第 一 章 永遠の 夜 の なか で (5) だい|ひと|しょう|えいえんの|よ|||

リンチ 少将 たち は 、 この こと ある を 予期 して 牙 を 研いで いた 帝国 軍 に 発見 さ れ 、 狩猟 の ように 追いまわさ れた あげく 、 白旗 を あげて 捕虜 と なった 。 りんち|しょうしょう|||||||よき||きば||といで||ていこく|ぐん||はっけん|||しゅりょう||よう に|おいまわさ|||しろはた|||ほりょ||

その 間 に ヤン の 指揮 する 船団 は 、 エル ・ ファシル 星 系 を 離脱 し 、 いっさ んに 後方 星 域 へ と むかって いた 。 |あいだ||||しき||せんだん||||ほし|けい||りだつ||||こうほう|ほし|いき|||| 帝国 軍 の 探知 網 は 彼ら を 捕 捉 して いた のだ が 、 脱出 する ような 宇宙 船 は かならず なんらか の 探知 防御 システム を そなえて いる もの 、 と の 先入観 から 、 レーダー に 映って いる 以上 、 人工 物 で は なく 大規模な 隕石 群 だろう と 考え 、 みすみす 見逃して しまった のである 。 ていこく|ぐん||たんち|あみ||かれら||ほ|そく|||||だっしゅつ|||うちゅう|せん|||||たんち|ぼうぎょ|しすてむ|||||||せんにゅうかん||れーだー||うつって||いじょう|じんこう|ぶつ||||だいきぼな|いんせき|ぐん|||かんがえ||みのがして||

あと で それ を 知った 帝国 軍 の 士官 たち は 、 勝利 の 酒 杯 を 床 に たたきつけて 砕いた と いう 。 ||||しった|ていこく|ぐん||しかん|||しょうり||さけ|さかずき||とこ|||くだいた||

三〇〇万 人 の 民間 人 を 保護 して 後方 星 域 に 到着 した ヤン を 、 歓呼 が 待って いた 。 みっ|よろず|じん||みんかん|じん||ほご||こうほう|ほし|いき||とうちゃく||||かんこ||まって|

軍 首脳 部 は ヤン の 沈着 さ と 放 胆 さ に 流星 雨 の ごとき 讃辞 を あびせた 。 ぐん|しゅのう|ぶ||||ちんちゃく|||はな|たん|||りゅうせい|あめ|||さんじ|| 彼ら は そう せ ざる を え なかった 。 かれら||||||| 敗北 と 逃亡 、 しかも 民間 人 を 保護 す べき 軍隊 が 民間 人 を 見捨てて ―― と いう 不名誉 きわまる 汚名 を すすぐ に は 、 軍人 の 英雄 が 必要だった のだ 。 はいぼく||とうぼう||みんかん|じん||ほご|||ぐんたい||みんかん|じん||みすてて|||ふめいよ||おめい|||||ぐんじん||えいゆう||ひつようだった| ヤン ・ ウェンリー 中尉 こそ 、 自由 惑星 同盟 の 武人 の 亀 鑑 である 。 ||ちゅうい||じゆう|わくせい|どうめい||たけと||かめ|かがみ| 正義 と 人道 の 輝 ける 戦士 である 。 せいぎ||じんどう||あきら||せんし| 全軍 は こぞって 若き 英雄 を たたえよ ！ ぜんぐん|||わかき|えいゆう||

その 年 の 標準 暦 六 月 一二 日 午前 九 時 、 ヤン は 大尉 に 昇進 した 。 |とし||ひょうじゅん|こよみ|むっ|つき|いちに|ひ|ごぜん|ここの|じ|||たいい||しょうしん| 同日 午後 一 時 、 少佐 の 辞令 を うけた 。 どうじつ|ごご|ひと|じ|しょうさ||じれい|| 生 者 に 二 階級 特進 は 許さ れ ない と いう 軍 規 が 、 この 奇妙な 処置 を 上層 部 に とら せた のだ 。 せい|もの||ふた|かいきゅう|とくしん||ゆるさ|||||ぐん|ただし|||きみょうな|しょち||じょうそう|ぶ||||

当人 は 周囲 ほど 浮かれる 気 に は なら ず 、 とうにん||しゅうい||うかれる|き||||

「 なんと ねえ 」

と 肩 を すくめて つぶやいた きり だった 。 |かた||||| 昇進 に ともなって 給料 が あがり 、 歴史 に かんする 古書 を 買える ように なった こと だけ は うれしかった が …… しょうしん|||きゅうりょう|||れきし|||こしょ||かえる|よう に||||||

しかし 、 この とき ヤン は 初めて 用 兵 に 興味 を もった のである 。 |||||はじめて|よう|つわもの||きょうみ|||

「 要するに 三 、 四〇〇〇 年 前 から 戦い の 本質 と いう もの は 変化 して いない 。 ようするに|みっ|よっ|とし|ぜん||たたかい||ほんしつ|||||へんか|| 戦場 に 着く まで は 補給 が 、 着いて から は 指揮 官 の 質 が 、 勝敗 を 左右する 」 せんじょう||つく|||ほきゅう||ついて|||しき|かん||しち||しょうはい||さゆうする

戦史 の 知識 に 照らしあわせて 、 彼 は そう 考えた 。 せんし||ちしき||てらしあわせて|かれ|||かんがえた

〝 勇 将 の もと に 弱 兵 なし 〟 と か 、〝 一 頭 の ライオン に ひきい られた 一〇〇 頭 の 羊 の 群 は 、 一 頭 の 羊 に ひきい られた 一〇〇 頭 の ライオン の 群 に 勝つ 〟 と か 、 古来 、 指揮 官 の 重要 性 を 強調 した 格言 は 多い のだ 。 いさみ|すすむ||||じゃく|つわもの||||ひと|あたま||らいおん||||ひと|あたま||ひつじ||ぐん||ひと|あたま||ひつじ||||ひと|あたま||らいおん||ぐん||かつ|||こらい|しき|かん||じゅうよう|せい||きょうちょう||かくげん||おおい|

二一 歳 の 少佐 は 、 自分 が 成功 した 原因 を 誰 より も 知りつくして いた 。 にいち|さい||しょうさ||じぶん||せいこう||げんいん||だれ|||しりつくして| 帝国 軍 のみ なら ず 同盟 軍 も 、 科学 技術 を 盲 信 した 結果 、〝 レーダー に 映る もの は 人工 物 で は ない 〟 と いう 固定 観念 に とらわれて いた のだ 。 ていこく|ぐん||||どうめい|ぐん||かがく|ぎじゅつ||もう|しん||けっか|れーだー||うつる|||じんこう|ぶつ||||||こてい|かんねん|||| ここ に 奇 策 を もちいる 隙 が 生じた 。 ||き|さく|||すき||しょうじた

硬直 した 固定 観念 ほど 危険な もの は ない 。 こうちょく||こてい|かんねん||きけんな||| 考えて みれば 、 学生 時代 、 彼 が ワイドボーン に シミュレーション で 勝利 を おさめた の も 、 正面 から の 決戦 に 固執 した 相手 の 意表 を ついた から で は なかった か 。 かんがえて||がくせい|じだい|かれ||||しみゅれーしょん||しょうり|||||しょうめん|||けっせん||こしつ||あいて||いひょう|||||||

敵 の 心理 を 読む 。 てき||しんり||よむ 用 兵 の ポイント は ここ に ある 。 よう|つわもの||ぽいんと|||| そして 戦場 に あって 完全に 能力 を 発揮 する に は 補給 が 不可欠だ 。 |せんじょう|||かんぜんに|のうりょく||はっき||||ほきゅう||ふかけつだ 極端な こと を いえば 、 敵 の 本隊 を 撃つ 必要 は なく 、 補給 さえ 断てば よい 。 きょくたんな||||てき||ほんたい||うつ|ひつよう|||ほきゅう||たてば| 戦わ ず して 敵 は 退か ざる を え ない 。 たたかわ|||てき||しりぞか||||

ヤン の 父親 は 金銭 の 重要 性 を こと ある ごと に 強調 して いた もの だ 。 ||ちちおや||きんせん||じゅうよう|せい||||||きょうちょう|||| 個人 を 軍隊 に おきかえれば 、 金銭 は 補給 に なる 。 こじん||ぐんたい|||きんせん||ほきゅう|| そう 思えば なかなか 有益な 言 だった のだ 。 |おもえば||ゆうえきな|げん||

その後 、 ヤン は 戦闘 に 参加 する と 、 二 度 に 一 度 は 奇 功 を たてた 。 そのご|||せんとう||さんか|||ふた|たび||ひと|たび||き|いさお|| それ に ともなって 、 中佐 、 大佐 と 昇進 し 、 二九 歳 で 准将 と なった 。 |||ちゅうさ|たいさ||しょうしん||にきゅう|さい||じゅんしょう|| 同窓 の ワイドボーン は 少将 だった 。 どうそう||||しょうしょう| ただし 彼 は 大佐 の とき 正攻法 に こだわって 敵 の 奇襲 を うけ 、 戦死 して 二 階級 を 特進 して いた のだ ……。 |かれ||たいさ|||せいこうほう|||てき||きしゅう|||せんし||ふた|かいきゅう||とくしん|||

そして ヤン ・ ウェンリー は 現在 、 アスターテ 星 域 に ある 。 ||||げんざい||ほし|いき||

突然の どよめき が 艦 橋 を 圧した 。 とつぜんの|||かん|きょう||あっした それ は 明るい もの で は なかった 。 ||あかるい|||| 偵察 艇 が 急報 を もたらした のだ 。 ていさつ|てい||きゅうほう|||

「 帝国 軍 は 予想 の 宙 域 に あら ず 、 急進 して 第 四 艦隊 と 接触 する なら ん 」 ていこく|ぐん||よそう||ちゅう|いき||||きゅうしん||だい|よっ|かんたい||せっしょく|||

「 なんだ と ！ そんな 非常識な …… あり え ん こと だ ！ |ひじょうしきな||||| 」 パエッタ 中将 の 声 は 高く 、 ヒステリック な ひびき を おびて いた 。 |ちゅうじょう||こえ||たかく|||||| ヤン は 自分 の 操作 卓 の うえ に 肩身 せま そうに のって いる 書類 を 手 に とった 。 ||じぶん||そうさ|すぐる||||かたみ||そう に|||しょるい||て|| 紙 の 書類 だ 。 かみ||しょるい| これ が 古代 中国 人 の 手 で 発明 されて から 四〇〇〇 年 ちかく 経過 して いる が 、 人類 は 文字 を 記述 する のに それ 以上 の もの を ついに 発明 でき なかった 。 ||こだい|ちゅうごく|じん||て||はつめい|||よっ|とし||けいか||||じんるい||もじ||きじゅつ||||いじょう|||||はつめい|| その 書類 は ヤン が 提出 した 作戦 案 だった 。 |しょるい||||ていしゅつ||さくせん|あん| 彼 は ページ を めくった 。 かれ||ぺーじ|| ワード ・ プロセッサー に よる 非 個性 的な 文字 の 羅列 が 視界 に とびこんで きた 。 ||||ひ|こせい|てきな|もじ||られつ||しかい|||

「…… 敵 に 積極 的な 意思 が あれば 、 この 状況 を 包囲 さ れる 危機 と 見 ず 、 分散 した わ が 軍 を 各 個 撃破 する 好機 と 考える であろう 。 てき||せっきょく|てきな|いし||||じょうきょう||ほうい|||きき||み||ぶんさん||||ぐん||かく|こ|げきは||こうき||かんがえる| その とき 敵 が 最初に 攻勢 に でる の は 、 正面 に 位置 する 第 四 艦隊 にたいして である 。 ||てき||さいしょに|こうせい|||||しょうめん||いち||だい|よっ|かんたい|| 第 四 艦隊 は もっとも 少数 であって 攻撃 と 勝利 が 容易であり 、 それ に 勝利 した あと は 、 第 二 ・ 第 六 両 艦隊 の いずれ を つぎの 標的 と する か 、 選択 権 は なお 敵 の 手中 に ある から である 。 だい|よっ|かんたい|||しょうすう||こうげき||しょうり||よういであり|||しょうり||||だい|ふた|だい|むっ|りょう|かんたい|||||ひょうてき||||せんたく|けん|||てき||しゅちゅう|||| これ に 対抗 する 手段 は つぎの とおり である 。 ||たいこう||しゅだん|||| 挑戦 を うけた 第 四 艦隊 は かるく 戦った あと 、 ゆっくり と 後退 する 。 ちょうせん|||だい|よっ|かんたい|||たたかった||||こうたい| 追尾 する 敵 の 後 背 を 第 二 ・ 第 六 の 両 艦隊 が 撃つ 。 ついび||てき||あと|せ||だい|ふた|だい|むっ||りょう|かんたい||うつ 敵 が 反転 攻勢 に でれば 、 第 二 ・ 第 六 の 両 艦隊 は かるく 戦い つつ 後退 、 今度 は 第 四 艦隊 が 敵 の 後 背 を 撃つ 。 てき||はんてん|こうせい|||だい|ふた|だい|むっ||りょう|かんたい|||たたかい||こうたい|こんど||だい|よっ|かんたい||てき||あと|せ||うつ これ を くりかえし 、 敵 の 疲労 を さそい 、 最終 的に 包囲 殲滅 する 。 |||てき||ひろう|||さいしゅう|てきに|ほうい|せんめつ| きわめて 成功 率 の 高い 戦法 だ が 、 留意 す べき は 兵力 の 集中 、 相互 連絡 の 密 、 前進 後退 の 柔軟 性 であり ……」 |せいこう|りつ||たかい|せんぽう|||りゅうい||||へいりょく||しゅうちゅう|そうご|れんらく||みつ|ぜんしん|こうたい||じゅうなん|せい|

ヤン は 書類 を 閉じる と 、 視線 を あげて 天井 の 広角 モニター を 見 やった 。 ||しょるい||とじる||しせん|||てんじょう||こうかく|もにたー||み| 数 億 の 星 の 群 が 冷 然 と 彼 を 見かえした 。 すう|おく||ほし||ぐん||ひや|ぜん||かれ||みかえした

若い 准将 は 口笛 を 吹きかけて やめる と 、 なにやら 忙しく 自分 の 操作 卓 を 操作 し はじめた 。 わかい|じゅんしょう||くちぶえ||ふきかけて||||いそがしく|じぶん||そうさ|すぐる||そうさ||