JIN - 仁 - #03
≪( 洪 庵 ) コロリ が 再び …
( 咲 ) 罪 も ない 子供 を 見殺し に せ ねば なら ぬ 道理 と は
いかなる もの に ございます か !?
( 仁 ) 神様 は な 乗り越え られる 試練 しか 与え ない んだ よ
( 龍 馬 ) 患者 を 触れ ん 医者 が どう いて コロリ を 治す がか ?
( 洪 庵 ) 南方 先生 山田 を お 願い し ます
はい
( 佐分利 ) なるほど 大事な ん は 患者 を 隔離 する っ ちゅうこ と と
消毒 なる もの を 徹底 する こと で んな
感染 を 広め ない こと が 一 番 です
≪( 佐分利 ) 沸騰 さ せた 水 1 升 に →
塩 2 匁 砂糖 10 匁 の 割合 で 加えた オーアールエス なる 液 を 飲ま せる
しかしながら コロリ の 患者 の 中 に は
すぐに 吐いて もどす 者 も また 多い で すな
細い 管 で 胃 に 直接 流し込む と いう 方法 も あり ます が
例えば どのような ?
あん の かな ?
あの ゴム 管 て あり ます か ?
あり ます ある んです か ゴム 管 !?
はい あった んだ この 時代 に
長崎 より 取り寄せ たる 物 が 医学 所 の 方 に
ちょっと 待って て ください
( 龍 馬 ) ある ある 何でも あるき !
銀 で こういう 針 は 作れ ます か ? 中 が 空洞 に なって る んです が
腕 の よい かんざし 職人 が おれば でき ぬ こと は ございませ ん
できる …
≪( 洪 庵 ) はい
( 佐分利 ) ゴム 管 を 使って 直接 胃 に 流し込む 方法 っ ちゅう の は ?
あと で 説明 し ます
緒方 先生 は い
ご 相談 が ある のです が はい
点滴 を する ため の 道具 を 作って いただけ ませ ん か
「 てんてき 」 と は ?
すいません
明かり を
それ 何で っか 何で 墨 なし で 書ける んで っか !?
( 洪 庵 ) 静かに し なさい 点滴 と は
患者 の 血管 に 空洞 の 針 を 刺し
失わ れた 水分 を 補給 する 方法 です
針 を 直接 血管 に …
そう する こと で 吐き気 の 強い 患者 も
難なく 水分 を 吸収 する こと が でき ます
ですが それ を 実現 する に は 専用 の 道具 が 必要な んです
やって みて は もらえ ませ ん か ?
コロリ の 患者 は この 道具 さえ あれば
助かる 確率 は 大幅に 上がる はずです
やって み ましょう
ありがとう ございます !
( 職人 ) 旦那 何 じゃ ?
どない した かえ ?
≪( 職人 ) 穴 が いっぱいに な っち まった
≪( 咲 ) 山田 先生 むちゃ で ございます
咲 さ ん 何 して る んです か ? 先生 が ご 説明 して る 間 看病 を …
( 山田 ) わし は 帰る
先生 が 歩けば 町 中 に コレラ 菌 を 振りまく こと に なる
キニイネ を 持って まいれ わし は ここ で
自分 で 治す !
( 便 が 出る )
お 気持ち は 分かり ます が
私 は 緒方 先生 から あなた を 治す ように 頼ま れ ました
緒方 先生 の ご 判断 を 信じて 治療 を 受けて は もらえ ませ ん か ?
水 を よこせ !
ありがとう ございます ≪( 山田 ) 飲んで 飲んで 死んで やる
こんな 物 効か ぬ と わし の 身をもって 証明 して やる
咲 さ ん 戻って ください 少し は お 母さん の 気持ち も …
母 に は 勘当 だ と 言わ れ ました
戻れ と 言わ れて も
戻る 所 も ございませ ぬ
それ に これ は
私 の 戦 な ので ございます
手ぬぐい で 口 と 髪 を 覆って ください
それ から 動き やすい ように 袖 も 縛って ください
はい
( 医師 A ) 焼酎 持ってき ました
≪( 八木 ) 今 ある 焼酎 は これ だけ か 酒屋 を 呼べ !
水 1 升 に 対し 塩 2 匁 砂糖 10 匁 や
間違え ん と いて くれよ
( 針 職人 ) これほど 見事に 作れ ます か どう か
何とぞ よろしく お 願い し ます
緒方 先生 頭 を 上げて ください →
できる だけ の こと は いたし ます
≪( 洪 庵 ) よろしく お 願い し ます
≪( 咲 ) 南方 先生 喜市 ちゃん が
脈 が 速い
よく ない な
何 を なさる ので ございます か !?
注射 で 直接 水分 を 体 内 に 送り ます 先生
あちら の 水 で お 願い し ます
こちら と あちら で は 違う のです か ?
こっち は 飲む 専用 の 物 あっ ち は 点滴 用 の 物 で
生理 的 食塩 水 と いい ます
( 喜市 ) う う ッ !
痛い か 喜市 ? へっちゃらだ よ
すま んな こんな 方法 しか でき なくて
≪( 龍 馬 ) 先生 !
先生 クソ を 取り に きた ぜ よ
龍 馬 さん 帰った んじゃ ?
クソ を 埋める 穴 が いっぱいに な っ ちゅう ち 聞いた き
皆 と 空き地 を 探して 掘 っち ょっ た ぜ よ
《 ホントに 吉原 に 連れて って くれ ん だ よ な ?》
《 わし より 早う 掘った 奴 は おごっちゃ る き →》
ただ 掘れ で は やる 気 が 出 ん が ぜ →
競争 に して みたら それはそれは 見事な 穴 が
出来上がった っ ちゅう わけじゃ
これ が
あの 龍 馬 か
けん ど その コロリ 菌 ちゅう の は
埋め ん と いかん ほど 強い が かえ ?
強い んです よ
先生 は 怖く ない が かえ ?
わしゃ うつる って 聞いて から は 内心 もう ヒヤヒヤ で
必死で 格好 つけ ちょ った ぜ よ
うつら ない ように 予防 して ます し それ に …
ああ 何 じゃ 先生 ?
私 は 医者 です から
ここ で 死んで も 本望 ちゅう が かえ
カー 格好 ええ のう
わし に は まだ 見 えんぜよ
真っ暗な 中 を 手探り で 歩 いち ょる ような 感じ じゃ
この ため なら 命 を かけて も いい と 思える
そんな 道 は まだ 見 えんぜよ
〈 格好 つけて いた の は 俺 の 方 だった 〉
〈 本当 は 別に ここ で 死んで も かまわ ない 〉
〈 自分 は 本当 は ここ に いる はず も ない 人間 だ から と 〉
〈 そう 言い そうに なった 〉
〈 数え られ ない ほど の 命 の たたか い を 目 に して 〉
〈 俺 は どこ まで ごう慢な んだろう な 〉
〈 でも 心 の どこ か で 声 が する 〉
見つかり ます よ 龍 馬 さん
〈 死んだら 戻れる んじゃ ない だろう か 〉
きっと
ほり ゃあ 予言 かえ ?
《≪( 男 ) 戻る ぜ よ あん 世界 へ 》
〈 君 の もと に 戻れる んじゃ ない だろう か 〉
〈 未来 〉
≪( 洪 庵 ) 何とか 空洞 に は できた もん の
あのような 細 さ は 難しく 今 も 工夫 を 重ねて る しだい です
いや 十分 使える と 思い ます
ありがとう ございます
これ の 使い 方 を 教えて いただけ ませ ん か ?
このように ゴム の ひも を 心臓 に 近い 方 で 巻きつけ
患者 に 親指 を 中 に 入れて 手 を 握ら せ ます
これ が 静脈 と いい ます 静脈
脈 に は 動脈 と 静脈 が あって
脈 を 打って る の が 動脈 打って い ない の が 静脈 です
注射 針 を 刺す 部位 を 強い 焼酎 で 消毒 し
針 を 血管 に なるべく 平行 に 寝かせ
ゆっくり 静脈 に 刺し
血 が 流れ出す の を 確認 して から
この ゴム 管 を つなぎ
しっかり 固定 し ます
すると ここ に 入れた 生理 的 食塩 水 が この 管 を 通り
血管 に 入る と いう わけです
もう 大丈夫だ ぞ 喜市
今朝 また 両 国 橋 が 洗わ れた そうです
え ッ ? 確か 棺 が 100 個 通る ごと に
洗い 清め られる んです よ ね ?
もう 一刻 の 猶予 も 許さ れ ませ ん な
( 玄 朴 ) で は その 男 の 治療 法 を 医学 所 の もの と して
江戸 各所 で 治療 に あたる と ?
私 が 見た かぎり で は 山田 殿 の 容体 も きわめて 良好 →
かの 者 の 治療 法 は 有効である と 思わ れ ます
いや しかし え たい の 知れ ぬ 者 の 治療 を
医学 所 の もの と する の は … いえ …
( 良 順 ) 確実な 治療 法 が ない の も 事実 →
緒方 先生 が そこ まで 見込ま れて いる なら
いや しかし …
お 願い いたし ます
≪( 幕 閣 ) 勝 殿 の ご 意見 は 分かり 申した が 幕府 に は 財源 が …
( 勝 ) コロリ は 異国 より 持ち込ま れた もの →
それ にて 苦しむ 江戸 は まさに この 国 の 縮図
その コロリ を 見事 討伐 なされれば 朝廷 へ の 印象 も 芳しく →
攘夷 派 の 風向き も 必ずや 変わる こと と
上 様 の ご 威光 は いや ます ばかりで ございましょう
点滴 効いて る な
しかし 点滴 と は じれったい もの で ございます ね
一度に もっと たくさん 入れて は なら ぬ のです か ?
そんな こと したら 体 が びっくり し ます
緊急の 処置 で 大量に 入れる こと も あり ます が
このまま 液 を たくさん 流す のです か ?
いえ 別の 血管 から 打ち込み ます
大 腿 静脈 と いう 太い 静脈 が 股 の 付け根 に ある んです が
この 股 の 付け根 に ある 動脈 の 少し 内側 に ある 静脈 で …
股 の 付け根 に ある 動脈 の
少し 内側 に ある 太い 静脈 で ございます ね
そう です よ ね すいません 無神経で
いえ あの
もう 一 度 教えて ください
はい
この 股 の 付け根 に 太い 動脈 が ある んです
で その 少し 内側 に ある 静脈 が …
やった 出た やった !
おし っこ 出たら もう 大丈夫な んだ よ ね ?
でも まだ 完全に 治った わけじゃ ない から な
コロリ が 体 から 全部 出る まで は
≪( 喜市 ) お っ 母さん !
おい ら 治った よ →
お っ 母さん が 作って くれた 水 で 治った から
あと どれ くらい で会える ? 4 日 か な
あと 4 日 で 会える から !
お っ 母さん !
≪( 喜市 ) 聞こえて る ?
その ガキ も わし も 薬 で 治った ので は ない
治る べく して 治った のだ
もちろん です よ
コロリ に 打ち勝った の は 山田 先生 と 喜市 の 生命 力 です
まあ まあ 予定 より は 少し 早く 治った が な
≪( 橘 ) 咲 南方 先生 !
兄 上
( 橘 ) 勝 先生 の お 骨折り で
お上 が コロリ 対策 の 援助 を する と 決まり ました !
医学 所 の 方 と 心 合わせて やる と いう こと で →
双方 で 相談 も 始めた そうです
では 針 や 器具 も 大量に 作れる のです か ?
もちろん です 職人 に 大 号令 を かける そうです
他 に も 石灰 や 高 濃度 の 焼酎
それ に 薬 と なる 水 も 援助 して くださる そうで
御家人 旗本 に も 同じく 下 知 が くだされ
私 も その ため の 指揮 に 携わる こと に なり ました
まっ こと …
まっ こと そな いな こと が
ありがとう ございます 恭 太郎 さん
最高の 知らせ です
ありがとう ございます
父上 ようやく コロリ の しっぽ を つかめ そうです
( 南方 が 吐く )
先生 が コロリ !?
先生 !→
ええ かい しっかり せんかい !
誰 か 医学 所 に 行って 別の 医師 を !
( 橘 ) はい ! 大丈夫です
医学 所 も 他の コロリ 患者 の 対応 で 手 いっぱいでしょう し
自分 で 何とか し ます から
しかし 恭 太郎 さん
物資 や 患者 の 運搬 便 や 吐 物 の 処理 の 仕方
感染 を 防ぐ ため の 指導
指揮 し なければ なら ない こと は 山ほど あり ます
龍 馬 さん おお
コロリ の 処理 の 方法 は もう ここ の 皆さん 分かって ます
まだ 知ら ない 人 達 に その 方法 を 教えて 回って ください
しっかり せ ん かえ
早く 行って ください !
行って なす べき こと を なさって ください
国 の ため 道 の ため に
早く !
おっしゃ !
ホエー !
咲 さ ん はい
この 診療 所 お 願い でき ます か ?
はい
( 商人 ) 奥様 大変で ございます !
皆様 に 排泄 した 水分 量 に 応じて オーアールエス を 飲んで いただき ました
私 に も それ を
何だか
いつも と あべこべだ
ホントに
≪( 橘 ) 咲
兄 上
ありがとう ございます
少し 休んだ 方 が よい ので は ない か ?
先生 に この 診療 所 を 守って くれ と 言わ れ ました ので
さ ような 様子 で は 診 られる 方 も 迷惑であろう
先生 を お 助け し たい のです
咲 が
お 助け し たい のです
分から ん 奴 だ な
誰 も やめろ と は 言って おら ぬ →
いったん 家 に 戻り 休め と 言って いる だけ だ
≪( 栄 ) 戻る 家 など ございませ ぬ
( 栄 ) 戦 の 途中 で 戻る 家 など !
そのような 覚悟 で 勝てる 戦 が どこ に ある と いう のです !
勝ち なさい
勝って
戻って き なさい
3 人 で
母上
( 栄 )「 このような 衣 が あれば 治療 も 行い やすき か と 」
母上
作って …
パクリ と ゆけ
( 吐いて いる )
南方 先生
( 咲 ) 回数 も 量 も 多い
先生 点滴 の 量 と 速 さ は どのように すれば よい でしょう か
量 は 便 の 量 の 1 割 か 2 割 を 足して ください
速 さ は 30 分 半 刻 の 半分 で 2 リットル
1 升 と 少し を 目安 に
先生 大丈夫です か 先生 !?
これ が コレラ か
すぐに 点滴 を 増やし ます から 頑張って ください 先生
《≪( 男 ) 戻る ぜ よ 》
≪( 咲 ) 先生 ?
《≪( 男 ) 戻る ぜ よ あん 世界 へ 》
先生 どう さ れた のです か !?
先生 先生 !
先生
先生 !
先生 !
今 何 か 聞こえ ん かった かえ ?
いや
タエ さん そんなに 急いで 何 ぞ ?
( タエ ) 南方 先生 が 危ない んです
正体 を なくさ れて
おい わし も
《 龍 馬 さん 行って なす べき こと を なさって ください 》
《 国 の ため 道 の ため に 》
石灰 じゃ 石灰 で コロリ 菌 を 殺す ん じゃき
殺す つもり が 殺さ れる ような バカ は
見る が じゃ ない ぜ よ !
≪( 職人 達 ) オー !
暗う なって きた ぜ よ
火 い を たく ぜ よ !
これ で 大丈夫です から ね
医学 所 は すぐ そこ です もう 少し の 辛抱 です
( 医師 B ) ここ で お 受け いたし ます
よし 次 は 神田 須田 町 だ
( C ) 病人 を そこ の 天幕 へ 運べ →
汚れ 物 は その 穴 へ 直接 入れる のじゃ
( D ) しっかり せい !
≪( E ) 病人 は こっち だ !
この ゴム 管 の 先 に 寒天 を つけ 病人 の 鼻 から 押し 入れて
1 尺 5 寸 ほど 飲ま せ ます ええ な ?
( 医師 達 ) はい 緒方 先生 緒方 先生 !
あの 南方 先生 が
どう なさ い ました !?
〈 何 だ これ は ?〉
〈 これ は 俺 の 勤めて いた 病院 か ?〉
〈 でも 何となく 少し 違う 気 が する 〉
〈 そう だ 未来 は 〉
〈 未来 は どう なって …〉
( 洪 庵 ) いかんな
危篤 です
≪( 洪 庵 ) この お方 は もしかしたら
コロリ から 江戸 の 町 を 救う ため に →
ここ に 来 られた の かも しれ ませ ん な
( 洪 庵 ) この 点滴 は 咲 殿 が ?
はい 大量に 体 に 入れれば 効果 が ある か と
《 別の 血管 から 打ち込み ます 》
《 大 腿 静脈 と いう 太い 静脈 が 股 の 付け根 に ある んです が 》
股 の 付け根 に ある 太い 血管
何 を なさって おる んです か ?
股 の 付け根 に ある 太い 静脈 を 探して いる のです
そこ に 点滴 を 打てば 大量に 水 を 送り 込める そうです
太い 静脈 ? 動脈 の 少し 内側 に ある
それ ならば 恐らく ここ でしょう 私 が やり ましょう
いえ これ は 私 の 役目 です
《 注射 針 を 刺す 部位 を 》
注射 針 を 刺す 部位 を 強い 焼酎 で 消毒 し
《 針 を 血管 に なるべく 平行 に 寝かせ …》
針 を 血管 に なるべく 平行 に 寝かせ
ゆっくり 静脈 に 刺し
( 咲 ) 血 が 流れ出す の を 確認 して から →
ゴム 管 を つなげる
これ で 治る ので ございます よ ね ?
山田 先生 も 喜市 ちゃん も 皆 治った のです から
治る と 治る と 言って ください ませ 先生 !
未来 !
未来 !
何 やって る んだ こんな とこ で ?
( 未来 ) そこ か
え ッ ? いい よ 仁 先生
きっと また いつか 会える から
いい よ
未来
おい 未来 !
お 戻り ください 先生 !
戻って くる ぜ よ 先生
ここ に は 先生 を 待って いる 患者 が いる のです
先生 の 信念 が 江戸 を 動かした ぜ よ
これ を 見 ん で 死んで し も うて
どう する が ぜ よ !
お 戻り ください 先生 !
先生 !
雨 が …
お 帰り なさい ませ
先生
はい
ほうか 戻って きた かえ
夜 が 明ける ぜ よ
夜 が 明けた ぜ よ !
〈 こうして 俺 は 生還 し 〉
( 茜 ) コロリ に も 負け ない 黒 米 いなり 並んで 並んで
〈 それ から まもなく して 〉
〈 江戸 を 焼き 尽くす か に 思えた コロリ の 火 は 〉
〈 急速に その 勢い を なくして いった 〉
〈 隔離 と 予防 が 感染 を 弱めた ようだった 〉
〈 だが 点滴 に よる 治療 は 結局 手 が 回ら ず 〉
〈 多く の 命 を 救え なかった こと も 〉
〈 また 事実 だった 〉
喜市 !
お っ 母さん 先生 ん とこ 行って くる から
あの
ひと つ お 聞き し たい のです が
どうして あの とき 私 を 信じて くれた のです か ?
《 南方 先生 山田 を お 願い し ます 》
私 は 以前 種痘 を 広めよう と した こと が ございまして な
天然痘 の 種 を 少し だけ 植えて わざと 軽 めに 発病 さ せる
それ が 治療 法 に なる など はじめ の うち は
誰 に も 信じて もらえ ませ ん でした
思い出した んです わ
あん とき の 自分 を
( 洪 庵 ) 先生 に もう ひと つ お 願い が ございまして な
え ッ また 何 か 治す んです か ?
江戸 の 蘭 方 医 の 性根 を たたき直して ください
は ッ ?
昨日 の 話 お 受け に なれば よろしい のに
西洋 医学 所 で 講義 を する なんて すぐに は 決心 でき ませ ん よ
先生 て え へんだ !
タエ さん が ゆ ん べ 辻 斬り に
ちょっと ごめんなさい すいません
喜市 …
へっちゃらだ よ 先生
人 は 誰 でも 死ぬ もん だ し
けど
先生 に は 悪い けど
おい ら 助から なければ よかった よ
あちら で 待って おり ます ね
咲 さ ん
私 は
未来 から やってきた 人間 な んです
未来 ?
信じて もらえ ない かも しれ ませ ん が
私 は
自分 が 何 か を やる こと は
歴史 を 変えて しまう ので は ない か と 思って ました
だから コレラ の 治療 法 を 言い 出せ なかった
未来 を 変えて しまう の が 怖かった
だって それ は
未来 の 私 の 知って る 人間 の 運命 を 変えて しまう こと かも しれ ない
もしかしたら
生まれて 幸せに なる はずの 誰 か の 人生 を
奪って しまう こと かも しれ ない
神 を も 恐れ ぬ 行為 に 思えた んです
だけど
未来 を 変えて しまえる なんて
とんでもない 勘違い だった かも しれ ない
コレラ で 俺 が 助けた 人 達 は
俺 が 何も し なくて も 助かった の かも しれ ない
もしかしたら …
俺 さえ 来 なければ
コレラ に も かから なかった 人 な の かも しれ ない
馬 に けら れて 死んで しまう はずだった タエ さん は
代わり に 辻 斬り に 切ら れた だけ な の かも しれ ない
歴史 は
俺 の やった こと 全て 帳消し に する の かも しれ ない
決して 何も 変わら ない ように
だ と したら
だ と したら …
俺 …
何 やって んだろう
先生 は
私 の 運命 を 変え ました よ
先生 と 先生 の 医術 と お 会い して から
咲 は 何やら いろんな もの が
以前 より も 明るく 見え ます
脈打つ 心 の 音 を 感じ ます
咲 は
生きて おり ます よ
あちら で 待って おり ます
〈 未来 俺 は 決めた よ 〉
〈 歴史 は 思う 以上 に 強大で 〉
〈 だったら 俺 は 憶 する こと なく 向かって いく よ 〉
〈 しょせん 人間 は 精いっぱい 生きる こと しか でき ない のだ から 〉
〈 できる かぎり この 手 で 人 を 助けて いこう 〉
〈 そして 少し だけ でも 医学 の 針 を 進め られれば 〉
〈 俺 は 君 の 運命 を 変え られる かも しれ ない 〉
〈 可能 性 は ゼロ に 近い 〉
〈 でも きっと ゼロ じゃ ない 〉
〈 かすかな 蝶 の はばたき が 〉
〈 やがて 嵐 と なる こと も ある のだ から 〉
あの
まげ を 結う ひも か 何 か …
まあ 異国 に 勝つ ため に は まずは 寝る こと よ
奴 ら の 手練 手 管 を 盗んで のどもと を か っ 切る
かく なら 寝 首 っ ちゅう 寸法 さ
そんな もん ぶら下げて ちゃ あ くる わに あげて も もらえ ねえ よ
先生 の 話 に は 血 い が ある ぜ よ
肉 が ある ぜ よ
この 国 を 思う 誠 に 満ち あふれ ち ょる ぜ よ
どうか わし を 弟子 に しとう せ
かまわ ねえ けど よ お前 さん は 今 まで の 仲間 を
裏切る こと に なる だ ろ ?
わしゃ 今 まで 世の中 を 変える ため に は
誰 か の 仲間 に なら ん と いかん と 思う ちょ った
けん ど 何 か 違う ち ょる 気 いが して
仲間 に なりきれ ん かった
今 は
自分 の 信じる 道 を 歩き たい ぜ よ
それ が 誰 も 歩いて おら ん 道 でも
正しい 道 じゃ ったら
仲間 は あと から ついてくる ぜ よ
そう 教えて くれた 男 が おる き
〈 精いっぱい 生きて みよう 〉
〈 いつ の 日 か 再び 君 と 出会う その 日 まで 〉
〈 この 江戸 で 〉
( 野 風 ) ほれ 模様 が →
美しい 蝶 の ように →
きっと
吉 兆 であり ん すな