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桜の樹の下には, 桜 の 樹 の 下 に は (梶井 基 次郎)

桜 の 樹 の 下 に は (梶井 基 次郎)

桜 の 樹 の 下 に は 屍体 が 埋まって いる ! これ は 信じて いい こと な んだ よ 。 何故 って 、 桜 の 花 が あんなに も 見事に 咲く なんて 信じ られ ない こと じゃ ない か 。 俺 は あの 美し さ が 信じ られ ない ので 、 この 二三 日 不安だった 。 しかし いま 、 やっと わかる とき が 来た 。 桜 の 樹 の 下 に は 屍体 が 埋まって いる 。 これ は 信じて いい こと だ 。 どうして 俺 が 毎晩 家 へ 帰って 来る 道 で 、 俺 の 部屋 の 数 ある 道具 の うち の 、 選りに選って ちっぽけな 薄っぺらい もの 、 安全 剃刀 の 刃 な ん ぞ が 、 千里眼 の ように 思い浮かんで 来る の か ―― おまえ は それ が わから ない と 言った が ―― そして 俺 に も やはり それ が わから ない のだ が ―― それ も これ も やっぱり 同じ ような こと に ちがいない 。 いったい どんな 樹 の 花 でも 、 いわゆる 真っ盛り と いう 状態 に 達する と 、 あたり の 空気 の なか へ 一種 神秘な 雰囲気 を 撒き散らす もの だ 。 それ は 、 よく 廻った 独楽 が 完全な 静止 に 澄む ように 、 また 、 音楽 の 上手な 演奏 が きまって なに か の 幻覚 を 伴う ように 、 灼熱 した 生殖 の 幻覚 さ せる 後光 の ような もの だ 。 それ は 人 の 心 を 撲たず に は おか ない 、 不思議な 、 生き生き と した 、 美し さ だ 。 しかし 、 昨日 、 一昨日 、 俺 の 心 を ひどく 陰気に した もの も それ な のだ 。 俺 に は その 美し さ が なに か 信じ られ ない もの の ような 気 が した 。 俺 は 反対に 不安に なり 、 憂鬱に なり 、 空虚な 気持 に なった 。 しかし 、 俺 は いま やっと わかった 。 一つ一つ 屍 体 が 埋まって いる と 想像 して みる が いい 。 何 が 俺 を そんなに 不安に して いた か が おまえ に は 納得 が いく だろう 。 馬 の ような 屍 体 、 犬 猫 の ような 屍 体 、 そして 人間 の ような 屍 体 、 屍 体 は みな 腐 爛 して 蛆 が 湧き 、 堪らなく 臭い 。 それでいて 水晶 の ような 液 を たら たら と たらして いる 。 桜 の 根 は 貪 婪 な 蛸 の ように 、 それ を 抱きかかえ 、 いそぎんちゃく の 食 糸 の ような 毛 根 を 聚 め て 、 その 液体 を 吸って いる 。 何 が あんな 花弁 を 作り 、 何 が あんな 蕊 を 作って いる の か 、 俺 は 毛 根 の 吸いあげる 水晶 の ような 液 が 、 静かな 行列 を 作って 、 維管 束 の なか を 夢 の ように あがって ゆく の が 見える ようだ 。 ―― おまえ は 何 を そう 苦し そうな 顔 を して いる のだ 。 美しい 透視 術 じゃ ない か 。 俺 は いま ようやく 瞳 を 据えて 桜 の 花 が 見 られる ように なった のだ 。 昨日 、 一昨日 、 俺 を 不安がら せた 神秘 から 自由に なった のだ 。 二三 日 前 、 俺 は 、 ここ の 溪 へ 下りて 、 石 の 上 を 伝い 歩き して いた 。 水 の しぶき の なか から は 、 あちら から も こちら から も 、 薄 羽 かげろう が アフロディット の ように 生まれて 来て 、 溪 の 空 を めがけて 舞い上がって ゆく の が 見えた 。 おまえ も 知っている とおり 、 彼ら は そこ で 美しい 結婚 を する のだ 。 しばらく 歩いて いる と 、 俺 は 変な もの に 出喰わした 。 それ は 溪 の 水 が 乾いた 磧 へ 、 小さい 水溜 を 残して いる 、 その 水 の なか だった 。 思いがけない 石油 を 流した ような 光彩 が 、 一面に 浮いている のだ 。 おまえ は それ を 何 だった と 思う 。 それ は 何 万 匹 と も 数 の 知れない 、 薄羽かげろう の 屍体 だった のだ 。 隙間 なく 水 の 面 を 被っている 、 彼ら の かさなりあった 翅 が 、 光 に ちぢれて 油 の ような 光彩 を 流している のだ 。 そこ が 、 産卵 を 終わった 彼ら の 墓場 だった のだ 。 俺 は それ を 見た とき 、 胸 が 衝かれる ような 気 が した 。 墓場 を 発いて 屍体 を 嗜む 変質者 の ような 残忍な よろこび を 俺 は 味わった 。 この 溪間 で は なにも 俺 を よろこば す もの は ない 。 鶯 や 四十雀 も 、 白い 日光 を さ 青 に 煙ら せて いる 木 の 若芽 も 、 ただ それだけ では 、 もうろうと した 心象 に 過ぎない 。 俺 に は 惨劇 が 必要な んだ 。 その 平衡 が あって 、 はじめて 俺 の 心象 は 明確に なって 来る 。 俺 の 心 は 悪鬼 の ように 憂鬱に 渇いている 。 俺 の 心 に 憂鬱 が 完成 する とき に ばかり 、 俺 の 心 は 和んで くる 。 ―― おまえ は 腋 の 下 を 拭いて いる ね 。 冷汗 が 出る の か 。 それ は 俺 も 同じ こと だ 。 何も それ を 不愉快 がる こと は ない 。 べたべた と まるで 精液 の ようだ と 思って ごらん 。 それ で 俺 達 の 憂鬱 は 完成 する のだ 。 ああ 、 桜 の 樹 の 下 に は 屍体 が 埋まっている ! いったい どこ から 浮かんで 来た 空想 か さっぱり 見当 の つか ない 屍 体 が 、 いま は まるで 桜 の 樹 と 一 つ に なって 、 どんなに 頭 を 振って も 離れて ゆこう と は し ない 。

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桜 の 樹 の 下 に は (梶井 基 次郎) さくら||き||した|||かじい|もと|じろう cherry blossoms||tree|||||Kajiwara|base|Jiro ||Träd|||||梶井: Kajii||Jirō Unter dem Kirschbaum (Kajii Motojiro) Below the cherry tree (Motojiro Kajii) Bajo el cerezo (Kajii Motojiro) Sous le cerisier (Kajii Motojiro) Pod drzewem wiśni (Kajii Motojiro) Sob a Cerejeira (Motojiro Kajii) Под сакурой (Кадзии Мотодзиро) Under körsbärsträdet (Kajii Motojiro) 樱花树下(梶井元次郎) 樱花树下(梶井元次郎)

桜 の 樹 の 下 に は 屍体 が 埋まって いる ! さくら||き||した|||しかばね からだ||うずまって| cherry blossoms|||||||corpse|(subject marker)|buried|is buried |||||||Lik.||begravda| Under the cherry tree there is a dead body buried! Un cadavre est enterré sous un cerisier ! Zwłoki pochowane pod drzewem wiśni! これ は 信じて いい こと な んだ よ 。 ||しんじて||||| this|(topic marker)|believe|good|||| ||Tro på det||||är det| This is something you can trust. C'est une chose à laquelle vous pouvez faire confiance. To coś, czemu można zaufać. Você deveria acreditar nisso. 何故 って 、 桜 の 花 が あんなに も 見事に 咲く なんて 信じ られ ない こと じゃ ない か 。 なぜ||さくら||か||||みごとに|さく||しんじ|||||| ||||||||絕妙地||||||||| why|quoting|cherry blossoms||flower||so||beautifully|bloom|such|believe|passive potential marker||||| varför||||||sådär mycket||praktfullt|||tror på|kan tro det||||| Warum ist es unglaublich, dass die Kirschblüten so schön blühen? Why is it unbelievable that the cherry blossoms bloom so beautifully? Pourquoi est-il incroyable que les cerisiers en fleurs aient fleuri si magnifiquement ? Почему невероятно, что сакуры так красиво цветут? 俺 は あの 美し さ が 信じ られ ない ので 、 この 二三 日 不安だった 。 おれ|||うつくし|||しんじ|||||ふみ|ひ|ふあんだった |||beauty||||can believe||||two or three|day|worried Jag|||||||||||två tre dagar||orolig varit I couldn't believe that beauty, so I was worried for the last few days. Je n'arrivais pas à croire à quel point elle était belle, alors je me suis inquiétée les deux derniers jours. Я не мог поверить в эту красоту, поэтому я волновался последние несколько дней. しかし いま 、 やっと わかる とき が 来た 。 ||||||きた ||finally|||| |nu||||| But now it's time to finally understand. Mais maintenant, je comprends enfin. Но теперь пришло время наконец понять. 桜 の 樹 の 下 に は 屍体 が 埋まって いる 。 さくら||き||した|||しかばね からだ||うずまって| A corpse is buried under the cherry tree. Труп похоронен под вишней. これ は 信じて いい こと だ 。 ||しんじて||| This is a good thing to believe. C'est une chose à laquelle on peut croire. В это хорошо верить. どうして 俺 が 毎晩 家 へ 帰って 来る 道 で 、 俺 の 部屋 の 数 ある 道具 の うち の 、 選りに選って ちっぽけな 薄っぺらい もの 、 安全 剃刀 の 刃 な ん ぞ が 、 千里眼 の ように 思い浮かんで 来る の か ―― おまえ は それ が わから ない と 言った が ―― そして 俺 に も やはり それ が わから ない のだ が ―― それ も これ も やっぱり 同じ ような こと に ちがいない 。 |おれ||まいばん|いえ||かえって|くる|どう||おれ||へや||すう||どうぐ||||より に よって||うすっぺら い||あんぜん|かみそり||は|||||せんりがん|||おもいうかんで|くる||||||||||いった|||おれ|||||||||||||||おなじ|||| |||every night|||||||||||||||||by choosing|tiny|thin||safety|razor||blade|||||clairvoyance|||came to mind||||you|||||||||||||after all||||||||||||||||sure |||Varje kväll||||kommer fram|väg||||||||||||särskilt utvalt|liten och tunn|Tunn och platt|||Rakhyvelsblad||rakbladets egg|||||Fjärrsyn|||dyker upp||||du||||||||||||||||||är det så|||||||||||ingen tvekan om |||||||||||||||||||||tiny|thin|||razor||blade|||||||||||||||||||||||||||that|||||||||||||| Why on the way I come home every night, of the many tools in my room, the tiny flimsy, the blade of a safety razor, like a clairvoyant. I wonder if it's coming ―― You said you don't understand it ―― And I still don't understand it ―― It must be the same thing. Comment se fait-il que chaque soir, en rentrant chez moi, parmi tous les outils de ma chambre, les lames de rasoir de sécurité les plus minuscules et les plus légères me viennent à l'esprit comme un millième d'œil - tu as dit que tu ne pouvais pas le comprendre - mais je ne peux toujours pas le comprendre. -- Et je ne le comprends toujours pas non plus, mais ce doit être la même chose après tout. Почему по дороге я прихожу домой каждую ночь, из множества инструментов в моей комнате, крошечный хлипкий, лезвие безопасной бритвы, как ясновидящий.Интересно, он приближается ―― Ты сказал, что не понимаешь ―― И я до сих пор этого не понимаю ―― Должно быть, это одно и то же. いったい どんな 樹 の 花 でも 、 いわゆる 真っ盛り と いう 状態 に 達する と 、 あたり の 空気 の なか へ 一種 神秘な 雰囲気 を 撒き散らす もの だ 。 ||き||か|||まっさかり|||じょうたい||たっする||||くうき||||いっしゅ|しんぴな|ふんいき||まきちらす|| at all||||||so-called|at its peak|||||reaches||surroundings||air||inside||a kind|mysterious||||| vad i hela||||||så kallad|Full blomstring|||||Nå.||omgivningen||||||en sorts|mystisk|||Sprider ut|| |||||||in full bloom|||||to reach||||||||kind of|mysterious|||to scatter|| When any tree flower reaches its so-called peak, it scatters a kind of mysterious atmosphere into the air around it. Lorsqu'un arbre atteint son soi-disant sommet, il crée une sorte d'atmosphère mystique dans l'air. Когда цветы любого дерева достигают так называемого пикового состояния, они рассеивают в воздухе вокруг себя некую таинственную атмосферу. それ は 、 よく 廻った 独楽 が 完全な 静止 に 澄む ように 、 また 、 音楽 の 上手な 演奏 が きまって なに か の 幻覚 を 伴う ように 、 灼熱 した 生殖 の 幻覚 さ せる 後光 の ような もの だ 。 |||まわった|こま||かんぜんな|せいし||すむ|||おんがく||じょうずな|えんそう||||||げんかく||ともなう||しゃくねつ||せいしょく||げんかく|||ごこう|||| it|||||||||||||||||||||||||||||||||||| |||Snurrade runt|Snurra||Fullständig|Stillhet||klarna|||||skicklig|Framförande||"alltid"||||Hallucinationer||åtfölja av||Brännande hetta||Fortplantning||||får att verka|Helgongloria|||| |||spun|top|||silence||to become|||music|||||||||illusion||to accompany||burning||reproduction||hallucination|||aura|||| It's like a burning halo of reproductive illusions, like a well-turned top clearing up to complete stillness, and a good performance of music with some hallucinations. C'est comme un halo qui donne l'illusion d'une reproduction fulgurante, de même qu'une toupie bien tournée est amenée à une immobilité parfaite, et de même qu'un bon morceau de musique est toujours accompagné d'une sorte d'hallucination. Это как горящий ореол репродуктивных иллюзий, как хорошо вывернутый волчок, расчищающийся до полной тишины, и хорошее музыкальное исполнение с некоторыми галлюцинациями. それ は 人 の 心 を 撲たず に は おか ない 、 不思議な 、 生き生き と した 、 美し さ だ 。 ||じん||こころ||ぼく た ず|||||ふしぎな|いきいき|||うつくし|| ||||||beröra djupt|||lämna inte||märklig|levande||||| ||||||strike||||||||||| It's a mysterious, lively, beauty that can't help but touch the hearts of man. C'est une beauté mystérieuse et vibrante qui ne peut que toucher les gens. Это таинственная, живая красота, которая не может не тронуть сердца людей. しかし 、 昨日 、 一昨日 、 俺 の 心 を ひどく 陰気に した もの も それ な のだ 。 |きのう|いっさくじつ|おれ||こころ|||いんきに|||||| ||I förrgår|||||väldigt mycket|dyster till sinnes|||||| ||||||||gloomily|||||| But yesterday, the day before yesterday, that's what made my heart terribly gloomy. Mais hier et avant-hier, c'est ce qui m'a rendu l'esprit si sombre. 俺 に は その 美し さ が なに か 信じ られ ない もの の ような 気 が した 。 おれ||||うつくし|||||しんじ||||||き|| I felt that the beauty was something I couldn't believe. J'ai senti que la beauté était quelque chose d'incroyable. Я чувствовал, что красота была чем-то, во что я не мог поверить. 俺 は 反対に 不安に なり 、 憂鬱に なり 、 空虚な 気持 に なった 。 おれ||はんたいに|ふあんに||ゆううつに||くうきょな|きもち|| ||Tvärtom|oroades||deprimerad||Tom känsla|Tom känsla|| |||||||empty||| On the contrary, I became anxious, depressed, and empty. しかし 、 俺 は いま やっと わかった 。 |おれ|||| ||||finally| |||||förstått But, I now understand. Mais je comprends enfin. 一つ一つ 屍 体 が 埋まって いる と 想像 して みる が いい 。 ひとつひとつ|しかばね|からだ||うずまって|||そうぞう|||| Ett efter ett|döda kroppar||||||föreställa sig|||| Imagine that each corpse is buried. Imaginez que les cadavres soient enterrés les uns après les autres. Представьте, что каждый труп похоронен. 何 が 俺 を そんなに 不安に して いた か が おまえ に は 納得 が いく だろう 。 なん||おれ|||ふあんに||||||||なっとく||| You'll be convinced what made me so uneasy. Vous comprenez pourquoi j'étais si anxieuse. Вы убедитесь, что меня так беспокоило. 馬 の ような 屍 体 、 犬 猫 の ような 屍 体 、 そして 人間 の ような 屍 体 、 屍 体 は みな 腐 爛 して 蛆 が 湧き 、 堪らなく 臭い 。 うま|||しかばね|からだ|いぬ|ねこ|||しかばね|からだ||にんげん|||しかばね|からだ|しかばね|からだ|||くさ|らん||うじ||わき|たまら なく|くさい Häst||||||||||||||||||||alla|Ruttnande|Ruttnande||Larver||Kryllar av larver|outhärdligt|Illaluktande ||||||||||||||||||||||||maggots|||| Horse-like corpses, dog-cat-like corpses, and human-like corpses, all corpses are rotten and sprout with maggots and smell unbearably. Les cadavres de chevaux, de chiens, de chats et d'êtres humains sont tous en décomposition, couverts d'asticots et dégagent une odeur insupportable. それでいて 水晶 の ような 液 を たら たら と たらして いる 。 |すいしょう|||えき|||||| ändå|kristallklar vätska|||vätska|||||droppar ner| |crystal|||liquid|||||| Still, it is dripping with a liquid like crystal. Il goutte également du liquide comme un cristal. 桜 の 根 は 貪 婪 な 蛸 の ように 、 それ を 抱きかかえ 、 いそぎんちゃく の 食 糸 の ような 毛 根 を 聚 め て 、 その 液体 を 吸って いる 。 さくら||ね||むさぼ|らん||たこ|||||だきかかえ|||しょく|いと|||け|ね||じゅ||||えきたい||すって| ||Rötter||Girig|omättlig||Bläckfisk|||||Håller om|Havsrosens||Äter upp|trådar|||hårstrån|||samlar sig||||vätskan||suger upp| |||||||octopus|||||||||||||||||||||| The roots of the cherry blossoms hold it like a greedy octopus, squeeze the roots of the sea anemone's edible thread, and suck the liquid. 何 が あんな 花弁 を 作り 、 何 が あんな 蕊 を 作って いる の か 、 俺 は 毛 根 の 吸いあげる 水晶 の ような 液 が 、 静かな 行列 を 作って 、 維管 束 の なか を 夢 の ように あがって ゆく の が 見える ようだ 。 なん|||かべん||つくり|なん|||しべ||つくって||||おれ||け|ね||すいあげる|すいしょう|||えき||しずかな|ぎょうれつ||つくって|いかん|そく||||ゆめ|||||||みえる| ||sådana där|Kronblad||Skapar||||Pistill|||||||||||suga upp||||||Tyst|Tåg|||Kärlvävnad|Vävnadsbunt|||||||stiger uppåt|går uppåt||||verkar som om |||Petal||||||おしべ||||||||||||||||||行列|||vascular|束|||||||||||| What makes such petals, what makes such buds, I like the crystal-like liquid that sucks up the hair roots, makes a quiet procession, and rises like a dream in the vascular bundle. It seems that you can see the future. Je vois le liquide cristallin aspiré par la racine des cheveux s'élever comme un rêve à travers le faisceau vasculaire en une procession silencieuse. ―― おまえ は 何 を そう 苦し そうな 顔 を して いる のだ 。 ||なん|||にがし|そう な|かお|||| |||||plågad|||||| ――What do you have a face that seems to be so painful? -- Pourquoi as-tu l'air si affligé ? 美しい 透視 術 じゃ ない か 。 うつくしい|とうし|じゅつ||| |genomskådning|genomskådningens konst||| ||technique||| Isn't it a beautiful clairvoyance? N'est-ce pas là une belle clairvoyance ? 俺 は いま ようやく 瞳 を 据えて 桜 の 花 が 見 られる ように なった のだ 。 おれ||||ひとみ||すえて|さくら||か||み|||| |||äntligen|ögon||fästa blicken||||||kan se||| ||||eyes||||||||||| I'm finally able to see the cherry blossoms with my eyes set. Je peux enfin regarder les cerisiers en fleurs sans les quitter des yeux. 昨日 、 一昨日 、 俺 を 不安がら せた 神秘 から 自由に なった のだ 。 きのう|いっさくじつ|おれ||ふあんがら||しんぴ||じゆうに|| ||||gjorde orolig|gjorde mig orolig|mysterium||fri från|| |||||せた|mystery|||| Yesterday, the day before yesterday, I was freed from the mystery that made me anxious. Je suis libéré du mystère qui m'a perturbé hier et avant-hier. 二三 日 前 、 俺 は 、 ここ の 溪 へ 下りて 、 石 の 上 を 伝い 歩き して いた 。 ふみ|ひ|ぜん|おれ||||たに||おりて|いし||うえ||つたい|あるき|| |||||||bäck||Gick ner till|||||längs med|Gick på|| |||||||溪|||||||伝い||| A few days ago, I went down to the shore here and walked along the stone. Il y a quelques jours, je suis allé jusqu'à ce ruisseau et j'ai marché le long des pierres. 水 の しぶき の なか から は 、 あちら から も こちら から も 、 薄 羽 かげろう が アフロディット の ように 生まれて 来て 、 溪 の 空 を めがけて 舞い上がって ゆく の が 見えた 。 すい|||||||||||||うす|はね||||||うまれて|きて|けい||から|||まいあがって||||みえた ||Vattensprut|||||||||||Tunn|Tunna vingar|Dagslända||Afrodite|||||||||mot|svävade uppåt||||såg jag ||しぶき|||||||||||||||アフロディーテ|||||||||||||| From the splash of water, from here and there, I could see the thin feathers of Kagero being born like an Afro, and soaring toward the sky of the sword. Dans les embruns, de-ci de-là, je voyais les chandelles aux doigts clairs s'élancer comme des aphrodites et s'élever dans le ciel de la crique. おまえ も 知っている とおり 、 彼ら は そこ で 美しい 結婚 を する のだ 。 ||しっている||かれら||||うつくしい|けっこん||| |||||||||vackert bröllop||| As you know, they will have a beautiful marriage there. Comme vous le savez, ils ont fait un beau mariage. しばらく 歩いて いる と 、 俺 は 変な もの に 出喰わした 。 |あるいて|||おれ||へんな|||で しょく わした |||||||||stötte på |||||||||出くわした After walking for a while, I came across something strange. Après avoir marché pendant un certain temps, je suis tombé sur quelque chose d'étrange. それ は 溪 の 水 が 乾いた 磧 へ 、 小さい 水溜 を 残して いる 、 その 水 の なか だった 。 ||けい||すい||かわいた|せき||ちいさい|みずたまり||のこして|||すい||| ||||||干涸びた||||水たまり|||||||| |||||||stenig flodbädd|||vattensamling||lämnat kvar|||||| It was in the middle of a small pool of water left by the dry creek. Il se trouvait dans une petite mare d'eau laissée par un ruisseau asséché. 思いがけない 石油 を 流した ような 光彩 が 、 一面に 浮いている のだ 。 おもいがけない|せきゆ||ながした||ひかり あや||いちめんに|ういて いる| Oväntad|olja||släppte ut||Lyster||överallt|flyter på ytan| The whole area was covered with a luminous glow, as if unexpected oil had been poured over it. Une lueur de pétrole inattendue flotte un peu partout. おまえ は それ を 何 だった と 思う 。 ||||なん|||おもう What do you think it was? Qu'est-ce que c'était, à votre avis ? それ は 何 万 匹 と も 数 の 知れない 、 薄羽かげろう の 屍体 だった のだ 。 ||なん|よろず|ひき|||すう||しれ ない|すすき はね かげろう||しかばね からだ|| ||||tusentals av|||||omöjligt att veta|Tunnvingeslända|||| ||||匹|||||||||| They were the corpses of tens of thousands of unknown, thin-winged maggots. Il s'agissait du cadavre d'un lézard à ailes fines, dont le nombre n'est pas connu, mais qui se compte en dizaines de milliers. 隙間 なく 水 の 面 を 被っている 、 彼ら の かさなりあった 翅 が 、 光 に ちぢれて 油 の ような 光彩 を 流している のだ 。 すきま||すい||おもて||おおって いる|かれら|||し||ひかり|||あぶら|||ひかり あや||ながして いる| utan mellanrum||||||täcker över|||överlagrade|vingar||ljusets strålar||krusar sig|olja|||||flödar med glans| ||||||covering||||||||||||||| Their bulky wings, which cover the surface of the water without any space between them, are wrinkled by the light and shed a luster like oil. Leurs ailes volumineuses, qui couvrent la surface de l'eau sans discontinuité, se plissent sous l'effet de la lumière et se parent d'une couleur huileuse scintillante. そこ が 、 産卵 を 終わった 彼ら の 墓場 だった のだ 。 ||さんらん||おわった|かれら||はかば|| ||äggläggning|||||Deras gravplats|| It was the graveyard of those who had finished spawning. C'était leur cimetière une fois qu'ils avaient fini de frayer. 俺 は それ を 見た とき 、 胸 が 衝かれる ような 気 が した 。 おれ||||みた||むね||しょう かれる||き|| ||||||||hugga till|||| When I saw it, I felt a tugging at my heartstrings. Lorsque j'ai vu cela, j'ai senti un pincement au cœur. 墓場 を 発いて 屍体 を 嗜む 変質者 の ような 残忍な よろこび を 俺 は 味わった 。 はかば||はっいて|しかばね からだ||たしなむ|へんしつ しゃ|||ざんにんな|||おれ||あじわった ||öppna upp|||njuta av|pervers person|||Grym|sadistisk glädje||||smakade på |||||貪るように||||||||| I had a brutal pleasure, like a pervert who tastes corpses from the grave. J'ai éprouvé un plaisir brutal, comme un pervers qui goûte les cadavres de la tombe. この 溪間 で は なにも 俺 を よろこば す もの は ない 。 |たにま||||おれ|||||| |denna dal|||ingenting|||glädja|||| Nothing in this valley pleases me. 鶯 や 四十雀 も 、 白い 日光 を さ 青 に 煙ら せて いる 木 の 若芽 も 、 ただ それだけ では 、 もうろうと した 心象 に 過ぎない 。 うぐいす||しじゅうから||しろい|にっこう|||あお||けむら|||き||わかめ|||それ だけ||||しんしょう||すぎ ない Näktergal||Blåmes|||Vitt solljus|||||dimmar sig|låter bli||||Unga skott|||bara det||dimmig||Sinnesbild||bara en illusion ||四十雀|||||||||||||若い芽||||||||| A bush warbler, a forty sparrows, or a young bud of a tree smoky blue in the white sunlight, by themselves are nothing more than a hazy mental image. 俺 に は 惨劇 が 必要な んだ 。 おれ|||さんげき||ひつような| |||Tragedi||Nödvändigt för mig| I need a tragedy. その 平衡 が あって 、 はじめて 俺 の 心象 は 明確に なって 来る 。 |へいこう||||おれ||しんしょう||めいかくに||くる |balans|||för första gången|||||tydligt|| |バランス|||||||||| Only when there is that equilibrium will my image become clear. 俺 の 心 は 悪鬼 の ように 憂鬱に 渇いている 。 おれ||こころ||あっき|||ゆううつに|かわいて いる ||心||悪鬼|||| ||||Ond ande||||törstar efter My heart is as melancholy and thirsty as an evil demon. 俺 の 心 に 憂鬱 が 完成 する とき に ばかり 、 俺 の 心 は 和んで くる 。 おれ||こころ||ゆううつ||かんせい|||||おれ||こころ||なごんで| ||||dysterhet|||||||||||lugnar sig| |||||||||||||||和んで| It is only when the melancholy completes in my heart that I feel at ease. ―― おまえ は 腋 の 下 を 拭いて いる ね 。 ||わき||した||ふいて|| ||armhålan|||||| -- You are wiping your armpits. 冷汗 が 出る の か 。 ひや あせ||でる|| Kallsvettas|||| 冷や汗|||| Do I break out in a cold sweat? それ は 俺 も 同じ こと だ 。 ||おれ||おなじ|| That's the same for me. 何も それ を 不愉快 がる こと は ない 。 なにも|||ふゆかい|||| ||||ogillar||| There is nothing objectionable about that. べたべた と まるで 精液 の ようだ と 思って ごらん 。 |||せいえき||||おもって| Klibbigt som sperma||som om|Sädesvätska|||||Tänk dig. Think of it as sticky, like semen. それ で 俺 達 の 憂鬱 は 完成 する のだ 。 ||おれ|さとる||ゆううつ||かんせい|| That's how our melancholy will be completed. ああ 、 桜 の 樹 の 下 に は 屍体 が 埋まっている ! |さくら||き||した|||しかばね からだ||うずまって いる ||||||||||är begravda Ah, there is a corpse buried under the cherry tree! いったい どこ から 浮かんで 来た 空想 か さっぱり 見当 の つか ない 屍 体 が 、 いま は まるで 桜 の 樹 と 一 つ に なって 、 どんなに 頭 を 振って も 離れて ゆこう と は し ない 。 |||うかんで|きた|くうそう|||けんとう||||しかばね|からだ|||||さくら||き||ひと|||||あたま||ふって||はなれて||||| |||Flöt upp||Fantasier||inte alls|Uppfattning||||||||||||||||||hur mycket|||skakar på||"Skiljas från"|skulle gå|||| ||||||||見当||||||||||||||||||||||||||||ない The fantasy that came from where on earth has no clue whatsoever, and now it's like a cherry tree, no matter how much you shake your head, it won't go away.