こと の でき ない 人間 に は 、 実に 辛い 毎日 に 違いない 。
「 まるで これ じゃ 犯人 扱い ね 」
と 、 夕 里子 は 呟いた 。
もちろん 、 犯人 像 に 当てはまる 人間 は 、 他 に 大勢 いる に 違いない のだ 。
── 安東 は その 一 人 、 と いう に 過ぎ ない 。
だが 、 綾子 が 本気で 安東 を 恋して いる らしい 様子 に は 、 夕 里子 も 困った 。
これ ばっかり は 、 夕 里子 とて 経験 不足 であり 、 どうして いい もの やら 見当 が つか ない 。
「 悩み の 種 は 尽き ない な ……」
と 、 夕 里子 は 首 を 振り ながら 呟いた 。
片瀬 家 に 戻る と 、 珠美 が 出て 来て 、
「 綾子 姉ちゃん 、 どうした の ?
ワンワン 泣き ながら 、 布団 へ 入っちゃ った よ 」
「 いい の よ 。
どう しよう も ない の 」
夕 里子 は 、 急に 疲労 を 感じた 。
「 お 風呂 入ったら ?
「 う うん 。
すぐ 寝る わ 」
夕 里子 は 、 三 人 の 寝室 に なって いる 二 階 へ と 、 上って 行った 。
居間 の ソファ に 置いて あった 小包 は 、 葬儀 に 疲れた 片瀬 が 、 手 に 取って 、 ちょっと 眺めて から 、 テーブル の 上 へ 投げた 。
少し 勢い が 強 すぎて 、 テーブル の 端 から 落 っこ った 小包 は 、 マガジン ラック の 中 へ 、 ストン と 姿 を 消して しまった 。