三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 15
15 燃える 山荘
「 生きて 出 られた !
地下 道 から 外 へ 出て 、 珠美 は 叫んだ 。
「 危なかった わ 」
夕 里子 が 、 ギュッと 珠美 を 抱きしめる 。
「 夕 里子 姉ちゃん 、 サンキュー !
さすが に 、 珠美 も 、 生きる 喜び は 、 お 金 に かえ がたい もの だ と いう こと に 気付いた らしい 。
「 いくら 払えば いい ?
── そう で も ない らしい 。
「 夕 里子 」
と 、 綾子 が 少々 不満 げ に 、「 私 も 助かった の よ 。
どうして 珠美 と ばっかり 喜び 合って る の ? 「 姉妹 ゲンカ して る 場合 じゃ ないだ ろ 」
と 、 国 友 が 笑った 。
「 礼 は 、 片 瀬 に 言って くれ 」
と 、 水谷 が 、 敦子 の 肩 を 抱いて 、 言った 。
「 敦子 が 、 あの 地下 道 の こと を 思い出して くれた おかげ よ 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 二 人 と も 、 よく お 礼 を 言って 」
「 いい の よ 」
と 、 敦子 も 、 嬉し そうである 。
「 だって 、 私 だけ 助かって 、 珠美 ちゃん が あんな 目 に あった んだ もの 。 その 埋め合せよ 」
「── さて 、 それ で どう する ?
と 、 国 友 が 言った 。
今 、 夕 里子 たち ── 三 姉妹 と 、 敦子 、 みどり 、 それ に 国 友 と 水谷 の 七 人 は 、 裏庭 に 立って いた 。
「 まぶしい わ 。
サングラス 持って 来りゃ 良かった 」
と 、 綾子 が 目 を 細く する 。
「 呑気 な こ と 言って 。
死んで た の よ 、 あと 少し で 」
「 分 って る けど ……。
でも 、 あの 二 人 、 どこ へ 行った の かしら ? 「 きっと 、 あの 地下 道 から 、 山荘 へ 出る 道 が ある の よ 」
と 夕 里子 は 言った 。
「 そう ね 、 きっと 」
と 、 敦子 は 肯 いて 、「 私 が 地下 道 を 戻ろう と して 、 別の 方 へ 出ちゃ った の は 、 きっと 、 隠れた わき道 へ 入り 込んだ から だ わ 」
「 ともかく 、 あの 二 人 は 山荘 へ 戻って る と 思って い い な 」
水谷 は 、 さっき の 意気消沈 ぶり が 噓 の ようで 、「 この 手 で 退治 して やる 」
と 、 ポキポキ 指 を 鳴らした 。
あんまり 詩人 らしく ない 光景 だ わ 、 と 綾子 は 思った 。
「 これ だけ いりゃ 、 絶対 に 負け ない 」
と 、 国 友 が 力強く 言った 。
「── 石垣 さん は ? 「 姿 が 見え ない の 」
と 、 夕 里子 が 言った 。
「 さっき は 一緒に 地下 道 へ 入った のに 」
「 山荘 へ 行った んじゃ ない か な 」
と 、 国 友 が 言った 。
「 じゃ 、 我々 も 行こう 」
「 待って 」
と 、 綾子 が 言った 。
「 どうかした の ?
と 、 夕 里子 が 訊 く 。
「 あの 二 人 は 病気 よ 。
罪 を 憎んで 人 を 憎ま ず だ わ 」
「 お 姉ちゃん たら 、 殺さ れ かけた んだ よ 」
と 、 珠美 が 呆れて 言った 。
「 いや 、 綾子 君 の 言う 通り だ よ 」
国 友 が 笑って 、「 刑事 の 僕 が 、 もう 少し 冷静に なら なきゃ いけなかった 。
── いい かい 」
と 、 真顔 に なる 。
「 ここ は 、 危険だ と いう こと を 忘れて は いけない 。
── いくら 相手 が 女 と 子供 でも 、 現実 に 何 人 も 殺して いる んだ 」
「 それ は そう だ な 」
「 だ から 、 僕 と 水谷 先生 で 中 へ 入ろう 。
君 ら は 外 で 待って いた まえ 」
「 でも ──」
と 、 珠美 は 不満 そうである 。
「 それ は 却って 危 いわ 」
と 、 夕 里子 が 言った 。
「 どうして ?
「 ここ は 、 外 の 方 が 安全 と は 限ら ない もの 。
まだ 、 どこ か に 秘密の 出入 口 が ある かも しれ ない わ 」
「 そりゃ まあ …… そう だ けど 」
「 だ から 、 水谷 先生 に は 、 ここ へ 残って もらい ましょう よ 。
護衛 役 と して 」
「 じゃ 、 僕 が 一 人 で 行く の かい ?
いや 、 怖い わけじゃ ない 。 僕 は もちろん 一 人 でも 構わ ない けど ね 」
「 一 人 じゃ ない わ 。
二 人 よ 」
「 しかし ……。
おい 、 夕 里子 君 」
と 、 国 友 は ため息 を ついた 。
「 僕 が 何の ため に 君 を 助けた と 思って る んだ ? 「 そりゃ 、 捜査 の 手伝い を さ せる ため でしょ ?
国 友 は 、 ジロッ と 夕 里子 を にらんだ 。
「── だって 、 他 に 誰 か いる ?
「 そりゃ まあ そう だ けど ……」
国 友 も 、 渋々 肯 いた 。
「 じゃ 、 水谷 先生 、 ここ を お 願い し ます よ 」
「 分 り ました 」
「 先生 、 女の子 に 囲ま れて 、 いい です ね 」
と 、 珠美 が 冷やかす 。
「 こんな とき に 、 よく そんな 言葉 が 出る な 」
と 、 水谷 が 半ば 呆れ顔 で 言った 。
かくて ── と いう ほど の こと で も ない が 、 夕 里子 と 国 友 は 、 山荘 へ 向 って 歩いて 行った 。
「 ちょっと 待って 」
夕 里子 は 走って 行く と 、 積み 上げた まき を 一 本 取って 来た 。
「── 武器 が ない と ね 」
「 よし 。
── じゃ 、 中 へ 入ろう 」
国 友 は 、 裏口 の ドア を 開けた 。
── 中 は 静かである 。
「 何だか …… 無気味 」
と 、 上り 込み ながら 、 夕 里子 は 言った 。
「 うん 。
あ ── そこ に 死体 が ある から 気 を 付けて 」
「 キャッ !
夕 里子 は 、 金田 の 死体 に 気付いて 、 飛び上り そうに なった 。
「 そういう こと は 、 もっと 早く 言って よ ! 「 すま ん 。
忘れて た んだ 」
「 大切な こと を 忘れ ないで 」
二 人 は 、 サロン を 覗いた 。
「── ここ に は 誰 も ……」
と 、 国 友 が 言い かける と 、
「 見て !
夕 里子 が 叫んだ 。
「 ソファ の 後ろ ! 誰 か の 足 が 見えて いる 。
夕 里子 は 急いで 駆け寄った 。 「 石垣 さん だ わ ! ── 石垣 さん ! しっかり して ! 石垣 は 、 ぐったり と 生気 なく 横たわって いた 。
しかし 、 国 友 が 急いで 手首 を 取る と 、 確実に 脈打って いる 。
「 大丈夫 。
生きて る 」
「 薬 でも の まさ れた の かしら 。
けが は して い ない ようだ けど 」
「 おそらく ね 。
── 今 は ともかく 、 ここ へ 置いて 行く しか ない 。 早く あの 二 人 を 見付けよう 」
トン 、 トン ……。
何 か 物音 が 頭上 で 聞こえた 。 夕 里子 と 国 友 は ハッと して 顔 を 見合わせた 。
「 二 階 に いる ぞ !
「 行き ましょう 」
国 友 が 先 に 立って 、 階段 を 上って 行く 。
二 階 は 、 静まり 返って いた 。
ただ 、 閉じた ドア が 並んで いる だけ だ 。
「── どこ から 出て 来る か 分 ら ない ぞ 」
国 友 が 緊張 した 声 で 言った 。
「 うん 」
夕 里子 が 肯 く 。
「 二手 に 分 れる ? 「 いや 、 危険だ 。
一緒に 行動 しよう 」
「 そう ね 」
夕 里子 が 、 ちょっと 微笑んで 見せ 、 国 友 の 手 を 握る 。
── 国 友 は 首 を 振って 、
「 大した 女の子 だ よ 、 君 は 」
と 言った 。
「 さあ 、 端 から 順に 当って 行こう 」
一 番 奥 の ドア から ──。
しかし 、 鍵 が かけ られて 、 びくとも し ない 。
どの ドア も そう な のだ 。
「── おい 、 出て 来い !
国 友 が 廊下 の 中央 に 立って 、 怒鳴った 。
「 どこ か に 隠れて る の は 、 分 って る んだ ぞ !
夕 里子 は 、 危険 を 感じ 始めて いた 。
女 の 直感 と でも いう か ── 超 能力 ほど で は なく と も 、 どことなく 、 危険 を 告げる 声 が 聞こえる こと が ある もの だ 。
「── ドア を ぶち 破る ぞ !
と 、 国 友 が 怒鳴る 。
「 こっち は 大勢 な んだ ! 観念 しろ ! 「 国 友 さん ──」
夕 里子 が 国 友 の 腕 を 押えた 。
声 が 緊張 して いる 。
「 どうした ?
「 匂い ── この 匂い 」
「 匂い だって ?
「 油 くさく ない ?
国 友 の 顔色 が 変った 。
「 ガソリン だ !
走れ ! 一 階 へ ! 国 友 は 、 夕 里子 を かかえる ように して 、 階段 の 方 へ 駆け 出した 。
が ── 手遅れだった 。
二 人 が 階段 の 上 に 来た とき 、 炎 が 音 を たてて 階段 を 這い上って 来た のだ 。
「 畜生 !
飛び 下り れ ない か ? 「 だめ よ !
下 は もう ──」
階段 の 下 は 、 火 の 海 だった 。
ガソリン を まいて 火 を つけた のだ 。 黒い 煙 が 二 人 の 方 へ 吹き 上って 来る 。
「 伏せて !
息 を 止める んだ ! 「 無 茶 言わ ないで よ !
罠 だった のだ 。
二 階 へ やって おいて 、 下 から 火 を 放つ 。 ── こんな 簡単な こと に 気付か なかった と は ……。 国 友 は 歯ぎしり した 。
「 下 へ は この 階段 だけ ?
「 そう よ 。
── どこ か の 部屋 の 窓 から 外 へ ──」
と 言い かけて 、 夕 里子 は ハッと した 。
そう か !
それ で どの ドア に も 鍵 が かかって いる のだ 。 部屋 の 中 に 入れば 、 窓 を 破って 逃げ られる から ──。
「 ドア を ぶち 破って やる !
国 友 が 、 起き上る と 、 駆け 出した 。
一方 、 外 で 待って いた 水谷 たち も 、 異変 に は 、 もちろん 気付いて いた 。
「 煙 だ !
と 、 最初に 叫んだ の は 珠美 だった 。
「 火 を つけた んだ !
と 、 水谷 が 青ざめる 。
「 夕 里子 たち が ?
と 、 訊 いた の は 、 もちろん 何も 分 って い ない 綾子 だった 。
「 助け に 行か なきゃ !
「 君 ら は ここ に いろ !
水谷 は 駆け 出した 。
雪 を けって 、 裏口 へ と 駆けつける と 、 ドア を 開けて 、
「 ワッ !
と 飛び す さった 。
火 を 放った 人間 は 、 ちゃんと 考え 抜いて いる ようだった 。
目の前 は 、 炎 の 壁 で 、 とても 通り抜け られ ない 。
どこ か ── 入る 所 は ある はずだ !
水谷 は 窓 の 方 へ と 走った 。
しかし 、 その 瞬間 に 、 窓 ガラス を 突き破って 、 炎 が 吹き 上げて 来る 。
水谷 は 、 建物 の わき を 回って 正面 の 玄関 へ と 駆けつけた 。
ドア が 焼け落ちて いる !
木造 の 山荘 である 。 ── 予想 以上 の 速 さ で 、 火 は 山荘 を 包み 始めて いた 。
「 国 友 さん !
佐々 本 ──」
と 、 水谷 が 大声 を 出した 。
「── ワッ ! 二 階 の 、 正面 へ 張り出した ベランダ が 、 いきなり 崩れ落ちて 来る 。
水谷 は 雪 の 中 へ 夢中で 転がり 出た 。 一 秒 足らず の 差 で 、 下敷き に なる ところ だった 。
「 畜生 !
水谷 は 、 再び 裏庭 へ 駆け 戻った 。
「 先生 !
珠美 が さすが に 青く なって いる 。
「 お 姉ちゃん たち は ? 「 とても 入れ ない !
おい !
雪 を かけて 火 を 消す んだ 」
あまり 効果 が ある と も 思え なかった が 、 みんな 一斉に 雪 を すくって は 、 炎 の 吹き出す 窓 から 投げ 込み 始めた 。
そして 奇跡 的に ── 火 は 、 やはり おさまら なかった のである ……。
思い切り ドア に 体当り した 国 友 は 、
「 いて っ !
と 呻いて 、 廊下 に 引っくり返った 。
「 とても だめだ わ 」
と 、 夕 里子 が 、 抱き 起す 。
「 ドア が 頑丈な の よ ! 「 拳銃 さえ あれば ──」
国 友 は 、 咳込んだ 。
煙 が 廊下 に 充満 し 始めて いる 。
「 他 に 何 か 方法 を ──」
と 、 夕 里子 も 咳込み ながら 涙 を 流して いる 。
悲しい ので は なく 、 煙 の せい である 。
「 君 だけ でも 何とか して 助け たい 」
「 馬鹿 言わ ないで 。
二 人 と も 助かる の よ ! 絶対 に ! 夕 里子 は 怒鳴った 。
「 男 の 人 って 、 すぐ そう やって 格好 つける から 嫌い よ ! こんな 所 でも 、 国 友 は 夕 里子 に 怒ら れて いる のだった 。
しかし 、 火の手 は 、 もう 階段 を 駆け上り 、 二 階 に も 広がり つつ あった 。
二 人 は 廊下 の 奥 へ と 追い 詰め られて いる 。
夕 里子 は 、 ふと 、 天井 を 見上げた 。
「 屋根 へ 出 られ ない かしら ?
「 屋根 に ?
「 そう 。
修理 や 雪 おろし の ため に 、 上 に 出る こと が ある んじゃ ない ? どこ かに 上 に 出る 口 が ──」
「 あれ かも しれ ない 」
天井 の 隅 の 、 四角い 切り 込み が 目 に 入る 。
「 私 を 肩車 して !
夕 里子 は 、 国 友 に 言った 。
「 やって みる しか ない わ ! 「 よし !
国 友 は 、 その 真 下 へ 行く と 、 夕 里子 を 肩車 して 立ち上った 。
「 落とさ ないで よ 。
── 開く わ 」
「 そのまま 上って みろ 」
「 うん 。
── よい しょ ! その 上げ 蓋 を 押し上げる と 、 夕 里子 は 両手 で 体 を 支えて 、 這い上った 。
「 屋根 裏 部屋 ── 物置 きみ たいよ !
かがんで やっと 頭 を ぶつけ なくて 済む くらい 天井 は 低い 。
しかし 、 明るかった 。 ── 天窓 が ある !
「 国 友 さん !
天窓 よ 。 出 られる わ ! と 、 夕 里子 は 怒鳴った 。
「 よし 、 待って ろ !
国 友 は 、 飛び上って 、 四角い 穴 の ヘリ に ぶら下がる と 、 必死で 上って 来た 。
夕 里子 も 体重 を かけて 引 張り上げる 。
「── やった !
国 友 は 、 やっと 這い上って 、 息 を ついた 。
「 天窓 を 破り ましょう 。
外 へ 出 られる わ 」
「 よし 」
国 友 は 、 その辺 に 積んで あった 木箱 を かかえ 上げる と 、 天窓 の ガラス に 叩きつけた 。
ガラス が 粉々に 砕けて 落ちる と 、 その 上 に 積って いた 雪 も 、 どっと 落ちて 来る 。
「── 屋根 の 上 に 出 られ そうだ な 」
「 そう ね 。
いざ と なったら 、 飛び 下りる しか ない わ 」
国 友 が 、 ガラス の 破片 を 叩き 落として 、 夕 里子 を 天窓 から 押し出す 。
夕 里子 は 、 冷たい 大気 の 中 へ 顔 を 出して 、 思わず 息 を ついた 。
もう 山荘 は 、 焼け落ち かけて いた 。
水谷 たち は 、 手 の 施し よう も なく 、 呆然と それ を 眺めて いる ばかり ……。
「── 夕 里子 姉ちゃん 」
珠美 は 、 気 が 抜けた ように 、「 こんな こと って ……」
「 俺 が 行けば 良かった んだ 」
と 、 水谷 が 呟く 。
「 諦めちゃ いけない わ 」
と 、 相 変ら ず な の は 、 綾子 である 。
「 二 人 と も 悪い こと なんか して ない んだ もの 。 神様 が 見捨て やしない わ 」
「 気持 は 分 る けど ──」
と 、 珠美 が 言い かけた とき 、
「 ほら !
屋根 の 上 ! と 、 川西 みどり が 叫んだ 。
「── 本当だ !
お 姉ちゃん ! 珠美 が 飛び上る 。
屋根 の 雪 の 上 に 、 夕 里子 と 国 友 が 這い 出して 来た のだ 。
だが 、 もう 建物 そのもの が 、 崩れ かけて いた 。
まだ 形 を 成して いる の が 、 不思議な くらい だ 。
「 国 友 さん !
水谷 は 大声 で 言った 。
「 飛び 下りる んだ ! 焼け落ちる ぞ ! 「 でも ──」
と 、 珠美 が 言った 。
「 あんな 所 から 飛び 下りたら 死んじゃ う ! いくら 雪 の 上 でも ──」
「 しかし 、 大けが で 助かる かも しれ ない 。
それ しか 方法 が ない 」
珠美 に も それ は 分 って いた 。
しかし ── 天 の 助け は ない の かしら ? こんなに ひどい 目 に ばっかり 遭わ さ れて !
神様 を 恨んで やる から ね !
する と ──。
何だか 聞き なれ ない 音 が 、 頭 の 上 を 近付いて 来た 。
バタバタバタ ……。
キョロキョロ と 頭上 を 見 回した 珠美 が 、
「 キャーッ !
と 金切り声 を 上げた ので 、 水谷 が 仰天 した 。
「 ど 、 どうした ?
「 見て !
青空 に 三 つ 、 黒々 と した 姿 を 見せて 、 ヘリコプター が 飛んで 来た のだった 。
「 助け に 来た !
オーイ ! ここ よ ! 珠美 が 手 を 振る 。
ヘリ の 方 も 、 もちろん 、 珠美 たち の こと を 見付けて いた 。
たちまち 、 山荘 の 上 へ と やって 来る 。
「 屋根 の 上 だ !
猛烈な 風 に 負け ない 大声 で 、 水谷 が 怒鳴る 。
水谷 が 教える まで も なく 、 ヘリ は 夕 里子 たち を 認めて いた らしい 。
一 機 が 、 山荘 の 真 上 に 飛んで 静止 する と 、 ロープ が スルスル と 降りて 行った 。
「 助かる よ 、 先生 」
珠美 が 水 谷 に しがみつく 。
「 うん 。
── 良かった 」
と 言った とたん 、 山荘 の 、 下 の 柱 が ドッと 音 を 立てて 崩れ 始めた 。
「 おい 、 焼け落ちる ぞ ! 水谷 が 力 の 限り を こめて 大声 を 張り上げる 。
そして ── 山荘 は 一気に 焼け落ちた 。
屋根 が 物 凄い 音 を たてて 、 炎 の 中 へ 落下 し 、 火 の 粉 と 煙 が 空 を 覆う ばかりに 舞い 上る 。
珠美 たち は 、 雪 の 上 に 引っくり返った 。
起き上った とき 、 頭上 に 飛んで 来た ヘリ から 下りた ロープ の 先 に 、 国 友 と 夕 里子 が 必死で しがみついて いる の が 目 に 入った 。
「 やった ね !
珠美 が 手 を 打って 叫んだ 。
ヘリ が 下りて 来て 、 夕 里子 と 国 友 は 、 雪 の 中 へ 、 二 、 三 メートル の 高 さ から 飛び 下りた 。
いや 、 落 っこ ち た 、 と 言った 方 が 正しい かも しれ ない 。
「 ああ ……。
死ぬ か と 思った ! 夕 里子 が 、 正直な (?
) 感想 を 述べ ながら 、 雪 だらけ に なって 起き上る 。
「 夕 里子 姉ちゃん !
珠美 が 走って 来る と 、「 やっぱり 、 二 人 と も 悪運 が 強い ね !
「 それ で お 祝い の つもり ?
夕 里子 は 苦笑 した 。
「── でも 、 石垣 さん が 中 に ……」
もう 焼け落ちて しまった 山荘 の 方 へ 、 夕 里子 は 目 を やって 、 首 を 振った 。
「 あの 母親 と 子供 も ?
と 、 珠美 が 訊 く 。
「 うん ……。
たぶん ね 」
と 、 夕 里子 は 呟いた 。
ヘリ から 、 ロープ で 下りて 来た の は 、 三崎 刑事 だった 。
「 おい !
無事 か ! 「 三崎 さん 」
国 友 が 啞然 と して 、「 よく ここ が ──」
「 やっと 捜し当てた んだ 」
三崎 が 息 を 弾ま せた 。
「 お前 も 一緒だ と は 思って た んだ が ……。 石垣 と いう 男 は ? 「 たぶん ── この 火 の 下 です 」
国 友 は 、 息 を ついた 。
「 助かり ました ! 「 こっち も 、 気 が 気 じゃ なかった ぞ 」
と 、 三崎 は ニヤリ と 笑って 、「 ヘリ 三 機 だ 。
いくら かかる と 思う ? また 、 山荘 の 柱 が 崩れる 音 が した 。
しばらく 、 なおも 炎 と 煙 は 、 雪 を 溶かし 、 黒く 汚し ながら 、 吹き 上げ 続けて いた ……。