盾 の 勇者 の 成り 上がり 02 Chapter 07
七 話 変身 能力
「 親父 親父 親父 親父 ! 俺 は 閉店 して 閉まって いる 武器 屋 の 扉 を 何度 も 叩 たたく 。 すると やや 不機嫌な 様子 で 武器 屋 の 親父 が 渋々 扉 を 開けて くれた 。
「 いきなり どうした ん だ アン ちゃん 。 もう とっくに 店仕舞い だ ぞ 」
「 そんな 状況 じゃ ねえ んだ よ ! マント を 羽織ら せた 少女 の 姿 を した フィーロ を 親父 に 見せる 。
「 アン ちゃん 。 良い 奴隷 を 買えた からって 自慢 に 来る な よ 」 「 ちっげ ー よ ! 親父 は 俺 を 何 だ と 思って んだ ! 親父 の 中 の 俺 に 会ったら 迷い なく 殴り 殺せ そうだ 。 「 ご しゅじん さま ー ? どうした の ー ? 「 お前 は 黙って ろ 」
「 や だ ー 」
クソ ! 一体 どう なって いる と いう んだ !
あの 後 の 騒ぎ は 果てしなかった 。 奴隷 商 の 奴 が パクパク と 俺 を 指差して 驚く わ 。 その 部下 も 驚いて 言葉 が 出 ない わ 。 ラフタリア だって 絶句 して いる し 。 フィーロ に 至って は 俺 に 近づきたい が ため に 人 の 姿 に なる わ で 、 気 が 付いたら 親父 の 店 に フィーロ を 担いで やって 来て いた 。 「 へ …… ヘックシュン ! ボフン ! ビリイイイイ !
変身 して 、 羽織ら せて いた マント が 破れる 音 が 響く 。
一瞬にして フィーロ は フィロリアル ・ クイーン ( 仮 ) の 姿 に なった 。
この 鳥 が ! マント だって タダ じゃ ない んだ ぞ 。
「 な ……」
親父 の 奴 も 言葉 を 失い 、 フィーロ を 見上げる 。 フィーロ は また 人 型 に 戻って 俺 の 手 を 握った 。 その 頭 の 上 に は 辛うじて 原形 を とどめて いる マント が 落ちて くる 。
「…… 事情 は わかった か ? 「 あ …… ああ 」
親父 は 凄い 複雑な 顔 で 俺 を 店 内 に 案内 した 。
「 で 、 俺 に 会い に 来た 理由 は 、 その 子 の 装備 か ? 「 変身 して も 破れ ない 服 は ない か ? と いう か 何故 変身 する んだ ! 「 アン ちゃん 。 少し 落ち着け 」
そう だ 。 よく 考えて みれば 、 なんで フィーロ は 人 型 に なって いる んだ ?
背中 に は 名残 な の か 羽 が 生えて いて 、 金髪 碧 眼 の 少女 だ から か 天使っぽい 。 しかも 可愛い と いう の を 絵 に 描いた ように 顔 が 整って いる 。 年齢 は 一〇 歳 前後 。 初め の 頃 の ラフタリア より 少し 小さい 背 格好 だ 。
ぐう う う う ……。 随分 と 古典 的な 腹の虫 が 、 人 型 に なった フィーロ から 響く 。
「 ご しゅじん さま ー お腹 空いた 」
「 我慢 し なさい 」
「 や だ ー 」
「 とりあえず 、 うち の 晩 飯 を 食う か ? そう 言う と 親父 は 店 の 奥 から 鍋 を 持ってくる 。 汁 物っぽい な 。 「 やめ ──」
「 わ ぁ ああ 、 いただき ま ー す 」
フィーロ は 親父 から 鍋 を 奪う と 、 中身 を 全部 口 に 流し込んだ 。
「 ん ー …… 味 は あんまり かな ー 」
鍋 を 親父 に 返す 。 親父 も 唖然と して 俺 を 見つめた 。
「 その 、 すまない 」
「…… アン ちゃん 。 後 で 飯 おごれ よ 」
どんどん ドツボ に はまって いく !
「 そう だ なぁ …… 変身 技能 持ち の 亜人 の 服 が あった ような 気 は する んだ が …… と いう か 武器 屋 じゃ なくて 服 屋 に 行けよ アン ちゃん 」
「 見知らぬ 服 屋 に こんな 夜中 に 全裸 の 女の子 を 連れて 行けって か ? しかも 魔物 に 変わる 女の子 を だ ぞ ? 「…… それ も そう か 、 ちょっと 待って な 」
ゴソゴソ と 店 の 奥 の ほう に 、 親父 は 商品 を 漁り に 行く 。
「 サイズ が 合う か わから ない の と 、 かなり の キワモノ の 服 だ から あんまり 期待 する な よ 」
「 わかって いる 」
結局 、 親父 が 出て きた の は それ から しばらく 経って から だった 。
「 悪い 。 見た 感じ だ と 変身 後 の サイズ に 合う 服 が ねえ 」
「 なん 、 だ と ! 頼みの綱 だった と いう のに …… 俺 は どう したら 良い と 言う んだ 。 こんな いつ 全裸 に なって 俺 に 親し げ に 接して くる か わから ない 幼女 に 、 服 を 着せられ ない と いう の か 。 やっと 最近 なんとか 良く 見て もらえる ように なった 俺 へ の 評価 が 、 また 急 降下 して しまう 。
「 ご しゅじん さま ー 」
「 お前 は 変身 する な ! 魔物 紋 を 使った と して も 人 に 変身 する の を 禁止 に する ような 項目 は 無い 。 さすが に 魔物 が 人 化 する こと 自体 が 珍しい のだろう 。
「 や だ ー 」
この 子 は 一体 何 が したい んだ ! しかも 俺 の 言う 事 を 尽く 拒否 する 。 反抗 期 か ? 生まれて 数 日 で 反抗 期 も ない だろう に 。
「 だって …… フィーロ が 本当の 姿 だ と ご しゅじん さま 、 一緒に 寝て くれ ない もん 」
ギュウっと フィーロ は 俺 の 手 を 握り締めて 満面 の 笑み を 浮かべる 。 「…… なんで 一緒に 寝 なきゃ いけない んだ ? 「 寂しい んだ もん 」
「 あー …… なんて いう か 、 アン ちゃん 。 大変だ な 」
俺 は 子守 を し に この 世界 に 来た わけじゃ ない のだ が …… まあ 、 ラフタリア の 親 代わり に は なって やりたい と 思って る けど さ 。 「 そう いえば ラフタリア は どこ だ ? 「 やっと 追いつきました 」 ラフタリア が 肩 で 息 を し ながら 店 の 中 に 入って くる 。 「 いきなり 走って いって しまう から …… 捜した んです よ 」
「 ああ 、 悪い 」
「 あー ラフタリア お 姉ちゃん 」
フィーロ が 元気に 手 を 振る 。
「 ご しゅじん さま は あげ ない よ ? 「 何 を 言って いる んです か 、 この 子 は ! 「 あげ ない よって 、 俺 は お前 等 の もの じゃ ない ぞ 」
「 だって ご しゅじん さま は フィーロ の お 父さん でしょ ? 「 違う …… 飼い主 だ 」
「 違う の ? じゃあ ラフタリア お 姉ちゃん は ? 「 ラフタリア は 俺 の 娘 みたいな もん だ 」
「 違います ! 「 ん ー ? よく わかん ない ……」
「 とりあえず 、 ぴったりの 服 が ない か 探して おく から 今日 は 帰って くれ 」
「 ああ 、 すまなかった な 」
「 ごちそうさま ー 」
「 まったく …… アン ちゃん に は いつも 驚か さ れる な 」
武器 屋 を 後 に して 、 ふらふら と 宿 の 方 へ 歩いて 行く と ラフタリア が 呼び止める 。
「 あ 、 奴隷 …… 魔物 商 さん が 呼んでました よ 」 「 ん ? わかった 」
テント に 戻った 俺 達 を 、 奴隷 商 は 待って いた と ばかり に 出迎えた 。
「 いや ぁ 、 驚き の 展開 でした ね 。 ハイ 」
「 ああ 」
マント を 羽織る フィーロ を 指差した 。
「 フィロリアル の 王 は 高度な 変身 能力 を 持って いる のです よ 。 ですから 同類 の フィロリアル に 化けて 人目 を 掻 い 潜って いた 、 と いう の が 私 共 の 認識 です 」
なるほど …… 一目 で フィロリアル の ボス である の を 見破ら せ ない ため に 化けて 隠れる 習性 を 持ち 、 その 習性 を 利用 して 人 型 に 変身 した 、 と いう わけ か 。
「 いやはや 、 研究 が 進んで いない フィロリアル の 王 を この 目 に する こと が できる と は 、 私 、 勇者 様 の 魔物 育成 能力 の 高 さ に 感服 です 。 ハイ 」
「 は ? 「 ただ の フィロリアル を 女王 に まで 育て上げる と は …… どのような 育て 方 を すれば 女王 に なる のでしょう か ? …… 奴隷 商 の 目的 が わかった ぞ 。
こいつ 、 フィロリアル を 王 に する 方法 を 俺 から 聞いて 量産 する 気 だ 。 かなり 珍しい 魔物 に 分類 さ れる だろう し 、 変身 能力 を 持って いる んだ 。 高く 売れば 大儲け だ 。
「 たぶん 、 伝説 の 盾 の 力って 奴 だ と 思う ぞ 」 成長 補正 の 力 で ここ まで 育った のだろう と 推理 する 。 そう で も ない と 説明 でき ない 。
「 そう やって うやむやに する 勇者 様 に 私 、 ゾクゾク して きました 。 どれ くらい 金銭 を 積めば 教えて くれます か な ? 「 そういう 意味 じゃ ねえ から ! 「 では 、 もう 一 匹 フィロリアル を 進呈 する ので 育てて みて ──」
「 結構だ ! これ 以上 増えたら 俺 の 財布 が 持た ない 。 ただ で さえ フィーロ の 服 と か どう する か を 考え なきゃ いけない のに これ 以上 食い 扶持 が 増えたら 碌 な 事 が ない 。
「 は ぁ …… 後 は 思い付く 可能 性 と いう と アレ だ な 」
「 なんで ございましょう 」
う …… 奴隷 商 の 奴 、 目 を 輝か せて いる ! 気持ち 悪い 。
「 波 で 倒さ れた 大物 の 肉 を コイツ は 食って いた 。 だから その 影響 を 受けて いる 可能 性 を 否定 でき ない 」
まあ 、 自分 でも 無理やり 捻り出した 感 は ある 。 だけど 実際 フィーロ は キメラ の 肉 を 食べて いた から なぁ 。 間違った 事 も 言って ない 。
「 ふむ …… それでは しょう が ありません ね 」 奴隷 商 の 奴 も 信じて いない が 俺 が 嫌がって いる のだ から しょうがないって 態度 で 引き下がる 。 「 いつでも フィロリアル は お 譲り します ので 試して ください 。 ハイ 」
「 できれば 断りたい が なぁ ……」 「 もしも 扱い やすい 個体 に 育てて くださったら お 金 は 積みます よ 」 「 ふむ 、 余裕 が 出たら 考えて おこう 」 自分 でも 守 銭 奴 に なって きた 自覚 が あった けど 、 今 の 一言 で 確信 に 変わった 。 「 ところで どう しましょう 」 「 なに が ? フィーロ が 会話 に 入り込んで 疑問 符 を 浮かべる 。
「 アナタ の 処遇 です よ 」
「 ご しゅじん さま と 一緒に ねる ー 」
「 さ せません ! 「 あー ずる ー い ! ラフタリア お 姉ちゃん は ご しゅじん さま を 独り占め して る ー 」
「 してません ! 何 を 騒いで いる の やら ……。
「 さて 、 じゃあ フィーロ は 宿 に 備え付けられて いる 馬 小屋 で 寝よう な 」 「 や ー ! 鳥 の 分 際 で ハッキリ と 拒否 し や がった 。
「 ご しゅじん さま と ねる の ー ! …… これ は 子供 が 親 と 一緒に 寝たい と か 言う 駄々 と 同じだ な 。 「 そう か そう か 、 しょうがない 」
「 ナオフミ 様 !?」
「 ここ で 拒んだって ワガママ 言う んだ から ある 程度 合わせて やら なきゃ いけない だ ろ ? 「 まあ …… そう です けど 」
納得 し かねる と いった 様子 で ラフタリア が 呟く 。
「 でも 、 絶対 人前 で 裸 に なる んじゃ ない ぞ 」
「 は ー い ! 本当に わかって いる の か ? まあ 良い 。 明日 、 武器 屋 の 親父 が どうにか して くれる こと を 祈る しか ある まい 。
それ から 宿屋 に 戻り 、 店主 に 追加 の 宿泊 代 を 払って 部屋 に 帰って 来た 。
勉強 と か 調合 を する 余裕 は フィーロ が 人 型 に なった 所 為 で なく なって しまった な 。
「 わ ぁ ! 柔らかい 寝床 ー ! ポンポン と ベッド に 乗って 跳ねる フィーロ に 注意 を 促し つつ 、 今日 は 早 めに 寝る こと に した 。
…… 暑い ! なんで 暑い んだ !?
「 う う ……」
体 が 思い通りに 動か ない 。 どう なって いる んだ ?
恐る恐る 目 を 開ける と 視界 は 白 一色 。 羽毛 に 包まれて いた 。 「 す ー …… す ー ……」
この ベッド 、 呼吸 して いる ぞ !
徐に 顔 を 上げる と 寝て いた ところ は ベッド で は なく 本当の 姿 に 戻った フィーロ の 腹 の 上 だった 。 いつの間にか 元 の 姿 に 戻った フィーロ が ベッド から 転げ 落ちて 俺 を 抱き 枕 に して 寝入った ようだ 。
「 起きろ ! この デブ 鳥 ! 誰 が 本当の 姿 に 戻って 良い と 言った !
「 や ー ん 」
こいつ 、 本当の 姿 でも 喋れる ように なって や がる 。
「 な 、 なに を して いる んです か ! ラフタリア が 寝ぼけ 眼 で 俺 の 方 を 見て 叫ぶ 。
「 おお 、 ラフタリア 、 助けろ ! 殴って も コイツ は 起き やしない 。 単純に 俺 の 攻撃 力 が 足りない 所 為 だ 。
「 起き なさい フィーロ ! 「 むに ゃむ に ゃ …… ご しゅじん さま ー 」
ご ろん と フィーロ は 床 を 転がる 。
ミシミシ と 嫌な 音 が 床 から 聞こえて くる 。 木製 の 床 じゃ 耐久 限界 が 近い 。
「 起きろ ! しかし フィーロ は 俺 を 抱き締めた まま 起きる 気配 が ない 。
「 起き なさい ! ラフタリア が 俺 を 抱き締める フィーロ の 腕 を 力 技 で どうにか 開く 。 俺 は その 隙 を 逃さ ず に どうにか 脱出 した 。
「 ふう …… 朝 から 散々だ 」
「 んに ゃ ? 抱いて いた 俺 が 居 なく なった の を 察知 して 、 フィーロ が 目 を 覚ました 。 フィーロ は 俺 と ラフタリア が 睨んで いる の に 気付き 首 を 傾げる 。
「 どうした の ? 「 まずは 人 型 に なれ ! 「 えー おきて いきなり ー ? くっ! この 手 だけ は 使い たく なかった が しょうがない !
俺 は ステータス 魔法 から 魔物 の アイコン を 選び 、 禁 則 事項 の 俺 の 言う 事 は 絶対 と いう 部分 に チェック を 入れる 。 こう すれば どんな 命令 でも 従わ ざる を 得 ない 。
「 人 型 に なれ ! 命令 が フィーロ に 向かって 響く 。
「 えー …… もう ちょっと ご しゅじん さま と 寝たい ー 」 俺 の 命令 に 背いた 所 為 で フィーロ の 腹部 に 魔物 紋 が 浮かび上がる 。 「 え ? 「 聞か ねば 苦しく なる ぞ 」
赤く 輝く 魔物 紋 が フィーロ の 体 を 侵食 して いく 。
「 や ー ん 」
フィーロ の 翼 から なにやら 幾何学 模様 が 浮かび上がり 魔物 紋 へ 飛んで いく 。
スーッ と 音 を 立てて 魔物 紋 は 沈黙 した 。
「 は ? 俺 は 魔物 の アイコン を 確認 する 。 何故 か 禁 則 事項 に 設定 した 項目 が 外されて いる 。 再度 チェック を 入れよう と した けれど 、 幾ら 弄って も 変わら ない 。 言う 事 を 聞か ない 魔物 と は どういう 事 だ 。
くそっ! 俺 は 魔物 が 命令 を 聞く から 買った んだ ぞ 。
奴隷 商 …… 今 すぐ 貴 様 の 所 に 行く から な 。 首 を 洗って 待って いろ 。